※基本スペック※必読※

30000Hits Req. Vol.1 ケシ meets nao

                『6年目の相棒』

いよいよ、始動いたしましたっっ。30000ヒット企画!!
第1弾は、naoさんリクエストによる続き物のお話しになります m(_ _)m
尚、このお話しはパラレル仕様となっておりますので、
以下のスペックをお読みなって、OK、大丈夫!!という方のみ、

『① バディ』へと、お進みくださいませっっ





【 槇村 香 】     刑事になって2年目の、新米。
              ずば抜けた身体能力と、モデル並みのルックスの持主。
              お偉方は、イメージアップの為のマスコット的存在として扱いたいけど、
              本人は、“ある目的”の為に刑事になった強い意志があり、
              チャラチャラした雑務をさせられる事への激しい抵抗感がある。
              しかし、人が好いのと、生来の責任感の強さから、結局与えられた仕事はこなす。

              
【ミック A.】      元FBI捜査官を経て、犯罪心理学のスペシャリストとして登用される。刑事。
              とある組織犯罪の捜査で、香とバディを組む事になる。
              香の事が前々から超好きで、狙っている。


【 野上 冴子 】     香とミックの直属の指揮官。先輩刑事。
              父親は警視総監。


【 佐伯 竜馬 】     香とミックが追っている犯罪組織の、キーパーソン。
(冴羽 僚)       その素性は、謎のベールに包まれており、
              どんなデータベースに照会しても身元は明らかにならない。
              警察が把握している限りでは、犯罪歴も無し。
              どうやら偽名の可能性あり。


【 槇村 秀幸 】     6年前のとある捜査の途中で、殉職。
              香の兄。当時は、香がまだ20歳になったばかりだった。






それでわ、皆様。
30000Hitsの感謝を込めて、スタートでっすっっ!!




  
スポンサーサイト



① バディ

「失礼します。すみませんっっ、遅くなりましたっっ」



槇村香が、先輩刑事の野上冴子からミーティング・ルームに来るように言われて、
もう既に、30分以上が経過していた。
それから間の悪いモノで、予定外の電話が入ったり、上司に呼ばれたりで。
気が付くと、冴子を待たせてしまっていた。


「構わないわ、忙しいのは解ってるから。どうぞ。」


香が慌ただしくその手狭な会議室に赴いた時、
冴子は大きめのテーブルに、所狭しと様々な捜査資料を並べ始めた。
その中には、目を背けたくなるような生々しい現場写真も多く含まれており。
香は刑事になりたての頃は、何度見てもイヤな汗が出て直視出来なかったモノだが、
漸く近頃は、慣れつつあった。
その資料の膨大さと、写真の生々しさから、その事件の凶悪さが窺える。
それはとある、人身売買組織の捜査である。
香はこの捜査を担当する為に刑事になった、と言っても過言では無い。


「本当に、イイのね?」

「はい。」

「生半可な事件じゃないわよ。」

「はい。」



香の意志の強い眼差しに、冴子は一瞬、フッと表情を和らげる。
その目に、確かな彼女の兄の存在を感じる。

冴子が少しだけ、表情を軽くする。
綺麗なヒトだと、香は改めて思う。
どんなやり手の刑事とも対等に渡り合い、男性顔負けの仕事をバリバリこなす頼れる先輩。
冴子は、香の憧れで、目標で。
死んだ兄の、元相棒だ。



「私の目標の1つは、この事件を解決する事です。その為に、この部署に配属を望んだんです。」


香がキッパリとそう言った。
冴子が小さく微笑んで、頷いた。
もう、6年になる。


「解ってるわ、一緒に闘いましょう。
 それでなんだけど、貴女の相棒に、ミックを推してるの。
 早速、明日から彼と組んで捜査に当たって頂戴。」


「はい。頑張ります。」










その日、香はそれからの数時間を、これまでの捜査の事務手続きに追われていた。
その案件は、犯人も検挙し大方の目処はついている。
とは言え、翌日から別の事件に当たる事となった為に、引継ぎの為の事務手続きは必要である。
香は残業を覚悟していた。



気が付くと、外はもう真っ暗だった。
仕事柄、昼も夜も関係無い職場だけど、それでも同じフロアには殆ど誰も居なかった。
1人2人と、帰ってゆく度に、先輩たちは苦笑しながら香に同情してくれた。

“あまり無理すんなよ~~~、お疲れさん。”

そういう彼らに、香も笑って応えながら軽く溜息を吐く。
正直言って、香は事務仕事は苦手だ。



香が手元の資料とにらめっこしていると、コトリと傍らにマグカップが置かれた。
香が愛用している、アイボリーの厚手のミルクガラスのカップだ。
中には琥珀色の香ばしい液体が揺れている。



「ハイ、カオリ。お疲れ。」


「あ。ミック、ありがとう。」


香が顔を上げると、明日から己の相棒となるミック・エンジェルが居た。
彼は香の随分先輩だけれど、堅苦しく“先輩”などと呼ばれるのは性に合わないと、
ミックと呼べと、初めて会った時にそう言われた。
ミックは普段、とても紳士的で。
彼の生まれのお国柄、常にレディ・ファーストである。


「どう致しまして。これぐらい、お安い御用さ、相棒。」


「あ、ご挨拶がまだでした。ゴメンなさい。」


香がそう言って、デスクから立ち上がるとペコリと頭を下げた。
ミックは苦笑しながら、被りを振る。


「Oh,堅苦しいのは無しだよ、カオリ。君が忙しくしていたのは知ってるから大丈夫。」


そう言って、爽やかに微笑んだのも束の間。
香の隙をついて、ミックは香との間合いを絶妙に詰める。


「そんな事より、」

「え?」




「今晩、相棒としての親睦を深める為にも、デートしない??カオリン♪グフッッ」


「すみません、お断りします。」






そうなのだ。
ミックは紳士的で、スマートで、頼りがいのある先輩で。
途轍もなく、スケベだった。
何かというと、こうしてデートに誘うのがデフォルトだ。
この時の香は、誰にでもこんな事言ってんでしょ、位にしか捉えてはいなかったけれど。
実の所、ミックが誘うのは香だからである。



こうして、ミックと香のバディが誕生した。



(つづく)


② 影(シャドウ)

その犯罪組織の起源は、中華系マフィアだ。
近年では、中南米の巨大な麻薬密売組織とも、水面下で手を結んでおり。
(とは言え、奴らは私利私欲の為なら、平気で裏切りもすれば抗争も厭わない。)
元々は全く関係の無い、日本のアンダーグラウンド界にも少しづつ根を張りつつある。
その凶悪さ、狡猾さは、“ジャパニーズ・ヤクザ”などの比では無い。


彼らの主なシノギは、人身売買だ。
子供や若者の臓器は高値で取引される。
若い女は、また別の意味で売り買いされる。
勿論、原材料となる“人身”を、日本国内で調達するにはなかなか難しい側面がある。
実際の売買の現場は、主に大陸の彼の国で行われる事が殆どだ。
日本での組織の役割は、主に東アジア全域のマーケットの確保と管理。
そして、中南米系の麻薬絡みの取引の窓口。

彼の国では、僅かな金と世帯の口減らし(タテマエは、1人っ子が原則だ。)と引き換えに、
我が子を売りに出す親もいる。
母体のある彼の国と違い、人1人失踪すれば日本では大騒ぎになるのは必至で。
(それが子供や若者となれば、尚更。)リスクの大きな取引は日本ではしない。
その反面、日本ではクスリ絡みのマーケットは、ある程度確立されている。
また、クスリ欲しさに簡単に、罠にかかる女もいる。
クスリの売買と、高利貸しは表裏一体で。
クスリに溺れて借金を重ねて、売り飛ばされる。
それらの一連の流れは、全てこの組織の中で完結しているのだ。
何処までが嘘か本当か、これはあくまで噂の域をでない情報ではあるが、
酷い話しになると、両手両足を切断されて所謂“ダルマ”という状態で、
富豪の慰み者として、売り飛ばされるケースもあるらしい。


その組織には、秩序も慈悲も無く。
只有るのは、金を生み出すという目的のみである。







それは一見、普通のオフィス・ビルに存在する普通の事務所で。
出入りする人間も見た所、何処にでもいるビジネスマン風の男達である。
一応、登記上は健康食品や健康器具を取り扱う商社。
しかし、その実態は。
企業を隠れ蓑にした、組織の出先機関である。
多くの者が、日本に帰化した中華系の組織の構成員だ。





アイツはこれまで、結構色んな案件で実質手を下していると思われるメンバーだ。




ミックが路肩に停めた捜査車両の中で、遠くから1人の優男風に目を向ける。
香も真剣に、ミックの説明に聞き入る。
この2時間の内、一所にずっと同じ車があると不審がられるので。
少しづつ場所を移動しながら、それでもそのビルを監視出来る所に微妙に移動する。
ミックは数年前から、この件を担当しておりその辺の事情には明るい。


この間、同じビルの中の別会社の人間もいるので、
実際に香が顔を確認できたのは、今の所3人だ。
こんな日常の風景に溶け込んで、凶悪な世界が口を開けて潜んでいるという事に、
香は正直、背筋が凍った。
普通の平和なOLがにこやかに出入りし、仕事をしているその同じ建物の中に。
アジアの様々な場所へと、女を売り飛ばしている鬼畜が潜んでいるのだ。




あ、影(シャドウ)。




それまで、真剣に目を光らせていたミックが小さく呟いた。
香も思わず、訊き返す。





シャドウって?


アイツのコードネームさ、あのダークスーツの。




そう言ってミックが指さした先には、これまでの構成員とは明らかに一線を画した大きな背中が見えた。
香が視線を向けた時には、“影”は背中を向けて立っており、その表情を窺う事は出来なかった。





アイツは、組織の日本支部の中でも結構、重要なポジションにいるらしいけど。
実際の所、素性は良く解っていないんだ。
名前は、佐伯竜馬。でも、偽名を使っている可能性は非常に高い。




ミックの説明を聞きながら、香はシャドウの背中を見詰めていた。
その時、一瞬だけ彼が2人の方へと顔を向けた。
どうやら片手には、携帯電話を握っていて誰かと通話中のようだった。
一瞬、チラリとミックと香の方へ視線を走らせて、シャドウは建物の中へと消えた。





恐らくヤツの素性さえ掴めば、捜査も随分展開するんじゃないかと思うよ。
でも、アイツは一筋縄じゃいかないんだ・・・
何故だかアイツの周辺を探ろうとすると、たちまち煙幕を張ったように不思議と邪魔が入るんだ。
ボクの予想では、警察の中にヤツと内通している者がいるんじゃないかと思う。





香は、ミックのそんな解説を、何処か上の空で聞いていた。
シャドウ。
影と呼ばれるその男の、真っ黒な瞳を直視してしまった。
その一瞬で、彼がどんな顔だったのか、綺麗サッパリ吹き飛んでしまった。
ただ力強い視線だけが、香の脳裏にフラッシュ・バックする。
真っ黒な瞳に、黒く艶やかな頭髪、黒いスーツ。


シャドウという名は、彼にピッタリの通り名だ。



(つづく)

③ 寝覚め

それは季節の変わり目、生温い春の嵐だった。




気温の乱高下の激しい季節に、アイツは着古したトレンチ・コートを羽織っていた。
殉職した偉大な先輩でもある父が目標だと、いつも語っていた表情は穏やかで。
あの日激しい雨の中で、自分の腕の中で、少しづつ冷たくなっていったアイツの事は、
この6年、一時たりとも忘れる事は無かった。





















