おはこんばんちわ、ケシでっす。 4月14日で、当ブログを開設して丸6年が経ち、7年目に突入しました(わーい) 平成の世も残りあと2週間、もうそろそろ令和ですね皆さん。 そして当ブログも、時代の空気など一切読む気などサラサラ微塵も無く、 昭和の作品であるシティーハンターを、令和まで引き摺る気満々でやっていこうと思います(握拳) ところで、もう語っても良い頃合いですよね、 劇場版シティーハンターのことを!!!! 観客動員数延べ100万人、興行収入15億円を超えるという大ヒット!!!! その一端のホンのちょびっとでも担えたと思うと、感無量でございます。 この2ヶ月、これがほんとにシティーハンターのニュースなのか!夢じゃないのか! という勢いでメディアに取り上げられ、にわかに盛り上がる二次創作界隈。 未だ嘗て経験したことのないお祭り状態に、心が震えっぱなしでした。 冒頭からカオリストとしてアドレナリン放出し放題の、新宿カーチェイスのあのシーン。 ミニを巧みに操るカオリンの足さばきを魅せるシーンでは、カオリンの踝に大興奮して、 あのカオリンに踏み付けられるミニのブレーキペダルになりたいと真剣に切望した次第です。 完全にシティーハンターとしてリョウちゃんの頼れる右腕化しとるやないか!!! あのシーンだけで、"2人でシティーハンター"をしっかりと描写してあって、その後の説得力増し増し。 「俺を呼んだのは、君だろ?」からの「時代の空気を読め」からの「アイコンタクト」で、 御国社長に「幼馴染として、ウェディングドレスを着ていただけませんか?」かーらーの、 別にいつもと変わんねぇしという冴羽の強がり(デフォルト仕様) またまたぁ、無理しちゃってぇと我々も思いましたよね、ここまでがもうワンセットですよね。 もうね、ワンプレートにどんだけツンデレてんこ盛るつもりなの、シティーハンター。 そしてウェディングドレスからの波状攻撃で、冴羽を追い込むのがカオリンの 部屋着問題ですよ。 この際、メビウスとか鋼の死神とかもうどうでもいーよ。あれはなんだかんだで、やっつけるのが冴羽撩なので。 リョウちゃんの一番の難敵は、カオリンの部屋着でしょうよ。 けしからん、でも良いぞもっとやれカオリン。と思いながら、映画館でニヤニヤするケシ子。 その他、もっと言いたいことや身悶えるような想いは多々あるのですが、文章に纏まりません。 もう良いと思ってます。 考察や分析は、他の方にお任せして放り出す所存でございます。 そして、これだけは言っておきたい。 高速道路を走行中は、脇見運転をせずに、くれぐれも車間距離を取りましょう。 たとえウォーフェア理論を提唱するIT企業の社長に狙われてなくても、危険です。 というわけで、今後も令和になってもシティーハンターを楽しんで生きていこうと思いました。 そのうち、部屋着問題に関しては、言及せざるを得ないでしょう。カオリストとしては…
港の見える公園 クルーズ船で夜景を眺めながらのディナー 昼下がりの情報番組で紹介されていたのは、東京およびその近郊の人気のデートスポット特集だった。 香は家計簿をつけながら自分とは無関係のそのような情報を流し聞きしていたし、 撩も特に気にも留めずにソファに寝転んで趣味の読書に勤しんでいた。 幾つか紹介されているデートスポットは、殆ど定番ともいえる場所ばかりで特にこれといって目新しいものはない。 だから2人が思わず手を止めて、それぞれに想いを馳せたのは4番目にその場所が取り上げられた時だった。 昼間は昼間で一帯の観光スポットや中華街と合わせて楽しめるけれど、その本当の魅力は夜だという。 東京湾を取り囲む街の灯りはまるで星々を散りばめた宝石箱のようで、デートの雰囲気を盛り上げるのに一役買っている。 その公園の名前を聴いて、香の手は止まった。 それまで電卓を叩きながら数字と睨めっこしていた香の気配が変わったことと、 テレビからの情報が無関係で無いことは撩にもすぐにわかった。 他でも無い撩自身でさえ手にした愛読書には集中出来ず、思わず過去の出来事に引き戻されそうになったのだ。 多分、互いに思い出している出来事は、同じだ。 あの時までの撩は、自分の気持ちに向き合う事を避け続け、 心の中に無意味な言い訳をやまほど並べて精神のバランスを保っていた。 本当は初めて逢った日からずっと、彼女に恋焦がれていたことを認める訳にはいかなかったからだ。 ただでさえ自分のせいで警察官としての兄を奪い、その数年後にはその兄自身すら彼女から奪った。 転がり込んできた彼女から普通の女としての幸せを奪い、彼女の想いに気が付いていながら知らない振りをした。 その全てが己の背負った業に因るものだと撩は考えていたから、彼女の気持ちに対する返事など持ち合わせていなかった。 答えを出すことは、撩にとっては己の罪に対する責任を放棄するのに等しいと思っていた。 香を特別な感情で見ることを、意識的に避けてきた。 あの夜を仕組んだのは、お節介で悪戯好きな香の親友だった。 短い依頼の間に、彼女は撩と香の微妙な関係に感づきお膳立てを企てたのだ。 互いに普段は縁の無いような高級な衣服に身を包み、香は化粧を施しウィッグまで着けてまるで別人だったけど、 決して別人ではなかった。 それは撩が見ない振りで避けてきた現実を突き付けられただけのことだ。 槇村香は美しい。 知っていた、けれど知らないことにしていた不都合な事実だった。 待ち合わせのバーのカウンターで、種明かしをしていつも通り口の悪い男を演じて茶化すことも出来たのに、 何故だか撩は出来なかった。 抗えなかった。 それは撩が、それまで強固に戒めてきた己の中の決まりごとを破ってしまったはじめだったのかもしれない。 このまま巧く化けた彼女に気付かない振りをして、デートを楽しみたいという気持ちに抗えなかった。 香がどう出るのか、それを愉しむ気持ちも少しだけあった。 香はそれまで気にも留めていなかったテレビの情報が、 あの夜デートしたあの場所だと気が付いて、心がざわめくのを感じた。 あの頃はまだ、自分の気持ちに蓋をしていた。 知られたら、想いを告げたら、それは撩との関係が終わることを意味していると思っていた。 あの夜から数年経った今、撩とは仕事以外のパートナーでもある。 もう気持ちに蓋をする必要も無いし、 あの頃、頑なに考えていた様々な悩みは今では思い出せない位に些細なことに変わった。 結論から言えば、関係が進展しても2人が終わることはなかった。 今がどんなに幸せで撩に愛されている実感を得ていても、あの夜を思い出した瞬間に香の胸は一瞬で張り裂けそうになった。 忘れかけていた筈のあの頃は、まだ香の胸の中でちゃんと息をしていて強く香の心臓を握り潰す。 今にして思えば、あのバーのカウンターでナンパ男を追い払った撩にいつもの調子で軽口を叩いても良かったのだ。 それでも香はそうしなかった。 少し良い服を纏っただけで、普段し慣れない化粧をしただけで、 毎日顔を突き合わせている自分に気が付かない相棒を、どこまで騙せるか好奇心があった。 少しだけ、自分以外の女性と遊ぶ普段の撩が見てみたくなったのと、 そういう女性たちの立場になってみてどういう気分がするものか、味わってみたかった。 結果、香には苦い思い出としてあの晩のことが残っている。 優しい言葉も眼差しも、それは自分以外の誰かに向けられたものだと思うと、嬉しさより虚しさが募った。 心の奥底で求めてやまない口説き文句も愛情も、自分に向けられていないのならばそれは無いのと同じだ。 はじめは楽しかったデートも、途中その事実に気が付いた後は胸が痛むだけだった。 自分がいつもの自分だったなら向けられることも無かった筈の言葉を貰っても持て余す。 あの晩の唯一の救いは、なんとか苦しい言い逃れで独り現実へと帰って来れたことだった。 撩よりも先に家に帰りつき、メイクを落として変装を解いた。 香が憧れているロングヘアーも、まるで自分ではない誰かを見るようで心が痛んだ。 撩が帰るまでにいつもの自分に戻っておきたくて、急いでシャワーも浴びた。 それがあの夜の全てだ。 香はあの夜に一度、撩への恋心を封印する決意を固めた。 それから今に至る間に、紆余曲折を経て香は撩を愛している。 彼が原因のストレスも沢山あるけれど、喧嘩をしたり仲直りしたり笑ったり泣いたりして普通に暮らしている。 沢山泣いた片思いの日々を忘れかけていると思っていたけれど、 記憶は簡単にあの頃の胸の痛みまで生々しく思い起こさせた。 あの夜のことをこれまで、互いに話題にしたことがなかったことに昼下がりのリビングで2人は気が付いた。 あの夜さ、 先に口を開いたのは撩だった。 あの夜がどの夜か、香にだってわかっている。 撩が次の言葉を紡ぐ前に、香が言葉を継いだ。 アタシね、あの夜自分のことがすごく嫌になってね。撩に恋するのもうやめようと思ったんだ。 そう言った香は、懐かしそうに目を細めて微笑んだ。 笑いながら目の縁に、薄く涙が滲んでいるのを撩は見逃さなかった。 無意識にソファから降りて香に近付くと、頬に落ちた雫を指で拭った。 でも気持ちを無かったことにするのって無理でしょ?だから意地でも撩の傍に居座って良かった。 ニカッと大きく口を開けて笑いながらそう言った香は、もう泣いてはいなかった。 照れ臭そうに笑うけど、気持ちを隠すことはしない。 撩の胸に凭れて甘えることも出来るようになったから、2人とも孤独ではない。 香の柔らかな癖毛に顔を埋めて、撩はあれから言えなかった本当の気持ちを言える気がした。 あの夜、ほんとに好きだと思ったんだ。おまえのこと。 今思えば、あの夜が境目だった。 あの時まで撩はまだ心の何処かで、いつか香と離れる未来も思い描いていた。 けれど実際には、もう引き返せない所まで来てしまっていたことに気が付いてしまった夜だった。 今度の3月23日、数年後のあの日にもう一度あのデートのやり直しをしようと、撩は思った。 都会のシンデレラの続きを妄想。
はい、撩のぶん。 そう言って相棒は当然のようにローテーブルのガラスの天板に湯気の立ったマグカップを置いた。 毎食後、それは欠かさず提供される。いつからともなく習慣と化した食後のコーヒータイムだ。 ソファに寝転んだ撩のリアクションは別にどうでも良いらしい。 撩には一瞥もくれずにテーブルを挟んだ向かい側の床に直に座り込んだ。 自分のそばにも色違いで揃いのマグカップを置いて、この数日読み耽っている本を開いた。 ベランダで出来る家庭菜園の指南書だ。 日頃の節約は半分は趣味で、自給自足をする領域にまで足を踏み入れようとしているらしい。 ずっと昔はインスタントだった。撩がまだ独りでこのアパートに居た頃にインスタントを使っていたからだ。 初めの頃こそ香は、そういう撩のそれまでの生活に配慮して合わせてくれていたけれど、 いつだったかそのコーヒーにはこだわりがあるのかと訊かれた。 別に撩としては何でも良かったのだ、インスタントは手軽だから使っていただけで、その通りを香に告げると、 香は、そうなんだ早く訊いとけば良かった、と苦笑した。 そして気が付けば、香は食後にコーヒーの豆を丁寧にミルで挽くようになった。 曰く、槇村家ではいつもそうしていたらしい。 そして更に、同業者で腐れ縁の悪友が近所で嫁と喫茶店など開業してからは、豆にまでこだわるようになった。 どうせ毎日飲むのなら、格安で分けるわよ?と女主人が提案したからだ。 お陰で撩は毎食後、以前とは比べ物にならない程の旨いコーヒーにありついている。 それにしてもと心の中だけで呟きながら、ソファに寝そべっていた撩はノソノソと起き上がる。 香のよりも一回り大きめ(ペアカップの♂用だ)のカップに口を付けて、顔の下半分を良い塩梅に隠してみる。 けしからん。 その言葉も心の中だけで、撩はぼやいた。 撩になど目もくれずベランダ菜園の世界に夢中な香は、撩の目線より一段下に座っている。 きっともうすぐ来たる初夏の良き日に蒔くべく種として、どの野菜がより適しているのかを吟味しているらしい。 そんなことは撩にはどうでもいいことだ。 どうでも良くないのは、本に向けられた俯き気味の彼女の視線と長い睫毛が白い頬に落とす影と、 胸元から覗く意外にも豊かな胸の膨らみとそれに伴う谷間の陰影だ。 最近の部屋着とやらはけしからん。 否、嫌いではない。むしろ好きだと撩は思うけども。 香の大好きな某アパレル量販店では、 カップ付きのタンクトップやらキャミソールやらが部屋着やインナーとして人気らしい。 幾ら春とはいえ、まだまだ肌寒い夜もあったりするこの季節に。 撩の可愛い相棒は、家の中だということに安心しきって露出度全開で撩を困惑させる。 むしろ、撩は好きだ。好きなのだけど、相手が香だという状況下にあってそれは。 ただの蛇の生殺しであり、撩にとっては拷問に等しい。 香は多分、撩がただ大人しく目の前でコーヒーを啜りながら脱力していると思っているのだと推測できる。 人は誰しも他人の思考や願望や劣情や愛情や妄想などを推し量ることなど出来ない。 表面的な視覚情報だけで判ることに、撩の本心を垣間見ることは特に難しいのだ、普段から。 っちょ ゃめ って りょ ぉお そう言って熱い息を吐く香の唇を覆うように塞ぐと、苦しそうに咽喉の奥からくぐもった嬌声が漏れる。 喘ぎごと飲み込みながら撩は香の甘い唾液を啜る。 左手は鳥肌の浮かぶ背中を背骨に沿って触れるか触れないかの微妙なタッチで撫ぜる。 右手は露出多めの部屋着に差し入れて、無警戒なノーブラの胸を揉みしだく。 敏感な先端は固く尖り、本人の意思とは裏腹に主張を展開し始める。 慣れない刺激に小さく縮こまった舌を強く吸いあげると、香の眦に涙の玉が浮かぶ。 頬は突然のことに上気し真っ赤に染まっている。 二の腕は粟立ち、辛うじてこの状況に遺憾の意を示す爪だけが撩の肩口に喰い込み抗議している。 比較的自由に動かせる香の両下肢の攻撃をいなしながら、撩はジーンズの腰をぐいと香の足の間に割り込ます。その時はじめて、撩は己の欲望が痛いほどに漲って、ジーンズの下で張り詰めていることに気付く。 ・・・ぉ? りょおってば、大丈夫? あ? ぁあ、うん。 変なの。 撩がふと我に返った時、すぐ目の前に香がいた。 へんだよ、りょお。と言いながら、笑う顔は先程の妄想の中の彼女とは同一とは思えないほどに無邪気だ。 本に熱中していたとばかり思っていた相方は、いつの間にかコーヒーを飲み終え2杯目を淹れに行くところで、 ついでにお替わりを飲むかと撩は訊かれているらしい。 いや、ちょっと飲みに行ってくるわ。 今夜はそのつもりではなかったけれど、急遽、予定変更した。 いつも大人しく己の欲望を封じている男には、ガス抜きが必要なのだ。 この数年恒例となっている歌舞伎町での彼の馬鹿騒ぎは、 たった今しがた脳内を占めていたような妄想を払拭する為の、いわば儀式のようなものだ。 そんな男の気も知らないで、煩悩の根源たる天真爛漫な女は、 あからさまに不機嫌そうに鼻の頭に皺を寄せて、唇を尖らせる。 一度鎮火した導火線にもう一度火が点きそうな予感がして、撩は思わず目を逸らした。 直視できないから目を逸らして軽口を叩く。 そーいえば、桃ちゃんからボトル入れてって頼まれてたのぉ。リョウちゃんってば(むふ) はあ゛ぁ? こないだツケ全部払ったばっかなんだぞっっ こんのクソモッコリがぁっ撩は可愛い相方の怒声を背中に浴びながら、リビングを後にした。 仕方がないのだ。 何年間、俺が我慢していると思っているのだと、またしても撩は胸の中だけで愚痴る。 ああやって怒り散らしても最終的には。 へべれけに飲んだくれて帰ってきて昼近くにごそごそと起き出す男に、 朝食と挽き立ての旨いコーヒーを出す女だ。 最近、煙草の量が増えたわよ、 なんて言いながらビタミン補給の為にグレープフルーツを絞ったりして、撩を甘やかす。 殺し屋の私生活としては些か甘すぎる現実には、苦くて酸っぱいグレープフルーツがちょうどいい。 ゆらゆら帝国「グレープフルーツちょうだい」 という曲をイメージして書きました。
おはこんばんちわ、ケシです。 とうとう来ちゃいましたね、この日が。映画になるよってニュースが出てから、早くも1年。 あんなに待ち遠しかったのに、今はもう封切りされているんだと思うと感慨無量です。 すでに2回観てきましたよ。でも、上映期間中にまた何度でも足を運ぼうと思います。 これまで、おんなじ原作のコミックスがただ無意味に(暴言御免)版を重ねたり、 たまーにしかない特別展みたいなものしか動きの無かった作品のウン十年振りの新作なんだから‼ そりゃ、ファンとしてはここで貢ぐしかない‼という気概で臨んでいます。 色々と作品の内容に言及するのは、やっぱり上映が終了してからにしようと思います。 ただ今は、ファンの皆様も同じ日本の何処かで同じ作品を観ながら、心を熱くしていることが嬉しいです。 本当に嬉しい(*´∀`*) このブログやってて、今が一番嬉しい。 やっぱり、どんなものであっても公式が新しいことを仕掛けてくれること以上に嬉しいことってないですね。 皆々様、どうか良い夜を。ではまた。 ※私信※ やすなおさま、気にしないで下さい。 仕様で多分非公開にしようと思たら消えちゃうと思うのでそのままにしてても大丈夫ですよ。 あいにく当方、ゆるゆる運営で進行しておりますので大丈夫。 誰も気にしない気にしない。 いつも嬉しいコメントありがとうございまっす(*´∀`*) いつも貰いっぱなしで、お返事滞っててかたじけない。また見に来てね♪
