参萬打☆企画  告知!!

おはこんばんちわっっ、ケシでございます。



いやはや、春の訪れを花粉と黄砂とピーエムなんたらと共に感じる、今日この頃。
皆様方に於かれましては、如何お過ごしでございましょうか。
ココで、余談ですが。
花粉症には、蓮根と共に乳酸菌の含まれる食べ物の摂取が効果的だそうですよ。
ちょっと考えた限りでは、食べ合わせ的には、壊滅的でございます(涙&嗚咽)
ま、そんな事はどうでもイイのですがっっ
30000HITS企画ですよ、皆様っっ



先日、取り急ぎ、感謝の気持ちはお伝えしておった所ですが。
一昨日までの連載にも、漸く一区切りがつきまして・・・
やはり、今回は『リクエスト祭り』にしようかなぁ~~~と考えておりますです、はい。
いやはや、何とも。
捻りの無い脳みそでかたじけない(´∀`*)ゞえへへ


というわけで、募集要項に関して。
今日1日、ダラダラとチョコフレークを食べながら思案しておりました。
(いやなに、チョコフレーク。ワタシがこの世で1位2位を争う勢いで好きなお菓子なのです・握拳)
そして、遂に。
カカオとコーンと油脂と糖分と塩分の力を借りてっっ、
ワタシの溶解寸前脳に、ピッキ~~~~ンと閃きが駆け巡ったのであります。
(実際には、摂取カロリーが大幅に、1日の目安をオーバーしただけというね・悲哀)

つきましては、下記の要領でリクエストを募集いたします(ジャジャ~~~ン)

                ↓↓↓↓↓↓↓↓







募集期間: 2013.03.10.(Sun.) 0:00~23:59  の丸1日間。


《募集方法》

※ 募集期間の丸1日、期間限定募集専用記事をUP致します。

※ リクエストをご希望の方はその記事のコメント欄に、
  お名前(勿論、HNでOKです。)、リクの内容を、非公開で投稿して戴きます。

※ 情報を一元化する為に、原則、拍手コメントでの投稿は無効とし、
  記事のコメント欄(重要)に、投稿して戴きます。



《注意事項》

※ リクエストにお応えする順番は、必ずしも、受け付け順とは限りません(汗)
  あくまでも、妄想が沸いた順という事で、ご了承願います(脂汗)
  それを、ご理解戴けた上で、気長に待って戴けると幸いです(陳謝)

※ 基本的に、リクエスト内容に関する注意事項は、キリリクと同じという事で・・・
  死にネタ・どエロ(変態系・官能系)・決別ネタなどは、戴いても書けないと思います(平謝)
  ただ、この所少しだけ成長(ワタシ的にというだけです・汗)が見られまして。
  『別離ネタ』に関しては、この限りでは無いと思い始めました。
  その、別離をどうとらえるか、という事に気が付きまして(テヘ)
  ハッピー・エンドならば、という前提の元でなら、それも切なさの1つの演出としてアリかなと。
   
※ 荒らし、誹謗中傷など、明らかにリクエストと見受けられないコメントが有りましたら、
  それらは、さっくりスルー・削除させて戴きます(*´∀`*)ノシばいちゃ、シッシッ

※ もしも万が一、複数名の方でリクエストが被ってしまった場合は、
  止むを得ず1つのリクとしてカウントするやもしれません(汗)
  しかし、こればっかりは受付する前から何とも言えませんので、
  ケースバイケースで対処させて戴きます。




 




と、こんな感じでっす
そもそも、リクエストが来るのかと・・・(甚だ疑問・汗)
もしも、来なかったり、来てもごく少数の場合、募集期間は延長してもイイかな、なぁんて思います(テヘ)
逆に殺到しても、この1日だけは受付する覚悟でっすっっ!!
(全てお応えし終わるのに、途方もない時間が掛かるかもですが・・・)
何はともあれ、こればかりはフタを開けてみないと何とも言えませんので。
超ドキドキです


一応、告知して昨日の今日では、不親切だと思いまして。
1週間後の3/10に、募集日を設定いたしました m(_ _)m
何分、ワタシとしましては、初めての試み故、何かと不手際も生ずる可能性がございますが。
ご容赦のほど、ヨロシクお願い申し上げます!!
この企画の趣旨は、あくまでもこれまでこの辺境自己満足ブログサイトまで、
お運び戴いた皆様方に、楽しんで戴きたいという願いが元となっております。
ご理解賜りますよう、申し上げます。



それでわ、今後とも管理人共々、当ブログ『tears of a clown』をご贔屓のほど・・・
宜しくデッス!!感謝しマッス!!
                                 2013.03.02. ケシ
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[ 2013/03/02 18:22 ] ごあいさつとお知らせ | TB(0) | CM(1)

お題27. ファイト!

20代ももうすぐ半ば。

恋人無し、好きな人有り。

貯蓄無し。

住まい、社宅のようなモノ、家賃無し。

趣味、節約と料理と掃除。

特技、ハンマーを駆使した猛獣馴らし、匠直伝のトラップ。










・・・・・・・職業、スイーパー助手。














夜も更けた深夜1時過ぎ、槇村香は風呂上りのパジャマ姿で1人、
ベランダに出て缶ビールを飲みながら、盛大に溜息を吐く。
発泡酒では無い。ちゃんとした、ビールだ。
相棒が数日前に買い込んで、冷蔵庫に仕舞っていたヤツを1本失敬した。
もっとも当の相棒は、今頃は微かに見えるあの歌舞伎町のネオンの何処かで、
350mlのヱビスビールなんかより、もっと値の張る酒を水のように飲んでいる。


僚の相棒になって以来、昔の友人とは疎遠だ。
それでも、今の生活には今の生活なりの、大事な友人が居て。
それは、自分と僚共に共通の仲間だったりして。
香は彼らが大好きだ。
でも、やっぱり。
たまに、親友のデザイナー北原絵梨子経由で、
誰それが結婚しただの、子供が産まれただの聞いたりしたこんな夜は。
自分の人生と、照らし合わせたりしてしまう。
勿論、その行為に意味など無い事は、香とて重々承知だ。
もし今、香の目の前に、今とは違う人生の選択肢が提示されたとしても。
多分香は、今のこの生活を選ぶだろう。


だから、不満とかそういう事じゃ無くて。
本当に、純粋で単純な疑問。


どうすれば、あの浮浪雲のような、根無し草のようなアイツと。




香は相棒に惚れている。
相棒は殺し屋で、一見脳天気に見える2人の暮らしを支えるのは、闇の中にだけ存在する裏稼業で。
それでも香は、そんな事はこの際どうでもイイ。
そんな事は、兄と僚の関係を知った10代の頃から、とうに受け入れていたし。
何より、惚れた男の信条は香にとっても同義で。
だからこそ、彼の相棒をやっている訳で。
だから香の悩みは。
専ら、恋の悩みなのだ。


恋人はいないが、好きな人がいて。
好きな人は、このひとつ屋根の下共に暮らす、スケベで怠惰な相棒だ。
人一倍、大飯喰らいで。
それなのに、香が喧しく尻を叩かないと働かない怠け者で。
人一倍、女好きで。
香が厳しく目を光らせていないと、依頼人にまで迫る始末で。
そのクセ当の香には、一切女扱いする事など無く。
毎日、夜遊びに興じる遊び人。


それでも、香はこの数年のヤツとの暮らしで、知ってしまった。


僚が本当は、
優しくて、孤独で、傷付きやすくて、熱くて、面白いヤツだという事を。
これまでの人生で、僚が失ってきたものや、手放してきたもの。
僚の心の中の空洞を。
だから香は、
せめて自分だけは、僚の傍に居続けようと思っている。
問題は、僚がそれに関してどう思っているのかという事で。
それだけは、誰にも解らない。




「・・・りょおのバカ、スケベ、穀潰し・・・」







僚がいつもの夜遊びを終えて自宅に帰ると、
最愛にして最強の相棒が、ベランダで1人ビールを飲みながら、己の悪口を呟いていた。
その言葉に、重々自覚がある僚は腹は立たないけれど、思わず苦笑する。
玄関先での強烈なお出迎えが無いと思ったら、相棒の新たなる攻撃である。
これはこれで、地味に効く。






おまぁ、何勝手に人のビール飲んでくれちゃってんの?





