あけおメェェェ  2015

※ このお話しは、昨年最後に更新した『お題58.タイミング』の続きの様なもの。



















静かなリビングで10日間、撩は色んな事を考えた。
初めて香に逢った日の事。
依頼の間に香を連れ去られて、初めて怖いと思った時の事。
男みたいな口調で喋るくせに、
妙にうぶで可愛いななんて無意識に思ったりして自分の感情が良く解らなくなった時の事。
懐かしい眼鏡の元相棒に、香とは実は血の繋がりが無いんだと聞いた時の事。
誰にも話した事の無い、過去の話しを彼女にだけは話して聞かせた事。
彼女が膝枕をしてくれた事。
彼女を抱き寄せて、プレゼントは生きて一緒に過ごせる事が良いと言った事。
ガラス越しに唇を寄せた事。
彼女を抱き締めながら眺めた湖の水面が、妙に眩しくて綺麗だった事。

そしてずっと、どんな局面に於いても。
彼女を、槇村香という女を、愛していたという事を。




そんな彼女を、自分はこの静かで淋しい世界に置き去りにして、現実から目を背けていた。
たまには、視点を変えて自分を顧みる事も必要なのかもしれない。
照れ臭いとか、今更だとか、自分は彼女に相応しくないだとかそんな事は全部言い訳で。
ただただ変えたいと思った。
2人の完成された、けれど生温いだけの歯痒い関係を確かなモノに。
一番大切な存在を、誰かに掻っ攫われた後では遅いのだ。









っちょ・・、りょお  く・・るしいってば




ダウンジャケットを着た撩の腕の中で、ダッフルコートを着た香が苦しそうに苦情を言う。
互いに寒空の下で着膨れていて、撩はシッカリと腕に力を込めていた。
確かに香は、息苦しいだろう。
けれどそんなクレームは、聴こえなかった事にする。
撩よりも頭1つ半ほど小さな彼女の髪に、顔を埋める。
居酒屋で働いてきて毛先に煙草の匂いが微かに染み付いた、
けれどシャンプーの匂いのする柔らかな髪の感触を楽しむ。
よくよく思い起こせばこれまで、何度となく断片的には互いに想いをぶつけて来た。
それを都合の良いように解釈して、照れ隠しの言い訳にしてきたのはお互い様だ。
もう解っている筈だ。
互いがただ単なる仕事上のパートナーでそれ以上でもそれ以下でも無い、訳が無い事を。







ん?

好き



好き

・・・

お前の事が、死ぬほど好き




顔を埋めた髪の毛の奥、頭の温度が急上昇するのが良く解る。
互いに、顔は見ていないケド。
彼女がきっと真っ赤になっている事が、手に取るように撩には解る。




だからさ
はやく家に帰って
モッコリしよう




撩の言葉に香の思考回路は完全にショートしていた。
気付いたら撩に手を引かれ、殆ど駆け足で新宿の裏路地を通り抜けていた。
2人の家に帰る為に。










境目が曖昧だった。


あと1日あるからと、計画を立てていた大晦日の香の行動の予定は全て変更を余儀なくされた。
撩の寝室のベッドでぐったりと脱力しながら、香は思わずクスクス笑った。
いつ年が明けたのか、全然解らなかった。


大晦日の丸一日、正確に言えば30日から31日に変わる夜中に、2人は初めての夜を過ごした。
明け方に2人は眠りに就いて、大晦日の午後遅い時間に目覚めた。
動けない程に疲れ果てた香をそのままベッドに残して、撩は風呂に湯を溜めた。
準備が整った頃に香を抱き上げて風呂場へと連れ込んで、
頭の先からつま先まで、丹念に洗い上げた。
香は恥ずかしかったけれど、抵抗する力は抜けて、撩に身を委ねた。
自分の身を全力で誰かに委ねる事が、意外にも甘い幸福感を齎すのだという事を、
香は生まれて初めて知った。
それを教えてくれたのが、撩で良かったと思った。
その後も2人はずっとベッドで過ごした。
撩はとても雄々しかったけれど、基本的にはとても優しく香を扱った。
その絶妙な力加減のバランスに、香は少しづつ快楽の芽を拾い上げ溺れていった。
撩はその香の変化を逐一観察し、じっくりと堪能した。
基本的に2人の相性は、これ以上無いほどにマッチした。



2人は眠る事も食べる事も忘れて、没頭した。
漸く、撩の腹の虫が盛大に鳴き出した時には、もう既に年が明けていて。
香は楽しげに笑った。
撩はこの時に初めて、安堵した。
緊張していた自分に気が付いた。
簡単な事だったのだ、こうして口付て囁いて抱き締めて優しく愛撫する事も。
好きだと、気持ちを伝える事も。
勇気を出して一歩を踏み出せば、何の事は無い。
2人の関係は変わったように見えて、何も変わらない。
撩は撩で、香は香だ。
だから撩は、安堵した。


香は笑いながら、大晦日の予定もお正月の予定も狂っちゃったと言った。
こんな筈じゃ無かったと。
大晦日には買い出しに出掛けて、お正月は久し振りに一緒にご飯食べようと思ってたのにと。
またしても撩は、ベッドに香を残してキッチンに立った。
たまにはのんびりと寝正月して下さい、パートナー殿。と、言い残して。





撩が作ったのは、特大のオニギリだった。
綺麗な三角形に固めに結ばれたオニギリは、
上の角を残して下3分の2ほどに焼き海苔を巻かれていた。
中身は、梅干し。
2人はヘッドボードに背中を預けてベッドに座り、裸ん坊でオニギリを頬張った。




ホラ、正月だからさ。ちょっと、富士山ぽくね?



撩曰く、その海苔の巻方は、マウント・フジをイメージしたらしい。
中の梅干しは、初日の出だ。
香は思わず吹き出した。
ご飯粒を飛ばす香に、汚ねぇな、なんていう撩は、いつもの至っていつも通りの撩だったりする。
なんだっけ、あれ。ほら。一富士二鷹三茄子だっけ?とか言う撩が、香には可愛く見えた。



うん、初夢に見たら縁起がイイっていうベスト3ね。



そう言って香は、撩の見た目よりも柔らかな黒髪を撫ぜた。
このヒトと、一生一緒に生きて行きたいと心からそう思った。









撩には夢がある。
こんな明日をもしれない裏稼業で、それは本当にただの夢なのかもしれない。
けれど撩には、夢がある。
彼女と死ぬまで一緒に笑っていたい。
もしも死ぬ時は、彼女の腕に抱かれて死にたい。
アンタと居れて楽しかったと言わせたい。
でも撩は多分、そんな夢を絶対に彼女には教えない。
自分の胸の中に大切に仕舞っておく。
秘密主義の男は、彼女の秘密は許さない自分勝手な男なので。
彼女の耳元にそっと囁く。






なぁ、オマエの夢は何だ?




勿論、全力で叶えてやる為に。
















あけましておめでとうございます(*´∀`*)ノシ
いやはや、ひつじ年ですね、っと。
今年は更新頻度アップでがんがります。
ことよろ。






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[ 2015/01/02 02:28 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)

カテゴリーの所、参照。

前置きは割愛。ケシです。

先月に、冴羽先生(家庭教師)のお話しを書いたんですけど、
短めでパラレルのお話を書いてみようという試みなんです。
なので、強引に3話で締めたんですけど、先生って他にもバリエーションが広がるなと思いまして。
初めは短いお話の中に入れてたんですけど、カテゴリ自体を
冴羽先生シリーズという事で纏める事にしようと思い、(まぁだいぶ前に)カテゴリを増設した訳です。

で、前にも書いたかもだけど、エグモッチさんに冴羽先生という萌ツボに関して大きく共感を戴きまして、
メールでああでも無いこうでも無いと、数パターン考えた訳です。
そんでその中から、頭の中で熟成させて書けそうになったやつを書いて行こうかなと思いました。

取敢えず、小児科医・冴羽先生と、医療事務・槇村くんで書いてみようかと思います。
ほんとこのブログ、パラレル過ぎやろと自分でも思うので、
パラレル嫌いな方は、どうぞ自己責任で。
何話に纏まるのかは不明だけど、なるべく短めに纏めようと思います。
[ 2015/01/03 20:25 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

冴羽先生と槇村さん・春(小児科医院)

槇村香はこの春、専門学校を卒業して初めて受けた面接で、
その小さな小児科医院の受付事務として採用された。
それまで女性の受付事務員が1人居たのだが、
彼女は結婚と同時に旦那の転勤で遠方へと引っ越しを余儀なくされ退職した。
そこで新たに募集をしていたところに、香が面接を受けに来たのである。


香の兄・秀幸は警察官だ。
槇村兄妹は早くに両親を亡くし、歳の離れた兄はまるで父親代わりのように妹を育てた。
高校を卒業してすぐに働きたいと言った香に、専門学校への進学を勧めたのは兄である。
香は普通に、近くの小さな会社の事務員にでもと考えていたのだが、
兄曰く、同じ事務職でも、多少の付加価値を高めた方が先々良いだろうと、
医療事務の資格を取得する為の専門学校のパンフレットを幾つか準備して香を説き伏せた。
そういう訳で今現在、香は家からバスで20分程の場所にある冴羽小児科医院で働いている。
働き始めて漸く、1ヶ月が過ぎた。
仕事はすぐに覚えた。
職場にもすぐに馴染んだ、みんな良い人ばかりだ。

若干1名を除いて。









その小さな病院には医者が2人いる。
1人はおじいちゃん先生で、もう80歳近いベテランだ。
その人の息子という人も、その昔お医者さんだったらしいが、
小児科医にはならずに、世界の恵まれない地域の医療に貢献するという信念を持って海を渡り、
残念ながら遠くの地で志半ばにして、何だったか恐ろしげな感染病に罹り死んでしまった。
そしてその息子、おじいちゃん先生にしてみれば現在唯一の肉親であり、
孫息子の若先生が、この医院の跡取りでもある冴羽撩である。
香が面接を受けに来た時、おじいちゃん先生は診察中であり対応したのが彼である。
彼は碌に香の履歴書も見ずに、明日から来られる?と訊いた。
即決であった。
看護師は3名、全員が全員、目を疑うほどの美女である。
伊集院美樹という一番年嵩の看護師が、ここでは最も長く勤めており彼女は人妻だ。
なんでも旦那は大学病院の麻酔医を務めており、撩とは古い知り合いらしい。
そういう縁もあって、この医院に勤めている。
その次に長く勤めているのが、野上麗香という看護師だ。
誰もが振り返りそうなハッキリとした目鼻立ちに、美しいプロポーションの彼女だが、
何故だか男運に恵まれないらしく、その事をいつも嘆いている。
絶賛、婚活中らしい。
一番キャリアの短い看護師が麻生かすみで、まだ看護師としては2年目で香と一番歳が近い。
大学生の彼氏が居るらしく、何かと事あるごとに香にその彼とのプリクラや2ショットの写真を見せて来る。
逐一、カッコイイでしょ?と同意を求められるが、正直、香には至って普通の青年に見える。
もしかすると、香の世の中の男性を見る基準は兄なので。
少しだけ他人とは感覚がおかしいのかもしれないけれど、と香は思う。
因みに、麗香に言わせればかすみの彼は、“ふーん、優男ね”らしい。
ひと言でバッサリと切り捨てた彼女に、かすみはそれ以来彼氏の話しはしない。
いつだったか、たまたま香とかすみ2人だけだった更衣室で。
かすみはコッソリと耳打ちするように、


