№2 冴羽商事恒例・客間問題

彼等が今回、貴方のガードを担当する2人よ。





冴子が依頼人にそう言うと、香はにこやかに“槇村香です”と名乗ったけれど、
撩は仏頂面の咥え煙草で、小さく会釈しただけだった。
そんな撩に、隣に座った香はガラステーブルの下でこっそり撩の足を踏ん付ける。
勿論、依頼人に気付かれないように笑顔は絶やさない。
仕方無しに撩は聞こえるか聞こえないかの小さな声で、冴羽です、と名乗る。
依頼人、大塚健吾はさして気に留めるでも無く、
これまた香に負けず劣らずの笑顔を浮かべて、名乗りながら頭を下げた。
印象としては、テレビで観るよりも長身で着痩せするもののそこそこ鍛えられた体をしていた。
さり気なくチェックする撩だが、生憎、実戦用の筋肉か観賞用のモノであるのかは一目で判る。
あのような体を作る為には、専門のトレーナーが居て効率的に見た目良く鍛えるメソッドがあるのだ。
使えるか使えないのかは、別問題だ。
朝から冴羽アパートを訪れた冴子は数時間後、依頼人を連れて再訪した。









遡る事、数時間前。
撩は冴子から前もって渡された資料を、
冴子が帰った後に(朝食兼)昼食後の珈琲を飲みながらチェックした。

大塚健吾(24)、職業・俳優。
大学在学中のアルバイト先で、現在の所属事務所の社長にスカウトされる。アルバイトのバーテンダー時代には既に彼目当ての客が殺到し、同年代の間ではちょっとした有名人であった。優しげな顔つきは如何にも純粋そうで、役柄や好感度は生真面目な好青年というイメージだ。その上、女性誌でセミヌードグラビアを披露し、その優しげなマスクからは想像もつかない肉体美を披露してからは、同世代のみならず、主に年上女性からの圧倒的支持を得て、一躍人気俳優の座に踊り出た。それからはトントン拍子に仕事をこなし、この1年、連続ドラマの枠で彼を見ない日が無いと言っても過言では無い。先日クランクアップした初の主演映画に続き、次回の大河ドラマでは準主役級の役が付いた今後もっとも期待される役者の1人だ。

というのが表向きの彼、大塚健吾の経歴だ。
芸能人の経歴ほど、詐称に満ちた誇大広告も無い。
実際に素人時代から女にモテていた事は、間違いないらしい。
けれど、世間で言われているような好青年とは、決して言い難いのが今回の依頼人である。
彼は高校生の頃から、渋谷や六本木の盛り場で夜な夜な遊びまくっていた。
父親は某中央省庁の官僚を務めており、仕事人間。
母親は専業主婦で、世田谷の自宅で趣味のケーキ作りを活かしお菓子教室を週に1度開いている。
本人は、幼稚園から一貫教育の某私大にエスカレーター式にそのまま進み、無難に卒業している。
中学までは如何にもな絵に描いたようなお坊ちゃんという風情だったけれど、
高校に進学して彼は変わった。
夜の盛り場を徘徊し、付き合う連中も素行の悪い者たちに変わった。
父親は息子の成績以外には無関心を決め込み、
息子を溺愛する母親は息子の機嫌を損なう事を何より恐れた。
素行は悪くなったけれど、両親の立場を脅かすような悪さはしなかった。
彼は生い立ちに起因する性格上、極端に大人の空気を読む子供だった。
良い子だと思われる事に、強いこだわりを持つ。
遊び仲間に対してもそれは同じで、表沙汰になっていないだけで悪さもそれなりにやった。
良いヤツだと思われたくて、流されるままに遊んでいたのだ。
一度、大学時代に大麻使用の疑いで捕まっている。
仲間の内の1人が所持で捕まり、証言などから彼の名が浮上したのだ。
それでも当時は、証拠不十分として何事も無く片が着いている。
冴子は当時の事について詳しくは知らないが、任意で連行された直後、
父親の差し向けた弁護士が、警察署にやって来たらしい。
それ以降、その件は実に曖昧模糊としており、
冴子が今回の件に絡めて調書を見返したけれど、他の仲間たちとの処遇の違いには違和感を覚えた。
けれどその違和感の厳然たる根拠は無く、色々と勘繰ってしまうのが現状だ。
父親の力が働いていたのかどうか、警察内部に残された資料からは判断付かない。
大学の2年まではそのような生活を続けており、就職活動をする直前に今の事務所の社長に出逢っている。
彼の生活態度が一変したのは、その後だ。
そのまま就職活動をするよりも、流されて芸能人として生きる方が彼にとっては魅力だった。
そんな彼に命じられたのは、それまでの遊び仲間と一切の縁を切る事。
それ以降、表向きには彼の交友関係はクリーンなものだ。
しかし今現在、彼がオフの度に出入りする六本木のクラブは、
昔馴染みの溜まり場なので綺麗に縁が切れたとは、言い難いかもしれない。
その点については、事務所も正確には把握しておらず本人にしか解らない。