突然、背後からそう言って声を掛けた相棒に、香は寿命が3年ぐらい縮んだかと思うほど驚いた。
言葉とは裏腹に、ベランダの入り口に佇む相棒の表情は穏やかだ。
何処からどう見ても、酔っ払っているようには見えないけれど、
尋常では無い程の、酒臭さ。
その中に紛れた、薄い硝煙と煙草の薫り。



おかえり。


ただいま。




僚がそっと香の隣に並んで、同じように外を眺める。
まだ肌寒い春の始まりの、水分を孕んだ夜気に香の風呂上りのシャンプーと石鹸の薫りが混ざる。
僚がそっと深く息を吸い込んで、その香の薫りで肺を満たした事など、香は知らない。
香は、僚の恋心になど気付いていない。
僚は香の手に握られた、半分ほど減った金色の缶を取り上げる。
何の躊躇いも無く、香の飲みさしのそれに口を付けると、残りの半分を美味しそうに飲み干した。




あ。


ん?


・・・べ、別に。


フッ、変なヤツ。







間接キッスだ、と香は思ったのだ。
中学生の頃や、高校生の頃は、そんな事をすればたちまち冷やかされたし、
そもそも。
あの頃の友達が、オトコの人と暮らす香を見れば、
きっと恋人同士だと思うだろう。
でも。
恋人じゃない大人の男と同居して、
間接キッス位では大騒ぎしない程には、香も大人になった。
けれど、心臓は煩いほどに脈打っている。
僚にとっては、きっと何でもない事なんだろうケド。






確かに自分は、報われない恋をしているのかもしれない。
相手は自分を、親友の妹で、おっちょこちょいの相棒としか見ていないのかもしれない。
職業柄、色んな問題もあるし。
僚はスケベで、1人の人間に縛られて生きて行くタイプでは無いのかもしれない。
それでも、それは。
別に世の中に良くある片思いと、大して変わらないんじゃないかと香は思う。
そもそも、侭ならないから片思いなんであって。
恋とはそもそも、全て始まりは片思いからスタートするもんじゃないかと。






ごっそうさん、おまぁもサッサと寝な。風邪引くぞぉ。




僚はそう言うと、空き缶を香の手の中に戻し、
香の半乾きの猫毛を、大きな手でクシャクシャと撫ぜた。
おやすみぃ~~、と言いながら一足早くベランダを出て行った。


これだから、香はこの片思いを止められないでいる。
香が少しだけ、この気持ちに疑問を感じたりした時に、絶妙なタイミングで僚が現れる。
そんな事は些細な事だと、一瞬にして気付かせてしまう。
間接キッスと、頭を撫でただけで、香の心ごと全て掻っ攫って行ってしまう。
香を悩ませる張本人のクセして。
まるで、香の片思いにエールを贈るように、優しく笑う。
だから香は。
また明日も頑張ろうと、前向きな気持ちになれる。
難解で複雑に絡まった究極の片思いに、挑んでゆく闘志が湧いて来る。



いつの日か、間接キッスが本当のキスに変わるまで。











実はリョウちゃんの方こそ、心臓バクバクだと思います(笑)
片思いの2人、萌える。
[ 2013/03/03 16:09 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

※基本スペック※必読※

このお話しは、パラレルです。
以下のスペックをお読みになって、
OK・全然大丈夫っっ!!という方のみ、

『第1話・路地裏の出逢い』へ、お進み下さいませ。







舞台・・・・場所は新宿、喫茶キャッツ・アイ。
      昼間はカフェ、夜間はバーとして営業している。


冴羽 僚(28)    店長・バーテン。キャッツの夜の部を任された、イケメンバーテンダー。


ミック・A(26)   コチラもバーテン。


伊集院隼人(不詳)   キャッツオーナー。バリスタ。昼間に1人でカフェを担当している。


槇村 香(19)    別名:カオル君。バイト。バーテン見習い。







またしても、パラレル始めました(汗)
カオリンは、SugarBoyのイメージで。


   
[ 2013/03/05 21:06 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第1話・路地裏の出逢い

1人目は、得意の回し蹴りで。
2人目は、鳩尾に入ったエルボーで。
不良たちは苦しそうに、地べたに蹲っている。

3人目、
香の計算通りならば、右ストレートが最後の1人をノック・アウトする予定だった。





それは、想定外だった。
新宿の薄暗い路地裏、まだ開店前の飲み屋のバックヤードが軒を連ねるそこに。
転がった、1本のバーボンの空き瓶。
香のスニーカーの踵が、それをホンの少し踏んでしまった。


ぐらりと揺れた視界の隅で、不良がニヤリと笑った気がした。


奴らはついさっきまで、中学生相手にカツアゲをしていた。
そこに偶然にも通り掛かった槇村香は、お節介にも加害者と被害者の間に割って入って今に至る。
香はこの世で一番、卑怯なヤツが嫌いだ。
小さな頃から兄貴に、卑怯者になってはいけないと教えられて、大きくなった。
自分達の遊ぶ金欲しさに、目下の人間にたかって脅すようなヤツらは成敗してやると思ったのだ。


怯えた少年から奴らを引き離すベく、連中を煽りつつ追いかけっこしながら辿り着いた路地裏で、
香は瞬く間に2人を畳んだ。
主導権は香が握っていた。
子供の頃から、何故だかケンカでは負けた事が無かった。
香は、正真正銘、生粋の大和撫子だけど、悲しいかな男の子に間違われる事は日常茶飯事だ。
けれど、ココに来て一気に形勢逆転だ。


香は咄嗟に身構えた。
転んだ隙に、1発や2発喰らうのは覚悟した。
これまで、ケンカは負け無しだけど、全くの無傷というワケでは無い。
香は心の中で、ペロッと舌を出す。
失敗した。
ケンカの立ち回りの時には、自分の足場をよくよく確認するのが基本だ。


香は無意識に、グッと奥歯を噛み締めると、目を瞑った。
次に来る衝撃に備えて、咄嗟に頭を両手で庇った。







数秒後、想定した衝撃が訪れる事は無かった。
けれど尻餅をついた香の、すぐ隣にある気配。
香はそっと目を開けた。


黒いスラックスに包まれた長い脚。
その先にある、磨き込まれた革靴。
そのつま先が、3人目の顔面を真正面から捕えていた。
香が目を開けた次の瞬間、最後の不良は情けなく気を失って頽れた。








「立ち回りの足場は確認しておくのが基本だぜ? ぼうず。」






そう言った長い脚の持主を、香は見上げた。
黒い革靴、黒いスラックス、黒いベスト、白いワイシャツに臙脂の蝶タイ。
座り込んだ香が見上げた彼は、恐ろしく大きい。
両手にビニールの手提げ袋を抱えている。
何処からどう見ても、近隣の飲み屋の従業員である。








袋の中身は主に、チャームの乾き物と、カクテルに使う柑橘類だ。
後は、その他諸々、消耗品。
店長と言えど、僅かバーテン2名で切り盛りしている店である。
交代で雑用をこなしても、2回に1回は自分の番がやって来る。
そんな夕暮れ時。
冴羽僚は、その現場に出くわした。


たまたまだった。
脚を伸ばした丁度良き所で、ゴリラのような顔をしたクソガキの面に上手い事ヒットした。
どうやら、ガキのケンカらしい。
ごっついゴリラ君のお相手は、華奢でヒョロヒョロな色白の美少年だった。


至極驚いた表情で、自分を見上げている彼は。
全くのノン気の僚からしても、少しだけそそるものがある。
別に、厭らしい意味では無い。
言葉では表しにくいけれど、妙に人を惹き付けるオーラを全身から放っている。
だから僚は思わず、あのような事を言ってしまったのかもしれない。
コイツなら、申し分ない。






それが、冴羽僚と槇村香の出逢いだった。



(つづく)



[ 2013/03/05 21:30 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第2話・利害の一致

グゥ~~~キュルルル~~~~


薄暗い路地裏で、香と僚が向かい合ったその時。
盛大な腹の虫が啼き始めた。
僚は日頃、馬車馬のように食欲旺盛だが、
残念ながら、その虫を飼っているのは僚では無かった。




・・・おまぁ、腹減ってんのか(苦笑)?