撩は目の前に置かれた愛用のマグカップを覗き込んだ。 温かそうな湯気を立て茶褐色の液体を孕んだそれは、いつもの香ばしい薫りとは別の甘い匂いを放っている。 今日はココアにしてみた。 カップを挟んでローテーブルの向こう側に座った香がそう言った。 香の前にも同じように色違いのマグカップが置かれ、湯気を立てている。 今まで市販のココアの粉をお湯で溶いただけの薄甘い飲み物が、ココアだと香は思っていたらしいけど。 テレビでこっくり濃くて美味しい”ホットチョコレート”の淹れ方のレシピを観たらしい。 2月だからだろうか。 撩は日本に来て初めて、2月14日の奇妙な風習を知った。 2月14日がバレンタインデイであることは知っていたけれど、チョコレートと何の因果関係があるのかは不明だ。 私、チョコレートは嫌いなの。 そう言った女の肌は、ミルクチョコレートのように深い褐色をしていた。 どんな顔をしていたのかどんな声だったのか、何という名前だったのかはもう忘れてしまったけれど、 彼女のチョコレート色の肌は弾力に富み、引き締まった形の良いヒップは見惚れるほど美しかった。 彼女は眉を顰めて、馬鹿馬鹿しいほどの値の付いたチョコレートを一粒摘み上げそう言ったのだ。 摘み上げた指先にはゴールドのネイルが施され、それが肌の色を美しく引き立てていた。 中南米からの移民で、ビザも持たずに娼婦まがいの生活をしていた彼女の先祖は、 ヨーロッパの三角貿易によってアフリカ大陸から連れてこられた奴隷だった。 搾取されるためだけに過酷な状況で、カカオ豆を作っていたらしい。 コーヒー豆やバナナと同じように、カカオもまた白人たちの金儲けの材料として扱われた。 過酷な労働や差別が世界中で問題視され、糾弾され始めたことなどつい最近の出来事に過ぎない。 その昔、褐色の肌をした奴隷たちの価値は、1人あたりカカオ豆100粒が相場だったらしい。 ギリシャ語で「神々の食べ物」という名前を持つその樹の果実は、神にも見放された奴隷によって生産され続けてきた。 彼女の言葉の意味や表情を理解することは、撩にも容易かった。 撩が物心つく前に放り出された彼の地も、似たような有様だったから。 かといって当時の撩には、そのメスチソの彼女の自分語りなどには全く興味は無かったので、ベッドの中で聞き流したに過ぎない。 過去のどうでもいい、半ば忘れかけていた記憶は、ふとした瞬間にありありと蘇る。 どんな国にもどんな人間にも歴史はあり、立場や人種が違えば見解の相違が生まれる。 それがどんな犠牲の上に成り立っているのか、普段意識することは少ない。 チョコレートやコーヒーやバナナやゴムや綿花や胡椒だけではない。 ダイヤや金の鉱脈も、石炭や石油も、文明が発展し経済が循環し贅沢品や嗜好品に溢れる世界。 その恩恵に与かろうとすれば、その裏には過酷な生産の現場が存在するのだ。 弱者はどこまで行っても弱者であり、強いものは弱いものを叩く。 その世界の構造だけが、ソフトを変えながら脈々と受け継がれ続ける。 人間の欲は果てることなく、無意識に遠くの無関係な人間を苦しめることもあるのだ。 撩は今も昔も、そんな話にさして興味は無いけれど、 弱い立場の人間がそうして尊厳を踏み躙られている場面なら、幾度となく目撃してきた。 その世の中の仕組みを知っている、ただそれだけだ。 やっぱり、撩はコーヒーの方が良かった? 口数の少ない撩の顔色を窺うようにそう言った香に、撩は小さく笑った。 いや、どっちでもいい。 どちらでも同じことだ。コーヒーでも、ココアでも。 撩も昔はきっと、あちら側に居たに違いない。踏み躙られてただ生き抜くことだけを考えていた。 それでも今ではコーヒーだって飲むし、煙草だって吸う。生きていくのに必要の無い嗜好品を嗜んでいる。 幸せを追求してしまうということは、時に生存には全く必要のない無駄を生み出してしまう。 無駄の中にこそ、秘められた愉しみや美しさを見出してしまう。 人間が人間であることこそが罪悪であり、背徳的であり、同時に甘美でもあるのだろう。 神々の食べ物のはずだったカカオの実を食べてしまった愚かな人間は、 何処かの誰かを犠牲にして生きながら、同時に他の誰かに喰い物にされて、蹂躙され続けている。 神が創った生物の中で人間は、欠陥だらけの失敗作だったのかもしれない。 平和に生きることはとても難しく出来ているらしい。争いや諍いの理由は、この世に数限りなく存在する。 それでも今この目の前にいて、美味しそうにホットチョコレートを飲んでいる香を見ていると、 撩は失敗作で欠陥だらけの人間という生き物に生まれてきて良かったと、柄にもなく思えるのだ。 彼女と同じ人間に生まれてきて、なんとか生き延びてここにいる。 自分がもしも暗黒の海底に棲む深海魚だったならば、 こうして2人で笑い合って言葉を交わすことさえ無かったのだから。 彼女の指の先は何の飾りけもなく短く切り揃えられた爪があるだけだが、 それがとても美しいと撩はマグカップを傾けながら、心の中だけでそう想った。
おはようございます、ケシです。 あけましておめでとうございます(*´∀`*) 新年初場所から、稀勢の里の引退という残念な始まりとなりましたが(何の話)今年も1年良い年となりますよう願っております。 なんか久し振りに文字を入力していると、日本語が変ですね。 この前、職場でガチめに歌を唄うシチュエーションがあったので、唄ったのですが声をある一定の音量以上で出したのが久し振りすぎて全く声が出ず、カッスカスでした。最近、省エネモードで生活しているので衰えを感じた出来事でした。新年会続きでね、酒だけはバカスカ飲んだんですけどね。 そんなことはどーでもEですね。とりあえず、今年はえーがですね。皆様もえーがかん行きましょうね。こっそり二次創作をして楽しませて頂いてる身としては、ちゃんと本家本元さまにお金を落とすことの出来る機会は逃したく無いですので、見に行こうと思てます、はい。 インフルエンザが猛威をふるって猛り狂っておりますが、皆様方もくれぐれもお元気で、ご自愛くださいませよ。最近、めっきりブライス沼の方に浸かりきっていますが、細々でも文章書いていこうとは思ってます。お人形もほどほどにして二次創作やらないとなー(現実生活はどーでもEのだ) ではまた。
「なぁに?それ。」 撩が持ち帰った箱に、香は首を傾げた。 一見すると重たくは無さそうだが、結構な大きさの段ボールの中からプラスチックの透明の箱が現れたので、香は更に怪訝な表情を深める。 「依頼だよ。こいつが今回のガード対象、者?人間じゃねぇけど。」 そう言って撩の指し示した指の先には、透明の箱の中に木屑のような木製のチップのような不思議な物が詰まっていて。 箱の内部には丸い回転する物体が据えてある。 香にもこの物体が何をする物かということ位の知識はある。 この中にネズミが入って回すやつだ。 小学生の頃、同級生の間でハムスターを飼うのが流行った時期があった。 香も飼いたかった記憶があるが、兄と二人きりの団地住まいだし、そんなワガママを言うこと自体が当時の香にとっては出来ないことだった。 誰だったかはもう忘れたけれど、友達の中の一人の家に招かれて遊んだ時に見せて貰った覚えがある。 とても臆病で小さなネズミは、それでも香の掌の上で小さく丸くなってとても柔らかだった気がする。 撩はリビングのローテーブルの上にそっとケージを置くと、人差し指を唇に押し当てて声を潜めた。 「臆病な奴だから。」 香は訊きたいことが山ほどあるけれど、とりあえず頷いた。 残りの色々を撩は段ボールから取り出すと、ローテーブルの上に次々並べ始めた。 ペットフードとおぼしき袋に、ケージに敷き詰められた物と同じ巣材のようなもの。 餌を容れるための小鉢のような皿に、ケージの天井部分にあたるメッシュの所に取り付けられるようになった水飲みボトル。 香は撩の開封作業を横目で見ながら、撩の指示に従って黙って静かにケージの中を観察した。 しばらくして小さな巣材の小山がモゾモゾと動き出したかと思うと、真っ白な美しいネズミが現れた。 毛皮は真っ白な綿毛のようで、つぶらな瞳はルビー色をしていた。 小さな足先や鼻の先は、ほんのりとピンク色をしていた。 毛の生えていないピンク色の長い尻尾が伸びている。 暗い箱の中から突然、明るい場所に出て来て、戸惑っているように見えたけど、本当の所は香にはよく解らなかった。 「ハムスター?」 「いんや、実験用マウス。」 「マウス?」 「うん、マウス。ま、今は依頼人のペットでもあるけど。」 そこだ。 まずはそれから訊かないと始まらないと、香は気が付いた。 そもそも、いつの間に依頼を受けてきたのか。 少なくとも、つい2時間ほど前に午後の伝言板確認に出向いた際には、依頼など無かった。 「まぁ、行き掛かり上、受けざるを得ないというかなんというか····不可抗力というか····」 「なによ、歯切れが悪いわよ。何があったのよ。」 午後の公園のベンチに、何やら深刻そうな表情で深い溜め息をつく女子中学生が居たらしい。 膝には撩が持ち帰ったこの段ボール箱一式を抱え困っていたので、事情を訊いたというのだ。 その撩の言う、行き掛かり上とやらの状況にいつかの既視感を覚える。 公園で泣いていた小さな女の子の依頼を500円で請け負った、あの時の撩に出逢って香は初恋に落ちた。 あの時、お人好しの相棒の奴(兄貴だ)が勝手に引き受けた、と撩は言ったけど。 多分、撩だって充分お人好しだ。 その小さな生き物は、とある製薬会社の研究者の実験の成果で何やら特別なネズミらしい。 遺伝子を操作されたネズミは不老不死、すなわち実験の結果が正しければ、永遠に死なないらしい。 件の女子中学生は、その研究者の一人娘でネズミの飼い主だ。 父親が作り出したそのネズミと、家族の一員として2歳の頃から生活を共にしてきた。 その可愛いペットが今、命を狙われているというのだ。 数日後に、父親が研究の成果を学会で発表することになっている。 恐らくその情報を何処からか嗅ぎ付けた産業スパイに、狙われているという。 奪われたら最後、ネズミ君は解剖に回され体の隅々、細胞に至るまで調べられ無惨な最期を遂げるだろうというのだ。 リミットは父親の学会発表の日まで。 研究が公になれば、簡単に手出しは出来なくなるだろう。 「凄いネズミな訳ね、この子が。」 「ま、ざっくり言えばそういうこと。」 ただ数日、ネズミの世話をする訳ではないだろう。 撩は恐らく、そのスパイとやらの正体を突き止め、問題の根本から解決する気だろう。 「依頼料、500円ってことないでしょうね?」 「大丈夫、父親の製薬会社とは話をつけてあるから、安心しろ。」 「でも、可愛いねこの子。とても毛並みが良いし、10年以上も生きているなんてとてもじゃないけど信じられない。」 「まぁ、普通はぶっ飛んだ話だと思うわな。でも、ほんとの話らしい。」 どうやら撩は、日課のナンパの合間に仕事を取ってきたということだ。 撩は恐ろしいまでの強運の持ち主らしい。 依頼なんて待ってりゃその内、降ってくる。という口癖が、時々こうして現実のものとなる。 しかもネズミ相手に夜這い対策を講じる必要もなく、香としてもそれは申し分ない依頼であった。 カタカタカタカタカタカタカタカタ 今回のガード対象は夜行性だ。 香は二人の寝室に対象を招き入れると言って聞かなかった。 大事な対象者に何かあったらいけないからというのが、香の建前だ。 けれど撩は彼女の本音が別にあると分析している。 寝る時間になるまで、香は楽しそうにリビングで対象を観察していた。 とても人に懐いた対象は、ケージの蓋を開けてナッツを差し出せばその小さな手でそれを受け取り、モグモグと食べたりする。 撩が寝る時間だと水を向けても、一向に意に介さず観察を続けるので、有無を言わさず実力行使に出たところ、 香は対象を寝室に寝かせると言い出したのだ。 撩としては、何でも良いので彼女を寝室へ連れ込むために、ネズミとセットで彼女を抱えて来たというわけだ。 対象はベッドサイドのキャビネットの上に据えられ、薄暗い間接照明の中で元気に活動を始めている。 撩もまた夜行性なので、パートナーとの夜の触れ合い活動に勤しんでいる。 「ね、···りょ··お」 「ん?」 第1ラウンド目を終えたところで香が言った。 行為を終えてすぐの彼女の声は艶かしくて興奮すると撩は思うけど、そんなことを言うと彼女に殴られるのであえて黙っておく。 「あの子は死なないのよね?」 「まぁ、実験が正しければね。まだ実験の途中だから。」 「もしもね、もしも。実験の通りずっと生き続けたら、」 「うん。」 「あの子はどうなるの?」 「どうって?」 「家族も居なくなって、それでも生き続けるの?」 撩の裸の胸板に頬をくっ付けたまま、香がそう言ったので、撩は優しく香の髪を撫でた。 撩は香に訊かれるまで、そんなことを考えもしなかった。 小さな命を弄ぶ人間のエゴと言えばそれまでだ。 そうやって、科学が発展してきた。 真面目な話をすれば、きっと飼い主ならば自分が死ぬときに一緒に連れて行くのではないだろうか。 本音を言えば、実験が失敗に終わってしまえば良いと撩は思う。 少しだけ他のマウスよりも長生きして、家族にかわいがられ最終的に幸せなペットとして生を全うすれば良い。 アタシだったら、やだな。 香の声が掠れている。 先程までの、触れ合い活動の激しさを物語る喉の渇きだ。 香は終始艶かしい声を立てていて、行為の間中ずっと撩を煽っていた。 撩が居なくなった世界で永遠に生き続けるなんて地獄だよ。 香がそう言いながら撩の胸を優しく撫で上げるから、撩の腕の立毛筋が反応する。 さっきからやたらと煽ってくる相棒に、抗議の意味を込めて乳房を揉みしだく。 彼女の眉間がうっすらと寄せられ、半開きの唇は何かを言おうとして形を結ばず、熱い吐息を漏らした。 拒否反応が見られなかったので、撩は体勢を入れ替えると優しく香を組み敷いた。 香の丸い瞳を、うっすらと涙の膜が包み、唇は物欲しそうに戦慄いた。 口付けを落とすと、香はゆっくりと瞳を閉じる。 死ぬときは一緒だ。 撩が香の耳許でそう囁くと、香は恍惚の表情で幸せそうに頷いた。 何が何でも守り抜くと約束はしたけれど、寿命から逃れることだけは生物としての宿命で無理だろう。 誰しもいつかは死ぬ。 どちらが早くても遅くても、残された方が悲しむことに違いはない。 撩はもしもこの先、香に先立たれたら後を追って死のうと思う。 そして、もしも自分が先に死んで、その時残された香が悲しくてこの世の地獄だというのなら。 その時は、後から来るであろう香を待って一緒に地獄に堕ちようと思う。 それまでは、その時が来るまでの束の間の人生は、仲良く元気に生きて行くのだ。 今回のガード対象者の回す、回し車の規則的な音を聴きながら二人は2度目の行為にのめり込んでゆく。 久し振りの更新は、お題です。皆様、お元気ですか?お風邪など召しませぬようご自愛ください。
おはこんばんちわ、ケシでっす。いやぁ、暑いっすねぇ毎日毎日。皆さんいかがお過ごしでございましょうか? 熱中症などになりませぬよう、睡眠と水分塩分をしっかりと召しませよ。 今日はタイトルの通り、誰得なのか全くわからない遊びをしたのでついでに写真を撮りました。 因みに数年前、リョウちゃんごっこはシルバニアのミルクウサギさんで実践してますので、 興味のある方は当ブログ内で探して見てちょ。 この記事と同じカテゴリー内にありますYO 写真がありますので、折り畳んでおきますね(*´∀`*)
※サムネイルをクリックしたら、おっきな写真で見れますよ※この度、カオリンのモデルをつとめて頂くブライスさんは、 プリマドーリーアンコールのオーブリーさんです。 今現在、順調にコレクション増殖中でして、我が家には11人のブライスさん達がいらっしゃいます。 その中でも、赤毛のショートボブがもっともカオリンに近い彼女です。 ブライスさんと言えば、ロングヘアーのタイプの子の方が多いのですが、 我が家のブライスさん11人中、6人がショートボブというなんと半数越えのショート率の高さです。 ケシ子のショートヘア好きの根本原因は、間違いなくカオリンでございます。  まずは、通常営業のカオリンってことで。 ノースリーブのシャツをウエストで結んで着る、80年代テイストがカオリンみを増してます。 ボトムはデニムのタイトミニです。  暑くて露出多目のスタイルで、伝言板に出向くバージョンのカオリンです。 リョウちゃんは無駄にヤキモキして、焦ればいいです。 カオリンはリョウちゃんの不機嫌の理由がわからなくて、逆ギレしてやれば良いと思います。 キャミソールとミニスカで、長い手足を惜しみ無く晒せば良いのです。  リョウちゃんに、チャラチャラした格好すんじゃねえって叱られるタイプのスタイルです。 夏らしく、リバティプリントの布地で作りました。  バックスタイル  靴は、ピカデリードリーアンコールさんという、別の子のデフォルトのヒールです。 甲の部分のネイビーに、ヒール部分のみ赤で、めっちゃ可愛い靴なのです。 何気に、ケシ子のお気にです。   最後は、やはりこれ。 カオリン戦闘バージョンです。 海原戦前夜もしくは、ミックに廃ビルの屋上で決闘を挑んだ時のスタイルです。 動きやすいオールインワンにシンプルな白シャツを羽織り、編み上げのロングブーツという組合せは、もはや定番でございます。 これに、6分の1ミリタリーフィギュアなどの武器を持たせれば、完璧です。 今度、やってみたいと思います。  水色のジャケットと赤Tと、黒のパンツを自作すればリョウちゃんコーデカオリンも作れます。 妄想が広がりますね( *´艸`) 皆さんも、こんな遊び方をしてみては如何でしょう? 楽しいですよ🎵