そんな彼が何故、警察に身辺を警護される身と相成ったか。
そこが今回の事件のポイントだった。
恐らくは、例の数年前の大麻事件も含め、仲間内には彼を良く思わない輩がいるらしい。
表向き仲間を装いながら、チャンスを虎視眈々と狙っていたのだろう。
タイミングとしては、申し分ない。
満を持しての主演映画、次なる大きな仕事。
事務所としてはこれからが稼ぎ時となる、まさに金の卵を産む鶏である。
金になるとみれば、そこを逃がさないのが昔の仲間だった。
彼との黒い繋がりと彼の過去にやって来た悪事、これらを売りたいという提案が事務所にあったのだ。
提案といえば聞こえは良いが、早い話しが脅迫だ。
応じなければ看板スターの名誉及び、彼自身に文字通り傷がつく事になるという、脅し文句。
スキャンダルは避けたかったけれど、苦渋の決断で警察に相談したというのが事の顛末だ。
一応、世間的には極秘での捜査が進められている。
大塚のスケジュールを大きく空ける事については、
映画も一区切りついた休養という形で不自然にならないように配慮した。
この案件の担当となった冴子は、大塚と取引をした。
隠密裏に身の安全を確保するのと引き換えに、仲間内での様々な情報を警察に提供する事。

彼が関与している連中は、秩序だった組織とは言えないけれど、
その先に暴力団と繋がっている人間が確実に複数名いる。
若者たちが夜な夜な夜遊びに興じる店や施設に、
暴力団員では無いけれど限り無くそれに近い人間が蔓延っていて、それが彼の知己なのだ。
彼は今回、脅迫事件の被害者であると同時に、
これまで警察がなかなか内情を掴めずにいた彼等の実情を知る、数少ない証言者でもあるのだ。
ガードの期間としては、半月程を想定している。
今現在、連中を束ねていると目される主要メンバーを中心に内偵捜査が進められている。
これまで数々の軽微な犯罪で前科のある者も少なくないので、
何かしら尻尾を出した輩を検挙して、今回の一件に関しても口を割らせる予定だ。








・・・なんか。

あん?なに?

そんな風に見えないけどね、彼。




撩が冴子の資料を基に解っている事実を手短に香に話して聞かせた後の、香の感想だ。
それこそが、テレビなどで彼を観ている一般的な大衆の意見だろう。
けれど、撩は職業柄、様々な情報屋からその手の情報は腐るほど耳にする。
売出し中の歌手やタレントが、素行不良で事務所も手を焼いている話なんてのは掃いて捨てる程ある。
そして、売り出していてチヤホヤされている間は良くても、
その後、誰からも見向きもされなくなって事務所からも見限られた時に、犯罪に手を染めるって事も。




カオリンは、目に見える事だけに囚われ過ぎなの。

どういう意味よ?

まんまの意味。人間には、誰しも闇があるっつー事。

・・・何よそれって、アタシが脳天気だって言いたいの?

誰も別に、そんなこたぁ言ってねぇよ(苦笑)



香が唇を尖らせて傍らのクッションを投げつけるけれど、
撩は苦笑いしながら羽毛の詰まったそれを、マグカップを持っていない方の手で受け止める。
それでも必死に香は香なりにこれまでずっと、
相棒として色んな人間の闇と向かい合おうとして来た事は撩も知っている。
そして、撩にも香にもそれぞれに闇はあり、それを抱えそれと折り合いをつけて生きている事も。
撩の相棒として生きると決めた事で、彼女は見なくても良い深淵まで覗いている筈だ。




そんな風に薄笑いしてさっっ、絶対アタシのこと馬鹿にしてるっっ!



確かに、と撩は思う。
薄笑いしていたと言われればそうかもしれない、と。
けれどそれは別に、相棒を馬鹿にしていたとかそういうものでは無い。
ただ、ちょっとした事で唇を尖らせて抗議したり、
クルクルと表情を変えたり、何気ない仕草なんかが可愛いなと思って見ているだけだ。
やっぱり香は目に見えている事だけを、信じ込むところがある。
撩がどんな風に香を見ているのかなんて、全く解っていない。
撩がどんな思いでこれまで共に暮らしてきたか、今現在どう思っているのか。
言葉にしなければ、彼女には無いのと同じ事で。
撩の方はむしろ、言葉に出来ない思いの方が大きい。
だから撩はいつも、曖昧に笑って誤魔化す。この数年で身に着けた、奇妙な自己防衛策だ。




まぁまぁ、それはひとまず置いといて、それよりさぁカオリン。今夜、どうすんの?

へ?

依頼が来たってだけで喜んでるけどさ、依頼人、男だぜ?