僚は嫌な汗を掻きながら、妙な時間に目覚めた。


寝室の窓の外では、春の嵐が吹き荒れているようで。
雨粒が窓ガラスを叩く音が聞こえる。
先程の夢の続きとリンクして、心臓が煩いほど脈打つ。
喉の渇きに、この時漸く気が付いた。


あの組織に目を掛けられ、出入りするようになって6年。
僚の生活は、リアリティを無くしている。
全てが虚構で、全てが現実で、結局全てが僚の人生では無い。
















生活感の薄いキッチンの、アンティークばりの年代物の冷蔵庫にはビールと水のボトルがあるだけで。
僚は迷わず、ビールを1本取り出す。
アルコールを摂取すると、そのアルコールを分解する為にそれ以上の水分を身体は必要とする。
だから、渇きを癒す為に酒を飲んでも、最終的には渇きは増すだけだ。
喉の奥を発泡性の冷たいアルコールが通り過ぎる。
心地イイと感じるのは、この時だけで。
これはただの錯覚だ。


目に見える事だけが、物事の真理では無い。


このままもう一度、寝床に潜って二度寝を貪っても、
次、目覚める時には、より強烈な渇きに見舞われる。










昼間、事務所の周りに張っていたシルバーのマークⅡは、恐らく警察車両だ。
何度か見掛けた事のある、ブロンドの男。
まさか日本の警察組織に、欧米人と思しきヤツがいるとは思わないだろうという奴らの腹か。
それでも僚の直感は、結構当たるのだ。
助手席に居た若い女は、初めて見る顔だった。


けれど少しだけ、なにか心に引っ掛かるものを感じていた。


彼女の強い眼差しが印象的だった。
職業柄僚は、一瞬で他人の特徴を覚え、記憶する事を得意としている。
大抵、一度見た顔は忘れない。
けれど、今現在、寝起きの僚の頭の中の彼女は。
ボンヤリとしたイメージの塊で。
真っ直ぐな薄茶色の瞳と、強い視線以外、細部はぼやけている。
多分、このビールを流し込んで、もう一度惰眠を貪れば。
そのイメージすら、霧散してしまいそうな程の感覚だ。



けれどあの強い眼差しだけは、僚の脳内にクッキリと刻み込まれている。
まるで、さっき見た夢の記憶のように。




(つづく)

④ 制服

槇村香は憤慨していた。






この時期は、春の交通安全キャンペーン絶賛実施中だ。
義務教育の子供たちは、概ね春休み中で。
休み明けは、新入学シーズンに突入する。
小学生の通学路は勿論、中高生の自転車にも、運転者は一層気を配らないといけない季節だ。






「・・・だからって、何で私なんですかっっ」


昼食のサンドウィッチを頬張りながら、香は冴子に愚痴る。
その日は朝から、ここ数日の張り込みの経過をミックと2人で冴子に報告していた。
その途中で、香が署長室に呼ばれたのだ。
冴子は思わず苦笑しながらも、香を宥める。




「まぁまぁ、署長直々にご指名なんでしょ?名誉な事よ。」

「・・・全然、嬉しくないです(怒)そもそも、交通課ならもっと可愛い子が沢山いるじゃないですかっっ」



冴子とミックは顔を見合わせて、肩を竦める。
明日、交通安全のキャンペーンのイベントで香が駆り出される事になったのだ。
しかし。
香に自覚は無いが、この署内で香以上にルックスに恵まれた女性署員は居ない。
勿論、この場合冴子は除外する。
求められる人材は、若くて溌剌として、その上美しければ申し分無い。
美しいという項目だけなら、冴子も充分要件は満たしているが、
如何せんフレッシュさというモノは、冴子とは全くの対極にある。


何だかんだ言って、香はこの部署では一番の下っ端だ。
香が丸1日間、署長命令で交通課(ほぼ、キャンギャル)に駆り出されても、他に困る者も居ない。
何しろ、相棒のミックですら快く、頑張っておいで。なんて言っている。
いつもこうなのだ。
香が初めて配属された新人の頃から、お偉方は香の容姿しか見ていないと、香は思う。
もしくは、切れ者で署内でも一目置かれていた、あの槇村秀幸の妹。


勿論、人の評価など一朝一夕に得られるモノでは無い事ぐらいは、香も解っている。
それでも、イベントで愛想を振りまいて盛り上げるくらいの仕事なら、
1年目の新人だって出来るんじゃないかと、香は思うのだ。
結局、香は警察官になってからというモノ、毎年この役を仰せつかっている。












「ふふふ、久し振り。」




婦人警官の制服に袖を通すのは、1年振りだ。
昨年の同じ時期、やはりこうして制服を着た。
普段は専ら、パンツスーツだ。




けれど。
何かが違う。



「ん???この制服、こんなにスカート短かったっけ???」



確か、昨日の午前中の内に総務課にお願いしてクリーニングに出して貰っていた。
そして夕方、ミックが受け取っといたよ。と言って、香のデスクに持って来てくれたのだった。



「????・・・また、背ぇ伸びた?まさかね・・・(苦笑)」








イベント自体は、大したモノでは無い。
警察署の前の公園と舗道で、通行人や信号待ちのドライバーに粗品を手渡して、キャンペーンのPRをする。
午前の部と、午後の部の計2回、自転車のマナー講習を公園内の広場で実施する。
取り仕切るのは、交通課である。
香は主に、ドライバーへのPRとマスコミ向けのインタビュー要員だ。
何だかんだ言って、与えられた仕事はソツ無くこなすのが槇村香だ。
朝一番に制服に着替えた時には、違和感満載だったスカート丈の事も忘れる程にPRに励んだ。


昼下がり、制服の胸のポケットに入れた携帯電話が振動した。
ミックからのメールだ。


『ハァイ、カオリ。
 頑張ってる?
 スカート、似合ってるんだろうな~~~
 たまには、スカートも素敵だよ♪グフッ
  
     君の相棒より、愛を込めて。』




この時、香は漸く気が付いた。
クリーニングが仕上がったと、持って来てくれたのは。
あの相方で。

ヤツは、途轍もなくスケベだったんだ。香はその事を、つい失念していた。



(・・・ミックめっっぬっ殺すっっ)

どうやらスカートは、すり替えられていたらしい。
脳天気な相棒からのメールに香が殺気立っていると、遠くの方から視線を感じた。
香はふとそちらの方へ、意識を向ける。



一瞬だけ、背の高い男性と目が合った。


真っ黒な深い瞳、艶やかな黒髪、スーツでは無くカジュアルな服装だったけれど。
それは。



(・・・シャドウ?)



香はもう一度よく見てみようと、目を凝らしたけれど。
もう彼は、街中の雑踏の中へと紛れていた。





「お~~い、槇村く~~ん。ちょっと、コッチも頼むよ♪」

「・・・あ、はい。副署長。」



香は、後ろ髪を惹かれる思いで、春の交通安全キャンペーンの平和な世界に引き戻された。



(つづく)


⑤ 春の嵐

その時期はいつも、安定しない空模様で。
せっかく綺麗に咲き誇った薄桃色の花びらは、少しの雨風にも惜しげも無く散りゆく。












その年度変わりの最終日、その日が香にとってどうやら特別な日である事はリサーチ済みだ。
何の変哲も無い春の日が。
彼女の誕生日でもあり、一番淋しい日でもあるらしい。

ミックは、朝から天気予報と開花予報をチェックした。

桜の花は八分咲き。
今が一番、美しい。
まるで、初々しい後輩兼相棒のように。






香は毎年、その日をなるだけ平常心で迎えるよう意識している。
生憎、香の選んだ職業は、私事などで心を乱している余裕も無いほどに慌ただしい。

もう、6年になる。

香はこれまで、恋人など作った事は無い。
気持ちを告げられた事は、何度かあった。
同期の警察官だったり、学生時代の同級生だったり、行きつけの美容院の美容師だったり。
それでも。
香の心の中の時間は、きっとあの時のままで止まっている。
兄が亡くなった、あの時で。



だからきっと、この事件が解決するまでは。
香の時計は止まったままで。
過去にも戻れず、未来へも進めない。
涙はとうに、枯れてしまっている。












その新宿の外れにある郵便局の私書箱の名義人は、西村圭介。勿論、偽名だ。





いつものように、僚はその自分だけの郵便受けから分厚い封筒を取り出す。
その郵便局から、自宅アパートまでは目と鼻の先だ。
電話の回線なんて、この世で一番不確かだ。
ネットも信用出来たもんじゃない。
アナログで、単純な手法ほどこれからのご時世、意外と盲点だ。




『・・・今日は、随分と早いのね。シャドウ。まだ、日付を跨ぐ前よ。
            私からのラブ・レター、読んで戴けたかしら?』


・・・あぁ、サムサラ。




僚はストレートのバーボンを舐めながら、電話口の相手へと答える。
相手は女だ。
コードネームは、愛用の香水の薫り。






・・・見ない顔の女を見た。


『彼女は、ニューフェイスよ。』


イイ女だ。


『・・・フフ、相変わらずね。彼女に惹かれるのには、まだワケがあるのよ。その内、全て話せる時が来る。』


是非、早目に知りたいね。もう6年だ。


『・・・そうね。今日は、私も珍しくバーボンを飲んでるの。』


・・・俺も、飲んでた。





電話越しに、沈黙が流れる。
3月の末日は、彼らにとっては忘れ得ぬ日だ。
その酒は、今は亡き男が好んだ飲み物だ。





『資料、目を通しといて。』


・・・解った。・・・なぁ、冴子。


『なぁに、・・・・僚。』



アイツは、







僚が何かを言い掛けて、暫く深い沈黙が続く。
冴子もその沈黙に付き合う。
漆黒の空気が、電話越しの2人の間に横たわる。




・・・いや、イイ。もう切るぞ。


『えぇ、気を付けて。』





短いやりとりを終えて、電気信号を介した音声情報は途絶えた。
まるで真空の闇の中に、ふわりと桜の花びらが散るような静けさで2人の世界が寸断される。













この職業を選んだ時点で、常識的な時間に帰宅できるとは思ってはいない。


己の誕生日と兄の命日の晩餐は、冷蔵庫の中の有り合わせだ。
署に戻る車のハンドルを握るのは、ブロンドの先輩刑事。







ねぇ、カオリ?

はい。

今日はもう、オフィスには戻らずに送って行こうか?

え?

誕生日だろ?

・・・知ってたんですか////

あぁ、こう見えて相棒思いなの、ボク。







そう言って、笑うミックにつられて香も笑う。
そう言えば今日1日、こんなに肩の力が抜けたのは初めてかもしれない。





君んちに送ってく途中に、見事な桜の樹があるんだ。見て行かないか?