連載とは繋がりのない、短いお話を書きました。気まぐれ更新。・・・深爪に似てるかも、しれない。 どんな風に?と、撩が訊ねたから、香はそう答えた。 指先って普段、無意識に使ってるじゃない?だから、深爪しちゃうと地味に痛いってゆうか。 その時になって何となく感じるというか、鈍い痛さだからその内麻痺しちゃうってゆうか。 痛みに慣れてきた頃には爪も伸びて平気になるってゆうか。 香の説明によれば、撩の冷たさはそういう種類の冷たさらしい。 些細なことから香が撩に、アンタはアタシには冷たいから、と言ったのが撩には俄然引っ掛かった。 いやいやいや、俺は優しいだろう?おまえには。と、心の中で反論したけれど、言葉にはしない。 自分だけが未だ夕食中で、香はとうに食事を終え洗い物をしながら、撩に背中を向けている。 もどかしい。 自分の考えていることと、相棒の考えていることとの隔たりが著しくもどかしい。 だからやめときゃいいのに、どんな風に?なんて訊いて、傷口を抉るような真似をしてしまった。 しかも、香はそんな話を、どこか楽しげにも聞こえる口振りで説明するから、尚のこと憎らしい。 きっと見えないその口元には、薄く笑みさえ湛えていそうで、撩は軽く傷付いた。 『冴羽さんて、やさしそうに見せて、ほんとは全然優しくないのね。』 そう言ったのは、数ヶ月前に依頼人だった女だ。 依頼を終えても尚、撩に気のある素振りを見せてきてなんだかんだで円満に終わりそうな兆しが見えなかったので、 一度だけ惰性で寝た。ただそれだけだ。 安いラブホテルのけばけばしい壁のクロスを睨みながら、女はそう言った。 当たり前だ、優しくするつもりなんて、端から無いのだから。 撩という人間とまともに対峙しようと思ったら、多分、人生の破滅も覚悟して貰わないといけない。 きっとそういうひと達は、撩が違う世界に生きる人間だという認識が持てないのだろう。 撩だってそうやって無駄に他人を傷付けたくは無いけれど、言葉にしないで解って貰うにはそれが一番手っ取り早い。 撩は今まで何度もそうやって、他人と深く関わることを絶ってきた。 肉体関係が永遠の断絶を意味し、孤独を深めるのだなんて、きっと天真爛漫な撩の相棒には理解不能だろう。 物思いに耽る撩の鼻先に、コーヒーが薫る。 いつの間にか香は洗い物を終え、コーヒーを淹れたらしい。 4杯目の白米を食べた所で、炊飯器の中身が無くなったので、香のジャッジで今晩の食事は強制終了だ。 湯気を立てるマグカップと引き換えに、テーブルに並んだ食器が引かれていく。 何ボーっとしてんの?熱いから火傷するよ? そう言って香は薄く笑った。 香は解っていない。こうして一緒にいるという現実が既に、香が特別である証しだというのに。 香にだけはどうしても冷酷になれない、撩の弱さを香は知らない。 ったく、解ってねぇな。リョウちゃんほど優しい男はそういないぜ? 撩が茶化してそう言うと、香は肩を竦めた。 どうせ冗談を言っていると思っているんだろう、真剣に取り合っては貰えない。 もっともそう思わせるには、撩の方にも原因が無くも無いので仕方ない。 ま、そうかもね。アタシ以外、特に美人の依頼人とかには優しいもんね、アンタ。 ホラ、また解ってない。と、撩は心の中で呟いた。 熱いブラックコーヒーを啜りながら、撩は思わず指先を確認した。 深爪はしていない、地味に痛いのは切ない男心だったりするのかもしれない。 もどかしい痛みはそれでも、平和な日常に埋もれて麻痺していずれ癒えてゆく。 ドMカップルの話です。
こんちわ、ケシでっす。 最近、ちょっとドールの沼にはまってます。ブライスです。 現行モデルというよりも、過去に発表されている子に魅力を感じるタイプなので良いと思った子との出逢いが一期一会で、堪らんです。 きっかけは、ドール服を作りたいと思ったからです。 今年の3月に初めての子をお迎えしてから、僅か3ヶ月の内に今現在7人のドールをお迎えしちゃいました。 ((( ;゚Д゚)))散財振りが酷い。 過去の子は出逢いも一期一会ですが、価格もそれなりにプレミアでして(汗) 二次創作は、同人誌とかグッズでも作らない限りはお金かかりませんからね、一気に金の掛かる趣味がひとつ増えちゃいました(テヘ) そもそも趣味が多すぎて、時間が足りません(南無) その内ブライスさんにCHコスプレでもさせようと思います( *´艸`) 話は変わりますが、メールフォームから連絡下さったスナフキンさま! ヒントです。基本的にノーヒントですよっつースタンスなのですが、当ブログは結構ゆるゆる運営ですので、気分と場面で進行してまいりまぁっすっっ。 アニメの主題歌に使われた歌のタイトルを思い出してくださいませよ。自ずと答えが導けるのではないでしょうか。岡村ちゃんとかね。2のEDとかね。 というわけで、ご健闘をお祈り申し上げます。 ばいちゃ。
幾ら親子だとはいえ、急に今晩顔出せなんて横暴だわ。 仕方ないじゃない、お父様が言い出したら絶対なのはあなたもわかってることでしょう? そういう姉さんはどうするの? 私は無理よ、お仕事だもの。捜査が行き詰まってるの、家族で楽しくディナーなんてやってる場合じゃないのよ。 私だって同じよ!忙しいのよ。 突然掛かってきた電話の相手は、姉だった。 冴子からこうして連絡が来るのに、朗報だったためしは殆ど無い。 麗香は警察官という仕事を辞めて以降、両親に今の己の立場を軽んじられているように感じている。 以前は姉と同じように、家族との団欒を仕事を理由に断っても、ある程度は理解を得られたのに、最近ではやけに煩い。 両親は警察官という仕事以外はいつでも暇で、いつ何時でも職務に全うしているのは警察官だけだと思っている。 自分がその世界の中の住人だった頃には判らなかったそんなことに、いい歳になってから気が付いた。 どうせ今晩も顔を出したところで、麗香を待っているのは大量のお見合い写真と母の小言だ。 このところ、姉へのお見合いの薦めは峠を越えたのか、専らその対象は麗香になりつつある。 それも、麗香の足が実家から遠退く理由のひとつだったりする。 だったら、そう言えばいいじゃない。お父様に。 言ったところで通じないじゃない、あの石頭に。 ま、そりゃそうだけど、たまにはあなたの顔が見たいのよ。親孝行しなさいよ。 姉さんがそれを言う⁉そもそも姉さんがお見合い断りまくるから、私に火の粉が飛んで来てるのよ? そうかしら?年齢的な問題だと思うわよ? 麗香としては至って大真面目に抗議しているのにも関わらず、受話器の向こうの冴子が飄々としていることにも苛立ちは増してくる。 冴子はきっと、未だに麗香が撩に対して報われない想いを抱えているとは思っていないのだ。 以前に一度、『あら、この人なんか良いんじゃない?』などとお見合い写真の1枚を手に取って、 両親からのお見合い攻撃で辟易する麗香に更に追い討ちをかけて、激怒させるということをやらかしている。 冴子こそ同じこの見合い攻撃の被害者でもあるくせに、自分さえ良ければ何でも良いのかと、麗香はうんざりする。 家族のことは嫌いでは無いけれど、こんな時には一番鬱陶しい存在でもある。 いずれにせよ、今晩は無理なの。仕事なのよ。 撩に任せときなさいよ、もう殆ど目処は付いてるんでしょ? さらりと言ってのけた冴子の言葉に、麗香は電話口で眉根を寄せる。 今回の件で、撩に協力を要請したことは、冴子には言っていない筈だ。 どうして姉さんが知ってるの? 撩から聞いてるもの。情報提供の一端は私でもあるのよ、残念ながら。まぁ、それだけでも無いけれど。 どういう意味? 心配してるのよ撩も、ああ見えて。あなたが危ない橋を渡ってるの、気が気じゃ無いのよ。 それで姉さんが保護者面して、影で情報提供ってわけ⁉冗談じゃ無いわ‼ 落ち着きなさいよ、別に撩が絡んで無くても、情報くらい幾らでも流すわよ。私だってあなたの転職に関しては、責任が無いわけでもないし。 ......。 まだ諦めて無いの?撩のこと。 ...悪い?どうせ無駄だって思ってるんでしょ、みんな。 思ってるわよ、撩の気持ちくらい端で見てて判るでしょうよ。 可能性はゼロでは無いわ。 ゼロよ。 冷たいのね、きょうだいなのに。 だからでしょう?はっきりと言ってあげる優しさもあるわ。悪いけど、撩との付き合いは私の方が古いの。深入りしても絶対に踏み込めない領域があるの、彼には。 香さんならその場所に、踏み込めるの?とは、麗香は言えなかった。 そんなことは初めからわかっている。 例えばそれが撩にとって、只の慰めでも現実逃避でも何でも良い。誰かの身代わりでも。 彼がここまでは踏み込んでも構わない、と思っている限界ギリギリまで彼に近付くことが出来るなら、何でも良いのだ。 別に無理に諦めろなんて言うつもりは、サラサラ無いけど。 けど? 虚しいわよ、踏み込めないとわかってる相手に感情をぶつけるのって。ま、撩のことはどうでも良いんだけど、とりあえず今晩はあなたが帰っとかないと煩いのよ。それで暫くは二人とも落ち着くんだから、ね?お願い。 ほんとに、厄介払いしてない?自分だけ仕事で逃げるなんて狡いわ。 だってあなたの案件は撩にも手伝って貰えるから良いじゃない?捜査を撩にやらせる訳にはいかないもの、さすがに。 姉さん、やらせたら大問題よ。 冴子ならやりかねない、と思ったことは心に秘めて麗香は盛大な溜め息を漏らした。 どうして自分ではダメなのだろうと思うと、自分の境遇が嫌になる。 元々、誰かを羨んだり、自分の境遇を恨むような心持ちではなかった筈だ。 少なくとも、撩に出逢うまでの麗香は、もっと自分に自信を持って堂々と生きていた筈だった。 何処でどう変わってしまったのか、自分でも気付かないほどに自信の無い恋に身を投じている。 それでもそうと解っていながら引き返せない恋がある、ということに気が付いてしまっただけだ。 引き返せるものなら、撩に出逢う前の自分に戻りたい気持ちは麗香とて山々だ。 苦しいだけの恋なのは、冴子に言われずとも自分自身が一番解っている。 私の方から撩に言っといても良いわよ?今晩は独りで片付けて頂戴って。 何処まで保護者面すんのよ。良いわよ、自分で言うから。 そう?じゃあ、お父様、お母様に宜しくね。 ハイハイ、承知致しました。お·ね·え·さ·ま·っ·っ·💢 苛立ち紛れに切った電話に、麗香は思いの外打ちのめされた。 何が悔しいって、自分と撩との束の間のバディ関係は、あっさりと冴子に筒抜けだったことだ。 撩は心配してくれているのだと冴子は言ったけれど、そんな優しさが麗香を傷付けるなんて撩本人は微塵も思っていないのだろう。 もっとも、冴子がいともあっさりと麗香にその話を漏らすなんて思っていないのだろうけど。 そう考えれば、冴子自身が言ったように、はっきりと言ってあげる冴子流の優しさなのだろうけど。 そんな全てが麗香にとっては、苛立ちにしかならない。 まるで子供扱いだ。 けれどこの苛立ちを、麗香はきっと冴子にも撩にもぶつけることは出来ないのだ。 全ての苛立ちと嫉妬が綯交ぜになった黒い感情が行き当たる心の奥底には、槇村香の幸せそうな笑顔が浮かぶ。 香ならどうして撩の踏み込めない領域に踏み込めるのか。 香ならどうして周囲の誰からも撩のパートナーとして認められるのか。 香の恋はどうして周囲の誰からも応援されるのか。 自分と槇村香の違いは何なのか。 彼女にあって、自分に足りないものとは何なのか。 ずっと考えていて答えの見付からない問いは、麗香をとても醜い感情に駆り立てる。 彼女を悲しませてやりたいし、自分がこうして思い悩むのと同じように苦しめてやりたい。 そうでなければ、彼の隣にいる彼女という存在を視界に入れるのすら苦しくなってしまう。 醜い感情ほど表に出ようとして、まるでエイリアンの様に麗香の美しい表面を喰い破って暴れ始める。 何かが麗香の中で弾け飛んだ瞬間、麗香の指はそのまま電話のプッシュボタンを押した。 先日電話を入れた撩の寝室直通の番号ではなく、隣のビルの6階リビングに繋がる香が応対する筈の番号だ。 もしもし。 電話越しの明るい声は、麗香の神経に障る。 声を聴くだけで、麗香の心臓は一気に膨張したかのように息苦しさを感じる。 麗香ですけど。 あ、麗香さん?どうしたの? 撩いる? ごめんなさい、今ちょっと休んでるの。夕べ遅かったみたいで。 勿論、知っている。 夕べ遅くまで一緒に仕事をしていたのは、麗香自身だ。 撩の二の腕に薄らと滲んだ血の色を思い返す。 撩の怪我はどう?大丈夫? 受話器越しに香が息を飲む音が小さく聴こえた。 撩が怪我をして帰って来たことは解っているだろう。 恐らくは、香の知らないところでまた仕事をして来たことに落ち込んでいる。 そして、そのことと麗香がどう結び付くのかまではわかっていない様子だと麗香は推測する。 しかし、一瞬後に香から意外な返答が反ってきた。 今回の件は、麗香さん絡みなのね。 あ、えぇ、そうなの。ちょっと面倒事抱えちゃって。 大丈夫よ、怪我は大したこと無いわ。ここのとこ昼夜逆転だから寝てるだけよ、心配しないで? そう、安心したわ。 麗香には香の言葉が意外だった。 今回撩は、香を通していない自分からの依頼を、冴子だけでなく香にも明かしていたということか。 結果として、撩の寝室に電話を入れて彼を起こすことにはならずに済んだけれど、醜い八つ当たりをするために意気揚々と電話を入れた気持ちは急速に萎えてしまった。 香へ与えるダメージとしては、完全に拍子抜けだ。 それで?撩に何か御用かしら?急ぎなら起こすけど。 あ、大丈夫。伝えてくれれば良いわ。 わかった。 今夜は私、ちょっと所用で仕事にかかれないから、申し訳ないけど今日は独りでお願いしますって。 りょーかい。確かにお伝えしときまぁす。 香は、今晩興味もない大量のお見合い写真を見せられる気が重い人の気も知らずに、能天気な明るさで電話を切った。 それにあの口振りなら、撩の怪我の手当てもしたのであろう。 香本人と話している最中には、すっかり毒気を抜かれてしまう奇妙なオーラがあるのだけれど、 電話を切った瞬間にまたしても激しく嫉妬の感情に飲み込まれそうになる。 八つ当たりをしようと思った醜い感情は、綺麗に弧を描いてブーメランのように己に還って来た。 香には、あの傷に触れさせるのだ。 冴子が言っていた、撩だけの領域とは何なのか。 それすらも麗香には未だ、わからないというのに。 (つづく)
「手当てするから、上がってって。」 麗香が心配そうに眉根を寄せてそう言ったのを、撩は何も言わずに小さく首を振るだけで応えた。 撩は薄く微笑んだけれど、麗香には撩の内心を推し量ることは出来なかった。 撩の仕草から近寄りがたい雰囲気が感じられて、麗香はもうそれ以上何も言えなかった。 「まだ、終わった訳じゃねぇから油断するなよ。近日中には片付くとは思うけど。」 「わかったわ。…撩、ありがとう。」 「あぁ、お疲れさん。」 寂れた埠頭の倉庫街で、思いがけず銃撃戦が始まった。 撩は手慣れたもので飄々と応戦し、あっさりとその場は片が付いたのだけど、麗香は戸惑っていた。 いざその時になれば、卒なくアシスト出来ると思っていたけれど、現実は甘くなかった。 足手纏いにならないように振舞うので精一杯で、自分がどれだけ彼の役に立てたかは判らなかった。 多分、撩の二の腕を掠めた傷は、自分のせいだと麗香は思った。 きっと撩独りなら、あの程度の事は日常茶飯事で、怪我など負うことなく済むのだろう。 撩は大したことない掠り傷だと言って、笑ったけれど。 修羅場での己の存在が、少なからず撩のパフォーマンスに影響したのは間違いないだろうと、麗香は思う。 だからこそ、彼の腕に滲んだ赤い色を見て、せめて手当だけでもさせて欲しかった。 けれど、ある一定の距離から先に彼に踏み込むことを、まるで拒むように薄い拒絶の空気が彼を包んでいる。 なにも今にはじまったことではない。 それはいつものことだけど、麗香にはそのあと一歩を進める為の手立てが解からない。 どうすれば撩の心を感じることが出来るのか、いくら香を出し抜いて一時的に組んで仕事をしても、 それがただの己の自己満足に過ぎないという事実を、何も言わない撩から突き付けられている気がする。 はじめはただただ嬉しかった。 仕事とはいえ、それが如何に危うい案件だったとしても、撩と組んでやれるだけで単純に嬉しかった。 撩と数時間、共に過ごす為の理由があって、撩と言葉を交わせることが嬉しかった。 でも、こうして隣のビルに消える後ろ姿を見送る度に、苦しくなっていく。 午前零時を少し回った頃だった。 香はリビングにいた。 撩が夜遊びで家を空けていようが、仕事だろうが、この時間なら香はまだ眠らない。 洗い髪をバスタオルで乾かしながら、深夜のテレビ番組をぼんやりと観ている時間だ。 玄関の扉が静かに開く気配がしたので、撩が帰ったとわかる。 もうすぐで足音がリビングの前まで聞こえて、そのドアを開けて入ってくるだろうと、香はタオルを被って目を瞑った。 撩が廊下を歩く姿を想像する。 今夜の撩が何処でどんなことをしてきたのだろうと、想像する。 ただいま 床の上にぺたんと座ってパジャマ姿でバスタオルを肩にかけた香が、撩を見上げる。 心配している素振りを隠して、明るく笑う。 今回の件は、互いに最初からわかっている仕事なので、無駄な掛け合いは要らない。 おかえり 香は知らないけど、撩がこうして家に帰るといつもと変わらない日常があることが、撩を慰めている。 知らず知らず無意識のうちに、撩に怪我が無いかチェックする癖が付いてしまった香は、そうとは悟らせぬ視線で撩を見詰める。 それはすぐに見てとれた。綻んだ長袖のシャツの袖に薄く滲んでいる赤は、血の色に違いない。 さほど出血量は無いらしい。恐らくもう、血は止まっている。 袖に目を遣って、撩の顔を改めて見ると、2人の視線が絡む。 香の考えていることくらい、撩にも判るだろう。暫く沈黙が2人を包む。 「脱いで」 沈黙を破ったのは香だった。 撩はまるで抗えない催眠術にでもかけられたように、香の言葉に従って長袖のシャツを脱いだ。 香が何をするつもりなのか、言葉にせずとも解っている。 シャツの下に、ヌメ革のホルスターが現れる、撩はそれも脱ぎ去ると、収まった愛銃ごとソファに放り投げた。 香も肩にかけていたバスタオルを床の上に放ると、キャビネットに仕舞われている救急箱を準備した。 手慣れた香の手際は良かった。 丹念にアルコールを含ませた脱脂綿で傷口を拭い、綺麗に血の跡を消した。 アルコールでひやりと感じる皮膚に、香の指先が触れるたびに撩の内側に妙な感覚が沸き起こる。それをポーカーフェイスで隠しながら、押し殺す。 香もまた無表情だった。 大袈裟に騒ぐほどの傷でも無いけれど、内心では胸が張り裂けそうだった。 それでも、こうして努めて冷静に撩の手当てをすることが、自分の役割だと思っているから、香は心を押し殺す。 他の誰でもない、自分以外の誰かに撩の傷を触れさせるのだけは嫌なのだ、と香は思う。 こうして素直に撩が己に身を委ねてくれるから、香はたとえ現場に赴くことを許されなくても、撩の相棒でいられる気がする。 それでも以前、海坊主との決闘で撩が酷く傷付いた夜は、手当てをするのが辛すぎて、 いつも撩の怪我の原因となる自分が悔しくて、いっそ自分にはパートナーの資格が無いのではないかと思い悩んだ。 けれど、あれからも何度かこうして撩と向き合う内に、香の心境にも変化が現れた。 パートナーだからこそ、撩がどんな状況であれ冷静に対処する。 たとえ心が痛んでも、泣くまいと香は心に誓ったのだ。少しづつではあるが、撩の傍に居て香も強くなった。 大丈夫、もう血は止まってるから。 あぁ、サンキュ。 言葉は少ないけれど、2人には確実に目に見えない絆がある。 その傷に誰も触れさせたくないのは香だけはない。 撩もまた、香以外の人間に己を委ねるのを良しとしない。 互いに未だ唇にさえ触れた事のない仲なのに、心の中も含めて、互いの傷を知り尽くしている。 どんなに身近であっても周囲の人間には、恐らく解らないであろう2人の世界は、こうして少しづつ積み重ねてきた結果だ。 押し殺した感情の内側には、熱い血潮が流れている。 それを知りながら2人は、今はまだこうして心の中で互いを思い遣ることしか出来ずにいる。 (つづく) ※ お手当て出来るの、お互い以外で教授だけは例外です(笑) 嬉しいニュースを糧に、途絶えていた更新を頑張ろうと思ってます。 生温く見守って頂けたら、幸いでございます。