麗香先輩、僻んでるのよ。あの人、メチャクチャ気が強いからさ。


だから、あの人の前で彼の話しは禁句なの。と言って、香に目配せをした。
香にしてみれば、そういうもんかと思っただけだ。
香は19歳になるが、これまで彼氏が出来た事は無い。
というか、初恋すらまだなのである。
これまでその事を、意識した事も不思議に思った事も無かった。
高校生の頃、背が高くて運動神経抜群で明るい香には、女子からの告白が何度かあったが。
残念ながら香は、同性愛的指向も両性愛的指向も持ち合わせていないので、丁重に断った。
そもそも男女交際についてですら、全く興味を持っていなかった。
周りの友人たちは勿論、かすみのように恋バナ大好きなお年頃なので。
少なからず、その様な話しはこれまで散々聞かされてはきたし、知識くらいはあるけれど。
実際にこれが恋なんだという気持ちは、残念ながら未だ未経験である。


医院長のおじいちゃんは、とても穏やかな人柄で、
患者さん(というか、患者さんのママたち)からの信頼も厚い。
そして、若先生である。
患者さん達(というか、そのママたち)は彼の事を、少なからず意識して診察に来る。
どうやら巷ではああいうタイプは、イケメンと呼ばれるらしい。
確かに、顔の事は香には良く解らないけれど、身長は驚く程高い。
香も大概長身で、それが今までコンプレックスだったし、
自分より背が高い身近な男性は兄くらいだったけど。
彼はきっと、その兄よりも頭一つ分くらいは大きいだろう。
190㎝くらいはあるだろうなと思う。
顔はまぁ整っているし、ノリが良くて話しやすいんだと思う。
良く言えば、親しみやすいと。
その上、香にはますます良く解らないけれど、医者の腕としてはピカイチらしい。
この辺りで、小児科と言えばここが断然信頼されており、繁盛している。
患者さん達(のママたち)は、明らかに楽しげな声音で若先生と話しをする。
子供の具合が悪くて来てるのに。
しかしである、皆さんは知らないのだ。
彼のもう一つの顔を。











いや~~~、さすが美樹ちゃん。
あの子ピタリと泣き止んだしさ、やっぱ子供好きとそうでないのと解るんだよね、子供って。
俺、あそこまでギャン泣きされると、お手上げだわ。


先生はお嫌いなんですか?子供。


んにゃ、好き。大好き。


何か矛盾してません?今の話し。


そぉ?いやだからさ、要するに何が言いたいかって言うとね。


はい。


ココに子供の好きな男と女がいる訳じゃん?


ええ。そうですね。


そしたらさ、もう作ったら良くね? 子供。


はぁ? ・・・あのぉ、先生の好きなのって、子供より子作りですよね?


う~~~ん、そうね。子供よりも、子作りが好きかもなんちゃって、テヘ。







終始、こんな具合である。
彼は本心なのか冗談なのか、終始この調子で美人揃いの看護師さん達を口説きまくる。
人妻だとか彼氏がいるとかそういう事は、一切関係無いらしい。








あれが無ければ、ホントに非の打ち所が無いんだけどねぇ。若先生。

まぁ、慣れちゃってますけどね、私達。

確かに、最近切り返しのバリエーション増えたわ、私。




昼間は、2時間ほど食事も兼ねた休憩時間が入る。
おじいちゃんと若先生は、奥の自宅へと帰って食事を摂って、
看護師3人組+香は、診察室の奥の休憩室で食事を摂る。
香はいつも弁当持参だ。
兄の分と自分の分と、それは高校生の頃からの香の日課で。
毎朝、5時に起床して作っている。
彼女たちは時にこうして、撩のセクハラ発言に関して愚痴を溢す。
もっとも、彼の言葉を真に受けて憤慨するという局面はとうに超え、もはや呆れているらしい。
けれどこの話題に、香だけはいつも参加できない。
何故だか冴羽撩は、香にだけは決して女扱いをしないのだ。
香を採用して以来、彼は香の事を、槇村もしくは、坊主と呼ぶ。
まるで後輩の男子に接するような態度である。




てか先生、アタシの事だけは絶ぇっ対っっに女扱いなんかしませんよ(怒)




ブロッコリーを頬張りながらそう言った香に、けれど彼女らは楽しそうに笑いながら口を揃える。
あらぁ、その方がいいわよぉ、あんなのただのセクハラなんだからー、と言う。
確かに香だって、セクハラを受けたい訳では無い。
むしろ勘弁願いたい。
これまでずっと学生の頃から、同級生の男子からも香は何故だか男扱いというか、
完全に気の置けない同性の友人扱いを受け続けてきた。
なので、今更そんな事はどうでも良いと思っていた筈なんだけど。
何故だか無性に腹が立つのだ、彼に関しては。


どうせ、アタシはお姉さま方のように美しくも賢くもありませんよっっ、という気持ちになる。
こんな感情は槇村香史上、初めての事である。











カオリンカオリン、柏餅食べるかい?




そう言って医院横の自宅の方の通用口の所で手招きしたのは、おじいちゃん先生である。
香は長い昼休みの半分ほどで、医院の周りの掃除をする事を日課としている。
勿論、休憩時間なので別にする必要も無いのだが、
食後の運動も兼ねて、身体を動かす事にしているのだ。
掃き掃除の手を止めて、香は医院長先生からの魅惑のお誘いに頬を緩めてコクリと頷く。




どうじゃ?美味しいかい?



香は口一杯に柏餅を頬張っていたので、大きく頷いて質問に答える。
老人はコポコポといい音を立てながら、マットな錆色の常滑の急須でお茶を淹れる。
茶葉は宇治の玉露だ。




貰いモンでの、アイツは甘いモン好かんからのぉ。2人では食べきれんから。




勿論、アイツというのは冴羽撩の事である。
老人に招かれるまま腰掛けた縁側で、プラプラと足を放り出しながら。
そうか、アイツは甘いもの苦手なんだな、と香は思う。
美味しいのに、損してる。




どうじゃ?仕事は。慣れたかの?

はい、皆さんとてもよくして戴いて。

そうか、良くして貰えると思うのはお前さんの心がそう思わせておるんじゃ。心掛け1つじゃよ。




香には彼の言葉の意味が良く解らなかったけれど、なんだか嬉しくなった。
まだあるから、おあがり。という彼の言葉に遠慮なく戴く事にする。
そんな平和な光景に水を差すように、ヤツは現れた。
廊下の奥から、咥え煙草でやって来た。







お、坊主。あんま食い意地張ってると、デブるぞ。



そう言って、カカカと笑って去って行った。
廊下の突き当たりにある便所に行ったのである。
撩の背中に向かって舌を出して、子供のようにアッカンべーをする香に。
老人は目を細める。
彼女はまだ、何も知らない。
あの自由奔放で好き勝手にやっている様に見えて、
結構賢い孫息子が、これまでに無く彼女の事を気に入っているという事も、
それはまるで春の日差しのように微笑ましい光景だという事も何も。
彼等を引いた目線で眺める老人には、それら全てが平和で温かいと思えた。



(つづく)






拍手コメントで、カオリンは制服ですか(わくわく)?
という質問を受けましたので、お応えします。
はい、制服です。
ワタシの行きつけの内科の看護師さんは、ピンク色のナース服なんですが、
受付のお姉さま方は、同じピンクなんですケド胸元に赤いリボンを付けてるんですね、細い。
だから、ワタシの脳内ではあの制服を着て貰って妄想してます。
そして紺色のカーディガンです(萌)
皆さん、お好きなように制服を着せて妄想して下さい(*´∀`*)ノシ


[ 2015/01/03 23:20 ] 冴羽先生シリーズ | TB(0) | CM(2)

疑問に思われたようなので、私的設定(笑)

おはこんばんちわ、ケシです。
今書いてるお話に関して、
コメントでご質問を下記のように賜りましたので、お返事です(о´∀`о)ノシ




>カオリンの年齢がちょっと疑問です
> 高校卒業後、専門学校卒業して就職で19歳???