香は小さく首を振る。
それが、ミックの優しさだと、重々解っている。
あの職場に居て、この日が何の日か、香にとってどういう日か、みんな知っている。
だからミックも、誰かに聞いたんだろう。



・・・ありがとうございます、お気遣い頂いて。でも、署に戻りましょう。報告書、書かなくちゃ。


フッ、やっぱりカオリは、真面目だな。




そう言って、ミックは笑った。
それ以上、しつこくはしない。
シルバーの捜査車両は、ゆっくりと新宿の街を滑ってゆく。







でもね、カオリ。これって、“お気遣い”じゃ無くて、“下心”って言うんだよ。






ミックが、欧米人特有な綺麗なウィンクを寄越しながら言う。
香は窓の外へ目を向けながら、小さく笑う。









はいはい。解ってます、先輩。






この時の香には、まだ何も解ってはいなかった。
ミックの心も。
終わった事と、始まりつつある事も。



(つづく)




⑥ 白と黒/表と裏

“シャドウ”こと佐伯竜馬が、あの組織の中で突然頭角を現してきたのには、ワケがある。


ヤツはどうやら、複数の言語をネイティブ並みに操るらしい。
南米系の輩とコネをつけるのに、ヤツは随分と重要な役割を担っているという。
しかしその話しもあくまで、噂の域を出ない情報で。
その実態は、その名の通りまるで影のように掴み処が無い。

そしてヤツは、想像をはるかに超えた数の(それも腕利きの)情報屋を抱えている。
この2~3年、ミックが調べただけでも、ヤツの息が掛かった情報屋はかなりの数だ。
しかしそれはホンの一握りで、ヤツの核心に迫れば迫るほど、まるでミックを嘲笑うかのように、
正体の見えない靄のような圧力が掛かる。
それまでのヤツの“影”は、ミックの手の中からスルリと滑り落ちる。













・・・・ぅぅう・・・
ハァッ・・・ハァハァ・・
ぅうっっ


ガバッッ

酷く喉が渇いている。
うなされて目覚めたミックは、枕元の時計に目を遣った。
眠り始めて、まだホンの1時間ほどだ。
近頃は、夢の中にまで“影”が忍び込んで来る。
ミックにとってヤツの存在は、計算外だった。
何としても早急に、ヤツの核心に迫る情報を掴みたい所だ。

そして、もう1つ。

厄介で“計算外”な問題も浮上しつつある。
もっともこちらの方は、専らミックの心の中の問題である。















「・・・サンキュ、テツ。助かったよ。」


「気を付けなよ、影ちゃん。アンタを嗅ぎ回ってるヤツがいるよ。」


「・・・・・ブロンドか?」




その年老いた情報屋は、返事の代わりに片側の口端を小さく持ち上げた。
僚はついさっき手渡した紙幣の束に、もう1枚追加した。
短くなった煙草を捨てると、革靴の先で踏み消した。
そして。
その次の瞬間には、既にもう新宿の雑踏の中に姿を消してしまっていた。


影と日向は表裏一体で、この世に光が無ければ影も無い。
物事には全て、背中合わせの貌がある。













「あの、山下先輩。ミックさん、見掛けませんでした?」


香に呼び止められた30代前半の独身刑事は、その風貌には似合わぬ繊細な心の持主である。
職場の(高嶺の)花に声を掛けられ、柄にも無くときめいていた。
もっともそんな事は、香の知ったこっちゃないが。




「いや、そう言えば小1時間、アイツの姿は見ないな。」


「・・・そうですか。」
(ミック、何処かしら???午後から同行で捜査の筈だったんだけど・・・)


「置いてけぼりか?可哀相に。」


「えぇ、なんか置いてかれちゃったみたいです。」





そう言ってニッコリ微笑む香に、ガッチリとハートを鷲掴みされた山下(彼女いない歴4年目に突入)は。
ワザとらしいスキンシップを図る為に、『元気出せ?』と言いながら香の肩に触れる。
生真面目で男臭い職場の中にも、たまにはこのような心躍るふれあいは大切である。
勿論、香の知る由では無いが。


仕方が無いので香は香で、別角度からの聞き込みに回ろうかと思案する。
池袋に住んでいた元ホステスの女が、借金を重ねた挙句、行方不明になっているらしい。
近隣や身辺の情報によれば、女はコカインの常習者であった可能性が極めて高い。
そうなると、例の組織が動いている可能性が大いにある。



(ヨシッ、今日はそっちから攻めてみるか。)



そう切り替えた香が、デスクで外出の準備をしていると、
ジャケットの内ポケットの中の携帯が振動した。
液晶の画面には『ミック』の文字。
香は、通話ボタンを押す。



「もしもし・・・」






(つづく)


⑦ 堕天使の恋と影の愛

『・・・もしもし、カオリ?』

もうっっ、ミックぅ何処に居るの???探したんだからっっ

『Oh,sorry 済まなかったよ、カオリ。
 君とサエコの打ち合わせ、長くなりそうだったから先に出たんだよ。』

今、どこ?

『大森にある工場跡地なんだけど、出て来られるかな?』

はい、わかりました。急行しますっっ

















香とのやりとりを終えて、通話が途切れた液晶の画面をミックがジッと見詰める。
出来ればこんな形で彼女と出逢いたくなど無かったと、ミックは思う。
香の心は真っ直ぐで、純粋で、真っ白く新しい雪のように美しい。
ミックには香が眩し過ぎて、対等に向き合う資格すら無い。



『良い事だよ、ルシファー。
 君の相棒とやらは、あの仔猫ちゃんだね。
 潰すには、御誂え向きだよ。
 いや何なら、マレイシアの富豪からの注文に彼女を差し出してはどうかね?
 ゆっくりと、見物させて戴くよ』



ミックの手の中の携帯に、メールが届いた。
そのメッセージの送り主は、他でも無い、この1月近く香と2人で追っていた筈の組織の人間だ。
きっと、この近くの何処かでミックは見張られている。
















香はミックから聞いた現場へと、向かった。
目的地は、小規模な町工場が数多く点在する地域だ。
もっとも、近年の不況の煽りを受けて閉鎖する工場も後を絶たず、
何の手入れもされないままの、廃工場も結構な数で存在する。
ミックに指定された現場は、そんな内の1つだった。
恐らくは、何らかの工業用の部品を製造していたと思しきその場所は。
ただただ閑散とし、窓ガラスは割れ、古いコンクリートの床には埃が積もっていた。



「・・・ミック?いるの???」



重たく錆びついた鉄の扉の向こうは、ガランとした薄暗い空間で。
割れた窓ガラスから入る屈折した午後の光が、埃の積もった床に複雑な影を描いている。
それ程大きな声で呼びかけたワケでも無い香の声が、やけに響いて耳に残る。
耳の中に残された残響が消える頃、薄暗い影の中からミックが姿を現した。
















「ハイ、カオリ。ゴメンね、さっきは置いてけぼりにして。」



そう言って薄く笑ったミックに、香はゾクリとする。
何かが、いつものパートナーと違う。
こんなミックは、“あの”香の知っているミックでは無い。




「・・・ミック???何か、・・あった???」

「何も無いさ。ただ・・・」

「ただ?」

「捜査は終了だ、カオリ。ボクは、君を。」



ミックの蒼い瞳に、一瞬仄暗い影が差す。
ジャケットの内のホルスターから、愛用のデザート・イーグルを取り出す。
まさかのミックの行動に、香は固唾を呑んでその場に凍り付く。
その比較的大きな口径のハンドガンの銃口が、香に向けられる。
その刹那、まるで握り潰されるような強い圧迫感を心臓に感じて、
一寸遅れでそれが恐怖心だという事に、香は気が付いた。
気が付いたら、掌は汗でぐっしょり濡れていた。
こんなんでは、まさかの事態には応戦など到底無理だ。
香もジャケットの内側に、ホルスターは身に着けている。
その中に収められた、コルト・ローマン。
兄の形見だ。
きっと汗で濡れた指先では、引金すら引けない。
射撃場の中での、平々凡々な訓練など何の役にも立ちそうにない。




・・・どうして?



香の声は、小さく掠れていた。
漸く出て来た言葉は、心許ない。
まるで喉の奥に何かが痞えたように、言葉にならない。
喉がカラカラに渇いている。




「ボクは、警察官だ。カオリ。」


・・・えぇ、勿論。仲間だわ。


「けれどね、それ以前にボクは・・・組織の人間なんだよ。」


っっ!!!




ミックはまるで、神様に懺悔するような苦しげな表情で香に打ち明けた。




ボクに課された命令はね、カオリ。
君をこの場で始末するか、それとも。
お金持ちのサディストに、君をペットとして売り捌くかのどちらかなんだよ。





香の顔から一気に血の気が引く。
ミックの言葉の意味が理解できない。
だって。
あんなに一生懸命、一緒に聞き込みして歩き回ったのに。
その残酷な所業に、一緒に怒りを燃やしたのに。
何よりミックは、優しくて紳士で後輩想いで・・・


気が付いたら、香の頬には涙が伝っていた。
そんな告白など、聞きたくなかった。





「・・・6年前、君のお兄さんを狙撃したのは。・・・ボクなんだ、カオリ。」






え?





香の表情が強張る。
香は自分の耳を疑った。
先程の恐怖心とはまた違った、異質の胸の痛みが香を襲う。
人間の心とは、
あまりにも強い衝撃には、防御作用が働くらしい。
まるで現実感が、薄らいでゆく。







「・・・でも、ゴメンよ。君を愛する資格の無いボクが・・・

君の事、好きになってしまった。






突然の愛の告白は、最悪のシチュエーションだった。
ミックの蒼白い頬にも、涙が伝っている。
ゆっくりと香に向けられた銃口が、下ろされる。
香は内心、ホッと胸を撫で下ろす。
ホッとしたのも束の間、2人の間に一層の緊張感が漲る。
砂漠の鷲の嘴は、ミックのコメカミに当てられた。







だから、ボクの選択肢はこれしか無いんだよ、カオリ。


・・・そんな、止めて・・・




香の喉の奥がカッと焼けたように熱くなる。
涙は止め処なく溢れる。



止めてぇっっ!!ミックぅ!!!













香の悲痛な叫びとほぼ同時に、埃の堆積したコンクリートを踏みしめる足音が響いた。
ミックも香も思わず、足音の主を辿る。

そこには、黒い目をした見知った男が立っていた。

影と呼ばれるその男は、その手にコルト・パイソンを握っている。
無遠慮に放たれるそのオーラは、彼が只者では無い事の証だ。
















「・・・・コードネーム、ルシファー。ミック・エンジェルか、天使は天使でも、堕天使ってワケか。」


不穏なオーラの割に、飄々とした口調で僚がニヤリと笑う。



「あ、アナタはっっ!!」


香は思わず、懐のローマンに手を伸ばす。
僚がそれを手で制する。










「自己紹介が遅れたな、槇村警部補。」


「へ?」


「俺は、警視庁新宿署組織犯罪対策課内、特命班主任、冴羽僚だ。」





僚はそう言うと、懐から警察手帳を取り出してかざした。





「あ、あの・・・じゃあ・・」


「この6年間、潜入捜査の特命を受けていた。」

・・・因みに、階級は警視ね♪ヨロシク、香ちゃん。





そう言って、冴羽僚はニッコリと笑った。
あれだけシリアスな雰囲気になっていた香とミックも、あまりの急展開に唖然として目を丸くする。














ミックは力無くダラリと肩を落とすと、まるで気でも触れたかのようにクスクスと笑い始めた。
そんな光景を、香はただただいたたまれない気持ちで見詰める。







「ハハ八ッッ  コイツは傑作だ。ボクが、警察組織に潜入して情報を得ていたのと同じように、
 オマエも我々の組織に潜入していたとはなっっ・・・・


・・・・それじゃあ、ボクは一体何の為に・・・・





もう一度、ミックの腕が持ち上がる。
利き手には、デザート・イーグル。





ダメェッッ!ミック!!!



