№5 八つ当たり

幾ら親子だとはいえ、急に今晩顔出せなんて横暴だわ。

仕方ないじゃない、お父様が言い出したら絶対なのはあなたもわかってることでしょう?

そういう姉さんはどうするの?

私は無理よ、お仕事だもの。捜査が行き詰まってるの、家族で楽しくディナーなんてやってる場合じゃないのよ。

私だって同じよ!忙しいのよ。





突然掛かってきた電話の相手は、姉だった。
冴子からこうして連絡が来るのに、朗報だったためしは殆ど無い。
麗香は警察官という仕事を辞めて以降、両親に今の己の立場を軽んじられているように感じている。
以前は姉と同じように、家族との団欒を仕事を理由に断っても、ある程度は理解を得られたのに、最近ではやけに煩い。
両親は警察官という仕事以外はいつでも暇で、いつ何時でも職務に全うしているのは警察官だけだと思っている。
自分がその世界の中の住人だった頃には判らなかったそんなことに、いい歳になってから気が付いた。
どうせ今晩も顔を出したところで、麗香を待っているのは大量のお見合い写真と母の小言だ。
このところ、姉へのお見合いの薦めは峠を越えたのか、専らその対象は麗香になりつつある。
それも、麗香の足が実家から遠退く理由のひとつだったりする。





だったら、そう言えばいいじゃない。お父様に。

言ったところで通じないじゃない、あの石頭に。

ま、そりゃそうだけど、たまにはあなたの顔が見たいのよ。親孝行しなさいよ。

姉さんがそれを言う⁉そもそも姉さんがお見合い断りまくるから、私に火の粉が飛んで来てるのよ?

そうかしら?年齢的な問題だと思うわよ?





麗香としては至って大真面目に抗議しているのにも関わらず、受話器の向こうの冴子が飄々としていることにも苛立ちは増してくる。
冴子はきっと、未だに麗香が撩に対して報われない想いを抱えているとは思っていないのだ。
以前に一度、『あら、この人なんか良いんじゃない?』などとお見合い写真の1枚を手に取って、
両親からのお見合い攻撃で辟易する麗香に更に追い討ちをかけて、激怒させるということをやらかしている。
冴子こそ同じこの見合い攻撃の被害者でもあるくせに、自分さえ良ければ何でも良いのかと、麗香はうんざりする。
家族のことは嫌いでは無いけれど、こんな時には一番鬱陶しい存在でもある。






いずれにせよ、今晩は無理なの。仕事なのよ。

撩に任せときなさいよ、もう殆ど目処は付いてるんでしょ?





さらりと言ってのけた冴子の言葉に、麗香は電話口で眉根を寄せる。
今回の件で、撩に協力を要請したことは、冴子には言っていない筈だ。






どうして姉さんが知ってるの?

撩から聞いてるもの。情報提供の一端は私でもあるのよ、残念ながら。まぁ、それだけでも無いけれど。

どういう意味?

心配してるのよ撩も、ああ見えて。あなたが危ない橋を渡ってるの、気が気じゃ無いのよ。

それで姉さんが保護者面して、影で情報提供ってわけ⁉冗談じゃ無いわ‼

落ち着きなさいよ、別に撩が絡んで無くても、情報くらい幾らでも流すわよ。私だってあなたの転職に関しては、責任が無いわけでもないし。

......。

まだ諦めて無いの?撩のこと。

...悪い?どうせ無駄だって思ってるんでしょ、みんな。

思ってるわよ、撩の気持ちくらい端で見てて判るでしょうよ。

可能性はゼロでは無いわ。

ゼロよ。

冷たいのね、きょうだいなのに。

だからでしょう?はっきりと言ってあげる優しさもあるわ。悪いけど、撩との付き合いは私の方が古いの。深入りしても絶対に踏み込めない領域があるの、彼には。





香さんならその場所に、踏み込めるの?とは、麗香は言えなかった。
そんなことは初めからわかっている。
例えばそれが撩にとって、只の慰めでも現実逃避でも何でも良い。誰かの身代わりでも。
彼がここまでは踏み込んでも構わない、と思っている限界ギリギリまで彼に近付くことが出来るなら、何でも良いのだ。




別に無理に諦めろなんて言うつもりは、サラサラ無いけど。

けど?