うわぁ、懐かしいなぁ。 夕食後、珈琲を飲みながらテレビを観ていた香がそう言ったので、 撩はソファにごろ寝して愛読書を読み耽っていたのを一時中断し、顔を上げた。 テレビに釘付けの彼女の横顔は、どことなく少年のような無邪気さを漂わせ、いつかのシュガーボーイの頃を彷彿とさせた。 なんてことない夜のニュースは、ずいぶん昔のとある漫画の新作アニメ映画が公開されることを伝えていた。 丁度、年の頃でいえば、当時の子供だったと思われるニュースキャスターのテンションは、異様に高い。 勿論、撩にはよく解らない世界のよく解らない時代の話だ。 きっとその頃、同じく子供だったであろう撩は飛行機から投げ出されたばっかりに、壮絶な人生を歩く羽目に陥っていた。 漫画や映画やその他の様々な娯楽を撩が体験したのは、既に大人になってからだった。 特に面白いとも感じなかったのが本音だが、それらを享受出来ることの平穏さや豊かさの方がより、撩にとっては大きな出来事だった。 まさにカルチャーショックというヤツだ。 計算合わなくね?おまぁ、幾つだよ。ずいぶん昔の漫画だってよ? ふふふ、多分アニキの方がタイムリーに観てたんじゃないかな? アタシはアニキが読んでた漫画を、こっそり持ち出して読んでたの。それに多分、アニメは再放送世代だから。 香はそう言うと、頬を染めて嬉しそうに笑った。 まるで好きな奴の話でもするように。 だからその端正な眉間に深い縦皺が刻まれたことも、苦虫を噛み潰したような表情も無理からぬことであろう。 そうでなくともここ最近、仲間内では撩のポーカーフェイスが崩れつつあると専らの評判だ。 人間味を増した撩を変えたのは、他の誰でもなく香に違いない。 二人は最近、急速に距離を縮めつつあるらしい。 確たる証拠は無いものの、彼らに近い同業者達の見解としては悉く一致している。 一線は越えていない、が、逆にそこを越えていないだけで、それ以外殆ど全ての要件でカップルとしては成立している。 一度は危機に直面し、秋の日の湖畔で互いの気持ちなどぶつけ合った甲斐もあり、もはや互いに気持ちを隠すつもりは無いらしい。 喧嘩腰で相互に罵り合いながら嫉妬し、束縛して絆を深め合うという回りくどい愛のやり取りを公衆の面前で恥ずかしげもなく毎日繰り広げている。 という有り様なので、冴羽撩という男は漫画の主人公にまで嫉妬の対象を拡大するつもりのようだ。 どういう関係だよ。 は?なにが? その漫画の主人公とお前だよ。 ···何それ、馬鹿じゃないの、二次元にまで嫉妬すんの?キモいんだけど。 香は一息にそう言いつつも、やはり頬を染めて相好を崩した。 たとえ相方がどう思おうが、子供の頃に大好きだったキャラクターが新しくなって動き回る姿を観れるのは、どう考えても嬉しいらしい。 相方の度を過ぎた狭量な嫉妬心など簡単に凌駕する程度には。 そうねぇ、やっぱり、 ヒーローだったのかな。アタシにとっては。 年の離れた兄はいつも、仕事で帰りが遅かった。 淋しく無かったといえば嘘になる。 けれど、それを言葉にできない境遇だった香は、一人遊びの上手な子供だった。 テレビは簡単に淋しさを紛らわしてくれたし、淋しさを埋めてくれるヒーローは香にとっては心強い味方だった。 何だか憂いを帯びた表情で、良い歳した女が、味のある発言したような雰囲気になりかけてはいるが、要するに子供の頃にド嵌まりした漫画及びアニメを懐かしんでいるに過ぎない。 しかし、面白くないのは撩の方である。 彼女にとっての“HERO”は、常に自分でないといけないのだ。幾ら子供の頃の話だとはいえ、彼女の頭の中で自分の知らない“HERO”に居座られては困ってしまう。 くっだらねぇ、ガキかっつーの。 そういう自分の方が子供じみた嫉妬を滲ませている自覚は、撩にはない。 けれど最近の香には、もう解っている。目の前の男が結構なヤキモチ妬きだということを。 けれどこの香のヒーロー好きは、意外と撩にも無関係な話では無かったりする。 子供の頃から兄と二人暮らしだった影響で、男の子のように育った香は、女の子の好むような漫画やアニメよりも好きなのは常に少年漫画や戦隊モノだった。 だから、思春期真っ只中のあの時の撩との出会いは、香にとって大きな意味のある出来事だったのだ。 ずっと憧れていたような漫画の中の主人公のような男が、リアルに存在したのだから。 けれども、ひとつわかったことがある。 現実の香にとってのヒーローは、全然完璧超人なんかじゃなくて、スケベで意地悪でヤキモチ妬きで、どうしようもないけれど、どんなヒーローよりも香の心を奪ってしまった。 なかなか素直には本人に言えないけれど。 りょおの方こそ、子供っぽい。 香がそう言って小さく笑うと、撩はばつが悪そうにムスッとしながら愛用のマグカップを差し出した。 どうやら無言で珈琲のおかわりを所望しているらしい。 どうも互いに素直になれなくて、こうしていつも意地を張り合ってしまう。 仕方がないなぁ、と言いながらも、香は自分の淹れた珈琲を求められることが嬉しかったりする。 それだけじゃない。 撩のそばで、撩の役に立てることが嬉しかったりするのだ。 香の一番のヒーローは、くだらないことでヤキモチを妬きたがるちょっと変な中年男だけど、現実とはそういうものだ。 心強い香の唯一無二の味方は撩だけだ。 香はヒーローの為に、新しい珈琲を淹れることにする。 りょお。 ん? 今はね、あんたが居てくれるからそれで良いの。 香がそう言ってリビングを後にしたので、残された撩は思わず独りで赤面した。 無意識に頬が緩んでしまう。 そんな可愛いことをいうのなら、なんならこのあとモッコリしてやろうか、などと不埒な中年ヒーローは考えている。 新作アニメ制作が発表された記念ということで。 久し振りすぎて、文章の書き方わからなくなりました。やばい( ;´・ω・`)
おはようございます。ケシでございます。 昨年10月以降、ぱったりと更新する気が起きなくなりまして今に至ります。 でも、元気です。今更ですが明けましておめでとーござーます。 今朝がた、RK18禁ドリームを見てしまいドキドキしながら目覚め、当ブログの存在を思い出した次第です。 (嘘です、前から更新せねばせねば、とは思っておったのです。) ワタシが文章を書く前に、脳内が勝手にRKを欲し自動的に妄想を始めた模様です。 ところで、話は急に変わりますが、腰痛です。 2月で40になりますが、人生初整体通いはじめました。 凄いです、整体。 体の歪みを治すとかで、仰向けで寝てる所に小さい枕みたいのを差し込まれてなんかされるんですが、 全く痛くも痒くも無いのに、その小さい枕で歪み調整し始めた途端に腸が奥の方でコポコポいうんですよね。 整体師の先生曰く、体液の流れが滞っている(意味不)ので体が痛いらしいけど、 確かにコポコポ言い出したから(多分、自分にしか聞こえない)、何かが流れ始めたらしく(意味は不明)整体終わったらスッキリしました。 すげぇ、まじで。 いや、多分、なんだよ普通のこと言ってんじゃねぇよって感じのことなのかもですが。 何せ、今まで風邪引いて年に1~2度内科にかかる程度の人間でして、 健康診断でも、運動しましょう、位しかアドバイス貰えないほどの健康体でしたから。 目から鱗です。 良いですね、幾つになっても初体験って(ムフ) そう言えば、さっき見た18禁ドリームもお初物でした。 という、ただの変態の報告です。 仕事にいく準備します、サヨウナラ。
「えぇぇ~じゃあ結局、行かなかったの⁉」 目を丸くして問い掛ける美樹に、香はこくんと頷いた。 腰に手を当てて大袈裟に溜め息をつく美樹を横目に、 その夫は、恐らく一連の話の流れを知ってはいるのだろうが我関せずで、黙々とグラスを磨いている。 「ごめんなさい。」 しゅんと項垂れる香を見て、美樹の表情が幾分和らぐ。 美樹が声を荒げて呆れ果てたのは、彼女に対してではなく、彼女の相棒に対してだ。 これまで何度、このような事があっただろうと美樹は思い返す。 一度は思わせ振りに振る舞っておきながら、香の期待はいつだって拍子抜けに終わるのだ。 原因はいつも彼の問題で、美樹には香の気持ちが痛いほど解るので、思わず感情的になりすぎたことを少しだけ後悔する。 カウンター越しの美樹の代わりに、すぐ隣の席から香を慰める白い手袋の手が伸びる。 「残念だったね、カオリ。ったく、リョウは相変わらずバカなヤロウだ。 ボクで良ければ、ディナーくらいいつだってご一緒するよ?」 そう言って、香の癖毛を撫でながら小さくウィンクを寄越すミックに、香は笑いながら首を横に降った。 せっかくのデートのセッティングをふいにしたことについては、済まなそうにしている香だけど、意外にも笑顔は明るかった。 ふふふ、と笑いながら、美樹とミックを見た。 「美味しいお料理を無駄にしちゃったことは、申し訳なかったんだけどね。」 香はいつもと変わりない表情で、そこまで言うとコーヒーをひとくち含んだ。 落ち着いたその物腰で、香が撩に対して怒るどころか失望しているわけでも無いことが判る。 そもそも、その話題にしても。 美樹にどうだったのかと訊ねられ、香も仕方無いので淡々と事実を述べただけで。 いつものような、撩に対する愚痴といった要素は微塵も感じられなかった。 コーヒーを飲みながら、何処か余裕さえ漂わせた表情で、香がにっこりと笑う。 思わず、美樹とミックは互いに顔を見合わせて、首を傾げる。 「仕方無いの、お仕事だから。撩が悪いわけじゃないの。」 けれど美樹の記憶が正しければ、ここ数日、伝言板に依頼は来なかったはずだ。 他の誰でもなく、この目の前の彼女がそう言って溜め息をついていたはずだけど、と考える。 まるで美樹がそう考えたことを察するように、香が補足する。 「まぁ、伝言板にきた正式なって意味では無いんだけどね。あはははぁ。」 最後は、乾いた笑いとひと続きで溜め息に変えるという、香の得意技を駆使している。 香は基本的には正直で、嘘がつけない性格だけれど。 その笑顔の裏側にどんな思いを抱えているのか、他人には見せないところがある、と美樹は思う。 いい意味で我慢強い、言い換えれば他人行儀なのだ。 美樹は本当に、香のことを親身に心配している。 香がたとえ笑っていても、それが心からの笑顔なのか疑ってしまう癖がついてしまった。 それもこれも偏に、あの男の非常に難解な精神世界のお陰だと、美樹は考える。 確かに冴羽撩は、魅力的な男には違いない。 それは美樹も認めるところだ。 けれど彼の抱えた全ての世界、背景が複雑過ぎて、恋愛沙汰に向かないとは思う。 それでも、そんな彼にこそ最も相応しい相手なら、香しかいないだろうと思うのだ。 それは同時に、彼女にとっての茨の道を意味するのだけど。 伝言板を通さずに、撩が携わる仕事。 それがどういうことか、この場にいる香以外3名には解っている。 だから、この話はそれ以上追求も言及も出来ないのだ。 香は残りのコーヒーを飲み干すと、もう一度美樹にディナーをふいにしたことを詫びる言葉を残して、帰っていった。 曰く、スーパーのタイムセールの時間らしい。 残された3人は、それぞれに撩と香の行く末に思いを馳せる。 そして、いつも美樹は反省するのだ。 自分が如何にお節介なのかを。 こういう時、いつでもニュートラルな立場で寡黙な、夫の優しさを実感する。 今のやり取りでも、美樹が根掘り葉掘り訊ねなければ、香が撩の依頼の件を洩らさなくて済んだはずだ。 自分を通り越して、知らない依頼人と撩だけで片付けられる仕事に、香が傷付いていないわけがない。 それを誤魔化すように、笑いながら溜め息をつかせるようなことをさせたのは、 他でもない、美樹自身のお節介の結果だ。 「ファルコン。」 「なんだ?」 「貴方の優しさは特別だわ、いつもそう思うわ、私。」 「···そう思うなら、あいつらのことは少し放っておいてやれ。遠くから見守るのも優しさだ。」 「そうね。」 そんな夫婦のやり取りに、今では唯一の客となったミック·エンジェルが異を唱える。 しかし、彼の言い分は、いつだって正論のように聞こえて自分都合だったりする。 「No、No、No それは違うね。イジュウイン夫妻。」 「どうして?」 「人にはそれぞれ役割てものがあるのさ、ミキ。」 「···役割。」 「そう。」 つまりこういうことだね、と言いながらミックは持論を展開した。 ミックが言うには、 ウミボーズは遠くで勝手に見守ってれば良いさ。 ミキはあれこれとお節介を焼きながらも、友人として香を支えていてあげなければいけない。 そして、ボクは。リョウの代わりに紳士的にカオリを慰める係なのさ、むふふ。 ということらしい。 尤もらしい持論だが、最後に厭らしい含み笑いを隠せなかったので、下心は見え見えだ。 最後まで真面目に聴いて損した、と思った美樹の代わりに、夫はフンと鼻で笑って一蹴した。 ミックはどこまでいっても、ミックに違いない。 自分都合の男、それがミック·エンジェルなのだ。 それでも、香の味方には違いない、と美樹は思う。 ここにいる3人が3人とも、香のことを友人として大事に思っている。 そして、撩のことも。 「何か飲む?」 仕方無いので、美樹は喫茶店の女主人という本来の立ち位置に戻って、ミックに訊ねる。 「じゃ、もう一杯おかわりを。」 ミックがにっこりと微笑む。 依頼を抱えているという香の言葉を裏付けるように、確かに撩の姿をこの数日見掛けない。 色々と悩ましいことはあるにせよ、新宿界隈は今日も平和だ。 (つづく)