え~とですね、まずはカオリンの誕生日はいつですか?
言わずもがな3月31日ですよね。
ということは、カオリンは必然的に高校を卒業したあとに18歳になる子なのです。
高校の卒業式って、大抵は3月上旬ですよね?
で、専門学校なんですがケシ子的妄想としては、
お兄ちゃんが調べてきて資料を取り寄せたビジネス系の専門学校の医療事務コースが1年過程なんですよ。
(細かっっ・笑)

なんで、それも卒業した春っていうのが19歳の春という設定で(笑)
宜しいでしょうか?
そもそも単なるパラレルに過ぎないので、
そのような重箱の隅をつつくようなコメントをスルーしても良かったんですが、
ちょっと、コメントの書き方にイラッときたのでむきになっちゃった(テヘペロ)


う~んとね、貼り付けたコメントはこのまんま、
たったこれだけをまるで投げ付けるように書かれただけなんだな。
お名前もなし。
もしかしたら、ワタシの受け止めかたも感情的なのかもだけど。
何となくね、言外に、よく考えもせずに変なパラレルばっか書いてんじゃねぇって
言われた様な気持ちになってしまったです(笑)
まあね、ハッキリそう書かれたなら、んじゃ来ないでね♪って言えるけど、
そうじゃないから質問に答えたよ。
もしも嫌な気持ちになる人が居たら御免だけど、書いてる私自身が嫌な気持ちで書きたくなかったから、
ハッキリ言っちゃった(о´∀`о)あはは~

別に否定的な意見や、指摘を排除しようなんて思ってないです、ありがたいです。
でも書き方をもう少し考えて戴けると幸いです。
ただお話を読んで見ているだけの人には、ワタシという人間がどういう奴か解らないように、
ワタシも画面の向こうの顔の見えない皆さんがどういう考えでお言葉を下さるのか解らないときもあります。
時々、めっちゃ凹む時もあるのさぁー。
あなたにそのつもりが無くてもね。

でもさ、テンション駄々下がりになって更新の意欲を削がれるくらいなら、
こんな風に思ったよって伝えた方が建設的かなって思いました。
なんだよケシ子、コメント晒しやがってって思われたらごめんねごめんねー。
何となく正直な気持ちを言いたかったです。
ばいちゃ。


《追記、報告とお詫び》

昨晩、コメントを下さったご本人よりメールを戴きました。
そして悪意からのコメントでは無かったということを聞き、ワタシも納得する事が出来ました。
きちんと対話をさせて戴けて、良かったと思っております。
ワタシも今後、発信者として今以上に気を付けなければならないと感じております。
けれどこの記事を取り下げる気持ちはありません。
それは、このように感じた自分自身の感情もまた本心であるからです。
時に、面倒臭いとか体裁が悪いとかで、人は自分の気持ちを抑えますが、
そしてそれが大人の分別と言えばそれまででしょうが、
ワタシは今回、自分の思ったことを言ってみてそれも悪いことでは無かったと信じております。
色んな方の考え方に触れ、いつも新しい物の見方を広げる糧としております。
その事に単純に感謝します。
この気持ちの一つ一つが、ワタシの文章のどこかしらに反映されることと思います。
今回のことでメールを戴いた方、コメントをしてくださった方、折を見てお返事を致します。
何より続き書くぜ~~~(о´∀`о)ノシ
でわ、また。


[ 2015/01/04 16:01 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

冴羽先生と槇村さん・夏(小児科医院)

なんか最近、咽頭結膜炎の患者さん多いですねぇ。




香が受付の事務イスを回転させながら、手持無沙汰にそう言った。
珍しく、暇な1日だ。
いつもなら待合室には常に数組が待機しているが、今日はまばらで。
時折、こんな風に職員以外誰も居ない時間が訪れる。
咽頭結膜炎、巷では俗にプール熱と呼ばれる感染症がこの近所の子供たちの間で、
爆発的に流行している。




プールの授業が始まったからね、小学校も幼稚園も。 中耳炎も増えるわよ、その内。

そうなんだぁ。




香の背後にある棚の中のカルテを整理していたかすみが教えてくれる。
香は子供の頃は、保育園から高校時代に至るまでずっと皆勤賞だった。
虫歯もゼロで、病院に掛かる事は殆ど無かったので、
その様な季節の流行病というものがあった事など忘れていた。
そう言えば、友達がお多福風邪になっても水疱瘡になっても香にはうつらなかった。
なので未だ未経験である。






ハァイ、カオリ♪ カスミ、ごきげんよう。


入り口のドアが開いたので、患者さんが来たのかと思って2人が視線を向けた先には。
白衣の下にピンク色のワイシャツを着た、金髪碧眼の男が立っていた。
彼はすぐ隣にあるエンジェル調剤薬局の薬剤師、ミック・エンジェルである。
妻のかずえも薬剤師で、2人でやっている。
すぐ隣という事もあって、この小児科の患者はほぼ、その薬局の客でもある。



こんにちわぁ。と、2人が声を揃えると、ミックは綺麗なウィンクをしてみせる。
午前中の間に薬局を訪れた患者の資料が挟まれたクリアファイルを香に渡すついでに、
白々しく香の手を握る。
香は至って無自覚だが、どうやら香はミックに尋常では無く気に入られているらしい。
カウンターに肘をついて世間話モードに突入したミックが、かすみに向き直る。




そういえば今年は? 夕涼み会はいつやるの?

あ、来週の週末、七夕さまの時に。

そうか、じゃあカズエにもそう言っとかなきゃ。

ええ、待ってます。





そんな2人の遣り取りを、香は首を傾げながら聞いている。
そういう香の仕草イチイチに敏感に察知して、先回りするのがミック・エンジェルである。






あぁ、そういえばカオリは初めてだったよね。

そう言えばそうですね。

???







だいたいいつも七夕前後に、冴羽小児科の面々は夕涼み会と称した飲み会を敢行する。
メンツは勿論、院長と撩、看護師&事務員、
そして薬剤師夫妻、それに美樹の夫である伊集院氏だ。
病院の裏手には、冴羽家の自宅があり庭は結構な広さがある。
毎年その庭で、バーベキューをするのが恒例だ。
院長主催のいわば社内行事であるが、ご近所さんの好でミック夫妻も飲み会に参加する。











なんか最近、若先生のセクハラ、小康状態ですよね。




そう言った麗香に美樹は暫し考え込む。
そう言われてみればそうかもしれないと、思った。
最近の冴羽撩は、妙に落ち着いている。
美樹は、午前中に院長が総合病院への紹介状を書いた男児(4歳)のカルテへと目を落とす。
鼻の穴にボタン電池を詰めて、取れなくなって数日。
変な色の鼻水を垂らし始めたところで、母親に事態が発覚して連れて来られた。
患者曰く、バレたら叱られると思って言わなかったらしい。
どうしてそんなものを鼻に詰めたのかは、謎である。
鼻腔の奥が爛れていたので摘出と処置だけして、念の為大きな病院への紹介状を書いたのだ。
もう少し発見が遅れていれば、粘膜に著しいダメージを負っていただろう。
子供は鼻の穴に何かを詰めるのが好きだ。(特に男児)
豆まきシーズンには、必ずといっていいほど数人は大豆を鼻に詰めて連れて来られる。



そう言えば数日前、
撩が鼻血を垂らして鼻の穴にティッシュを詰めて診療に当たっていたのを、美樹は思い出す。
確かに彼はこの所、何か少しおかしい。

(下ネタ言ってないと、欲求不満になるのかしらね?)

しかし、美樹はそんな事はどうでも良いので、頭を仕事モードに切り替える。
背後で麗香が、先生どうかしたのかなぁ。と呟いていたけれど美樹は生返事を返した。













ねぇねぇ、院長。

ん?なんじゃ? カオリン。

なんか今度、夕涼み会っていうのやるんですよね?

おお、そうそう。来週な。カオリンは初めてじゃったな。

はい、すっごい楽しみです。





昼休みの縁側で、院長の茶飲み話の相手を務めるのが、この所の槇村香の日課だ。
表の掃き掃除をやっていたら、何処からともなく院長が忍び寄り手招きする。
白いパピコを半分ずつ握った2人は、並んで縁側に座って庭木を眺めている。







ああああああ~~~~

穏やかな2人の会話に割って入ったのは、撩だった。
廊下の奥から咥え煙草でやって来て、煙草を落として大声を上げた。



なんじゃ騒々しいぞ、撩。

っつーか、それ。俺のパピコ。





そう言われて、2人は手の中の冷たい氷菓を見詰めてから、互いに見詰め合う。
香は知らない。
院長に手招きされてここに誘われ、お食べ?といって貰ったから食べたのだ。
別に盗んだわけじゃない。




っんだよっっ、人が風呂上りに食おうと思って買って来てたの、勝手に食いやがって(怒)

ふぉふぉふぉ、器が小さいのぉ。良かろう、このくらい食べたって。のぉ?カオリン。





小さい男じゃ、と言いながら老人は気にする事無く、手の中の容器をチューチュー吸った。
香は少しだけ気の毒に思ったけど、半分以上食べた今、
返す訳にもいかないので、聞こえないふりをしてやはりチューチュー吸った。
この後、数日に亘って、
撩は香の顔を見る度に、パピコ泥棒呼ばわりするので。
仕方なく仕事帰りに連れ立ってコンビニに行き、何故だか随分年上の男にパピコを奢った。
















は、は、はじめまして(汗)






伊集院美樹の夫だというその彼は、見上げる程大きかった。(恐らく身長は、ゆうに2m以上だろう)
香は初めて会う彼に多少ビビったけれど、他のメンツは慣れたもので気にならないらしい。
彼は至極無口な男で、撩とミックがバカ騒ぎする中、彼は粛々とバーボンを飲んでいた。
香1人だけ未成年なので、コカコーラの瓶を握っている。
他のメンバーは、キンキンに冷えた生ビールだ。
夕方、バーベキューの準備をしている所へ近所の酒屋がやって来て、
木製のケースに収められたバーボンを1ケースと、
業務用サイズの生ビールの樽サーバーを置いて行った。
どんだけ飲むのだろうと、香は驚愕したけれど。
これまた彼等の通常運転らしく、平然と伝票にサインするかすみを香は眺めていた。


撩は上半身裸に、短パン一丁で首から聴診器を下げている。
ミックもまた上半身裸に、スラックス姿できっちりネクタイだけ締めている。
香は1人素面の筈なのに、テンションは撩とミックに負けず劣らず高い。
3人は庭の片隅で、手持ち花火で盛り上がっている。
それを他のメンツは冷静に見ながら、話しに花が咲いている。
女ばかりの看護師3人と、薬剤師1名。そこに、老人1名。
何故だかこちらは、独身組の恋バナで盛り上がっているらしい。
その話の輪から少し外れて、大男が1人粛々と手酌で酒を呷る。




撩の奴、アイツのこと随分、気に入ってるな。



超絶無口の男がポツリと呟いて、女達も彼の見遣る視線の先を辿る。
もしかすると、伊集院隼人がまともに口を利いたのはこれが初めてかもしれない。
この会が始まって、もう2時間は経過している。
美樹は夫の言葉に、数日前の麗香の言葉を思い返す。



“ なんか最近、若先生すこしおかしくないですか?”


