どうでも良い考察です。

おはようございます。ケシでございまっっす(о´∀`о)ノシ



通勤途中に、またしてもどうでも良い妄想をしながら歩いてます。
朝晩めっきり涼しくなって参りましたが、突然ですがこうなると、
ロールアップでチラリズムの季節の到来ですね。

まず、さすがの冴羽氏ももうそろそろ長袖のシャツなんかを着用し始めると思うんですよ。
そうするとですね、あの男の得意技、腕捲りに関しても色々と妄想が拡がりますね。
ここで重要なのが、腕捲りへの細かい拘りです。
いきなり原作全否定でなんなんですがっっ!!
H条先生の腕捲りは、野暮ったいんです。
ワタシはH条先生に対する尊敬の念を常に抱きながら、二次創作を楽しんでおりますが。
腕捲りに関しては、ノーと言いたい。(言うだけは、ただ。)

まぁ、理想のシャツの素材はまず、コットン100%もしくは、ダンガリーシャツですね。
コットンの場合、色は淡色が好ましいと思います。
まず、折り返しの幅が重要なんですよ。
カフス部分と同じ幅で折り返すと、どうしても折ったところの幅が太くなって野暮ったいんですよ。
だから、初めが肝心なのです。
まず、カフス部分を半分に折るのです。そこから3~4回折ります。
それで充分なのです。
肘付近まで折るのは、力仕事もしくは皿洗いをするときだけです。
普段、何気なくソファに腰掛けて気怠く煙草を吸うだけなら、この位で良いのです。
手首のね骨がチラッと見える。ポイントはそこなんですよ。



ボトムも基本は同じです。
チノパンが好ましいですね。チノパンの裾をちょみっとロールアップ致しましょう。
これもやり過ぎは禁物です。
過ぎたるは及ばざるが如しです。
脚を組んだときに、踝とアキレス腱の筋がチラリズムする程度が理想です。
このロールアップのチラリズムを満喫出来るのは、この短い季節の醍醐味ですなぁ。


というわけで、バスの中で妄想を膨らませながら会社に行ってきます。



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[ 2014/10/06 07:39 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

⑦ 二日酔い

槇村さんごめんね、この間は大丈夫だった?



週明けの朝のロッカールームで、香にそう話し掛けて来たのは。
香の向かいの席の女子だ。
週末の飲み会の席で、気が付くと香は席を立っていて。
周りを確認すると、渡辺主任の姿も消えていた。
それまで無防備な香に代わって、渡辺の動向を監視していたつもりが、
一瞬の内に2人揃って居なくなっていたので、彼女は非常に焦っていたのだ。
しかし10分ほど経ってから、渡辺1人で戻って来た。
渡辺にお持ち帰りされるという懸念は払拭されたものの、
槇村さんはちょっと飲み過ぎたから先に帰るそうです、という渡辺の言葉に心配していたのだった。




あ、うん、大丈夫。あはは。なんか、酔っ払っちゃって。



香は真面目な表情で自分の事のように心配してくれる優しい同僚に、
非常に申し訳ない気持ちで一杯で、思わず笑って誤魔化す。
あの晩、どうやって帰ったのか良くは覚えていないのだ。
彼女がこうして心配しているという事は、まともに挨拶もせずに帰ったのかもしれない。
香は、飲み会翌日の土曜日の朝の事を思い返す。













・・・う゛ぅ・・・きぼちわる゛い・・・



喉が渇いて目を覚ますと、カーテンの外はすっかり明るくて。
アルコールはまだ、完全に残っていた。
暫く布団の中で、前の晩からの記憶を順に辿る。
同じ部署の十数名で連れ立って、駅前の居酒屋へ行った。
それまで良く話した事の無かった人とも改めて挨拶を交わし、その度に酒を勧められ。
この地元で作られるという有名な日本酒は、飲み易くて思いの外アッサリと進んだ。
気が付いた時には、結構酔っ払ってしまっていた。
何度かトイレに立った事までは覚えている、けれどその先はどうしても思い出せなかった。

気が付くと土曜日のお昼前で、布団の中できちんとパジャマを着て眠っていた。
スーツもコートもちゃんとハンガーに掛けられ、部屋の隅に吊るされていた。
携帯電話に至っては、枕元の充電器に大人しく収まっている。
全く記憶には残っていないけど、どうやら帰って来られたらしい。
食欲は全く湧かなかった。完全に二日酔いだ。
取敢えず、水を飲もうとキッチン(というよりも、ほぼ通路の一部の様な狭いシンクとコンロがあるだけだ)の
冷蔵庫まで怠い身体を引き摺った。



ん??? こんなのいつの間に買ったっけ???


冷蔵庫のドアポケットには、キンキンに冷えたポカリスウェットが入っていた。
香が素面で憶えている限りでは、買った記憶は無い。
どうやって帰ったのかも定かでないような状態で、自分で翌日の二日酔いまで見越して買ったのだろうか。
香は暫く冷蔵庫の前で考えたけれど。
寒いのと、酔いの残る頭では何だか面倒に思えて、考えるのは止める事にした。

それからストーブに火を点けて、部屋が暖まったところで漸く大事な事を思い出した。
週の半ばに撩と電話で話しながら、週末にご飯を作って持って行くと約束した件だ。
しかし正直、香のコンディションはそれどころでは無かった。
食材を見たら、恐らく吐く。






“・・・おまぁ、呑み過ぎなんだよ”

えへへ、でもなんかちゃんと帰れたみたいだよ。あはは。

“・・・・・・ほぉ、そら良かったな。”

な、なに、怒ってんの?

“別に、怒ってねぇよ。っつーか、覚えてねぇの?”

うん。・・・って何が?

“どうやって帰ったのかだよっっ”

ぅう~~~ん、それが憶えてない。







大きな撩の溜息の後に、暫くの沈黙が続く。
香はその沈黙で、撩が呆れていると思っているけれど。
撩の考えている事は、また別の事だった。
送って行った事すら憶えてないのなら、どうやらあの件も気付いてはいないだろう。
香はまだ、自身が相棒とファーストキッスをした事を知らない。



ま、いちんち寝てりゃ治るさ。



最終的に撩は、笑いながらそう言った。
そして撩の言う通り、その日の夕方遅くに漸く香の食欲は回復した。
土曜日をそんな風に、香は無駄にして過ごし。
翌日の日曜日に、約束通りまた作り置きの食事を作って撩に届けたのだった。











渡辺君、この書類 常務の承認印貰ってきて?



部長にそう言われて渡辺が向かったのは、重役室がある本社ビルの5階だった。
普段、渡辺がいる部署とは少し離れている。
それでも海外事業部の統括責任者は沢田常務なので、こうして時々足を運ぶ事がある。
はじめ、渡辺は気が付かなかった。
あの居酒屋の前は薄暗かったし、彼は私服を着ていたから。
あの時ですら、薄らデカい男だと思ったのに。
スーツを着込むと更にその体格の良さは際立っていて、渡辺は無意識に委縮した。
普段はチャラチャラしたお調子者の渡辺だが、昔から本能的に強いと感じる相手には弱い男なのだ。
その男は、常務の秘書だと言った。
確かに、秋ごろに前の秘書の女性が退職したらしい事は知っていた。
けれどまさか、その常務秘書があの晩、槇村香を迎えに来た彼女の彼氏だとは思いもよらなかった。



あ、あの。

まだ何か?