麗香はその番号をプッシュするまでに、何度か峻巡した。 これまでにも数度、このような状況におかれたことはある。 はじめて彼に頼ったのは、友村刑事の件で警察官の職を辞した時だった。 はじめはただの軽薄で厭らしいナンパ男だと思っていた。 彼は不思議で、いつの間にか人の心を奪ってゆく才能を持っていると、麗香は思う。 どんな時でも冷静で、深刻な場面で冗談を言いながらもしっかりと状況判断をしている。 その鍛え上げられた逞しい体も、無意識に放つ男性的な色気も、何もかも。 一度、魅力的に思えたら、もう気持ちを止めることなど出来なくなっていった。 たとえ彼が誰かのことを想っていて、それがどんなに真剣なものでも。 その誰かが自分じゃなくても、彼の口から決定的なその事実を聴きでもしない限りは、可能性はゼロではない。 自分でも往生際が悪いとは、麗香も思っている。 今回の仕事(やま)は、非常に深刻な事態に陥っていて、それこそ彼に頼らざるを得ない危険な状況には違いない。 それでも彼へのSOSを少しだけ躊躇わせる麗香の心の揺れはきっと、あの時以来だからかもしれない。 伊集院夫妻の結婚式の日、撩と香の間に何かがあったのだろうことは、今では仲間内でも周知の事実だ。 撩と香の関係が進展することを応援する空気が、仲間内にも蔓延している。 撩に対して報われない恋心を抱いている存在など、空気も同然だと麗香は感じている。 あるいは、自分の考えすぎか、被害妄想か。 あれ以来、片想いはますます苦しさを増し、仲間内での疎外感さえ感じている。 ただひとつ、麗香にとって希望的観測ともいえる要素としては、彼らが未だ決定的な一線を越えてはいないだろうということだ。 たとえどんなに想い合っているとしても、まだあのふたりの間には隙が無いわけではないのだ。 お互いがお互いを想うが故の擦れ違いということもある。 そんなことすら願ってしまう自分に、麗香は正直嫌気が差している。 それでも好きなのだ、冴羽撩のことが。 『どうした?何かあったか?』 そう言って、真剣な眼差しを己に向けてくれる彼が。 自分の置かれた状況に耳を傾けてくれる彼が。 やっぱり、麗香は好きだと思った。 詳しい話を聴かせてくれ、と撩が言うので、地下で逢うことになった。 こんな場合でも、鏡に向かって口紅を塗り直す自分を何処か冷静な頭の片隅で、哀しく思った。 彼の心に、この気持ちの内どれくらいが伝わるというのだろう。 それをリアルに想像することは苦しいので、麗香はそれ以上考えることはやめる。 化粧気の無いあの女(ひと)に対抗する麗香は、逆に化粧で武装する。 彼女にあって自分に無いもの。 自分にあって彼女に無いもの。 何でも良いから、彼の心の琴線に触れてみたい。震わせたい。 『独りで突っ走るんじゃねぇぞ。』 麗香は嬉しかった。 疎外感さえ感じていた片想いの、当の想い人から。 自分は独りでは無いのだと、勇気づけて貰えたような気がした。 彼が単に、依頼の一環でそう言っただけだとしても。 この件に関しては彼に守られ、また、パートナーとして仕事に当たれる。 彼の相棒になるということは、こんな気分になるものだろうかと、 麗香は自分の立場を忘れて浮かれそうになる心を、必死に押さえる。 あ、撩··· ん? ぁ、いいの。何でもない。 一通り話を終えて、早速これから情報収集にあたるという撩が背を向けて射撃場を後にしようとした瞬間、 麗香はつい、引き留めてしまった。 きっと、彼が戻る上の階には彼女がいて、いつもの日常があるのだろう。 そこに彼を返したく無かった。 彼を引き留めて、自分は何を言いたかったのだろうと、閉まったドアを見詰めながら麗香は考えた。 香さんのところへは帰らないで?それとも、香さんには、依頼のこと秘密にして? 言うまでもなく、撩は彼女にこの事は言わないだろうと麗香は思う。 彼の相棒で、彼の信頼を得て、彼に守られる彼女を。 彼は、本当に危険な状況には近付けない。 彼女の知らないことを、撩とだけ共有したいと思う反面、彼女にそれを知られたいとも思う。 撩と自分が彼女を差し置いて仕事をして、それを知った彼女が落ち込む姿を想像する。 泣けば良いのに。 私がこの恋で泣いたのと同じだけ、彼女も泣けば良い。 「サイテー」 広々とした空間に、麗香の声は反響した。 その言葉が誰に対するものなのか、麗香にもよくわからない。 誰かを好きになるということは、とても傲慢でとてもエゴイスティックだ。 恋は苦しい。 麗香は綺麗に紅を引いた唇を、噛み締めた。 (つづく)
「これ、良かったらふたりでどうぞ。」 美樹はそう言って、にっこりと微笑みながら香にその封筒を手渡した。 香の左隣には相棒であるもっこり男が不貞腐れたように珈琲を啜っている。 つい先程、街中での破廉恥なナンパ行為を相方に見咎められて、 手酷い折檻を受けた後、ここに半ば強制的に同伴を求められたのだ。 喫茶キャッツ·アイはいつも通り、閑古鳥が啼いておりママの美樹だけがカウンターの中に静かに佇んでいた。 海坊主は不在で、その理由を美樹が適当に濁したので恐らくは本業の方なのだろうと、撩と香もそれ以上はあえて触れることもない。 ??? 言葉にはせずとも香は、なぁに?これ、といった感じで首を傾げながらその封筒を開けた。 そこには2枚のチケットが入っていた。 どうやら、有名ホテルの三ツ星フレンチのフルコースディナーを食べさせる、というお食事券らしい。 恐らくは値段にすれば、結構高価な代物だ。 「どうして?」 「頂き物なんだけどね、私たちはちょっと行けそうになくって。無駄にするのも何だしね。」 「で、でも。こんな高価なもの頂けないわ。」 「いーの、いーの。結局、行けなくて無駄になるんだったらもっと勿体無いでしょ?」 「ぅう、それはそうだけど···。」 遠慮が先立ってなかなか美樹の好意に甘えることが出来ないでいる香が、躊躇っていると、 それまで興味無さげにふたりの様子を見ていた撩が、茶化した口調で割って入った。 「美樹ちゃんとふたりでデートすんなら、嬉しいのになぁりょうちゃん。むふ。」 「はぁ?アンタそればっか、大概にしなさいよっっ。美樹さんは人妻なんですからね。それも、新婚さんっっ」 般若のような形相で、ふざける撩の顔面めがけて小さな(それでも重量は1tだ)ハンマーを投げ付ける香と、 それを解っていながらしょうもない戯れ言を繰り返す撩を見ながら、美樹は重たい溜め息を溢す。 どうしても彼らは、素直にはなれないらしい。 美樹が結婚式の時の怪我から喫茶店に復帰してからももう半年以上が過ぎ、もう夏も終わろうかというのに。 撩と香の間には何の進展も見られないし、ふたりを纏う雰囲気にも一切男女の機微を匂わすようなものは感じられない。 奥多摩での、派手な攻防のあとに結構良い感じになりかけたらしいという情報は得ているというのに。 美樹は何も変わらない彼らに、やきもきしている。 夫に言わせれば、それは大きなお世話ということらしいけれど、良い歳をした好き合った男女が何年も一緒にいて、 正直、焦れったいというのが美樹の想いだ。 だからこれは、お膳立ての意味も多分に含んだプレゼント、という訳だったのにふたりは終始この調子なので、 盛大な溜め息も吐きたくなるというものだ。 「でもま、しゃーねーか。旨いもん喰えるんなら、たまには相棒同士で出掛けるのも悪くねぇな。」 香の手から、食事券をスッと奪い取った撩がぬけぬけとそんなことを抜かすので。 撩の髪の毛を掴みながら、香の説教タイムが始まった。 勿論、撩も香のほっぺを摘まみながら応戦している。 「ハンタねぇ、はんでしょんなに、偉しょうにゃのよっっ、しょこははりがとうごじゃいましゅでしょうがぁ。」 「おまえの方こそ、俺がデートしてやるつってんだから、可愛くありがとうって言いやがれっっ」 以下エンドレスでふたりのじゃれ愛が続いたので、美樹は苦笑しながらも放っておいた。 問題は遠慮がちな彼女の方ではなくて、天の邪鬼な彼の方なのだ。 表面上の言葉のチョイスがどうあれ、彼が行く気になりさえすれば後はどうにでもなる。 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗ 香は姿見の前で、考え込んでいた。 朝からもう何度目かの黙考は、それでも幸せな悩みと言えよう。 数着の服をベッドの上に広げている。 依頼などで必要に迫られるので、仕事柄、ドレスの類いも無いではない。 有難いことに友人に、香を飾り立てるのが趣味のようなデザイナー女性もいたりするので、その辺は困らない。 それでも、今夜は仕事では無いのだ。 キャッツでのやり取りから数日、約束の撩とのデート(?)の日を迎えて香は悩んでいた。 あんまり本気でドレスアップしても、何だか気合い入ってるって思われても癪だし。 でも、立派なホテルの三ツ星レストランなので、常識程度には身嗜みを整える必要もある。 その辺りの微妙なバランスを考えるコーディネイトなど、素人にはハードルが高過ぎるので、悩んでいるのだ。 ただ単に、あの大食い男と夕飯を食べるだけだ、いつもとおんなじだ、と思っても、香はやっぱりどうしてもあの言葉を思い返してしまう。 キャッツで散々ふざけあっている間に、撩の口から漏れた『デート』という言葉。 そのワードが無ければ、あるいはもっと気軽に考えることが出来たかもしれない。 撩は、『そういう』認識で今夜一緒に出掛けるつもりなのだろうか。 香はそう考えると、妙にドキドキしてしまう。 湖の畔で、撩に『愛する者』と言われた時も同じように、ドキドキした。 香は何かが変わることも正直少しだけ期待していたけれど、結局は何も変わらないままふたりは暮らしている。 こうしてたまに、ドキドキしたり、恋い焦がれたり、悲しくなったり、愛しい気持ちが溢れたりもするけれど。 基本的には、いつも通りだ。 きっと撩が何気無く発した言葉のいちいちに、香はいつだって一喜一憂してしまう。 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗ 香が自室で、悶々とその晩の外出についてのあれこれを考えているまさにその時。 当の相方·冴羽撩は、地下の射撃場にいた。 その数分前に、撩の寝室に繋がった電話機にその呼び出しの報せが届いて降りてきたというわけだ。 撩が射撃場に着いたのとほぼ同時に、電話をかけてきた彼女も地下トンネルを潜ってやって来た。 「ごめんね、撩。急に呼び出したりして。」 野上麗香は急に撩を呼び出したわけだが、バッチリと決まったメイクとファッションは何時なんどきでも隙はない。 撩に対して抱いている好意が、依然として衰えてはいないであろうことは撩にも判る。 端から撩にはその気持ちに応える気は無いのだけれど、彼女が諦めるかどうかなどは彼女の問題なので撩にはどうすることも出来ない。 あくまで撩としては、知人としてフラットにニュートラルに接しているつもりだ。 「どうした?何かあったか?」 撩は麗香を観察し、恐らくは何か深刻な案件を抱えているのだろうことを直感的にさとる。 いつもはにこやかな彼女が、電話でも若干緊張気味に言葉を選んでいた。 それが判ったからこそ、撩は電話を受けてすぐに応じたのだ。 今晩の予定が、一瞬だけ撩の脳裏を掠める。 奥手な彼女と天の邪鬼な自分を、なんとかして盛り上げようとしてくれる友人たちはお節介とも言えるお膳立てを仕掛けてくれるけど。 この際だから、乗せられてみても良いか。という心境になりつつあったことは否めない。 このところ緊迫した仕事も特になく、平和に過ごしていた矢先だ。 (平和ボケってか···) 麗香の用件を聴きながら、頭の片隅ではついそんなことを考えてしまう。 何もない平和なひとときと、相棒との何も変わらない毎日。 それは結局、撩にとっては余りある贅沢なことなのかもしれない。 何も変わらないことを、廻りの連中はまるでいけないことの様にふたりをくっ付けたがるけれど。 殺し屋稼業なんていう物騒なふたりには、平和なこと、何も変わらないこと、生きていること、そんなことだけでも幸せなはずだ。 それなのに、贅沢な望みを抱いたりするから。 少しだけ油断し始めると、こうして緊迫した空気が何処からともなく迫ったりしてくるのだ。 それを撩は、己の業だと思っている。 これまで奪ってきた魂の報いは、目には見えなくともこうして等分に我が身にも還ってくるのだと。 香に対して抱いているのは、確実に愛情だ。 とっくにそんなことは自覚している。 それでも、先に進むことを簡単に捉えることは、撩にはどうしても難しい。 望むと望まざるに関わらず、撩には仕事は選べない。 そういう性質の仕事を躊躇わずに受けることは、自分に課せられた宿命だと撩は思っている。 これは責任だ、今まで生かされてきたことへの。 「依頼、受けてくれるかしら?」 「あぁ。」 「ありがとう、助かるわ。」 「だから、麗香。独りで突っ走るんじゃねぇぞ。」 「うん。わかってる。」 正直、撩には麗香の慕情など鬱陶しいの一言に過ぎない。 気のない相手から、一途に想われることほど気の重いことはない。 けれど、撩にしか出来ない仕事なら、撩は私情は挟まないことにしている。 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗ 麗香との打ち合わせを終えて、撩がリビングに戻ると、香は洗濯物を畳んでいた。 量販店で3枚1000円で購入した撩のボクサーパンツを畳む香は、心此処にあらずといった感じでボンヤリしている。 今夜の予定が、香をそうさせているのが撩にはよく解っているので、 この上、また更に香を困惑させるのは忍びないと思うのだけど、それは仕方の無いことだ。 なぁ。 ん? 今からちょっと、出てくるわ。 え? 今日の予定な、悪ぃけど····キャンセルな。 香の表情が一気に曇った。 撩の胸も激しく痛む。 それでも撩の表情から、何かを覚ったらしい彼女は気丈に気持ちを切り替える。 何かあった? ···。 アタシに出来ることは? すまん、大丈夫だ。 ···そう、わかった。 香は、それ以上は詮索しなかった。 次にはもう、微笑んでみせる。 あ~あ、ご馳走食べ損なっちゃった。 すまん。 いーよ、今度撩の奢りでどっか連れてってくれたら、チャラにしてあげる。 しゃーねーなぁ、じゃ牛丼な。 しょっぱいなっっ(笑) 笑ってくれる相棒は、聞き分けが良いと撩は思う。 そして撩は、彼女に甘えている。 彼女の寛容さと優しさと強さに。 (つづく)
おはこんばんちわ、ケシでっす。 ここ数日、モヤモヤとした断片が脳裏を掠めておるのですが、もう少ししたらハッキリとした形になりそうな気がします。 新しいお話の題材です。 カオリンと麗香さんのライバル模様と、周囲の面々とのあれこれを書けたらな。と思います。 これまで当ブログでは、麗香さんがリョウちゃんを諦める時の経緯ってあんまり踏み込んでこなくって、 どちらかというと麗香さんがとっても物分かりが良いか、もしくは少し性悪チックかって感じになってて、 どうしてもそんな風に描いてしまいがちでワンパターンだったので、 この辺をもう少し掘り下げる事が出来たら面白いかな?と思ったわけです。 でも、まだモヤモヤ。 もう少しクリアになったら、書き始めようかと思います。 でもさ、最終的にはカオリンとリョウちゃんはくっ付くわけなので、麗香さんは失恋すんだけどさ。 そして、麗香さんが身を引くわけだからどうしたって、物分かり良く成らざるを得ないわなぁ。 最後の彼女の足掻き方をじっくり考えたいというか、何ていうか・・・ その結果、カオリンとリョウちゃんの絆が深まるっていう話が書けたら良いなと思います(予定) 仕事の合間に考えてます。 ではまた。
先日、シティーハンターのすべて展に行ってから、改めて原作を読み返しておるケシです。こんばんわ。 そして、判明しました。 前にエスパー魔美ちゃん読んでたら、シティーハンターによく出てくるスクリーントーンが使ってあって、 魔美ちゃん家のダイニングのカーテンと、 シティーハンターの中でトランクスの柄としてよく使われるヤツが完全に一致したって書いたんだけど。 それがどのシーンかまでは、正直調べるのもめんどいなって思ってて調べなかったんですよ。 で、XYZエディションで1巻から読んでると、結構その柄のパンツが出てくるんですけど、ほぼほぼ敵役の皆さんが穿いてらしてですね。 りょうちゃんがそのパンツ穿いてるとこあったはずなんだけどなぁ~~って思いながら読んでました。 そして、とうとう見つけちゃいました。 手塚明美ちゃんがヒロインのお話の中で、明美ちゃんの本音を聞き出すためにりょうちゃんが夜這いをかける振りをするシーンで穿いてました。 やっぱり在りました。ワタシの記憶は間違いではなかった(・e・) 因みに、手塚明美ちゃん回は銀狐が初登場するお話です。 その時にりょうちゃんにやられたのを逆恨みして、その後の銀狐とカオリンのあのお話に繋がるわけで。 非常に重要な伏線なわけです。 アニメ版の手塚明美ちゃん役を、当時おにゃんこクラブだった国生さゆりが声を演じて、その大根っぷりが有名な回でもありますな。 今現在、順調に読み進めて、アルマ王女と侍女のサリナのお話まで読みました。 ここでも、新たな発見が。 XYZエディションで、台詞が一部訂正してあるんです。 以前の版では、マルメス大臣に拉致られたサリナを救出しに行く際に、王女の身代わりとしてカツラを被ったカオリンが、 だぁれが、役不足だって? と、役不足って言葉の誤用があった所が。力不足という本来の意味に書き換えられてた‼ 今更ながら、気が付いてびっくりしました。 いやはや、何回も読んでるのに意外と流して読んでる部分があるなぁって思いますね。あはは。 てか、どの辺りでこの誤用を訂正したのかなぁ? 完全版とかでも訂正されてるのかな? 少なくとも、文庫版では訂正入ってなかったはずです。 めんどいから、調べませんけど。
こんつわ、ケシでっす。 行ってきました、これに↓。  堪能しました、原画の数々。 ミック編と、シンデレラ編はすべての原画をタブレットで写メッて来たので、 後程ファイル整理をして、タブレット上で読む原画シティーハンターを作成しようと思います。 皆様、北九州に行ける方は是非是非、必見ですよ。 実は、ワタシは前回同じ北九州漫画ミュージアムで行われた「2013 北条司&コミックゼノン展」も見に行ったのですが、 その時は、どちらかと言うと表紙や扉に使われたカラーイラストの方が多くて、 実際、漫画原稿は今回の方が多かった気がします。いずれにせよ、死ぬまでに見ておかないと、絶対に後悔しますぜ。 実は、原稿が入れ替えになる9月にもう一度行く予定です。 グッズは、勿論、北九州漫画ミュージアム限定の手拭いとマステと、あとはクリアファイルを購入しました。 手拭いが一番うれすぃ(*´∀`*)お値段も非常にリーズナブルでした。 普段、グッズはどうでも良い派のワタシですが、手拭いとか、的確にツボを押されまして買っちゃいました。 前日に、気分を高めるために原作を読みながら寝落ちしたんですけど、 読んでた部分の原稿も沢山展示されてて、超感激でした。 これからの人も、まだの人も、本当におすすめですよ。 あと、常設展の所でやってた吉田戦車先生の原画展も、感激した~~ ワタシの好きな火星田マチ子とかの原稿もあったし、絵本の原画もあったです。 可愛くて萌え転がったです。  次行ったときも、また手拭い買っちゃいそうな気がする(汗) «追記» そう言えば、感動したことを書くの忘れてた。 天野翔子さん回の、例の膝枕前後の原稿もあったのですが、 あの膝枕のシーンのみ、1ページ丸ごと唯一全くトーンを使わずに描かれてるんです。 凄い量の網掛けを、手書きしてあって、先生のあのシーンに懸ける熱量が伝わって来るというか。 あのシーンが、如何に大切なシーンなのかよく解るんですよ。 写真撮影が可能だった、ミック編とシンデレラ編ですら、そんな原稿は1枚も無かったし、 もしかするとあの膨大な展示のうち、トーンを使わずに描かれてるのってあれだけでした。 それを見るだけでも、一見の価値有りですよ。