どんな風に?と訊いた美樹に、麗香はセクハラが小康状態だと言ったのだ。
そもそも、セクハラが常態と化している日常が異常なので、
気にも留めなかった(むしろ、良かった良かったと思っていた)美樹だけど。
もしかしてと、この夜初めて思った。




そんな全員の視線が自分達を取り囲んでいるとも知らず、酔っ払い達と未成年は、
まるで中学生男子のように、じゃれ合っている。
2~3本纏めて手持ち花火を握り、互いに火花を向けて、追い掛け合って遊んでいる。
もしかすると彼は。




子供みたい。



そう言ったのは、麗香だった。
少しだけ面白く無さそうな響きに聞こえたのは、美樹の気のせいだろうかと思ったけれど。
次の瞬間には、話題はかずえの夫の愚痴(という名の惚気)に変わっていたので、
美樹は何を考えていたのだか、良く解らなくなってしまった。
夏の夜は平和に流れている様に見えて、
少しづつ何かがそれぞれの心の中に芽生えていた。


(つづく)






※ カオリンがりょうちゃんにパピコを奢った時の詳細妄想 ※

カオリンはあくまで、りょうちゃんが風呂上がりに食べるためにパピコが必要なのだと思っている。
なので、1つだけ買って渡して帰ろうとするんだけど、
何故かりょうちゃんは、コンビニの外でおもむろに袋を開封。
半分こにして片方をカオリンに渡す。
不思議そうに首を傾げるカオリンに、良いから食えといって強引に手渡す。
夕焼けのコンビニの前で、無言でパピコをチユーチューする二人。
食べ終わったら、じゃまた明日。と言い残して、りょうちゃんさっさと帰る。
なんだあれ、変なの。と、狐に摘ままれたようにぼんやりとりょうちゃんの背中を見送るカオリン。
ケシ子の脳内では、コンビニでパピコを奢った時にこういうやり取りが為された事になっております。
[ 2015/01/05 22:54 ] 冴羽先生シリーズ | TB(0) | CM(0)

冴羽先生と槇村さん・秋(小児科医院)

先生。

なぁにぃ~~?美樹ちゃん 不倫のお誘いなら大歓迎だよ♪




冴羽撩は、つい今しがた診察を終えた患者のカルテに所見を書き込みながら、
脳天気な声で答えた。
午前の受付が終了した今も、待合室には数組の親子が待っているらしい。
このまま行けば午前の診察は、昼休みに少しだけ食い込むだろう。
美樹はいつものセクハラ医者の戯言を華麗にスルーして、話しを続ける。
次の診察の為に、数分前に撮影されたレントゲン写真を、
冴羽のデスクの前に設置されたシャウカステンに並べて差してゆく。
小学2年生男児は、1週間ほど前の昼休みに校庭にある滑り台を逆走し、
上から滑って来た同級生と衝突、そのまま地面へと落下して手首を骨折した。
ギプスで固定した患部の経過を見る為に、来院している。
暑い盛りを過ぎ、寒くなる前の短い季節は。
外で元気に暴れ回る子供たちにとっては、怪我の危険がつきものだ。



先生って、もしかして。



美樹が意味深に、言葉を区切る。
撩はその美樹の様子に、カルテから顔を上げて首を傾げる。




香さんの事、好きだったりします?



撩の指先から、愛用のボールペンが落ちる。
一瞬、気を抜いた撩はしかし、ハッと気を取り直しボールペンを拾い上げる。





な、な、何の冗談なのよ、美樹ちゃん(汗) 誰があんな色気もへったくれもねぇお子ちゃまを・・・

へえ~~~、お子ちゃまねぇ、先生のストライクゾーンって何処から何処まででしたっけ?




そう言われて、撩はグッと言葉に詰まる。
それは常々、撩がお題目のように唱える口癖だ。
何処か有無を言わせぬ美樹の詰問に、撩が渋々答える。



・・・18歳以上、35歳未満。美魔女は、その限りに非ず。

ふふふ、香さんは生憎、ピチピチの19歳みたいですよ?先生?

ふ~~~ん、でも、そもそも男の子はストライクゾーンには含まれてないからなぁ。



逆に切り返して、撩が持ち直した所で、
またしても美樹が不敵な笑みを浮かべて攻勢をかける。




まぁ、先生の目にはそう映ってても、他の人にとってはそうでもないみたいですよ?薬屋さんとか。

何それ、どーゆー意味?

結構、口説かれてるみたいですよ?香さん、気が付いてないですけど。




美樹がニッコリ微笑む。
撩は内心、出入り業者かっっと、数人の見知った製薬会社営業マンの顔を思い浮かべる。
何故だかこの病院に配置される営業マンは、若い独身の男が多い。


あ゛ぁ、あんだとぉ? 佐々木の野郎かっっ?


撩は営業マンの中でも、一番女子にウケの良さそうなソフトな物腰の線の細い男を思い出す。
美樹が答える前に、それは起こった。
待合室の方からの、数人が言い争う声。
香の心許ない声が小さく、すみません、すみませんと謝っている。









騒ぎを聞いて撩が待合室に出てみると、それは奇妙な光景だった。
待合室の一角はプレイマットを敷いた、玩具コーナーになっている。
そのマットの上には、5歳男児と3歳女児が対峙している。
唇を尖らせて立ち上がる女児(栞ちゃん)の手には、積み木が握られている。
そのすぐ傍らに座り込んだ男児(大ちゃん)は、目に涙を溜めて唇を噛んでいる。
男児のおでこは、赤く腫れ明らかにタンコブが出来ている。
恐らく、その状況を鑑みると、凶器は積み木だろう。

その傍で2人の母親たちが何やら言い争っている。
その横で香が、すみません、すみませんと、オロオロしているのだ。
かすみが、事情を知らない撩と美樹に小声で説明する。







女児の母親は、1人で遊んでいた我が子に安心して雑誌に集中していた。
片や、男児の母親も他の子供の母親と世間話に興じていた。
2人ともに、子供から目を離していた時に、それは勃発したのだ。
何やら2人の間で小さな衝突が起き(恐らくは、玩具の取り合い)、
小さな方が凶器を手に暴力に打って出たのだ。
その一部始終を目撃したのが、すぐ目の前のカウンターに座っていた香だった。
すぐさま現場(プレイマット)に駆け寄り、オイタをした3歳児にダメでしょ?と言ったのだ。
その辺りで、母親たちも異変に気付く。
まず声を荒げたのが、女児の母親であった。
事情が呑み込めないままに、小さな我が子の方を諭す年若い事務員にクレームをつけた。
一方、黙っていられないのは男児の母親である。


子供も持ってないような貴女(香である)に、何が解るの?口出ししないでっっ

と喚く女児の母親に、香を庇いつつ我が子の被害を訴える。
もう、待合室はちょっとした修羅場を迎えていた。
かすみも後から母親たちの言い争いを聴いて、事情を解読した次第だ。
撩はそんな母親たちは放置して、
じっと対面して睨み合っている2人の幼児に、目線の高さを合わせる。





なぁ、しーちゃん。りょお先生は、らんぼうな女の子は嫌いだなぁ。結婚してあげないよ?



彼女は生まれてすぐから、この病院のかかりつけだ。
最近少し、おませさんになって。
いんちょーせんせーよりも、りょおせんせーがしゅき。と、いっちょまえに選り好みをする事を覚えた。
撩は、パパの次にりょおせんせーと結婚しゅる、と言われたらしい。



こういう時は、なんていうの?



そう問いかけた撩の目を、幼い瞳でじっと見詰める。
暫し大きな医者と小さな子供が見詰め合い、彼女は小さいなりにも一生懸命考える。
撩の方から視線を、先程まで対峙して睨み合っていた相手へと戻す。




ごめんなさい。

・・・いいよ。



さすがに、5歳児である。
凶器で殴りつけられたにも関わらず、広い心で許しを与えた。
しかし、目の縁には涙が滲んでいる。
互いに、ちっともごめんなさいでもいいよでも無い、不穏な表情ではあるものの。
一応は、和解は成立したらしい。
それを見た母親たちも、それ以上は何も言えない。
子供たちが和解した以上、それ以上の言い争いは不毛である。
撩は泣かずに我慢した偉いお兄ちゃんの頭を撫でる。
ツルツルして滑らかな猫毛は、子供特有の柔らかな温かさで撩は知らず笑顔になる。


よぉ~~っし、先にそのタンコブ、診てやるぞほら。偉かったな。


そう言って、男の子を抱き上げると診察室へと消えた。
後に残された者たちは、少しづつ元通りの空気に戻る。










はぁっっ



香は表を掃く手を休めて、医院の入り口にある3段ほどの低い階段に腰を下ろす。
つい数十分前の出来事は、思い出す度、憂鬱になる。
悪気など無かった。
母親たちは、自分達の事に夢中で事件が勃発した事に気が付いて無かったし。
良かれと思って声を掛けたのに、正直、あの母親の言葉に少しだけ凹んでいた。
思い直して済まないと思ったのだろう。
2人の母親は帰り際に、香に謝って帰って行ったけれど。
香の心は晴れない。
何度目かの溜息を吐いた時に、隣に誰かが座る気配に香が顔を上げる。



あ、先生。



隣に座ったのは、撩だった。
煙草を咥えて、片手には携帯灰皿を持っている。
何も言わないけれど、黙って煙草を吸っている。
香は聞いてなくても構わないけど、と思いつつ何故だか愚痴を溢していた。
母親の2人ともが、取り乱していたとはいえ。
正直、あの言葉に傷ついた事。
子供もいないクセに、何が解るのかという言葉。
そう言った張本人は、後で詫びてくれたので、だからそれはきっと香の心の問題なのだ。
確かに香は社会に出て数ケ月しか経たない、半人前だ。
それでも少しづつでも、仕事にも慣れてきたつもりだった。
でも、やっぱり傍から見ればただのひよっこでしかないのだろう。
男の人が仕事を頑張って、一人前になってゆくのだとしたら。
女の人は結婚し母親になって初めて、一人前と見なされるんだろうか。
そういう何もかもを、突然数十分前に突き付けられて、香は思い悩む事となった。
撩は何も言わなかったけれど、煙草を吹かしながら聞いていた。


いつもの撩ならここで、それなら子作りしようか?なんて、軽口を叩く男だけれど。
何となく彼女相手に、それをいうのは憚られた。
セクハラをしないかわりに、撩は香の癖毛をクシャクシャと撫でた。
彼女はまだまだ、世間を知ら無さ過ぎだ。
子供可愛さに周りが見えていない母親にも、悪気は無い。
その事を真に受けても仕方がないのだ、世の中には受け流す事と受け止める事がある。
彼女はまだその違いが、良く解っていないのだ。
知らないが故の強さもあると同時に、脆さも併せ持っている。
それが妙に撩を惹き付ける。
彼女が大人になってゆくのを、傍で見て居たい。



ほら、食えよ。


そういって撩が白衣のポケットから取り出したのは、栗饅頭だった。
香は思わず吹き出した。
いつもなら、院長先生がお茶のお供に誘いに来るのに、今日はどうやら撩らしい。
香は、戴きます。と言って、撩の手から栗饅頭を受け取った。







