唾つける

こんばんわ、ケシです。

初場所で初優勝をした琴奨菊関の話なんですが、
琴奨菊が小学生の頃、先代の佐渡ヶ嶽親方(元琴櫻関)にスカウトされた時のエピソードが萌なんです。
身体の大きい琴奨菊を見て、

「身体が大きいねえ、大きくなったら佐渡ヶ嶽部屋に来るんだよ?」

って声を掛けて、琴奨菊のおでこにぺたって唾をつけたらしいです。
で、

「もう、唾つけたから、佐渡ヶ嶽部屋においでね

と、駄目押しされたという話。
おでこに唾つけるっていうのが萌える(´艸`*)
しかも圧倒的な憧れの存在に、それをやられる小学生力士の心を思うと、身悶えるね(握拳)
相撲部屋とか全く関係無いケド、RKでなにか応用できないか・・・
おでこに唾つけて、予約するっていうのを(涎)
何の予約か、なんて聞くだけ野暮ってヤツで、勿論モコーリの予約ですよね(悶)
ま、ただの戯言ですが。



因みに、ワタシは逸ノ城が好きです。
何故なら、逸ノ城見たらこびとづかんのカクレモモジリを思い出すからです。
もっと勝って欲しいなぁ、と思いながらいつもお相撲観てます(*´∀`*)ノシ

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[ 2016/02/01 22:15 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)

最終話 satisfaction

こうして画面で観てるなんて、なんか不思議だね。








あの日、撩と香が軽口を叩きながら埠頭の寂れた倉庫の中で、
チンピラ達を縛り上げていると一足遅れのサイレンが鳴り響いて、
その先頭を切って現れたのは女豹の転がす真っ赤なポルシェだった。
大袈裟にパトカー5台を率いてやって来たにも関わらず、仕事はとうに済んでいた。
冴子は、頭数だけは沢山の獲物をしょっ引く為に、応援の為の車輛を手配しながら、
テキパキと部下に指示を出して5台のパトカーに積めるだけの獲物を積んでいた。

ごめんね、こういう訳だから、取敢えず依頼人は貴方達が連れて帰ってくれないかしら?
今後の事はまた、追って連絡するわ。

追って連絡するというなんともアッサリとした言葉1つで、
冴羽商事の2人と、大塚健吾は完全に蚊帳の外だった。
仕方なしにクーパーに乗り込んで家に帰る頃には、ちょうど昼時で。
何の支度も出来ていないという香の言葉を受けて、撩は喫茶キャッツアイに立ち寄った。
メニューを一瞥して、炭水化物を取らない選択肢が無いものかと、
カウンターに横並びで座った撩と香に視線を送る大塚だったが、2人は華麗にその視線をスルーした。




あたし、エビピラフ大盛り。

んじゃ、俺はナポリタン、大盛り。



冴羽商事の2人は、躊躇なく炭水化物の大盛りを注文した。
言葉は無くとも、伊集院隼人は大塚健吾の視線と態度で真意を汲み取った。



生憎、ウチのメニューはそこに書いてあるだけだ。勿論、普通盛りも出来るぞ。


大塚健吾は怯んだ。
これまで結構いかつい人種には見慣れていたつもりではあったが、彼はちょっと例外だった。
恐らくお愛想で笑ったつもりらしい歯を見せた口元と、メニューを握った大きな手が嫌でも迫り来る。
仰け反った大塚に、撩が横からアドバイスを差し向ける。



ここは、ナポリタンがお勧めだぞ。せっかく来たんだから喰っとかなきゃ損だ。

美味しいわよ



大塚は暫し真顔で、隣の撩とそのまた隣のにこやかに笑う香を交互に見詰める。
居候期間中に解った事は、この2人は非常に良く食べるということだ。
それでも冴羽撩は認めざるを得ないほどに、逞しくバランスの取れた理想的な体をしていて、
槇村香は、驚くほど華奢でしなやかだ。
そんな2人は屈託ない表情で、まるで育ちざかりの高校生の様なメニューを注文をする。
ふと、大塚は色んなことが馬鹿馬鹿しく思えた。
休暇が明けたら、多分またいつもと同じようにストイックな習慣を続けるのだろう、それは彼の性格だ。
でも、2人と一緒にいると、何故だかそういう些細なこだわりが、下らない事のように思えてきた。



じゃ、それで。

大盛り?



短く答えた大塚に、間髪入れずに美樹が確認を入れる。
大塚は眉をハの字に下げて苦笑すると、普通で。と付け加える。
生憎、喫茶キャッツアイのオーナー夫婦は、芸能人になど興味が無いので、彼を知らない。
今回の依頼人は珍しく、やけに線の細い今時の若い男の子なのね、としか思っていなかった。
数日後に、依頼が片付いた香に美樹は大塚の事を知らされるのだが、この時点ではまだ知らない。





その後、撩とミックが冴子経由で警察にリークした、例の大臣とその仲間の暴力団は、一斉に検挙された。
現役大臣の黒い付き合いと政治と金の問題は、まだ暫くは世間を賑わせるネタになりそうだ。
その政治家の息子で、大塚の幼馴染みでもある遊び人は薬物所持及び使用の疑いで逮捕された。
彼だけでなく、その周辺の大塚の仲間だった連中も数人、同様の事案で逮捕されている。
実は、大塚自身の身辺にも捜査は及んでいた。
冴子は一応、世間的な影響などを鑑みて彼の身柄を冴羽商事に委ねたものの、
100%信用に値する人物とは考えていなかったらしい。
しかし、彼が冴羽アパートに滞在している間に、
調べを進めて薬物と曰く付の連中との付き合いについては、完全に疑惑は晴れた。
大塚は今でも度々、若者に人気の盛り場のクラブに顔を出す事もあるらしいが、
それは以前の遊び方とは明らかに違っていた。
今の彼は、自分にとって何が一番大事なのかという事をちゃんと弁えている。
倉庫街での銃撃戦の翌日には、大塚の事務所のマネージャーが菓子折りを持ってアパートに現れた。