...ガム? ポケットに突っ込んだ香の指先に触れたのは、銀色のガムの包み紙だった。 昼間に日課のナンパに出掛けて以降、撩がアパートに戻ったのは日付を越えた後だった。 ここ最近では、そんな風に撩が連絡もなしに帰ってこないということは、殆どなくなっていて、香は撩が帰ってくるまで非常に心配していた。 秋の日に、何が何でも生き延びると誓い合って以降、何が変わった訳でも無いふたりの生活でも、やはり確実に変わったことはあって、 久し振りに撩が夕飯の食卓に居ないということが、香の心に暗い影をもたらしていた。 帰宅した撩は、いつも通りの撩だった。 酒に酔っている訳でもなく、怪我を負っている訳でもなかった。 脂の浮いてテカった額や頬を見て、相当に汗を掻いたのだろう事だけは、香にも見てとれた。 何をしてきたのか、撩が自分から言わない限り、香も訊かない。 その微妙な薄い壁の向こう側は、何となく香には踏み込むことの出来ない撩だけの世界のような気がするから。 香は努めて明るい声を出して、半ば撩の尻を叩くようにして浴室に放り込んだ。 風呂から上がって暑くなるだろう撩に合わせるために、エアコンの設定を22℃に下げた。 香にとって肌寒い室温で、手に取ったのが撩の夏物のコットンのジャケットだった。 ソファの背に無造作に脱いで掛けられたジャケットと、ホルスターに収まった銃を見ると、撩が帰宅したのを漸く実感して香は安堵した。 持ち主が入浴中なのをいいことに、香はこっそりとジャケットを羽織った。 撩自身はあんなに汗を掻いていたのに、不思議とジャケットからは汗の臭いはしなかった。 濃い煙草の匂いの奥に、薄らと硝煙の匂いがした。 ポケットから取り出した銀紙を鼻にくっ付けて、香は嗅いでみる。 薄甘いミントの薫りがした。 子供の頃の香が好きだったガムは、ブルーベリーの味だった。 噛みはじめの濃い味が、口の中でどんどん薄くなっていくのが悲しかった。 ポケットの中にあったのは、その銀紙だけだった。 香は目を瞑って想像する。 銀紙を使っていないということは、撩はきっと噛んだ後の味の無くなったガムを何処かに吐き捨てたのだろう。 コンビニで煙草を買うついでにガムを買う撩を想像してみても、何だかしっくりこないから、 誰かに、1枚どう?と勧められて貰ったという設定で想像してみる。 だとすれば、撩にガムをくれるのは誰だろう。 野上冴子、ミック、海坊主、情報屋のおじさんたちの中の誰か。 それが誰であれ、香の知らない撩の姿を香は想像する。 何年も一緒に暮らして、相棒として働いて、何でも知っているような気がしても、実際には沢山の知らないことがある。 このガムを噛んでいた撩を、香は知らない。 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗ お前は、犬かっっ。 撩が風呂から上がった時に、香はジャケットの袖口をクンクン嗅いでいたから、少しだけばつが悪かった。 撩のジャケットはブカブカで、袖がとても長い。 臭いから洗ったほーがいーかなって思ってただけよ。 気まずさを誤魔化すために、香はわざとぶっきらぼうに可愛くない返事をした。 こういう所が良くないのよね、と香も内心では自覚している。 ワンワンって返事した方が撩は笑ってくれたかな?と、激しい後悔が香を襲う。 このところ、香はこんな風に思いを巡らすことが増えている。 どういう風に振る舞えば、撩が自分のことを女性として意識してくれるのだろうと思い悩む。 せめて一緒に過ごす時間くらいは、撩の穏やかな笑顔を引き出せる自分でいたい。 へーへー、そんじゃ相棒殿に洗って頂きましょうかね。 撩は確かに笑ったけれど、それは穏やかな笑顔というよりは、苦笑といった方が適切な微妙な表情だった。 そんなやり取りの方が、今のふたりには馴染んでいて、あっという間にいつも通りの空気になる。 いつも通りということは、ひどく安心な気持ちをもたらす反面、軽い絶望に襲われる。 カジュアルなコットンのジャケットを、香はいつも洗濯機で洗ってしまう。 クリーニングになど出していたら、勿体無いのでそうしている。 脱水の時間と、干し方にさえ気を付ければ、型崩れを起こすことなくきれいに洗える。 それはまるで、自分たちみたいだと香は思う。 適切な距離の取り方と、近付き方にさえ気を付ければ、最高に居心地の良いパートナーでいられる。 きっとふたりは型崩れを起こして、2度と元に戻れなくなることが怖いのだ。 香は今から洗濯機を回すために、ジャケットを羽織ったままリビングを後にした。 幸いこのアパートの住人は、自分たち以外にいないのだ。 夜中に洗濯機を回そうが、掃除機をかけようが、ハンマーで床に大穴を開けようが、苦情は出ない。 脱衣所で洗濯機の中にジャケットを放り込んで、お洒落着コースにセットしたら、台所から冷えた缶ビールを持ってくる。 リビングで涼んでいる撩に渡したら、きっと撩は腹へったって言うだろうから、 そしたら香は面倒臭そうな振りをして、しょうがないなぁと言いながら、 撩のためにとっておいたラップの掛かった夕飯を、温め直すのだ。 ビールとご飯を一緒に出さないのは、香の作戦だ。 少しでも多く、撩とのやり取りを楽しめるように。 いかにも面倒臭いという素振りを見せながら、本当は楽しんでいる。 可愛く甘えることが苦手な質なのだ。 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗ 撩は風呂上がりに、台所を経由してビールを持って行こうかと考えて、躊躇した。 きっと撩が何も持たずに手ぶらでリビングに戻れば、香がそれを持って来てくれるだろうと予測はついた。 そして現に今、ジャケットを洗うと言って脱衣所に向かった彼女の次なる足取りは、台所へと進んでいる。 多分、彼女は冷蔵庫の中から、キンキンに冷えた缶ビールを持って来て渡してくれるだろう。 どちらも、素直じゃないのはお互い様で、素直じゃない甘え方までそっくりなのに無自覚だ。 撩は濡れた髪をタオルで乾かしながら、ローテーブルの上のそれに気が付いた。 小さなそれを摘まみ上げると、知らず口許は綻んでしまう。 ごめんな、リョウ。毎度、厄介事持ち込んで。 彼女のことを思ったら、オマエの身を危険に晒してるオレなんか恨まれても文句は言えないんだけどさ。 ミックはそう言いながら、薄い板状のそのガムを撩に手渡した。 この世界から足を洗ったとはいえ、こうしてたまに、昔馴染みに付け回されることも皆無じゃないミックを、撩は軽口を叩きながらも援護してくれる。 口では何だかんだ言いながら、同じ薬に冒されたことのあるミックへの仲間意識なのか、 ミックの引けない引き金に、あれ以来代わりに指を掛けてくれるのはいつも撩だ。 別にぃ、オマエが何処で野垂れ死のうが、俺的にはどーでもいんだけど。 オマエが死んだら、アイツが悲しむからな。 撩がそう言うと、ミックは小さく笑った。 撩の言うアイツとは、勿論、香のことだ。 ミックを狙う輩を、昔懐かしいコンビネーションで退治した男ふたりは、 狭苦しいミニの車内でそんなやり取りをしていた。 ハンドルを握る撩の隣の、いつもの香の指定席にはミックが座っていて、ふたりは珍しく煙草を吸わずにガムを噛んでいた。 撩が剥がした包み紙を、ミックはダッシュボードの上で何やら折り畳んでいる。 オレ達、二人とも。たった独りの女のために、命を粗末に出来ない身の上になっちゃった訳だ。 そう言って、ミックは如何にも楽しげに眉を持ち上げて見せた。 撩はフンと鼻を鳴らしながら、ゆっくりとブレーキを踏み込む。 早く帰りたい気持ちとは裏腹に、さっきからやたらと信号に引っ掛かる。 しょうがねぇな、惚れた弱味ってやつだろ。 ヘェ、前と違って否定はしないんだ? シュゾクイジホンノーじゃないらしいからね。 ああ。 撩は苦々しい顔をして、窓の外に噛みはじめたばかりのガムを吐き捨てた。 代わりに、胸ポケットから煙草を取り出して吸いはじめた。 甘ったるいガムなんかより、よほど煙草の方が撩の気分にはフィットしている。 信号が青に変わるのと、ミックの折り紙が終わるのはほぼ同時だった。 撩がチラリとミックの方へ視線を遣ると、ミックはウィンクをしながらそれを摘まんで見せたのだ。 上手いもんだろ?これ、カオリに折り方教わったんだよ。 ミックは銀紙じゃない方の包み紙で、不格好な折り鶴を作っていた。 いつの間に、香とミックがそんなことをやっていたのか知らない撩の眉間に、無意識に縦皺が刻まれる。 いつだったか、ミックがくれた銃弾のネックレスの御礼にと香が午後のお茶を飲みながら、教えてくれたのだ。 折りながら願を掛けるのだと。 ミックの無事を祈って、と香がその時に折ってくれた黄色い折り鶴を、 ミックはオフィスのデスクの上に、大切に飾っている。 オマモリなんだってさ。 そう言って微笑んだ腐れ縁の悪友の顔を思い出しながら、撩は指に摘まんだ小さなそれを眺める。 銀色の小さな折り鶴は、ミックの折ったあれよりも上手だった。 香が撩の入浴中に、何を祈りながらそれを折ったのか、撩には解らないけれど。 たとえ解らなくても、愛おしいと思った。 今はまだ、抱き締め方の解らない撩だけど、いつかきっと彼女の心ごと全部丸ごと抱き締めて彼女と生きてゆけたらと願っている。 撩の願いはそれだけだ。 ふたりの男の本当の御守りは、実は彼女自身だったりする。
おまぁ、馬鹿だな。 撩がそう言って、余裕綽々の顔をして胸ポケットから取り出した煙草に火を点けようとしたから、香は正直ムカついた。 いつかの出来事を思い出した。 植え込みの陰に隠れて覗き見した香が見たのは、撩と教授の遣り取りだった。 『あのバカ、俺に惚れてもうメロメロだからですよ』 確かに、香が撩に惚れているのはあの当時から事実なので間違いではない。 でも、惚れられている当人がそれを言うなんて、無神経にもほどがある。 2週間に亘って携わっていた依頼が、無事何事もなく遂行された。 身の危険に迫られた依頼人にも、数ヵ月振りに安穏の日々が訪れて晴れやかな表情で帰って行った。 晴れやかついでに、香への恋心の告白及び交際申し込みというおまけ付きで。 冴羽商事にしては珍しく、依頼人は男性だった。 依頼の合間に何気ない話題を振ることは互いにあったし、香はいつも通りの受け答えをしたまでだ。 依頼人は独身で恋人もいないと言い、香は撩との関係を訊かれたから仕事上の相方だと返した。 『それならば、私生活では僕の相方になってくれませんか?』 いつも通りの受け答え過ぎて、そんな話すら忘れていた香にとってそんな提案は甚だ迷惑なだけだ。 すみません、そのお気持ちにはお応えできません。 真夏の陽射しを遮るものの無い冴羽アパート屋上で、香は暑さからくるのとは別の嫌な汗をかく羽目になった。 悪い人ではない、好い人なんだけど、むしろちゃんとした立派な人なんだけど。 残念ながら、そういう問題じゃ無いのだ。 やっぱり え? 貴女にとって、冴羽さんが特別な人には違いないんですね。恋人ではなくても。 その人はそんな風に言って、笑った。 何となく薄々は判っていたと。 けれどこの先もう逢うことも無いのなら、一か八か当たって砕けてみようと思ったのだと。 依頼人を送り出し、何事も無かったように家事を片付けて、香はまた屋上にいた。 陽は随分翳り、生温いけど風も出てきた。 あっさりと終わった話だし、別に香にしてみれば痛くも痒くも無いんだけれど、後味は悪い。 他人の好意を無下に断る。しょうが無いこととはいえ、それは香の気持ちを重くする。 依頼人と香との遣り取りを、どの辺りから撩が見ていたのかは知らないけれど。 独りになりたい時に限って、撩は嫌がらせのように香を放っておいてはくれない。 物思いに耽る香の隣に立って、そう言ったのだ。 お前は馬鹿だって。 折角の超優良物件だったぜ?アイツ。もったいないお化けが出ちゃうよ、カオリン。 ニヤニヤ笑いながら関係無いくせに、何でそんな風に言うのだろうと香は思う。 彼が遣り手の所謂エリートで、年収が良いからだろうか? 顔も今風の2枚目で爽やかな好青年だからだろうか? 香のことを好きだと言ってくれたからだろうか? そんなこと、香にとってはひとつも重要なことじゃ無いというのに。 俺みたいな男に惚れてさ、馬鹿だなお前。 確かに香は撩に、惚れてはいる。 だから、撩以外の相手など眼中には無い。 けれどそれを余裕ブッこいた張本人から言われると、軽く殺意が沸くのは自分が短気だからではないと、香は思う。 奥多摩の湖の畔で、甘いことをほざいた自分を棚に上げて、撩は相変わらずだ。 香には指一本触れようともしないし、あれ以来何の進展もない。 そのくせこんな風に、妙に自惚れ屋で自信家だ。 そんなに自信があるのならいつでもかかってこいよ、と香はいつだって臨戦態勢だというのに。 勘違いしないで?別にアンタの為じゃ無いわ。 そう言った香の瞳は澄んでいて、まるで深い湖の底に吸い込まれそうな錯覚を、撩は覚えた。 目を逸らそうとしても、出来なかった。 彼女が美しいことくらい、撩にももう良くわかっていることだけど。 こうして改めて対峙すると、その凛とした美しさに、撩はいつも飲まれそうになる。 馬鹿馬鹿しい戯れ言で本心を覆い隠す自分を、全て見透かされているような気がして撩は怯える。 こんな風に自信の無い撩の内面など、香は知らない。 撩は虚勢を張って、火を点けた煙草を深く吸い込む。 煙草の匂いに混ざって、空気には夏の宵の匂いがした。 なんて返せば良いのかわからなくなって、撩は煙草に逃げた。 撩も香も、正面切って相手を見据えたのはホンの短い時間だった。 自分から仕掛けたしょうもない遣り取りは、自分の首を絞めている。 本当を言えば、彼女の思考の中に1秒でも他の男の存在があるのが許せないのだ。 たとえあっさりと、彼女に振られた男だとしても。 ほどなくして、香の表情が柔らかく緩む。 小さく息を吐くように笑ったのは、諦めとも自嘲ともとれる。 互いに屋上の柵に凭れて、輝き始めた新宿の街と薄紺色に染まり始めた空のコントラストを眺めていた。 自分の為よ、アンタを好きな自分の為。 だから、香は撩のせいにするつもりはない。 この数年間、撩の傍に居て、他のどんな男の人にも興味が湧かないことも。 きっとこの先、たとえ撩との関係が進展しなくても、時間を無駄にしたなんて言わないから傍に置いて欲しいと思っている。 奥多摩での撩の言葉を信じても良いのなら、何年掛かっても良いから撩の家族になりたい。 ただそれだけだ。 撩は短くなった煙草を、コンクリートで踏み消した。 明るい夏の夜に、彼女は良く似合う。 袖の短い麻のシャツから伸びる彼女の華奢な二の腕を見ると、撩は無性に抱き締めたくなった。 後悔しても知らねぇぞ。 後悔なんかしないわ。 どちらからともなく近付いたふたりの距離はゼロになり、唇が重なる。 気の早い星たちが、明るい夜空で小さく瞬いた。 久々にお題やってみた(*´∀`*) 二次創作するしかねぇな、やっぱり。
こんちわ、ケシでっす。 やっと某A○Hのセカンドシーズン16巻(最終巻)読みました。 実は、買ってても13巻から読んでなくて本棚にぶっ込んでたんですけども。 (13巻のカラスが喋ったのと、猫やらカラスやらガンガンぶっ殺す辺りで、辟易してまして。) 十数年間に亘る公式DV(10qbさん命名)の結末を見ずして、あの作品を否定も肯定も出来ないなと思いまして。 しょうがなしに休日の貴重な時間を割いて読んでやりましたよ。(上から目線) もうね、この歳になるとさコミックスを買うくらいの金程度なら惜しくないのさ。 惜しいのはどちらかと言うと、読む時間の方ね。 感想は、ただただ ふ~~~ん としか。 最終回に向けて、怒濤のように辻褄合わせにきたね。 シャンインの二十歳の誕生日に接触を試みたカメレオンに、CHの銀狐エピを彷彿とさせるりょうちゃんの発砲シーンとか。 14巻~最終巻にかけて、なんか正直ちょいちょいCHファン受けも気にしてんのかな?って感じちゃった。 別に気にせず書きたいよーに書きゃ良いじゃん、とそれはそれで微妙な気持ちになるね(苦笑) なんか、台詞の随所に二次創作でも読んでんのか?って勘繰ってしまったですよ。 どこがとは具体的には言えないんだけど。 結局、最後まで読んで思ったことは、私たちファンは勿論だけど、 誰より北条先生自身が、シティーハンターという作品の呪縛から逃れられなかったんじゃないかということ。 それだけ、前作のシティーハンターが大きな作品過ぎたのかもしれないってこと。 それを越える何かを産み出さないといけないプレッシャーに加えて、 北条先生自身がジャンプに連載していた頃とは、立場、責任の在り方が変わってしまったこと。 そういう諸々の事情が、AHを純粋に新たな物語として読むことを難しくさせてたのかなって、感じました。 何れにせよ、終わったね。 そして思ったね。あの作品は、シティーハンターとは関係ない。 公式では、あれをパラレルだっていうらしいけど。 パラレルですらない。 もう一度言うけど、パラレルじゃない。そういう、都合の良いワードを使わずに、逃げないで欲しい。 あれはれっきとした別世界の別作品だよ。もっと胸を張れば良いのにね。 混ぜるな危険、という標語でも掲げといたらいーよ。 きちじょーじのご立派なビルディングに。 ただ、ワタシの個人的な好みとして、あの作品には魅力を感じなかった。 シティーハンターを越えることは無かった。 あの作品の中には、ワタシの求めるりょうも香も居ないし。 それを凌駕してくれる魅力的なヒーローもヒロインも正直存在しなかった。 観たいのは完璧超人で無感動な可哀想な女の子じゃないんだよ。 残念だけど、シャンインに感情移入は一切出来なかった。魅力も感じなかった。 最後まで、あの娘を突き動かしてた衝動は心臓じゃん?香じゃん? 最後、辻褄合わせるみたいに、やたら香に似てきた、もう本当の娘と遜色ないって演出してたけど。 読者はそういう風には読み取れないよ。少なくとも、一読者のワタシは読み取れなかった。 だらだらと冗長に、香に似た何かを作るために香は死んだの?なんだそれ。 ただの感動ポルノと何が違うのだろう。 でも、そのAHが好きな人も居るんだろうから、プライドを持って別作品だと表明していただきたい。 パラレルだとか中途半端に謳って、昔の作品の力に頼らないでいただきたい。 そして、改めて。 別にそれで良いんだと思う。 色んな作品を描いてる漫画家さんの、そのすべてのお話のファンである必要も無いし。 描いてる方も、全部が全部好かれる必要も無い。 同じ次元で語るのも烏滸がましいけれど、二次創作でも多かれ少なかれ同じことは言えると思う。 何かを産み出すということは、きっとそういうことだ。 常に賛否両論あって、他人の心を動かしている。 ワタシはこの十数年間良くも悪くも、充分AHに心を揺さぶられ続けてきた。 そういう意味では、北条先生の掌の上でまんまと踊らされてしまったし、なんならダンスを楽しみました。 次は、CHでもないAHでもない、新しい北条作品が読めるのかな? それに期待したいなって思ってます。 あと、この間荒ぶった某公式二次創作の転生物語、カオリンは死なないみたいで安堵しました。 やっぱ、踊らされてんな。チクショー( ・∀・)