何かこれ、お線香の味がします。

うん、仏壇の前に置いてあった奴だから。





撩は笑いながら、煙草の灰を灰皿に落とす。
香も笑いながら、いつの間にか憂鬱な気持ちが晴れるのを感じていた。
やっぱり、甘いものの力は凄いなぁ、ストレスをやっつけてくれる、と思っているけれど。
本当にそれが、スイーツの効果なのか、それとももっと別の何かなのかはまだ良く解らない。









昼休みの待合室から、麗香は大きな窓の外を眺める。
病院の入り口の小さな段差に座り込んで、何やら笑い合っている2人組を見るとも無しに眺める。
彼は彼女の柔らかそうな栗色の癖毛を、優しく撫でる。
何を言ったのか知らないけれど、落ち込んでいた彼女が小さく笑う。
目の前で誰かと誰かが恋に落ちて行くのを眺めるのは、正直好きじゃない。
見ている方でなく、渦中の人間になりたいのに、いつも。



どんまい。


気が付くと、背後に先輩看護師が立っていて、
麗香の心を見透かしたような言葉を掛ける。



私、やっぱり男運ないみたい。

実はその事なんだけど、


美樹が徐にその話しを切り出す。
夫の職場の大学病院の心臓外科医との縁談。
少し歳はいってるけれど、条件は悪くない。
一度、逢ってみてはどうかという先輩に、麗香は苦笑しながらも頷いた。

因みに、その日の冴羽家の縁側で院長先生のお供に呼ばれたのは、かすみだった。



(つづく)



[ 2015/01/07 22:54 ] 冴羽先生シリーズ | TB(0) | CM(0)

冴羽先生と槇村さん・冬(小児科医院)

この季節はどうしても、病院は忙しくなる。
連日、風邪っ引きの子供たちが引っ切り無しに訪れ、休む間も無いほどに診療に追われた。



臨時休校になったらしいわよ、小学校。



朝、そう言いながら出勤してきた美樹に、香と麗香はやっぱりと頷いた。
ここ最近のインフルエンザの発生率は、日に日に増え、
とうとう、かすみまでインフルエンザに罹って2日前から休んでいる。
一応、医療従事者は流行前に毎年、予防接種を受けるのが常だが。
それで必ずしも感染しないとはいえない。
むしろ、毎日のように感染者と接触するのだ。リスクは常にある。
罹ってしまえば、たとえ症状が治まっても5日間は休まなくてはいけない。
忙しい上に人手が足りないのが、この所の冴羽小児科医院の現状だ。
実は、かすみが休む前には麗香が休んでいた。
漸く麗香が出て来たと思ったら、まるで入れ違う様にかすみが倒れたのである。

そして忙しいのは、医者、看護師だけでは無い。
香の業務もそれなりに忙しい。
まず、受付の業務とは別に、電話の応対が急増する。
患者の母親たちも、このインフルの猛威は重々理解しているのである。
それ以外の症状で、日頃なら病院に赴く事も。
場合によっては、病院自体に行く事を躊躇う向きもある。
待合室で風邪を貰って帰るという事に皆、敏感になっているのだ。
そうなると必然的に、どうするのがベストだろうかという問い合わせの電話が増えるのだ。




子供さんが、2人、3人と居る家庭は順番に罹るからね。仕方ないわ、どうしても今は。




そう言って苦笑した麗香は最近、年上の心臓外科医と付き合っている。
秋頃、美樹のセッティングにより出逢ったという彼は、
どうやら男を見る目がシビアな麗香のお眼鏡に適ったらしい。
恋愛関係が充実している彼女は、気の強さが少しだけ緩和して雰囲気が柔らかくなった。

連日の忙しさに疲労が溜まっているのか、美樹もまた本調子では無いらしい。
風邪では無いが、いつも悩まされている肩凝りと眼精疲労がピークなので、
今夜は行きつけの整体に行かなきゃと、愚痴を溢す。
女性陣の中で元気でピンピンしているのは、香1人だ。
香は子供の頃からずっと、皆勤賞だった。
皆が色んな感染症で学校を休んでも、香はいつも健康だった。
インフルエンザにもお多福風邪にも水疱瘡にも麻疹にも罹らなかった。
それが良い事なのかどうか(大人になって罹った方が重篤化しやすいし)は別として、
この季節に学校が臨時休校になるという現象が、香には非常に懐かしく思い出された。

香が物心ついた頃には、歳の離れた兄はもう既に社会人として働いていた。
全く記憶にないような小さな頃に、母親は他界しているし、父親の記憶もまた朧気だ。
家に帰っても、いつも遅くまで香1人の槇村家の茶の間は静かだった。
だから香は、学校に居る時間が本当に楽しかったし、臨時休校になる事がとても嫌だった。
友達たちは、単純に学校が休みになると喜んでいたけれど。
どうせ休みになっても、家の外には出歩いてはいけないから(当然である)遊びにも行けないし、
全然つまらなかった。
休みが明けて、学校に行くと。
友達たちは皆、外に出られないなりに母親や兄弟たちと過ごしておりその話しを聞かされる度、
香は、どうしてうちはお兄ちゃんと2人だけなんだろうと、淋しく思った。
勿論、警察官で立派な兄の事は誇らしかったけれど、小さい頃の香はいつも淋しかった。













なんかアタシ、今朝起きた時から喉がおかしいんですよねぇ。風邪かも。



香がそう言ったのは、忙しさのピークもそろそろ峠を越した頃だった。
臨時休校は結局3日間続き、かすみが復帰して来るまで大変な忙しさだった。
そう言いながら、カーディガンに袖を通した香に、
美樹があ~~んして?と言って、喉の奥を覗く。
腫れては無さそうだけど、と言いながらナースキャップをピンで留める。
一応、後で先生に診て貰ったら?というかすみに香は頷く。
香さんが居なかったら困るものね、という美樹に麗香も大きく頷く。
もうすっかり、香は頼れるスタッフの一員として皆から可愛がられている。
もう心許ないひよっこでは無いのだ。








ありゃぁ、こりゃお多福じゃな。




院長は丸い眼鏡の奥の目を細めながら、そう言った。
その日1日、香はマスクを着けて受付をやったけど、時間を経る毎に調子の悪さに拍車が掛かった。
耳の下辺りが痛み始め、悪寒がするので恐らく熱も上がっているだろう。
数時間毎に、かすみは香の顔を覗き込み、顔真っ赤よ?と心配していた。
診療時間が終わって、全員が見守る診察室で院長はそう診断を下した。




撩、車で送って行っておあげなさい。


この時既に、熱は38℃を超え始めていた。
今晩は熱が上がる予感がヒシヒシと香を襲う。
バスで20分、徒歩7~8分の帰宅時間を考えると、院長の提案は非常にありがたかった。
香はこの時、自覚が無かったけれど。
傍から見ると、かなり朦朧とした状態であった。




撩が香から詳しい住所まで訊き出して、あぁあそこら辺かと理解して送って行く間に。
香は完全に寝落ちした。
途中、早退したらどうかと言った撩に、香は大丈夫ですと言って1日頑張り通した。
香が完全に眠りに落ちる前に、撩は少しづつ香から情報を引き出した。
どうやら彼女が兄と2人暮らしであるらしい事と、その兄は忙しい身の上である事は前から知っている。
お兄さんは今日は?遅いの?という撩に、香は呂律の怪しい言葉で。
わかりましぇんたぶん、と答えた。
彼は刑事だそうだ。

いま、れんじょくしゃつじんじけんのそうしゃでかえりはおしょいんれす。

どうやら頬っぺたが腫れ始めて、滑舌に影響が出始めたらしい。
喋るのが辛そうな香にそれ以上質問するのは止めて、
後部座席に置いてあったブランケットを掛けてやった。
もうすぐで、冬が過ぎれば香が働き始めて1年になる。
撩は香が面接に来た日の事を、しっかりと憶えている。
ヤバイ位に可愛い子だと、激しくときめいた。
この数ケ月、彼女という人間を見詰め続け、撩はもう重々自覚している。
これは恋だ。



生真面目に仕事を覚えようと頑張る姿。
就業時間外に職場の周りを掃除する姿。
小さな子供から年寄り(院長)まで、誰とでも打ち解けて周りを和ます才能。
まるで子供のような心からの笑顔。
その全てに、撩は恋している。
こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
これまで、恋人が居なかった訳でも無かったし、適当に遊んでもきた。
でも、人生を共にしたいと思った相手は居なかった。




その比較的新しい公団住宅の7階に、槇村兄妹の住まいがあるらしい。
入り口の傍まで車を付けて、香を起こしたけれど。
車を降りながら礼を言う香の足取りが覚束ない状態で、今にも倒れそうなので撩は思わず抱き上げた。
香は恥ずかしそうにしたけれど、大人しくされるがままになっていた。
部屋まで運んで2LDKの一室、
淡いオレンジ色のベッドカバーの掛かった香のシングルベッドに降ろすまで、
香は真っ赤になって俯いているだけで、一言も喋らなかった。


あ、あのパジャマに着替えりゅのれ・・・


と言われて、撩はハッとしてゴメンと言いながら香の部屋から出た。
香が着替えている間に、キッチンに立って洗面器の所在は解らないので、
適当な大きさのステンレスのボウルに氷と水を満たした。











はぁ、ちゅめたい。




そう言って気持ち良さそうに、香は目を閉じた。
パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ香に、タオルは何処?と訊ねた。
氷水に浸したタオルを、オデコに乗せてやると香は漸く落ち着いた。
滑舌の悪い言葉で、
ありがとうございました先生にうつしたらいけないからもう大丈夫です、というような意味の事を言ったけど。
撩は解読できなかったフリをした。
生憎、撩はもう既にムンプスウィルスの抗体は出来ているので、問題無い。
なので、彼女をこの状態で1人にして帰るつもりは、サラサラ無い。
これを見越して、あの狸ジジイ(院長)が送って行ってやれと言った事は、撩にも解っている。
帰りが遅いという彼女の兄が戻るまでは、傍に居てやろうと思っている。




あのさぁ、きつかったら返事は良いんだけど。



撩がそう言うと、香は目を開けてコクンと頷いた。
そこまで酷くは無いけれど、確かにいつもの香よりも幾分ホッペが腫れている。




・・・こんな時に言うのもなんだけどさ。

???

好き。

ふぇ???