咄嗟の行動だった。
香がミックに駆け寄る。
僚がパイソンで、ミックの握ったハンド・ガンの銃身を弾く。
357マグナム弾の反動をまともに受けて、ミックがバランスを崩す。



そして、ミックに駆け寄ろうとした香の左肩を、暗闇の中から撃ち込まれた銃弾が貫通した。


香がコンクリートに倒れ込むより前に、僚が振り返って闇の中に発砲する。
少し離れた所で、うめき声を上げて倒れ込む男の声がする。
ミックにメールを送った輩だ。
僚が闇の中に歩を進めて、止めを刺す。
命乞いをする声は、皆まで聞き遂げられる事は無く。
銃声にかき消された。





遠くに警察車両のサイレンの音が聞こえていた。




(つづく)

⑧ 相棒 (最終回)

槇村秀幸とは、同期だった。
お互いに大学卒業と共に、警察官を志望した。


府中の警察学校では同期の同教場で、同じ釜の飯を喰った。
最初の2年程は、それぞれ違う署に配属され、3年目に新宿署で同僚になった。
奴ほど気の合うヤツも珍しかった。
だから、6年前のあの事件を受けて、
組織に潜入して内部から切り崩すという捜査方針が固まり、極秘の潜入プロジェクトが発足した時。
僚は迷わず、志願した。


ヤツの妹の存在は、警察学校時代から知っていた。
誰憚る事無く妹自慢を繰り出す槇村に、僚はいつも実物に会わせろと詰め寄っていた。
もっとも、一回り年下のヤツの妹は当時10歳にも満たない子供だった。
一度だけ、警察学校の宿舎の槇村の個室で、写真立てに入った“彼女”の写真を見た事があった。
薄茶色の大きな瞳の、人懐こく微笑む良い写真だった。




初めて香を見た時には、気が付かなかった。
けれど強い光を湛えた大きな目と、眼差しの強さが印象に残っていた。



















槇村ぁっっ!!


薄暗い廃工場の片隅で、嘗て仲間を装った犯罪人を1人始末して、
僚は再び、香とミックの方へ意識を戻した。


埃の積もったコンクリートに、一筋の赤い川が出来ている。
確か、一瞬のうちに確認した限りでは。
銃弾は貫通していた。
恐らく敵の弾は、ミックを狙う筈だった。
命令に背き、自死を選ぼうとした仲間を粛清する為に。

咄嗟に飛び出した香と、バランスを崩したミックの一瞬の立ち位置の変化で、
不運にも銃弾は香を捕えたのだ。





埃だらけの床に倒れ込んだ香の傷に、ミックがハンカチを押し当てて止血処置をしていた。
僚はパイソンを突き付けて香から距離を取るようにミックに命じる。





「手を退けろ、ミック・エンジェル。貴様に、彼女に触れる資格は無い。」



ミックも素直に応じる。
諸手を肩の高さまで上げて、僚に掌を向ける。
パイソンの銃口は、常にミックを指している。
もうすぐそこまで、サイレンの音は迫っている。
後頭部で両手の指を組んで、地べたに俯せるよう命ずるとミックもそれに応じる。
俯せたミックのブロンドの後頭部に、黒い銃口を埋める。



その状態で、素早く香を観察する。
香は気を失ってはいるものの、呼吸も脈もしっかりしている。
ただ予想以上に、出血量が多い。
顔面蒼白で血の気が引いている。




(・・・槇ちゃん、オマエの大事な妹、まだ連れてくんじゃねえぞ・・・)



その時、カツカツとピンヒールの足音が工場内に響く。









「遅ぇ~~よっっ、冴子。取敢えず、詳しい事は後にしてくれ。コイツの身柄確保、頼んだぞ。」


「えぇ、早く香さんを。パトカーが表に停まってるから、好きなの使って?」







僚は香を抱き上げると、表へ飛び出した。

















2カ月後。



香は、あの日から警察病院に入院していた。
全くの独り身の香の世話を、先輩の野上冴子が何かと気に掛けてくれた。
数日に一度、病室を訪れては着替えを置いていってくれたりした。
忙しい身で、面会時間ギリギリに僅かな時間を見付けては来てくれて、
多分これから先香は、一生冴子には感謝してもしきれない。
もっとも、香がそう言うと冴子は笑って、忘れてくれて構わないわ。と言った。


あの日、ミックが語った6年前の兄の件も、ミックの証言に嘘は無かったらしいと、
冴子が教えてくれた。
それは、刑事としてでは無く、遺族として。
貴女にも知る権利があると、冴子はそう言って次々と明らかになる事実を病室で香に教えてくれた。
ミックは今、警察を売った重罪を問われ厳しい事情聴取を受けているらしい。








だから香は、もう事件の事も、ミックの事も案外スッキリとどうでも良くなっていた。
それよりも、日に日に香の心を占めるのは。
1人の上官の面影だった。



初めて見掛けた時から、不思議と惹かれるものはあった。
相手は犯罪組織の幹部で、謎めいていて。
ただその気持ちは、ルパンを追う銭形のようなそんな気持ちの筈だったのに。
あの日、真相が解明した時に。
香の心の何処かで、


・・・あぁ、良かった。


と思う気持ちが、確かに存在した。
もしも彼が本当に組織の人間で、いつか彼の手に手錠を掛ける時が来るとしたら。
その役目をするのは嫌だと思っていた事に、気が付いた。
だから、彼が本当は潜入調査中の刑事で、自分の仲間だと解った瞬間に安堵した。




(さえば・・警視・・・////)


気が付くと彼の事を思い出して、我に返っては、心の中で“今のは無しっっ無しっ”と盛大に打ち消す。
その繰り返しで、退屈な入院生活を送っていた。















「・・・それでだね、冴羽クン。この度の、功労に対する表彰を警視総監直々に・・・」




堅苦しい上司の言葉を聞いているのかいないのか、冴羽僚は盛大に大欠伸をした。
この6年間、完全に犯罪人たちに溶け込む為に、
自分自身もこれまでに無いほど、堕落した日々を過ごしていた。
まるで時差ボケのように、僚は未だ規則正しい生活に慣れない。



「ねぇねぇ、かちょお。」

「なな、なに?」

「あのさぁ、そんな固っ苦しい表彰なんかどうでも良いからぁ、お願いがあるんだけど。」

「なんだよ?」

「一応さ事件は解決したけど、このまま存続するんでしょ?特命班。」

「・・・まぁ、それはだ。君の独立心旺盛な面、にも関わらず忠実に任務をこなす姿勢を高く評価して・・」

「・・・そんな屁理屈はどうでもイイの。班つっても、俺1人じゃん?特命班。」

「・・・・・・(汗)」





だからさ、1人。
刑事課から相棒に指名したいヤツがいるんだけど?
















その日、怪我から復帰した香を、刑事課の面々は温かく迎えてくれた。
ただ、周りの誰もが気遣ってくれればくれる程、
ミックの不在や、事件の真相が香の心に影を落とした。
そしてこの朝、ひとつの辞令が香に言い渡された。
異動だ。
引き継ぎ業務が完了次第、可及的速やかに部署が変わる。




へ???なんで、4課???




ポカァ~~~ンと、呆ける香に冴子が苦笑する。
香の新しい配属先は、組織犯罪対策課、通称:マルボウである。
昔の呼び名なら、捜査4課。
いかつい男達の巣窟だ。
若手の美人女刑事など、海水に浮かぶブイと同じくらい浮いている。
ミスマッチにも程がある。


冴子の説明によれば、何でも香が配属されたのは特殊捜査に当たる部署で。
上官が1人いるだけの、署内の外れに設置された分室らしい。
聞けば聞くほど、何だか『左遷』という言葉が脳内を駆け巡る。


「取敢えず午後にでも、分室の方に挨拶だけでも言って来て頂戴。」


そう言って、野上冴子がニッコリ笑った。
















「・・・失礼します。槇村です、ご挨拶に上がりました。」



どうぞ




遠慮がちなノックの後に、彼女の声が聞こえる。
僚は柄にも無く、ドキドキする。
嘗てこの男ばかりの縦社会に、これ程までのトキメキが存在しただろうか。
ドアに背を向けたまま、だらしなく頬が緩む。





数日後から、自分の直属の上司となる彼は背を向けてパソコンに向かっていた。
香が入室すると、ゆっくりと彼が振り返る。
香はビックリし過ぎて、心臓が止まるかと思った。
せっかく退院したのに、もう一度出戻る所だった。






「ようこそ、槇村警部補。」

「あ、冴・・羽、警視/////」




やぁ、これから先ヨロシクね♪ 相棒。






この後、一生涯、公私共に、冴羽僚の相棒になる槇村香だったが、
今の所、彼女には知る由も無い。










(おわり)
















30000Hitsリクエスト企画、第1回目は。
nao様のリクエストによる、長編作品です。
最後までお付き合い戴き、誠に有難うございます。
因みに、nao様のリクエスト詳細は、以下の通りです。



① カオリン刑事、ミック相棒。

② リョウちゃんは、敵対するマフィアの一員。

③ 香港映画『インファナル・アフェア』の感じで。



拍手コメントで、どなたかがまさに、『インファナル・アフェア』みたいだと仰って下さいまして。
実はワタシ、この映画はザックリとしたあらすじ以外は知りません。
この度、レンタルして元ネタを観ようかどうしようか迷ったのですが、
ヘンに先入観や、映画のイメージに引き摺られてしまうと、
リョウちゃんやカオリンのイメージを出しきれない気がして、敢えて観ずに書いちゃいました(爆)


こんな感じに仕上がっちゃいましたが、nao様いかがでしたでしょうかぁ~~~???


これからまた、他の方のリクエストにも取り掛かって参りたいと思いますっっ
それでわ、改めまして。
最後までお読みいただき、誠に有難うございました~~~~

冴羽探偵と槇村助手

30000Hits Req. Vol.2 ケシ meets びんちゃん



ヒット企画第2弾・短編でございます(*´∀`*)ノ
リクエストの内容は、『君の名は』の槇村さんと冴羽さんのその後。との事。
ご存知無い方は、先にそちらをお読みになった方が良いですよ~~~♪

























新宿・歌舞伎町と目と鼻の先、その何の変哲も無い古ぼけた7階建てのビルに、
探偵事務所『冴羽商事』はある。
槇村香は毎朝、9:00にはこの事務所にやって来て仕事を始める。
と言っても、朝9:00に事務所のオーナー兼探偵兼労働担当の冴羽僚の姿がある事は滅多に無い。


彼が起き出してくるのは、大抵10時過ぎだ。
香が前の職場の時に、早朝のコンビニで見掛けていた彼は殆ど夜遊び帰りの寝る前の彼だったのだ。
事務所は、そのビル(冴羽アパートというらしい)の5階にある。
6・7階が彼の住まいで、このビルは彼の所有らしい。
あの早朝のホテル街で、アシスタントに誘われて早半年。
彼の生態は、なかなかミステリアスだ。










この所の冴羽僚の朝は、以前と違う。
朝9:00になると、階下に人の気配を感じる。
一度、薄っすらと目覚めて、あぁカオリンか。と思ってまた、二度寝する。
このビルの1階から5階までは、一応賃貸物件にはなっているけれど、
今の所、テナントは自分の探偵事務所だけである。
モッコリちゃんなら、いつでも即入居OKなのに何故だかモッコリ美女の借り手は無い。
もっとも、今日びこの物騒な日本一の歓楽街と目と鼻の先で。
その上、オートロックでも無く。
管理人兼オーナーの趣味は覗き、だなんて物件に美女はやって来ない。



しかし、何の間違いか。
美人の入居者はやって来ないケド、美人のアシスタントはGETした。
それも超絶別嬪、スタイルは完璧である。









朝一番に事務所に出て来て香のやる事は、事務所内の掃除だ。
前の日に事務所を出た後にも、僚は遅くまで事務所で過ごしているらしく。
夕方に一度洗った灰皿は、朝来てみるとまた山盛りに灰が溜まっている。
コーヒーを飲んだカップも、デスクの上に放置されている。
毎朝それらを片付けて、床に掃除機を掛ける。
事務所と言っても、普通のマンションの一室で。
3LDK程の部屋を、事務所用に改装してある。
だから、玄関で靴も脱ぐし、普通にキッチンもある。


掃除を終えたら、留守番電話をチェックする。
コチラに依頼をして来る客もいるのだ。
一通り、伝言を確認して行く。
殆どは、キャバクラ嬢の営業電話だ。
重要そうな用件だけメモをして、僚のデスクに置いておく。