・・・・・・あ。

香チャン、もうこうなったらイケメン君と、仲良く一緒に寝てあげたらいーんでないの?




ズシッッ
間髪入れず、ソファごと撩は叩き潰された。
今度はクッションと違って100tの超巨大木槌なので、
流石の撩でも到底受け止めきれるものでは無い。
香はすっかり機嫌を損ねて、リビングを出て行ってしまった。
心にも無い事を言って、話しを混ぜっ返すのは撩のいつもの手だ。

それでも確かにこういう場合、いつも困るのが冴羽商事恒例の客間問題である。
女性の依頼人の事だけを想定して、客間と香の部屋を兼用しているけれど。
依頼人が男性の場合十中八九、依頼人を滞在させる部屋割りについて揉める事となる。
大抵香は、撩の部屋で一緒に寝る事にしてくれと頼むけれど、撩は簡単にうんとは言わない。
毎度の事なので、大概で男性客用にもう一部屋確保すれば良いのだろうけど、
相棒はそこには思い至らないらしい。
そして最終的に、数度目かの押し問答の末、
撩が妥協してキングサイズのベッドを男と共有するという不可思議な状況に陥る。
けれど撩はもう1つ、解決策がある事を知っている。
恐らくはそれが、一番円満な解決への道筋だろう。
客間をもう1つ用意するなんて非効率的な事じゃ無く、香の部屋と撩の部屋を兼用すれば良い話しだ。
勿論、ベッドを買い足す必要も無いから経費も掛からない。
けれど円満な解決が円滑に運ぶとは限らないのが、世の常だ。
撩と香の6年以上に及ぶ同居生活に於いて、少なくともその道は最も険しい難所と言える。

撩が今夜からの男相部屋状態を覚悟しかけて憂鬱な気分でいた、一時間後。
香がいつもとは異なる作戦に打って出た。
自室のベッドに寝転んで煙草を吸っていた撩の元へ、香がやって来たのである。
手には自分の掛布団と枕を持参している。






りょお、今夜から暫くこの部屋、禁煙だから。

はあ?

しょうがないから・・・アタシが今夜からココに寝る事にする。





撩はこの時きっと非常に間抜けな顔をしていただろうと、後に自身を振り返る。
まさかそう出るとは、想定外だった。
内心、非常に動揺していたけれど、心の片隅で少しだけ何かを期待していたのかもしれない。
その分、余計にこの後の香の言葉に、繊細なハートを抉られる事になる。





だからりょおは、コッチね。




そう言ってニッコリと小悪魔的な笑みを浮かべながら、香が指差したのは。
ベッドと対面するように壁際に配置されたソファだ。
この相方の一方的な通告に、撩も言いたい事は山ほどあったにもかかわらず最終的に頷いてしまった。
これから半月もしくは進捗によってはそれ以上、たとえ2人の間に何も無かったとしても、少しだけ。
この部屋に香が眠るのだと思うと、撩はニヤけてしまう。
それを人は多分、下心と呼ぶのだろうけど、鈍感な相棒はベッドとソファで棲み分ければOKだと思っている。
自分が普段エロオヤジ呼ばわりしている男に、
厭らしく寝顔を見詰められたりする可能性など、全く思いもしていないのだ。
槇村香は可愛いけれど、基本的におめでたい奴なので良かった、と撩は思う。
変に、撩の心の中を覗きこもうとするようなタイプじゃなくて良かったと。











依頼人を前にして、事件の概要をもう一度冴子がザッと説明する間。
撩は数時間前の、そんな遣り取りを思い返していた。
今、7階の撩の部屋には香が持ち込んだ香の私物が置いてある。
あれから香は、色々と撩の部屋に持ち込んで相部屋の準備を始めた。
男同士ベッドを共有するよりは、なんぼかマシはマシだけど。
それでも、香が自分の部屋で暫く暮らすという状況としては、撩が想像していたモノとは少し違った。
香は納戸の奥から、大きな突っ張り棒を探し出して来て、部屋を2分割にしてしまった。
間には使って無い古いカーテンをぶら下げて、間仕切りにした。
撩の枕を本当にソファの方に置き換えて、
自分の布団と枕をベッドの端に置くと腕組みをして小さく、ヨシ、と呟いた。
自力で客間問題を何とか解決した事に、満足している様子だった。

今現在、一度撩から聞いて知っている内容を、真剣な表情で再び冴子から聞いている。
きっともう香は、今夜の事など頭に無いだろう。
こんなに色々と思いを巡らせているのは、きっと撩ひとりだ。




(つづく)