思わず僚は、苦笑する。
実を言うと、僚は数m手前から先程のケンカ騒ぎを目撃していた。
結構、強そうなガラの悪い輩を1対3で翻弄し、軽やかに沈めるしなやかな動きに、
正直、僚は少しだけ魅入られていた。
しかし、今この目の前の華奢な少年は、まるで幼い子供のように無邪気だ。











香が高校を卒業した年の夏、香の兄は他界した。
刑事だった。
仕事中の不幸だった。
香の父も刑事で、兄と同じく、香が幼い頃に殉職した。
香も、もう少し勉強が苦手でなければ、警察官になる事も考えたけれど、
警察官の採用試験は香にとっては、難し過ぎる。
父も兄も、香名義の銀行口座に香の為に、多額のお金を残しておいてくれた。
でもそれは、香にしてみれば手を付ける事など許されないモノで。
今の所、香は兄と2人で住んでいた公団住宅の部屋に1人で暮らしながら、
アルバイトで生計を立てている。



早朝は、中学生の頃から続けている新聞配達のアルバイトをして、
昼間は、食堂で働いていたのだけれど。
そのバイト先の食堂が、先週一杯で閉店した。
今の所、香の仕事は朝刊の配達のみで、この数日新しいバイトを探していた。
そもそも香は、それ程お金の必要な生活はしていないケド。
職を失うという事は、予想以上に切迫した焦燥感を感じる。
この所、極端に家計費を切り詰めていて、香は少しだけ飢えていた。








先程は、しなやかな野生動物のように躍動していた彼が、僚の問いに素直にコクンと頷く。
生憎、開店まではまだ暫く余裕がある。
買い出しの袋の中に、冷凍品も冷蔵品も無い。





メシ、喰うか?


・・・・おごり???


お、おぅ(汗)




己の問いに、僚が苦笑している事など気にも留めずに、
香はニマァっと微笑むと、コクコクと頷いた。
今の香なら、簡単に誘拐魔に攫われる可能性がある。
もっとも、香を誘拐しても一文の得にもならないが。
(食費がかかるだけである)


数分後、2人は僚の良く行く定食屋にいた。
小汚くて狭いその店はしかし、安くて旨くてボリューミーだ。
馬車馬のお墨付きなので、間違いは無い。
僚は、生姜焼き定食をライス大盛りで注文した。
そして香は、
唐揚げ定食と別に、単品で野菜炒めとコロッケとカレーライスを注文した。
流石の馬車馬も、目が点である。


しかしコイツは、この店のボリュームを知らないのだと、僚は思った。
喰えそうになければ、自分が喰ってやれば良いだけだと、高を括っていた。
しかし。
予想を遥かに超えていた。

メッチャ、喰う。

この細っい身体の何処に、そのメニューが消えて行くのか謎である。









・・・おまぁは、欠食児童かっっ(苦笑)


最近、まともなモノ食べて無かったから。





僚の呆れたような呟きに、香は淡々とそんな事を言う。





おまぁ、幾つ?


・・・・19。


学生?


ううん、プータロー。





僚の質問に、香はむしゃむしゃとご飯を食べながらイチイチ答える。
素直な所は、香の長所だ。




・・・ウチの店で働かない?


店って???




食事を奢って貰っておきながら、今更感はハンパ無いが。
この目の前の大男は、明らかに水商売の人間だ。
香は思わず訝しげに、眉を潜める。
幾らバイトが見付からなくても、ホステスは嫌だと香は思う。
きっと、自分には向いて無い。





別に、怪しい店じゃねえよ。普通のバー。


ばあ???


あぁ、バー。けどまぁ、ちょっとだけコンセプトは特殊でさぁ。バーテンは、イケメンに限る。
んでもって、俺はそこの店長サンね♪




そう言って、僚はニカッと笑ったが、
対照的に、香はムスッとした。

(イケメンって・・・、男扱いかよっっ!)





時給は、・・・そうだな、1500円で、どぉ?




その瞬間、香の脳内では素早く算盤が弾かれた。
夕方から夜中まで、6~7時間として、週5×4・・・・
ムスッとしていた表情が晴れ、瞳がキラリンと輝く。
何なら、ヨダレまで垂れる勢いだ。
因みに、早朝の新聞配達の時給は、900円である。




やるっっ!!



即答である。







で?おまぁ、名前は?


ふぇっ???え~~~と(汗)・・・か、かお・・る。


ん、そうか。んじゃまぁ、取敢えずヨロシクな、カオル君。あ、俺はリョウちゃんね♪






こうして、香の新たなバイト先が、新宿の裏通りの小汚い定食屋で決まった。
因みに、採用の条件は。
オトコノコのフリをする事だ。




(つづく)




※ 拍手コメントに、リョウちゃんがカオリンの事を女の子だと気付いてるのかどうか、
ご質問がありました。勿論、リョウちゃんは男の子だと思い込んでおります(笑)
解りづらい文章で、スミマセン(*´∇`*)このまま暫く、勘違いは続きます♪
[ 2013/03/06 21:25 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第3話・新入りは美少年

ミックはその日珍しく、少しだけ早目に店に着いた。


僚とは、子供の頃からの腐れ縁だ。
僚の家は代々、事業家で。
ミックの父親は、僚の家のホームドクターだったから。

2人の息子は見事にドロップアウトを果たし、
今の所、後継者にもならず医者にもならなかった。
毎晩、2人をお目当てにやって来る肉食系女子達にお愛想を言って、シェーカーを振るのが仕事だ。


いつもの店内の、いつものカウンターには。
いつもとは違う、初めて見る少年が座っていた。
色の褪せたジーンズに包まれた華奢な脚はスラリと長く、
くりくりの栗色の癖毛の下の、端正な顔は小さい。
タイトフィット気味の革のライダースジャケットを羽織り、気怠げにカウンターで頬杖を付いていた。





ハァイ、坊や。悪いケド、まだ開店前だよ。出直してくれないかな?




そう言ったミックの方に、香が向き直る。
大きな薄茶色の澄んだ瞳。
ミックはノン気だが、一目で彼に魅せられた。
香は、あぁこの人がもう1人の。と思う。
僚曰く、俺と相方2人で回してるから、正直もう1人くらい労働力を求めている。所だったらしい。
つまりは、僚の相方か、と。





あ、・・・あの。店長にココで待ってろって・・・言われたんで・・・



リョウ?



あ、はい。



ふ~~ん。






ミックは思わず、しげしげと香を見詰めながら、どういう知り合いだ???と、首を傾げる。
そこに、店の奥のバックヤードから、僚が戻って来た。
手には、クリーニングの袋が掛かったスラックスと、ベストを持っている。




・・・お待たせ~~~、カオル少年。ん? なんだ??ミック、今日はやけに早くね?




そう言って、珍しく真面目に出勤して来た“相方”に目を丸くする。
ミックはそんな僚のリアクションには、一瞥もくれずに僚に詰め寄る。




リョウ。


な、何だよ(汗)


誰なの?この、SugarBoyは。


あ?