驚きとおたふく風邪と発熱とその他色々で、間抜けな声を上げる香に。
撩は思わず、ププッと吹き出す。




いや、だから返事はイイから(笑)

しょんなこといわれても、むり。



香の顔が赤いのは、39.4℃の発熱とはまた違う要因によるものだ。
香は気が付いた。
この目の前の彼は初め、自分の事を全くと言って良いほど女扱いしなかった。
まるで男の子に接する様な彼の態度に、香は珍しく腹を立てていた。
でも気が付いたのだ。
香は彼にちゃんと女の子として見て欲しいと、思っていた事に。
この数ケ月2人は、殆どはふざけ合っていたけれど。
それでも、香が真剣に聴いて欲しい話しを撩は何も言わずに、ちゃんと聴いていてくれた。
気が付いた、彼がいつもすぐ近くで見ていてくれた事に。




付き合おうか?俺たち。



数秒間、香は無表情で固まった後、コクンと頷いた。
頷いた後で、布団を頭まで被って隠れてしまった。
タイミングは最悪だと、撩は自分でも思う。
それでもきっと、彼女が自分の運命の人なのだと確信している。
暫くして寝息を立て始めた彼女の寝顔を見ながら、取敢えず。
将来の義理の兄となる筈だと勝手に決めた彼女の兄が帰るまで、ここで待つ事にする。
暖房を効かせた小さな6畳間の彼女の部屋で、小さな寝息を聞きながら、
撩は小さく頷いた彼女の返事を思い出して、何度もその幸せを噛み締めていた。



(おしまい)



[ 2015/01/10 06:18 ] 冴羽先生シリーズ | TB(0) | CM(0)

9. 温室育ち

お、あいつの読み通りってか。





撩の頭の上にぽつんと雨だれが落ちて来て、ぽつんがホンの数秒でぽつぽつに変わる。
くすんだカーキ色のコートに雨だれが落ちた所だけ、濃い色に変わる。

昼過ぎに撩が目覚めると、香はもう既に外出していて。
キッチンにはいつも撩が使う茶碗とお椀が臥せられ、
プレートには昨夜の残りの酢豚が盛られ、ラップを掛けられていた。
炊飯器には雑穀米と、コンロの上の鍋の中には豚汁が入っていた。
温め直して食えという事らしい。
冷蔵庫を開ければ、小さな琺瑯容器には細々とした常備菜が入っている。
その中から撩は、砂肝と胡瓜と搾菜の辣油の効いた中華和えを取り出して食べた。
食後にコーヒーを淹れて(自分で淹れる時は、専らインスタントだ。)、
新聞に目を通してから外に出た。
玄関の傘立ての中の、香愛用の赤い傘が無い。
煙草を吸いながら、掃出し窓とベランダの境に座り込んで新聞を読んだのだ。
雨など降る気配も無かった筈だが、と撩は訝しむ。
恐らくは、伝言板を見て買い物をしてキャッツで寄り道をする。
その香の行動パターンを鑑みても、傘が必要な空模様には思えなかったけれど。
もしかすると、時々局地的に雨、という予報でもあったのかもしれない。
撩は雨だろうがあまり気にするタイプでは無いので、構わず表へ出た。







ぽつぽつと降り出した空を見上げる。
どうやら今日は世間一般的には、成人の日とやらで。
先程から頻繁に見かけた晴れ着のモッコリちゃん達は、
降り出すや否や、まるで蜘蛛の子を散らすように何処かに消えた。
恐らくは、雨宿りでも出来る場所へと避難したのだろう。
冬晴れでそれ程気温も低くなかった今日は、絶好の晴れ着日和だったろうに気の毒だ。
撩はコートの襟を立て、無意識に早足になる。
アパートに帰るより、キャッツの方が近いのでそちらへと足が向く。
湿ったコートが乾く間に、コーヒーでも飲もうという算段だ。
けれど撩の歩みを止めたのは、可愛い撩の相棒だった。




おまぁ、傘はどうした?




傘を持って出た筈の彼女の癖毛には雨粒が光り、
ベージュのダウンジャケットの肩口も雨に濡れて色を変えている。
真っ白な頬とは対照的に、鼻の頭は真っ赤になっている。
撩の進行方向とは逆側から彼女が現れた。












どうして自分が傘を持って出ていた事なんか知ってるんだろうと、不思議になって。
それでも、撩になら何だってお見通しなんだろうという気になって、香は小さく微笑む。
年が明けてすぐに、1件の依頼が冴子によって齎された。
撩はそれでここの所、連日明け方に帰って来る。
撩の寝室が2人の寝室に変わって、早数ケ月。
撩が“お仕事”の夜は、香は撩の匂いのする寝具に包まれて1人で眠る。
明け方に帰って来てシャワーを浴びた後の気配の撩が、
香を抱き込んで髪の毛に顔を埋める感覚を、香は寝惚けたままで感じる。
そのまま撩の腕の中で眠って、香が目覚める時には逆に撩は爆睡している。
そんな彼を起こさないように、ベッドから抜け出して朝食を用意する。
この数日、2人の生活は若干擦れ違い気味だ。

それでも夕飯は一緒に食べるし、2日前の昼下がりにはリビングで愛し合ったりもした。
今日は朝、撩の寝顔を見て以来の対面だ。
撩のコートも濡れそぼって色が変わっている。
そう言えば前に絵梨子に聞いたけど、
あのコートの内側には何故かコンドームが仕込んであるらしいけど、本当だろうか。






貸しちゃったの、晴れ着きた女の子に。困ってたから。




急に降り出した霙混じりの雨に、香は迷わずその傘を差し出した。
高価な振袖はきっと、成人する大切な娘に両親や祖父母が買ってあげる物なんだろう。
香には解らないけれど、そんな大切な着物が汚れるのは大変だろうと思ったのだ。
自分がハタチの頃は、まるで男の子の様なカッコをしていた。
振袖なんて準備してやれなくてゴメンな、と言った兄の言葉もさして気にも留めていなかった。
そもそも何処か他人事だと思っていた、成人式なんて。




お人好しめ。



そう言って呆れたように笑う彼が、香の全てだ。
香の世界で、香の支えで、香の。
だから傘くらい、どうでも良いのだ。
参加しなかった成人式の思い出なんてどうでも良い。









キャッツに寄る予定は変更だ。
撩は香の横に並ぶと、ふわりとコートの内側に香を包む。
香がニッコリと微笑む。





家まで、走るぞ。

うん。



取敢えず、家に帰ったら風呂に熱い湯を溜めて2人で浸かろう。と、撩は脳内で予定を立てる。
今夜も遅くから出掛けないといけないから、仕方がないのでイチャイチャタイムはこれからだ。




香には家族は兄しかいなかった、撩にも家族はいなかった。
2人には普通の人が通り過ぎるような普通の思い出は無いのかもしれない。
けれど香は、兄と撩が作ってくれた温かな温室でぬくぬくと育った。
撩が作った温かな庇に守られて、香は生きている。
成人式に晴れ着を着て、同級生たちとはしゃいだ思い出は無いけれど。
ハタチになった夜に、彼の相棒になった。
沢山ヤキモチを妬いたり、恋い焦がれたり、喧嘩をしたり、仲直りしたり。
思いが通じたりして、今がある。
だからきっと、誰よりも幸せだ。



撩はハタチの頃、全米中にその名を轟かす凄腕の殺し屋だった。
勿論、今もそれはそうだけど。
それでも昔に比べると、少しは落ち着いたもんだ。
そもそも巨大な組織の傍迷惑な過干渉と、
縺れに縺れた裏世界のしがらみに嫌気がさして、こんな小さな極東の島国にやって来たのだ。
しつこく追って来た組織も無事ぶっ潰して、呑気で可愛い相棒とマッタリと生きている。
彼女を守るなんて偉そうな事を言っているけれど、実は彼女に守られているような気がしている。
彼女の作った食事を食べて、彼女の整えた空間で快適に生活して、彼女を抱いて眠りに就く。
彼女が今の撩の世界を形作っている。
彼女の作った温室の中で、撩は初めて人間らしい暮らしを知った。




多分、傘は戻って来ないだろう。
撩は今の依頼が済んだら、依頼料で香に新しい傘を買ってやろうと思った。








北条先生が描いた原作のイラストの中で冬の絵は、
2人が並んで走ってる絵が多いなぁと思います。
焼き芋食べながらとか、リョウちゃんがコートを広げてカオリンがその中に居たりとか。
それが好きなんです(*´∀`*)扉絵とかイラストの中でだけLOVEい2人(笑)


ロマンチック

撩が東口の駅前を通った時、ちょうど最終電車が到着する頃合いだった。
人の流れは足早に改札に吸い込まれ、
ロータリーには、回遊魚の様なタクシーが少しづつ集まり始める。
昼間の喧騒とはまた違った、夜の匂いを纏った人々が歓楽街へと誘い込まれる。
何の統一性も一貫性も無い人の群れに有って、撩は一段と異質だ。

硝煙の臭いのする男。
周りより頭1つ飛び抜けて大きな体躯は、目立っていながら夜の闇に巧妙に融け込む。
気配の無い男。
まるでそこに誰もいないと錯覚するように、誰も撩には気が付かない。
気配を殺す事はもはや撩の習い性で、無意識の振る舞いだ。
改札の外側、グレイの電話機が数台並ぶ。
その内の一番端の1台を選ぶ。
撩はジャケットのポケットの中に無造作に突っ込んだ、小銭を探る。







この10日間ほど請け負っていた依頼が、昨夜片付いた。
依頼人は妙齢の女性で、撩は依頼の間中、型通りに口説いた。
まるで型通りの撩の台詞と展開と雰囲気は、依頼人の心を解し、ついでに魅了した。
撩は自分の言葉や仕草が、どういう風に人に印象を与え、影響するのかを熟知した男だ。
今晩、食事でも如何ですか。と言った、依頼人だった女は。
まるでつい昨日まで怯えていたのが嘘だったように、着飾っていた。
女達は知らない。
撩という男を。
口説く側なら積極的な男は、言い寄られると途端に萎える。
そもそも、落とす気の無い口説きに意味は無い。
罪作りと言えばそれまでだけど、撩にとっては言葉遊びに過ぎない。

傷付けていると、撩は思う。





夕方、キッチンのドアに凭れて香の背中を見ていた撩に。
香は背中を向けたまま、明るい声を出した。
昨日の今日でバタバタしてて、まともに買い出しもしてないから。
夕飯、今日は外で適当に済ませて来てよ、と。
そんな事を言いながら、相棒は自分の分だけの適当な夕飯を拵える。
撩は曖昧に相槌を打って、出掛けた。

彼女がこれまで堪えて来た涙の数と、瞬くネオンの数とどっちが多いだろう。
そう思うと、かわいそうになるけれど。
彼女を傷付けているのは、撩自身に他ならない。





依頼人だった女が指定した料理屋は、創作フレンチとかいうけったいな代物で。
不味くは無いけれど、気取り腐っていて撩の好みでは無かった。
華麗なる所作で紳士的に振舞いながら、撩が食べたいと思っていたのは。
大きめに切られた野菜がゴロゴロ入った香のカレーだった。
食事をしてバーで軽く酒を飲み、適当な所で切り上げて元依頼人をタクシーに乗せた。
恐らく、もうこの先、元依頼人と接触する事は無いだろう。
そんな事をあと何回繰り返すのだろうと、撩はまるで他人事のように思う。









夜更けに電話を掛けて来たのは、相棒だった。
風呂から上がったばかりの洗い髪をバスタオルで乾かしながら、男の声を聴いた。
公衆電話が繋がる小さな音と、ざわついた気配に、
香は男の居る場所が、自分の居る場所ととても遠く離れている様に感じた。
それは香を、とても孤独で心細い心境にさせるけど。
この温かなリビングルームは、香の味方だ。
受話器を握る勇気をくれる。




もしもし

・・・ああ、俺

りょお? どうしたの?