何か言いたげな渡辺に、撩は気付かないフリでそう言った。
昨日の今日で、週明けに常務室へと赴いたのはあのスケベ主任だった。
撩は素知らぬ振りで書類だけを受け取って、用を済ませようとしたのだけれど。
渡辺は何か言いたそうにしている。





あ、貴方は、槇村さんの・・・

あぁ、アナタでしたか。この間は、アイツが世話になって、申し訳ない。

いいいえ、世話だなんて。ななななにもしてませんからっっ

じゃ。お疲れです。




何もしていないと強調しながら冷汗をかいている男に一瞥をくれて、撩はサッサと話しを切り上げた。
撩は男としかもスケベなチャラ男と長話する程、暇では無いのだ。
たとえこの男が撩に用があっても、撩には無い。











あのね、あの桜井さんって方。



香は弁当箱の中の玉子焼きを摘みながら、その話しを切り出した。
向かいの席の女子が、頷きながら話の続きを促す。


私、何か怒らせるような事しちゃったかな?


桜井というのは、同僚の女子社員だ。
何処と無く陰気な雰囲気で、朝から顔を合わせて香が挨拶をしても綺麗にスルーされてしまった。
香の席とは随分離れた場所に座っているし、
これまで仕事面で接する事は殆ど無かったし、これからも恐らくは無さそうだけど。
それでも朝、顔を合わせれば当然、香は挨拶をするし、他の社員たちも皆おなじだ。
けれど彼女にだけは、香は悉く無視されている。
そのような態度を取られる心当たりも、今のところ無い。



なんか、気のせいかなぁとか思ってたんだけど。どうも、そうじゃないみたいで。

あぁ、あの人、誰にでもああだから。気にしない方が良いよ。

そうなの?

うん、主任に気に入られてる子には、特に酷いの。槇村さんはホラ、ロックオンされてるじゃん?

・・・ロックオンって(苦笑)

多分、好きみたいなの。桜井さん、主任の事。だから、主任が目をかけてる人が気に入らないらしいわ。




香はそんな話しに、ふ~~んそんなもんか。と思う。
香は撩が好きだ。
撩の相棒に立候補したハタチの時からずっと。
いや、正確にはその前からずっとだ。
それでもそんな気持ちを、仕事の場に持ち込んだらいけないと、いつも思ってきた。
だから、1度も撩には自分の気持ちを伝えた事は無い。
時々、依頼人の美女に鼻の下を伸ばしたりする撩に、ムカついたりもするけれど。
不思議と仕事となると、恋愛感情は忘れてしまう事もある。
仕事の時はどちらかというと、好きという感情より、撩に認められたいという気持ちの方が強い。




好きって言っちゃえば良いのにね。



香は思わずそんな事を口走った。
これが自分の事なら、滅法奥手で。
誰よりも、初恋を拗らせている張本人なのに。
人の恋愛沙汰なら、客観視できるらしい。
仕事上の人間関係に支障をきたす位なら、気持ちを告げればイイのにと、無責任にそう思える。



言わなくてもバレバレじゃん?主任、そういうの嫌いみたい。上手く需要と供給が噛み合わないのよ。


向かいの席の彼女は先輩らしく、香に職場に纏わる色々を楽しそうに教えてくれる。
香はこの桜井さん問題を通して、自分と撩に当て嵌めてみる。
香の気持ちは果たして、撩にバレているだろうか。
確かに、少し前のあの奥多摩の湖の畔での遣り取りはあったけれど。
あの時は何だか特別だったし、はっきりとした言葉で伝えた訳ではない。
それよりも、日頃の生活の中で。
果たしてこの香の恋愛感情はどの位、撩に伝わっていて、
撩はそれに関してどう思っているのだろうか、と。
撩がどれほど香の事を愛しているのか、当の香は全く知らない。








槇村さんの彼って、常務の秘書だったんだね。



給湯室でお弁当箱を洗っていた香にそう声を掛けたのは、外から戻った渡辺だった。
突然そう言われて、香はポカンとした。
渡辺の言葉が、すんなりとは頭に入って来ない。




あ、いや。彼がいるって事は、他の女子に聞いてたからさ。





香は何と答えて良いのか解らなかった。
どうしてこの主任が、香と撩の事を繋げて理解しているのだろう。
周りには、秘密の筈だったのに。
何かを言えば、ボロが出て潜入の事までバレそうで。
香には何も言えなかった。
ここで撩と香の関係(恋人関係などではなく、実はシティハンターだという事。)がバレたら、
潜入調査自体の危機だ。
香は弁当箱を洗いながらも、脳内では静かにパニクっていた。


(つづく)





[ 2014/10/07 00:03 ] Breakthrough | TB(0) | CM(0)

29. 悪い癖

小銭
紙マッチ
11桁の数字の羅列
クシャクシャになったキャバ嬢の名刺
撩のジーンズのポケットから出て来る色々




香が朝一番に寝室から回収して洗濯機に放る前の、もう何年も続けてきた習慣は。
毎朝、香の気分を沈鬱なモノに変える。
10日ほど前に精算した撩の歌舞伎町での負債は、また性懲りも無く増えて行く。
それでもこの数ケ月、香と夜を過ごすようになってからは。
以前に比べれば夜遊びの頻度は落ちた。
ピンク色の見るからに上等な紙で作られた名刺に入った皺を、香は無表情に掌で伸ばす。
流れるような毛筆書体で記された“美月”という名前を、脳内にインプットする。
続けて、11桁の数字の記されたメモ用紙の皺も丁寧に伸ばす。
小銭は香のポケットに、紙マッチはゴミ箱へと放る。

ドラム式の洗濯機の中では、撩のジーンズと香のコットンのシャツの袖が絡まる。
それはまるでベッドの上の2人のようで、香は安堵する。
あのドラムの中には、2人の生活以外何も無い。
ピンク色の不穏分子は、香の手の中にある。
フェロモンをビシバシ垂れ流す年増のママが1人でやっているバーの紙マッチも、ゴミ箱だ。
撩に悪気が無いのは、解っている。
撩と歌舞伎町の関係も、撩の仕事上での人との繋がりも、全部解っている。
それでも、
解っているからといって、腹を立ててはいけないという法は無い。
だから香はいつも、怒っている事は隠さない。










撩が遅い朝食を摂る為に、ダイニングキッチンのいつもの席に着くと。
朝刊の隣には、ご丁寧にも当て付けがましくピンク色の光沢のある厚紙と。
誰のものなのかもはや定かでは無い電話番号の書かれた、白いメモ紙が置かれている。
その紙屑を見て、撩は昨夜自分の隣で接客したホステスの名前を思い出す。
普段通りを装う相棒は、心なしかご機嫌斜めな予感がする。
昨夜(というか、未明)、撩が帰ると香は撩のベッドで寝息を立てて眠っていた。
飲みに行く事は、ちゃんと言ってあったけれど。
この所の撩はそれでも、何となく夜遊びをする事に後ろめたい罪悪感を感じたりしている。
勿論、香以外の女になど、もう興味は起きないけれど。
こうして朝から、可愛いヤキモチを妬かれると。
愛おしさが募る反面、また彼女を悲しませたんだと胸が痛む。
そして同時に、加虐心がそそられる。
泣かせたくない女の、泣き顔が見たい。
自分の事だけを想いヤキモチを妬く女の、剥き出しの感情に触れたい。
捻くれているのは、撩の悪いところだ。
捻くれているけど、嘘は吐かない。
意地悪だけど、溺愛している。
矛盾しているようでそうでも無いのが、冴羽撩なのだ。