僚は思わず、ミックと香を交互に見詰める。
そして手の中の、Mサイズの制服に視線を寄越す。
それから漸く、ミックの質問の意味を理解する。
香をひょんな事から、スカウトして2日。
ミックにはまだ、新入りが来る事も、それが香である事も報告していなかった事に、
この時初めて、気が付いた。




あ~~~、コイツは新入りのバイト、カオル君だ。


どうも(ペコリ)



香がペコッとお辞儀する。
顔を上げた時、ミックが2歩ほど近寄っていて香はビビった。
慄いている香をヨソに、ミックは香の顎に指を掛けると軽く左右に香の顔を動かしてみて、
あらゆる角度から、香を観察する。
香は内心、何なんだこの人(滝汗)、と焦りまくっている。





うん、なかなかイイね。


・・・だろ?俺ってば、女を見る眼も肥えてるケド、オトコ見る眼もあんだろう?





僚はそう言って満足げに、胸ポケットから取り出したマールボロを咥えると火を点けた。
確かに、香は美しい。
見ようによっては、絶世の美少年だ。
だが。
僚のオトコを見る眼とやらは、残念ながら無い。
香は女の子である。



その晩から、喫茶キャッツ・アイ(夜の部)は、
身長190㎝超の色男2名と、175㎝の華奢で小柄な(男子としては)、美少年(仮)1名の。
計3名で、やる事になった。
これから、カオル少年(ホントは女子)がお客にモテまくる事など、
この時の彼らはまだ、知る由も無い。


(つづく)


[ 2013/03/08 19:30 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第4話・深夜の焼肉

初日の仕事を終えた深夜。
僚とミックは香の歓迎会を開いてやると言って、3人連れ立って新宿の裏通り、
小汚い1件の焼肉屋へと、赴いた。



カフェバー・キャッツ・アイでの仕事は、香にとってはさして重労働でも無かった。
今まで香がやって来たアルバイトと比べると、肉体的疲労は軽いモノだ。
むしろ、男の子のフリをする事の方が意外と気を遣うので、脳みその方が若干お疲れ気味である。
無意識に男の子に間違われる事は、多々有れど。
意識的に男の子を演じるとなれば、意外と難しいと香は痛感した。
しかし。
香が思うほど、僚もミックもそんな事を気に掛けてもないのだった。
“カオル”が実は香で、“美少年”では無く美少女である事には、
今の所、微塵も気が付いてはいない。



その店は、独特な佇まいを醸していた。
きっと、一見でこの店を訪れる者は、余程の冒険家もしくは勇者である。
勿論香は、一切そのような事を気にするタイプでは無いし、他2名は常連だ。
七輪からもうもうと上がるケムリの充満する白い世界の店内には、
明らかに水商売風の客しかいない。
飲み屋の黒服と思しき、男3人連れと、
ホストと風俗嬢と思われるカップル、それと僚たち3人が、それぞれ離れたテーブルに着いている。
深夜2時を回って焼肉を喰らう人種など、ほぼ昼夜逆転しているとしか言いようがない。
僚とミックが店内に入ると、黒服達3人が軽く会釈をする。
カップルの男の方は、お疲れでぇ~~す、と声を掛ける。
僚たちも軽く手を挙げて、それに応える。
顔見知りなのだろうと、香は思う。




数分後。
テーブルには、所狭しと肉が並べられ、大ジョッキの生ビールが3つ運ばれて来た。
僚と香が並んで座り、向かい合ったミックとの間、テーブルの上に七輪が置かれている。
香は自分の目の前に置かれたビールを見て、固まっている。



なに?おまぁもしや、飲めねぇの???



僚が今更感満載の質問を香に投げ掛ける。
初めて会った日の定食屋で、香は19だと言った筈だ。



・・・飲んだ事、無い。


何で???


・・・・・・・・何でって。未成年だし。




僚とミックは、暫し見詰め合うとパチパチと何度か瞬きをした。
お互いに軽く頷いて、無言のコンタクトを図る。




そりゃそうだけど・・・でもまっっ 飲め飲め。気にすんなっっ


そうだよ、カオル。一応、これからバイトとは言えバーテン見習いなんだ。嗜みだと思って、飲みなよ。



香はコクンと頷いた。
きっとこの場に、今は亡き兄貴が居たら盛大に嘆くだろう。
それでも、兄貴はもういないのだ。
そして香は元来、好奇心と食欲だけは人一倍旺盛なのだ。



それじゃ、仕切り直しという事でっっ、お疲れ~~~~。それとついでに、カオルの歓迎の意味を込めて。



僚の乾杯の音頭を合図に、
3人は、かちゃんとジョッキをぶつけると、それぞれ最初のひと口に舌鼓を打った。

その黄金色の発泡性の飲み物は、予想以上に美味しいと思った。
何より、脂っこい肉や、濃い味のタレにとても良く合っている。
途端に、香は楽しくなった。






僚とミックのプライベートトークは、8割方猥談である。
口角泡を飛ばしつつ、他人が聞いたらドン引きするような話題で終始盛り上がっている。
その締まりの無いスケベ面の2人は。
つい数時間前、

僚目当てに月に2~3度来店する丸の内の美人OLの為に、
ラム・マンハッタンを軽くステアしている僚の涼しげな目元や。

ミックに入れ込んでいる、何か爽やか目のが飲みたいわと言った美人看護師の為に、
パラダイスをシェイクしていたミックの鮮やかな手つきとは。

全くと言って良いほど別人で。
元来、彼らの本性はコチラの方である。




ぜってぇ~~~、巨乳だっっ


いいやっっ、微乳の方が萌えるっっ


ロリコンかっつ~の、この似非天使!!


オマエの方こそ、マザコンかっっ!!未だに、乳離れ出来ないってか(笑)




彼らのバストの好みは、いつも綺麗に真っ二つに意見が分かれる所だ。
脚が綺麗なのが好みだという点では、2人の意見は一致している。
香は終始この調子の2人の話しを、綺麗にスルーしながら黙々と目の前の肉を平らげてゆく。
彼らの話しの半分ほどは、香には意味が解らなかった。
しかし、所々意味の解る範囲で推測すると、ロクな話しでは無い事だけは充分理解できた。




ねぇねぇ、カオルはどう思う?巨乳派?それとも、ボクのお仲間??




香が全く油断して骨付きカルビを堪能していると、突如ミックに話しを振られてしまった。
香は思わず、良く咀嚼しないままの大きめの肉の欠片をゴクンと飲み込んだ。
一気に耳まで真っ赤になって、湯気を出しそうな勢いで固まっている。
そんな香の反応に、当の質問者たるミックの方が軽くビビる。
この程度の話題など、10代の少年なら日常会話だろう?と。


しかし、ミック・エンジェルという男は、元来小動物のような生き物を見ると、
甚振りたくなる(ミックの解釈では可愛がっているのだが)という性質を持った、典型的なサディストだ。
次の瞬間、ニヤリと厭らしく口角を上げる。




さては、カオル。 君、ドーテイだね(わくわく)?




香はまた更に、赤さを増して完全に石化する。
手に持ったジョッキが、カタリと音を立ててテーブルの上に不時着する。
幸い3杯目の生ビールは、つい今しがた飲み干した矢先だった。
香は心の中で、激しく動揺している。

(な、何故、解るっっ???)

