#2. 独り暮らし

目覚ましよりも先に目が覚めてしまう。

香は布団の中で、朝7:00の合図が鳴るまで息を潜めて待つ。
それはまるで執行を待つ死刑囚のようで、もう一度目を閉じるけれど眠気は訪れない。







香が生れて初めて独り暮らしを始めて、もうすぐ11ヶ月になる。
物心ついた時には、香の傍にいるのは兄だった。
その兄を亡くしてからの6年間、香の傍に居てくれた彼を裏切ったのは。
他でも無い自分自身なのに、香は未だにたった独りの生活に何処か馴染めない。
初めの頃は、料理の量をどの程度作れば良いのか解らずに、
絵梨子から、誰がこんなに食べるの?と呆れられた。


今では、1人分の食事を作る事にも慣れたけど、独りで食べる事には未だに慣れない。


僚はいつも。
香の料理の腕が上がらないとぼやいていたけれど、それでも香の作ったモノを、
食べ残した事は、そう言えば6年間一度も無かった。
料理は褒めない僚だったけど、
香の淹れたコーヒーは、ごくまれに美味しいと言ってくれた。







あの日、香が出て行こうと決めたあの日も。

僚は香のコーヒーを飲んで、旨いと言ってくれた。
結局それが、最後に聞いた僚の言葉になったけど。
あの後、日課に出掛けて行った僚の背中を見送って、香はあのリビングで泣いた。
どうしてよりによってこんな日に、
どうせなら嫌いになれるような酷い事を言ってくれればイイのにと思った。




だから多分、香はいつまで経っても、やっぱり僚の事は嫌いにはなれないんだと思う。
香はこの1年、コーヒーは飲んでない。








眠れない頭の中には、取り留めもない記憶が浮かんでは消える。




僚と暮らしたのは、27年の人生の中のたったの6年に過ぎないのに。
香には、僚と出逢う前にどうやって生きて来たのか、どうしても思い出せない。
6年間、冷静に思い返せば酷い事も沢山あったし、
いつだって自分は僚に腹を立ててばっかりだったけど。
思い出すのはいつだって、僚の優しい笑顔や、大好きだった仕草で。
香は思わず自嘲する。
僚が香の頭を撫でるあの大きな掌の感触は、今でも覚えているのに。
もう僚は居ない。
毎朝、それを反芻しないと一日が始められない。






理由はあの暮らし全てであり、そのどれでも無い。
有るようで無い。


香があの日アパートを出る、ひと月ほど前。
僚は左胸に大怪我を負った。
ひとつ間違えば、あの時に僚が死んでいても不思議は無かった。
それでも僚は、致し方の無い“事故”だと言ったけど。
あれは。
間違いなく、自分の判断ミスだったと香は今でも思う。


自分の行動1つ、言葉1つが、僚の生き死にに関わっている。


そんな事は、あのハタチになった晩に解りきっていたつもりでいたけど。
実際には、何にも解っていなかった自分に、香は心底嫌気がさした。
でもそれは。
こうして時間を置いて冷静に考えると、ただの理由の1つに過ぎない。


香は僚を愛していた。
初恋からずっと、好きになった男性は僚1人だ。
香はもしかすると、僚に色々と望んでいたのかもしれない。
相棒としての自分の不甲斐無さ。
ハッキリとしない僚の気持ち。
膨らんでゆくばかりの自分の気持ち。

何よりも束縛を嫌い、自由な風みたいな掴み処の無い彼に、
自分は、大きな枷を嵌めていたのかもしれない。
だから、香はあの日。
僚の手足に嵌った枷を解いた。

否、それは言い訳かもしれない。
香はあの甘やかで非現実的な、僚との6年間から逃げ出したのだ。
あの僚との日々は、今はもうまるで。
夢の中の出来事のように思える。


我儘で欲張りで罪深く業が深いのは、他でも無い自分自身。
相棒として信じてくれた僚を、あの日裏切って家を出た。









RRRRRRR


目覚ましが7:00を知らせる。
アラームのヴォリュームは、一番静かな音に設定していても香は一度も寝坊はしない。
香は布団の中で、もう一度伸びをして。
自分自身に言い聞かせる。



もう、彼は何処にもいない。





朝は必ず規則正しくやって来る。
そこに僚が居ても居なくても。


(つづく)
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#3. Still I'm gonna miss you

そのバーに入った時、ヴォリュームを絞ったスピーカから、
ローリングストーンズの『Ruby Tuesday』が流れていた。







同じ名前のイギリス人ロッカーを思い浮かべる度、ミックは思い出す事がある。


ミックがまだアメリカに居て、もう少し若かった頃。
仕留めたターゲットの妻と、自堕落な情事に耽っていた時に言われた事だ。
安いモーテルのけばけばしい壁紙の部屋の、年季の入ったテレビからは、
『Honky Tonk Women』が流れていた。




同じミックはミックでも、アンタのその薄い唇が。
冷酷そうでゾクゾクするわ。



そう言って夫を失ったばかりの女は、ミックの手管に溺れた。
確かに、あの頃の自分は。
非情で冷酷な殺し屋だったと、ミックは思う。
そしてそれは、この同じカウンターで飲んだくれている元相棒も、同じだった。






数年振りに僚と日本で再会して、ミックは正直、我が目を疑ったモノだ。

ミックの知っていた僚は、
いつ死んでも構わないというオーラを振り撒きながら、
ミックの比では無いほどの非情さで、引き金を引く男だった。
ある意味、怖いものなしに生きていた僚ほど、怖い者はいなかった。
それが日本のこの街で再会した僚は、まるで別人だった。
生に執着する者の目をしていた。


香の為に生きようとしていたのが、ミックにはすぐに解った。

そして、程なくして。
ミックもまた、その僚の気持ちを痛いほど理解する事になった訳だけど。
香はずっと、僚の事しか眼中には無かった。













なぁ、リョウ。


・・・ぁあん?


オマエ、なんて様だよ。メシも喰わずに飲んでんだろ?


・・・・フフ、おまぁいつからセラピストになったんだ??







バーボンを呷りながら茶化す僚は、ここ最近。
雰囲気がまるで、あの北米時代を彷彿とさせる。
香が居なくなったのは、ちょうど去年の今頃だった。


香が居なくなった後の僚は、生温いボディガードの依頼など受けなくなってしまった。
近頃の僚はすっかり、あの元の暗い色の目をした“死神”に逆戻りしていた。
今の僚が瞳の奥に何を宿しているのか、ミックにはすっかり読めなくなった。







オマエ・・・大概で素直になれよ。


どういう意味だ?




溜息混じりにそう助言するミックは、至って真剣だ。
僚が無意識に、スッと目を細める。
最近では、ちょっとした事にさえ、僚は無遠慮に殺気を垂れ流す。
まるで狂犬のようだったこの男を、香は確かに掌で転がしていたに違いない。
あの頃の僚は、狂犬というよりは忠犬だった。
香が隣にいる事で、僚自身の精神の調和が保たれていたんだと、ミックは思う。

香と一緒に居た僚が、これまでミックが見て来た中で最も人間らしい生き方をしていた。















逢いに行けよ。


・・・・・・・。


居場所、知ってんだろ?


知ってたら、なんだ?


逢いに行け。


何の為に?


オマエ自身の為だ。









僚が果たして、そのミックの言葉を聞いているのかいないのか、
随分と沈黙が流れた後で、ポツリポツリと苦しげに語り始めた。







アイツぁさ・・・・俺を、・・見限ったんだ。
俺の居ない生活・・をアイツ、が選んだ。
今更、逢って   どうする?
もう、 アイツとは棲む世界が・・・違うんだよ。






ちょうど一回りしたCDは、もう一度、『Ruby Tuesday』を再生している。
唇が薄くない方の、セクシーなミックが。
未練がましい唄を唄っている。






   さよなら、ルビー・チューズデイ、
  君の名を呼ぶ事が出来ない。

   君はいつでも、変わり続ける。
   それでも僕は、君が居ないと淋しい。






僚と香はいつだって。
お互いが大切過ぎて、周りの誰でもが解りきったような簡単な事が、
時々、見えなくなるらしい。
ミックは、香の事が今でも大切だから。
そして認めたくは無いけれど、この目の前の腐れ縁の悪友が大切だから。


これからも、僚が香を迎えに行く気になるまで、こうやって尻を叩き続けるつもりでいる。


(つづく)

連絡です。

※ 先月、20部限定で発売した個人誌の件で、連絡です。



ご注文戴いた方の中で、HN:ゴンママ様(ネット上なので、HNでお呼びしますね。すみません。)

製本が出来上がってからのご予約と言う形で連絡を戴いておりましたが、
8/18と、8/31に連絡メールを差し出しましたが、ご入金の確認が取れておりません。

もしかすると、コチラの確認漏れ、メアドの間違いの可能性もございますので、
もしもこちらをご覧の時は、
宜しかったらメールフォームかコメント欄でご連絡いただければ、ありがたいです。

また、連絡の行き違いでご入金がお済みの場合は、ご容赦くださいませ m(_ _)m
また、その場合にもご一報戴けると幸いでございます。


今週いっぱいご連絡・ご入金確認が取れない場合は、
買えなかった方で、次にご連絡戴いた方にお譲りしたいと思いますので、
何卒、ヨロシクお願い申し上げます。

ご連絡お待ち申しております。     ケシ
[ 2013/09/03 19:59 ] 個人誌 | TB(0) | CM(0)

ホントにホントに感謝です(´∀`)

こんばんわ、ケシです。


昨晩、ご連絡させて戴きました個人誌・最後の1セット。
本日無事、連絡が付きましてこれで本当に完売でございます。



思えば、今から1年5か月前。
このブログを始めた当初、ワタシはまだ何も解っておりませんでした。
使えるブログの機能と言えば、ただ文字を打ち込んでアップするだけ・・・

アクセス解析も、カウンターも意味が解らず(設置したのは、開設から約半年後。)
画像のアップロードに至っては、開設から丸1年後に漸く理解したような奴なんです。
ただただ、お話しを考えるのが楽しくて。
読みに来てくれる皆様方の、お言葉が嬉しくて。
お話しを考えるしか出来ないから、また更新する。
1年前の自分を振り返ると、そんな感じです(笑)

ワタシも、このブログを開設する前は一閲覧者でした。
ビジネス文書以外、まともに長文など書いた事も、また書こうとも思った事はありませんでした。
ただ、リョウちゃんとカオリンの続きの物語がみたい。
その一心で、書いてるような気がします。


なんだか、気が付いたら。
お絵描きはしてるし、素敵な絵も沢山貰っちゃったりしちゃってるし。
着せ替えという、新たな試みもやっっちゃったり・・・
(これは、ホントに大好きなnase様や、夜更かし様のお陰です。)

結構、インドア派なワタシが。
気が付くとシティハンターを通じて、日本中に沢山のお友達が出来た気分です♪
この度、個人誌をお買い求めくださった方々も、日本全国津々浦々。
今まで宛名を書いた事の無い土地の名前を、書きました。