5階で香が掃除機をかけ始めたら、僚はベッドをごそごそと這い出してバスルームへ行く。
熱めのシャワーを浴びて、眠気を覚ます。


僚は以前ほど、夜遊びはしなくなった。
前に香が働いていた“例の店”は、実の所あれ以来利用していない。
電話を掛けてももう、香は出ないから。
代わりに昼間、香は自分の事務所にいる。









掃除と留守電のチェックを済ませると、香は一旦ジャケットを羽織って外出の準備をする。
留守電以外にも、この事務所へのコンタクトの方法はもう1つある。


JR新宿駅東口伝言板、そこにXYZというのが合言葉だ。
むしろ留守電よりも、そこに書き込まれる依頼の方が件数は多い。
駅まで歩いて、伝言板を確認してまた戻る。
正味20分程の仕事だ。
けれど、香の一日の仕事はこれがメインなのだ。
依頼は無い事の方が、多い。
午前と午後、一日2回伝言板を確認する。
それでも毎月、僚は一応給料を払ってくれる。
実際、こんなに貰ってイイのだろうかと、不思議になるほどに。








ボクサーパンツ一丁に、首からバスタオルを下げて僚は時間をかけて髭を剃る。
今頃香は、駅の伝言板を確認している時間だろう。
僚はいつも、香が駅から戻って5分ほど経った頃に事務所に顔を出す事にしている。
香はいつも規則正しい。
その香のペースに合わせるようになって、僚もある意味規則正しい。
香が来る前の僚は、適当にその辺にあるものを着ていたけれど。
一応、身だしなみは気にするようになった。


髭を剃った後。
鏡に顔を近付けて、鼻毛が出ていないかどうかもチェックする。
鼻毛が出ていなければ、もう一度鏡に映った上半身を見る。
6つに割れた腹筋を撫でて頷く、こうして自分自身を勇気づけるのだ。










事務所に戻って、オープンの対面式になったキッチンの戸棚から、コーヒーミルを取り出す。
大抵、香が駅から戻った数分後に、僚が起きて来る。
もう1つの香の仕事のメインは、僚のコーヒーを淹れる事だ。


ココで働くようになって数日経った頃、香の淹れたコーヒーを飲んで、
僚が香をコーヒー係に任命した。
内心香は少しだけ、嬉しかった。
自分の淹れたコーヒーを、僚が美味しそうに飲んでくれる事が。









僚が郵便受けから新聞を取って5階に行くと、玄関を開けた途端に香ばしいコーヒーの薫りが出迎える。
アシスタント兼コーヒー係(そして僚の片思いの相手)は、今日も時間通りにコーヒーを淹れる。






「おはよ~」

「…もう、10:30です。」




コーヒーをドリップしながら、香が答える。
これも毎朝のパターンである。
デスクに座った僚が、香の残したメモに目を通していると、熱いコーヒーが目の前に出される。



「…サンキュ。」

「どう致しまして。」



そう言って香がニッコリ笑う。
僚は新聞を読んでいるフリをして、香を観察する。
窓辺に置かれた観葉植物に、声を掛けながら水遣りをする。
前は、そんなモノはこの部屋には無かった。
ある時香が、買って来たのだ。
伝言板を見に行った帰りに。
駅の近くの花屋で見つけたらしい。



僚は、自分に背を向けて植物と会話するアシスタントを見詰める。
華奢な背中と、柔らかなクセ毛。
窓から射す太陽の光が、彼女を美しく照らしている。
初めての出逢いは、電話越しの声だった。
実は彼女とは、別の場所で出逢っていて、カワイイなと思っていた。
初めてキチンと対面して、脊髄反射でアシスタントに誘ってしまった。
アッサリと彼女はOKしてくれたけど、実際の所どう思っているのか。
僚は気になるけど、訊いた事は無い。








とっても暇な、探偵事務所。
なんで彼が、アシスタントを募集していたのか解らない程に、
恐ろしく仕事は暇で。
たまにある依頼も、実際にこなすのは僚の仕事で。
香は退屈過ぎて、観葉植物に目一杯愛情を掛けている。


それでも、香は。

何故だか、この職場に愛着を感じ始めている。
元々、彼の事は。
コンビニで見掛けてた頃から、カッコイイなと思っていて。
それが“あの”噂の冴羽サンだったと解った時には、少しだけビックリしたけれど。
不思議と、嫌悪感は無い。
むしろ、少しだけ。
香の想いは変わりつつある。








ねぇ、カオリン?


何ですか?


今、カオリンが住んでるとこ、家賃幾ら?


は?・・・何でですか?


え、いや、あれだ。あの~~、家賃払うの勿体無いかなぁ~~~とかって思ってさ。


????どういう意味ですか????






香は、首を傾げる。
この数ケ月で、僚は気が付いた事がある。
この目の前の、超絶美人のアシスタントは、超が付く程の天然だ。
殊、僚の気持ちを伝えるという面に於いては。
遠回しな表現では、全く歯が立たない。
それ以外、仕事の面では打てば響く程の勘の良さを発揮する彼女は。
何故だか、色恋方面に於いて中学生程度のスキルしか持ち合わせていないようだ。






ココのビルに越して来ない?


へ???


空き部屋は、沢山あるし。家賃、ただでイイよ?


・・・・・・・(疑)。


な、なに?なんか怖いよ?カオリン(汗)


何を企んでるんですか?


はぁ?


だって、新宿のど真ん中で家賃ゼロなんて、誰が聞いてもおかしいです。


あ、そう?そんじゃ、・・・・2万でイイよ。







香は暫く、思案した。
タダというのは、どう考えても何だかオカシイ。
でも僚は、それなら家賃を貰うと言った。

(・・・2万。)

破格の安さである。
何より、職場まで徒歩0分の好立地。




香が何やら、考え込んでいる。
僚はこの数ケ月で、もう1つ気付いた事がある。
香は、『お買い得』とか『節約』とか『破格』とかに、弱い。
窓辺の観葉植物も、花屋の店先で売れ残っていた可哀相な鉢だった。
最初の値札から、6割引きで叩き売られていた所を、香が救い出したのだ。
恐らく、家賃2万という僚の言葉に、激しく魅せられているに違いない。





・・・・ホントに良いんですか?


ああ。(やった、言ってみるモンだ。)


じゃあ、引っ越して来てもイイですか?


勿論、大歓迎♪ いつにする?

う~~~ん、じゃあ…

いつでもイイよ。

…………




2人はまだ、ただの探偵とアシスタントで。
お互いに、仄かな想いを抱いている。
けれど、その距離は確実に近付きつつある。
今はまだ2人とも、その先の未来など知る由も無い。
退屈で平和な探偵事務所に、香ばしいコーヒーの薫りが漂っている。

















え~~~と、びんちゃん様のご要望は、まだ言葉では気持ちを伝えていない好き同士。との事で。
この位の関係の2人です。
こんなんでどうでしょ~~???びんちゃん様ぁ

お粗末様でした m(_ _)m

kiss in…

30000Hits Req. Vol.3 ケシ meets 華



















依頼の帰り道のクーパーで。
車内のラジオが、ニュースの後道路情報を挟んで、夕方の番組に変わった。




秋と冬の境目の、湖のほとりで。
僚が香に告白してから、約5か月。
季節は冬を越えて、春になった。
あれから2人の関係に、大きな変化は無い。
まるであの嘘みたいなひと時が、本当に嘘だったように。
季節は過ぎた。


クリスマスは、いつものメンバーでキャッツに集まった。
いつもなら、それぞれ別々に過ごす聖夜を。
美樹の復帰祝いを兼ねて、伊集院夫妻、ミックとかずえ、そして僚と香で過ごした。
その前の年までの香は、クリスマスの日の僚を知らなかった。
後から考えると、あれはもしかして。
美樹の事などただの口実で。
悪友たちが仕組んだお節介の1つだったのかもしれないと、僚は思う。
そうでもしないと、多分僚は例年通りクリスマスを飲み屋でドンチャン騒ぎで過ごしただろうから。
けれど、2人には何の進展も無かった。


別に、僚は未だに香との未来に躊躇しているワケでは無い。
進展しても良かったとは思っている。
けれどその反面、焦る必要も無いだろうと思ったのだ。
その後にも、イベントは目白押しだった。
やれ初詣だの、やれバレンタインだの、ホワイトデイだの。
けれど、結局その全てのチャンスをモノにする事無く、あれから3件目の依頼がつい先ほど片付いた。


最近では、僚は少しだけ。
あの時の勢いを残してるうちのイベントシーズンを、無駄に過ごしてしまった事を後悔している。


香は相変わらず奥手で。
2人の今後に関して、どう考えているのかは不明だが。
少なくとも、僚のように愛情とは別の悶々とした“欲”など抱えてはいないだろう。
勿論、僚は香を愛している。
それは時に、相棒として、友達として、兄貴として、父親として、と様々に形を変える。
けれど、その根底にあるものは全て。
1人の男として、香を求めてるという事実だ。




早い話しが、もうそろそろ香と、モッコリしたいのだ。









僚はチラリと横目で、助手席の香を見遣る。
夕方の都会の道は、徐々に滞り始める。
無意識に煙草の本数の増えた僚に、香が窓を開けた。
4月の生温かい風は柔らかく、季節が変わった事を僚に告げる。
薄いピンク色のコットンの長袖シャツの下には、同系色のキャミソールを着ている。
胸元のボタンは無防備に、半分ほど開けている。
窓を開けたドアに頬杖をついて、ラジオから流れる音楽に合わせて香がハミングしている。
春の生温かい風が、僚の鼻腔に香の甘やかなシャンプーの匂いを届ける。
いきなり、モッコリはさすがに無いだろう。
せめてあの柔らかそうな唇に触れる。
まずは、それが第1番目の課題だ。






もう、温かいね。風が吹いても。





そう言って香がニッコリ笑う。
僚は言葉が出て来なくて、変わりに煙草を咥えた。
運転をしながら、まだ明るいこんな時間に。
僚は如何わしい願望が溢れて胸が一杯になりそうで、溺れそうだったのだ。
そんな僚にとっては、唯一、煙草だけが味方に思えた。
もっとも香は。
僚の返事など、初めから期待はしていないようで。
それは、限り無く独り言に近い呟きだったようだ。














・・・それでは、ペンネーム・華さんからのお悩みです。
 
 いつも楽しく番組を聴いてます。
 私には、付き合って5か月の彼がいます。
 彼は優しくて、とてもカッコ良く、私の事を大事にしてくれています。
 幸せな日々を過ごしているのですが、1つだけ彼に不安があるのです。
 付き合ってから未だ、何の進展も無いのです。
 私は彼にとって、魅力的に映っていないのかな?と不安に思います・・・・・
 
 ・・・・・・・・・・・・因みに、私は高校2年生です。











僚は何とはなしに耳を傾けたラジオから流れるお悩み相談に、火の点いた煙草を口から落とす所だった。
ついさっきまで、ただの最新ヒットチャートが流れる音楽番組だった筈のそれは。
いつの間にか、女性DJがズバッとお悩みに答える、
迷える女子(子羊)達の、お悩み相談コーナーへと変貌を遂げていた。
しかも、今日に限ってその相談内容は、まるで今の自分達にそっくりなピンポイントなお悩みで。
その上、相談者は高校生女子である。
片や車内のリスナー2人は、20代半ばと30代半ばのいい歳した男と女である。



何故だか僚は、それ以上その番組を聴いているのが怖くなってしまった。
小さく1つ咳払いをすると、短くなったマールボロを灰皿で揉み消した。
そして。
灰皿に手を伸ばしたついでに、ラジオのスイッチを切った。







あ。


ん?