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№3 2人を隔てる薄い壁

翌朝6時30分、香はいつもと少しだけ違う寝心地のベッドで静かに目を覚ました。
目覚まし時計は、一応いつも枕元に置いてはいるけど、いつも時計より早く起きてしまう。
自分のベッドと違って、手を伸ばしただけではベッドサイドのテーブルには届かないので、
身体を起こして目覚ましのアラームが鳴る前に止めた。
いつもの自分の部屋なら、6時半に目覚めてもアラームの鳴る7時まで布団の中に居る。
けれど、今朝はカーテンで仕切りをした向こう側に寝息を立てる相棒が居るので、
起こさないようにアラームを止めて、もう一度そっと布団に横たわる。

昨夜香は、なかなか寝付けなかった。
苦肉の策でこの部屋を2分割にして転がり込んだけど、本当は少しだけ緊張していた。
ソファで寝てね、と言ったらもう少し撩はごねるかと思ったけれど、案外アッサリと香の提案を飲んだ。
今までに何度か、このベッドには寝た事がある。
浦上さん親子の依頼の時は、気が付いたらここに寝ていた。
あの時撩は、寝惚けた香が強引にベッドを奪ったと言ったけど、
何となくだけどあれは撩の言い訳だったと、香は思っている。
海原の船に行くと決死の思いでこの部屋に入った夜も、いつの間にか気が付くと翌朝ここで目が覚めた。

色んな事があって、今、香はもうとっくに知っている。
それらは、撩の優しさからくる言い訳だということを。
本当は多分、眠り込んだ香を自分のベッドに寝かせておいてくれたのだろうと、今なら解る。
もしも昨日、いつも通りに撩と依頼人で暫く寝起きして欲しいと頼んでいたならば、
撩は多分、渋々ながらも頷いてくれただろう。
依頼人と一緒に寝てやればイイなんて、香をからかったりするくせに、
香にそんな事など出来る筈などない事も、撩はきっと解っている。

香は薄い羽毛布団の中で寝返りをして、ベッドに俯せる。
自分の部屋から持って来た布団と枕はいつもの匂いだけど、顔を寄せたシーツからは撩の匂いがする。
厳密に言えば、洗濯洗剤と柔軟剤の匂いなんだけど、
その奥に微かに自分のベッドとは明らかに異なる匂いがある。

“放っておいたら、ホントに何もしない奴なんだ”

生前、兄がそう言った言葉を、香は思い出す。
そう言って兄は、甲斐甲斐しく相棒の世話に勤しんでいた。
高校生の頃、初めて撩に逢ったあの日以降、
兄は何かを察したように香に少しづつ撩の存在を明かし始めた。
香はとっくに知っていたから、香の様子を窺うように小出しに撩の事を説明する兄の気遣いを感じた。
それは自分に対する気遣いであったのは勿論だけど、
それと同時に、撩に対する気遣いのようにも香には感じられた。
兄が大切にしている撩という男を香も大切にしたいと、
もしかするとその時からそう思っていたのかもしれない。
一緒に生活してみると、本当に撩は何もしない奴だった。
出来ない訳では無いから、きっと頓着しないのだ。
不自由がなければ何を着てても気にしないし、何を食べようとも気にしない。
だから勿論、布団を干すなんてする訳無いし、シーツだっていつ換えたのかすら怪しかった。
今ではそれらは香の仕事になったし、撩は何も言わずに生活全般に纏わる全てに於いて、
香が介入する事を受け入れてくれている。
本当をいうと、香はそれだけで随分幸せな事だと思っていたりする。
それでも最近、それ以上の感情が香の中で燻ぶっている事も抗いがたい事実だったりする。

撩に愛する者だと言われてからも、少しだけ時間が経過した。
あれから特に何かが変わった訳では無いけれど、香の気持ちは確実に変わった。
撩の言葉の意味する“愛”の形が、どういうものなのかは正直解らないけれど、
香が望む愛の形はあれからどんどん明確なモノに変わっていく。
単刀直入に、香は撩に愛されたいのだ。
香が他の男になど興味なんて無い事くらい、今更撩だって解っているくせに。
依頼人と一緒に寝てやれだなんて、未だにしょうもない冗談を言ったりする。
その点だけは撩は、浦上さんの時から何も変わっていないのかもしれない。

この部屋をカーテンで仕切って2人で使おうと言っても、撩は何も言わなかった。
呆れたように苦笑いするだけで、
多分、撩にとっては未だに自分はお子様みたいなものかもしれないと、香は思う。
きっとあの薄いカーテン1枚隔てた空間に香が寝ていても、彼には何の動揺も与えられないのだ。


(・・・解ってるくせに、りょおのやつ。)


香はゴロゴロしながら、シーツを撫ぜる。
撩が香のこの片思いに気が付いてないなんて、今更思えない。
香はホンの少しだけ期待してみたのだ。
ココにカーテンで仕切りをつけると言ったら、撩はなんて言うだろうと。
そんなの必要無いと、言ってくれるだろうかと。
まさか一緒に寝るなんて事までは、まだまだ想像してはいないけど(ていうか出来ないけど)、
せめてあの薄い仕切りを越える何かを、香は見てみたかったのかもしれない。
少しづつでも何か着実に前に進んでいるのだという実感が欲しい、のだと思う。