今回は20部限定という事で、
お問い合わせいただいた全員の方にお買い上げ戴く、とはいきませんで。
数名の方には、非常に申し訳ないのですがお断りをさせて貰ったような状況でした。
完全手作りの素人製本なので、なかなか数が作れないのが欠点です(汗)

それでもまた、纏まった時間が取れる時には、何か作れたらなぁとは考えております。
その時にはまた、皆様方にご報告できたらと思います m(_ _)m

いつもコメントや拍手を戴いて、励みにしております。
・・・・お返事は・・・えぇ~~~と・・・・・(脂汗)頑張ります・・・
何はともあれ、ワタシは更新するのが1番好きなので、更新頑張りますっっ

ああああありがとぉおございまぁぁぁあっす

                 (*´∀`*人●´∀`●)  ケシ
[ 2013/09/04 19:39 ] 個人誌 | TB(0) | CM(0)

#4. それぞれの1年

僚が大怪我をして、教授の家で安静にしていた時から。


香はその事を考え始めていた。
その数ケ月前、美樹と海坊主の結婚式があった奥多摩で。
香は僚から、今までで一番嬉しかった言葉を貰った。
あの時は、本当にこれから一生、僚の相棒として頑張ろうと張り切った。
そして。
その矢先に入った依頼での、失敗。


香は自分の心の何処かに、奢った気持ちが有ったんじゃないかと、自分自身を責めた。


僚が助かったのは、本当にただの幸運で。
これから先、同じような幸運が味方してくれるとは限らない。
僚が深い眠りに就いたベッドの傍らで、香はその事を考えると震えが止まらなかった。
鉄錆のような血の匂いと、強い消毒薬の匂い。
僚の微かな寝息に、安堵しながらも激しく動揺していた。




もしもこの先、
この大きくて温かい命を、
喪う事になったら。


















それは、僚が奥多摩で香に告白してすぐに入った依頼での事だった。


ホンの一瞬の、気の緩みだった。
香に当たると思った弾丸を、咄嗟に庇うようにして自分で受け止めた。
否、僚の読みでは2人して避け切れると判断しての動きだったにも関わらず、
一瞬の判断の迷いが、怪我に繋がった。


柄にも無く、動揺していた。


簡単に言えば、そういう事だ。
僚にとって香は、あまりにも大切過ぎたのかもしれない。
出来る事なら、危ない現場になど連れて行きたくはない。
けれど、相棒として考えた場合、誰よりも信頼のおける相手は、他でも無い香だった。
自分が守り切れば良い、そう思っていた。


けれど、僚は解っていなかったのだ。
怪我をしたのがたとえ自分でも、香はどうしたって気に病むのだ。
どう転んでも、香が自分自身を責めるのならば、
2人して無傷であるべきだったのだ。
僚が思っている以上に、僚の体にこれ以上傷が増えてゆく事に、香は心を痛めていたらしい。
それでも尚、僚は思う。





あの時、
怪我を負ったのが自分で良かった。
あの柔らかで温かな命を、
喪う事がなくて、本当に。















出て行くと決めるまでの数週間、香は色々と考えた。




何を持って出る?
何処に行く?
これから先、どうやって生きてく?

考えても何も解らなかったけど。
香は絵梨子を頼った。
絵梨子も香を歓迎してくれた。
深い事は何も追求しなかったけれど、香の意志の固さは理解してくれたようだった。


仕事は、絵梨子が自分のオフィスで手伝うようにと、世話してくれた。
絵梨子曰く、

ホントは、モデルをして欲しいんだけど?

との事だったけど、それだけは何としても断った。
目立つ事だけは避けたかった。
僚の相棒としての6年間で、これでも少しは裏の世界に顔が割れている。
僚の元を離れた香には、自分自身を守る事すら不可能だから、
自分から危険を増やすような事は出来ない。


初めのひと月は絵梨子のマンションに居候した。
衣類はホンの少しだけしか持って出なかったけど、
絵梨子と居る限り、着替えには困らなかった。
初めて貰ったお給料と、少しだけ持っていた香自身のへそくりで次の月には、
アパートを探して来て、独り暮らしを始めた。
絵梨子はずっと居てもイイよ、と言ってくれたけど香は自分の力でやって行きたかった。
僚を思い出さない日は無かったけど、自分の力で働いてお給料を貰う事に、
少しづつ、やり甲斐も感じ始めていた。



そして、僚の元から離れて3ヶ月目に、大きな節目を迎えた。

その人は、絵梨子とは古い知り合いのメイクアップアーティストだった。
絵梨子のショーでも活躍する彼は、
香は全く覚えていなかったけれど、あの例のクリスマスの水着ショーの時、
香のメイクもやってくれたらしい。
たまたま、絵梨子のオフィスで彼と再会して、そして。
アシスタントに誘われた。


香はその話しをじっくり考えて、OKした。
彼の元でメイクを学び、それを自分のものに出来れば、
これから先、自分一人でも生きて行ける。
そう思ったから。
















香が出て行ってからの足取りを追う事は、容易かった。
絵梨子の元に転がり込んだ香の事は、絵梨子からも連絡を貰った。
けれどその時の絵梨子の様子は、これまでとは明らかに違った。
そして僚は、そんな絵梨子の言葉に頷いた。


今回だけは何も訊かないで、香の気持ちを汲んであげて?


そう言った絵梨子に、僚は何も言えなかった。
だから。
絵梨子にも香にも言わず、陰からそっと香を見守った。
少しづつ、僚の見た事の無い服に身を包み、化粧をして、踵の高い靴を履いてゆく香が。
僚には、途轍もなく眩しく見えた。
もしも香が、自分と関わっていなければ。
香はもっと早くに、あんな風に普通の女でいられたかもしれない。
そう思う事は、僚の胸を激しく締め付けた。
香の幸せを考えた時、それはいつだって僚の頭の片隅にチラついていた事だから。
けれど、離れる事が出来なかったからこそ、あの6年間があったのだ。
それすらも、まるで否定されたかのような現実に、
僚は正直、今までのどんな怪我や災難以上に堪えた。



絵梨子の元に居候してひと月後、香は引っ越しした。
絵梨子のマンションとは違って、古いアパートだった。
香を見詰め続ける事は僚にとって辛い事だったけれど、
そんな住まいに移った香がますます心配で、僚はずっと香を見守った。






僚がふと、香の背中を見送ろうと決心がついたのは、
香が家を出てちょうど、4カ月目の事だった。



絵梨子の会社でずっと働くとばかり思っていた香は、
ある男のアシスタントとして働き始めた。
勿論、僚はその男の事を調べた。
彼は絵梨子が初めてショーを開催した時からの付合いで、
業界内ではなかなか評判のいいヤツだった。

香がアシスタントとして忙しそうに働いている様子を、コッソリと眺めながら。
僚はふと気付いたのだ。





もう、自分の出番は終わったのだと。
最後は決して、納得のゆく形では無かったけれど。
少なくとも香が生き生きと、自分の力で自分の道を見付けた。
槇村を失ってからココに辿り着くまでの6年。
僚にも、葛藤する出来事は沢山あったけど、
こうして無事に、槇村からの依頼は果たせたのではないかと、ふとそう思えたのだ。


香が巣立ってゆくまで、傷一つ負わせる事無く太陽の下に返せた。












それから、
香と僚の人生は、
大きく分岐して、
今に至っている。
何事も無く、平穏に、
メイクアップアーティスト見習いと、
殺し屋の人生は見事に重なる事無く、擦れ違った。



今はまだ・・・



(つづく)



#5. 過去

北原絵梨子は、普段とても忙しい毎日を送っている。


10代の頃の自分は。
こうして将来夢を叶えて、活躍している事など想像だにしていなかった。
そしてあの頃、同級生たちにモテモテで爽やかで明るくてのびのびとしていた親友が、
まさかこれ程までに、初恋を拗らせているなんて。
あの頃には、予想も出来なかった。





正直、納得はいかない。


香ほどの女なら、どんな最高の恋人だって選り好み放題のはずで。
今頃、幸せな家庭の1つも築いていても、不思議は無かった。
けれど彼女の運命は、ヤツとの出逢いに導かれ、気の利かない不器用なヤツのせいで。
香はまんまと、初恋を拗らせた。
それもかなりの重症だ。
不器用で口下手で天邪鬼な彼と、
照れ屋で奥手で意地っ張りの彼女の組み合わせは最悪で。

互いに好きでどうしようもなく雁字搦めなクセに、常軌を逸して擦れ違い続けている。




1年前、香から連絡を貰った時は、いつもの事だろうと呑気に考えていた。
彼らはいつだって、犬も喰わないケンカをするのは日常茶飯事で。
2~3日、彼女が頭を冷やして家に戻ると、
彼も何事も無かったように、いつもの日常に戻る。
そんな2人はもう既に、絵梨子の中では夫婦とどこが違うのだろうと思っていた。


確かに、男女の関係では無かったらしいし、明確な約束があるワケでも無かったらしい。
けれど、何処からどう見ても2人の絆は。
ただの仕事のパートナーという言葉で片付けるには、言葉が足らない。
だから、今回も。
香は一頻り彼の悪口を吐き出して、ケロッとした顔で帰って行くだろうと思っていたのに。
気が付くと、あれからもう1年になる。






ねぇ、香。


ん?


アナタに逢いたがっている人がいるんだけど?


????


デザイナーでね、私達よりも2つ歳下なんだけど。アナタに惚れてるらしいわ。






忙しい中でも、絵梨子はマメに時間をやりくりして香と食事する時間を持つ。
それは香が僚の元に居た頃から、時折続いて来た2人の習慣だけど。
香が僚の元を離れてからは、絵梨子はなるだけその時間を増やすように心掛けている。
本当言うと、香には一緒に自分のマンションで暮らしていて欲しいけど、
(どうせ、部屋は余っているのだ)
香は、どうしても自分でやりたいんだと聞かない。
この数ケ月、香のアシスタント修行も板に付いて来たらしい。
香のボスである絵梨子の友人は、香にはまずまずセンスがあると認めていた。


ココの所、お互いに忙しくて香の様子が気に掛かっていた絵梨子だけど。
香が意外にも生き生きして、楽しそうだったから、
カマを掛けてみたのだ。
勿論、香に惚れている男と言うのは、実在の人物だ。
けれど、絵梨子はそんなに簡単には、親友を紹介したりはしないのだ。
絵梨子の審美眼は、誰よりも厳しい。
そんじょそこらのオトコでは、絵梨子の御眼鏡には適わない。
今回の新進気鋭のイケメン若手デザイナーは、あくまでも当て馬だ。

それでも、やっぱり。

香の視線の先は、“ヤツ”に向かっているんじゃないかと勘繰ってしまう。
器用にパスタを巻き取っていたフォークが、ピタリと止まる。







ははは、ゴメン。
今は、そういうの興味無いの、覚えたい事ばかりでそれどころじゃないわ。




そう言って、不自然に笑う香に。
絵梨子は思わず、じゃあいつならイイの?と、言いそうになった。
きっと、時期の問題では無いんだろう事ぐらいは、解るつもりだ。
それは、今だからとか、いついつ位ならとか、そういう問題では無くて。
単に、相手が問題なのだ。
相手が、冴羽僚では無いという事が。


それまで、楽し気に仕事の話しをしていた香が、急に黙り込む。
何処か虚ろな表情で、ボンヤリしている。
香の前に置かれた旬の魚介とトマトのクリームソースのパスタは、
フォークに巻き取られるだけで、全く減らない。













まだ、忘れられない? 冴羽さんの事。


・・・・・・・。


ホントはね、言わないでおくつもりだったんだけど・・・。


・・・なぁに?