こんちくわ、ケシでっす。 シティーハンターとは微妙に関係があるような無いような話です。 昔から、藤子F不二雄先生の作品のエスパー魔美ちゃんが好きなのですが、 (小学生の頃に、アニメを観てました。) なんか今年が原作40周年&アニメ化30周年らしくて、コミックスの新装版がてんとう虫コミックスから販売されているんです。 全9巻で今現在6巻まで刊行中なので、即購入いたしまして6巻まで通して読んだのです。 そこでね、気が付いたことがありまして。 魔美ちゃんとパパとママは仲良しな家族で、平和に暮らしているんですがそのお宅のダイニングのカーテンの柄がね。 シティーハンターのある部分と完全一致したんです。 えぇ、スクリーントーン的に。 以下、追記にて。 ↓↓↓
 このトーンは、当時流行っておったのでしょうか? シティーハンターの作中でも良く見た気がするのは、ワタシだけだろうか。 色んな物に使われてた気がするけど、りょうちゃんのパンツの柄でも使われてた気がします。 (さすがに原作中からそれを探し出す根気は、ワタシには無かった。) エスパー魔美、面白いですよ。 今読むと、魔美ちゃんとコンポコの可愛さと、魔美ちゃんと高畑さんのいちゃラブが満載でヤバい。 ケシ子、一押しですよ。
ちょっと口が悪いので、折り畳んでます(テヘペロ) 最近、ちょっと逃げ恥の恋ダンスを覚えるというような仕事がありまして(←どんな?笑) 膝が悲鳴をあげました(年齢) しかし、お陰様ですっかり恋ダンス踊れるようになりました。
おはこんばんちわ、ケシでっす(*´∀`*)お久し振りでございます。 唐突ではございますが、ワタシはカオリストなんですよね。 けど、りょうちゃんも好きだから、カプ萌えでもあります。 基本的に、カップリング混ぜ混ぜはあまり好まないけど、他人の萌はどーでもE派だったりします。 色んな楽しみ方があり、それもまた一興でございます。 ワタシにとってのカオリンの魅力って、一言では言い表せないのですが、その内の1つということで語らせて頂きたい。 カオリンって、りょうちゃんに憧れて、その背中に少しでも追い付きたくて、相棒として認めて貰いたくて、必死に頑張ってるってイメージなんすけど。 (因みに、銀狐の回などから垣間見える心理描写などから、そう判断してます。まぁ、他にもあるけど。) りょうちゃんの凄さを、誰よりも傍で見て感じて心酔してて、世界一りょうちゃんのことを信用してる。 そんな存在がカオリンだと思うのですが、その反面。 誰よりも、りょうちゃんのことを特別視していない人だとも思うのです。 世界一の殺し屋だとか、シティーハンターだとか、特異な生い立ちだとか戸籍が無いとか、 そういうの関係無しに、ただ冴羽撩っていう一人の人物と真剣に向き合ってるのがカオリンというか、 そういうのは多分、りょうちゃんにとって初めての相手で、だからこそりょうちゃんの心も動かすことが出来るのだと思うし、シティーハンターというお話が成り立つのだと思うのですよ。 そこがね、一番の肝だと感じるんですよね。 だからね、何が言いたいのかというとね。 はじめから、 シティーハンターのりょうちゃんを好き好き愛してるファンです的立ち位置な方がね、転生して相棒の座に収まってもね。 それは違うやろって思うわけですよ。 例えばその転生しちゃったキャラが、どんなに頑張ってりょうちゃんをアシストしても、 りょうちゃんのことを愛していても、決して彼からの愛を乞うてはいけないのがカオリンのポストな訳ですよ。 それでも、そんなことを考えもせず、形振り構わず邁進する直向きさが、カオリンの魅力だと思うのです。 果たしてあの設定で、そんな原作の良さを踏襲した物語を描ききれるのか甚だ疑問だなぁ、と思うわけですよ。 なんか、こう言っちゃなんですが。 「この設定とこの絵のクオリティなら、同じようにりょうちゃんが好きで未だに二次創作とかやってるファンも納得すんべ」 というような、安直な意図が読み取れる。 納得するかよ、バァ~~~~~~ッカ。 こちとら、カオリストなんだよっっ。 舐めんなよ、⚪⚪⚪⚪‼(自主規制)その、サエバスキーなアラフォーOLさんが憑依してる間、カオリン本体は何処で待機してるんでしょうか? カオリンは二度死ぬ、ですか? 舐めんな、マジで。 一応、公式に発表されている設定では、電車に轢かれて死んじゃうそのキャラの前に現れたのは、撩と 香って書かれてるけど、生きてますとは書いてねぇ。 てかさ、大概でキャラ殺すの止めにしませんかね?安易にポックリ殺り過ぎな。 ※あくまで、個人的な戯れ言に過ぎません。実在する人物、団体、作品に対する誹謗中傷の意図はありません。悪しからず※ こりゃ、二次創作するしかねぇわ。 荒ぶってごめんなさい(*´∀`*) あはは。
おはこんばんちわ、ケシでっす。 本日、4月14日は当ブログの開設日です。 今日で丸5年が経ち、6年目に突入致します (*´∀`*)ノシまさかこんなに続けることが出来るとは、思ってもいませんでした。 お話の数としてはもう充分に書いたとは思いますが、 未だ突如として書きたいことが溢れたりもするもので、 今後もこんな感じで気ままにやらせて頂ければ、幸いです。 しかも、この開設記念日にもしかするとカウンターが30万Hitを記録しそうな感じです。わお、ミラクル。 はじめは、こんなにも沢山の皆様に閲覧して頂けるようになるなど、想像しておりませんでした。 ひとりで楽しんでいた、北条先生のシティーハンターという作品を、 同じくシティーハンターが大好きな方々と、一緒に共感するという楽しみを知って、 とても幸せです アハハ(○´∀`人´∀`○)ウフフ特別なことは何も無い、個人の妄想駄々漏れブログですが、 それなりに愛着と原作に対するリスペクトを持って続けてきたつもりです。 その気持ちは、きっとこれからも変わりませんし、何よりカオリンが大好きです ( *´艸`)←ここ重要勿論、りょうちゃんも好きです。 しかしこの1~2年は、リアルが充実し過ぎておりますので(真実)更新の方はスローペースとなっております。 更新を待っていてくださる方々には、申し訳なく思っておりますが。 ケシは多分、忙しくも面白おかしく何処かで生きておるのだろうと、生温く見守って頂ければ幸いです。 思えば5年前には、更新を続けてくださっていた書き手様は、本当に数えるほどしかいませんでした。 ワタシが二次創作の世界を知って、そして沢山の作品を見せて下さった大半の方々は創作をやめてしまった後でした。 それならば、自分でやろうと思ったのが始まりでした。 自分で思う、自分の中にある、りょうちゃんとカオリンと新宿の面々を書いてみようと思いました。 書き続けていたら、いつのまにか5年経ってました。 その間、原作の30周年のアニバーサリーがあり、上川さんのドラマがあり、 沢山の書き手様が戻ってきて下さったり、始めて下さったりで、今は半分ROMに戻って楽しんでます。 中学生の時に初めてドキドキしながら原作を読んだあの時の気持ちと、 同じ気持ちを遠い何処か他の場所で味わっていた皆様に、楽しいって思ってもらえるようなお話を、 これからも書けたらいいなぁ、と思います。 上手い文章など書けないし、はなから書く気も無いのですが、 下手の横好きなので楽しいのが一番かと思っております。 軽率に書き殴っておりますので、どうか皆様も軽率に楽しんで読んでってくださればありがたいです。 それと、図らずも1年前の今日、熊本地震があった日です。 きっと熊本からアクセスして下さってる方もおられるでしょうし、大分の方もおられるでしょう。 ワタシはあの日の昼間、イチゴ狩りをして天気の良い春の日を楽しんでいました。 その夜、ワタシの住む街も結構揺れました。 天災ばかりは予測などつかないし、それは幸せな平凡な日々のすぐそばにあるのだなぁ、とこんなことがある度に思います。 被害に遭われた方に対して、口先だけのお見舞いの言葉などワタシには言えません。 だから、熊本の物を買おうと思います。 大分や福島や宮城や岩手や新潟や神戸の物を買おうと思います。 これから先、遊びに行ける機会があれば行こうと思います。 生きている今を楽しもうと思います。 自分の幸せを追求したあとに、それが他の誰かの幸せでもあったらベストだと思います。 そんな風に生きていこうと思います。 ずっと昔に、熊本城に遊びに行ったことがあります。 今はあの立派でカッコイイお城が、カッコ良く再建されるのが楽しみです。
横向きに寝た背中に、同じように横になって舌を這わせる撩が、 執拗に愛撫を続けながらもヘッドボードの避妊具に手を伸ばす気配を香は感じる。 左手は香の左胸を掬い上げるように包み込みながら、人差し指と中指にその固くなった尖端を挟み込み。 香の隠された性感帯でもある背骨に沿って、器用な舌が繊細なタッチで舐め上げる。 そして撩の右腕は、沢山の意味不明なスイッチの並ぶレトロ感満載のヘッドボードへと伸びる。 避妊具はそのスイッチが並ぶすぐ横に、ファンシーなデザインの小さな籠(一体何の為の籠なのか不明だ。避妊具を入れる為といえば、それ以外に用途は思い付かないほどに。)に入れてある。 薄いラテックスの避妊具が、2回分。 小さな個包装を、更に包む為の厚紙で出来たケースも不思議だと香は思う。 厚紙には不自然に花の絵など描かれているけれど、使い道と使用する場所はあからさますぎて、今更感満載だ。 それよりも香は、過剰包装の方が気になる。 ともあれそんなことは大抵いつも、情事が済んだ後に思うことであり、今現在撩の手と舌によってジリジリと追い詰められている香の脳内は真っ白だ。 ただただ撩によってもたらされる快感だけが、香を埋め尽くし、翻弄している。 ラブホテルなどというものを利用するのは、ごく稀なことだ。 何度か撩に連れられて利用したことがあるけれど、いつも不思議な場所だと香は思う。 墓参りの帰りに、2人は郊外に佇むそのホテルに入った。 どちらからともなく求め合う熱量で浮かされて、撩が道を逸れてハンドルを切っても、 変なゴムのピラピラの下がったエントランスをミニが通過しても、珍しく香は黙りこくって容認した。 というよりも、一刻も早く繋がりたくて2人は焦っていた。 兄の眠る墓に手を合わせる香の背後で、撩が煙草に火を点けたのがわかって香は顔を上げた。 それはいつものパターンだ。 撩はいつも、途中まで吸って火を点けた煙草を、香立ての線香の隣に置く。 数年前に洋式の墓石の前に香立てを用意したのは香だった。 兄が死んだ後、全てのことを撩に任せたので、兄が眠る墓地はカトリックの教会の一画だ。 それでも昔から槇村家の宗派は浄土真宗らしいので、仕方の無いこととはいえせめて線香くらい上げられるようにと、香が仏具屋で購入した。 不思議な組み合わせだけど、ここを訪れるのは彼ら以外には野上冴子だけなので問題はない。 撩が香の横に並んで煙草を供えたのを見届けてから、香は立ち上がった。 撩はしゃがんだままで、元相棒に軽く手を合わせる。 その背中を見詰めていると、香はざわざわと妙な感覚が胸の内に広がるのを感じた。 撩の広い背中に刻まれた無数の傷痕を、今では香も暗記するレベルで覚えている。 いつものようにその細かな皮膚の凹凸に、口付けて指で辿りたい。 これは明らかに、欲情というやつだと香は自覚した。 自覚したら途端に、抑えは効かなくなった。 短い弔いを終えた撩が振り返って驚く程度には、顔に出ていたらしい。 香は今すぐに、撩に触れたいと思って手を伸ばした。 撩はそういう空気を読むことには長けているので、迷わず香の腰を抱き寄せた。 欲しいものを言葉もなしに与えてくれる愛しい男の首に手を回しながら、香は口付けをせがんだ。 誰もいない寂しい墓地で、兄の眠る墓石の前で、2人はキスをした。 予定外に深まった口付けは、2人の導火線に火を点けるのに一役買った。 悪い子だなぁ、兄貴が見てるぞ。 うん、叱られちゃうね。 ね、りょお。 ん? したい。 その一言でもう一度、2人は深くキスをした。 キスをしながら撩が帰り道に点在するラブホテルを脳内で素早く検索したのは、言うまでもない。 という訳で、2人は家に帰り着く間も待てずにこうなった。 時間的に休憩コースが選べなかったので必然的に泊まり料金となったが、そんなことに拘る空気は2人の間に微塵もなく。 撩は適当に空いている部屋を選んでボタンを押した。 薄いゴムの膜を着けている間にも、それと感じさせないテクニックで愛撫は続ける。 横を向いていた香を仰向けに寝かせ、首筋にキスを落とす。 首筋から耳の周辺も、香が悦ぶポイントだ。 口付けて舐め上げて吐息を絡めながら、下腹部を彷徨っていた撩の手は核心へと伸びる。 薄目の上品な叢を掻き分け花芽を摘まみ、優しく撫でて慰めながら、そこが充分に潤んでいるのを何度も確認しながら解してゆく。 撩の誕生日は、新宿のあの2人の部屋で細やかながらお祝いをした。 相変わらず依頼の少ない冴羽商事は、至極平和で。 生きて一緒に誕生日を過ごすといういつもの約束は、今年も恙無く履行された。 香の誕生日であるこの日に、墓参りに行くのは今となっては2人の恒例行事とも言える。 恐らくは、誰より早く訪れたのだろう大きな深紅の薔薇の花束が供えてあって、冴子が来てくれたことが窺えた。 毎年、忘れずにいてくれる彼女は、2人にとっては今では大事な仲間のひとりだ。 撩の誕生日は、生きて一緒に過ごそうという2人の生の象徴だけれど。 香の誕生日はある意味、死が2人を結び付けた日でもある。 だからなのかどうかはわからないけれど、種族維持本能が如何なく発揮されて、香は撩を渇望した。 今生きている撩のかたちを、今生きている己の手で触れて確かめたかった。 香は自分の中で撩が堅さを増し、速度を早めたのを感じながら何度目かの絶頂を迎えた。 堅くなった撩が爆ぜるのを感じると、無意識に力が入って撩を甘く締め付けた。 お、起きたか。 ホンの少しだけ微睡んでいたらしい。 撩が缶ビールのプルタブを起こす音で、香は覚醒した。 香が目蓋を開ける音でも聞こえるのかというくらい絶妙なタイミングで、撩はそう言って香を見ると微笑んだ。 撩はベッドの外で、裸で、腰にバスタオル1枚だけを巻いて、腰に手を当ててビールを飲んでいた。 ビールを嚥下するのに合わせて動く撩の喉の骨にボンヤリと見惚れながら、香は体を起こした。 結局、きっちり2回分の避妊具を使ってようやく落ち着いた気怠い体には、撩が残した鬱血痕が散りばめられている。 色白の香の肌にキスマークは、特に目立つのだ。 撩は片手にビールを持って、香にはオーバーサイズのダンガリーシャツを手渡した。 数時間前まで自分が着ていたものだ。 香も何のてらいもなく、薄い煙草と柔軟剤が薫るそのシャツを羽織る。 今、湯ためてるし、泡のやつ入れといたから、一緒に入ろう。 うん。 どうやら撩は香が眠っている間に、風呂の準備をしていてくれたらしい。 こういうホテルに何故か必ず置いてある泡風呂ができる入浴剤を、 香が喜ぶのを知っていてそんな風に言う撩が可愛いと思って、香は小さく笑った。 おまぁも、なんか飲む? 大きな声で撩に啼かされた香の声が、若干掠れている。 撩は冷蔵庫を開けて、一通りのラインナップを確認する。 泊まり料金を払っているので、時間を気にする必要は無いけれど、風呂に入ったら撩はここを出るつもりだ。 香からのおねだりは理性を揺るがす不可抗力というやつで、仕方なくこんな所に入ったけれど。 流石に彼女の誕生日をこれだけで終わりにするのは、撩が嫌なのだ。 しっかりと祝ってやりたい。彼女の兄の分まで。 実は、家に帰るとサプライズでプレゼントを用意していたりする。 コーヒーが飲みたい。 あいにく、冷蔵庫の中に缶コーヒーは無かった。 その代わり、部屋の片隅にポットと緑茶のパックと、インスタントコーヒーと砂糖とミルクとカップと湯呑みが一通り用意されている。 コンドーム2回分と同じく、部屋料金に含まれたサービスだ。 コーヒーって、インスタントしか無ぇよ? 良いの、りょおが淹れてくれたのが飲みたい。 香の言葉に、撩は思わず笑みを深くする。 初めて2人が出逢ったあの時、彼女は撩の淹れた濃いインスタントコーヒーを吹き出した。 勿論、ブラックコーヒーだから噎せた訳じゃ無いことくらい、撩にもわかっていたけれど。 あの時の香は、可愛かった。 今はただ可愛いだけじゃない、2人には言葉では表せない歴史があって今がある。 撩は香を、心の底から愛している。 ミルクと砂糖はどうする? 入れて欲しい、うんと甘いやつがいいな。 なんか、それエロく聞こえんの俺だけ?(笑) はぁ?バカじゃないの。りょおのエロ親父。 香が掠れた声でクスクスと笑うのが撩は最高に幸せなので、ついいつもこうしてくだらないことを言ってしまう。 でも、あながち間違いでは無い筈だ。 うんと甘いやつを挿れてやったら、あんなに悦んでいたのはつい数十分前のことだから。 はいよ、お待たせ。シュガーボーイ。 そう言って、ベッドに座った香に撩は甘いミルクコーヒーの入ったカップを差し出した。 香が受け取ったのを確認すると、撩もベッドに上がってコーヒーを飲む香を背中から優しく抱き締めた。 香は昔、唯一の家族を誕生日に亡くしたけれど、今はもうこうして優しく包んでくれる新たな家族が出来た。 死んだ兄が出逢わせてくれた愛しい人は、いつも何も言わなくても香の一番欲しいものをくれる。 愛しいと思う世界で一番尊い感情を、香にいつも思い出させてくれる。 こうやってミルクコーヒーを淹れて香を甘やかしてくれる。 香が力を抜いてその胸に凭れても、撩の胸板は香の背中を優しく受け止めてくれる。 おめでとう、香。 香が幸せそうに小さく笑う。 撩にも大切な存在が出来て、ようやく誕生日を祝う意味がわかった。 生きていてくれる、生まれてきてくれた、ただそれだけで幸せになれる存在が己の腕の中にいる。 2人は、無駄にでかい浴槽に湯が貯まるまでの暫しの間、この穏やかな時間を噛み締めた。 ちょっと早いけど、書いちゃったからアップする(*´∀`*) カオリン、おめでとう。