勿論、童貞では無く処女だけど。
香はセックスどころか、男子と付き合った事すら無い。
キスも手を繋ぐのも、何もかも未経験で。
そもそも、初恋すらまだなのだ。
目の前の金髪エロオヤジは、そんな香の動揺など全く意に介さず、
キャッキャと楽しそうにはしゃいでいる。




そうか~~~、ドーテイかぁ(ニンマリ)かぁいいなぁ♪ カオルは(きゃは)
ボクにも、そんな純粋な頃があったよなぁ・・・






1人固まる香。
1人はしゃぎまわるミック。

そしてもう1人、僚はというと、
むっつりと押し黙って、眉間に皺を寄せていた。
ザッツ・不機嫌。
不機嫌・オブ・ザ・キング、である。
何の事は無い。
ミックが楽しんでいるその役を、自分がやりたかったという、只それだけだ。


(クソッッ ミックめっっ カオルは俺が拾って来たんだっつ~の!! 俺のなのに


僚は鬱々とそんな事を考えながら、麦ロックを一気に呷る。
ビールは最初の1杯だけで、後はオヤジ臭く焼酎に移行していた。
香のビールのお替りのピッチが上がったのは、このすぐ後の事だった。

香にはそれ以降の記憶がプツリと途切れてしまって、
その後その夜の事を、何度思い返してもどうしても思い出せないのであった。




(つづく)
[ 2013/03/09 12:09 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第5話・衝撃の朝(というか昼過ぎ)

少しづつ覚醒する意識は、香に様々な情報をもたらす。


自分のモノでは無い、鼾の音。
何だかごつごつした固い所(床かな?)で、寝ている感触。
頬の下に感じるもぞもぞした繊維の肌触り。
恐らくは、ジーンズも革ジャンも装着したままの窮屈さ。

目を開けるよりも先に、音や、感触や、匂いや空気の淀み具合を各受容器官がキャッチする。




某焼肉屋で香の歓迎会という名の、飲み会を開催した3人は明け方に泥酔して僚の部屋に帰り着いた。
僚とミックにとっては、いつもの事だ。
ミックの“ドーテイ祭り”以降、ピッチを速めた香の飲酒はビールから焼酎へ、
焼酎からバーボンへと進み、バーボンから先は僚たちですら良く覚えていない。
よくよく考えれば、急性アルコール中毒にならなかったのが不思議なほどの飲みっぷりである。
しかしその代わりに、
焼肉屋のテーブルに突っ伏して眠ってしまった香を、背負ってココまで連れて来たのは僚だった。
もしも香が、僚の好きな巨乳ならその時点(否、それ以前か。)で女子だとばれただろうケド。
生憎、香のバストは未だ発展途上の超微乳なので、僚にとって香は余裕で男の子のままである。



香が目を擦りながら、起き上がる。
カーテンの隙間からは、明るい日差しが見えるのでどうやら朝らしい。
(この時の香はまだ知る由も無いが、この時既に昼過ぎだ。)
香が寝ていたのは、フローリングの上に敷かれた毛足の長いラグの上で。
そのすぐ傍にあるソファには、昨日の夕方に初めて会ったブロンドの職場の先輩が、
恐ろしいまでの鼾をかいて爆睡している。


ライダースジャケットは、襟元までキッチリジッパーを留めたまま。
窮屈な体勢で眠っていた香の全身は、妙な感じに軋んでいる。
驚いた事に、ドクター・マーチンのワークブーツまで履いたまま眠っていた。

(欧米かっっ!!)

香は心の中で、1人突っ込む。
1人突っ込みにニヤニヤと声を立てずに笑いながら、香は取敢えずブーツを脱いで傍らに置く。
そしてこの時に漸く、昨夜、焼肉屋に行った事を思い出す。
しかし、ココが何処なのか。
どうやってココまでやって来たのか、香には皆目覚えが無い。
あれだけ飲んだけれど、香には二日酔いの症状は無かった。
身体の関節が変な感じに軋んでいるだけで、それは床の上で爆睡したせいである。



(ココ、何処???)



広々とした恐らくは、リビングルーム。
ミックの眠る、大きくてゴージャスなソファ。
フローリングはピカピカで、香が寝転んでいたラグの趣味もイイ。
カーテンは遮光性らしく、隙間からホンの少し光が差しこんでいるだけで、部屋の中は薄暗い。
テレビは無い代わりに、これまた高そうなオーディオが据えられ。
片側の壁一面に、レコードが収納された作り付けの棚がある。


ココはミックの家なのか、それとも僚の家なのか。
香は首を傾げる。
口の中が、変な感じに粘ついていて。
歯磨きがしたいと思う。
香は取敢えず立ち上がり、洗面所とトイレを借りる事にした。


少しだけ迷って、大体の当りを付けたドアの先にトイレがあった。
トイレも、掃除が行き届いている。
そして、この家がとても広い事だけは解った。
香が住む、2DKの公団とは全く違う。
トイレの隣のドアが洗面脱衣所で、その先がバスルームのようだった。







香は鏡に映った、自分の有様に驚愕した。
ボサボサの寝グセ、むくんだ顔(あれだけ飲めば当然だ。)、頬に残る口紅のキスマーク。





ななななな何これっっ?!?!?!



一気に眠気は吹き飛んだ。
一体、昨夜何があったのだろう。
香が軽くパニックを起こしかけた所で、脱衣所に上半身裸の僚が現れた。
香同様、ボサボサの寝グセ頭で。
鼻が曲がるほど、酒臭い。
勿論、それは香も同じなのだが、自分の臭いは自分でいまいちよく解らない。




おお、起きたか。少年。



僚はそう言ってニヤッと笑うと、香の横に来て洗面台の鏡を開いて、
鏡面裏に造られた物入れから、新しい歯ブラシを香の為に出してくれた。



ホレ。


あ、ありがと。


おまぁは、ミドリな。


は?


俺は赤で、ミックは青なの。






そう言って僚が指差したのは、洗面台の上に置かれた透明のピカルディグラス。
色違いの歯ブラシが2本立てられ、歯磨き粉が傍に置いてある。
思わず、香は吹き出す。
イイ歳こいた男同士が、仲良く歯ブラシをコップに立てているという光景に。
そして、ココに3本目(緑色)が加わる。


香がニヤついていると、突然僚が香の頬を優しく抓る。
キスマーク部分だ。
僚は密かに、柔らかな香の頬の感触にちょっと可愛いなと思う。
ヒゲすら生えている気配が無い。





モテモテだな、ドーテイBOY




僚の“ドーテイ”という言葉に、香はまたしても真っ赤になる。
僚はニヤニヤしながら、香に訊ねる。


「気持ち悪くない?」

香はコクンと頷く。

「そっか、まぁ、上出来だ。あんだけ飲めりゃ。・・・おまぁ、見込みあるよ」

そう言って、僚はニッコリ笑う。

「おまぁも、後でシャワー浴びろよ。パンツぐらい貸すぜ?」

そう言った僚はしかし、少しだけ考え込んで香のジーンズに包まれた腰をガッと掴む。

「・・・いやでも、俺のパンツじゃブカブカだな(苦笑)」






香はあまりに突然の僚の行動に、激しく動揺していて。
パンツのサイズの事など、もはやどうでも良かった。
勿論、香の動揺など全く意に介していない僚は、香の後ろで服を脱ぎ始めた。
と言っても、パジャマのボトムと、ボクサーパンツだけだが。
シャワーを浴びに来たのだから、当然と言えば当然である。


でも、おまぁ、ほっせぇ~~~な。あんだけ喰ってんのに、虫でも飼ってんじゃねぇかぁ??





そんな事を言いつつ、
僚はサッサとバスルームへと消えた。
独り、鏡の前に残された香は。
真っ赤になって、シッカリと固まっていた。






鏡越しに映った僚の全裸。
もじゃもじゃの毛の中から生えた、肌色のシッポ。
否、シッポとは普通、生き物のお尻に生えているモノである。




ははは初めて、見た///////



香は取敢えず、冷たい水で勢いよくキスマークの付いた顔を洗った。
これまで、父と兄と生きて来て。
勿論、本当に小さな子供の頃は一緒にお風呂にも入ったけれど。
香の物心ついた槇村家では、一度も目にする機会など無かった。





この時の香はまだ、
早朝の新聞配達を、無断欠勤した事になど気付いていなかった。



(つづく)


[ 2013/03/10 19:21 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

リクエストの結果発表でございますm(_ _)m

こんばんわ~~~、ケシでございますっっ


30000Hits企画続報でございます!!


