mosuraさまのご期待にお応えして

こんばんわぁ、ケシです(*´∀`*)ノシ

mosuraさまが、コメント欄に下さったお言葉を受けまして、
先日の「44.雪月夜」のお話に、naseさんに挿絵描いて貰いました。

描いて描いて描いて~~って言って、2枚も美麗なイラストをGETしちゃいました。
いやはや、役得役得。
mosuraさま、如何でしょう? 喜んで戴けること請け合い(握拳)
戴いたイラストは、お話の中に掲載しています。
どうぞ、皆様もnaseさんの御絵をお楽しみくださいませっっ
naseさん、いつもありがとおぉ~~(´艸`*)

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[ 2016/03/01 21:01 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)

69.徒花

・・・ない。




香は武器庫の銃器を確認して、レミントンM700Pが持ち出されている事を確認した。
撩は香の事を侮っていると、香は思う。
ココにある銃器の一つ一つ、名称や特性やどういう場合に適した使い方をするのか。
毎日無駄に、暇を持て余している訳でも無いのだ。香は独学で勉強した。
歌舞伎町のキャバクラに行くのに、対人狙撃用ライフルなど必要無い。
香は作り付けの収納棚のスチールの扉を閉めて、撩がしていたように鍵も掛けると、
淡い黄色のウィンドブレーカーのファスナーを襟元まで上げた。

いつ位の時だったか、撩は香が武器庫や射撃場に入る事を嫌がる時期があった。
それでも撩の傍に居る年数を重ねれば重ねるほど、
必要に迫られる機会も増えてなあなあの内に銃火器類の事は、概ね把握している。
マリィの掩護の為にバズーカを勝手に持ち出した時もあったし、
海原の船に乗り込んだ時には対戦車ロケット弾まで携行した。
その少し前、ミックに決闘を申し込んだ夜に、撩から調整し直したコルトローマンを改めて受け取った。
兄の形見だ。
それから今まで結構経つけど、撩は香に未だ見せてはくれない一面を持っている。
銃(ローマン)を調整し直して以降、香が射撃練習をする事は撩も黙認している。
実際に現場で活かされるかどうかは別として、銃(それ)はお守りでは無いのだ。
信心とご利益は無くても、弾を込めて発射させれば簡単に人も殺せる。
練習をしていなければ、護身にもならない。

ナイキのパステルカラーのスニーカーが欲しくて、欲しそうにしていたら撩が買ってくれた。
2週間前に解決した依頼のすぐ後だ。
もう既に1足、男の子っぽい色合いのコルテッツなら持っているから、
それを買わない理由にしてそれでも何度も靴屋の前で立ち止まる香に、撩が笑いながらアッサリ買って来た。
淡いグレイとペイルピンクとレモンイエローの組み合わせのそれは、スニーカーなのに香の乙女心を擽る。
ずっと昔より、撩の事を沢山知れば知るほど、香の心配は深く大きくなる。
ミニはガレージに置いてあるから、多分、新宿の何処かだろう。
まだ真新しいスニーカーの爪先を見た後に、香は6階の窓を見上げた。
黄色く見える部屋の灯りは点けたままに出て来た。
すぐに戻るつもりだからというのは、もしかすると験担ぎの一種かもしれない。
香は撩が無事なら他の事など、正直どうでもいい。
多分、目的地は駅の反対側の高層ビル街だ。
香は大きなビル達の中では、損保ジャパンビルが一番好きだ。








流石に大都会のど真ん中とはいえ、深夜のビル街に人影は殆どない。
それでも幹線道路にはそれなりに、ヘッドライトとテールランプが交錯する。
警察署が意外と近くにあったりするのに、黒いライダースジャケットを羽織った撩は、
ライフルの入った革のケースをプラプラぶら提げて呑気に歩いていた。
職質されたら一発アウトだが、自慢では無いがこれまで一度も職質などされた例は無い。
空気が温かい。
季節が巡っているのを、撩は肌で感じる。
つい半月程前までは小雪がちらつく程の寒さだったのに、完全に空気には春の匂いがする。
撩が物心つく頃から育った土地には、春夏秋冬などというメリハリの効いた気候は存在しなかった。
年がら年中蒸し暑く、人々は皆、浅黒かった。
そこから新宿に来るまでの数年間、北米大陸で生活してはいたけれど、
季節がどんな風だったのかという記憶は見事に欠落している。
撩がその殆どを過ごしていた地域は、雨か曇りか殆ど寒いか酷く乾燥しているかのどれかだったと思う。
概ね空の色は灰色だった気がする。
基本的に撩は、あらゆる事件や事故、歴史的事実などを記憶しておく能力には長けているけれど。
どうでも良いと自分で感じる事に関しては、無頓着だ。
当時の撩には、自分を取り巻く季節の移ろいになど、何の意味も見出せなかった。
だから、撩がこうして季節を肌で感じるようになったのは、新宿に来てからだ。
厳密に言えば、槇村秀幸という男に出逢ってからかもしれない。

春の嵐の日に槇村が死んで、香が転がり込んでから、季節には更に色彩が加わった。
音や匂いや情緒や五感全てで世界を眺める相棒の薄茶色の瞳を通じて、撩にも世界の見え方が変わった。
数年間の内に、空気の中に混ざる季節の気配まで察知しては、それをわざわざ感じ入る癖がついてしまった。
それはきっと香のせいだし、春は香の季節だ。

撩がそんな事を考えながら歩いていると、前方に見慣れた黄色いウィンドブレーカーが見えた。
春が来た。
損保ジャパンビルのすぐ傍の歩道で、両手をポケットに突っ込んで、ボンヤリと43階建てを見上げている。
ビル風が香の癖毛を揺らしても、冷たさは殆ど無い。