アナタが、冴羽さんのとこから出て来て暫くは、彼から連絡貰ってたの。


っっ!!!・・・うそ


ホント。香が今、ヘアメイクの仕事をしてるのも知ってるよ。


・・・・・・・い、居場所も


さぁ?そこまでは、私も知らないけど・・・でも、ホントに良いの?


何が???










香は本当に、素で何の事か解らないとでも言いたげに首を傾げる。
確かに香が、恋愛沙汰に疎すぎるのは否めない。
もしももう少し、香の勘が良かったら。
これ程までに拗れる事も無かったかもしれないと、絵梨子は思わず苦笑する。
ここまで来ると、どちらが悪いのかなんて簡単には言い切れない。
絵梨子の願う事は、単純に。
親友の幸せだ。
香が心から、自分の気持ちを一番に尊重して、未来と向き合う事。
ただそれだけだ。






このまま、冴羽さんとの6年間を過去に変えても。






その絵梨子の言葉に、香は一瞬だけ表情を曇らせた。
苦しげに歪んだ綺麗な形の眉毛だけが、香の本心のように見えた。
香は俯いて、小さく1つ息を吸い込んだ。

次に顔を上げた時には、香はもう笑顔だった。








過去に変えるも何も。もう、過去の事よ。








香はまるで、
メイクアップのデモンストレイションのモデルのように、綺麗な笑顔を作った。
それでもそれは、何処か香の気持ちを押し殺した表情だった。
昔の香は。
怒って泣いて笑って、忙しそうなほど沢山の表情を持っていた。
僚の愚痴を溢す時の香は、愚痴りながらも幸せそうだった。
いつから香は。
こんな風に、自分を殺して生きているんだろうと絵梨子は悲しくなった。


前みたいに、絵梨子が香を笑わせてあげられたら、どんなに良いか。
それでもそれは、どうやら絵梨子の役目では無いらしい。






絵梨子は、2人をこのまま別れさせるつもりなど、毛頭無い。


(つづく)

nase様に挿絵戴きました。

おはこんばんちわ、ケシです。



この度、nase様より当ブログのパラレルのお話しに、挿絵を戴きました

元々は、nase様のサイトの方にリクエストが来まして、
ワタシが以前に書いた『あぶく』というお話しのラストシーンを、
絵にして欲しいという事だったので、描いて戴いたモノです(嬉)

nase様のサイトにはコチラから行ってみて下され→ Live an easy life


御絵はコチラから
↓↓↓↓↓
[ 2013/09/07 05:27 ] GIFT | TB(0) | CM(0)

#6. 心の奥

この1年、香は6人の男性に交際を申し込まれた。






エリ・キタハラの専属モデル、28歳のイケメン。
仕事の繋がりで知り合った男性誌の編集長、34歳。
電車内の落し物を届けたのが縁で知り合ったビジネスマン(外資系商社勤務)、32歳。
よく行く近所のスーパーでアルバイトをしている、売れない劇団員26歳。
絵梨子の行きつけのカフェのパティシエ(有名人らしい)、38歳。
これまた仕事の繋がりで知り合ったバツイチのカメラマン、41歳。





恋をする機会は幾らでもあったのかもしれない。
昼間も、絵梨子の知り合いのデザイナーを紹介しようかと言われたけれど。
まるで脊髄反射のごとき速さで、お断りした。



これから先、本当に自分の人生を生きて行くつもりなら。
どうして、他人に目が向かないのだろう。



今の香は、仕事をするか、絵梨子と逢っている以外は。
精神的には、限り無く引き籠りに近い。
だから、どうしてこんな自分の事を気に入って声を掛けて来る男性がいるのかも謎だし、
その気持ちに応えられるような自分で無い事だけは、香にはハッキリと断言できる。



昼間、ごくごく久し振りに彼の名前を聞いた。



久し振りに聞いた僚の名前に、香の心は煩いほどざわついた。
もう1年も経つのに、香の僚に関する記憶や心の琴線は、非常に生々しく存在する。
普段は心のずっと奥底に仕舞っている筈なのに。
フトしたはずみに、それは香の制御を超えて勝手に溢れ出す。
潜り込んだ布団の中で、香の頬に雫が伝う。


明日はまた、朝からお仕事なのに。
ダメだ、目が腫れちゃう。


そう言い聞かせても、香の頬に涙が伝い続けた。










数日後。
その日は、渋谷のスタジオでファッション誌のグラビア撮影が行われていた。
香の主な仕事は、人気モデルのメイクを手掛けるボスの補佐役。
道具の段取りから、モデルたちがリラックスできるようにメイクルームを整える事まで。
普段、几帳面に身の回りの物事に気配りが出来る香にとっては、
取り立てて難しい仕事でも無い。
むしろその気配りの細やかさに、彼女の上司はいつも感心している。






ねぇ、香ちゃん。今日のお昼、外に行かない?




そう声を掛けられて、香が腕時計を確認するともうじき正午を回る所だった。
恐らくは、いま撮影している秋冬物のファーコートと、
ツイードのワンピースのコーディネイトを撮り終えると、一旦休憩を挟むだろう。
モデルのリフレッシュを兼ねて、2時間ほどは撮影がストップするだろう。
香は自分の大きめのトートバッグの中に、お弁当を持参しているけれど。
にこやかに笑って、頷いた。








ごめんね、お弁当持って来てたんでしょ?




そう言って、香のボスであるメイクアップアーティストの彼が、眉尻を下げる。
彼は極端に短い頭髪を、緑色に染めていて。
右の耳に1つだけ、小さなプラチナのピアスを着けている。
彼に連れられて入ったスペイン料理屋で、
2人の間には、パエリヤと生ハムのサラダが置かれ、
それぞれにガスパチョが運ばれて来た。




ははは、大丈夫です。お弁当は、夜ご飯に食べるので。



香は大抵、昼は弁当を持参する。
ただ単なる節約の一環だけど、ボスはいつも香のお弁当を覗き込んで感心する。
その度に香は恥ずかしくなる。
ただの晩ご飯の残りなのにと。
1人の食卓では、どんなに1人分を作っても、おかずは余りがちだ。



香は、コクのあるトマト味の冷たいスープを飲んで、ふと無意識に。
僚にも飲ませてあげたいな、と思って我に返った。



時々こうして、ついつい無自覚に自分自身を傷付けてしまう。
僚とは、6年間一緒に暮らしていて。
離れてからまだ、1年なのだ。
そんなに簡単には、これまで染み込んだ習慣は拭えない。
香は美味しいモノや、珍しいモノを食べた時。
無意識に、僚にも食べさせてあげたいと思ってしまう。







ねぇ、香ちゃん。




香がそんな感傷的な気分を、頭から追い払おうと考えている時に、
ボスが切り出した。





はい。


アナタこの先、このお仕事続けていく気はある?


え??




唐突な彼の質問に、きっと香は複雑な表情をしているだろうという自覚があった。
彼は微妙な笑顔を張り付けながら、続きを切り出す。





あのね、香ちゃんね。センスはあると思うのよ?
仕事の呑み込みも早いし、なにより。
人対人の仕事でしょ?人を惹き付ける魅力も才能の1つだし。
でもね・・・




いつに無く真剣なボスの言葉と雰囲気に、香は食事の手を止めて真剣に聞き入る。




なんだかね、今の香ちゃんには。
自分自身の心を縛る大きな枷みたいなものがあるように、私には見えるのよ。
何かに心を動かされたり、
心の底からの感情が何処かに行っちゃったみたいに見えるっていうか・・・
それはね、このお仕事を続けていく上で、
大きなストレスを抱える事になるんじゃ無いのかなぁって。




真剣な目でそう言った後に、彼は人の良さそうな笑みを浮かべた。




ごめんね、知ったような事言って。
それこそ、アナタの心の中に踏み込むような事だって事は、重々承知なんだけど。









香は気が付くと。
そのオシャレな雰囲気のスペイン料理屋で。
優しくて世話好きなボスの目の前で。
多分、僚の元から離れて初めて。
人目も憚らず、泣いた。


香はきっと、1ミリも僚の事を忘れる事など出来ないでいる。


(つづく)


#7. 目覚まし

絵梨子がそこを訪れるのは、どれくらい振りだっただろうか。
香が出て行ってからも、1年が経過しているのでそれ以上である事は間違いない。



絵梨子がインターホンを鳴らしてから、随分遅れて玄関の扉を開けた彼は。
どう見ても寝起きでボサボサの寝グセ頭で、
アルコールの抜け切らない浮腫んだヒゲ面で、
上半身裸に、スウェットのパンツだけ穿いた香の想い人であった。
流石にもう起きているだろうと絵梨子が訊ねた時間は、14:00を過ぎていた。


お久し振り。


そう言った絵梨子に、彼にしては珍しく驚きを素直に表情に表した。











家の中は、絵梨子が想像していたよりはひどくは無かった。
香が居た頃よりも、確かに生活感は無かったけれどひどく散らかしているという事も無かった。
ただ、この家で彼が生活しているという空気は一切感じなかった。
絵梨子をリビングに通して、待っててと言って消えた僚は。
暫くすると、ジーンズに白いTシャツを身に着けて戻って来た。
髪の毛は一応、整えられてはいたけれど、無精ヒゲはそのままだった。
そのせいか、絵梨子には少しだけ。
僚がやつれたように見えた。
けれど、これはきっと事情を知っている者の先入観も加味されているだろう。
現に、上半身裸で玄関に出て来た僚は、相変わらずマッチョに変わりは無かった。




ゴメン、絵梨子さんが飲めそうなモノ、これしか無くて。



そう言って僚が出してくれたのは、500mlのミネラルウォーターのペットボトルだった。
後は、酒しかねぇ。と言って、自嘲気味に笑う僚に。
絵梨子もまた、微妙な表情で頷くしかなかった。
ずっと以前。
香がこの家に居た頃は、たまに絵梨子が遊びに来ると。
香はいつも、薫り高いコーヒーを淹れてくれた。
あの時は僚も、香と絵梨子には無関心を装いながら、
少し離れた場所で同じコーヒーを飲んで、新聞を読んでいた。
この目の前の、数奇な運命を背負った彼は。
あの頃が一番幸せそうに見えた。
今の僚は、専ら水と酒しか飲んでいないようだけど。
香もまた、何故だかこの1年、コーヒーは頑なに飲まない。
もしかすると2人にとって、コーヒーは何か特別なモノなのかもしれない。









香が居た頃と、随分雰囲気が変わったのね。





絵梨子がリビングを見回して、呟く。
それは別に、皮肉でも嫌味でも何でも無く、素直な感想だ。
僚は自分用にも持って来たヴォルビックを、ひと口飲んだ。




・・・アイツに、   何かあったの?