昨日、1日限定でリクエスト募集・専用記事を掲載しておりまして。
皆様方の心躍るリクエストの数々を頂戴いたしましたっっ ヽ(*´∀`*)ノうわぁい

結果、総勢29名の方々から、嬉しいコメントを戴きまして。
なんと、1人の方もご要望が被る事も無く、つつがなく終了致しました

下記に、お名前を発表させて戴きますっっ
畳んでおきますので、良かったらご覧になってみて下さい!!
ご協力・感謝申し上げます m(_ _)m


  それでは、ポチッとな 
[ 2013/03/11 19:30 ] 30000Hits企画 | TB(0) | CM(6)

第6話・意外に照れ屋な店長さん

酔い潰れて僚の部屋で雑魚寝していたその日、
夕方まだ早い時間に、僚は香を連れて行きつけの酒屋と問屋を回った。


どちらも、新宿の外れでひっそりと地味に商売をしている様に見えて、
実の所、信頼のおける取引相手だ。
僚から香を紹介された酒屋の親父は、
香の華奢な腕を見て心配そうに、ちゃんと飯食えよ。と忠告した。
それを聞いて、僚は思わず苦笑するも、敢えて何も言わずに店を出た。
香が意外に、人見知りせず親父と談笑しているのを見て、
僚は香のスカウトが正解だった事を確信した。
仕入れ相手に可愛がられて、損は無い。





次は、ナッツ類とかフルーツとか置いてるとこな。


うん。


アソコの婆さんは、好き嫌い激しいからな。馴れるまでは、凹むだけ無駄だぞ。


・・・怖いの???


ふふふ、怖かぁねえけど。口は悪ぃな。





酒屋から数m先のその店には、2人以外にも飲み屋のボーイらしき数人の先客がいた。
何人かは、僚に軽く会釈をしたり、一言二言話し掛ける。
皆、香の事はチラッと見るだけだ。






おばちゃん。




僚が声を掛けると、その店の女主人が振り向いた。
咥え煙草で、ニタッと笑う。




よぉ、種馬。




どうやら、種馬というのは僚の呼び名らしい。
香はどういうあだ名だよと、内心呆れつつ、数時間前の脱衣所での光景を思い出して冷や汗を掻く。
僚はそう呼ばれても、平然と世間話をしている。
香は所在無げに、僚の隣で2人の遣り取りを眺める。




で、そこの坊主は?



香が多少ボンヤリしかけた所で、彼女の矛先が香に向かう。
香は思わずハッとして、ペコリと頭を下げる。




こいつぁ、新入り。これから時々は、コイツ寄越すから。



僚の言葉を聞いているのかどうなのか、女主人は香の前に立つとしげしげと香を品定めする。
僚はいつものノリなので、苦笑しながら婆と美少年の対決を生温く見守る。




・・・ぅうむ、細いなぁ。シッカリ喰いな、チェリー。



そう言って、彼女は破顔した。
僚はプッと吹き出したあと、腹を抱えて爆笑した。
亀の甲より、年の功である。
海千山千の妖怪のような彼女には、皆まで語らずとも香が童貞かどうか解るようだ。
もっとも、チェリーでは無く、ヴァージンの間違いだけれど。
香だけがまたしても真っ赤になって、膨れている。
昨夜からもう既に、何度目かわからないドーテイ祭りである。




買い出しから店へ帰る道すがら、僚は香に袋一杯の荷物を持たせ、自分は手ぶらで歩いた。
支払いは月末に纏めてオーナーがやるから、
品物を受け取ったら、伝票にサインだけして納品書だけ受け取る事。
大概2~3日に一度は、婆さんの店に行く事。
酒は在庫を見ながら補充するので、それよりも頻度は少な目。
量が多い時は、配達してもらう事もある事。
そんな事を説明する。
香はそのいちいちに、頷く。




おまぁ、婆さんに気に入られたな(笑)


嘘だっっ、さっきの遣り取りのどこら辺が???


・・・・全ぇ部っっ。プププ。





またしても僚が笑うので、香は唇を尖らせる。
プゥッと膨らんだ柔らかな頬を、僚が笑いながら摘む。
香は少しだけ、ドキッとしたけれど、それ以上に子ども扱いされているようでムカつく。





抓るなよ、種馬。


拗ねるなよ、チェリー。


うるせぇ、種馬。


うるせぇ、チェリー。




2人はその調子で、店までの道のりをイチャつきながら帰った。
途中で、2人が初めて出逢った路地の前を通ったけど。
もう2人は、とっくにあの時の事など忘れかけている。
それは、たった3日前の事なのだ。
2人はまるで、もっと前から知り合いだったような気がしている。







その日の営業時間に、香のファン第1号が来店した。
真夜中の焼肉屋にホストの彼氏と一緒にいた、キスマークの張本人だ。
香は全く覚えていないケド、どうやら香は彼女に滅法気に入られたらしい。
彼女曰く、もうホストの彼氏はどうでもイイらしい。
金が掛かるし、高飛車だし、浮気性だし、
カオル君みたいな、ウブな子の方が可愛い。との事である。
香は内心、かなり有難迷惑だったが、僚とミックは良かったなぁと冷やかした。




最後の客を3人並んでドアの前で見送ったのが、深夜2時を少し回った所だった。
それからミックは、野暮用がある(デートだ)とかでサッサと帰り、
僚はレジ締めをし、
だから香は、やや広めの店内を1人で掃除した。
それでも香は、特にそれが苦では無い。
掃除は得意なので、口笛を吹きながら丁寧に床にモップを掛けていた。
僚が咥え煙草で売り上げを数えながら、その香の口笛に知らず微笑んでいる事は、香は知らない。




カオル。




僚に呼ばれて、香は床に落としていた視線を上げる。
いつの間にか、レジ締めは終わったらしい。
僚はニッコリ笑うと、香に手招きをした。
香は首を傾げると、モップを持ったままカウンターに近付く。
僚は目線と指先だけで、向かいのスツールに掛けるように合図する。
香はモップをカウンターに立て掛けると、スツールに腰掛けた。



僚は香が座ったのを確認して、背面の膨大な酒瓶の中から、
ホワイト・ラムとホワイト・キュラソーを選ぶ。
カウンターの裏側、作業台の上に置かれた籠の中からレモンを1つ選ぶ。
ちょうど良い手頃なサイズのそれを選ぶと、ペティナイフで2つに割る。
ガラス製の絞り器で、レモンの果汁を絞る。
2種類の酒を馴れた手つきで計量して、氷と果汁と一緒にシェーカーに入れる。
それはまるで、手品を見ているようだった。
リズムよくシェーカーを振った僚は、香の前にカクテルグラスを置くと、薄っすらと蒼白い液体を注いだ。



どうぞ。



僚が楽し気に伺うように、香を見る。
香は、その華奢なグラスを持ち上げる。
初めて酒を呑んだのは、ちょうど1日前の事だ。
それらは武骨なジョッキや、ロックグラスに注がれたモノで。
香は初めてそんな繊細な飲み物を呑んだ。




・・・・・・美味しい。



僚は香の言葉に、笑みを深くする。





それはな、XYZって言うんだ。


・・・XYZ


あぁ、アルファベットの最後の3文字。もうこれ以上は無いって意味。
最高で、究極のカクテル、だと。






香は僚のその説明を聞きながら、
ホンの70ml程の、そのカクテルをクッと飲み干した。
僚は香が飲み終えたのを見計らって、今度はカウンターの中へと誘う。




コッチに回っておいで。




香も素直に従って、カウンターの僚の隣に並ぶ。
今度は、ドライジンと、ドライベルモット、冷蔵庫の中からオリーブを取り出す。
ビーカーが長くなったような変わったグラスに、計量したジンとベルモットを氷と一緒に入れる。
バースプーンを使って手際よく、ステアする。
カクテルグラスに注いで、仕上げに華奢な金色のピンに刺したオリーブを飾る。





バーテンって言ったら、シェイクしてるイメージだろうケド、基本はステアだ。簡単なようで、難しい。




香も真剣に耳を傾ける。





やってみるか?