なにしてんの、おまー。こんなとこで。

・・・ウォーキング。




撩が声を掛けると、香は少しだけ驚いた表情を隠すように笑って言った。
言いながら、足元を指差す。





新しい靴を慣らそうと思って、ちょっとお散歩。

・・・ふぅん、“散歩”ねえ。こんな時間にご苦労なこって。




それまでプラプラと提げて歩いていた、ライフルの収まった革の細長いケースを撩は肩に掛けた。
その些細な動作まで、香が見ているかどうかは定かでは無かったけれど、
撩はそれと一続きの動作でポケットから煙草を取り出した。
昼間なら歩き煙草は禁止だろうけど、こんな時間に通行人もほぼいないので撩は遠慮なく火を点ける。
撩は構わずそのままアパートの方へと、歩みを進めると香も後に続く。




なに?もう終わり? 散歩は。

うん、もうだいぶ歩いたし。

へえ。




撩はわざと散歩の部分を強調してそんな事を言うけれど、元から香のでまかせの言葉などお見通しだ。
2人は言葉も無く、真夜中の西新宿を歩いた。
撩にしてみれば、香に本当の事を言わないことに特に理由は無い。
撩が殺し屋だということを香だって重々承知だし、ボディガードばかりが仕事でも無い。
昔は、どうにかして香を堅気の世界に帰さなければと、脅迫観念のように思い込んでいた。
そうすれば香は撩の事など綺麗さっぱり忘れて幸せになれるのだと、根拠もなくそう考えていたのだ。
けれどもう、今更だから。
撩はもう香を自分の元から放す気はない。
今は、香の記憶の中に一生残リ続ける男になりたいと思っている。




あのさぁ。

なあに?

俺がもしも今夜死んでたら、多分ずっとお前の記憶の中に留まれただろうね。

なにそれ。




馬鹿じゃないの、とは、心の中だけで香は呟いた。
簡単に、自分が死んだ後の話なんかしないで欲しいのに、撩は穏やかな顔で煙草を吹かす。
硝煙の臭いと煙草の匂いが、生温い風に流れて融けてゆくように感じられる。
撩の輪郭まで融けてしまわないように、撩を連れて行かないで欲しいと、
誰にともなく香が心の中で祈っていると、ひと際強くビル風が吹いた。




もうすぐ、桜も咲くかな。



香が話題を変えたくてそう言うと、撩は淡く微笑んだ。
歩みを止めて香に向き直ると、煙草を放り捨てて踏み消した。
グッと香の右手を掴んで一気に抱き寄せる。
顔を埋めた癖毛からは、シャンプーの匂いがする。




そうだな、もうそろそろだろうな。




まるで怯えた子供のように、撩は香を抱き締める。
桜は美しいけれど、撩には少しだけ恐ろしいように感じる事がある。
狂ったように一斉に咲き誇って、ホンの短い間に一斉に散ってゆく。
この世に何も残さない、けれど人々の胸に鮮烈な記憶だけを刻んで、散ってゆく徒花だ。
撩はきっと、香を喪ってしまうことだけが恐ろしいのだ。
香の癖毛に顔を埋めたままの撩の声は、小さかった。




香。

ん?

俺と心中する?

ふふふ、良いよ。撩と一緒なら。





香ならそう言うと、思っていた。
きっと互いに、その存在を喪っても記憶は残るから。
それならいっそ、どちらかが死ぬ時に潔く一緒に散りたい。
撩がそう思っているのと同じように、香も思ってくれている事に数年間かけて気が付く事が出来た。
香のいない所で独りで死んだりしない、と撩は心に誓っている。








随分、春めいてきましたね~~~。
花粉症には、皆様お気を付けて~~~(ノД‘)・゜・。

やっぱりパラレルが好き( ´∀`)

おはようございます、ケシです。
最近、ピクシブで読んでるお話があってそれが最高に面白いのですが。
やはり、パラレルで(爆)
ワタシは本格的にパラレル好きなようです(笑)

書くようになってもうすぐ丸4年なんですけど、
気持ち的にはほぼROM専なので、色んな方がお書きになる二次創作に萌える今日この頃です。
その中でも、類を見ない驚愕の設定に最高に心捕まれてます( ´∀`)
設定読むだけで心踊ったのなんて、何年ぶりだろうって感じです。
紡ぐ糸さんのまことさんのお話が大好きで、何度も何度も拝読したのですが、その時以来です。

勿論、原作が大好きなのはぶれないのですが、
二次創作のよいところは、書く人の個性が活かされているとこだと思います。
それが自分好みだと完全にハマる、その時の感激が好きなのかもです。
ワタシは、現代パロ、それも専門職系には目がないというか、
ある意味、スイーパーも専門職だと思うので、意外と違和感無いと思うのですが。
どうだろう、好み別れるとこだしなぁって思うけどやっぱり好き(笑)

でも、ピクシブってあんまり好きになれなくて(暴言御免、好きな人が居たらごめんなさい)
作品がということでなく、難を言えば、読みにくいんですよね。
そのパラレル目当てで伺っても、更新が重なってると探しにくいし、
その方の他の作品とかにも興味があっても、続きモノとかどれが最初の話なのか検索しにくい。
やはり、個人でやられてるブログやサイトと比べちゃうといけないのかもだけど、
色んな人のをどれもこれも同時に読みたい!って人には便利かもだけど、
ワタシは何分、色んなといってもゆっくり派なのでそのスピード感についていけない感じです(己の問題)
更新が沢山過ぎて(素ん晴らしい)