それとももう、何の手応えも無い男のリアクションになど期待しないで、
これから先は男性客用に、もう1つ客間を準備しろ、ということか。
それはそれで、撩とあーでもないこーでもないと言い合える機会が減るようで、香は淋しい気がする。
香は枕に鼻先を埋めると、小さく溜息を漏らした。
アラームは鳴らないけれど、もうそろそろ起きて相棒と依頼人の為の朝食作りに掛からなければいけない。
香は後ろ髪を引かれる思いで、もう一度コーマコットンの滑らかなシーツに頬を寄せる。
前の晩まで撩が寝ていたそのベッドを後にするのが名残惜しいと思う気持ちを振り切って、
香は仕切りの向こうの男を起こさないように、そっと部屋を出た。








撩はなかなか寝付けないでいた。
それは彼女も同じようで、向こう側でいつもよりも随分と神経質に寝返りを打っている気配を感じていた。
互いに風呂も済ませ、寝る準備を整え布団に入る頃(撩は窮屈なソファの上だけど)には、無言だった。
意識していないと言えば、嘘になる。
それでも意識している事を覚られる事だけは、
何としても回避せねばならぬという意味の解らない強迫観念に囚われる。

どの位経ったのか解らなくなった頃、カーテンの向こう側から香の小さな寝息が聞こえ始めた。
それまで柄にも無く緊張していた撩は、その寝息を聞いた途端、驚く程心が凪いでゆくのを感じた。
ついそれまでは撩の心を掻き乱していた存在が、一転して撩の癒し、慰めの存在へと変わる。
こんな風に撩が思う相手は、これまでも今現在も香しかいない。本当は抱きたい。
撩はそっと、香の取付けた薄い間仕切りを開ける。
いつもは自分が眠っている筈のベッドに横たわる彼女を見ると、
撩はこれまで色んな事があったのを思い出す。
セスナが突っ込んで脆くなった床に、2人の体重と銃火器の重さが掛かって床が抜けた時、
結局、あの夜は香の膝枕で不覚にも深く眠り込んでしまった事。
元々、撩はショートスリーパーだし、過去の経験からどんな場所でも手短に休息を摂る事を厭わないから、
あの状況であれほど深く眠れても不思議では無いけれど、
それでもあの時の事を思い出すと今でも少し不思議な気持ちになる。
驚くほど心地良く眠っていた記憶として、いつまでも(今も)撩の中に残っている。

カーテンだけ開けて元居たソファに座ると、
香の傍に近付きたいという気持ちとは裏腹に、そこから一歩も動けない感覚に陥る。
ベッドサイドの非常に小さく絞られた照明が、薄暗い寝室の中で香の寝顔をオレンジ色に照らす。
スッと伸びた鼻筋と長い睫毛が、白い頬に影を落とす。
頬は女性らしい丸みで柔らかな曲線を描き、彼女が女である事実を否が応でも撩に突き付ける。
自分達の間に、もはや障壁となる問題もない。
海坊主のように形に残るけじめをつけてやる事など何も出来ないけれど、
あの日、確かに撩は香とこれから先死ぬまで生きていくと、心に決めたのだ。
誓いを立てるべき神様なんかそもそも信じちゃいないから、
この世で唯一信用している相棒に誓う言葉だった筈なのに。
そこから一歩も先に進めずに停滞している自分に、撩はここのとこ激しく落胆していた。

香の規則的で穏やかな寝息を聞きながら、撩は考える。
香に触れるという事に対して、どうしてこれほどまでの躊躇いを感じてしまうのだろうと。
もしかすると、心の何処かで無意識に思い出してしまうのかもしれない。
これまで生きて来て、数え切れないほど手に掛けて来た命の事を。
自分と関わったばっかりに、暗闇の住人にアッサリと消されてしまった善良な人たちの事を。
自分とコンビを組んだばっかりに、安定した人生と大切な妹との時間を永遠に失ったかつての相棒の事を。
兄に近付く殺し屋の男に人生相談をした、いつかの可愛い女の子を。