慎重にそう言った僚の言葉は、少しだけ緊張を含んでいて。
僚は絵梨子にそれを悟られなかったか、少しだけ気になった。
そんな意外と臆病でナイーブな殺し屋の内面を、知ってか知らずか。
絵梨子の口調は、至って淡々としている。






別に、何も。・・・ただ、


ただ?


香に近付きたい男なら、わんさか居るわね。香自身は、相変わらずだけど。






久し振りに聞く彼女の近況に、僚の心がザワザワと波立つ。
数ケ月前、最後に香を見た時の。
自分の元に居た頃とは違う、
化粧をして女らしい服に身を包み華奢な靴を履いた彼女を思い出す。
相変わらずとは、どういう意味だろう。
相変わらず無防備で。
相変わらず人懐こくて。
相変わらず周りのオトコを魅了しているという事か。

相変わらず、
自分一筋で、
他のオトコになど目もくれて無かったら、イイのに。

僚は思わず、そんな未練がましい自分に苦笑する。
そんな僚の思考回路の何処までを、絵梨子が見透かしているのか知らないけれど。
絵梨子の視線に、少しだけ憐れみを感じるのは、僚の思い過ごしでは無い筈だ。
僚は軽く咳払いをすると、少しだけ強がってみる。






まぁ、イイんじゃねぇの? アイツも、オトコの1人や2人いねぇとな、イイ歳だし。


・・・ふ~~ん、それで良いんだ? 冴羽さん。


・・・お、俺にゃもう、関係ねぇし。


本当に???


何が言いたいワケ?・・・そもそも。





絵梨子の少しだけ、
人の恋路を面白がるような雰囲気に(もっともこれは、今に始まった事でも無いが)、
僚は眉根を寄せる。
自分の周りにも、彼女の周りにも。
良く言えば世話好き、悪く言えばお節介な友人ばっかりだ。





捨てられたのは、俺の方だし。





思いの外、情けない台詞が口を吐いて出た。
でもそれが、僚の素直な感想なのだ。
保護者役はもう終わったとか、
槇村の依頼は果たせたとか、
そもそも棲む世界が違うとか、
下らない言い訳で、自分自身を慰めてきたけれど。
結局、僚は。

早い話しが、傷付いているのかもしれない。
この世で一番好きな女に、出て行かれて。

それに香は。
もう既に、新しい世界で新しい相方を見付けているじゃないかと。





アイツには、もう新しい仕事仲間がいるじゃん。




そう言って乾いた笑いを、僚が煙草の煙と一緒に小さく漏らす。
細心の注意を払って強がって見せる僚が、それでも拗ねている様に絵梨子には見える。
絵梨子がその部屋を訪れて漸く、僚の本心を垣間見たような気がした。
そう思うと、絵梨子は思わず吹き出してしまう。
いい歳をした男と女が、自分の気持ちすら上手に伝えられなくて、
1年間も擦れ違っているという事に。











なに?冴羽さん、妬いてんの?


はあ゛???妬いてねぇしっっ、ぶわっかじゃねぇ~~~の?





顔を真っ赤にして動揺する僚は、妬いてます。と言っているのと、同義だ。
絵梨子はもう既に、クスクスと笑い転げている。
一頻り笑って、真剣な表情で僚に向き直る。















冴羽さん、馬鹿はアナタよ。
1つ教えてあげるケド、香の仕事仲間の彼は、筋金入りのゲイなの。
私がみすみす、香をアナタ以外のオトコの元へ行かせると思う?







へ???




まぁ、もっとも香が愛してる男なら、別にアナタじゃなくてもイイんだけど???
おあいにく様、香に必要なのは今も昔も、アナタだけみたいなの。残念ながら。








僚はゆっくりと、絵梨子の言葉の意味を反芻する。
ここ最近の、アルコールでふやけた頭ではその言葉と、現実が上手く繋がらない。
さっきまで、妙に未練がましい気持ちが沸いたりしていたクセに。
今の香が、どんな風に生きているんだろうと、
リアルに想像すると、喉の奥に何かがつっかえたように、言葉が上手く纏まらない。
僚は手に握ったミネラルウォーターのボトルで、一気に喉を潤す。
それでも声が掠れていたのは、きっと動揺の表れだ。








・・・アイツ、  幸せ・・じゃねぇのか?




絵梨子はそんな僚の様子を、一部始終観察しながら。
もう今では、確信している。
間違いなく、僚も。
香を必要としているし、2人はこのまま別れるべきでは無いと。





さぁ?そればっかりは、香本人にしか解らないんじゃないの?
気になるなら、





アナタが直接、訊くべきよ。香に。















絵梨子が帰った後。
僚は缶ビール片手に、寝室のベッドに寝転がった。
確かに、あの男がゲイだと聞いて。
僚は妙に腑に落ちるモノを感じた。


香が絵梨子の元から離れて、あの男の元でメイクを学び始めた時。
僚は少なからず、彼と香の関係を勘繰った。
コッソリと陰ながら見守る僚の目に映ったのは、妙に親密な2人の雰囲気だった。
改めて彼がアチラの組合の方だと言われれば、それ以外の何者でも無いんだけど。
やはり、当時の僚は何処か普通では無かったのかもしれない。
突然、何の前触れも無く香に出て行かれて、
自分が思っている以上に、動揺していたのかもしれない。
気付かなかった。


冴羽僚、一生の不覚である。


という事は、なにか。

香と彼は、一見、男女カプに見えて。
その実、絵梨子×香と同じという事か・・・








んだよっっ、・・・アイツ、ゲイかよっっ!!



僚の中で、妙な安堵感と同時に、沸々と苛立ちが沸き起こる。
僚は香が堅気のオトコと幸せになれるならと、手放す覚悟を決めたのだ。
ココまでが、冴羽僚の限界だった。
何かが、僚の中で吹っ切れた。






じゃあさ、別に遠慮とかする必要無くない????





誰に言うともなく、僚はたった一人のベッドルームで呟いた。
誰も知らないけれど。






僚の枕元の目覚まし時計は、電池の寿命を迎え、
この日の明け方、5:23で止まっていた。



(つづく)


#8. I’m Believe・・・

良く晴れた午後で、午前中に干した布団はイイ感じにフカフカになっている。




ここ最近、忙しくて全く休みが取れなかった。
久し振りに3日間の纏まった休みを、ボスがくれた。
その初日からイイ天気で、香は朝から部屋の掃除や洗濯を片付けた。
今の香の住まいは小さな4階建てのアパートの、3階の角部屋だ。
1人で住むには十分な広さだけど、こうやって布団を干す時には。
香はいつも、あの新宿の、無駄に広い屋上を思い出す。
3日も休みを貰っても、香にはこの小さな我が家を片付けたら、もう予定は無い。
























こんなに天気の良い昼間に、街の中を歩くのは僚にとって本当に久し振りの事だった。





そこは意外と、新宿からもそう遠くは無い。
比較的交通の便は良いけれど、家賃の相場はさほど高く無くて。
近くに親しみやすい商店街がある。
この街に来たのは、8か月振りだった。
香は節約しながら豊かに生きる術を心得た女で、
この街を初めての独り暮らしの場所に選んだのが、香らしくて。
僚は何となくこの街の雰囲気は、好きだ。




ヒゲは剃った。
酒は3日前から、飲んでない。
あの絵梨子が訊ねて来た日に、目覚まし時計が止まっていた。
僚は昨日電池を買って来て、今朝は7:00に起きた。
キッチンに溜まったビールの空き缶を捨てて、


この街にやって来た。香を連れて帰る為に。















玄関のチャイムが鳴った時、香はベランダに出て布団を取り込んでいる最中だった。




この部屋のチャイムが鳴った事が、
これまであっただろうかと、香は少しだけ不思議に思う。
綺麗に拭き掃除をして、つやつやのフローリングの上に。
取敢えず、取り込んだ布団を置いて玄関に出てみる。








その部屋のグリーンのペンキが塗られたスチールのドアを、
僚は数ケ月前に、何度も見詰めていた。


そのドアを一枚隔てた向こう側にいる彼女が、
ほんの少し前までは、一番身近な存在だった筈なのに。
その扉はまるで、自分の世界と彼女の世界を隔てる深くて大きな谷底のようだった。
これまで怖い物など無かったけれど。
数ケ月前の僚には、どうしてもその谷を渡る勇気が無かった。


そのチャイムを、今日初めて押した。














どちら様ですかぁ?と言いながら、ドアを開けた香は。

化粧気の無いすっぴんで、色気の無いTシャツにショートパンツを穿いていて。

それはまるで、あの頃の。

2人で暮らしていた頃の、香のままで。

僚の肩からは、余分な力が抜けた。










・・・・・っっ!!!



なぁに、アホ面して突っ立ってんの?おまぁ(笑)





久し振りに逢った香は、目を真ん丸に見開いて、ポカンと呆けていた。
物陰からコッソリと見詰めていた時の、
一分の隙も無いモデルのような香とは別人だった。

でも。
僚は知っている。
これがホントの香で、僚の愛した唯一無二の女だ。








・・・・なんで?


あ?


なんで、ここにりょおが・・・いるの?







香の声は涙声で、小さく頼りなく震えていた。
久し振りに香の口から、自分の名前を聴いて。
僚の胸の奥がキュウッと音を立てて、軋んだ。









なんでってそら、おまぁ。






いつもの呑気な口調とは裏腹に、僚は妙に真剣な表情で。
香は目が離せなかった。











お前の事、迎えに来たのに決まってんじゃん。


・・・は?


なぁ、香。もう一回、俺と一緒に暮らそう。


















もしかしたら香は、こうなる事を心の何処かで待っていたのかもしれない。
自分から僚の元を去っておきながら、あれから他の誰の事にも興味は湧かなかった。
夕方のスーパーで、僚がよく飲んでいたビールを見る度に僚の事を思い出した。
街中でふと、他人の煙草の匂いが流れて来ると、
僚を思い出して、そこから先に一歩も進めなかった。
夏には僚と一緒に屋上でやった花火を思い出して、
小さなベランダで独り、線香花火をやったし。
冬になると、僚がちゃんと衣替えをして寒い思いをしていないかが気になった。

離れていても、香の心の中にはちゃんと僚が居たし、僚しか居なかった。










・・わ、私。・・・何も言わずに・・僚の事・・りょおの事、置いてったのに



あぁ、リョウちゃん、正直傷付いちゃった。





香はもう既に泣き声で、
僚は冗談めかせながらも、本音を漏らす。







りょ・・と、一緒に居たらまた私、甘えちゃうし・・・りょおの怪我も・・命も、





香が言葉に詰まる。
全てを言葉にしなくても、僚は香が自分の元を去った訳は知っている。
そして、それら全てを引き受けても。
僚は香とこの先、人生を分かち合いたいのだ。
離れている事ほど、馬鹿らしい事は無い。
















大丈夫、どんな酷い怪我ん時より、おまぁの不在の方が、正直堪えた。
もうね、死ぬ事の次に酷い目に遭ったから。



・・・・・・・。


だからさ。



ん?