そういう意味では、SNS等にも興味が湧かないのですが。
もはや、SNSってどこまでをそう呼ぶの?と思い始めたらキリがありません。
まぁ、媒体が何であれ、面白いモノは面白い。
興味がある方には、おすすめです。
勿論、件のパラレル以外にも好みのものが見つけられると思います。

結論:二次創作サイコー




《追記》
はれぶた様、そうです、その作品です(о´∀`о)ノ
いやはや貴女様でございましたかっっ
大好きです。
続きも楽しみにしています。
なにやら、れーかさんも登場して波乱の予感。
楽しみすぎて震えております(握拳)
許可なく、当ブログ内で話題にしてすみません(汗)
こちらこそ応援しておりますので、是非ともご自分の納得のゆくまで書き通して下さいませ!       
楽しみにしている読者が沢山いますから。
ありがとうございます。
今朝、また作品の方再読させて頂きましたら、新たに各話にナンバリングして頂いたんですね。
もしかすると、読みづらいって書いたからかなって恐縮しております(土下座)
細やかなお気遣いどうもありがとうございます。
[ 2016/03/09 10:13 ] 未分類 | TB(0) | CM(11)

39.超鋭角的指摘

香は大人になった今、大きな劣等感の塊に苛まれている。
果たしていつからそうだったのか、香自身ももうハッキリとは憶えていない。
それでも兄と2人暮らしだった頃は、そんな風では無かった。

ごく普通の家庭環境かといわれれば、何を普通と呼ぶかにもよるが、多分違ったのだろう。
親との縁は、そもそも薄い。
育ててくれた父も早くに亡くして、愛してくれた兄と2人きりの兄妹だけの家庭には、
今にして思えば他の家庭にあって当然のことが無かったこともあったのだろうけど、
その境遇が齎す劣等感などは微塵も無かった。
むしろ、香は兄と2人きりの穏やかな世界の中に、自分だけの安心で絶対的な居場所を確保できていた。
人は人から必要とされているというシンプルな役回りさえ用意して貰えたなら、
たったそれだけのことで幸せなのだと香は思う。

兄が死んで、香がその手で選び取った男の傍には、誰の居場所も無かった。
撩は本当に独りで、強いけど、でもそれだけではダメなんだという気に香をさせた。
だから香はたったのハタチになったばかりの世間知らずの内から、
そこに自分の居場所を創り上げるという、途方もない挑戦を余儀なくされたのだ。
もしかすると、そんな大それた望みなど、放り出すことは簡単なことだったのかもしれない。
けれどそうしなかったのは、香には撩が必要だったからだ。
撩は、色んな人から必要とされる。
それでも撩は、誰のことも必要とはしていない。
兄に愛されて育って、自分以外の誰かを心の拠り所に出来る幸福を、香は知っているから。
だから香は撩に出逢ったその時から、撩に必要とされたかった。

そして挑戦は現在進行形で、今も継続中だ。
居場所を創ることは香ひとりの心の中で思うほど、簡単なことでは無い。
何しろ相手は世界№1のスイーパーで、一筋縄ではいかない男だ。
失敗は数限りなくやり尽くし、出来ない歯痒さを撩に八つ当たりしたり、
怒ったり、泣いたり、拗ねたり、家出したりして、それでもなんだかんだと香は立ち直ってきた。
因みに、家出はこれまでに二度、教授の所とミックの所に転がり込んだ。
それでも少しづつ、それなりに居場所は出来ているのかもしれない。
けれどそれではまだまだ不充分だと香は思うのだけど、
何が足りないのかがその都度解らなくて、相変わらず失敗してからその事に思い当る。





つい二日前も、撩の命を狙う殺し屋稼業の男に易々と連れ攫われた。
結果的には、いつもの如く撩が現れて、難を逃れて一件落着した訳だけど。
今回は警戒心と備えが足らなくて、香は自分の不甲斐無さにまたしても、
自己嫌悪と劣等感の無限ループの狭間を、行ったり来たりしている。
本当に撩にとってなくてはならないと思わせるような、そんな相棒に香はなりたい。
かつて大好きな兄がそうであったように。






・・・はぁっっ


溜息は思ったよりも大きくて、吐いた香自身が少しだけ驚いた。
飲みに出掛けた撩が不在の深夜に起きていても、マイナス思考が増長するだけなのは百も承知だ。
もう春だというのに真夜中は寒くて、香は開け放ったベランダの入り口に小さく丸まって座り込んだ。
昼間は花粉が飛んでいるらしいけど、生憎、香は今の所平気だ。
アレルギーなどとは無縁の体質で、幸い、身体だけは丈夫だ。
滅多に風邪も引かない。
体力にも自信があるし、この手や足は幾らでも彼の為に使えるはずなのに。
いざという時にいつも、彼の足枷となる自分が香は嫌いだ。





なんだよ、まぁだ気にしてんのかぁ?しょうがねえなぁ。




突然、背後から間延びした相方の声がして、香は驚いて振り返った。
撩はただいまも言わずに帰って来ると、どうやら香の大きな溜息を聞いていたらしい。
困ったように眉尻を下げて笑っている撩は酷く酒臭いのに、一見酔っているようには見えない。
縮こまった香の隣に、ドスッと座り込むと胸ポケットの煙草を探る。