それから数日、休暇を終えたイケメン俳優が久し振りにテレビ画面に姿を見せたのは、
某国営放送の長編歴史ドラマの制作発表兼キャスト紹介の記者会見場での様子だった。
ほんの数日前まで、オフの彼が自分達のアパートで生活を共にしていて、
その時の彼とテレビに映る彼は、やっぱり纏うオーラが違うのね、と香は思った。
テレビの向こう側の彼は、輝いて見える。




午後のリビングで香が珈琲を飲みながら流し見していたニュースに、大塚が出てきて撩は訳もなく焦った。
マネージャーが彼を迎えに来る前の晩、
香が風呂に入っている時間帯に、撩は大塚と初めてちゃんと向き合った。
曇った夜空を見ながら屋上で、大塚は香に惚れたと、撩に言った。
冗談ではなく、本気で。
それでも、その気持ちは封印する、とも宣言した。

『だって、香さん。アナタの事しか見てないんだもの。』

そう言った大塚は笑いながら、
今後ラブシーンを撮る事があったらその時は、心の中で香さんを思い浮かべます。と、ぶっちゃけて、
撩に小突かれた。




でも、ほんとに、俺好きですよ、冴羽さんのことも同じくらい。前に言ったかもですけど。

いいよ、別に告白してくれなくても、俺ソッチの趣味ねえから。



撩がフンと鼻を鳴らして煙草に火を点けるのを、大塚は手摺に凭れて眺めた。
大塚は元来、悪い男に惹かれる傾向にあるのだろう。
捕まってしまった悪友のことも、
退屈で品行方正な私立の坊ちゃん高校の高校生活の中では、とても魅力的に映ったのだ。
何にも縛られず、自由に振舞って好きに生きているように見えたから。

今思えば、自由に見えて誰しも何かに縛られて生きているという事は、痛いほど良く解る。
悪友は法を犯して、これまで謳歌してきた奔放な生き方に強制的に終止符が打たれたし。
この目の前の、法の外で生きる彼と彼女もまた、
普通の人間には想像もつかない葛藤に縛られて生きているのだろう。
自由やアウトローに憧れる大塚健吾はしかし、
自分が如何にお坊ちゃんの甘ちゃんで、親不孝な息子だったのか、今回の件で重々自覚した。
大塚が一番驚いた事は、撩が自分の父親とコンタクトを取っていて、手紙を受け取ってきた事だった。
高校生の頃から、まともに口を利く事も無くなっていた父親の書いた文字は、堂々として立派だった。
両親が自分の仕事に関心を持ち、あまつさえ応援をしてくれているという事実は、
とても擽ったくて、本音を言えば飛び上るほど嬉しかった。



『だからお邪魔虫は退散しますから、サッサとやっちゃって下さいよ、香さんと。』

随分年下の生意気なクソガキに、突然そんな事を言われて、
煙草の煙が変な所に入り込んだ撩は、激しく咽込んだ。

香の知らないそんな出来事を思い出したから、焦ったのだ。
勿論、顔には出さない。
ポーカーフェイスが板に付いた撩には、動揺を見せない事ぐらい朝飯前だ。







なんだ、カオリン。イケメン君が帰っちゃって淋しい~~~てか。

ふふふ、別にそんなんじゃないけど。

けど?

ココにいる時は、年相応の男の子って感じだったけどさ、こうして見るとやっぱりカッコいいんだなぁって、ね。

はあ?あ~いう奴がタイプなんだぁ、ふ~~~ん。

だからっっ、違うってばっっ。そういうんじゃなくて。




茶化して混ぜっ返したのは自分のくせに、撩はこの遣り取りにイラツキを覚える。
どういう意味合いだろうが、香の口から他の男の評価を聞かされるのは胸糞悪い。



違うの、撩は全然解ってないもん。

なにが?

やっぱり、彼にとっては俳優って仕事が天職なんだなって思って。



人には与えられた天命があるのかもしれないと、香は常々思っていて。
それは撩を見ていてそう思うのだ。
撩は殺し屋だけど、それは撩の生まれついての宿命のようなもので。
それが良い事か悪い事かは解らないけれど、そんな撩が死ぬほどカッコイイと思うから。
今現在、撩の肩書を言葉にするのなら、殺し屋なんだろうけど。
それだけじゃないのだと、香は思う。
これまで生きて来た撩の人生があって、今の撩が居る。
人の生き様は、そのままその人を形作る。
その撩が魅力的だという事は、撩が殺し屋だからといって否定されるべき事では無いのだ。
そうなる為には、そうなるべくして生きて来なければいけないのだ。
それが大塚健吾にとっては俳優であり、冴羽撩にとっては殺し屋だったというだけだ。




やっぱり、本来その人が居るべき場所っていうのがね、ちゃんと用意してあるんだなっていうこと。

なんだよ急に、真面目かっっ。



香が回りくどく説明した、その人それぞれの天命についての見解に、撩は不覚にも動揺した。
それでも茶化す事しか出来ない意気地なしの男の事を、香はカッコイイと思ってくれるのだろうか。



だから、りょおも。 ちゃんとカッコイイよ。


次に出た香のその言葉は、撩の導火線に火を点けた。
脳内で、大塚に嗾けられたフレイズがこだまする。
冴子が口座に振り込んだ依頼料があるので、家計は潤っている。
香の機嫌も上々だ。
この会話の流れと雰囲気以上のシチュエーションが、この先いつ訪れるのかは解らない。
なんせ、万年金欠の冴羽商事なのだ。
1年365日の内、香がハンマーを振り回している日の方が多い。
珍しく穏やかな午後のリビングで、屈託なく笑う香を見詰めながらホンの数秒の内に撩は腹を決める。




ばぁか、解ってねえのはおまあの方だろが。

え?何を???