責任とってよ?



へ???



俺が死ぬまで、俺の面倒一生見てよ。



//////////(赤面)












その狭い玄関先で。
僚は漸く香の腕を引き寄せて、抱き締めた。
7年間、焦がれ続けた女を、
もう二度と手放す気は、サラサラ無い。

そして、初めて。
その柔らかな唇に触れた。

ギュッと閉じた香の睫毛の先から、透明の雫が柔らかな頬を伝う。
その涙の味がする頬にも唇を寄せて、柔らかな猫毛に顔を埋める。






お願い、帰って来て?カオリン。





腕の中で香が、コクリと頷いたのを確認して。
僚は香を抱き上げた。
1Kの小さなアパートの、フローリングの上に投げ出された。
お日様の匂いの布団の上に、香を横たえて。
そこから先はもう僚も、よく覚えてはいない。




















グッタリした2人の周りを、オレンジ色の西日が差していた。
気が付くともう夕方で。
久し振りに再会した2人は、色んな事を忘れて恋人同士になった。









ココで、独り暮らししてたんだ、カオリン。


・・・うん。





香の髪を愛おしげに撫でながら、そう言った僚に。
返事をした香の声は、掠れている。






満喫した?独り暮らし。


うん、沢山新鮮だったよ。


そっか。


・・・・でも、淋しかった。






そう言った香の唇を、僚がもう一度塞ぐ。
淋しかったのはお互い様で、

そしてそれはもう、昨日までの過去の出来事だ。




(おわり)












漸く、元のさやに納まりました~~~~~
今回のお話しに、沢山の拍手やコメントを戴いた皆様方っっ
本当にありがとおございまぁぁぁぁああっす❤

今回のカズル様からのリクエストは、

『何らかの理由で一旦パートナーを解消してしまうが、
 やはり香を迎えに来てしまう僚(勿論、ハッピーエンドで)』

との事でした。
今回、初めて2人が離れ離れになるお話しを書いちゃいました。
以前のワタシには、絶対に書けないと頑なに思い込んでいた別離ネタですが。
最終的に、離れられない2人なら。
物理的距離は離れていても、別離では無いんじゃないかと思ったのです。

今までにないほどに、超切ないお話しにも関わらず、
ココまでお付き合いして戴いた全ての皆様方に、改めて感謝申し上げますm(_ _)m

諦めた(TДT)

おはこんばんちわ。ケシです。

久し振りに絵を描こうと、ペンタブを出してみて使ったら。

       違和感バリバリ

というワケで、ペンタブは早々に諦めて・・・
シャーペンお絵描きでっす(*´∀`*)ノシ
[ 2013/09/11 20:50 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

保育園時代の呪縛

おはこんばんちわ、ケシです。

昨夜の更新で、初めてアナログお絵描きをアップしてみたのですが。
久し振りに、シャーペンでお絵描きして、突然思い出した事があったのです。



あれは、遡る事30年弱・・・


ワタシは、保育園児でした。
あの頃のワタシのお絵描きの十八番は、ドラちゃんでした(遠い目)

(因みに、これね↓↓↓↓↓)
ドラちゃん
※ クリックしたら大きくなります

ドラちゃんだけはお手本が無くても描ける位、自信満々で確立したネタでした。
勿論、金曜日の夜7時には毎週欠かさず、テレビも見てました。

そして、保育園児だったケシ子がどうしても描きたかった、ドラちゃんの絵があったのです。
それは、キャラ単体というワケでなく、1つのシーンと言いましょうか。
何故だか、保育園児だったケシ子はその当時。
確固たる描きたい構図というモノを脳裏に思い描いておったのです。


しかしですね、勿論というかなんというか、幼児ですので。
その頭の中の構図まんまを再現など、出来ようはずも無くとっても歯痒い想いをしておりました。
いやね、今ならそんな事当たり前過ぎて、歯痒くも何とも無いのですが・・・
だって、脳内のシーンをまんま具現化出来たら、誰も苦労はしませんから。
けれど、幼児のワタシはそうは思わなかったのですね。
(昨夜、突然に思い出して以来、その感情までありありと思い出せるのですが、)
だって、テレビの中のあの絵を、誰だか知らないけれど描いておる人がおる訳ですよ。
という事は、具現化できる人が絶対いるのに。

ワタシには、それが出来ない・・・・絶望(保育園児)

ワタシには絵が描けないという思いを深めたのは、きっとその頃のことです(遠い目)
それ以来、お絵描きは苦手(テヘ)という信念の元、生きておりましたが。
何の因果か、この数ケ月。
チョロチョロと、落書き紛いのモノを、WEBで公開するという、
なかなかに恥ずかしい事を、しておるのですが(汗)
急に、思い出したのです。
多分、ワタシはあの保育園児の頃は、もっと真摯にお絵描きと向き合っていたと。

(因みに、描きたかった構図はこんな感じ↓↓↓↓↓)
ドラちゃんの世間話
※ クリックしたら大きくなります。

ドラちゃんが、お友達の猫サンと世間話をするの巻。

そして、全くの余談ですが。
アニメの中の、ケンカなどのシーンでよくあるモクモクですが。
(これね↓↓↓↓↓)
ケンカのもくもく
※ クリックしたら大きくなります


その当時は、あのモクモクはどんな風にケンカをしたら現れるのか。
その秘密が知りたくて、お友達同士がケンカをするのをジットリと観察しておりました。
結局、モクモクを視認した事は、未だ嘗て一度もありませんが(笑)





ワタシは、子供時代に。
早々と自分自身にレッテルを貼ってしまったのかもしれません。
自分は絵が描けないと。

そして、何の巡り合わせか、ウン十年後に絵を描いたりして遊んでます(テヘ)

ペンタブを買ってみたのですが、ワタシにはどうやらアナログな方が向いてる気がしてます。
取敢えずは、暫くアナログで原作の模写を練習してみようかと思案中です。
昨日描いた海ちゃんは、海原戦の船の上で海ちゃんが先に行って、
雑魚共をやっつけてる時の、カットです。


見たままを描いただけなので、30分程で描きました。
そして解った事は、自分の絵で構図で絵を描ける絵師様は、やっぱり凄いなという事です。
たくさん練習して、真似っ子じゃ無い、いつか自分の絵が描けたらいいなと思います。



というワケで、昨日の海ちゃんを彩色してみた。

↓↓↓↓↓


[ 2013/09/12 22:15 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

もしゃもしゃ

調子乗って、また描きました。

今日は、RK。
[ 2013/09/13 22:19 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

もしゃもしゃ②

おはこんばんちわ。

模写3枚目。
naseさんのリクエストで、カオリンのとある扉絵です。

何だか、シャーペンで描いた線をスキャンすると薄っっいので、

主線にペンを入れて、影は大丈夫か???と不安になるぐらい濃いめに描いてみました。

・・・ちょうど、良かったです(汗)

同じアナログ絵でも、色々と描き方を研究するのも面白いなと、思いました。




[ 2013/09/14 13:43 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

お題28. 悔しいけれど

僚が受話器を戻した所で、ちょうど香がリビングに入って来た。

先程まで身に着けていなかった、オフホワイトのシンプルなエプロンを着けている。
確かにもうそろそろ、夕飯の支度を始める時間だ。
つい今までの電話の内容を、僚は頭の中でもう一度振り返る。





奥多摩でファルコンと美樹が結婚式を挙げた後、数ケ月を掛けて、
僚と香の関係も少しづつ変わった。
キスはする。
エッチはまだだ。
ここ暫くの僚は、夜のお姉さま方とのクラブ活動とはご無沙汰だ。
別に我慢をしているつもりでも、香が束縛しているワケでも無い。
むしろ香は、突如、夜遊びに興味を示さなくなった僚を訝しんでいる。
ただ単に、面倒なのだ。




夕方前に、日課から戻り、少しだけうたた寝して、夜の早い時間に香に起こされると、
キッチンから良い匂いが漂って来てて。
旨いメシを喰らって、食後のコーヒーで寛ぎ、その間に風呂の湯が準備されている。
それから、わざわざ。
埃っぽいギラギラと脂ぎったネオンの下に出掛けて行くのが。



何をするでも無く、テレビを観て、新聞を読み。
風呂上りの髪の毛を乾かす相棒を見ないフリをしながら、その実。
横目で観察する。
時々、テレビを観ながら小さく笑う、香の真っ白な喉元を見詰める。
それが、幸せ。
そんな事、照れ臭くて誰にも言えないから。
別に誰にいうワケでも無く、この数ケ月、1人心の中でその幸せを満喫していた。
気が付けば、夜遊びなんてしている暇は無かった。
ただそれだけ。






でんわ、誰から?





香が訊ねる。
別に香に、質問以外の他意は無い事は、明白だけれど。
僚は意味も無く動揺する。





んぁ?・・・あ、あぁ。


・・・なにそれ?答えになって無いよ???・・・変なの。






そう言って小さく笑った香に、僚は思わずホッと胸を撫で下ろしかけたけど。
エプロンの紐を結び直しながら、香はもう一度訊ねた。





で?誰から?でんわ。




僚の野生の勘は、常軌を逸脱して野獣並みだから。
それと比較すれば、香の第6勘は鈍いと思われがちだが、
(そして、ある分野に於いては、確かに超絶鈍いケド。)
普通の26歳の女性としては、明らかにその勘は鋭い。
特に、僚が良からぬ事や、何やら隠し事をしている時などは、
特に超能力の域で、その感性を研ぎ澄ます。
こうなると、もはや下手な言い訳は、事を最悪の状況へと導きかねない事は、
僚も長年の経験上、重々心得ている。







ん~~~~?・・・ミック。


何だって? ミック?


ぁああと、・・・ぅん、今夜飲みに行こうって、ねこまんまに。


・・・そう、じゃ、じゃあ夜ご飯、あまり重く無いモノにしようか?