ったく、ウチの相棒は気にしいだからなぁ。



そんな風に笑いながら言われると、大した事じゃないのかもしれないという気持ちにさせられるけど。
香は胸が締め付けられる。
幾ら撩が強かで頭の回転が速い運の良い男でも、撩は生身の人間だ。
香を餌に誘き出されて怪我を負ったり、まして命を奪われないとも限らない。
香は世界中の誰よりも、撩の事を信じてもいるけれど、同時に心配もしている。
撩の無事や幸せが、いつも撩の傍にありますようにと願っている。
それなのにその平穏を乱す理由のひとつが足手纏いの自分にあるのなら、そんな矛盾している事は無い。




そりゃ、気にするわよ。気にしない訳無いじゃない。




そもそも、颯爽と香を救い出しだ次の瞬間、間抜けだのど阿呆だのと罵声を浴びせたのは撩自身だ。
香はそれらのお馴染みの一連の遣り取りでも、毎回、自分の不甲斐無さを噛み締めるのだ。
たとえそれが、過剰な心配が一転、割と元気に監禁されていた事への安堵感からくる、
撩なりの愛情表現というか、親密さゆえの言動だとしても、そういう風には香は思い至らない。
それでもさり気なく、撩が自分のことを”相棒”と呼んでくれた事に、香は内心ホッとする。
俯いたままの香の鼻先を、撩が火を点けた煙草の薫りが掠める。
ジッポーの蓋を開ける時の小さくて鋭い金属的な音や、オイルが暖められて放つ独特な匂い。
撩が隣に居てくれる、安心感。
肌寒い早い春の夜更けの冷たかった筈の空気が、一瞬で変わる。
香の敵だったように思えた世界中の全てが、撩が傍にいてくれるだけで見え方が変わるのだ。
やっぱり自分には、撩が必要だと香は強く思うけど。
果たしてその逆が、撩にとっての自分はどうなのかということが、香にはまだ解らないでいる。
こうして自分を相棒だからと甘やかしてくれるのが、純粋に撩の優しさからくるものなのか、
自分を相棒だと真に認めてくれている証なのか、香には判断がつかない。
立てて座っている己の両膝に、香は顔を埋める。
滲みそうになった涙を見られないように、部屋着代わりのスウェットの分厚い生地に瞼を押し付ける。




お前さ。



返事をしないといけないと、頭では思うけどきっと酷い鼻声だから香は声は出さずに撩の言葉を聴いた。
多分、撩も解っているから、返事が無くても特に気にもせずに続けた。




いつも謝るじゃん?ゴメンって言うけどさ。まず、あれから止めようか。




撩の言葉に意表を突かれて、香は思わず顔を上げた。
鼻の頭と目の縁が赤くて、目も心なし涙目だ。
撩にしてみれば、彼女が涙ぐんでいたことなどバレバレなので今更だけど、
香はそんなことすら一瞬忘れて、撩をまじまじと見詰める。




どういうこと?

いちいち、そんな簡単に謝るなよ。助けに行くのはパートナーとして当然だろ?

でもっっ

カオリンが素人に毛が生えた程度の腕前だって事くらい、今更だしな。

ゎゎわ悪かったわね///

まぁまぁ、そんなに拗ねない、拗ねない。カ~オリン





口調は軽いけど、そう言って煙草を吸いながら香を諭す男の瞳は至って真剣だ。
解っている、撩はいつだってそうだったと、香は思う。
大きな声では言えない裏稼業だけれど、仕事の面では撩はいつだって遥か雲の上の存在なのだ。
香がその広い大きな背中を追い掛けても追い掛けても、全然追い付けない。
香は撩の事を好きだという気持ちも勿論あるけれど、根底には尊敬の念がある。
撩のように強く優しい人間に、自分もなりたいという憧れから全てが始まった。





じゃあ、なんて言えばいいの?

ん?

ごめんなさいって思う時、なんて言ったらいいのかな?






まるで子供のような澄んだ目で訊ねる相棒が、撩には眩し過ぎていつも直視できない。
彼女が自分の傍に居ていつも、思い悩み、成長するのを目の当たりにしてきた。
それでも目の色だけは、あの頃のシュガーボーイの頃のままで、撩は彼女に強く憧れている。
撩には絶対に獲得できない純粋さで、彼女はこの世界の淵を覗いている。
撩には無い沢山のモノを握り締めて、香はきっとこの世に生まれてきた。
それはもしかすると、幸せという形の無いものを撩に分け与えてくれる為の、
香の使命のようなものなのかもしれないと撩は思うのだ。
だから、撩には香が必要だ。
香を喪うことだけが、撩にとっての危機なのだから、勿論何処にだって救い出しに行く。






あぁん?そりゃ、お前。 ありがとー、で良いんじゃね?ありがと、って言って笑ってろよ。





やっぱり、と香は思う。
撩が居るだけで、ガラリと世界が変わる。
撩は優しい。撩は温かい。撩はいつだって、単純な言葉1つで香の世界を塗り替える。
撩と出逢った頃、香はまだまだ世間知らずの生意気な小娘だったから、
香にとって撩は、生きていく為の指針であり大きな目標だ。
そして、愛すべき家族でもある。
また涙が溢れそうになったけど、香はそれを必死に堪えて頷いた。
鼻の奥がツンとした。





うん、そうする。ありがとう、りょお。




笑顔は、自然と形作られた。
それまでの悩みはそれはそれとして、また何かある度にきっと香は悩むだろうけど。
多分、こうしてその度に、撩が笑顔に戻してくれる。
的確なアドバイスを香に齎して、パートナーとしてあるべき姿を示してくれるだろう。
と、真面目に受け止める香は、どこまでも純粋だ。






どう致しまして、それじゃ、お礼をひとつ貰っとくかな。

え?