えっっ!!! オレ????


あぁ。俺がやってたの、見てたろ?


・・・う、うん。


同じ様に、やってみ。






香も見よう見まねで、ドライ・マティーニを作る。
2客のグラスに透き通った、香と僚それぞれが作ったカクテル。





ひと口づつ、飲んでみな?




僚に促され、香がそれぞれを飲み比べる。
それは、香の舌でも判別できるほどの、歴然とした違いだった。
計量も、手順も、全て僚の真似をした。
香は料理には、そこそこ自信がある。
これでも、忙しい兄や父に代わって、小学生も高学年になると家事の一通りはやっていた。
見た所、単純な計量と手順だし、簡単そうに思えたけれど。
それは全然、ダメだった。




意外と、難しいの。




取敢えず、ドライ・マティーニで練習な。
僚はそう言って笑うと、香が作った方の失敗作を飲み干した。
香には、自分が作った奴を差し出す。
使った器具とグラスを手早く洗いながら、僚が少しだけ早口で言った。





あ~~~、それから。
俺の事、店長じゃ無くて、りょうって呼べ。



え??





香はこの2日、一応、僚を呼ぶ時は店長と呼んでいた。
だって、初めて会ったあの日、僚が自分でそう言ったから。




あ~~~。なんだ、その。そういう柄じゃねぇの、俺。




そう言って、そっぽを向いた僚は心なしか照れている様に見えた。
香は何だか、妙に可笑しくなった。
いい歳をした(僚が何歳かは知らないけれど)種馬が、照れている。




じゃあ、種馬って呼ぶのは?




香がふざけてそう言うと、
僚は眉を顰めた。






・・・・ばぁか、おまぁは20年早い。




2人はまだ知らない。
これから先こんな何でも無い夜が、
2人にとって少しづつ大切な宝物になっていく事など。



(つづく)


[ 2013/03/12 18:56 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(2)

嘘吐きは恋人の始まり(前篇)

ドッゴォォ~~~ンッッッ






早春、2月半ばの夜明け前。
まだ夜も明けきらぬ薄暗い新宿の街に、巨大ハンマーを叩きつける轟音が響き渡った。
そしてその音と同時に、震度1程度の微弱な揺れが局地的にその界隈に巻起こる。
しかし、近隣住民は慣れたモノで。
隣の女探偵や、向かいの金髪ジャーナリストに於いては、
一旦、薄っすらと目を覚ましたモノの。

(あぁ、僚は今日も朝帰りか・・・)

と、思う程度で。
再び、夢の世界へと帰って行く。




その頃、震源地たる冴羽アパート601号室リビングでは。
明け方とは思えぬ程の、凄惨な光景が繰り広げられていた。
一度、巨大ハンマーによって叩き潰された、ボロボロで尚且つ、へべれけの冴羽僚は。
ソファに足を組んで座った般若のような形相の槇村香の足元に、小さくなって土下座しつつ、
過酷な尋問を受けている。





「で?こんな時間まで、何してたのかしら? 僚。」


「・・・・は、はい(脂汗)ミックとねこまんまで、盛り上がっておりまして・・・・・」





背筋に悪寒が走るのを感じながら、僚は歯切れ悪く答える。
香は土下座した僚の後頭部に、100tハンマーをグリグリと押し付けながら、応酬する。





「へぇ~~~。ウチの何処にそんな余裕があると思ってんの?
      未払いのツケが幾ら溜まってると思ってんの、アンタ。」



「あ、あの~~~(滝汗)解ってるつもりなんすケド・・・・
 ミックの野郎が、どうしてもって言うんでつい、断り切れずにですねぇ~~~」





この場にいないミックに、責任を転嫁する僚に。
香の脳内の何処かで、何かが、プチンと音を立てて切れるのが解った。
その音に僚の野生の勘が風雲急を告げたその刹那、逃げる間もないままに。
トゲトゲの生えた鉄球が、僚を直撃する。




いっぺん死ねやっっ!!このロクデナシがぁっっ!!




意識が途切れる直前、僚は。
真っ赤な顔で湯気を噴き出した香が、捨て台詞を吐きながらリビングを出て行くのを辛うじて目視した。
しかし。
流石に一晩寝てない上に、100tハンマー&コンペイトウは、
ハタチどころか、三十路をとうに超えた僚には、いささかハードすぎる。
僚はそのまま、抗う事無く。
コンペイトウとリビングのコンクリの壁に挟まれたまま、束の間の休息をとった。
















その次に僚が目を覚ましたのは、数時間後の事だった。
香がリビングに掃除機をかける音で、目が覚めた。





「あ、おはよう。りょお。
 起きたんなら、サッサと朝ご飯食べちゃって? 洗い物、片付かないから。」





そんな事を言う香は、至って普段通りの香である。
ついさっき、あれ程までに怒り心頭だった彼女は。
取敢えず相方に暴力という形で制裁を科すと、溜飲は下がったらしい。
元来、人の善い彼女は。
それ程、怒りを引き摺るタイプでは無い。
ましてや、相手は他でも無い僚である。
この世の中で冴羽僚というロクデナシを、最も甘やかすのは他でも無い槇村香なのだ。



(・・・てか、カオリン(涙)この状況で、言う事がそれだけって、酷いんでない???)



まぁ僚が、心の中でそう思うのも無理は無い。
何しろ、彼が目覚めたその場所は。
リビングの壁と鉄製の凶器に挟まれた、ごく僅かな隙間だったのだから。





その日の午後。
僚と香は、2人揃って喫茶キャッツ・アイに居た。
伝言板には、相変わらず依頼は無かった。
しかしまぁ、それはいつもの事である。
今朝も僚が、朝帰りだった。
が、これもまたいつもの事で、今更不機嫌になっても時間の無駄だという事に、香はハタと気が付いた。


ファルコン特製・キャッツオリジナルブレンドは、そんな香の気分転換には欠かせないアイテムだ。
その薫り高い、香ばしい液体に香が目を細めた矢先、
もう1人の常連客が訪れた。
ミック・エンジェルである。
彼は来店と同時に、美樹にウィンクを寄越しつつ涼しげにセクハラ発言を繰り出し、
自然な動作でいつもの如く、当然の事ながら香の隣に腰掛ける。



「やぁ、カオリ。君はいつ見てもキュートだ。」



そう言って、ミックが香の手を握る。
しかし、次の瞬間。
ミックは香の瞳の奥に、メラメラと怒りの蒼白い焔が揺れているのを敏感に察知した。




「ど、どうしたんだい(汗)カオリ???ななな何か、ご機嫌ナナメだね・・・」
(オーマイガッッ ボク、カオリに何かしたっけか???)




ミックは思わず、握り締めていた手をシレッと離す。
もしもハンマーでど突かれるのなら、せめて受け身の準備くらいはしておかないと大変な事になるからだ。
けれどミックには、やましい事が多過ぎて、心当たりを特定するには至らない。
そんなミックの焦りなど、知る由も無い香は。
プゥッと頬を膨らませて、ミックに抗議する。




「ミックぅぅ昨夜、僚のこと飲みに誘ったのミックでしょ?
 お陰で僚、お金も無いクセに、まぁた朝帰りだったんだからっっ
 ミックんちと違って、ウチは万年貧乏なんだから。困るのよ。
 もうこれ以上、僚のこと飲みに誘わないで!!」




香のミックに対する抗議に、ギクッとするのは僚である。
片やミックが、そんな僚の些細な表情の変化を見逃すはずは無い。
ニヤリと笑って、アッサリと僚のアリバイを崩す。




「え?カオリ、誤解だよ(ニッコリ)昨夜はカズエが久し振りに早く帰ったからね。
 2人で久々のデートを満喫してきたよ。リョウと遊ぶほど、暇じゃ無かったさぁ




香は一瞬、狐に摘まれたようにキョトンとするも、
次の瞬間には、事の次第が読めて来て、再び徐々に怒りの様相を呈する。
もはや、ファルコン特製・キャッツオリジナルブレンドすら、効力は無い。