隣に並んでソファに座った香との距離を、撩は一気に詰めた。
首を傾げた鈍感な相棒の、柔らかな頬を両手で包む。



俺の気持ち。



そう言うと、次の言葉を継がせない勢いで、撩は香の唇を奪った。
おでこにキスしたり、ガラス越しにキスしたり、乙女チックにも程がある2人のこれまでを経て、
漸く直接の接触を試みた撩の理性は、弾け飛びそうなギリギリの所で一応保たれていた。
けれど余裕はない。
まるで貪るような口づけは、初めての香にとってはまさに大事件でしかない。
どの位そうしていたのか解らないけれど、
息継ぎが上手く出来ない香が撩のシャツを握り締めた感触で、撩は我に返った。

おでこと鼻先をくっ付けたまま、唇だけがほんの数㎝だけ距離を開ける。
火照った唇を香の荒い息が撫ぜて、撩はまた別の欲に絡め取られそうになる。
香は呆然と息を整えながら、それでもその撩の言葉と行為の意味はちゃんと理解していた。
こんな日が来れば良いなあ、なんて漠然と思ってはいたけれど。
こんなに唐突に訪れるなんて、何の準備も出来ていなかった事を香は痛感した。
だって、初めてのキスだというのに、互いにそれまで飲んでいた珈琲の匂いがするのだ。
歯磨きだってしてないのに、と思う香の考えはまだまだ生温いという事に、
この後、時間をかけて香は身を持って撩に教え込まれる事になる訳だけど、
それはまだ知らなくても良い事だったりする。



どうする?


少しだけ掠れた撩の声がセクシーだな、と香は考えていた。
撩の唾液で濡れた唇に当たる撩の息が、まるで熱波のように熱を帯びている。
痺れた唇は熱いのに背筋はゾクゾクしていて、香には撩の言葉の意味を理解する余裕が無かった。



え?

何処でする?俺の部屋?お前の部屋?それとも、このまま?




撩の言っている意味が解らない。
撩の手が熱い。
ていうか、撩の表情が変だ。いつもと違う。
するって、



・・・何を?



虚ろな瞳でそう訊ねる香に、撩はニヤリと意地の悪い表情をして、香の耳元に唇を寄せる。
香にカッコイイだなんて言われて虚を突かれた撩だけど、
濃厚なファーストキスをぶちかまして、完全に事は撩のペースに持ち込んだ。
このまま初めてのきっかけは、強引にでも撩がリードしなければきっと、
2人の事だからいつまで経っても進展は望めない。
腹を決めた男の開き直りは、無敵なのだ。
耳に息を吹きかけるように、撩は優しく囁いた。



決まってるだろ、モッコリだよ。




言葉は全くオブラートに包まれてはいないけど、それが2人らしくて良いと香は思った。
やっぱり、撩がこうしている事も、香が撩の傍に居る事も。
こうして思いを通わせている事も、胸がときめく事もきっと。
なるべくしてなった2人の運命のような気がして、香は漸く緊張した両腕で撩を抱き締めた。




(おしまい)






ようやく20万HITの、ゅまま様のリクエストを完結する事が出来ましたぁぁぁぁああ(汗)
すみません、ゅまま様。時間かけ過ぎちゃいましたm(_ _)m
もう呆れられて、見限られてるかもしれませぬが、宜しかったら読んで下さいませよ~~~
このお話のイメージソングは、ワタシの中ではタイトルの通り、
ローリングストーンズの、『(I can't get no) satisfaction』です。
満足なんて出来ねえよ、我慢ならねえ。っていう、
リョウちゃんのもどかしさや登場人物たちのそれぞれの背景をイメージしながら、この曲を選びました。

あと、最終話に場面としてブッ込んだキャッツのナポリタンは、言わずもがな(笑)
ドラマAHでの、上川さんと三吉彩花ちゃんのナポリタンのシーンに不覚にも萌えたからです(笑)
あれをCH原作の北条先生の絵で、リョウちゃんとカオリンで再現して欲しいという己の願望から、
最終話に盛り込んでみました。完全にお遊びです(*´∀`*)ノシ
ゅまま様、リクエストこんなんですが、お気に召して戴けたでしょうかぁ~~~~。
mosura 様、ご指摘ありがとうございます( ´∀`)早速訂正しましたぁ(汗)
助かりましたっっ

記事コメントへのお返事、最新分まで完了してます(*´∀`*)ノシ

おはこんばんちわ、ケシでっす(*´∀`*)ノシ

記事のコメント欄にコメント下さってた方へのお返事、遅くなりましたケドさせて戴いております。
すみません、長々とお待たせしてしまって。
このところ、新たにはじめましての方が沢山来て下さって熱いコメントを残して下さり、とても嬉しいです。

実はこの半年ほど、プライベートな事情で忙しくしております。
とある資格を取得する為に新たな分野の勉強をしておりました。
というか、今月一杯はまだまだ、正念場なのです。
一度の試験で確定するものでは無く、実技などの評価項目も沢山あって、
今月末までにまだ、毎日のように試験続きであります(ノД`)・゜・。
という訳で、めっきりこちらに注ぐ物理的時間が取れない状況なので、お返事も遅くなりました。

ホントはワタシ、勉強がこの世で一番嫌いなんですけどね~~~試験がきついです(笑)
でも、やってる内容としては非常に奥が深く、一生かけてやるに値するものなので楽しいです。