香の疑問符は、取り残されたまま。
撩は口に咥えた煙草を、利き手の人差し指と中指に挟んだ。
その指先のあまりの美しさに香が目を奪われている隙に、撩の唇が香に触れた。
香がその事に気が付いた頃には、
撩はもう元の姿勢に戻って楽しげに煙草を燻らせながら、クククと笑った。
ホンの一瞬の出来事だった。
香はいつまでも赤くなって、撩の小さく震える喉仏を見詰める事しか出来なかった。







ホワイトデーも何か書きたいなぁ、と思ってるけど、
取敢えず書きたくなったからお題で更新です(*´∀`*)ノシ
創作意欲の糧となる出逢いに感謝を込めて。

またしてもnaseさんに描いて貰っちった(*´∀`*)ノシ

おはこんばんちわ、ケシです。
ワタシはシティーハンターが好きなのは勿論なのですが、
実は寺沢武一先生の絵も好きで、その中でもコブラが大好きなんです。
肉体美という点で、北条先生の絵と同様色気が半端無い。
それなのに、厭らしく感じないという稀有な才能だと思うのです(握拳)

集英社から発行されてるスペシャルカラーバージョンの、
スペースアドベンチャーコブラの第3巻の表紙を見て、これをRKに変換したら萌える。
と思いまして、早速naseさんに具現化して戴きましたm(_ _)mいやはや、無茶振りが過ぎる俺。

naseさん、ありがとおおおおおおおぉぉぉぉ(ノД`)・゜・。

という訳で、追記からどうぞ。
セクシーですぞぉ(背後に注意。)

[ 2016/03/23 01:35 ] GIFT | TB(0) | CM(0)

3/26

ハイ、カオリ  ごきげんよう




香の背後に現れたのは、金髪碧眼の隣人(正確を期すれば、お向かいさんだ)だった。
訳もなく焦ったのはそれが、普段の香なら足を踏み入れる事も無い人気の洋菓子店だったからだ。
ショートケーキがひとつ680円もすることに眩暈を覚えそうになるのを堪えて、香は振り返った。
全国展開のリーズナブルな某洋菓子店なら、せいぜいが400円前後だろう。
680円も出せば、行きつけのスーパーの得々市で牛と豚の合挽肉600gのパックが買えるし、
きっと撩なら、あのショートケーキひと切れなど一口で平らげる。
そんな風に考える香にも、勿論、解っている。
そのショートケーキに乗っかって燦然と輝く大きくて真っ赤な苺が、有名な産地のブランド苺だということくらい。
卵もバターも生クリームも、きっとそこら辺の安物とは違う原料を使っているのだろう。
ピカピカに磨かれたショーケースの中の小さな芸術は、どれもこれも魅惑的だ。




ミック、こんなとこで会うなんて珍しいわね。



ここで彼に声を掛けて貰ったことは、良い間合いだったと後に香は振り返る。
一旦、ケーキに魅せられた己の脳内をリセットして、冷静になれる。
それでも、家で焼こうと思っても、それなりに材料費は掛かるのだ。
撩も香もそれほど沢山は、甘い物も食べない。
普段なら高くて躊躇うような美味しいケーキをたまには買って帰ろうと、思い立ったまでは良かったけれど。
いざ値段と睨めっこをしてしまうと、香の天秤は激しく揺れた。
それでも今日が何の日か、その日を決めた張本人の香には何より大切な日だから。
ケチりたくないという気持ちもあったりする。
そんな心の鬩ぎ合いの最中に現れたのが、ミック・エンジェルだった。
彼は文字通り、天使のように邪気の無い笑顔で香に微笑んだ。
それでも香が気付いて無いだけで、彼は邪気だらけだ。むしろ、邪気と下心しかない。





ここのケーキは、美味しいからね。カズエが好きなんだよ。

あはは。うちには専ら縁は無いんだけど、たまにはどうかなーって思って悩んでる最中だったの。




そう言った香に、ミックはああ、と得心した。




今日は、26日か。

・・・う、うん。






頬を染めて少しはにかむ香のことを、実はミックは未だに可愛いと思っているけれど、口には出さない。
今ではミックにはかずえがいるし、香にしたって撩しか眼中には無いのだ。
大人の分別というものを発動して、ミックは今の所猫を被って友達として香に甘えたりしている。
結局、香はこの店の常連だというミックお薦めのスペシャルショートケーキを2つ買って帰路に着いた。
同じモノをミックも、かずえの分と自分の分も買って香の隣に並んで歩く。




あのさぁ、カオリ。

なぁに?




香はケーキの箱の他に、エコバッグも抱えている。
それほど持ち重りのするものが入って無さそうな所をみると、
きっと本日の晩餐の材料は、予め準備万端なのだろう。




前に、アメリカ行きの飛行機に乗る日の朝にさ、キミの部屋で話したことおぼえてる?

ああ、アルバム見ながら?

うん、そうそう。




香は未だに、高校生の頃の初めての出逢いの事を、撩には黙っている。
あの時、香は自分が槇村香だとは名乗らなかった。
あの2年後に偶然再会した時にも、撩ははじめ香のことを男の子に見間違ったのだ。
香だけが知っていて、香にだけ意味のある3月26日なんて、
きっと撩にとっては365日の内の、何でも無いたったの1日だっただろうから。
香は言えない気持ちをコッソリ込めて、その日を撩の誕生日にした。
大事な人と2度も出逢った大切な日に感謝を込めて。




26日の意味、リョウのヤツは解ってないんだろうなってあの時言ったでしょ?カオリ。

うん、わかってないと思うよ。

どうして?