ホンの一瞬だけ。
香の表情に、淋しそうな影が差して。
その後すぐに、パッと明るく笑うと香はそんな事を言った。



ココの所、僚は夜遊びしてないし、
冴羽商事の飲食店に対する買掛金は、今の所、残高ゼロだ。
香的には、僚とミックの付合いに口を出す理由は無い。
もっとも、相棒兼経理担当としてという意味で。

槇村香、個人としての本音は。
夜、僚が遊びに出掛けるのは、淋しい。





僚は勿論、香の細やかな表情を見逃すことなく、
手に取るように、香の心情を想像する。
それと同時に、ミックの言葉に寄って久し振りに思い出した、夜遊びの事をボンヤリと考える。
いつから、飲みに行って無いだろう。
電話口で、ねこまんまのママの誕生日だからと言われて、そう言えばと思い出した。
数週間前にも、キャッツでミックから。
数名のホステスの名前を列挙され、どうして来てくれないのかという伝言を聞かされている。
むしろ、今の僚の心境としては。
どうして行かなければならないのかという感じだが、流石に。



もうそろそろ、顔を出す必要もあるかなとも思う。
僚が夜の街をうろつく理由には、ただのスケベ心を満たすという事の他に。
街中の情報をキャッチするという目的も含まれている。
まして、日頃世話になっているママの誕生日となれば、顔を出した方が得策だと計算する。
僚は香の腕を掴んで抱き寄せる。






いや、腹減ったから、ガッツリ食うよ。




そう言うと、香を両腕の中に囲い込んでキスをする。
まだまだ、触れるだけのホンの子供騙しのキス。
それだけで真っ赤になる香に、僚は目を細める。
本当はもっと、
乱暴に濃厚に本気を出して。

香を抱きたいけれど。

こうして新鮮なリアクションで、無意識かつ無防備に己を煽る相棒を堪能したくて。
僚は自分自身を焦らしている。
そして、焦らせば焦らすほど、その後の事を想像して幸せに浸る。
もうそろそろだと思う。
それが、今夜か今夜かと、毎晩思う。
けれど、その度に。
今日は、タイミング的にな・・・とか。
もっとこう、ベストなお膳立てが必要だし・・・とか、無意味な言い訳をして引き延ばしている。
それすらも、実は楽しいだなんて。
向かいの元相棒に知れたら、恥ずかし過ぎて、その場で舌を噛む自信がある。





じゃあ、今日はハヤシライスとポテトサラダにしようと思ってたけど、予定通りでいい?




真っ赤な顔でそんな事を、真剣に訊ねる香が可愛いので。
僚はもう一度、その唇に触れてからニッコリと頷いた。





怒んないの? 飲みに行っても。


・・・うん、ツケも溜まって無いから・・・イイよ。








りょお、ご飯作らないとだから。と言って、香が僚の腕の中でもぞもぞと動く。
僚の体温に温められて、香の襟足の癖毛から、
ほんのりとシャンプーの匂いが漂う。
2人して同じモノを使うそのシャンプーは、近所の薬局で一番安いヤツだ。
同じはずのその薫りが、何故だか彼女から漂うと、全くの別物になって僚を誘惑する。
香の要求を、聞こえないフリをしてアッサリと流すと、
僚はその柔らかな体を、少しだけ力を込めて抱き締める。
癖毛に顔を埋める。




香は未だ、僚からこんな風に扱われる事に慣れない。
思わず緊張して、身を固くしてしまう。
僚が香をあやすように、熱くて大きな掌で背中を撫ぜる。
まるで犬のようにクンクンと鼻を鳴らして、髪の毛の匂いを嗅ぐ。
香は正直、気が気でない。
お風呂に入って髪の毛を洗ったのは、昨夜の事で。
後数時間で、丸一日が経つのに。
そんな風に、匂いを嗅がれるなんて恥ずかしい、しかも好きな男に。




穏やかな動きから突然、僚が再び香に口付る。
今度は、骨ごと融かすような、初めての、濃厚な。
キス。
戸惑う香の口内を隈なく蹂躙する、厚みのある僚の舌は、煙草とコーヒーの味だ。
少しだけ力の抜けた香の躰を片手で支えながら、初めての本気のキスを続ける。




数分間の長い口付を終えた時、香は無意識に僚の胸板に柔らかく凭れる。
乱れた呼吸で激しく上下する胸元の膨らみを見ながら、
桜色に色づいた耳たぶに、口を寄せて囁く。






なるべく、早く帰るから。




香はコクンと頷く。
幸せ。
そうやって、言葉を貰うだけでこれ程までに幸せな気持ちになる事を、
香は初めて知った。










暫くの抱擁の後、ハッと我に返って時計を見た香は、キッチンに戻った。
クリームイエローの甘やかなモヘアのニットに、レンガ色のタイトなスキニーパンツ。
その上に付けた、清潔なエプロン。
リビングを後にする香の後ろ姿を見ながら、僚はメロメロだなと苦笑する。
出掛ける前から、早く帰りたい。
なんなら、行きたくない。
簡単にお祝いだけ言って、適当に切り上げようと脳内でイメージする。
もっとも面倒臭いのは、金髪の元相棒の堕天使だけだ。

まぁ、それに関しては、最悪。
自分と香の事について、ハッキリと惚気てやれば良いかと開き直る。
香とイチャイチャしたいから、帰るわ。
そう言ってやるのが、もっとも端的にミックにダメージを与えるはずだ。








悔しいけれど僚は、今。

自分の人生に於いて予定外の、恋をしている。
それは不意に訪れて、長い年月の中で僚の命よりも大切な愛へと変化した。
わざわざ言葉にするのは安っぽいから、誰にも言わないけれど。
僚は香を愛している。
もしも香が死んだら、自分も死ぬだろうし。
香に死ねと言われたら、喜んでこの首を差し出す。
香が白いモノを黒だと言えば、僚も黒だと思うだろう。
香がこの世にいる限り、他の女になど興味は無いし。
香の全てが、欲しい。



もしも、今夜。
僚が遊び疲れて帰って来て、
香が起きて待っていてくれたら、その時は。



香を寝室へと連れ込んで、その全てを抱き締めようと、僚は突然そう思った。












自分、イチャラブスキーなので(汗)
[ 2013/09/14 17:52 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題50. 逆ギレ

今にして思えば、その夜は。
初めから、僚の機嫌は最悪だった。



事の発端は、僚の度重なるミック・エンジェル・オフィスへの発砲が原因だった。
否、更にその原因を辿れば、ミックの度重なる香へのストーキング行為が原因とも言える。


いずれにせよ、この所のミック家の壁の老朽化を懸念したかずえが、
リフォーム業者に壁の補修を依頼したのだ。
そのついでと言えばついでだが、リフォームの範囲は当初予定よりも拡大し、
関係の無い水回り方面まで、手を入れる事になった。
(勿論、費用はミック持ちだ。)
その間、かずえは教授の家に仕事がてら泊まり込んでいる。
片や、そもそもの老朽化の原因を招いたミックには、
罰として放置プレイというお仕置きが、続いている。




1日中、工事の音が煩くて仕事が捗らないんだよ~~~


なんて言いながら、香に甘えるのが目的で冴羽家にやって来たミックの言葉を真に受けて。
香は、工事が終わるまで、ウチにおいでよ。と、答えたのだ。
香曰く、壁に穴を開けたのは僚だから・・・という事だが。
僚に言わせれば、穴を開けるような原因を作ったのは、ミックである。


第3者に言わせれば、どっちもどっちだが。
香がこう言いだしたら、たとえ僚が大反対しても、
ミックが冴羽家へ転がり込むのは免れない。



というワケで、この日の午後からミックは冴羽家にいる。
リビングのテーブルの上に、ノートPCを広げ何やら記事を書いている。
僚は面白くないので、ミックが自宅に戻るまで家出してやろうかとも思ったけど。
よくよく考えたらそれは、
その間この家の中で、香とヤツを2人っきりにさせるようなモノなので、
思い直した僚はミックに嫌味を言いながら、リビングに居てミックを監視している。
そしてそんな2人を見て、香は。


2人とも、ほんと仲良しさんねぇ~~


と、見当違いの言葉を掛けたりする。
僚がどんなに、違うからっっ!!と反論しても、どうやら香の中では、
“僚とミックは仲良し”というフィルターが完全にかかっている。
この半日で、僚はもう既に諦めモードに突入していた。


夕飯を囲むテーブルでは、いつもとなんら変わらない香の肉じゃがを、
ミックは、大げさに褒めちぎり。
何も言わずに黙々とメシを喰う僚に、感謝が足りないと説教まで垂れる始末だった。
僚の1日の中で、1番の至福のひと時である食後のコーヒータイムでさえ、
ミックが香に、コーヒーにまつわる薀蓄を披露して、香がバカ正直に感心するという、
胸糞悪い猿芝居を、見せつけられた。




だから、そのパンツにまつわるエトセトラは。
僚の怒りが、頂点に達した瞬間だったに過ぎないのだ。










ミック、下着の着替え、もし良かったらこれ使って?りょおのだけど、新品だから。







そう言って、風呂場に行く前のミックに、
バスタオルと僚のパジャマと、もう1つ香が手渡したのは。
先日、2人で新しい秋冬物の衣料品を買い出しに行った時に、
香が選んだボクサーパンツだ。
赤と黒の大きめのギンガムチェックに、黒い幅広のウエストゴム。



僚が、ちょっと可愛過ぎねぇ?と言ったら、香は。
少しだけ、頬を染めて。
でも、りょおに似合うと思うよ?と言ったのに。
その後、僚が香の耳元で。
俺が穿いてるとこ、見てみたい?と囁いたら。
小さく、馬鹿っっと言いながらも、コクリと頷いて見せたのに。



そんな、パンツを。
香はアッサリと、この目の前の変態ストーカー男に貸してやろうというのだ。
まだ、僚が1度も穿いていないのに。
(否、1度でも穿いたヤツを貸すのも、何だか気持ち悪いケド・・・)
だから僚が、その香とミックの遣り取りに、待ったを掛けるのも当然の結果だった。


















いやいやいやいや、ちょおっと待てっっ、香っっ



こうして僚の逆ギレによる、この晩のパンツ争奪戦の火蓋が幕を切って落とされた。
香は、それまで不機嫌そうに黙りこくっていた恋人の、突然の剣幕に。
少し訝しげに、首を傾げている。





なに?りょお。


なななな、何っておまぁっっ、そのパンツ。


良いでしょ?貸してあげる位。


ダメ!! ずぅぇえったいにっっ、駄目。


どうしたの?急に??? いつも、パンツなんか何だって良いって言うクセに・・・







この2人の遣り取りに、ミックは何かを覚ってニヤリとほくそ笑む。
相変わらず、僚の狭量な嫉妬など、香は微塵も気が付く事は無い。
同じ女神に想いを寄せる男として、
ミックには、僚がこのパンツに執着する理由が薄っすらと解る気もする。
きっと、何だかんだ言って。
香が僚の為に選んだこのパンツは、僚のお気に入りなのだ。
ミックの白い歯が、きらりと蛍光灯の光を反射した。





わぁお、このパンツ。カオリが選んだの???超キュートっっ


あはは、ゴメンね。なんか、子供っぽくて・・・


Oh,そんな事無いさ、カオリ。嬉しいよ。





そんな事を言いながら、香にウィンクを寄越すミックに、
僚のイラツキはますます加速する。







あぁ゛??テメっっ、勘違いすんじゃねぇぞっっ
誰がいつ、テメェの為にそれを選んだっつ~~んだよっ
そらぁ、俺のだっての!!



なに、熱くなってんのさ、リョウ。そんな事解ってるさ♫  悪いね、借りるよ?