で、記事についてるコメント欄への返信なので、時間が経ってるって事もあってコメント送られた方が、
どの記事にどんなコメントを下さったのか、ご自分でお忘れの方もいらっしゃると思いますので、
以下に、誰々さんへの返信が、何処どこの記事にありますっての書いとくので、
該当する方は、ケシ子の暑苦しいお返事がありますので、良かったら読んどいて下さいますよう。
よろぴく。








tomoさま、
『№10 似た者同士』へのコメント返信してます。


ばなばなさま、
『67.生返事』
『メリクリ』
『唾つける』
『最終話 satisfaction』へのコメント返信してます。


シルクさま、
『67.生返事』へのコメント返信してます。


ゆき姉さま、
『67.生返事』
『あけおめ』へのコメント返信として、
『私信』へと繋がり、その『ゆき姉さま、私信です。』に、返信してます。


てんどんまんさま、
『67.生返事』
『SSAW』へのコメント返信してます。


iccoさま、
『67.生返事』へのコメント返信してます。


はれぶたさま、
『67.生返事』へのコメント返信してます。


リッキーさま、
『颱風一過』へのコメント返信してます。


さといもさま、
『メリクリ』へのコメント返信してます。


かおりさま、
『課長と槇村君のクリスマス。(第5弾・よくある恋の見つけ方)』へのコメント返信してます。


みかんさま、
『67.生返事』
『なんとなく100のお題  お題22. しゃぼん玉』へのコメント返信してます。


PINさま、
『最終話 satisfaction』へのコメント返信してます。


わさびんさま、
『最終話 satisfaction』へのコメント返信してます。


奏さま、
『よォ~~コソ!!!』
『番外特別編  槇村家の幸せ』へのコメント返信してます。


まここさま、
『よォ~~コソ!!!』へのコメント返信してます。




以上です。

これから、イベント続くのでまたボチボチ更新始めようと思ってます(´艸`*)


[ 2016/02/11 03:06 ] ごあいさつとお知らせ | TB(0) | CM(8)

1.  Are you ready?

粗く刻んだアーモンドを、クッキングシートを敷いた天板の上に広げる。
芳ばしさを出すためにオーブンで加熱している間に、生地の準備をする。
たっぷりの製菓用チョコレイトを溶かした焦茶色のしっとりしたケーキ生地に混ぜるのは、
小さく刻まれたオレンジピールとコルドン・ルージュ。

香は数日前、これらを調達した趣味で製菓材料も取り扱う乾物屋の店主と雑談していて初めて知った。
(毎年恒例、悩みながらの年に1度のチョコレイト菓子作りに、多大なる知恵と助言を授けてくれる、
 香にとってその店主はバレンタインの師匠でもあり、新宿の片隅の情報屋のオジサンでもある。)
お菓子作りにしか使わないと思っていたそのオレンジキュラソーは、アルコール度数は40度もあるけれど。
意外とそのまま、ストレートで飲んでも旨いらしい。

軽く炙ったアーモンドの粒粒は、
スティック状にして仕上げる予定の、オレンジ風味のチョコケーキをコーティングするビターチョコに混ぜる。
全体としては甘さ控えめで、
数ある製菓用のチョコレイトの中からオレンジの風味を引き立てるビターチョコを香は選んだ。

コルドン・ルージュをそのままお酒として飲むのが強すぎるとすれば、
ホットココアに数滴垂らしてみたらどうだろうと、香は考える。
自分は真っ黒で薬みたいに苦いブラックコーヒーを飲みながら、
薄甘いココアを飲む香をガキっぽいと馬鹿にする撩には内緒で、お酒をひと垂らし。
きっと撩の意地悪な軽口なんて気にならなくなるくらい、美味しいかもしれない、なんて思って。
今度やってみることにする。

だがしかし、そんな事は今はどうでも良いのだ。
バレンタインデーである本日、今現在、冴羽撩は日課である散歩に出掛けている。
オブラートに包んだ言い方で散歩と表したが、ハッキリ言えば女漁りである。
実りの無い下らないナンパをしながらも、毎年撩は外に出て帰って来ると、チョコレイトを沢山貰って来る。
撩はきっと野良猫みたいに賢くてたくましいから、
誰に甘えればご褒美を貰えるのかをちゃんと知っているのだと、香は思う。
ピエール・マルコリーニだの、ゴディバだの、デメルだの、ノイハウスだの、御大層な紙袋と紙箱に収まった、
ちんまりしたチョコレイトを、食べもしないくせに持って帰って来て。
毎年、それらを処分するのは専ら香の役目だ。
お陰でこの時期、香の体重は少しだけ増加する。傍迷惑な話である。
撩にチョコレイトをくれる顔見知りのお姉さんたちは、撩以外にも律儀に配るのだ。仕事の一環だから。
そんな事は百も承知でいるつもりの香ではあるけれど、やはり良い気持ちはしない。
 
 それでも香にも、解っていない事もある。
 少なからず、香とも顔見知りではある歌舞伎町のお姉さま方が、
 撩の手から香に渡るであろうその菓子を選ぶのに、端から香にあげるつもりで選んでいる事を。
 誰しも、冴羽撩が嬉々としてチョコレイトを頬張る姿など、初めから想定していないのだ。

ま、それでも。と香は、考える。腹は立つけれど。
撩がこうして昼間っからフラフラ出歩いてくれているから、自分はこうしてゆっくりとお菓子作りなど出来るのだ。
まさか食べて貰う相手の目の前で、それを作るのは少しだけ気まずい。
撩が多分、今日はこのまま深夜まで帰って来ないだろうことは、毎年の事として予測は出来る。
だから香は、数時間後には出来上がってラッピングまで綺麗に施すであろうそのケーキを、
飲んで帰って来た撩がすぐに見付けられるように、ラップを掛けた晩ご飯と一緒にテーブルの上に置いておく。
そうすれば撩は、ご飯と一緒にそのデザートを綺麗に平らげてくれているのだ。毎年。
何も特別な事では無い、ただの食後のデザートだ。という風に、互いにひとつ逃げ道を確保できる。

撩も香も、賢くてたくましいから。
互い同士、甘える術を充分に心得ている。
それは一見、何も甘くは無いけれど。
心を許して甘えられる関係だから、成立つ方程式なのだ。