だって、アタシが強引に誕生日に決めた時にも、
その日に何の意味があるんだ??って言って、不思議そうにしてたもん。





香の言葉に、ミックは意味あり気にフフフと笑う。
香は正直者だから、人の言葉は言葉通りに受け止める。
捻くれ者は大抵、言葉を言葉通りには受け止めない。
ミックには解る。
撩とは捻くれ者同士、腐れ縁の付き合いは香よりも長いのだ。




多分、解ってるんじゃないかな。

えええええ、ほんとぉ?ミックはそう思う?

うん。

どうして?

アイツが、一度見た可愛い女の子の顔を忘れるはずがない。アイツの特技だ。





香は、ミックの意見を聞いて、残念ながら見当違いだと思った。
何しろ、撩は香のことを“可愛い女の子”とは認識していないのだから。
2度とも撩は、香を男の子だと思い込んでいた。





残念でしたっっ、ミック。

Why?

撩にはアタシのこと、男の子に見えたみたいだから。






そう言って、嘘みたいに爽やかに香が微笑んだところで、互いの家の前に到着した。
それじゃ、今からご飯作らなきゃ。腕によりをかけてね♪
と言いながら、向かいのビルに消えていった香はまるで、軽やかな春風のようだとミックは目を細めた。
ミックの邪気など、香の笑顔の前ではアッサリと払われる。
そしてやけにアッサリと香を見送ったのは、向かいの6階のベランダに只ならぬ殺気を感じたからでもある。












夕飯は、撩の好きなハヤシライスにした。
シーザーサラダの上には、半熟気味のゆで卵のスライスをトッピングにして。
それだけでは撩の胃袋には少々物足りないので、唐揚げを大量に揚げた。
鶏の胸肉ともも肉を、それぞれ味付けの違うタレに前の晩から漬け込んで濃い目の味に仕上げた。
夕飯を食べて満腹でソファにゴロ寝した撩と、自分用にも、奮発して買った680円のショートケーキと、
いつもより少しだけ贅沢なコーヒー豆を挽いたブラックコーヒーを淹れて。
ここのところ、少しだけ距離が縮まったように思える(でも気のせいかもしれない)撩の誕生日を、
香は家計を遣り繰りして出来る精一杯でお祝いした。
本当はサプライズで、クーパーの新しいタイヤホイールを注文しているけれどそれはまだ内緒だ。
(因みに、その予算については家計とは別立てで香のへそくりから捻出した。)

香の予想通り、撩はその苺の乗ったケーキを瞬殺で平らげた。
一瞬、甘そうに眉間に縦皺を寄せると、濃い目に淹れたコーヒーをカップの半分ほど一気に飲んだ。
色々と解説を交えて結局は王道のイチゴのショートケーキを薦めてくれたミックの言葉を、香は思い出す。
撩は多分、香が撩の誕生日を3月26日に決めた本当の理由を解ってるんじゃないかという。
半信半疑だけれど、解っていなかったらいなかったで別に良いし、でも少しだけ。
訊ねてみたいと、香はふと思った。

3月26日が、何の日か知ってる?って。

穏やかな春の夜に撩は一応飲みにも行かずに、香が望んでいるように生きて一緒にこの日を過ごしてくれた。
だからもしも撩が、その問いに多少意地悪なことを言ったとしても、華麗に流せる程度には香も上機嫌だ。








ねえ、りょお。

ん~~?

今日って、撩の誕生日でしょ?

まあ、一応な。おまぁが作ってくれた日な。




そう言って、撩は低く笑った。
朝から香が子供みたいにテンション高く、楽しそうにおめでとうを連発しても、
どこか冷めたようにフフンと笑うだけだけど、本当は撩も上機嫌なのは何となく香にも解る。
現に笑う撩の目は穏やかで、優しい。




あのね・・・この日が何の日か・・・りょお、し、知ってる?



意を決して、あくまでサラッと訊くつもりだったけれど肝心のところで、香は照れてしまった。
噛んだ上に赤面していたら、不審以外の何物でも無い。
撩がそんな香をニヤつきながら見ていることなど、香は意識していない。
撩は澄ました顔で、カップの中の残りのコーヒーを飲み干した。
何気なさを装ってコーヒーを啜りながら、その実質問の答えを全力で待っている可愛い仔猫ちゃんに、
撩は犯罪級に憎らしい色男の笑みを浮かべる。




はて?何の日かなぁ? なぁ、シュガーボーイ。

ブッッーーーー

あ~あ~、もうしょうがねえな、台拭き台拭き。





撩の“シュガーボーイ”という呼び掛けに、香は思わず口に含んでいたコーヒーを全部吹き出した。
台拭きを取りにキッチンへと逃げた撩の意地悪は、香の想像を超えていた。


キッチンへと逃げたのは、ただの口実だった。
あの頃と全く同じ。
ブラックコーヒーを吹き出した可愛いシュガーボーイのことは、憶えているに決まっている。
撩の可愛いシュガーボーイは今頃、赤面した頬を更に真っ赤にして固まっているだろう。
台拭きと一緒に、ミルクでも運んで、ついでに礼のひとつでもするしかないかね、なんて。
撩が不埒なことを考えているとは、“シュガーボーイ”こと槇村香はまだ何も知らないでいた。






ギリギリ、ハッピーバースデー(*´∀`*)ノシ リョウちゃん、おめでとおお

[ 2016/03/26 23:30 ] 短いお話 | TB(0) | CM(1)