撩の目の前には、ブランチを盛ったプレートが置かれている。
ベーコンは撩好みのカリカリ加減で、スクランブルエッグは半熟気味だ。
撩に背を向けてフライパンを洗っている香の視界の隅のゴミ箱に、
撩は改めて皺くちゃに丸めた紙屑を捨てる。
香が素知らぬ振りをしながらも、しっかりと視界の端っこの撩を見ていた事を確認して。
ゴミを捨てるのと一続きで、シンクに向かう香の隣に立つ。
撩の目の高さから15㎝ほど低い位置に、俯き加減の香の横顔。
スッと通った鼻梁、ぽってりと赤い艶やかな唇、真っ白な頬、影を作る睫毛。
撩がその横顔を見詰めている事を、香の細胞の1つ1つまでが鮮明に意識して撩の言葉を待っている。
けれど、撩は何も言わない。
ただその愛おしい横顔を、楽しげに眺めるだけだ。




・・・なに?



焦れた香が不機嫌にそう言って漸く、撩が笑う。
小さく息を吐くように密やかに笑う。
笑う撩に、香が薄く眉を顰める。
香の怒りの原因を、何も言わなくても撩が察しているという事を、香も察する。
あうんの呼吸と運命的な絆で結ばれた息の合ったパートナー同士は、
そんな余計な事すら、言葉も無く通じ合う。




別に何も? なあ。

ん?

妬いて拗ねてるオマエが可愛いんだって言ったら、信じる?




香は大げさに鼻の頭に皺を寄せて、嫌そうな顔をする。
怒りを通り越して、彼に対して呆れている時の彼女の表情だ。




・・・・・・信じない。




撩は香の言葉に、大きく破顔する。
隣に立つ彼女の頬を撫でる。
ますます不機嫌に唇を尖らせる香に、撩は笑みを深くする。
自分の欲求にいまいち素直になれないのは、香の悪い癖だと撩はいつも思う。
けれどその虚勢を張った仔猫の爪を、1つづつ解してゆくのが撩の楽しみだ。




キスしよっか?

やだ。

良いじゃん。

馬鹿じゃないの?

腹減ったよー。

テーブルの上にあるでしょ、サッサと食え!!

お口が淋しいよー。

っば/// っばっかじゃ・・・





香に皆まで言わせず、撩がその唇を塞ぐ。
泡で滑る香の細い指が、撩の手首に抗議の爪痕を残す。
それでも口付が深くなるにしたがって、指は力を無くす。
それはただ撩を撫でるだけになって、撩を悦ばす愛撫へと変わる。





香は撩に翻弄されながらも、官能に火を点す。
いつの間にか両腕は、撩の首筋に回され、
口腔内を蹂躙する持ち主同様、無遠慮な舌を懸命に追う。
つい数分前の素直じゃ無かった自分自身を思い返しながら。
意地を張るのが悪い癖だと、可笑しくなる。


本当は淋しかった。
撩のいない寝室で眠るのが。
何も無いとは信じながら、美人の隣で酒を飲む男が恋しかった。
ただあの腕の中に抱かれたかったし、
キスしようと言われて、嫌では無かった。言葉とは違って。


意地っ張りな香ごと包み込む温かな腕の中で、香はいつも少しづつ素直になってゆく。
撩を悦ばせる言葉を言わされる。
怒っていた筈の感情はあっという間に何処かへ流されてしまい、
代わりに撩の事しか考えられなくなる。




ご飯とアタシと、どっち先に食べる?



可愛い女の挑発に、撩は遠慮なく乗る事にする。
欲求に忠実過ぎるのが、2人の悪い癖だけど。
2人はそれを改めるつもりは、今のところ無い。








連載中だけど、お題が書きたくなって今日はお題。





⑧ 密会

香が午後の資料室で例の、コードネーム“香田部長”という名のミッション遂行中に、そのメールは来た。
チャコールグレイのジャケットの内ポケットで、携帯が振動する。
時刻は、14:28
送信元は、撩の携帯だった。




“今晩、アパートに迎えに行くから。メシ、喰いに行くぞ。”


撩からの用件は、たった1行、それだけが書かれていた。
何処に行くとも、どういう意味なのかも何の説明も無しに、いつも撩は何だってそうやって唐突に告げる。
今回の遠方での依頼でも、撩はミニを持って来ている。
何が起こるか解らない依頼中には、ミニの機動力は2人には必要不可欠だ。
準備や諸々も含めて、香より2日ほど早くこの街にミニでやって来て、
後から電車でやって来た香を、駅で待っていてくれた。

香は、このたった1行の文面の意味を推し量る。
1番に想像するのは、仕事で何やら進展があったのかという事だった。
しかし、先程から頻繁に連絡を取り合っている教授もミックも、それらしい事は何も言わない。
という事は、撩の方のターゲットに動きがあったのか。
香は昼休みの給湯室での出来事を思い返す。
主任の渡辺に、突然振られた撩の話題。
何と答えたら良いものか思案した香は、シティハンターである事がバレるよりはマシだろうと。
嘘を吐いた。






・・・あ、あの。私、彼と付き合っているのあまり公にしたくないので。
その事、私と主任だけの秘密にして貰えませんか?



はは、槇村さんと僕だけの秘密って事か。
構わないよ、槇村さんと秘密を共有出来るなんて何か嬉しいな。





香がそう言うと、渡辺はにやけた表情でそう答えた。
その受答えで初めて、香は同僚から指摘された渡辺の香に対する態度について意識した。
“槇村さん、主任にロックオンされてるから。”香はそう言われて、まさか、と一蹴していたけれど。
少しだけ、そうかもしれないと覚ったのだ。
そしてそう思う事は、香に軽く恐怖を齎した。
自分が何の興味も抱いていない相手からの一方的な好意が、
恐怖という感情に結びつくという事に香は我が事ながら驚いた。
そしてそれは渡辺が一歩香に詰め寄って呟いた時に、嫌悪に変わった。




じゃあ勿論、彼にも内緒だよね? 嬉しいなぁ。







撩からのメールを受けて、香は一番にさっきのこの出来事を報告しといた方が良いだろうと思った。
詰め寄った渡辺からの妙な圧迫感を感じて、焦っていた香を救ったのは向かいの席の女子だった。
彼女がその場にやって来て、空気を変えてくれた。
何事も無かったように香にも渡辺にも、当たり障りなく声を掛けたけど。
渡辺が去った後にさり気なく、大丈夫?と訊いてくれた。
香は本当に心底、彼女がいてくれて助かったと思った。
この件を報告するには、今晩撩に会えるのは都合が良い事かもしれない。
香はメールを返した。



“解った、ちょうど報告したい事があるの。何時頃、来るの?”