虚しいわよ、踏み込めないとわかってる相手に感情をぶつけるのって。ま、撩のことはどうでも良いんだけど、とりあえず今晩はあなたが帰っとかないと煩いのよ。それで暫くは二人とも落ち着くんだから、ね?お願い。

ほんとに、厄介払いしてない?自分だけ仕事で逃げるなんて狡いわ。

だってあなたの案件は撩にも手伝って貰えるから良いじゃない?捜査を撩にやらせる訳にはいかないもの、さすがに。

姉さん、やらせたら大問題よ。






冴子ならやりかねない、と思ったことは心に秘めて麗香は盛大な溜め息を漏らした。
どうして自分ではダメなのだろうと思うと、自分の境遇が嫌になる。
元々、誰かを羨んだり、自分の境遇を恨むような心持ちではなかった筈だ。
少なくとも、撩に出逢うまでの麗香は、もっと自分に自信を持って堂々と生きていた筈だった。
何処でどう変わってしまったのか、自分でも気付かないほどに自信の無い恋に身を投じている。
それでもそうと解っていながら引き返せない恋がある、ということに気が付いてしまっただけだ。
引き返せるものなら、撩に出逢う前の自分に戻りたい気持ちは麗香とて山々だ。
苦しいだけの恋なのは、冴子に言われずとも自分自身が一番解っている。





私の方から撩に言っといても良いわよ?今晩は独りで片付けて頂戴って。

何処まで保護者面すんのよ。良いわよ、自分で言うから。

そう?じゃあ、お父様、お母様に宜しくね。

ハイハイ、承知致しました。お·ね·え·さ·ま·っ·っ·💢






苛立ち紛れに切った電話に、麗香は思いの外打ちのめされた。
何が悔しいって、自分と撩との束の間のバディ関係は、あっさりと冴子に筒抜けだったことだ。
撩は心配してくれているのだと冴子は言ったけれど、そんな優しさが麗香を傷付けるなんて撩本人は微塵も思っていないのだろう。
もっとも、冴子がいともあっさりと麗香にその話を漏らすなんて思っていないのだろうけど。
そう考えれば、冴子自身が言ったように、はっきりと言ってあげる冴子流の優しさなのだろうけど。
そんな全てが麗香にとっては、苛立ちにしかならない。
まるで子供扱いだ。


けれどこの苛立ちを、麗香はきっと冴子にも撩にもぶつけることは出来ないのだ。
全ての苛立ちと嫉妬が綯交ぜになった黒い感情が行き当たる心の奥底には、槇村香の幸せそうな笑顔が浮かぶ。
香ならどうして撩の踏み込めない領域に踏み込めるのか。
香ならどうして周囲の誰からも撩のパートナーとして認められるのか。
香の恋はどうして周囲の誰からも応援されるのか。

自分と槇村香の違いは何なのか。
彼女にあって、自分に足りないものとは何なのか。
ずっと考えていて答えの見付からない問いは、麗香をとても醜い感情に駆り立てる。
彼女を悲しませてやりたいし、自分がこうして思い悩むのと同じように苦しめてやりたい。
そうでなければ、彼の隣にいる彼女という存在を視界に入れるのすら苦しくなってしまう。
醜い感情ほど表に出ようとして、まるでエイリアンの様に麗香の美しい表面を喰い破って暴れ始める。
何かが麗香の中で弾け飛んだ瞬間、麗香の指はそのまま電話のプッシュボタンを押した。
先日電話を入れた撩の寝室直通の番号ではなく、隣のビルの6階リビングに繋がる香が応対する筈の番号だ。




もしもし。



電話越しの明るい声は、麗香の神経に障る。
声を聴くだけで、麗香の心臓は一気に膨張したかのように息苦しさを感じる。






麗香ですけど。

あ、麗香さん?どうしたの?