作って贈る方も重たいほどのその気持ちを込められる。
贈られて食べる方も深夜に帰ってその気持ちをシッカリと胸に刻みながら平らげる。

けれど、互いに決定的な言葉を交わす事を避けている。
言葉にする事は勇気のいる事なので、互いに臆病な2人は言葉を持たない関係を構築して甘んじている。
撩が毎年必ず食べるバレンタインのチョコレイトは、香の作ったものだけだ。
外で貰って来た女の子の好きそうな高価なチョコレイトは、そのまま香の定位置の椅子の上に置いておく。



2人には、いつの間にか他人には解読できないであろう、2人だけの生活のルールが出来上がってしまった。
今更そのルールを犯すことが怖くて、ある一線を踏み越えることを躊躇ってしまう。
曖昧な関係には、その関係を維持してゆく為の互いの暗黙の共通認識というものが必要で。
それを創り上げる構成要素には、大前提として、甘えの気持ちが不可欠なものとなる。
気持ちを込めてそれを用意する香には、未だ何の心の準備も出来ていない。
答えなど要らないのだ。
その気持ちに対する答えなら、香には何も必要無い。
ただ撩が、傍に居ることを許してくれさえすればそれで良い。
甘えかもしれないけれど、決定的な言葉になると何かが変わってしまいそうで怖い。



焼き上がった四角いチョコレイトケーキを型から外して、冷ます。
良く冷ましている間に、コーティング用のビターチョコレイトをテンパリングする。
溶かしたチョコにアーモンドを混ぜて、細長くカットしたケーキに万遍なくコーティングを施す。
黒に近い暗い焦茶色のビターチョコよりも甘い曖昧な関係も、一緒くたに包み込んでしまえたら。
女好きで意地悪で、でもとっても優しい、

撩が好き、って言えたら。







なかなか勇気を出して言えないから、その代わりに甘酸っぱいケーキをほろ苦いチョコで包む。
今夜は起きて待っていたりなんかしないで、サッサと寝よう。
寝酒は、コルドン・ルージュのストレートで。
そう思いながら、香は楽しそうにダークな衣を纏ったチョコレイトケーキをラッピングした。









チョコ美味しいけど、そういえばケシ子はあんまり食べないなぁ、と思います。
最近、和菓子の方が無性に好きです(*´∀`*)
63.柑橘系に続く

続きモノじゃ無いつもりだったけど、続けますという話です。

こんばんわ、ケシでございます(*´∀`*)ノシ

昨日アップした、バレンタインのお話なんですが。
『モノかきさんに100のお題』という、お題から抜き出してバレンタインのお話にしたんです。
ところが、そのお題リストの番号が、たまたま1番だった訳でして・・・
そしたら、とある常連様のお言葉で、続き物嬉しいぃぃっていうコメントを戴きましてですね。
数分、意味が解らなくて考え込んだ末に、気が付いた訳ですよ。


あ、お題ナンバーが1番だ。って。

って事は、きっと、そのコメントの意味するところは、何かの続き物の第1話って思われたんだと。


あはは~~。確かに紛らわしい(´艸`*)
んで、当初続き物にするつもりは無かったんすケド、いっそ続けてやろうじゃないのん、って事にしました。
ていうわけで、続きもお題の中からランダムにタイトル選んで書く事にしました(笑)

まさに、瓢箪から駒。
シルクさま、ありがとうございます。


※ みなさまインフルエンザが猛威を振るっております、
  また一段と冷えておりますのでお体にはご自愛くださいませ。


[ 2016/02/15 18:36 ] 未分類 | TB(0) | CM(4)

63. 柑橘系

夜更けに撩が帰ると、ダイニングのテーブルの上には夕飯が準備されていた。
メインの酢豚の皿にはラップが掛けられ、
3つに仕切られた長方形の皿には、蓮根のきんぴらとインゲンの胡麻和えと薄甘い玉子焼きが3切れ。
ご飯茶碗と漆のお椀は伏せられて、箸置きには撩がいつも使っている箸も置いてある。
コンロの上のホーローの鍋の中には、キャベツと油揚げの味噌汁が。
炊飯器の中には、雑穀米が待機している。
勿論、それらは言葉にはしないけれど、撩の好物だ。
というか、香が毎日作るなんてことないこんな料理が、撩は一番好きだ。

泥酔して帰って来た。
撩はアルコールに強いから、まだ意識はハッキリしているけれど。
単純に、今夜の摂取量だけで言えば結構な量だろう。
そんな飲み歩きの夜の寝る前に、わざわざしっかりと食事を摂る必要も無いのだろうけど、
それでもこうして並べてあれば腹の虫が騒ぎ出す。
そして今夜は、2月14日の夜だ。
厳密に言えばもう15日だろうけど、




撩は夕飯の皿と一緒に並べられた、赤いリボンの巻かれた白い箱を撫でる。
如何にも手作りの素朴なラッピング。
ヘタクソでは無いけれど、売り物のような一分の隙もないような高級感は無い。
撩の2月14日は毎年、これを食べないと終わらない。
お義理のチョコなら嫌というほど貰うけど、あれは全部、実質的には香宛てだ。
露骨なお姉ちゃんなんかは、香さんにヨロシク、なんて言いながら渡して来るのだから、
撩がチョコを食べていないことも、毎年のお返しを香が選んでいる事も、皆周知の事実なのだ。
撩が溜めたツケを、律儀に支払って回るのは香だし、女の味方は結局女だということか。