その香のメッセージに、撩はメールでは無く電話を掛けて寄越した。
パソコン画面を見詰めていた香のジャケットの内ポケットで、またしても携帯が着信を告げる。
それが撩からのものだという事が解るのは、着信音を撩だけ他と設定を変えているからだ。
香は一応、周りを見渡して通話ボタンを押した。





何かあった?



何の前置きも無く、撩が話し始める。
いつもの事だ。



うん、一応、報告しといた方が良いかなって事が1つ。でも、夜会うのならその時の方が良いかも。

そうか。

うん。

大丈夫か?

うん、何時に来る?

まぁ、仕事次第だけど、19時くらいじゃね?

解った。じゃあ、また後で。

おお。





電話を切って撩は溜息を吐く。
午前中の事を思い出す。
香と同じ部署のあの男は、同じフロアで香にどんな風に接しているのだろうと想像する。
恐らくは、撩の想像している通り、胸糞悪い感じなんだろうと考える。
そして鈍感な撩の相棒は、相変わらずそういう事には一切、気が付かないんだろうと思うと。
撩は不安になる。
依頼内容に関して、不安は無いけれど。
それよりも、香に近付く男の存在の方が、撩には余程憂鬱の種だ。
今晩、一緒に食事をしようと思ったのは、ただ単なるデートのお誘いだ。
香が料理を作り置きしてくれるようになって、撩は近所の食堂に行く頻度は減ったけれど。
本当はいつもみたいに、一緒に食卓を囲みたい。












何処まで行くの?



ミニで迎えに来た撩の運転で、見知らぬ街の見知らぬ道路を走り抜ける。
香の感覚では、もう随分遠くまで来ているような気がする。
それでも、知らない道を走っているので、余計にそう感じるのかもしれないとも思う。



カニ、喰いに行こうと思ってさ。


日本海側に面したこの街では、新鮮で美味しいカニが安く食べられる。
東京だったら馬鹿馬鹿しいほどの値段のついたその高級食材を、
せっかく現地に来ているのだから、一度は香と食べに行きたいと思ったのだ。
その店は、常務とのゴルフの帰りに連れて行かれた、カニ料理の専門店だった。
2人が潜入している街からも、随分離れた場所にあるし。
ど平日のこの時間に、まさか誰かと遭遇する事も無いだろう。というのが、撩の読みだ。




もうすぐ着くさ。



ミニの窓の外は、しんしんと雪が降っている。
この街に来て、2週間近く経過して。
季節は完全に、秋から冬になった。
新宿は、教授の家は、どうだろうと思う。
やっぱり、同じように寒いのだろうかと思う。
美樹の容態については、いつもミックが知らせてくれる。
後数日で、傷口の抜糸が出来るだろうという事だった。
この調子なら年内には、美樹も家に戻れるだろうという。
果たして、その頃には自分と撩も家に帰れるのだろうかと、香は少しだけ憂鬱になる。
こんな12月は、今までで初めてだ。











で?報告って?




網の上で焼いたカニの身を解しながら、撩がそう言った。
車の運転があるので日本酒は飲むのは断念したけれど、飲めたらこの味は酒に合うだろうなと思う。




あのね、コッチの部署にさ、渡辺さんっていう主任がいるんだけど。



その名前に、無意識に撩の表情が険しくなる。
あの男、早速何かしやがったか、と。




なんでか知らないけど、撩とアタシの事知ってるみたいなの。

知ってるって?




撩の問い掛けに、香は一瞬、言葉に詰まる。
そう言えば渡辺は、撩と香について、恋人関係だと思い込んでいる。
香自身もそれに便乗して、昼間、嘘を吐いたんだった事を思い出したのだ。
香は、頬が熱くなるのを感じながら、でも一応重要な報告だからちゃんと説明しなければと思う。






あの、なんでそう思い込んでるのかは知らないんだけど、
なんだかアタシと撩が、その・・・


なんだよ?


えぇぇっとね、なんかぁ、付き合って・・・るって思ってるみたい?





撩は内心、可笑しくて堪らない。
なんでそこで、半疑問形なんだよと、突っ込みたくなる。
付き合ってると思い込んでいるに決まっている。
撩がワザとそのように振舞ったのだから。




今日ね、昼休みに給湯室で、槇村さんの彼氏って、



ココまで一息に言って、香はカァっと真っ赤になった。
俯いてカニをほじくる。
さっきから、ほじってばかりで香の皿の上のカニは一向に減らない。
恐らくは、“彼氏”という言葉を極度に意識しているのだろうと、撩は微笑ましい気持ちになる。




彼氏って?


撩は意地悪な表情でカニを頬張りながら、香の言葉を継いで続きを促す。
俯いている香は、撩が楽し気な事には一切気付いていない。



じょじょじょ、常務の秘書だったんだね、って。  言われたの///




香は茹で上げられたカニよりも真っ赤になって、何とか報告を終えた。
どうしてそんな事言うんだろう?やばくない?と、真剣に心配している。
撩は実際、やばいのは香の方だと思う。
完全にあの男に狙われてるし、何よりもあの歓迎会の晩の記憶は完全に消え去っているらしい。




別にほっときゃ良いんじゃね?アイツの事は。



撩のこの言葉は勿論、香向けの見解であり。
渡辺という男を今後、放って置くつもりはサラサラ無い。
槇村香をロックオンした男は、自動的に世界№1スナイパーである冴羽撩にロックオンされるという事だ。
香は不思議そうに、首を傾げる。



“アイツ”って、りょお知ってるの?渡辺主任の事。



香のその質問は、撩にしてみれば今更感満載だ。
あの晩、撩はあの男に、香の事を“ウチのヤツ”と呼んだ。
勿論、香は憶えていない。
撩は堪えようとしても、笑うのを堪えられなかった。
香はそんな撩に、一層不思議そうな顔をする。






ていうか、おまぁさ。

ん?どうしたの???

あの酔っ払った日、どうやって帰ったのかまだ思い出せないわけ?

へ?




撩がククク、と笑いながらカニを食べているのを見て。
香は少しづつ、気が付き始める。
もしかして、いや、まさか、なんで、いやでもそれはそういう事???
香の表情が無言の内に、クルクルと変わる。
撩が楽しそうに、香の目を覗き込む。





もしかして。

はい。

りょおが、

ええ。

迎えに来てくれ・・・た?

っっおっせぇ~~よっっ!! 気付くの。





撩は一頻り笑うと、あの晩、
渡辺に肩を抱きかかえられるようにして居酒屋から出て来た香を、
自分がおんぶして連れて帰った事を教えた。




・・・ゴメン、アタシ、飲み過ぎだよね・・・



香はシュンとして項垂れる。
さっきからせっかくのカニを前にして、香は照れたり俯いたり項垂れたりして、
一切、食事を楽しんでいる気配は無い。



良いよ、もう。過ぎた事だし、良いから喰えよ。東京じゃ、滅多に喰えないぜ?あんま、気にすんな。



その件では、一応、褒美(寝顔にチュウ)は貰っといたしな。とは、心の中だけで撩は呟いた。
この依頼遂行中に、あんな事はもう無いだろうし、
あのスケベ主任とも、依頼が片付けばオサラバなのでもう少しの我慢だ。
香はコクンと頷くと、山のように解された皿の上のカニの身を食べた。
食べながら、今度は撩の番だと香は話題を振る。




それで?りょおの方は?

は?

なんかあったから、今日ここまで来たんじゃないの?