「なぁ、教授?俺は何処から来た何者なんだ?」 黒い瞳で真摯な眼差しを向けるのは、推定年齢15にも満たない少年だった。 身体ばかり大きく育った彼の面差しはまだまだあどけないベビーフェイスだ。 歳上の逞しい男達ばかりの世界にあって、彼は周囲にそう呼ばれることを嫌がる。 たとえそれが、男達の親愛の表現だとしても、思春期の少年は子供扱いが嫌いらしい。 撩は、聡明だ。 そのキャンプで男達から『教授』と呼ばれる軍医の男は、撩が拾われて来た頃からを知っている。 恐らくは、己と海原神と同じ日本人であろうこと。 その当時、2歳~3歳位であったろうこと。 幼子が覚えているのは、「りょう」というファーストネームだけで、身に着けているもので彼の素性を明らかにするものは、何も無かった。 だから、年齢ですら推定でしかない。 その身体つきや、妙に達観したような口振りや、周りの兵士達も舌を巻くほどの銃器や戦闘の腕前や、女の扱い方を見て、 誰が彼を年端もいかない子供だと思うだろう。 彼を取り巻く大人達は、彼の特殊な境遇を知っていて彼が拾われて来たその時から知っているので、彼が少年だと判る。 あどけないと思える。 撩はこんな歳でもう兵士として闘い、時には相手を殺し、時には殺されかける程の痛手も負う。 それはここでは、日常茶飯事だ。 それに、キャンプの周りに出没する娼婦を買って、女を抱くことも知っているらしい。 いっちょまえに、そこそこモテるらしい。子供のくせに。 それでも、こんな世界で歪に育ってしまった少年には、わからない事が色々ある。 撩が聡明なのは、生まれもった彼のポテンシャルの高さだろう。 けれども、人として幼児期に必要な沢山のものを、撩は獲得することなくここまで生きてきた。 撩の黒い瞳は、少年らしい純粋さを湛えて澄んでいる。 けれど、それと同時に何処までも深い底知れなさを孕んでいる。 彼がそんな疑問を抱くに至ったのは、単純に思春期の思考の賜物というわけでは無いらしい。 度々その欲の捌け口として世話になる顔見知りの娼婦と、撩は何気無い会話を交わすようになったらしい。 撩よりも幾つかは歳上だろうその彼女も、大人達から見ればまだまだ年端もいかない少女だが、ここはそれを斟酌するような世界では無いのだ。 少女が家族を養うために唯一の資本である身体を売り、少年は生きるために戦場を駆け回る。 本来、彼等を庇護するべき大人も、彼等に与えられるべき愛情もない。 彼等には自らの足で立ち、身体を張って生きるしか術はない。 男が軍医として、『教授』などと呼ばれている己に一番の無力さを感じるのは、そういう彼等を思う時だ。 男は、日本という国がめきめきと戦後の復興を遂げ、今や先進国と呼ばれつつあることを知っている。 撩の記憶にない、撩の故郷の豊かさを知っている。 撩があのジャングルの中に堕ちてさえ来なければ、手にしただろうもうひとつの人生を思うと、複雑な気持ちになる。 撩はわからないことを訊ねるとき、育ての親よりむしろ、この軍医の元にやって来る。 根っからの兵士である海原に与えられる愛情とは異なる愛情を、撩が欲したときに周りに居るのが己なのだろうと、男は理解している。 撩は、聡明だ。 この何も無い殺伐とした環境下にあって、自分に必要だと思うものを選び取り、自分の力に変えていけるだけの能力を持っている。 「なんじゃ、珍しいの。そんなことを訊くようになるなんて、成長したのぉ。」 いつもはくだらないことばかり喋っている撩の真摯な問いは、自分自身のアイデンティティーを求めるものだった。 自分が何処の国の人間か、自分が誰で、歳は幾つか。 誰もが当たり前に知っていることを、目の前のベビーフェイスは知らない。 こんな少年の内から、知らなくて良いことばかり知っている。 撩にこんな疑問を抱かせたのは、件の少女らしい。 彼女が話す家族の話や、生活のこと。そして、彼女自身の誕生日のこと。 先日、誕生日を迎えた少女に、祝って欲しいとキスをねだられた撩の心に芽生えたものは。 彼女のプライベートな事情に対する想いでもなく、彼女の誕生日を祝う気持ちでもなく、 誕生日を持たない自分という人間に対する、非常に根本的な疑問だった。 それは、答えを持たない謎だ。撩が思い出せるものは、何も無かった。 「お前は、オヤジを恨んどるか?こんな風にしかお前を育てられなかった神を。」 撩は目を見開いて、大きく頭を振った。 撩はここ以外の世界を知らない。 海原神が与えてくれる愛情が、正常なのか異常なのかなど、判別出来ようもない。 撩に選択肢はない。 撩にとって、『オヤジ』の存在は一筋の光だ。 死んだ両親のことは覚えていないのに、焼けたオイルの臭いのする瓦礫の中から自分を抱き上げた逞しい腕の安心感だけは覚えている。 あの時、撩は生まれた。 「のぉ、撩よ。これだけは覚えておくんじゃ。」 撩は瞬きもせずに、男の言葉を聴いた。 小さく頷くと、子供らしいあどけない笑顔を見せた。 残念ながら、お前さんの本当のことは誰にもわからん。 過去は変えられん。 でもな、未来はどうにでも変えられる。 生きておれ、撩よ。 どんな卑怯な手を使ってでも、生きておくれ。 そしたら、いつかわかる日がくる。 太く逞しい腕には、ふっくりとした血管が浮いている。 ゴムのチューブを緩めると、針の先からシリンジへ赤黒い液体が流れ満たされてゆく。 すっかり大人びたベビーフェイスは、涼しい顔をして注射針の先を見詰める。 定期的な血液検査は、撩がエンジェル·ダストの死の淵から生還して10年以上経った今でも続けている。 撩が生きた検体として研究できる唯一の人物であり、また、撩自身の健康の為でもある。 あの少年の頃から幾らも経たないある日、撩の信頼を海原は利用した。 撩はあれ以来、こうして教授の患者でもあるわけだが。 今となっては、身体の方は至って健康だ。 些か、アルコールとニコチンの摂取過剰は否めないが、健康的には問題のない範囲だ。 どちらかといえば、問題は心の方で。 黒い瞳の奥の底知れなさを増幅させたのは、撩を育て上げた『オヤジ』だ。 いつの時代も、何処の世界にも、子供に害を与えるしょうもない親はいるもので、撩もそんな親に育てられた被害者のひとりと言えよう。 けれど、撩はもう年端もいかない少年ではないのだ。 撩は聡明だから、自分自身に必要なものを選び取る能力を持っている。 今、彼に必要なのは、明るい目をした無邪気な仔猫ちゃんらしい。 なんだかんだ憎まれ口を叩きながら、傍に置いて可愛がっているらしい。 「そういえば、お前さん。」 「···なんすか。」 撩の太い血管から針を抜きながら、目の前の老人が厭らしい顔をしてにやけている。 こういうときの教授は十中八九、撩の嫌がる話題を口にするものだ。 撩と教授の付き合いは長い。 「誕生日が出来たらしいのぉ、良かったなぁ、香くんにお祝いして貰えて。」 きっと、こんな余計な情報を教授の耳に流すのは、 サ店で嫁の尻に敷かれているハゲの奴だろうと、撩は舌打ちをする。 さすがに、額にお礼のキスをしたことまでは誰も知らないはずだが、もしも香が美樹に喋っていたらアウトだろう。 情報が漏洩するのも時間の問題だ。 どいつもこいつも裏稼業の自覚が無いのかよ、と言いたくなるほどに、撩と香の恋模様に関しては個人情報の尊重をして貰えない。 「はぁ?あんなオトコオンナに祝って貰っても嬉しくねぇし。どーせなら、歌舞伎町のお姉ちゃんに祝って貰うっつーの。」 針を抜いた穴に、プッと小さく赤い血が玉を作る。 撩は、教授の言葉を守り生き抜いた。 泥水を啜るような、傷口に塩を擦り込むような、地獄のような局面も何度も迎えた。 それでも撩は、時に味方すらも欺き生き抜いた。 ただ、知りたかったのだ。 あのときの、疑問の答えを。 己が何者なのか。 答えなど何処を探しても、無いのかも知れない。 けれど、生きていたいと思えるようになった。 教授の言う通り、どんなに卑怯な手を使ってでも生きてきたら、生きていたいと思えるような出逢いがあった。 ただ撩はまだ、素直にはそれを認めたくはない。 楽しい時間や幸せな瞬間は、その渦中にはそうと気が付かないものだ。 撩にはまだ、その自覚はない。 心にもないことを言う撩の腕に止血用の小さなテープを貼ってやりながら、教授は淡く微笑んだ。 すっかり大人びたなんて思ったけれど、やっぱりまだまだ撩はベビーフェイスだ。 思春期の少年並みに、初恋を拗らせているらしい。 想い人であるパートナーから、誕生日を作ってもらって、言葉とは裏腹に幸せそうに笑っている。 海原に拾われて生まれた撩は、彼女から誕生日を作って貰ってきっと新しく生まれ変わった。 今度こそ、本来与えられるべきであった愛情を溢れるほど享受出来るようにと。 あれから随分時を経て、男は切に願っている。 かつての少年に、愛を。
微妙に間に合いませんでした。 ホワイトデーネタです( ≧∀≦)ノ
よりによってこんな日に、関東の外れの山の中の林道をドライブする羽目になったのは、一週間ほど前の伝言板に遡る。 2ヶ月振りの至極まとも過ぎるほどまともな依頼は、美人の失踪人探しというものだった。 依頼主は、彼女の父親。 香は純粋に依頼が舞い込んだことに喜び、撩は探し人が美女だということを喜んだ。 互いに動機は違えど、やる気は満々でその依頼を遂行した。 依頼着手から1週間目のこの日、探し当てた彼女を家族と引き合わせ、依頼は無事解決した。 依頼の真相というのは、単純明快で。 運命の恋人との結婚を両親に反対された彼女が、恋人と強行手段で駆け落ちしたのだ。 ことの顛末を知り、若い二人の本気の気持ちを理解した両親が折れる形で、無事家族は再会を果たした。 再会の場所が、件の関東の外れの山奥の依頼人の別荘だったというわけだ。 最終的に親子の確執は何だったのかと思うほどに、和気藹々とした空気の中、 撩と香は一組の家族プラス将来の婿に、笑顔で別荘を送り出された。 3月14日の夕刻、何事もなければバレンタインのお返しを抱えて盛り場へと繰り出していたであろう撩も、 お返しの為のクッキーやキャンディの包みを多数準備していた香も。 この日がホワイトデーだということをすっかり忘れていた。 何はともあれこのまま問題なく、二人は新宿に向けて帰路に着く筈だった。 あくまでも、予定としては。 なんでよりによって、こんなときに? 香の虚しい呟きは、林道脇の漆黒の闇に吸い込まれ静かに消えた。 別荘から10㎞以上は進んだ場所の筈だ。 その間、その道で車の1台ともすれ違う事なく、通行人も居ない。 民家やめぼしい建物の存在感もなく、あるのはガードレールに沿って定間隔で据えられた道路標識と、 頭上に大きく輝きはじめた少しだけ欠けたまあるい月だけだ。 ミニがエンストした。 バッテリーがいよいよイカれたか。 撩は呑気に胸ポケットから煙草を取り出して、唇に挟んだ。 直近の車検で、バッテリーを交換するかどうか微妙な感じだったのを。 経理担当の鶴の一声で、見送って後回しになっていた。 だから、言わんこっちゃない。整備はケチったら駄目だっつーの。 だってお金なかったんだもん、仕方無いじゃん。 すっかり日も暮れて、山中は暗い。 偶然の出会いも望み薄で、二人は腹ペコだ。 腹ペコだし、肌寒い。何しろ春まだ浅い3月半ばである。 エンストした車内の温度は、ただボーッとしていては下がるばっかりだ。 寒いね。 だな。 JAF呼ぶ? しかなくね? てか、ここ何処? さぁ?取り敢えず、電話してみるわ。 そだね。 あって良かった、文明の利器という名の携帯電話。 電波は辛うじて、アンテナ1本。 二人の運命は首の皮1枚で何とか外界と繋がった。 撩が別荘の場所とそこから市街地へと続く林道の途中だと説明すると、 その電話口の男は同情混じりの吐息を漏らして、1~2時間は掛かると言った。 マジなの。 マジだ。 電話を終えた撩の報告に、二人の間に微妙な静寂が広がる。 このままでは、責任の擦り付け合いが勃発しかねないので、撩はその前に良いことを思い付いた。 よし、香。焚き火するぞ。 はぁ? 取り敢えず、撩は助手席の?マークの相方にブランケットをぐるぐるに巻き付けて車内に残すと。 ガードレールの内側の、茂みの奥へと分け入った。 仕方がないのだ。 バッテリーがイカれていては、エアコンは使えないし、その状態で待つくらいなら焚き火でもして暖まろうということらしい。 はぁ、暖かい。 十数分後、停車したミニから適度に距離を取って、撩はあっという間にそれをセッティングした。 何処からか、腰掛けるのに丁度い椅子代わりの石と、枯れ枝と落ち葉を拾い集めて来て、手際よく火を点ける。 ライターはあっても、焚き火を作るのには多少の技術が必要に思われたけれど、撩は難なくやってのける。 生きるか死ぬかのサバイバル生活を強いられて育った経歴は伊達ではない。 この程度のことは、新宿の街中のナンパよりも簡単だ。 心の底からの呟きを漏らした香は、相変わらず撩の手によってブランケットを巻き付けられた。 撩曰く、おまぁが風邪引いたら俺がめーわくだからな。ということらしいが、彼は素直じゃないのでそれは建前だ。 腹減ったな、しかし。 うん、もう帰る途中の何処かで何か食べて帰ろう。 だな。 珍しく経理担当が外食という妥協案を提示する程度には、二人の空腹は切実なものである。 如何せん、こんな事態に陥るなんて想定外なので、ミニには食料など積んでいない。 あ。 ん?どうしたの? 撩が突然何かを思い出したらしく、ミニの助手席へと向かった。 ダッシュボードから何かを取り出して戻った撩の手には、派手な模様のビニール袋が握られていた。 撩は辺りを彷徨いて、小さな小枝を数本手折る。 ホレ。 座った香にそう言って撩が差し出したのは、小枝に刺さったマシュマロだった。 香は、思わず首を傾げる。 残念ながら、香にはマシュマロを焚き火で焼いて食べるという行動がピンと来なかった。 日本人の焚き火といえば、焼き芋だ。 焼いてみな、旨ぇから。 そんなの、スヌーピーしかやらないと思ってた。 撩はふんと鼻で笑うと、手本とばかりに自分でも1本焚き火で炙った。 そもそも、あるはずもないマシュマロを買っておいたのは、他でもない撩だった。 依頼の合間に、ホワイトデーのことを思い出していた。 コンビニで煙草を買うついでに衝動的に買ったのだ。 けれど、天の邪鬼過ぎて香に渡せないまま、ダッシュボードに放り込んで数日間、忘れていた。 あ。 どうした? ぅうん、何でもない。 香は2つ目の焼いたマシュマロを口に入れた瞬間に、思い出した。 今日がホワイトデーだということを。 だいたい何で撩がマシュマロなんて持ってるんだろう、と考えていて唐突に思い出したのだ。 これはつまり、そういうことだと思って良いのか。 素直じゃない相方の、バレンタインのお返しのつもりだろうか。 おまぁが風邪引いて寝込まれたら、俺がめーわくだからな、 なんて言いながら香にブランケットをぐるぐるに巻き付ける手付きは意外に優しかった。 撩は概ね、素直じゃないのだ。 ふふふふ。 ぁんだよ、気色悪ぃな。急に笑うなよ。 美味しいね。焼きマシュマロ。 だろ?スヌーピー舐めんなよ? うん。 こくんと頷いた香の頬が、暖かそうに朱に染まる。 空腹に耐え兼ねて摂取する糖分は、幾らか気持ちをハイにする。 目の前で燃え盛る炎を見詰めながら、二人は黙々と熱いマシュマロを貪った。 JAFのロードサービスを待ちながら。
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