こんな風に言葉も無いままに、贈って受け取っての遣り取りが定着したのは何年くらい前だっただろう。
もしかすると、香が押しかけパートナーになった1年目のバレンタインには、もうこんな風だったかもしれない、
と撩は思い返す。 
3月の終わりに撩の元に転がり込んできて、次の年の2月にはもう、撩は香の気持ちには気が付いていた。
それから少しづつ2人の距離は縮まって、互いの過去や本音や想いは何度も交錯し重なり合ったけど、
ストレートな言葉は未だ紡げないでいる。
一度だけ、何がなんでも生き延びて守り続けると約束したけれど、それ以来進展は無い。
確かにその言葉に嘘は無いけれど、日常の事となると話は変わってくる。
いきなり甘い言葉を並べたり、いちゃつくのもなんだかなぁ、と思ってしまう撩は、
意気地なしと言われればきっとその通りなんだろう。
湖の畔での約束から2回目のバレンタインの贈り物は、
オレンジのリキュールの効いたチョコレイトケーキだった。









その部屋は、撩の寝室より少しだけ狭い。
依頼人がいない時には、ソファベッドは使わないから少しだけ広く感じる。
隣のビルに面した窓際に寄せて配置されたシングルベッドは、香の分だけ羽毛布団が盛り上がっている。
香の愛用するボディクリームの匂いのするその部屋に、
撩が堂々と足を踏み入れる事の出来るのは、香がぐっすりと眠っている時だけだ。
過去にも何度もこうして、香の寝顔を眺めた事がある。

眉間に皺を寄せ唇を尖らせて拗ねている顔。
無防備に笑いながら見上げてくる顔。
恥ずかしそうに照れながら俯く顔。
毅然と立ち向かう凛々しい顔。
撩の良い所も悪い所も、そのままで良いんだと包み込んでくれる菩薩様のような顔。

そのどれとも違う香の寝顔は、撩の胸をきつく締め付ける。
まるで汚い世界など何も知らないような安らかな寝息を立てて眠る彼女に、
激しく恋をしている事を撩は自覚する。
撩ほどではないにしろ、香の人生だってそれなりに紆余曲折だ。
それでも何処かそれを感じさせない浮世離れした香の寝顔は、撩の心のずっと奥の方に触れるのだ。
しっかりとチョコレイトケーキまで平らげて、風呂に入って寝ようと思っていたのに。
うっかりこの部屋のドアを開けてしまった。
月明かりに照らされて浮かび上がる白い柔らかい頬を、撩はそっと撫ぜる。
それでも寝息ひとつ乱すことなく熟睡している香の唇は、真冬だというのに艶やかだ。

それは単なるはずみだったのかもしれない。
意味など無くて、ただ触れたかっただけかもしれない。
でももしかすると、すごく意味のある事なのかもしれない。
撩には解らない。
ただ触れたいというその感情が、
意味のある事なのかそれとも、取るに足らない、けれど必要不可欠な自然の理なのか。
ただひとつ、撩に解っている事は、
撩をそんな気持ちにさせるのは、この世でたった1人だけだということだ。

飲んだくれて帰って来て、酢豚とチョコレイトケーキを食べて、風呂にも入ってない撩は、
柔らかな唇に静かにキスを落とす。
一度だけガラス越しに触れただけの唇は、想像以上に柔らかだった。

少しだけ身じろいだ彼女は、薄く眉根を寄せて何事か言葉にならない言葉を呟くと、
撩になど構わずに寝返りを打って、背中を向けて眠ってしまった。









屋上の手摺に凭れて見渡すと、新宿の街灯りは未だ煌めいている。
撩は1時間ほど前にあのネオンの中から一抜けて、帰路に着いた。
独りダイニングで遅すぎる夕飯を食べて、チョコレイトケーキを食べて、相棒の唇を食べた。
煙草を吸おうと懐から取り出しかけて、思い直した。
チョコレイトと、相棒の余韻にもう少し浸っていたい気分だったから。
撩はラッピングに使われていた赤いサテンのリボンを、己の人差し指に結び付けてみる。
リボンを巻き付けた撩の右手を冬の乾いた風が通り過ぎて、軽やかなリボンを揺らした。
普段なら引き金に掛けられる筈のその指に絡み付く、真っ赤なリボンに相棒を重ねる。
ずっとずっとストレートな言葉を言えないでいる彼女と自分の心は、
それでも着実に重なり合っている筈だと、撩は信じたい。
初めて触れた彼女の唇からは、オレンジ風味のアルコールが薫った。
多分それは、撩が食べたケーキにも使われていた薫り付けの為の酒だろう。
いつもなら、起きていてもおかしくない時間にもかかわらず、毎年2月14日には香はサッサと眠っている。
面と向かってチョコレイトも渡せない照れ屋な彼女が、どんな気持ちで寝酒を呷ったのかと考えると、
撩は少しだけ可笑しな気持ちになる。勇気が出せないでいたのは、お互い様だ。

それならば、相棒に比べて場数も経験も積んできた自分の方から、
なにか近付く為のアクションを起こすべきじゃなかろうか、と撩は思った。




「仕方ないなぁ。もうファーストキス、しちゃったしなぁ(グフッッ)」



一旦、自制心という名の枷を外してしまった種馬が、これ以上我慢など到底出来るものではない。
自室で爆睡している槇村香はまだ、何も知らないでいた。







あと1個、書こうと思います。
気長にお待ちくださ~~~い(*´∀`*)ノシ
44.雪月夜に続く

全巻購入特典

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こんばんわ、ケシです。
今日の夕方、ようやく愛蔵版の全巻購入特典の応募券を貼り貼りしたはがきをポストに投函しちゃった(´艸`*)
勿論、複製原画2枚セットを希望しました(むふふ)
オマケとかどうでもEEEE~~~、と思っておりましたが。
いざ、はがき送ってみると、届くのが地味に楽しみですね。
ただでさえ12冊も分厚い奴が幅を利かせているのに、
この上、複製原画をディスプレイするスペースを考えねば。
(↑冷暗所にて厳重に保管などという、マニア魂溢れる気概は一切無い。勿論、ガンガン飾るつもり。テヘ。)

※写真の猫は、ワタシのいつも通る道の途中にある、ステンドグラス工房付近に出没する輩です。
 可愛くて肥り過ぎです。
 ステンドグラス工房の方に餌付けされてます。

[ 2016/02/16 22:01 ] 未分類 | TB(0) | CM(6)

44.雪月夜

え? こ、これ。りょおが作ってくれたの?!