それが今の撩と今の香に、香の幸せに、何の関係も無い事くらい解っている。
彼女の選ぶだろう幸せが、自惚れでもなんでも無くきっと自分の傍にあるのだろう事も。
それら全てを承知の上で心に決めた筈なのに、撩はまだ怖いのかもしれない。
正直な気持ちの奥底には、撩にだって沢山怖い事がある。
本当の恐れを知っているからこそ、強くもいられるのだ。
彼女の事を大切に思えば思うほど、撩の伸ばした手は彼女には触れられずに宙を彷徨う。
これまで何年も香を悩ませてきた自覚は撩にもあるけれど、撩は撩で悶々と悩んでいる。
昔は簡単だった。
男言葉を使って乱暴に振舞うまだまだ青い相棒を、子ども扱いする事くらい容易かった。
でも、今はいけない。
彼女の何気ない視線の柔らかさや言葉や仕草や、
ハッとさせられるほどの強さを秘めた眼差しを、もうこれ以上見ないフリをするほど撩もタフでは無い。
現に無防備な彼女の寝姿を前にして、
撩はまるでソファに縫い止められた蜘蛛の標本のように身じろぎすら出来ないでいる。
彼女の穏やかな呼吸が、いつもの乾いた寝室を甘やかな空気に変える。
欲で塗れた穢れた男を優しい気持ちに変えてゆく。
そうやってこれまでも、撩は少しづつ香に変化させられてきた。
年月を掛けて頑なな男の心を解して来た香の方が、余程タフではないのかと撩はいつも思う。



何の拷問だよ、蛇の生殺しかっつーの。



そう言ってはみたものの、相棒からは何の返事も無い。
スースーと平らかな寝息が聞こえるだけで、気持ち良さ気に眠っている。
憎まれ口を利くと、自然と緊張していた身体が解れるのを感じる。
撩はいよいよ末期症状なのかもしれない。
己に対しても、香に対しても、心にも無いくだらない誤魔化しの言葉を吐くしか効かなくなってきている。
本当は、自分を曝け出すしか方法は無いのだろう。
撩はもうそれ以上考えるのを止めにして、カーテンを閉めて毛布に包まるとソファに寝転んだ。




翌朝、香がそっとドアを閉める音で撩は目覚めた。
いつの間に眠っていたのか解らない程に、熟睡していた。
結局、こうなのだ。
相棒の傍に居て、無意識に心底安堵しているのはむしろ、撩の方なのかもしれない。
香には何処か、周りを安心させる雰囲気がある。
その効果が撩にだけ作用している場合には、何ら問題は無いのだ。
問題は、この家に昨日からもう1人男が居候しているという事だ。

撩の可愛い相棒は如何せん無防備だから、自然、気疲れするのはいつも撩の役目だ。
撩は1人残された寝室で、大きく溜息を吐いた。
昨日と変わらない今日が始まる。
撩の変わった部分と、いつまでも変われない部分。
その溝は日に日に深まり、撩自身を苦しめる。
いっそ彼女を抱いて懐に仕舞っておければ良いのに、そうもいかない。
朝の光が入り始めた寝室で、撩はもう一度夜を惜しむように毛布に潜り込んだ。



(つづく)


№4 相棒という名の距離感 

おはようございます。




香がシンクに向かって朝食の準備をしている所に、依頼人・大塚がやって来た。
まだ朝の8時前だというのに、えらく爽やかな笑顔は流石である。
イケメン俳優というレッテルも伊達では無い。
事前に頭に入れていた情報とのギャップに、香は昨夜から違和感が拭えない。
彼が早々に客間に戻って床に就いたのが随分早い時間で、意外だった。
意外にも規則正しい彼の生活態度は、7階(うえ)で寝ている相棒とは真逆だと香は思う。
彼は素人時代の放蕩が原因でこの度の騒動に巻き込まれている訳だが、
そんな事を微塵も感じさせない雰囲気は、果たして演技なのだろうかと香はついつい考えてしまう。
もしもこれが演技なら、確かに俳優は彼にとって天職なのかもしれない。
それでも、この依頼の期間中は彼にとってプライベートな時間なので、
香も一旦は、彼が芸能人である事や、
彼の過去の黒歴史の事を先入観込みでみないよう心掛けようと思っている。




あ、おはようございます。



そう言って振り返った彼女は、昨日初めて逢った時から大塚が感じた通り非常にイイ女だ。
仕事柄、色々なタイプの美女と接する機会に恵まれている大塚だが、
その彼をもってしても、槇村香という女はそれらとはまた違った異質の魅力を孕んでいる様に見える。
整った顔立ちや恵まれたスタイルや、持って生まれた肌の質感。柔らかだけど高すぎない声のトーン。
それらはきっと、後天的にどうにか出来るような資質では無い。
彼女はそういった点で生まれながらに、魅力というものを充分に備えているのだろう。
けれど、大塚が感じた彼女の魅力とは、それらとは違ったもののような気がする。
具体的にはそれが何なのか、まだ今の大塚には明確には解らない。
彼女の瞳は素直そうに澄んではいるけれど、何処か少しだけ野性的な光も宿している。
この家の主人だという彼女の相棒には及ばないけれど、彼と彼女は確かに似た者同士の匂いがする。





よく眠れました?