貸すかっっ、ヴォケッッ!! こんの色魔がぁっっ

フゴッッ




キチンと借りると言ったミックに対して、暴言を吐く僚の後頭部に。
小さめサイズのハンマーがめり込む。





・・・そんな大人げない事言ってんじゃ無いわよ、僚。
元はと言えば、アンタが後先考えずに発砲するからでしょ?
パンツぐらい貸してあげないと、今度は私が美樹さんとこに家出するから。



えぇぇぇええ~~~、何その展開???(涙目)



嫌なら、パンツ貸してあげなよ。



・・・・・・、それはヤダ。



いい加減にしろっっドゴッッ










この後、もう3周ほど同じ遣り取りを繰り返し、
流石に呆れ果てた香は、勝手にしろと2人を放置して早々と客間に引き上げた。
その後、逆上した僚がリビングでも立て続けに発砲し、
翌朝、香からこってりとお説教された上に、簀巻きにされた事は言うまでも無い。









・・・・・・。
[ 2013/09/16 18:22 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

nase様より、戴きました。

おはこんばんちわ、ケシです。



Live an easy life の、nase様より、

当ブログのイメージの、カオリンとリョウちゃんの御絵を戴きましたぁ(*´∀`*)ノうわぁい


覚悟はイイですか???激甘ですぜっっ


↓↓↓↓↓

[ 2013/09/17 21:00 ] GIFT | TB(0) | CM(0)

描いてみた

リョウちゃんが一番難しい気がします。
[ 2013/09/18 22:16 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

お題90. オヤジギャグ

掌に適量より少なめに、シャンプーを取る。
香はショートヘアだからか、癖毛が泡立ちやすいのか、
その量のシャンプーでも充分、事足りる。
相方は、コンディショナーなどという面倒臭いモノは使わない性質なので、
いつも先に減ってしまうのは、シャンプーばかりだ。
詰め替えお徳用サイズ・498円のリーズナブルなシャンプーとコンディショナー、
爽やかなグリーンフローラルの薫りが、冴羽家御用達だ。



それは香が、盛大に泡立ててワシャワシャと髪の毛を洗っている最中だった。



背中をスゥッと撫でる、空気の流れる気配。
浴室のドアが開いた感覚。


こんな時に、こんな所に、わざわざ出没するのは件の相方に違いない。
けれど今、目を開くと間違いなくシャンプーが目に沁みるので、
目を瞑ったまま、不機嫌に声を掛ける。






ちょっとぉっっ!!りょおっ、出てってよっっ


僚と所謂、ただの相棒では無く恋人関係に進展してから、早数ケ月。
昔は散々、男女だの、色気が無いだの、くびれたバストだの、豊満なヒップだの、
貶してきたくせに。
いざ、女扱いしたと思ったら。
新宿の種馬の異名は伊達では無く、昼夜を問わず盛って来る相方は、もはや別人だ。
彼の“モッコリ辞書”にT・P・Oという言葉は、無いらしい。


僚とそんな関係になる前の香は、勿論、処女だった。

なにせ、高校生の時に兄の相棒だった僚と初めて出逢って以来の純愛なのだ。
香の運命は、幸か不幸か。
何からナニまで、相手は規格外のモッコリスケベである。
香とて、イイ歳をした大人である。
大人の男女が、夜な夜な何をするのかぐらいは知っていた。
具体的な事までは、想像の域を出ない世界にあった“目くるめく世界”は、しかし。
想像の範疇を、軽く超えていた。


そもそも、常識として。
そういう事は、秘め事ともいうぐらいだから。
それなりの夜も深い時間になって、ごくごくプライヴェートな寝室で、
お互いの気持ちの高まりを確認したうえで、GOサインが出されるモノでは無いのだろうか?
というのが、香のここ数ケ月の素朴な疑問だ。
香とて、僚とそうやってじゃれ合って、丁寧に愛され、僚に大事に扱われる感覚は嫌いでは無い。
というよりも、むしろ大好きだ。
それでも。
果たして、こんな風に。
煌々と灯りの点った曇り1つ無い浴室や、
ある意味では香の城であるキッチンや、
外出から戻ったばかりの玄関先や、
普段は仕事に使う資料部屋の革張りの事務椅子もしくは机の上や、
薄暗いシャッターを下ろしたガレージで、致す事は果たして普通の事なのだろうか。
なにぶん、経験の浅い香には良く解らない。


僚曰く、“普通に誰でもやってる”事らしいけれど。
誰でもという事は。
向かいのジャーナリストと科学者も。
同業者のカフェオーナー夫妻も、そんな事をしているのだろうか。
香は気にならないと言えば、嘘になるけれど。
そんな事を訊けるほど、天真爛漫でも無い。
それに、少しだけ。
自分の相方が、“普通”で無い事ぐらいは自覚しているつもりだ。
だから、一応。
自分の感覚として“普通”でないと思う時には、抗議してみる事にしている。
もっともそれは、概ね却下される事がデフォルトだけど。
だから、こんな風にシャンプーをしていて目が開けられないという不利な状況下に、
狙い澄ましてやって来る僚は、完全なる確信犯だと思う。










少しだけ苛立ちを含んだ香の声を完全に無視して、僚は何も答えない。
先程からの唯一の気配は、浴室のドアが開いた時に入って来た空気の流れだけで。
ドアを閉める音がした後は、目を瞑った香には一切の気配を感じ取る事が出来ない。
気配を殺す事に関しては、僚はプロ中のプロで。
こんな時に、そんな実力を如何なく発揮する僚はずるいと香は思う。


あまりにも気配がしないので、香は少しだけ怖くなる。


それがもし、僚じゃ無かったら。
それは万が一にも有り得ない事だけど、
香がお風呂に入る前には、僚はリビングで読書をしていたから。
僚がこの家の中に居て、不審者を容易く招き入れる事など絶対に有り得ないケド、
香は返事をしてくれない僚と、なかなか泡が濯げないもどかしさに泣きそうになる。




ねぇ???りょおだよね?返事してよっっ



まるで怖がりの子供のように、香は地団駄を踏みながら半泣きで声を掛ける。
その振動で、柔らかな膨らみがフルフルと揺れる事など微塵も気が付かない。
僚は思わず、ククッと声を立てそうになるのを、必死に我慢する。
そっと香に近付いて、


柔らかなその、お椀を伏せたような綺麗な膨らみを舌先でなぞる。
先端に触れない焦れったい接触を暫く続け、香が短く息を吐いた所で、
歯形が付かない程度に軽く、柔肌を甘噛みする。
そのまま、舌先を滑らせて脇の下を通り、背中をなぞる。
シャワーヘッドを握る香の手が、小刻みに震える。
やわやわと胸の膨らみを堪能しながら、背骨に沿って舐め上げる。
愛撫を続けながら、香の髪の毛に残った泡を確認する。
もうそろそろ、濯ぎは完了だ。







濯ぎを終えて、香が目を開けた時、僚は。
タイル貼りの壁と香の間に居て、目を開けた香の視界に1番に入って来たのは僚だった。
いつの間にか、筋肉質の太い腕が、香の腰にしっかりと巻き付いている。
抗議をしようとした香の吐息を寸前で飲み込むと、いきなり深い口付けを交わす。
こうなるといつだって、ペースは僚の思うままで。
香はいつの間にか、僚に啼かされて、翻弄されて、悦んでしまう。
抗議の言葉など、まぁいいかという気持ちになって、済し崩し的に許してしまう。
結局、香もこの状況に甘んじて、甘美な刺激に身を委ねてしまう。















・・・意地悪。





湯船に張った温めの湯に浸かって、香は小さな声で無駄な抵抗をしてみる。
とは言え、つい先程まで共同作業で快感を高め合い、ヒシと抱き締めあったばかりなので。
その言葉に、説得力は無い。
現に今も、湯船の中で僚の胸板に背中を預ける形で、香はクッタリと脱力している。
僚の腕が香を包み込み、それが深く幸福感を齎している事は抗えない事実だ。
僚は香の癖毛に顔を埋めて、ククッと喉を鳴らして笑う。
乾いて居る時とはまた違った、瑞々しい薫りを深く吸い込みながら香の腕や脚を優しく擦る。






しょうがないじゃん。


何が、しょうがないのよ?


ん~~~?? だってホラ、浴場で欲情しちゃったから。




涼しい顔をして、恥ずかし気も無く、僚は時々オヤジギャグを飛ばす。
レベルはかなり低い、笑えない、むしろ失笑だ。
そんな事を言って、楽しそうにしている僚を見ると香は無性にイラッとする。
しかし。
それをも含め、こんな彼を愛してしまっているから、もうしょうがないとも思う。
僚の肌はすべすべしている。
艶やかな絹のような皮膚の下に、鋼のようなしなやかな筋肉を隠している。
コンディショナーなど使わない見た目より柔らかな黒髪の、毛先の1本ですら愛おしい。






全然、面白くないし。




と言いながら、香は無意識に笑っている。
僚の腕の中で、気が付くと幸せそうにクスクス笑っている香を、
僚はもう一度、ギュッと抱き締める。
口付けを交わして、何度も見詰め合う。
余所のカップルがどんなセックスをしているかなど、香には解らない。
僚が言う事を、真に受けるのもどうかとは思うケド。


まぁ、こういうのも別に良いかな?とも、思えるようになってきた。
こんな風に、
僚が無邪気に自分を求めて、
面白くもないダジャレを言いながら、
幸せそうにしているのなら、
それが、香にとって何よりの幸せだから。






















種馬だから、仕方無いと思うのです。

[ 2013/09/20 19:50 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

もしゃもしゃ5枚目

俺の脳内のカオリンはもっと・・・ぁぅ
[ 2013/09/21 19:38 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

帰れない二人

僚が帰って来ない。






別に朝帰りぐらい、いつもの事で。
取り立てて騒ぐことも無いけれど、こんな秋の夜明け間近の満月の夜は。
僚の
本来の
生き方を
月に暴かれているようで。
香は不安になる。



朝晩、涼しくなって。
少しだけ肌寒くなってきた、この数日。
気が付けばいつからそこに居たのか、忘れそうになる香の薄いコットンのシャツが。
夜露で少しだけ、湿りがちになる。





リビングの掃出し窓を全開にして、ベランダの柵に凭れて表の通りに目を凝らす。







昨夜、僚はいつもとなにも変わらず飲みに出た。
今では、香自身もすっかり顔馴染みになった夜の街に、きっと昨夜の僚は居なかったはず。
理由は無い。
確証も。
けれど、香には何故だか解る気がする。
僚が夜の黒に紛れて、やっている事が。


殺し屋の僚の罪を、香は咎める気は無い。
誰かがやるべき汚れ仕事を、
円滑に回っているように見える世の中の歪を、ただ僚が片付けているだけ。
香の願う事は、ただ。
僚の無事。
僚の幸せ。
願わくば、そんな役回りを僚が引き受けなくても済むようになる事。




空気に秋の匂いが混ざる。
こんな都会の真ん中でも、季節が変わった事は肌で感じる。
もう何度、僚とこの季節を迎えるだろうと、香は指折り数える。
秋の空気に、硝煙の匂いが混ざる。







振り返ると、気配もさせず僚が帰っていた。

















言葉も無く、背中から抱き締めた香のシャツは。
思ったよりも夜露で湿っていた。
一体いつから、そこでそうやって、自分の帰りを待っていたんだろうと、
僚は香の癖毛に顔を埋める。
漸く、帰って来た実感を得る。


僚にとっての、現実の世界は。
ただ香の傍に有るだけで、その他はホンの他愛も無い余興のようなモノだ。




「りょお」「香」



言葉が重なる。
きっと、お互い考える事はひとつで。
それ以上でも以下でも無い。







なぁに?