3/31

撩が顔を埋めると、栗色の癖毛の奥の地肌はしっとりと汗ばみ甘いシャンプーの匂いが濃密に薫った。
滑らかな筋肉質の胸板に包み込んだ香の肌は、絹のような手触りでいつまで触っていても飽きる事が無い。
胸板に当たる香の背中には、まるで芸術作品のように美しい背骨と肩甲骨がまろやかな陰影を描く。
そのひとつひとつを唇で辿ると、香は気怠げな躰で擽ったそうに身を捩る。
オレンジ色のベッドサイドのランプだけが点った部屋で日付が変わった頃に、
携帯のメール着信を知らせる青いライトが数回点滅した。

恐らくそれは、ミック・エンジェルか北原絵梨子か伊集院美樹か、ともかく香を可愛がる誰かからの祝の印だ。
日付が変わったこの日から二十数年前に、香はこの世に生まれた。
おめでとうと祝ってくれる人間が、歳を取る毎に増えてゆくのは香も撩もおなじだ。
香が生れてから一度目の3月31日には、既に産みの父母とは別の世界に生きていた。
その時にはもう、育ててくれた父と兄が精一杯の愛情を持って祝ってくれていた。
父は香がまだ小さかった頃にいなくなり、それからは19回目の誕生日まで。
祝ってくれたのは兄ひとりだった。
20回目の誕生日は命日に変わり、その時の撩は誕生日の意味など解らぬ男だったので、
おめでとうを言うより先に、目の前に大金を積んで、この金を持って逃げろと言った。
お前の命は組織に狙われているから、と。
その時に初めて、常々薄ぼんやりと抱いていた兄のしていた仕事への不安が現実のものとして、
香に突き付けられた。
その2年前から抱いていた撩への淡い想いは、瞬時に決意へと変わった。
逃げるなどという選択肢は、香には無かった。
兄がやり残した仕事と想い人が目の前にあって、全てを無くした香が失うものなどそれ以上無かった。

それから何度目かの誕生日を、香はこうして撩の腕の中で迎えている。
色々と紆余曲折を経て、結果、香の淡い初恋は実ったわけだが。
撩の傍に居たことで香が得たものは、それだけでは無かった。
依頼を通して再会した旧友とは、高校時代以上の絆で再び親交を深めている。
お馴染みの同業者の数人とは、数々の修羅場を共にして今では友人を超えた存在になりつつある。
家族を喪った香には、撩という最愛の家族が出来た。
枕元近くの携帯が小さく震えた振動は香にも解ったし、
目の端に青白い灯りが点ったのにも気付いてはいたけれど、正直その時の香はそれどころでは無かった。
撩の逞しい腕に支えられて力なく揺さぶられていた香は、
もうその時点で幾度目かの絶頂を極め、正常な判断能力と思考能力を欠いた状態だった。
撩の動きに合わせて形を変える操り人形のように、撩に翻弄され、快楽の濁流に呑まれていた。
どうすれば撩が気持ちがいいのか、香自身も没頭できるのか、その位は解る程度には撩に慣らされている。
香自身は気が付いてないけれど、ベッドでの香の振る舞いは完全に撩の好みのツボを押さえている。
またそのように香を仕込んだのは、他でも無い撩なのだから、それは当然の結果といえばそれまでだ。

形の良い後頭部に鼻先を埋めて、薄い唇でうなじ辺りを触れるか触れないかの距離で優しくなぞる。
抱き込んだ香の二の腕の肌が粟立った情報が、撩の繊細な皮膚感覚から正しく脳に伝達される。
常に小さく開かれた香の形の良い唇から、意味深な吐息が漏れる。
それまで香の皮膚を意味も無く当て所無く擦っていた撩の両掌は、柔らかな双丘を優しく包み込んだ。
束の間の休憩を挟んで微睡んでいた香の躰に再び熱が籠り始めたのを合図に、
双丘の頂に存在する突起が固く主張し始める。
人間の身体は不思議なもので、
脳内で関連付けられた感覚と快楽はあっという間に条件反射という名のホットラインを構築し、
今では撩の軽い愛撫だけで、香の躰は面白いほどにリアクションする。




カオリン、もう1回しよっか。



勿論、わざわざそのような事を訊かなくても、香はそのつもりだ。
それでも撩は必ず声に出して、相棒に請う。
こんな風に好きな女と寝る事を、楽しんでいるのだ。
飄々とした撩の平常通りの声音は切羽詰っている自分とはかけ離れているという想いが、香を更に煽る。
女を扱うことに慣れた男を愛おしいと想うのと同じくらい、憎らしく思う。
憎らしいと思った瞬間に、独占欲が渦巻く。
もう金輪際、撩の手が他の誰にも触れる事など無いように、撩の眸が他の誰のことも見ないように。
2人してこの瞬間にこの世から消えてしまえたら、誰も居ない世界の果てならば嫉妬に狂うことも無い。
この寝室のこんな刹那にだけ、香は他の誰のことも考えられなくなる。
友人のおめでとうの言葉も兄との温かな思い出も大事は大事なのだけど、
撩という圧倒的な存在の前では全ての事が、もうどうでも良くなってしまう。
その事実を、香は他でも無い撩に教え込まれた。
香にとって、撩だけが大切で、撩以上の存在はこの世に無い。
撩が居なければ、香も生きている理由が無い。
香はきっと撩の前では孵化したばかりの雛鳥みたいにちっぽけな生き物で、撩はきっと獰猛な猛禽類なのだ。
香の返事も待たずに、背中から抱き込んでいた躰を仰向けて組み敷いた撩の嘴は、
痛いほどに尖って疼いた香の先端を啄む。
香の細い指が胸元で揺れる撩の黒髪を弄び、弱弱しく踠く。
猛禽は鋭い嘴で獲物を引き裂いて肉を引き千切るけれど、撩が香に刻み付けるのは快楽の爪痕だ。
夜の始まりには小さく震えるようだった香の訴えも、数度目かには快楽が恥じらいを上回る。
掠れた囀りは、それだけで撩の劣情に火を点す。
その啼き声が、撩はずっと聴きたかった。