ええ、お陰様で。




香が16オンスのピカルディグラスに、低脂肪乳を注いで彼の前に置く。
撩が起きてくるのは恐らく、まだもう少しだけ遅い筈なので香は先に大塚の分の朝食を作っていた。
今回の依頼は主に彼の身辺警護で、
彼には前もって警察と所属事務所の方から、不要な外出は控えるよう言い渡されている。
その為の休養(言い換えれば、ある意味軟禁である)なので、
依頼人にも冴羽商事の2人にも、本日の外出の予定は特に無い。
強いて言えば、香のいつもの日課である新宿駅詣でくらいか。
(それでも撩には、香とは別で冴子からの協力要請の下、色んなお仕事が待っているようだ。)
そんなわけで暇を持て余したイケメン大塚健吾の朝食は、至ってシンプルなモノだ。

飲み物は低脂肪乳、若しくはミネラルウォーター。
サラダに使用する野菜には根菜類、芋類、トマトなどは使わない事。
カフェインは基本摂らないので、珈琲も飲まない。
炭水化物は抜き。
玉子や肉類、乳製品、大豆製品は好んで口にする。

香には昨日、彼のマネージャーだという人物からの書類が冴子により手渡されていた。
彼が口にする食事全般には、逐一細かな指示があり詳細な注意事項とレシピが書かれていた。
味付けも、極端に濃い物は控えて。
酒はワインと焼酎に限ってOK、日本酒やビール、洋酒の類は一切NGらしい。
極端な節制は、恐らくは体型維持の為。
もっとも事務所にとって彼は、頭の先から足の先まで全身商売道具なのだから、
それも致し方の無い事なのかもしれない。
香はそれらのレシピを見ながら、大変な商売だな、と自分達を棚に上げて感心した。


ささ身は軽くボイルにして中心部分をレアに残し、ワサビ醤油とクレソンで和える。
玉子料理はOKなので、エッグベネディクト風のポーチドエッグにする。
マフィンの代わりに炙ったはんぺんを使う。
塩分が高すぎるのも良くないので、ハムは使わずにはんぺんに大葉を敷いて薫りでインパクトを出す。
味付けは、全体的に和風でアッサリと仕上げた。
レシピはあくまで参考程度に留めて、香なりに工夫してみた。
飲み物は、低脂肪乳。


たったそれだけ。
もしも撩にそれらを出したら、朝からブーイングの嵐だなと考えながら作った。
作るという程の手間でも無かった。
彼の食生活は毎度そのようなもので、香には苦痛にしか思えないけれど彼はそうでもないらしい。





なんか昨夜。すみませんでした。

え?




彼とは別の相棒用の朝食を仕上げている香の背中に、大塚は突然謝罪した。
昨夜が何なのか、香には皆目見当がつかない。





あの部屋、香さんの部屋なんでしょ?

あぁぁ、その事ならお気に為さらず。客間として使ってるとこにアタシが居候してるだけだから。

ふ~~~ん。




食事をしている大塚に背を向けて撩の為のオムレツを焼いている香には、彼の表情は読めない。
冴羽撩と槇村香。苗字は違うので、恐らく夫婦では無い。
昨日の自己紹介では、互いにパートナーだと言っていた。
良い歳した男女が、ひとつ屋根の下同居している。
ここまでだと、恋人同士だと思えなくもないが。
昨夜、客間だと通された部屋で一晩過ごしてみて、そうでは無いだろうと大塚は感じた。
それにこの、香の“居候”という言葉。
昨夜の食事風景からして、2人の醸す雰囲気は夫婦そのものにも関わらず。
香の部屋と香の言葉から感じられる2人の関係性は、至ってプラトニックなもののように思える。
多分、微妙な関係なのだろうと、大塚にはピンときた。
それなのに昨夜、自分の来訪により彼等は同じ部屋で一夜を過ごした。
それどころか、自分がココに居座る限り、微妙な関係の彼等はきっと一部屋を共有するのだろう。
そう考えると大塚は妙に可笑しな気持ちになった。
誰とも知れない初対面の人物の家に、ほぼ軟禁状態。
自分のやって来た事のツケが回ったとはいえ、正直憂鬱だった。
けれどもしかすると、これは中々面白い居候生活になるかもしれない予感がした。
それに彼女は綺麗で可愛いし、料理が上手い。





ちょっと、撩起こしてきますね。アタシ、伝言板見に行かなくちゃだから。



フライパンの上から皿に移された大盛りの半熟オムレツ(玉子3個分チーズ入り)が、湯気を上げる。
大塚のモノとは違う、ヴォリューム重視の朝食メニューが目の前に並べられている。
ささ身とクレソンのサラダだけは、撩の分も用意してある。
手際よく調理しながらドリップした珈琲も、サーバーの中に満たされている。




冴羽さんと香さんって、恋人同士なんですか?