いや、別になんもない。

はぁ?

つーか、ただお前と、カニ喰いに来たかっただけだけど?

へ?

だめ?

・・・・・・いや、だ め じゃないけど。




香は思わず、ニヤケそうになるのを必死に堪えて口の中のカニを烏龍茶で流し込んだ。
これじゃまるで。
デートみたいじゃない、と。
普通のOLとサラリーマンが、会社が終わって食事デート。
本当はただの相棒関係だけど、そんな風に恋人関係を想像すると香は妙に浮かれた気持ちになった。
でも、多分撩にとっては、大して深い意味は無いんだろうけど、と香は思った。
それはいつもの事だし、実際に撩の食欲の旺盛さを見ると、目的はカニだろう。
きっと、撩1人でカニを堪能して、
後で香にバレると恨まれるので(食べ物の恨みは恐ろしいのだ)一応誘ってくれたのだろう。
でも、それでも嬉しかった。
撩と一緒に食事をする事が。



















あぁぁぁ!!

っんだよっっ。うるせぇな。




帰り道、助手席の香が突如、大声を上げる。
何かを思い出したかのように、遠い目で涙ぐんでいる。





どうしたんだよ?急に。

アタシさぁ。

なに?

土曜日に目が覚めたら、ちゃんとパジャマ着て寝てたの。

で?(ギクゥッッ)

もももももしかしてさ、りょ、りょおが着替えさせてくれたの?

・・・。





撩は無言だったけど、撩の額に流れる冷汗で香の疑問が確信に変わる。
今更だし、気が付くのが些か遅すぎるけれど。
香は死ぬほど恥ずかしかった。
あの日、どの下着を着けていたのか、脳内で必死に思い出そうとするけれど思い出せない。





やっぱりそうなんだっっ!!りょおのエッチ!!

ば、ばかっっ。おまぁ、スーツのまま寝るワケにいかんだろうがっっ

そおだけどさ、起こしてくれれば良かったじゃん。見たでしょっっアタシのっっ 下着姿///

ケッッ 誰が見るかっっ 男子の裸なんかっっ

何だとぉ?オラ?(怒)




香がもう少しで、ハンマーを取り出すというタイミングで。
香の携帯が着信を告げた。
ミックのいつもの電話だ。
この時ばかりは、撩は助かったと思った。
電話口では、香が楽しそうに撩とカニを食べに行ったんだと話している。
そう言えば、忘れていたけど。
もう1人居たのだった、香を狙うスケベ野郎が。
香は至って呑気に、撩との食事デートの報告をしているんだけど。
きっと電話の向こうで、ヤツは香の話しを楽しそうに聴いているだろう。
実際には、あの男がいつだってフェミニストを気取って香に媚びている事は撩にはバレバレだ。


撩の可愛い女は、いつでも無防備で無邪気だ。
撩自身も含む、男達の下心になど一切、頓着しない。
撩はこの人懐こくて奥手な仔猫ちゃん相手に、近い将来、肉体関係にコマを進めようと思っているけれど。
それは中々の困難が予想される。
撩は雪道の中を、2人それぞれの仮住まいへと向けて愛車を走らせた。



(つづく)



[ 2014/10/11 06:10 ] Breakthrough | TB(0) | CM(0)

⑨ 混迷

撩はこの潜入調査の間ずっと、自分が調べている対象が黒では無いような気がしている。
依頼人である仲根社長は、沢田常務の関与を疑っているようだけど。
それはあくまで常務が関連部門の統括責任者という立場にあるという事のみが根拠で。
彼の人柄、これまでの会社への貢献度を鑑みると、沢田を疑いたくはないというのが本音らしい。
何よりも彼のこれまでの実績を評価し、
今の地位にまで引き上げたのは他でもない仲根社長自身なのだから。
しかし、それは内輪の話だ。

撩が見るのはあくまで、撩が潜入してからこれまでの事実のみである。
何の先入観も抱かず、撩が接した対象。
その人となりを見て、黒では無いような気がするのだ。
沢田に宛がわれた個室の数ヵ所に、撩は盗聴器を仕掛けている。
今のところ、怪しい動きは何もない。
沢田常務の元に最も頻繁に電話をかけてくるのは、嫁の美咲だ。
それは盗聴するのも馬鹿馬鹿しくなるような内容なので、撩は呆れ果てている。
恐らくは、同年代の中高年と比較しても、沢田夫妻は仲睦まじいと言えるだろう。
本人の飄々とした雰囲気とは逆に、彼はああ見えてかなり忙しい身である。
会社に居る時間には、ひっきりなしに来客があるし、
出ている時は大抵、取引先との打ち合わせや商談だ。
元々、現場叩き上げの人物なので、商品である重機に関しては専門家だ。
顧客相手にすら、適当に雑談していると思ったらいつのまにか、数十億規模の商談を纏めていたりする。
会社に対して、後ろ暗い不正をやっているような人間には、撩にはどうしても思えないのだ。














・・・あ、ミック。ごめんなさい、誰か来たみたい、またね。





香がそう言って携帯の通話を切ったのと、資料室に誰かが入って来たのはほぼ同時だった。
潜入調査の期間中は、なるべくこの資料室には他の社員が入室しないように、
社長の方からの根回しがある筈だったけれど、それでも用があればそれは止められない。
業務の妨げになれば、自然それを訝しむ人間が現れる可能性もある。
香は机の上に広げられた資料を然り気無く整えて、一見して何をしているのかを覚られないようにする。
入って来たのは、同じ部署の桜井だった。




お疲れ様です。



香がそう言っても、彼女は相変わらず聞いてはいなかった。
香の視線を通り越して、香がそれまで作業していた机をざっと一瞥した。
まるで探るような目付きで見回すと、それから初めて香の方へ視線を寄越す。
けれど何も言わずに、書棚の奥へと消えた。
彼女が何の用があってそこに来たのかは解らないけれど、彼女が居る間は香の方の作業は一時中断だ。
香はその旨を、教授へとメールする。
教授からの返信は、ちょうど一息吐くと良い、休憩しよう、というものだった。
それから小一時間ほど、桜井は奥の書棚で何か調べものをしていた。

香はその休憩の間、仕事以外の事を考えていた。
もう、12月も半ば過ぎ。
香はあの奥多摩での出来事から、
美樹の怪我が治るまで傍で身の回りの世話をさせて貰おうと思っていた。
それが想定外の今の状況だ。
ミックやかずえから連絡を貰う度に、美樹の様子を知らせてくれる。
こうして遠く離れてみて、それでも少しづつこれで良かったかもしれないと思っている。
香が良かれと思ってやる事が、相手には余計に気を遣わせる事もある。
一度は美樹と向かい合って結婚式の日にあのような事になってしまった事を詫びて、
美樹も許してくれた。
それ以上、その事を蒸し返すのは、お互いの為にはならないので無いかと冷静になればそう思える。
勿論、それでも香はこれから先もずっと、
伊集院夫妻には今回の件で済まないという気持ちを抱き続けるだろう。
そしてそれを言葉で示すのではなく、行動で、気持ちで、返してゆくのがお互いの為なのだろうと思う。
今はただ、美樹が少しでも早く元の通り、彼女の一番好きなあの店のカウンターに立てるのを祈るだけだ。