聴いてたのに。


・・・・・。






僚は香の苦情には、聞こえないフリをした。
香の眉間に薄く小さな、縦ジワが寄る。





聴いてたんだよ?




香はもう一度そう言って、ラジオのスイッチに手を伸ばそうとした。
その時丁度、踏切に引っ掛かる。
そこは開かずの踏切として、有名である。
香の手がスイッチに届く寸前に、僚は無意識に香の手首を掴んだ。
一瞬、2人の視線が絡まる。



咄嗟の僚の行動に、香の目が真ん丸に見開かれる。
手首を掴む僚の手は温かいを通り越して、熱い。
車の外側では、踏切の警報機がけたたましい音を立てている。
少しだけオレンジ色に染まり始めた1日の終わりの太陽の光が、車内に入り込む。





/////どど、どうし…




香の言葉は、最後まで発する事無く僚の唇によって塞がれた。
香には一瞬何が起こったのか、解らなかった。
少しだけ間を置いて、
漸くそれが、柔らくて温かい少しだけ乾燥した煙草の匂いの、僚の唇だという事に気が付いた。
警報機の音と、遮断機の点滅、オレンジ色の世界が。



香にはまるで、夢のように思えた。


夢だったら目が覚めれば消えるから。
いつまでも覚めない夢なら良いのにと、心からそう思った。
あの秋の日の湖で。
僚が告白してくれた事は、まるで嘘のような出来事だった。
本当にあった事なのかどうか。
僚の言葉を信じていいのかどうか。
この数ケ月、香には確認する勇気が無かった。



だけど。
今、香の心は固まった。


このキスが終わって、僚の唇が離れたら。
今度は自分が僚に伝えようと。
僚の事が好きなのだと。
そう思いながら、香はそっと目を閉じた。
それはキスが終わる3秒前の事だった。
警報機はまだ鳴っていた。











今夜は、華様からのリクエスト・短編でっす!!

リクエストの内容は、車の中で初キス。

因みに、お悩み相談に華様のお名前を拝借いたしましたっっ

華様、こんな感じでどうだったでしょうか???

Searching

30000Hits Req. Vol.4 ケシ meets さえ















依頼は、何の変哲も無い美女のボディーガードだった。


依頼人はとある犯罪組織に命を狙われており、僚と香に課せられた任務は彼女の警護と組織の壊滅。
とは言え、裏の世界にその名を轟かせる“シティーハンター”ならば、
特段、難しい依頼というワケでは無い。


彼女の周りに張り付いて、奴らの矢面に立つ。
逆情報を流して、餌を撒いて誘き出す。
舞台は全てセッティングを完了しており、ノコノコ現れるゴミ共を一斉に始末する。
僚が青写真を描き、香が忠実に再現する。
僚がこの世で1位2位を争う腕利きの殺し屋ならば、その相棒たる香は、
トラップの名手・海坊主の1番弟子なのだ。
多少、手荒な真似は承知で依頼人を餌に奴らを誘き出す。
しかしそれも想定の範囲内の計算ずくの計画だった。



開発途中の埋立地は、そんな奴らを一網打尽にするには御誂え向きな立地で、
僚と香が、戦略と腕で勝負するならば。
奴らは人数で、それに対抗する。
もっとも、香の手によるトラップはそんな奴らの中でも、雑魚は簡単にふるいにかける。


それは僚にとって、恐らくは初めての事だった。


通常運転の僚は、コルト・パイソン一丁で敵に切り込む。
そして香は、バズーカなどの銃火器を駆使し奴らを効果的に罠に追い込むべく誘導する。
嘗てはそれらを使っても、あさっての見当違いな方向に砲弾を撃ち込んでいた香も今では慣れたモノで。
僚は無意識のうちに、香の援護に全幅の信頼を寄せていた。
けれどそれを実践で、まざまざと自覚させられたのは。
恐らくそれが最初の事だっただろう。



香はあくまで援護で。
矢面で敵と対峙するのは、僚の役目だった。
僚としては、幾ら相棒だと言え香を無駄に危険に晒す事など、やはり本意では無い。
けれどそれは、単なる僚の思惑で。
当の香は、自分がどう動けばもっとも僚の援護になるのかしか、頭には無かったのだ。
自分の少し後方、敵からは姿が見えないように援護していた筈の香が。
意表を突いて、全く違うポイントから対戦車ロケット弾を発射した時。
虚を突かれたのは、奴らだけでは無かった。
結構な位置まで気配を殺し奴らに近付き、的確に十数人は戦闘不能にする。
残るは僚の目の前の、組織の中心人物のみとなった。
そうなれば、一瞬で片は付いた。
後始末は、冴子に一任するだけだ。



最後の1人を確実に仕留めて、僚は頼もしき相棒へと視線を走らせる。
随分離れた位置、殆ど僚と対面するような場所に佇む香と瞬時に視線が絡まる。
いつの間にか、師匠譲りの的確で絶妙な援護射撃を繰り出すまでに、香は成長していた。
すぐに僚は、依頼人の無事を確認する事に意識を切り替える。
気丈な依頼人に、飄々と冗談交じりに声を掛けながら、
僚の脳裏には香の強い眼差しが、真夏の太陽光線のようにこびり付く。
何度も過る。
何も知らない無垢な“相棒”の妹の筈が、本当の意味で相棒になったと僚が自覚した始まりだった。











大暴れを終えた帰りの車中は、重苦しい空気に包まれていた。
運転席の僚と、助手席の香にひと言も言葉は無い。
いつもならどこまでが冗談か本当かも解らないほど、軽口を叩き合っている2人の重苦しい沈黙に、
後部座席の依頼人も、自然と黙り込む。
だから、現場からは先にアパートへと立ち寄った方が、道順がスムーズだと思ったのは。
もしかしたら、僚の逃避の一端だったのかもしれない。
アパートのガレージに香と銃火器類を一旦降ろして、その足で僚は依頼人を送り届ける事にした。
いつもなら鼻の下を伸ばしていると勘繰った香に、制裁を加えられる場面だけど、
香もすんなりと頷いた。
これまでも何度も。
2人の関係が目に見えない変化を遂げる時には、僚も香も1人の時間をお互いに尊重して来た。
僚は大抵、香をこのまま自分の手元に置いておくか、別の道を歩ませるかの葛藤を抱え。
香は大抵、自分の不甲斐無さを激しく責めた。
けれど今の2人には、以前と確実に違う事がある。


奥多摩の湖の畔で、一緒に生き抜くと心に誓ったから。









香は射撃場の奥の武器庫に、己のもう1つの相方を仕舞う。
この部屋は僚の匂いがする。
火薬とガンオイルの匂い。


香の心を、これまで支えてきたものはきっと。
僚に認められたいというその一心だった。
元相棒の妹でも無く。
足手纏いのお荷物でも無く。
他の誰でも無く、槇村香という1人の人間を。
死んでも香は、僚の味方なんだという事を。







武器庫の扉が静かに開いた。
取り留めもない思考の渦の只中を彷徨っていた香の前に、僚が戻って来た。






ただいま。


おかえり、あら真面目に帰って来たんだ。


・・・なんか、如何にも俺がいつも真面目じゃないみたいな言い方じゃねぇか。






真面目じゃないじゃん、と言いながら香がクスクス笑う。
僚はいつも香の笑い声を聞くと、スッと肩の力が抜けるのを感じる。






家に帰り着くまでが、お仕事だからねぇ。


それ、全然説得力ないよ、りょお。


おまぁさぁ…






和やかな空気の中で、僚が突然真剣な表情をする。
一瞬、あの車内での重苦しい空気に舞い戻る。





急に、あんなやり方するなよ。ビビるじゃねぇかよ。




その僚の言葉で、香もどの事を指しているのか理解する。
そんな程度には、2人の間には余計な言葉は要らない。






あら、でもあれで少なくとも随分手間が省けた筈よ?


・・・・・・・まぁそりゃ、そうだけど。誰も、感謝してねぇとは言ってねぇけどよ。





眉を持ち上げて肩を竦める香に、僚はばつが悪そうに苦笑する。
依頼人を送り届けた後、僚は僚で1人の車内で色々と考えた。
香と生きてゆくと決めた筈なのに、この数ケ月未だに2人は宙ぶらりんの関係で。
ある意味それは、とても居心地が良過ぎて。
けれど時々こうして無性に、香の実体を、彼女が生きている確証を、
この腕に抱き締めて、確認したいという激しい気持ちが沸き起こる。
この居心地の良い繭の中から、羽化してしまいたいと切望する。
もうそんな気持ちに蓋をする理由など何処にも無い筈なのに、躊躇うのは多分。
これまでの悪いクセというヤツで。
僚をこれ程までに、用心深い打たれ弱い男にさせるのは、この世で槇村香ただ1人だ。





・・・怖ぇ、女(やつ)。


当たり前でしょ?アンタの相棒だもん。






そう言った香の笑顔は反則だ、と僚は思う。
香は槇村の目に入れても痛くない妹で、
全く色気もへったくれも無い男女で、
ケチでヤキモチ焼きで我儘なアシスタントで、極上のイイ女だと思う。
強気な瞳にいつも惹き付けられていた。
真っ直ぐな眼差しに、己の後ろ暗さを反省させられた。
そして、柔らかな笑顔に護られていた。












気が付くと香はいつの間にか、僚の腕に囲い込まれていた。
背中はひんやりとした戸棚のスチールの扉に押し付けられて、
香の顔の両横に僚が手をついて、僚の顔がすぐ目の前に有った。
これまで1番に近くで見る僚の顔からは、何を考えているのか読み取る事は難しかった。




りょ・・・




香の言葉は最後まで発する事無く、僚に飲み込まれた。
火薬と硝煙とガンオイルと煙草の匂いの初めてのキスは、
最も2人らしい気がすると、香は心の中で思っていた。
僚が更にその先へと、ふしだらに思いを馳せている事など微塵も思いもせずに。












リクエスト企画第4弾は、さえ様からのリクエストで。

Superflyさんの『Searching』という、曲のイメージで。との事でした。

歌詞の一部にある目の描写を表現して欲しいという事でした。

歌詞のままというワケではありませんが、曲を聴いた時に一番に思い浮かんだのは、

カオリンのしなやかな強さでした。

それを表す事が出来ればと思いながら書いてみました。

さえ様、如何でしょうか???

楽しんで戴けましたら幸いでございます m(_ _)m


お題26. 負けられない勝負

午前11時23分。


昨夜も僚は、深夜まで飲み歩いた。
清潔なシーツに包まって、少しづつ覚醒してゆく。
僚の犬並みの嗅覚は、階下のキッチン方面から漂って来るベーコンの香ばしい匂いをキャッチする。
それは、香の気配。
寝起きのボンヤリした脳内に、キッチンで僚の為に立ち働く香の姿が浮かぶ。
そして。
人一倍気配を読む事に長けた男は、余計なお邪魔虫の気配をも察知する。寝床の中から。







険しい表情でキッチンに顔を出した僚は、気配の主の脳天気な背中を見て寝起き1発目の殺意を覚える。
ミック・エンジェルことお邪魔虫は、ダイニングテーブルに入り口を背にして座っている。
その更に奥には、コンロの前に立って楽し気にクスクス笑うエプロン姿の香が居る。




おはよう、僚。もうすぐ、朝ご飯出来るからシャワー浴びて来たら?


ほぼ、ランチだけどね。





僚を見て微笑んだ香に、ミックがそう言うと。
香は苦笑しながら、いつもこうなの、と言ってまたクスクス笑う。
正直僚は、非常に面白くない。
毎朝の香からの、手痛い程のモーニングコールは。
ある意味では大切な2人のスキンシップで。
今朝のその日課が端折られたのは、この目の前のブロンドの気障男のせいなのだ。
ムカついたので僚は、バスルームには向かわずそのままいつもの席に座る。





シャワーしないの?お酒臭いょ?