そっちこそ。


うぅん、何でも無い。









帰って来てくれて、ありがとう。
帰って来られて、良かった。
ただそれだけ。

少しづつ、白み始める夜明けの空を。
2人は何も言わず、見詰める。
太陽と月が同時に佇む、ホンの僅かな時間。
境目の世界。
それは、まるで。

表の通りの街灯が、一斉に消える。

夜中ほど真っ暗でも無く、かと言って街灯無しではまだ仄暗い明け方。
僚は香の首筋に、紅い印を残す。
擽ったそうに首を竦める香の頬に、優しく口付る。









お星様がね、帰って行ったの。


星なんか見えねぇだろ?こんな街中で。


見えるよ、少しぐらいは。






空が明るくなるに連れて、星は見えなくなる。
けれど。
そこに、存在はする。
また夜が来れば、光りはじめる。
夜空が自分なら、星は香だと、僚はそんな柄にも無い事を思い付く。
そんなクサイ事を言うようなキャラじゃ無いので、心にそっと仕舞う。
早くこの夜露に濡れたシャツを脱がせて、
2人の温かいベッドで、
香の華奢な躰を温めたいけれど。



その美し過ぎる夜明けに、2人は時間も忘れて佇んでいる。
きっと、2人だけが存在する世界の外へは、もう2度と帰れない。














『帰れない二人(1973年)』作詞・作曲/井上陽水・忌野清志郎

という曲から、イメージしました。
ワタシが思うカオリンは、そんなに神聖でも純粋でも無く、清濁併せ持った普通の人間で。
だからきっと、好きな人が殺し屋でもそんな事は問題にしないんじゃないかと思うのです。
この世に、2人だけなら良いのにと願っていそう。





[ 2013/09/21 23:27 ] 短いお話 | TB(0) | CM(2)

もしゃもしゃ6枚目

初期のカオリン(かわゆす)


何気に靴のディティールが、可愛いと思ったりして。
[ 2013/09/22 08:53 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

もしゃもしゃ7枚目

なんか・・・
モリモリし過ぎて、太短い。
[ 2013/09/22 16:37 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

頭の大きさ

なんでだろ~~~

なんで、ワタシが描いたらこんなに頭ばっかり悪目立ちするのだろうと、

気になって気になって、突き詰めて考えてみたのですが。

どうも、頭髪のボリューム加減がおかしいし、解らないという事に思い当たりました。

どうして、北条先生が描いた絵は

髪形がボリューミーなのに、スッキリとしてるんだろ???

どうして、見たままを描いているつもりなのにそこが出来ないんだろう。

ただ、見て描くだけでも、こんなに沢山の疑問や課題が見えてくるので、

自分の絵を確立し、構図を考えて絵を描くということはどれだけ奥の深い行為だろうと、

改めて思う。

描けば描くほど、つくづく絵が描ける人の凄さが解ります。

まぁ、文章も同じか。

同じ、シティハンターの二次創作の書き手さんのお話しを読んでも、

同じテーマなのに、斬新な捉え方や、意表をつかれる表現力を見せつけられて、

ハッとする事は、沢山あるから。

創作するって、なんて自分の心を丸裸にする行為だろうと思います。

無意識に、自分をこれまで作ってきたモノから還元してる。

まさか、絵を描くということを通して、それを改めて実感する事とは思いませんでした。

どんなに、マイブームとは言え。

やはり、自分は文字を書く側だから。

たまには、違うことやるのも新しい発見が生まれるということで・・・

それにしても最近、絵ばっかり描いてる(笑)





そして、なんでカオリンもりょうちゃんもこんなに髪の毛多くて、クリンクリンなんだよっっと、思ったりしてます。

えへへ。







[ 2013/09/23 14:23 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

お題39. あなどれない

僚がシャワーを浴びてキッチンに向かうと、美味しそうな夕餉の匂いが立ち込めていた。




今日は何やら揚げ物らしいと思いつつ、
冷蔵庫の中からキンキンに冷えた缶ビールを取り出す。
僚が座るいつもの席には、夕刊が置いてある。
もうちょっとで出来るから、これ食べて待ってて?と。
ニッコリと微笑みながら相棒が目の前に置いたのは、揚げたてアツアツのオニオンリングだった。
薄っすらと軽い味の付いた衣を纏い、きつね色に輝くそれと。
香は当然の如く、冷蔵庫からハインツのトマトケチャップを取り出して僚の前に置く。
僚は揚げたてのオニオンリングにケチャップをかけて食べるのが好きだ。



パチパチと微かな音を立てて、黄金色の綿実油が小さく跳ねる。


香は火にかけた油の鍋を気に掛けながら、手際よく付け合せのキャベツを千切りにする。
汁物はもう出来ている。
副菜も冷蔵庫で冷やしながら、味を馴染ませている。
ご飯はつい先ほど、炊飯終了のアラームが鳴ったので炊き立てだ。
背後で僚がビールを飲みながら、好物のオニオンリングを摘んでいる。
それは今日のおかずでは無い。
あくまで僚の為の、酒の肴だ。
と言っても、先日玉葱が安かった時に大量に買い置きしていたモノを、
ザックリと輪切りにして揚げただけだ。


もしも、これが兄貴なら。
あれはフライでは無く、天ぷらにしただろうし。
トマトケチャップでは無く、天つゆで食べるだろう。
僚は時々、とっても子供っぽい。
香が作るモノについては、これまで特に食べ残したり、好き嫌いを言う事も無いけれど。
どうやらああ見えて彼は、ジャンクフードも結構好きみたいだったりする。
もっとも、よくよく考えれば。
僚は人生の結構な年数を、ジャンクフードのお国で過ごしたのだから、
もしかすると僚にとっては、そちらの方が慣れ親しんだ味なのかもしれないと、香は思う。
ホッペに沢山詰め込んで、ハンバーガーやフライドチキンを頬張る僚は、
まるで子供みたいで可愛いだなんて。
本人に言ったら絶対に拗ねるから、香は口には出さずにコッソリと眺めて楽しんだりする。



そのクセ、意外にも。
僚は完璧なテーブルマナーを身に着けていたりするから、侮れない。
普段とのギャップに、香は初めは正直驚いた。


万年貧乏な冴羽商事だけど、ごく稀に。
自分達の支払いでは、一生縁の無いような高級レストランなどに招かれたりする。
世界的スイーパーとその助手は、仕事柄、
棲む世界の違う人々に気に入られたりする事があるからだ。
そういう時の僚は、普段と一転して完璧な所作で自然に振舞う。
まるで、生まれ落ちたその時から、セレブリティであったかのように。


僚が何処でどんな風に、そんな色々を学んで来たのかなんて、香は知らない。
テーブルマナーだけじゃ無い。
料理そのものも、器用に作る。
小さな遠い国の言葉も、難なく操る。
それら全て、僚という人間を形作る色んな事柄を、僚がどんな風に身に着けてきたのか。
香は殆ど知らない。
けれどその事を考える度に、香は学ぶという事の奥深さを僚によって教えられる。
僚の博識や作法は、少なくとも学校で学んだ事では無い。
スーパーで、香が慎重に掌で重さを確かめて買って来たキャベツは、
巻がしっかりとして、瑞々しい。
使い慣れた牛刀ナイフで、端からごく細かな千切りにして行く。
揚げ物のおかずの時、僚は驚くほど沢山の千切りキャベツを食べる。







うわぁ、また原油高騰だってよ、カオリン。





僚が夕刊を見ながら、そう言って小さくゲップする。
香は背を向けていて、見えないけれど。
こういう時の僚が、見なくても手に取るように解る。
下半身は、スウェットパンツ。
上半身は裸で、首にタオルを掛けて髪の毛は半乾き。
歯磨きをした筈の唇は、オニオンリングから滲み出た油で少し光っていて。
僚に自覚は無いけれど、きっと無防備に色気を放っている。








ふ~~~ん、じゃあ、りょおも少しは夜遊び自粛しないとね。節約の為に。


・・・なんで? 原油高騰とキャバクラのチャージが、なんか関係あんのかよ???


有るわよ。世の中は巡り巡って繋がって、
最終的にはスケベ面したモッコリ男から、搾取するように出来てんのよ。


んな、ムチャクチャな(笑)









背中に、僚がクスリと笑った気配が伝わる。
そんな風に冗談交じりで、夜遊びを牽制するけれど。
最近では前に比べて、随分と僚の飲み歩きの回数は減っている。
僚とちゃんと、恋人同士になってから。
僚は驚くほど、優しい。
香は、油の中できつね色に変わった鯵のフライを掬い上げる。








それじゃあさ。
原油高騰に付、今晩から暫くは夜遊びを自粛してカオリンとモッコリに励みますか。


・・・・そそそそそ、それこそ、何の関係があるのよっっ???







香は危うく、油から掬ったフライをもう一度油の中へと落とす所だった。
僚は時々、突拍子も無い事を言い出すので要注意だ。
特に、揚げ物をしている時など、一層の警戒が必要だ。







そんなの、決まってんじゃん。
モッコリはタダだし、気持ちい~し、楽しいし、運動になるし、
それこそ、この世で一番の娯楽だからね~~♪カオリン













それ以上、香はお喋りを止めにして夕飯の盛り付けに集中した。(フリをした。)





新聞を畳んで、僚は目の前に盛り付けられた皿を見る。
アジフライ。
鯵の南蛮漬け。
鯵のつみれ汁。
なめろう。
何なんだろう?この青魚祭りは。と、僚は一瞬リアクションに困る。






美味しそうでしょ?今日ね、新鮮で脂の乗った鯵が特売だったの♫





僚の可愛い相棒は、なかなか侮れない。
時々こうやって、節約という名の単一食材テロをやらかす。
僚は知る由も無いが、
つみれ汁にも使った鯵のつみれ団子が大量に冷凍庫にストックされている。
まぁ今回は、主役が鯵なので、さほど違和感は無いけれど。
これが大根だろうが、人参だろうが、じゃがいもだろうが、玉葱だろうがやってくれる。
そして、先日の玉葱テロの残りの、今日のオニオンリングだという事には、
僚は未だ、気が付いてはいない。




日常の中にあるささやかな喜びこそ、侮れない。
僚はアジフライに、これでもかとウスターソースをかけた。












[ 2013/09/26 22:21 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)