桜井がその部屋を後にして、香はまたミッションを再開した。
この作業も、もう後残りわずかだ。
これで何の手掛かりも掴めなかったら、潜入調査は長期化も視野に入れて掛からないといけないだろう。
いつになったら、あの懐かしい新宿に帰れるだろうと香は溜息を吐いた。
普段、依頼が無いなら無いで焦るけど。
こんな風に環境が一変するような依頼は正直、精神的に消耗する。
あの使い慣れたキッチンが恋しい。
無駄に広いメゾネットの居住スペースに掃除機を掛けながら、広過ぎるとぼやいてたけど。
早く帰って思い切り、掃除がしたい。
屋上に撩と自分の分の布団を干して、ガレージで2人で洗車する。
そういういつもの12月が恋しかった。



















あの人、何か探っているような気がするんです。嫌な予感がする。




女はそう言って、情事の後のベッドの上で気怠そうにそう言った。
男はウンザリする。
こうして相手にしてやれば何でも言う事を聞く都合の良い女は、些か、嫉妬深い。
俺が気に入った女なら、結局コイツは気に食わないのだと忌々しい気持ちが沸く。
そろそろ潮時か、とも思うけれど。
彼女には色々と秘密を知られているという、弱みもある。
下手を打つと命取りになる。
男は、これからどうやってこの女と上手い事手を切ろうかと、そろそろ考え始めている。
タバコを吹かしながら、服を着る。
女の恨めしそうな視線を背中に感じるけど、気が付かないフリに限る。
暗に、オマエも早く着替えろという空気を醸し出す。
休憩は2時間だけだ。のんびりしている暇は無い。




気のせいじゃない? 異動して来てまだひと月も経ってない人に何が出来るっていうのさ?



男は背中越しに面倒臭そうにそう答える。
女は、まだ何か言いたげな表情だけれど、もうそれ以上その話は終わりだ。
薄暗いラブホテルの安っぽい部屋で、男だけはすっかり身支度を整えていた。
利用されているのだろう事は、女も解っていた。
それでも良いと思っている。
だけど、女はいつもこの時間が好きになれない。
1人だけサッサとベッドを降りて、ビールを飲みながら煙草を吸う彼。
彼のベルトのバックルのカチャリという金属的な音が悲しい。
どうしたらもっと違った関係になれるのか、彼女にはもう解りようも無かった。











撩は何も無い部屋の天井を見詰めながら、布団に寝転ぶ。
晩ご飯は、香が作って冷凍しておいてくれたカレーを食べた。
寝タバコは絶対にダメだという相棒の小言を思い出しながら、寝転んで煙草を吸う。
教授の方の進展も、これと言って無いらしい。
それでも教授が言うには、初めからそんなに簡単に証拠が掴めるとも思っていないという事だった。
気長にやるだけじゃ、と言って高らかに笑う狸ジジイの声に、撩は軽くイラッとしたけれど。
それが単なる八つ当たりだという事は、否めない。
早く終わらせたいのだ。
これまで、香を置いて数週間、単独で仕事を受けた事くらいは何度かあった。
それでもこれ程までの焦燥感を抱いているのは、初めてだ。
本当は、あの湖の畔で香を抱き締めて、新宿に帰ってから少しづつでも距離を縮めたかった。
それが何の因果か、全くの想定外でオアズケを喰らっている。
しかも、滅多に無いほどの難解で大掛かりなヤマは、まだまだ黒幕のシッポすら掴めない。






それでも事態は、見えない所で少しづつ形を変え始める。
大切な事は、その変わり目を見逃さない事だ。
不正に執り行われた事には、必ず綻びが生じる。
それが世の中の真理だ。



(つづく)


[ 2014/10/15 11:10 ] Breakthrough | TB(0) | CM(0)

⑩ お邪魔虫

わあぁ  ホントに貰って良いの? ミック?



そう言って、薔薇色に頬を染める初恋の君は本当にカワイイと、ミック・エンジェルは思う。
あの奥多摩の一件があってからすぐに、教授から協力の要請を受けたのを快諾したのと同時に、
ミックは雑誌での定期的な連載を2つと、別件の取材を複数抱えていた。
一見、脳天気でスケベなフリーライターという名の暇人に見えて、これでも結構忙しいのだ。
フリーという社会的立場上、仕事に関して来るモノは拒まないし、去るモノも追わない主義だ。
だから、計画的にコンスタントに仕事がやって来るワケでも無い。
その点、冴羽商事と同じだが、如何せん仕事の絶対数が違う。
撩と香が今回の潜入で一時的に滞在しているこの街に、偶然にも取材が舞い込んだのはつい数日前だ。
僅か1泊だけの短い滞在だけれど、新宿以外の街で香に逢えると思うと。
ミックの胸は、俄然、ときめいた。
勿論その街には、香ともう1人彼女の番犬も居るのだが。




そんなに喜んでもらえると、嬉しいよ。カオリ。少し早いケド、クリスマスプレゼントだよ。



そう言ってミックはウィンクすると、お通しに出された小鉢の中の昆布巻きを摘んだ。
そして小さな声で、オォゥ、旨いなこれ。と、感嘆した。
本当に何を食べても美味しいのだと、香もこの街に来て思う。
ミックが香にくれたのは、柔らかな手触りのマイクロフリースのナイトガウンだ。
コッチは寒いだろうと思ってね、すぐ使えた方が良いだろう?
そんな風に言うミックは、マメだなぁと香は思う。
勿論、比較対象の例は、対極にいるずぼらな相棒なのだ。
確かに、この真冬の寒い季節に、寒い街に来て、香も撩も持ち込んだ荷物は必要最低限だ。
日に日に冷え込むこの季節に、その贈り物は非常に嬉しかった。





ありがとう、で、でもアタシ、何も用意してなかったや。クリスマスプレゼント・・・ゴメンね?

オー、ノープロブレムッッ!!久し振りにカオリに逢えたのが何よりのプレゼントさ。




そんな調子の良い事を言うミックに、香は苦笑する。
確かにミックはマメだし、気が利くし、真っ直ぐに臆面も無く歯が浮くようなセリフを吐く。
優しい男は、勿論、香も好きだけど。
それでも。
香はやっぱり、撩が好きだなぁと改めて思う。
考えている事が良く解んなくて、意地悪で気が利かないようで、
本当は誰よりも温かくて、気を使わせずに気を利かせる撩が、香は好きだ。
真正面からの優しげな言葉は、香には正直照れ臭い。
何より、ミックの泊まる駅前のビジネスホテル1Fの居酒屋で、ミックと向かい合って、
香はついつい無意識に撩の事を考えているし、逐一撩とミックを比べてしまう。
そして多少強引にでも、撩のミックよりも良い所を探し出そうとする彼女は。
完全に撩しか眼中には無い。




はぁぁぁ~~クリスマスかぁ。 ミックは優しいのねぇ。かずえさんが羨ましい。



そう言いながら、アツアツの揚げ出し豆腐を食べる香に。
ミックは少しだけ胸の痛みを覚える。
確かにミックの誰より一番大事な女は、かずえだ。
それに間違いは無い。
今更、この目の前の彼女をどうこうしようとは思っていないし、そもそも彼女はあの悪友のものだ。
ミックが取材でこの日、この街を訪れると香との電話の遣り取りで報告すると、
じゃあ、3人でご飯を食べに行こうと言い出したのは香だ。
約束の時間に、仕事帰りの香がやって来て。
撩はもう少し遅くなるみたいだと、そう言った。
先に2人で始めててくれと、撩は香に言付けた。
ミックは内心、このまま香と2人きりでも良かったけれど。
まさかあの男に限って、それは有り得ないだろうと思う。






カオリだって、この間リョウとデートしてたじゃない? カニデート。

あはは、あれってデートなのかな? 撩は主にカニしか見てなかったよ?