そう言いながらも、
香は500mlのピカルディグラスになみなみと牛乳を注ぐと、僚の目の前にコトリと置いた。
傍らには、香が今朝1度目を通した朝刊が、綺麗に畳まれて置かれている。
僚は敢えて香の質問には答えずに、新聞を広げる。
そんな2人のいつもの遣り取りを、ミックはニヤニヤしながら観察する。
ミックがいる限り、僚が呑気にシャワーなど浴びている余裕など無い事に気付いていないのは。
この場で、香1人だ。






あ、そうだ。コレ、返しておくよカオリ。





そう言ってウィンクしながら、ミックがジャケットの内ポケットから出したモノは。
水色に虹の絵が描かれた、一枚のプラスチックのカードだった。
僚の視界の端で、それがミックの手から香の手へと渡される。






あ、ごめんなさい。それが本題だったのよね~~、お土産だけちゃっかり貰っちゃって。


アハハ、ボクも忘れないうちにと思って。





少しだけ新聞から顔を覗かせて、僚がその日初めてまともに喋った。




・・・・・・・あんだよ、それ。





香は一瞬、キョトンとして首を傾げたモノの。
自分の手の中の、薄いカードを見てクスリと笑う。
あぁ、これね。と言うと、簡単に僚に説明した。




それは、香とミックの行きつけのクリーニング屋のポイントカードだ。
冴羽家では、滅多にクリーニングは使わない。
僚のYシャツぐらいなら、香はアイロンがけも糊付けも自分でやってしまう。
しかし流石に、スーツやドレス(主に仕事で必要なモノ)や、
ダウンジャケットや革製品やウールのコートは、頻繁では無くとも利用する。
特に季節の変わり目は、何かと利用する頻度は増える。


片やミックは、常日頃、スーツにYシャツというカッコが基本で。
ほぼ毎日、クリーニングを利用している。
初めにその話を提案したのは、ミックだった。
たまにしか使わない香のポイントカードに、自分が利用した分のポイントを貯めてあげると。
だからミックは、クリーニング屋では槇村香名義のポイントカードを利用している。
普段はミックが使う事の方が多いので、香が使う時にこうしてミックが返してくれるのだ。
ある一定のポイントが貯まると、割引券が貰える。
もうそろそろ、厚手のアウターを一斉にクリーニングに出そうと香は思っていたのだ。
そしてミックは、カードを香に届けるのと、
先日の取材旅行土産を渡すのを口実に、朝から冴羽アパートに入り浸っているというワケらしい。





それを聞いて、僚はあからさまに憮然とする。
僚には香の利用するクリーニング屋などに、一切興味は無い。
確かカウンターにいる受付は、モッコリ美女でも無く、若い男でも無く、エロオヤジでも無く、
パートの中年女性だ。
僚が警戒する要素は、何一つ無く。
そんな所は、一切ノーマークだった。
しかし、敵は足元もとい、向かいのアパートに居たのだ。
灯台下暗しとは、この事か。


多分、あのパートのおばちゃんにしてみたら。
カードの履歴から、まるでミックと香が夫婦だと勘違いされてもおかしくない状況である。
だからと言って、別に何も困りはしないのだけれど。
僚は不愉快この上ない。
そんな2人の遣り取りに、眉間にクッキリと皺を寄せながら、
香が皿に載せて目の前に置いてくれた、バターの塗られたトーストに齧り付く。
もう1つの皿には、カリカリに焼いたベーコンとスクランブルエッグが乗っている。
僚がトーストを口に入れた瞬間、ミックの口角がキュインと持ち上がる。
僚は訝しみながらミックを視線で威嚇するも、ミックは何故か余裕の表情でニヤリと笑う。
シンクの前で、2人に背を向けてフライパンを洗っている香だけが、
そんな2人の攻防を知らない。
お互いに無言でメンチを切りながらも、ミックはいつもの調子で言葉を続ける。





この前の、パン屋さんのサービス券どうだった?使った?


あ、そうそう。行ってみたの~、
すっごい美味しいから、ウチもあれからずっと、あそこで食パン買ってるの。





香は相変わらずシンクを向いたまま、答える。
僚は香の“食パン”という言葉に、自分の手の中のトーストを見詰める。
そう言えば少し前に。
香から、トーストはどうかと訊ねられた時の事を思い出した。
どうやらそれも、ミックからサービス券を貰ったのがキッカケで、
いつもと違う所で買って来たという事らしい。


あの時、自分は何と答えただろうと、僚は瞬時に記憶を手繰る。
向かいの席に座って勝ち誇ったように微笑むミックが、僚の癇に障る。
香のあの何気ない質問が、これの伏線だった事を知っていたのならば。
僚は迷わず、マズイ。と答えたであろうが。
この食パンが冴羽家の食卓に採用されたという事は、きっと旨いと答えたのだろう。
そして。
確かに、旨い。






香が調理器具を手早く洗い、シンクの上の戸棚からコーヒー豆の入った缶とミルを取り出す。
僚とミックは、自分達の方を向いた香を前に、一旦休戦し、水面下(テーブルの下)で攻防を繰り広げる。
香はまるで気付かずに、穏やかな表情で豆を挽き始める。
僚とミックと自分の3人分。
いつもより少し多めに豆を挽く。
僚はそれまでの、独占慾剥き出しモードなど微塵も感じさせずに、新聞を読んでいる。







・・・カオリ。


ん?


この間言ってた、お米屋さんには行ってみた?


あぁ、まだなの。あそこ安いって、美樹さんにも訊いてたんだけど・・・ちょっと遠いでしょ?


ああ、確かに歩いて行くにはちょっと距離あるかな?


ウチはほら、お米は10㎏単位で買わないと間に合わないから・・・








そう言って、香はチラリと僚の方を見る。
僚は香の視線には気付かないフリで、牛乳の入ったグラスを新聞の向こう側からそっと取る。
それはさすがに、僚の盲点だった。
いつの間にかミックは僚に抜け駆けして、香の食い付きそうな話題で香の懐に潜り込んでいたのだ。
しかもそれは、僚の最も関心の向かない事柄。
不覚にも程がある。
ミックの意味深な微笑みが、僚をイラつかせる。
そんな僚とミックの些かしょうも無い心理戦など、香は我関せずなので脳天気に会話は進む。








美樹さん所はね、海坊主さんが10㎏の袋3つぐらい抱えて買って来てくれるらしいんだけど・・・


Oh~,カオリ。さすがにレディには、そんな重たいモノ持たせられないよ。
今度、ボクで良ければ荷物持ちを買って出るよ♪






そんな会話の流れに、さすがの僚も半ばヤケクソだったのだ。
バサリと、無言で新聞を畳むとハッキリと言った。






車、出すから。



へ???・・・今なんて言ったの???りょお。





突然の僚の言葉に、ミルを回していた香の手が止まる。
ミックもニヤニヤしながら、僚を見詰める。
僚は珍しく真っ赤になりつつも、もう一度早口で宣言する。






だぁっかっらっっ、車、出しゃ良いんだろ?米買いにっっ////


・・・・いいの?


良いも何も、それ喰ってんの殆ど、俺だかんな////








僚はそう言ってそっぽを向くと、
コーヒー、リビングだからな~~~と言いながら、その場を後にした。
香はキッチンを出る僚の背中に、小さな声で“ありがと”と呟く。
そして嬉しそうに真っ赤に頬を染めて、豆を挽くのを再開した。








ミックはその瞬間、完全に僚に負けてしまった。
一気に形勢逆転で、完敗だ。
結局の所、ポイントカードもサービス券も安売り情報も。
香にとっては全て、それは僚との生活の為で。
どんなにミックが姑息な手段で、香に媚を売っても。
僚の一言で、香はアッサリとこんな顔をして笑う。
けれど、とミックは思う。


この勝負は、負けるわけにはいかないのだ。


次は何処のポイントカードにしようかと、早速、次の手を考え始めていた。














ミック、姑息(爆)
久し振りに、気分転換にお題を書いてみました。
[ 2013/04/21 20:19 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

“意味深な台詞で10のお題”始めます ヽ(*´∀`*)

01. それってどういう意味?

02. デートしてるみたい

03. バカみたいじゃない

04. 期待してもいいの?

05. それくらい自分で考えろよ

06. 恋なんて面倒臭い

07. いっそ俺のになっちゃえば

08. もしかして、口説いてるの?

09. この気持ちは言葉に出来ないよ

10. いま、好きって聞こえた





以上、10題。
順不同で取り掛かります



お題配布元: “天球映写機”さま

意味深№2. デートしてるみたい

それは、本当にたまたまで。


よくある依頼のよくある展開で。
依頼人の美女を付け狙う変態ストーカーをまんまと誘き出し、
偽りの恋人役を買って出た僚(僚曰く、あくまでも仕事の一環であるらしい)と、
依頼人の美女が偽りのデートの場所に選んだのは。
いつだったか、僚と香が素性を隠したままデートした、あの港の傍の公園だった。
偶然にも、今回の依頼人はこの公園のすぐ傍に住んでいる。
僚の調べに寄れば、犯人と彼女は生活全般の行動半径がほぼ丸被りである。
白昼堂々のデートスポットで、犯人も必ずどこかで2人を監視していると踏んでの計算だ。


あの時と違うのは、僚の相手が依頼人の美人OLで、
香がベンチの後ろの茂みからコッソリと、恋人同士(仮)を見張っているという点だ。
因みに香曰く、“犯人が現れたら可及的速やかに身柄を拘束する為に張っている”というのも、
実際の所は、
僚が調子に乗って無理何発を要求する、というセクハラを未然に防ぐ為である。
何しろ、犯人を捕え次第、その身柄は冴子へと託される手筈は整えているのだから。





依頼自体は、さほど計算が狂う事も無く、恙なく終了した。
気の小さい奴ほど、ストーカーなどに成り下がるもので。
簡単に僚から、腕を捻り上げられてアッサリと戦意喪失していた。


そもそも、その依頼は冴子経由で2人に持掛けられたモノであり。
犯人の身柄を引き取って行きながら、警察官が護衛の元、彼女をすぐ近くの住まいまで送って行った。










港の公園で。
残されたのは、冴羽商事の2人。
週末の午後。
周りには幸せそうな家族連れと、目の遣り場に困るようなカップルだらけ。
隣にいる香の、甘やかなクセ毛から漂うシャンプーの薫り。


あの時は、日付を跨ぐような時間だった。
真っ暗な中に対岸の夜景と、真っ黒な水面が揺れる世界だったけど。
こんな土曜日の昼間の明るい日差しの中で、あの時と違ったシチュエーションに僚の胸が高鳴る。
高級なブランド服も無い、ウィッグも要らない、お互いに自分を偽る必要の無い明るい世界。






これじゃ、まるで・・・・
(デートみたいじゃねぇか・・・)






そう思うと、僚の頬も思わず緩む。
伊集院夫妻の結婚式で、初めて僚が告白したけれど、2人は未だプラトニックで。
モヤモヤしては、やり過ごす。
ましてや、デートなど。
あの。
素性を隠したままの、苦甘いデートだけだった。








ねぇ、りょお。


うん?


何か、ちょっとデートしてるみたいだね。







そう言って笑った相棒の柔らかな頬を、僚は優しく抓る。
せっかく自分が堪えて、皆まで云わずに留めていたというのに。
香は時々やけにアッサリと、僚の言えない本音を言ってのけたりする。





なぁにが、デートだょ。家に帰り着くまでが、依頼なんだぞ?