初めて逢った頃の香は、兄を心配してまるで小さな子供のように撩の前で泣いた。
今にして思えば、本当に子供だったのだ。
それなのに今、撩が溺れてしまっている目の前の香は、あの頃が嘘のように女になった。
撩がそうさせてしまったのだ。
そのことに、少なからず撩は責任を感じてもいた。
だからこそこうして溺れる事に、何年間も躊躇った時期があったのだ。
解っていて気付かないフリを続ける事に限界を感じた頃、真実に気が付いたのだ。
責任を果たす道は、ひとつしか無いということに。
責任を取って、香のヴァージンを美味しく平らげた撩は、
それまでの躊躇いがなんだったのかという程に、耽溺した。
それでも何処かで罪悪感を覚えたりして、隣で眠る香の寝顔をずっと見つめたりすることも偶にある。
槇村香という女がこの世に生まれてきた意味が、自分の傍になど有るのかという問いは撩を度々苦しめる。
国籍も無い存在さえも世間には認められていない、殺し屋稼業の男の傍で幸せだと微笑む女が、
果たして本当に幸せだと言い切れるのか、撩には正直自信が無い。
彼女が生まれてきたこの日を、彼女の一番大切な家族の命日にしてしまったのは、
香がたとえどう考えていようと、自分の責任だと撩は考えている。

しかしそんな風に小難しいことなどを考えて、
罪悪感に支配されそうになる撩を掬い上げて笑顔にさせてしまうのも、他でも無い香なのだ。
香は一見、正直者で献身的で自己犠牲の精神に溢れ健気に見えて、
実際はかなりの快楽至上主義者だということを知っているのは、多分この世で撩だけだ。
確かに見たままの印象に間違いは無いけれど、それ以上に自分に正直な人間だ。
でなければ、ハタチの誕生日の夜に仇とも呼べる裏稼業の男の元になど、転がり込む事は選ばないだろう。
フラフラ浮浪雲のような男との生活で、怒ったり拗ねたり愚痴ったりはしてみても、
最終的に零れ出す香の笑顔には、一切の曇りや陰りは無い。
香が幸せだと言えば、それは香にとってはそれ以上でも以下でも無く、本当に幸せなのだろう。

撩はしっかりと打ち込まれた楔のように、香自身を己に縛り付けておきながら、
同時にそれで良いのかと煩悶する。
もはやこうして責任を取ると決めて香を抱いたからには、それは無意味な自虐プレイでしかない。
撩は槇村香限定で、精神的には完全なマゾヒストである。
香だけが撩の心の中を支配している。






撩の生み出す圧倒的な心地良さの前で、
完全に骨抜きにされた香は四つん這いの姿勢を保つのにさえ苦労する。
上半身に力が入らなくて2人の汗で少しだけ湿ったシーツに、くたりと力なく躰を預ける。
腰だけが撩に支えられて高く持ち上げられ、撩と繋がった一点が熱く潤む。
撩の抽挿に合わせて触れ合う互いの皮膚が打ち付けられて、小気味よい音が寝室に響く。
その合間に香の唇からは絶え間なく喘ぎが零れ、撩の吐息も小さく漏れる。
いっそ獣同士なら、余計なことなど考えずにいられるのかもしれない。
そして快楽にも欲望にも相棒にも忠実な香は、無言で本能で撩を誘う。
疑問も持たずに、撩を信用し全てを撩に委ねる。
命を奪うことを生業とした男に、無防備にも己の命を預けて笑っている。
自分でも失くしてしまったと思っていた撩の人間らしい心は、
香が傍に居て笑ってくれたことで辛うじてまだ生きていたと、気付かされた。
香にとって良い事だったかどうかは撩には解らないけれど、撩にとっての2人の出逢いはまさに幸運だった。
香がいるから、撩が今を生きている理由がある。
香がいることが、撩の幸せだ。
彼女を幸せに出来ているかどうかは解らないけれど、自分は幸せだと撩は胸を張って言える。




撩の膝の上に跨った香は、クッタリと力を抜いて撩の胸に躰を預けた。
何度いったかわからない程に絶頂に達し、声が枯れるまで啼かされた。
日付が変わって暫く経った頃、漸く撩の奔放な欲望が落ち着いた。
呼吸は整い始めて穏やかな空気が寝室を満たし始めるけれど、2人は相変わらず繋がったままだ。
向かい合った香の額に、撩は愛おしげに唇を寄せる。
汗ばんだ肌を唇で撫ぜる。





カオリン、誕生日おめでとう。



小さく囁いた撩の頬を、香が両手で包む。
声を出さずに小さく唇の形だけで、ありがとうと答えると、薄くてセクシーな撩の唇に己の唇を重ねた。
やっぱり撩は香に支配されている。
短いキスの後で艶やかに微笑んだ香を見て、
見えない首輪に繋がれてこのまま運命に流されてしまう方が幸せなのだという真実に気が付いてしまった。





ギリギリで間に合った(´艸`*)
カオリン、お誕生日おめでとおおおおお。やっぱり、カオリンが好き。

[ 2016/03/31 23:55 ] 短いお話 | TB(0) | CM(3)