撩いる?

ごめんなさい、今ちょっと休んでるの。夕べ遅かったみたいで。





勿論、知っている。
夕べ遅くまで一緒に仕事をしていたのは、麗香自身だ。
撩の二の腕に薄らと滲んだ血の色を思い返す。




撩の怪我はどう?大丈夫?




受話器越しに香が息を飲む音が小さく聴こえた。
撩が怪我をして帰って来たことは解っているだろう。
恐らくは、香の知らないところでまた仕事をして来たことに落ち込んでいる。
そして、そのことと麗香がどう結び付くのかまではわかっていない様子だと麗香は推測する。
しかし、一瞬後に香から意外な返答が反ってきた。




今回の件は、麗香さん絡みなのね。

あ、えぇ、そうなの。ちょっと面倒事抱えちゃって。

大丈夫よ、怪我は大したこと無いわ。ここのとこ昼夜逆転だから寝てるだけよ、心配しないで?

そう、安心したわ。





麗香には香の言葉が意外だった。
今回撩は、香を通していない自分からの依頼を、冴子だけでなく香にも明かしていたということか。
結果として、撩の寝室に電話を入れて彼を起こすことにはならずに済んだけれど、醜い八つ当たりをするために意気揚々と電話を入れた気持ちは急速に萎えてしまった。
香へ与えるダメージとしては、完全に拍子抜けだ。




それで?撩に何か御用かしら?急ぎなら起こすけど。

あ、大丈夫。伝えてくれれば良いわ。

わかった。

今夜は私、ちょっと所用で仕事にかかれないから、申し訳ないけど今日は独りでお願いしますって。

りょーかい。確かにお伝えしときまぁす。





香は、今晩興味もない大量のお見合い写真を見せられる気が重い人の気も知らずに、能天気な明るさで電話を切った。
それにあの口振りなら、撩の怪我の手当てもしたのであろう。
香本人と話している最中には、すっかり毒気を抜かれてしまう奇妙なオーラがあるのだけれど、
電話を切った瞬間にまたしても激しく嫉妬の感情に飲み込まれそうになる。
八つ当たりをしようと思った醜い感情は、綺麗に弧を描いてブーメランのように己に還って来た。
香には、あの傷に触れさせるのだ。
冴子が言っていた、撩だけの領域とは何なのか。
それすらも麗香には未だ、わからないというのに。

(つづく)
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[ 2018/06/10 06:51 ] ゴンドラの唄 | TB(0) | CM(0)

近況と、スナフキン様へヒントです。

こんちわ、ケシでっす。

最近、ちょっとドールの沼にはまってます。ブライスです。
現行モデルというよりも、過去に発表されている子に魅力を感じるタイプなので良いと思った子との出逢いが一期一会で、堪らんです。
きっかけは、ドール服を作りたいと思ったからです。
今年の3月に初めての子をお迎えしてから、僅か3ヶ月の内に今現在7人のドールをお迎えしちゃいました。
((( ;゚Д゚)))散財振りが酷い。
過去の子は出逢いも一期一会ですが、価格もそれなりにプレミアでして(汗)
二次創作は、同人誌とかグッズでも作らない限りはお金かかりませんからね、一気に金の掛かる趣味がひとつ増えちゃいました(テヘ)

そもそも趣味が多すぎて、時間が足りません(南無)
その内ブライスさんにCHコスプレでもさせようと思います( *´艸`)


話は変わりますが、メールフォームから連絡下さったスナフキンさま!
ヒントです。基本的にノーヒントですよっつースタンスなのですが、当ブログは結構ゆるゆる運営ですので、気分と場面で進行してまいりまぁっすっっ。

アニメの主題歌に使われた歌のタイトルを思い出してくださいませよ。

自ずと答えが導けるのではないでしょうか。岡村ちゃんとかね。2のEDとかね。
というわけで、ご健闘をお祈り申し上げます。


ばいちゃ。



[ 2018/06/24 11:50 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)