ついさっき。
自分も同じ事を想った事は秘密にして、僚は生温い潮風の中を駐車場の愛車へ向けて歩き始めた。









あぅ、メチャクチャ睡魔に襲われながら書きました(テヘ)
文章変な所があったら、すみません(汗)

意味深№3. バカみたいじゃない

だいたい僚には、危機感が無さ過ぎると香は思う。




否、こう言うと語弊はある。
あの万年常春男は、一応、ああ見えて殺し屋である。
だから。
早急に命の危険が伴う場合の危機には、野生動物並みに超絶敏感ではある。
けれど、長期的スパンでジリジリと迫り来る危機には、至って無関心を決め込んでいる。


麗らかな春の日の午後。
JR新宿駅東口に置かれた伝言板には、今日も心待ちにしていた報せは無かった。
前回の依頼解決から、もう既に2ヶ月が経過している。
その間にも着々と増え続ける僚のツケが、
明らかに冴羽商事の経営と、冴羽家の家計を圧迫している。
早い話しが。
食費を切り詰めるにも、もう既に限界は超えているという事だ。


ちょうどその日の朝(というか、ほぼ昼前。)
香の作った朝食(というか、ほぼ昼食。)を、旨そうに目を細めて喰らいながら。
僚は香の小言を聞いていた筈だ。
香がこんなにも、焦燥感を抱いて、毎日財布の中身と睨めっこしながら生きているというのに。
目の前の張本人は我関せずで、朝から丼飯を4杯平らげた。
勿論、昨夜も午前様だった(ツケである)


一頻り小言を垂れた香に、僚はニンマリと微笑むと今日の味噌汁、旨い。と、言い放ったのだ。


日頃は、褒める事など殆ど無いクセに(その割には、よく食べる。)
そんな時ばかり、そんな事を言う。
それが無性に、香の神経を逆撫でする。
(しかし味噌汁が美味しいと言われて、心の中で小さくガッツポーズする事は忘れない。)
もしも、鉄砲の弾に当たったら勿論死ぬんだけど。
ご飯が食べられなくても、意外とアッサリ飢えて死んでしまうんだという事に、僚は無関心だ。
種馬の耳に念仏である。









依頼の無い日の駅からの帰り道は、足取りも重い。
スーパーに寄る事すら、今日はもう控えなくてはならない。
冷蔵庫と、食料庫の棚の中身から、今夜の献立を組み立てなければならない。
脳内であらかたのイメージを描きながら歩いていると、視界の端に常春男の姿を捉える。




「そこの、モッコリおねいさぁぁ~~~ん♪リョウちゃんと、あっそびましょうっっ」




香の額に、青筋が浮かぶ。
僚はお金も無いクセに、女の子を誘うのは平気らしい。
もっとも。
誘うだけは、タダである。
そこから先の成功率に関しては、すこぶる低いスコアを叩き出しているのが常だ。




馬っ鹿っっ、馬鹿しい。



一瞬だけ、香がジロリと僚を睨む。
僚も香を視界の端に捉えた瞬間に、香へと視線を走らせる。
ホンの、0.数秒間。
2人の視線が絡まる。



香の表情に名前を付ければ、『怒り』だ。



“怒り”にも、色んな種類がある。
この日の香のお怒りは、89%の冷めた怒りである。
しかし、表面上では冷めていても、腹の底ではドロドロに溶けた怒りのマグマが渦巻いている。
そして残りの11%は、諦めである。
そんな香の複雑な怒りを、僚も視線の絡まった一瞬で正確に読み取る。


香とは対照的に、僚の腹の底では零れたインクが滲むように、ジワリと不安が広がる。
この毎度毎度の、近所迷惑な僚の日課は。
香の制裁によって一件落着と相成る訳だけど。
ごく稀に、その制裁を施す事すら面倒臭くなるという、香のお怒りモードが頂点に達する時がある。
何だか、今日はそんな感じの日の様な気がしないでも無い。
というのが、僚がホンの0.数秒で導き出した見解だ。









案の定、香は僚を華麗にスルーすると、
自宅アパート方面へと、歩調を緩める事無く僚のすぐ傍を通り過ぎた。
香が擦違ったその刹那、間の悪い事に、ナンパ相手の女子大生風ギャルが、



『え~~~、お兄さんの奢りなら、付き合ってあげてもイイよ~~』


なんて言うから、僚は寿命が若干縮んだ気がした。
表面的には、鼻の下を最大限に伸ばし切ったスケベ面で。
見るからに軽そうな頭の弱そうな女の、何のオチも無いしょうもない話しに相槌を打ちながら。
腹の底では、お怒り度MAXの相棒の機嫌を如何に回復させようかと、邪な算段を見積もっている。





僚のすぐ傍を擦違った瞬間、最も聞きたくも無い男女の軽い駆け引きが香の耳につく。
香には絶対に真似など出来ない、甘えるような媚びるような喋り方、仕草。
僚がきっと好きそうな、『オンナ』という生き物。
僚に背中を向けた瞬間、香は歩調を強める。
まるで僚にハンマーを叩きつける瞬間をイメージするように、アスファルトを蹴って歩く。
いっそ、ハンマーで潰してやれば良かったかと、ホンの少しだけ後悔する。





馬鹿みたい
馬鹿みたい
馬鹿みたい
ばぁっかじゃないのっっ


意地悪でスケベで大メシ喰らいでぐうたらで。
アタシにだけ、冷たいヤツ。










それでも、アタシは。


そんな、アイツが。


多分、この世で1番。


好きで。








どんなに、怠け者で危機感に乏しくても。
返す当てもないツケをこさえて来ても。
男女なんて言われながらも、時折下着をちょろまかされて。
ハンマーを振り回しながら、追いかけ回して。
でも。



味噌汁が、旨い。


って言われただけで、舞い上がってしまう。
結局。
あんな馬鹿な僚が好きなアタシは、それに輪を掛けて筋金入のバカみたいじゃない?と、香は思う。




相変わらず、アスファルトを踏み鳴らしながら。
それでも香の口角が自然と持ち上がり、笑顔を形作る。
何だかんだ言ったって、恋なんて。
馬鹿になったモン勝ちなのだ。
生きてゆくのに、ご飯ももちろん必要だけど。
香にはどうやら、恋と笑顔も同じくらい大切みたいだと気が付いた。
また今度、里芋と油揚げの御味噌汁作ろう♪と、香は思う。









結局、ナンパ相手との語らいは、彼女を一方的に怒らせる方向へと仕向けて終了した。
残ったモノは、僚の左の頬にクッキリと浮き上がった手形と、
僚の少し前方を、意気揚々と歩く凛とした相棒の背中。
僚は頭の片隅で、上手い事香をキャッツに誘う口実を考えながら、香の背中を追いかけた。









お絵描きしました①

夢見がちなリョウちゃんを描いてみました。



脱力注意です。




脱力リョウちゃんは、コチラ
↓↓↓↓↓

[ 2013/04/27 20:25 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

お絵描きしました②(つづき)

・・・りょうちゃん、後ろ。
[ 2013/04/27 21:09 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

お絵描きしました③

実は、ワタシ。
先日、ペンタブを購入致しまして。


お絵描きの練習してまぁ~~~~す。










[ 2013/04/28 06:48 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

※基本スペック※必読※

30000Hits Req. Vol.5  ケシmeets1chan 


                『波間の2人』


このお話しは、3万ヒット企画・第5弾。1chan様よりリクエストの続き物のお話になります。
パラレル設定になるので、以下のスペックをお読みになってご理解戴けた方のみ、
先へお進みくださいませ~~~~。









冴羽僚・・・・私立探偵。HN:マーロウ(勿論、由来はフィリップ・マーロウから。)


槇村香・・・・OL。HN:くろねこ。



僚と香は、チャット仲間です。
お互いに、面識はありません。




※ 話数は、今の所未定です。

① WEBの波間で。

23:14



お風呂から上がって、お肌の手入れを手短に済ませ、日課のストレッチを終えると、
槇村香は、独り暮らしの1Kのアパートの小さな部屋で、愛用のノートPCを開いた。


仕事は可も無く不可も無く、退屈で。
入社4年目の、新人でも無く、かと言ってベテランとも言えない中途半端な年頃だ。
同期の女子達の内、もう既に2人ほど寿退社した。
残された女子達は、このところ婚活に余念がない。
香も時々、合コンに誘われるけど、正直香はいまいち興味が無いのが本音だ。
なんだか、無理やり出会いを求めて突き進むのも、違う気がすると思うのだ。
勿論、友達たちの言うように、待っていても出会いなど、そうそう訪れるモンでも無い事は、
香とてよく解っているつもりだけれど。
それでも、何処かで。


自分だけの、唯一の出会いを心の何処かで夢見ているのかもしれないと、香は思う。子供染みているケド。


香のここ最近の日課は、寝る前の30分程のチャット。
とあるコミュニティサイトの、チャットルーム。
以前は複数の人と、他愛の無いお喋りのつもりでたまに参加する程度だったケド。
今はすっかり、“ある人”と仲良しになってしまった。
どちらから誘うワケでも無く。
毎晩、この位の時間に声を掛ければ、必ずつかまる。
そして30分程、お喋りをしておやすみなさいと言い合って1日を終える。








僚は、仕事関係の書類に目を通しながら、新しい煙草に火を点けた。
ふと、壁に掛かった時計に目を遣ると、23:00を少し過ぎたところだった。


何となく、いつもの日課で。
PCに向かう。
いつものサイトの、いつものチャットルーム。
示し合わせたワケでも無いけれど、いつもの相手との他愛の無い会話。
相手の名前も知らない。
相手の顔も知らない。
けれど何も知らなくても、色々知っている。
好きな本とか、好きな音楽とか、好きな食べ物とか。








  マーロウさん、こんばんわー

  こんばんわ、くろねこさん。

  何してました?

  何もしてませんよ(笑)たばこ、吸ってました。

  そう言えば、この間教えて貰ったベーグルサンドのお店、行ってみました。

  どうでした?

  とても美味しかった(*´∀`*)おともだちにも、好評でしたよ。

  それは、良かった。アソコは、俺もよく行きます。

  そうなんですか!?私はもう何度か行ったんですよ~~~

  知らない内に、会ってるかもしれませんね(笑)

  あはは。そうかも。

  仕事はどうですか?

  相変わらずです。この間は、話しを聞いて頂けて、それだけですっきりしました。ありがとうございました。

  どう致しまして。話し聞くだけなら、いつでも出来ますよ。







そもそもの始まりは、香の勤め先のある新宿で、
何処か美味しいランチのお店が無いかと、ネットで探していたのがキッカケだった。
そのコミュニティは、新宿界隈の情報交換のサイトで。
たまたま、知り合った僚は。
新宿を拠点とする、私立探偵だった。
僚には仕事柄、情報屋と呼ばれる類の知り合いがわんさかいるが、
それと同時進行で、ネットなどの細かな情報も取り入れると、その中にも色々と興味深いモノはある。


沢山いる内の1人に過ぎない顔も名前も知らない人間が、気が付くと。
いつの間にか、良く知った友達のように感じてしまう事だって、たまにはあるのかもしれない。
まだ、2人は出逢っているようで、出逢っていない。
けれど確実に。
1日の終わりに、他愛の無い会話を交わす事が楽しくなっている。




(つづく)


パジャマな2人

リョウちゃんは、赤Tにボクサーパンツ。
カオリンのパジャマは、原作参照です。
[ 2013/04/29 23:20 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)

様々な幸せのかたち

・・・三者三様(汗)
[ 2013/04/30 02:05 ] お絵描き練習 | TB(0) | CM(0)