・・・食い意地の張った男だ。ボクなら、目の前にカオリが居たら胸が一杯でカニなんか食べれないよ。




そういう金髪男は、先程から食欲旺盛だ。
撩はあの日、有り得ないくらい大量のカニを平らげていたし、
目の前の香よりも、撩のベクトルはカニに向かっている様に香には見えたけど。
何だかんだ言って香自身、沢山食べる育ち盛りの子供の様な撩が好きなのだから仕方ない。






でも、ホントにありがとう。コッチに来たら予想以上に寒かったから、すごく嬉しいの。
アタシも撩も、今回の依頼は寒さとの闘いだわ。

でも、アイツは暑いのも平気だけど、確か寒いのも結構平気だったと思うよ?

撩が?

あぁ、元々は南米育ちだけど、東部に居た時も結構薄着だったしなぁ、アイツ。
アイツはほら、タフな軍用犬みたいな男だから。ま、例えればドーベルマンかな。




香は枝豆を摘みながら、クフフと笑う。
真っ黒で艶やかな毛並みは、確かに撩っぽいと思う。
精悍な顔つきも、敏捷な体も。カッコイイと、思う。
そんな事を考えてしまって、香は少しだけ恥ずかしくなってしまう。




じゃじゃ、じゃあ、ミックは?例えたら、なあに??

ボクはほら、優雅で上品なアフガンハウンドさ。

ふふ、似合ってるかも。




撩を犬に喩えたミックの言葉に、楽しそうに頬を染める彼女が可愛くて。
ミックは少しだけ調子に乗って、ウィンクを寄越す。
楽しそうに、似合ってるよ?という彼女は知らない。
上品で紳士的に見えるアフガンハウンドは、
意外にも気位の高い野生児で、獰猛な狩猟犬であるという事を。
飼い馴らされたペットでも時として、俊敏な仔猫などを獲物と見なして襲う事もあるという。









なぁにが、上品で優雅だよ。おまーなんか元々、飼い主(マフィア)に拾われた野良のくせして。




そう言いながら現れたのは、タフで勇敢な軍用犬だった。
日頃し慣れない、ネクタイを締めている。




おかえりー、りょお。



香がそう言って持ち上げた中ジョッキには、半分ほど生ビールが入っている。
狩猟犬のグラスには、早々、麦焼酎のお湯割りが入っている。
思わず、無意識に撩の眉間に縦皺が刻まれる。
確かに先に始めてろとは言ったけど、
今までの数十分、2人がどんな会話をしていたのかが非常に気になる。




おまぁ、ったく。懲りてねぇなっ?


何の事を言っているのかは、香にだけ解る。
香はクスクス笑うと、まだそんなに飲んで無いから大丈夫だよ?などと言う。
それでも、香の頬と目の縁は薄っすらと赤く、薄茶色の瞳は潤んでいる。
自分が居なかったら、この無防備な仔猫は、
簡単に野良犬に連れて行かれてしまいそうで、撩は気が気では無い。
特にこの目の前の、金色の毛並みの野良犬は性質が悪いので要注意のなのだ。
途中、香がトイレに立ったところで、撩はミックに詰め寄った。




おまー、取材って嘘だろ?

はあ?何でボクがそんな嘘を吐く必要があるのさ?

・・・なんだよ?あれ。




撩が香の席の横に置かれた赤い包装紙に包まれた“クリスマスプレゼント”を指差す。
ミックは不敵にニヤリと微笑む。





あぁ、あれは。ボクのささやかな香への気持ちさ。ボク、カオリの事好きだもん♪

・・・。

文句があるならさ、リョウ。 オマエも堂々と表明しなよ、カオリは俺の恋人だって





撩の眉間に深い深い皺が刻まれる。
勿論、それが出来る撩ならば、2人はとっくに相棒以上の関係になっている事だろう。
コッソリと相棒の寝顔にキスをしたり、コッソリと相棒の部署の男共を調べたりしない。
やりたいのは、撩とてやまやまだ。
実際、もうこんなクソ寒い田舎からとっとと帰って、2人のアパートでぬくぬくゴロゴロしたい。





っつーか、フライングだろあんなの。 自分だけ良いカッコしやがって。

フフフ、それって負け惜しみって言うんだよ、サエバ君。残念だったな、ハッハッハ





そんな男同士のしょうも無い会話も、
彼等のアイドルが席に戻った所で、何事も無かったように中断される。
3人で和気あいあいと酒を飲みながら、撩はお邪魔虫の向う脛を何度か蹴り飛ばした。
勿論、香はテーブルの下の攻防には一切気が付いてはいない。
その晩、新宿からやって来た友人は、何だかんだと2人に近況を語って聞かせ、
2人は久し振りに、いつもの空気に浸った。
怪我をした美樹は、順調に回復し。
予定としては、クリスマスの25日にキャッツで復帰のクリスマスパーティーを企画しているらしい。
本格的な店の再開は、年明けになりそうだとミックは言った。

だから、2人とも早く終わらせて帰っておいでよ、と。
実際、つまらないのだ。
新宿に2人が居ないと。



もうすぐで、色々あった1年が終わる。



(つづく)




[ 2014/10/23 19:33 ] Breakthrough | TB(0) | CM(0)

毎日思っている事。

おはこんばんちわ、ケシでございます(*´∀`*)ノシ

突然ですが、毎日思っている事があるのです。
それはこのブログを、毎日沢山の方が見に来て下さる事がありがたいなぁぁぁぁっという事です。
開設してすぐの、コメントや拍手もまだホンのちょみっとの頃は。
ちゃんとお返事を書いたりもしてたのに(今でも、諦めた訳じゃないんだけど・汗)
今は、コメントを貰いっぱなしでなかなか個別にお返事を書けないで居ります。
ごめんなさい。
でも、ちゃんと読んでます。嬉しいです。ブログを継続するモチベーションになってます。

タイムリーに遣り取りしたいなぁと思うようなコメントも戴いたりもするのですが。
前々からお返事滞っている事を思い出すと、
そんな沢山のお返事を放り出して自分の好きな事にだけ反応するという事は、
ワタシにはどうしても出来なくて。1か0かしかない人間なので、なかなか書けないです。
そしていつも、妄想ばかりしちゃいます。
都合が良いと言われればそれまでですが、
更新で皆さまの拍手やご訪問にお応え出来たらなぁと思ってます。
改めて、このブログにご訪問戴きまして誠に・・・

ああありがとぉぉございまぁぁぁああ愛してますっっ


感謝を込めて、追記にSS↓↓↓








[ 2014/10/24 21:38 ] ごあいさつとお知らせ | TB(0) | CM(2)

⑪ 交錯  

それは、ミックが短い滞在を終えて東京に戻ってから3日後の週明けの事だった。
その週の週末にはもう、クリスマス・イブだ。
早くもこの依頼に取り掛かって、3週間が経とうとしていた。
撩は沢田常務の元で、
通常の秘書業務を淡々とこなしながら改めてあらゆる角度から沢田の身辺を調べた。
彼の経歴に特段、目新しい事実はこれと言って無かったけれど。
唯一、撩がこれはと思ったモノに、彼の妻・美咲の事があった。
なんと彼女は、沢田と結婚する前はこの会社で社長秘書を務めていた。
(なんだ、あの人たち社内恋愛か・・・)
撩の脳裏には、彼の妻のあの奇妙なヘルメットが過った。
今でこそ沢田は常務だが、結婚当時は製造工場の最終工程を担当する部門の主任だった。







教授? カオリからの連絡、ちょっと遅くありません?