別にどうもしねぇけど





どうもしないけど、受話器越しの香の声が聴きたかった。
と、本当を言う勇気は撩には無い。
興味の無い女を口説くのは簡単なのに、1番近くに居て大切な彼女には本音が言えない。





今、何処?

東口

はぁ?何やってんの? さっさと帰って来なさいよ。

伝言板、依頼は無かった。

そう、見てくれたんだ、ありがとう。






香の口調が和らぐのを、撩は公衆電話の受話器越しに感じると。
ざわついた駅の片隅で、薄く目を閉じる。
頭の中で、受話器の向こうの彼女を想像する。







腹減った

ご飯、食べなかったの?

いや、食った。

彼女は?ちゃんと、送ってってあげた?





外で適当に済ませて来いと言ってたクセに、香はちゃんと解っている。
撩は香の問いを聞かなかった事にする。
送って行ったりしない。
タクシーに放り込んだだけだ。





今から帰るから、何か作って?

えぇぇえ、何も無いよ?

何でも良い。

・・・じゃあ、お茶漬けでいい?

うん。






香は面倒臭いと思う反面、何故だか気持ちが浮足立つのを感じる。
これがどういう意味合いの感情なのか、良くは解らない。




りょお。

ん?

・・・・・・・・・うぅん、何でも無い。

今か





ら、帰る。
と言い掛けたところで、小銭が切れて通話が終わった。
撩も香も、淋しい者同士が気が付くと何年も一緒に暮らしている。
孤独が2人を結び付けたのかもしれない。
香は唯一の家族を失ったばかりだったし、撩は生まれてこのかたずっと孤独だったから。
正直な好意など素直には告白出来ないくせに、2人で一緒にいる温かさは心地いい。


何処かが少し、間違っているのかもしれない。
好意であれ、感謝であれ、甘言であれ、言葉にして伝えなければそれは伝わらないのかもしれない。
色恋という手段は選ばずに迂回して、相棒という言葉に互いに甘えている。




でも撩は、どんなに余所の女を口説いても、
今はまだ、ただのプラトニックな相棒関係でも。
好きだと言う勇気が無くても。
香の事だけは、絶対に離さないと決めている。
たとえ香がどう思っていようが、撩の手の中からは逃がさないつもりだ。
耳の中に残る彼女の余韻を味わいながら、撩は夜道を歩いた。









ザ・ブルーハーツ『ロマンチック』 という歌からイメージしました。

この歌を久し振りに聴いたら、RKの為の歌にしか聞こえないという現象が・・・
というか最近、なに聴いてもRKに結びつくという病気を患っております。

[ 2015/01/15 03:17 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)

HappyEnding

何がどうしてそんな風になったのか、もう2人には解らなかったのかもしれない。
これまでの色気もへったくれも無い相棒関係が長過ぎたし、慣れ過ぎていた。
だから一度ぐらい甘い雰囲気になった所で、これまでの関係が大きく変わるワケなど無かった。
撩は相変わらず撩だし、香も相変わらず香なのだ。
今更自分を繕ってみたり、良く見せようと思ったところで、互いに互いを知り過ぎている。
良い事も、悪い事も。











ねぇ、たまには冴羽さんとデートなんかしないの?




年が明けて正月ムードも薄れてきた季節にそう言ったのは、怪我から復帰した喫茶店の女主人だった。
彼女をはじめとするお節介な友人達は、あれ以来、度々そんな事を言う。
あれというのは、言わずもがな湖の畔で執り行われた相棒同士の愛を確かめ合った抱擁の事である。
伊集院隼人はあの現場をしっかりと目撃していたらしい。
その話を彼は妻に語り、彼女は怪我の治療に当たってくれたかずえに打ち明けた。
かずえはミックに報告し、ミックは大騒ぎをした。
そういう訳で、今では冴羽商事の2人が。
ハグをしてホトトギスで永遠にあなたのもので死なせやしないよだという事を、
仲間内のほぼ全員が知っている。
知っているだけでなくあまつさえ、
そんな雰囲気の中でキス1つ出来なかった冴羽撩という男の、
新宿の種馬という通り名が果たして彼に相応しいのかという疑問の声すら上がる始末である。

香は温くなったコーヒーを啜った。
家ではコーヒーを淹れるのは、専ら香の役目で。
ココに来た時だけは、ゆっくりと穏やかな気持ちで贅沢にコーヒーを楽しめる。
今まではそう思って、美樹との楽しいひと時を満喫してきたけれど。
ここの所、香は返答に困る事が増えた。
例えばこんな風に言われたりするから。



奥多摩で不意に撩に抱き寄せられて、幸せな気持ちに浸ったのも束の間で。
夢かもしれないとすら思えたあの時間から、もう2ヶ月以上が過ぎたのだと思うと、
香は陰鬱な気分になる。
こうやってこれまでも、撩とは曖昧な関係を構築してきたのだ。
また今回も。
撩はあれ以来、何も変わらない。
夜はまるでネオンの灯りに誘われる蛾のようにフラフラと遊び回り、
昼はまるで馬鹿の一つ覚えのように人混みの中、諦めもせず熱心にナンパしている。

誕生日のプレゼントはお互い生きて一緒に過ごす事が良いと言われた後でも、
2人でシティハンターだと言われた後でも、
家族の様な存在で居てくれと言われた後でも、
ガラス越しのキスをした後でも。
撩はひとつも変わらなかったから。
だから、香は2人の関係が変わるとは思いもしていない。たとえ愛する者だなんて言われても。
今まで通り、ザッツオーライ、オールOK、万事快調。一日一善火の用心である。
今まで通り何も悪い事も無く無事に過ぎれば、御の字だと思っている。
これまでの関係が完結し過ぎていて、むしろ麻痺している。
撩の甘い言葉に。
こう見えて槇村香は、シティハンターの相棒なのだ。
甘い言葉などに誤魔化されはしないのだ。





デートなんか、する理由ないでしょ。




そう言ってヒッソリ笑った香に。
あら、デートに理由なんて要らないのよ?と、人妻はニッコリと微笑む。
彼女の微笑みは眩し過ぎると、香は思う。
彼女は新婚さんだし、彼女の夫は彼女を盲目的に愛しているから。
そりゃあ、理由など要らないだろう。
でも、まるで男同士の相棒の様なそれでも本当は男女のパートナーだから余計にややこしい自分達には。
理由が要るのだ。
ただ傍に居る事ですら。



香が撩の傍に居る理由は、仕事仲間だから。
撩は労働担当で、香は撩のアシスタントだから、
撩のマネジメントもするし、撩の身の回りの世話をする。
身体を張っている撩のサポートの為に、彼の健康を考えた食事を作り、生活環境を整える。
その為に、ひとつ屋根の下に暮らす必要がある。・・・という、言い訳。
言い訳でも何でも、理由が必要なので仕方ない。
でも本当は、盲目的に傍に居られたらそれでいいと思っている。

力無く笑う香に、美樹は何もかも大丈夫だと言ってるように頷いてカウンター越しに香の頭を撫でた。











じゃがいもの煮えるのを見詰めながら、香は考える。
自分は一体、撩とどうなりたいのかを。
どうなる事が、果たして香自身のハッピーエンドなのだろうと。
正解は何処だろう。
もっとずっと以前には、香の気持ちはただの憧れだったように思う。
少女というよりも、少年のようだった香は。
きっと撩に憧れていたし、撩のようにカッコ良くなりたいと思っていた。
撩に少しでも認めて欲しかったし、撩の役に立ちたかったから少しでも褒めて貰えると有頂天になった。
でもいつからか、それだけではダメだと思うようになった。
自分でなければ撩の相棒は務まらないと言える、確固たる理由がずっと欲しかったし、
それは今でも香の中では答えが出ないままの課題の1つだ。
何の為にこうやって、香は毎日2人の食卓を整えるのだろう。
何の為に毎日この部屋を掃除して、2人の洗濯物を干すのだろう。
何の為?
美樹との会話の続きのように香の頭の中ではずっと、撩との関係についての考察が続いている。








かおりぃぃぃ、晩メシなにぃ?



そう言いながらキッチンに入って来た男は、何とも脱力感満載である。
夕刊を郵便受けから取って来たらしく、小脇に挟んで煙草を咥えている。
色の褪せたTシャツと、擦り切れたジーンズ。
決してオシャレでも無い一見すると優しくも無く気も利かない、
けれど本当は尋常じゃ無いほどに優しいこの男が好きだと、突如として意識した香の目の前で、
鍋の中のじゃがいもがホロリと煮える。
まるでそれが全ての物事を結ぶ大切なキーワードだったかのように。
香の頭の中で、バラバラだったピースがかちりと音を立てて嵌る。


好きなんだ。
冴羽撩のことが。
彼の全てが。


それは意外にも単純で、シンプルな結論で、香は何だか少し可笑しくなった。
昔から少しだけ、恋愛面に於いては疎い所がある方だったから。
なんて、自嘲する。








献立は、肉じゃが。それよりねぇ、りょお。

あん?