風呂から上がると、夜遊びに出掛けたと思っていた撩がリビングに居たのにも香は驚いたけれど、
それ以上に香を驚かせたのは、数分後に撩が香に差し出したマグカップだった。
目を丸くして撩を見上げる香に、撩は悪戯っ子のような笑みでコクリと頷いた。







バレンタインデーの翌朝、香はまず一番にキッチンに入るとシンクを確認した。
深夜の食事の痕跡の皿や茶碗は、きちんと重ねて置かれていた。
それはこの数年の香の躾の賜物だ。
出逢ったばかりの頃の撩は、自分が食べた食器をシンクに浸けておくことすらしなかった。
今でも家の事は専ら香に任せきりだけど、
それはある意味では、香が撩にやらせないという側面もあったりする。
細かな所で口やかましくしているように見えて、香はそれほど撩に多くを求めてもいない。

ご飯の前にはちゃんと手を洗って。
ゆっくり噛んで落ち着いて食べてね。
食べ終った食器はシンクに浸けておいてね。
脱いだ服は洗濯かごに入れといて。
あいさつはきちんとしようね。
気を付けていってらっしゃい。

ちゃんと生きて帰って来てね、というのはいつも心の中だけで願う言葉だ。
香が撩に絶えず口にする小言の数々は、まるで小さな子供に母親が教える躾の言葉に近い。
香は何も、撩の家事参加を求めている訳では無いのだ。
家の事は、香が撩の為に全力でやれる数少ない事の中のひとつだから。
だから香にとってはむしろ、撩が生活のいちいちに多少無頓着なくらいでちょうど良いと思っている。
いつも無意識に香が口にする言葉に、数年かけて撩も成長したということだろう。
撩はいつの間にか、自分の食べた食器を重ねてシンクに運ぶようになったし、
帰宅して夕飯の良い匂いがすると自然と洗面所に手を洗いに行くし、
香の作る手料理にすっかり胃袋を掴まれている。
ただ、2人とも互いに自身のそんな小さな変化になど、全く気付いてはいない。
そしてプラトニックな恋心が、まるで膨れ上がった風船みたいにじき破裂寸前だということにも。

汚れた食器を確認したあとは、蓋の付いたゴミ箱の中を確認する。
白い包装紙と紙の箱が空になって捨てられているのを確認して、香は知らず頬が緩む。
香が撩の為に作ったチョコレイトケーキは、ひとつ残らず完食してくれている。
それだけで香は、幸せな気持ちになれる。
まるで、そのお礼とでもいうように。
例年通り、ダイニングテーブルの香の指定席には、
撩の戦利品である有名店のバレンタインギフトが沢山置かれていた。



ははは、今年もお礼が大変ね。



つい口を吐いて出るそんな香の独り言も、何処か楽し気で。
その一連の流れこそが、いつもの香と撩のバレンタインデーなのだ。
それ以上に、互いに言葉も無い。
チョコレイトごちそうさまというお礼の言葉も、どうだった?美味しかった?という言葉も、2人には無い。
いつもの事だ。
だから、その晩。夕飯を終えた撩が、
ちょっと出て来る。と言って、ジャケットを羽織ったのも、
今夜は冷えるってよ?と言って、香が見送ったのも。
いつも通りだったから、撩が出掛けてすぐに風呂に入った香が風呂から上がって、
撩の在宅を確認すれば、驚くのも無理はないのだ。


年が明けてから、妙な天気が続いている。
春のような陽気で冬も終りかと思わせる日もあれば、
2月だというのにまるで木枯らしみたいな風が吹いて、小雪がちらつく日もある。
それが1週間のうちに目まぐるしく、入れ替わるのだ。
巷ではインフルエンザが流行っているらしい。




外、お前の言う通り寒かったぞ。



パジャマの上にマイクロフリースのパーカーを羽織って、
バスタオルで髪の毛を拭きながらリビングに戻った香が目を丸くしていると、撩はそう言った。
ちょっと出掛けて来る、というのがどんな用事だったのか、もう済んだのか、
撩は何も言わずに、雪が降り始めた。と言って微笑んだ。
だから香も、何から訊いていいのか解らなくなる。
多分、誰よりも撩の一番近くにいるのは自分なのだろうとは、香も思う。
けれどこういう時、香にはいつも距離感が解らなくなるのだ。
撩が何を考えて、香にこうして笑いかけてくれるのか。
飲みに行ったのだとばかり思っていたのに、
数十分後には帰宅してこうして何事も無かったように、チェシャ猫みたいにソファに寝そべって笑っている。




そう、積もるかな。

いや、そんな降り方ではなかったな。

そっか。



つまんない、というのは心の中だけで香は呟く。
最近では積もるほどの雪は滅多に降る事はないけれど、小学生の頃には結構降っていたように思う。
子供の頃は、雪が積もるのが嬉しかった。ワクワクした。
大人になって、それが多くの人に大きな混乱をもたらす嫌なモノのひとつに挙げられている事は、
香にも解っている。
それでも内心では、積もったら良いのに、という気持ちが少しだけ掠める。
多分、香には朝早くから電車に乗って出掛ける用事も、飛行機に乗って遠くへ行く用事も無いからだろう。
滅多に依頼の来ないスイーパー稼業の2人が、雪の朝に朝寝をしても、世間様にはなんの影響もない。
気楽な商売だ。