はじめに異変に気が付いたのは、ミックだった。
やはり東京に戻ってみると、あの街の寒さが別格だった事が身に沁みた。
ミックは香に会うまで、本当は少し心配だったのだ。
あの奥多摩で漸く、これまでに無く急接近した2人なのに、その直後の別居生活である。
何より、香が心細いのではないだろうかと気になった。
取材のついでに2人に会いに行くと、東京を出る数日前にかずえに報告すると。
かずえはクールな表情で、あら、本当に“2人に”かしら?“香さんに”の間違いじゃ無くて?と、
何処までが冗談で、何処からが本気なのか判別の付け難いリアクションをされた。
実際に久し振りに会った2人は、拍子抜けするほどいつも通りでミックは安堵した。




そうじゃのぉ、もう50分位になるか。



教授が研究室の壁に掛かった時計を確認する。
教授が香に持たせているパソコンのデータを、かずえがすぐに解析する。
いつもなら、どれだけ時間が空いても20分に1度程度は香からの何らかの交信があった。
香は潜入先では、午後からの時間は完全にコチラの件に取り掛かっている筈だ。
ある取引の納入先に関する資料を送信してきて以来、香からの交信は途絶えた。
ミックは、何やら暫し考え込んだ。



ちょっと、リョウの方に連絡取ってみましょうか?



撩も香も、大きな社屋の別のフロアに居るとはいえ、同じ屋根の下に居るのだ。
いざとなれば、撩に連絡を取るのが最も手っ取り早い。











香がハンカチで手を拭きながら資料室の傍にある女子トイレから出ると、
ドアの外には見知った顔があった。
勿論、香は挨拶をする。
相手がどんなリアクションを取ろうとも、それは香にとっては当たり前の事だから。
“彼女”は何も言わずに、手の中に持っていた白い布を香の口と鼻を覆うように押し当てた。
深く息を吸い込んでから意識を失うまでのホンの一瞬、香は抜かったと思った。
脳裏には撩の残像が過ったけれど、
その直後にはもう香の意識は綺麗にブラックアウトして、外界からのあらゆる出来事は遮断された。









ジャケットの懐で携帯電話が振動する。
それと同時に、撩のデスクの電話も鳴り響く。
携帯の画面には、腐れ縁の悪友の名前が記されていた。
撩は一瞬見比べて、デスクの方の電話に出た。
相手はつい1時間ほど前に、沢田が会いに行く予定で出掛けた取引先の担当者だった。
新年明けの初荷でショベルカーを2台新しく納入する予定の、地元の大手土木業者だった。
沢田との打ち合わせの予定時間になっても、先方に姿を見せないという事で連絡が来た。
取敢えず撩は、道路の状況で到着が遅れているのかもしれないと誤魔化して電話を切った。
速やかに現在の状況を確認し、折り返すと伝えた。
けれど、撩の中で何かが妙に引っ掛かる。
悪い予感と胸騒ぎがする。
そしてそれは、その直後にミックに折り返しの電話を入れた所で確信に変わる。







何かあったか?




撩の第一声はそれだった。
ミックには、その撩の声音で撩の方側でこそ、何かが起こったのだと察した。
手短に用件だけを伝え合う。








カオリからの連絡が途絶えた、もうじき1時間になる。

何だって? マジか。

ああ、ちょっとカオリの方の様子を見に行ってくれないかなぁ?

解った。 それと。

なんだ?

コッチの方も、沢田常務が消えた。

っっ!!! ほんとか?

ああ、恐らくこの点と線は繋がる。

解った、教授にも伝える。

あぁ。

なぁ、リョウ。

ん?

なんかあったら、すぐ連絡しろよ?

フン、わぁってるよっっ。後でな。

OK















その部屋には、香のジャケットとひざ掛けが残されていた。
放置されたパソコンには、ロックが掛かっていてこの案件に関わる者以外には開けないようになっている。
ひざ掛けの置かれていた椅子にも、ひざ掛けにももう温もりは残っていない。
ジャケットのポケットには香の携帯電話が残されていた。
この寒さの中、きっと香はジャケットを脱いでシャツを着ているだけだ。
生憎、香の所在を知らせる発信機は、香のベルトのバックルに取付けている。
そして沢田の方にも、撩はコッソリと細工を施していた。
沢田がいつも使っている愛用のネクタイピンは、ブルガリの物だ。
ロゴマークの中央に配されたオニキスの黒い石の裏にも、発信機を取り付けている。
これまで数度、沢田と無礼講で夜の繁華街で酒を飲んだ。
その際、酔いに任せてそのネクタイピンを一晩失敬したのだ。そして細工した。
当人には、今のところ気付かれてはいない。
撩は小さく舌打ちをした。
香のジャケットと、念の為ひざ掛けも持って撩は急いで資料室を出た。
撩たちが仮住まいしているアパートも、この会社のすぐ近くだけれど。
駐車場は更に近くに借りている。
何より、万一の時の為にすぐに使えた方が良いだろうと思ったからだ。
まさか、ここでそれが役立つとは思わなかったが、逆にこんな状況になった事自体に撩は無性に苛立った。









目が覚めた時、香は寒さに震えていた。
手足をきつく縛られ、猿轡を噛まされている事だけはぼんやりとした意識の底でも認識できた。
少しづつ覚醒する。
恐らくは人気の無い何処か事務所の様な1室、床には辛うじて絨毯が貼られているし、
一応、暖房は入れてある。
そして、自分のすぐ傍にもう1人、同じように拘束されて転がされている気配。
薄暗い空間に目が慣れて来ると、それが背広を着た男性だという事が解る。
どうやら彼も同じように覚醒し始めている様子だ。
埃臭い。
うすら寒い。
この事態に、誰か気付いている人間は居るだろうか。
そもそも今現在、何時なんだろう。
香の思考は取り留めも無く巡る。











撩はミニのダッシュボードを開けると、受信装置を起動させる。
そこに現れた、2つの異なる光点。
それは見事に同じ場所にあった。
点と線が繋がった。













お目覚めですか?槇村香さん、いや、シティハンターさんって言った方が良かったかな?




その部屋のドアが開いて入り口に立った男がそう言った。
逆光と恐らくは嗅がされた薬のせいで、未だ焦点の定まらない目ではその男の顔までは良く解らない。
けれど香は、確かにその男の声に聞き覚えがあった。



(つづく)



[ 2014/10/31 22:22 ] Breakthrough | TB(0) | CM(0)