香はコンロの火を消した。
後は余熱で充分だし、煮物は冷える時に味が沁みる。





好きよ、アンタの事。



香は大きく1つ深呼吸をする。
気が付いたのだ、大事な事に。
撩は言った、何にも変わらない彼だけど、少なくともこれまで彼は言ったのだ。
香の事を、愛する者だと。
2人でシティハンターだと、家族になって欲しいと。
それなら香は、単純でシンプルな愛の結論を伝えるべきではないかとそう思った。

撩の口元に笑みが広がる。
口角が持ち上がる。
それまで呆けたように気の抜けた表情だった撩が、憎らしいほど男前な顔をして笑うから。
香は少しだけ怯んでしまいそうになるけれど、シンクの縁をギュッと握って勇気を振り絞る。




アンタが好きだから、傍に居るの。それ以上でも以下でも無いわ。



香は知らない。
自分の瞳にどれだけの力が宿るのか。
噛み締めた唇がどれだけそそるのか。
撩が香をどのくらい想っているのかを。




腹減ってる時にあんまり煽るなよ?



そう言って撩は、シンクを背にして立つ香に向かい合う。
撩が咥えている煙草をシンクに落とす、煙草がジュッと小さく音を立てて火が消えた。
香が初めて見る撩の表情だった。



喰っちまうぞ。



そう言ったすぐ後に、香が何かを言う前に。
撩の唇がふわりと降りて来た。
言葉とは裏腹に優しく触れるキスとアンバランスなほど強く抱き締める撩の腕の力に、
香はまるで酩酊したように眩暈を覚える。
煙草を吸った事は無いけれど、まるで煙草を吸った中学生のようにクラクラする。
食べられたいと思った。
撩に食べられたい。
それが多分、香のハッピーエンドなのかもしれない。
今はまだ恥ずかしいけれど、もう少しして春が来る頃くらいまでには。
勇気を出して撩に食べて貰おうと香はキツイ抱擁に応えるように、恐る恐る撩の腰に腕を回した。













昆布の食べ過ぎで、塩分過多なので糖分を。
イチャラブ万歳(*´∀`*)ノシ
[ 2015/01/23 00:37 ] 短いお話 | TB(0) | CM(2)

bon appetit

そんなにがっつくなよ、ゆっくり食べろよ?




そう言って苦笑した新しい相棒の言葉に、撩は既視感を覚えた。
確か前の相棒も同じように、撩にそう言った。
もっとも、前の相棒と新しい相棒は兄妹だから、発言が似通うのも無理からぬ事だろう。
撩にしていたのと同じように歳の離れた妹にも、かつての兄は躾けたのだろう。
日頃、大抵の所作は見よう見まねで覚える事の出来る撩の箸の持ち方の些細な癖を見抜いたのは、
槇村秀幸だった。

やっぱり、こっちに来て間もないっていうのは本当なんだな。

そう言って槇村は穏やかに微笑んだ。
黒い目に黒い髪、癖も訛りも無い標準語、佇まい。
東京と新宿という街の雑踏に違和感なく擬態していた撩を見付けたのは、槇村だった。
彼は穏やかに、美しい箸の持ち方を教えてくれた。
それからしばらくして、いつの間にか撩の元に転がり込んだ彼の妹もまた。
美しい箸の持ち方だ。



背筋を伸ばせ。
食卓に肘をつくな。
ゆっくり噛んで食べろ。


今にして思えば何処の母親だよ、とツッコミのひとつも入れたくなるような躾の数々を。
撩は相棒の男に耳にタコが出来そうなほど、聞かされ続けて。
その妹にもう一度、同じ事を言われている。



彼女は同じビルの下の階に住んでいて、何故だか毎食こうして食事を作りに来て一緒に食べる。
仕事など無い日の方が多いから、彼女は暇にまかせて撩の身の回りの事柄を整え始めた。
衣服を洗い、床を磨き、水回りを掃除した。
殺伐とした部屋にグリーンを置き、撩の穿き古したブーツの手入れをした。
歯磨き粉の飛んだくすんだ洗面所の鏡を磨き、
玄関に吹き溜まった砂粒を掃き、灰皿を洗った。
いつの間にかそうやって、生活に手間を掛けるという事を撩は香に教えられた。

これまでの撩は。
他人に怪しまれない為に、普通の人間の行う仕草や行動を観察して真似るという事はあっても、
撩自身の実際の生活というものは、実に殺伐としたものだった。
寝たい時に寝、目が覚めれば起き出して、腹が減れば食った。
着る物は臭くならない程度に手入れをし、綻びればゴミに出した。
女を抱きたいと思えば街で適当に声を掛け、気に食わないヤツの指図になど耳を貸さなかった。
まるで群れからはぐれた狼のように、独りで好きなように生きて来た。


今もそれは、その通りだけど。
それでも気が付くと綺麗に整えられていく自分の棲家が、居心地良いものに変わってしまった。
撩は子供の頃に、銃器の扱い方を教えられたけど。
正しいテーブルマナーを教えてくれる大人はいなかった。
身体ばかり大きいまだまだ子供のような頃に、女を知ったけど。
ブーツの磨き方なんか知らなかった。
出来る事、知っている事、自分の中の世界とはまるで違う世界を生きている兄妹を、
撩はこれまで生きて来てはじめて、少しだけ面白いと思えた。
他人の内面になどまるで興味の無かった撩が、はじめて知りたいと思った。
どうしてこれ程までに、兄妹たちが撩の世話を焼くのか撩には不思議に思えた。
それでも毎朝、食材を抱えてはやって来て撩の食事の世話をする香に、
どうしてなのかと問う事は出来ないでいる。

どうして俺なのか?
どうして出て行かないのか?
どうしてそんなにまで、

そう問えば、香が目の前から消えてしまいそうで。
撩にはそれを訊ねる事は出来ない。
全部が嘘みたいに変わってゆく撩の世界は、思いの外心地良くて。
撩は失いたくないと感じ始めている。













ほらまた、慌てて食べないで。ゆっくり噛んで。


香はそういうと、撩の口の端に手を伸ばしてくっ付いたご飯粒を取ると、
自然な素振りで口に入れた。
クスッと微笑いながら、撩の寝グセの付いた髪を細い指で梳かす。
失いたくない女の言葉に、数年前の彼女との同じ遣り取りを思い出す。
いつの間にか香は、5階から6階に越して来て、今では7階の自分の寝室で一緒に眠るようになった。
撩はもう、街中で適当に声を掛けたオンナと寝る事も無い。
向かい側に座って、同じ物をゆっくりと食べる香はいつの間にか。
男の子の様な相棒から、匂い立つようなイイ女に変貌した。
まるで子供にするように、香は時々こうして撩を扱う。
それは甘やかされているようで、本当言うと撩は嫌いでは無い。
もしかするとあの頃、撩は嬉しかったのかもしれない。

撩にとって、槇村兄妹は。
はじめて、自分を普通のただの男としてまるで家族のように扱ってくれた相手だ。
撩が殺し屋だとか、天涯孤独だとかそんなこと関係無しに、
1人の人間として誠実に向き合ってくれた、初めての心からの友人。
撩はそんな人間関係があるのだという事を、槇村兄妹に教えられた。
それまでの撩に与えられた人間関係は、まずは疑ってかかる所からのスタートだった。
そうしないと生きて来られなかったという事だけど、何となく。
槇村だけは違うと、撩は初めの頃からそう感じていた。
そもそも、殺し屋の相棒に志願して刑事を辞め、
怠惰な相棒の世話を甲斐甲斐しく焼く男なんて、お節介というより他ないだろう。
そんな男に育てられた彼女は、彼に輪を掛けてお節介だった。
その上、超絶イイ女だった。
全くの無意識で媚びる気など一切無い女に落とされたのは、撩にとって初めての経験だった。
気が付くと、好きになっていた。



bon appetit

それは、神の導きなのかもしれないと撩は時々思う。
撩の為に神様が用意してくれた、唯一の贅沢な出逢い。
召し上がれ、と狼の前に差し出された美しい仔羊。
撩自身は神など毛頭信じちゃいない。
これまで人生の大半を海の向こうの大陸で過ごし、
出逢った奴らの大半はチンケな殺し屋たちばっかりだったけれど、
殺し屋のくせにクリスチャン、みたいなヤツは結構大勢居た。
そんな奴らがのたまう神の存在など、撩には胸糞悪いご都合主義に思えたけれど。
こうして自身が不相応とも思える幸せを手に入れた今となっては、
その存在を信じたくなる気持ちも、少しだけ解るような気もしている。
撩はこれまでとこれからの己の所業を神に懺悔する代わりに、
心の中でいつも、彼女に懺悔している。それは感謝と言い換えても良いのかもしれない。

一度だけ撩は、香に訊いてみた事があった。
なんでわざわざ撩の部屋に食事を作りに来るのかと。
香は少しだけ困ったような顔をして、
お互いに食事はするんだし、どうせなら一緒に食べた方が良いでしょ?と言った。
そのすぐ後で、キッカケは何だったのかはもう思い出せないけれど。
香は5階から6階に越して来た。
もしかすると今にして思えば、その撩の問いは少なからず香を傷付けたのかもしれない。
それからの香は、痛々しいほどに撩の相棒として相応しい自分になる事に拘った。
撩自身は香が思うほど、香の事を軽んじてもいなかったし、
彼女の頑張りをちゃんと解ってもいた。
どうすれば互いの距離を縮める事が出来るのか解らなかっただけだ。
それでも、そんな風に過ごした数年間があって、今がある。




お替り?お味噌汁はどうする?と、訊ねる彼女を愛おしいと思う。
失いたくないと、撩は強く願う。
生きるという事に何も大袈裟な大義など必要無く、
こうした穏やかな日々の集積の結果が人生なのだと、撩は思う。
この世で唯一、撩をただの男にしてしまう彼女を、撩は愛している。
言葉にすればそれは、陳腐なので心の中だけでそう思っている。
味噌汁を飲み干したお椀を撩が差し出すと、彼女はニッコリと微笑んだ。
それだけで撩が幸せな気持ちになる事なんて、きっと彼女は知りもしないだろうと撩は思う。
でもそれはきっと、知らないなら知らないでも良いのだろう。幸せだから。

撩の為の味噌汁をお椀に注ぐ香の後ろ姿を見ながら撩は、少しだけ甘い玉子焼きを頬張った。







[ 2015/01/31 08:10 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)