撩の言葉に、香は濡れた髪の毛を乾かすのも忘れて、ベランダの掃出し窓越しに外を見た。
エアコンで暖められた室内と、外気温の差はいつもより大きいのだろう。
白く曇った窓ガラスを風呂上りで温まった掌で拭うと、キュゥッと小さな音を立てた。
ぼんやり見える外の色は、紺色で。
少し離れた所でネオンが瞬いているから、空の色はそれほど深くはない。
それでも暗い空を背景に、小さな雪が落ちてくる様は綺麗だった。
何処からともなく落ちてきて、消えてなくなる。
香がそんな白い欠片をぼんやりと目で追っている間に、撩はそれを作ったらしい。




そんなとこで、ボーっとしてたら風邪引くぞ。



そう言いながら、ローテーブルの上にコトン、とマグカップを置いて香に手招きした。
それは、淹れたてのホットココアだった。
甘い薫りを漂わせて湯気を立てている。
撩が作ったのか、と香が訊ねると、撩は楽しそうに頷いた。




バレンタインって、女から男へって決まりはないらしいから。



そう言った撩の言葉でそのココアの意味を漸く理解すると、香はカップを両手で包む。
せっかく風呂で温まっていた手の先が、窓際に数分佇んでいただけで随分冷えていた事に気が付く。
いただきます、と小さく呟いてひと口啜る。
いつも香が使っている、チャックの付いた袋入りの森永のミルクココア徳用サイズとは違う。
こっくりと濃いきちんと温めたミルクで溶かしたリッチなココアが口の中で薫る。
それに少しだけ、アクセントの効いたカカオとは違う薫りも。




これ、いつものと違う?



撩はふふ、と笑うと、買って来た、とだけ告げた。
雪の降る寒い夜の撩の用事とは、いつもよりも少しだけ贅沢なココアの粉を買いに出掛ける事だったのだ。
香は決して買わない金色の缶に入ったヤツだ。
それともう1つ、何となく香には解ってしまったけれど隠し味。
それは恐らくキッチンの作り付けの棚の中にあった筈の、柑橘のお酒だ。





昨日のケーキに使ってたグランマニエを入れてみた。




そう言ってまるで悪戯を仕掛けた子供のように、撩はニヤリと笑う。




誰かさんは、そのまま呷って寝酒にしたみたいだけど?



そんな撩の言葉に、せっかく撩が淹れてくれたココアを香は思わず吹き出しそうになった。
目を白黒させながらも真っ赤に染まる香の頬を見ると、撩は愛しさが込み上げる。
ほぼ一日前の夜更けに、こっそりとキスをして、
屋上で勇気を出して前に進もうと決心した相手が、今こうして目の前にいる。
寒い夜に暖かな部屋の中で2人きり。



なっっなんでそんなこと・・・知ってるの・・



目の縁まで真っ赤にして己を凝視する香に、撩は狩猟本能を軽く擽られる。
昨夜の秘密のキスを思い出す。
柔らかな弾力と甘い寝息、オレンジのアルコールを含んだ薫り。
知っているに決まっている、撩の気持ちを知らないのは香だけだ。





なんで知ってるか、知りたい?



そう言って、撩が香に詰め寄る。
ソファを背凭れにして、ローテブルとの間の床の上に座った香のすぐ傍に、無理やり体を寄せて来る。
濡れたままのブラウンの髪の毛の滴が垂れてきそうな距離にまで、撩の顔が香に迫る。
狭い狭い狭い。てか、近くない???
と、香が心の中で思ったのと、唇が重なったのは同時だった。
香が例年通りだと思っていたバレンタインデーはどうやら、撩にとっては違ったらしい。
(あくまで香的には)いきなり何の前触れもなく、そのキスは始まって、
嵐のように香の口腔内を蹂躙すると、また何の前触れもなく離れていった。

リボンキス


虚ろな目で己の唇を見詰める香の視線が、激しく淫らだと撩は思った。
離れてしまうのが惜しい気持ちになって、パジャマとモコモコのパーカーを着た華奢な躰を抱き締める。
香の視線をまともに受けていたら理性が効かなくなってしまうので、撩が目を閉じた。
目を閉じて半分濡れた冷たい癖毛に顔を埋めると、自分の頬が思っている以上に火照っている事が解る。





ごめん、キスしたんだ。

え?

昨夜、お前が寝てる時に。

えぇっっ、な(に)、ど(ーゆーこと)???




あまりの動揺に、ひらがな一文字ずつしか声にならない相棒に、撩は思わず苦笑する。
いつもこうなのだ。
撩だっていつも冷静な訳では無いし、なかなかどうして照れているのは同じなのだが、
それ以上に香がこんな状態なので、自然と撩が冷静になれるのだ。
癖毛に埋めていた顔を上げると、香と向き合った。
淫らな艶を隠さなかった女の顔は一転、いつもの恥ずかしがり屋で無防備な顔を見せる。
香ほど感情を隠さない人間は撩の周りには居ないから、撩は香を心から信じる事が出来る。




もうこれ以上、気持ちを誤魔化せないってこと。



そう言うと撩は、香に左手の手首を見せた。
そういえばと、香は思い直す。
マグカップをテーブルに置く時も、近寄って体を寄せて来た時も、不自然なほど撩の左手が見えなかった。
その左手首に巻き付けられた、赤いサテンのリボンはビターなチョコレイトケーキをラッピングしていたものだ。
苦すぎるビターな男と甘すぎるホワイトチョコみたいな女を、足して2で割れば。
ちょうど良いミルクチョコになるんじゃないかと、撩は思う。



受け取って?

撩リボン


撩からのバレンタインの贈り物は、自分自身だ。
香は返事の代わりに撩の胸に顔を埋めると、細い両腕でその大きな体を抱き締めた。
窓の外では、静かに雪が降り続いている。









今年のバレンタインは、予想外の連作で(笑)
シルクさま、ありがと~~~(*´∀`*)ノシ
因みに、続けて読む時は、モノかきさんに100のお題の中の、
1.Are you ready
63.柑橘系
44.雪月夜

の順番で、お読みください。