全くのポーカーフェイスで、顔色一つ変えずに大塚は飄々とそんな事を訊いた。
器用にナイフとフォークを使って、はんぺんをひと口大に切っている。
半熟の黄身をそれに絡める。
無意識に赤面して言葉に詰まっている香の手から、後で洗うつもりのフライパンが滑り落ちる。
シンクにぶつかって大きな音を立てる。
香の声は非常に頼りなげで心許なかった。
けれど、キッチリと否定の言葉を発した。




そそそそそんなんじゃないです、ただの仕事仲間なんでっっ



そう言ってダイニングキッチンを出て行った香の足音が階段を上がって行く。
その音を聴きながら、大塚は思わずニヤついていた。
自分より幾つか歳上であろう彼女が、多分あの相棒に惚れているのは間違いなさそうだ。
けれど、恐らく男は彼女の気持ちに応える気は無いのだろう。
否、別に冴羽撩の気持ちはどっちでもイイ。
自分に関心を向けていない女をゼロから落とすこと、それは凄く面白い駆け引きだ。
初めから自分に媚びて来る女とやるのは、簡単だけど面白味に欠ける。
大塚は目の前の、撩の為の朝食を見詰める。
皿から溢れそうなオムレツは芳醇なバターの薫りを撒き散らしている。
それは胸焼けしそうなほどの量だ。
彼が幾つなのかなど解らないけれど、年齢(見た目)に比してこれは朝から食べ過ぎだろうと判断する。










ねえ、りょお。起きて?



撩は香に肩口を揺すられて、二度寝の底から起こされた。
階下からは芳ばしい珈琲の薫りが漂ってくる。
ぼやけた視界に相棒の顔と、その後ろの薄い臨時の間仕切りが揺れる。
窮屈なソファの上でも、さして不便も無く熟睡していた。




ちょっと、伝言板見て来るから、朝ご飯食べてて。

ふああああああ。  まだ早いから後でもいーよ。



欠伸混じりで呑気な相棒に、香は呆れたように溜息を吐く。
香の説明によると、依頼人はもう起きて朝食を開始しているらしい。
一応何も無いとは思うけれど、彼一人にして出掛けるのが躊躇われるので起きていろという事だ。



ったく、めんどくせぇな。

アンタがだらしないだけよっっ

わぁぁ~~ったよ。喰うから、サッサと行って来いよ。

うん、パンは自分で焼いてね。

おう。





撩がヒラヒラと手を振る素振りを見せるので、香は寝室を出て行きかけた。
けれどドアの前で、ふと何かを思い出したように撩を振り返った。




あ、そうだ。忘れるとこだった。

ん?なに?

大塚さんがね、トレーニングしたいんだって。筋トレ。

・・・。

いつもはジムに通ってるけど、行けないからって。階下(した)のマシン使っても良いでしょ?

こんな時ぐれぇ、大人しくしときゃいいもんを・・・ったく。





つい先程、朝食を食べながら依頼人は何の気なしに香に相談したのだ。
勿論、地下にあるウェイトトレーニング用のマシンの存在など、彼は知る由もないが、
香は一応、撩に訊いてみると答えていたのだった。
冴羽アパートの地下には、非合法のシューティングレンジと武器弾薬庫がある。
普段そこには、限られた人間のみが出入りする。
その秘密のスペースと壁を隔てて、トレーニングマシンを一通り置いている。
勿論、主に撩が使っているが、時々は香も使う。
撩としては、一応射撃場とは別室になっているとはいえ、
部外者をむやみに地下室に入れたく無いのが本音だ。
けれども今回は、依頼の性質上止むを得ないかとも思われる。
依頼人は身体が売りの商売だし、不穏な輩に狙われていて、
その上、街中で悪目立ちする彼を連れて護衛しながら歩く方が骨だ。
射撃場と武器庫の存在さえ覚られなければ、アパートの中で用は足りる。





好きにしろ。

うん、じゃ帰ってから案内しとく。




そういって香が半分部屋から出ようとした所で、今度は撩が呼び止めた。
振り返った香が首を傾げる。
最近では、こんな何気ない香の些細な仕草ひとつにも、撩の気持ちは出口を求めて溢れそうになる。



あ、いや、いい。やっぱ、俺が案内しとくわ。

そう?

うん。

じゃ、お願い。行って来まぁ~~す。






香は撩の微妙な表情になど微塵も頓着せずに、いつも通り日課の伝言板確認へと出掛けて行った。
撩はボンヤリとソファの上に胡坐を掻いて、溜息を吐く。
なんだか昨夜から、自分ばかりがやたらと意識している気がしてならないのだ。
香は至って普段通り、昨夜もスヤスヤと健やかな寝息を立てて穏やかに眠っていた。
朝も早くに起きて、朝食を作り、洗濯物を干して、帰ってくれば掃除を始めるのだろう。
何も変わらないように見える彼女が、可愛くて憎らしい。
今の筋トレ云々の件にしたって、自分でやると言ったのは結局。
依頼人と香の2人行動をなるべくさせたくないだけで、他に理由は無い。
依頼人が男性であるというだけで、妙に動揺しているのは香では無くむしろ撩の方かもしれない。
まだまだ、先は長い。


(つづく)