僚ぉっっ!!アンタ、また嘘吐いたわねっっ 
今度という今度はっっ 絶対にっっ許さないから(憤怒)




香は絶叫しつつ、僚の首根っこを締め上げていた。
しかし僚は往生際の悪いタチなので、それでも尚、悪あがきを止めない。



「あ、あれぇ?おっかしいなぁ・・俺、酔ってたしな。ミックじゃ無くて、海ちゃんだったっけか??」



苦し紛れも甚だしい僚は、海坊主を巻き込む作戦に打って出た。
が、当の海坊主に共同戦線を張る気は、サラサラ無い。
グラスを磨く手は休めずに、鼻を鳴らす。



「フンッッ、知るか。俺は昨夜、23:00に就寝した。
 オマエの言う“海ちゃん”てのは、るみちゃんかゆみちゃんかくみちゃんの間違いじゃねぇのか。」



「もう僚なんか知らないっっ!!バカ!!大嫌いっっ」



完全に、ドラム缶に松明を突っ込む勢いである。
案の定香は、これ以上に無いほどに真っ赤になって怒ると、
ゼロの桁数が読めないレベルの重量のハンマーを、僚に見舞って帰って行った。
残された僚以外の3人は、呆れて溜息を吐く。
香の前でだけダメージの大きいハンマーから這い出した僚は、飄々とコーヒーを飲んでいる。




「ねぇ、冴羽さん。どうして、そんな下らない嘘吐くの?お仕事だったの?」




美樹が訊ねる。
美樹の言う所の“お仕事”とは。
僚が香を連れて行かない類の、“お仕事”だ。
1人で出来る、狙撃とか。
逆に、ちょっと香を連れてくには、危なすぎる現場だとか。
香に言えば、絶対に一緒に行ってサポートすると言うに決まっているので、僚は言わない。


別に僚は香を信用していないワケでは無いし、相棒として力量不足だなどとは微塵も思っていない。
ただ単純に、危ない目に遭わせたくないだけだ。
幾ら僚が、裏の世界の最強だと目されていても、僚とてただの人間で。
いつどうなるのかなんて、誰にも解らない。
もしも死ぬかもしれないような目に遭うとすれば、それは自分1人で充分だと僚は思う。
香をそんな目に遭わすワケにはいかない。
ただそんな風に思っているだけだが、
香にしてみれば、そんなのはただの屁理屈に過ぎないという事も、僚も重々解っている。
しかしそれに関しては、そんなに簡単な話しでは無いのだ。


「・・・いや。別に、そういうワケじゃねんだけど・・・」


ともあれ、そんな“お仕事”の予定は、今の所無い。
僚はボンヤリと煙草を吸いながら、美樹の質問に答える。
僚がそう言う以上、ココにいる裏の住人達はそれ以上は詮索しない。





「リョウが人の事、アリバイに使おうなんて思うからこんな事になるんだょ
 ありゃ、当分カオリはご機嫌ナナメだね(嬉)プププ。
 ・・・・デュフフ(涎) ぢゃあ、早速ボクがカオリを慰めてあげようかなぁ・・・・・・」



心底、嬉しそうに涎を垂らすミックの後頭部を、僚は思いっきり舌打ちしながらぶっ叩く。
カズエという恋人がいながら、不埒なミックは油断も隙も無い。
僚は苦々しく眉を顰める。



けれど今はまだ、香に事の真相を明かす訳にはいかない。





(つづく)












え~~~と、今書きながら。
3夜連続になる事に変更しました(滝汗)
後篇の後、おまけを書きたくなりました(テヘペロ)


[ 2013/03/13 19:14 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)

嘘吐きは恋人の始まり(後篇)

(フンッッ!! 何よっっ僚のヤツ!!ホント、嘘吐きなんだからっっ)




香は怒りのあまり、キャッツを飛び出して来て、
今現在、その勢いのままアパートへと向かっていた。
香の恐ろしいまでの形相と、物々しいオーラに、道行く人は皆一様に香を避け、
自然と香の前後は、モーゼの十戒さながら道が開けてゆく。


それにしても、何故僚はあんな風に嘘を吐く必要があったんだろうと、香は考える。
別に飲みに行って午前様なんて、良くある事で。
わざわざ、ミックや海坊主の名前まで出して、頑なにシラを切った僚。
僚があのような態度に出る限り、
もうそれ以上押しても引いても、誰にも真実は引き出せない。
それは誰より香が、一番良く知っている。




僚との長い付き合いの中で、
僚が度々、香には告げない依頼をこなしている事は、何となくは知っている。
その事に関しては、香は僚を信じているので。
僚が何も言わない限り、香も何も訊かない事にしている。
勿論僚が全てを話してくれて、香の事をもう少し頼って、信頼してくれれば、香は嬉しいだろうけど。
だからと言って、それを僚に望むのは香のエゴだろう。
僚には僚の考えがあるし、相棒として香の助けが必要だと判断する時には、報告するはずだ。
香とてその位の事は心得ているつもりだし、
飲みに行くフリをして“仕事”を済ませて来る事も知っている。


でも。
今回に限って言えば、そんな様子でも無いのだ。
なんとくなくではあるけれど、香には“仕事”の時とそうでない時が判る。
強いて言えば、相棒としての第6勘というヤツだ。
今まで答え合わせなどした事無いので、その正解率のほどは良く解らないけれど、
かなりの確率で当たってるんじゃないかと、香は思っている。
そしてその香の第6勘が、今回の僚は白だと言っている。
だからこそ、今朝の朝帰りも。
ミックと飲んでいたという、僚の言葉を鵜呑みにしたのだ。



だったら何故、あんな風にまるで“仕事”をして来た時のような、白々しい嘘を吐く必要があるのか?







答えはひとつ。

(・・・・・女絡み?!)

ココまで考えて、香は怒りというよりむしろ、悲しみに近い感情に押し潰されそうになる。
何故ならここ最近、2人の仲は徐々に進展しつつあったからだ。
未だ最後の一線は越えられない2人だけど、日に何度かキスをする位の間柄にまでは進歩していたのだ。
ついこの間のバレンタインデイも。


病み上がりの僚に、手作りのチョコレイトをプレゼントしたら、
本当に嬉しそうに喜んでくれていたのに。
それなのに、いやそれだからこそ。
僚の意図の読めない、このような嘘は腹が立つし、疑心暗鬼にもなる。
こんな場合、
香の年齢よりも幼い部分や、恋愛経験の乏しさは、ハッキリ言って悪い方向にしか作用しない。



やはり、キス位、僚にとっては大した事無い出来事で。
喜んで舞い上がっているのは、自分だけではないのだろうか???とか。

僚に想われているなどとは、
またしても、全くの自分の勘違いなのではないだろうか???とか。



それ自体が全く見当違いな杞憂だが、
如何せんそれを判断できるほどの経験に基づくデーターなど、香は持ち合わせていない。
キャッツを飛び出してきた直後には、勇ましく凛々しさすら漂わせていた香の足取りは、
アパートに到着する頃には、ガックリと項垂れ、しゅんと萎れたモノに変わっていた。



もしも本当に、この度の嘘の理由が、僚の女性問題ならば。
今度こそ香は、立ち直る術を知らない。
今までただの香の片思いだと半ば諦めていた頃ならば、
腹が立つ事はあっても、これほど生々しい怒りや悲しみは知らずにいられただろう。
でも、今の香は。
僚の柔らかな唇の温度や。
自分を見詰める優しい眼差しを知ってしまった。
たとえ2人の間に、何の約束も確固たる言葉が無くても。
もし今ココで、僚のそんな色々が、自分1人のモノでは無いという現実を突き付けられたら。
香は多分悲しくて、2度と立ち直れないかもしれない。




その晩。
香がそんな風に、悲しい気持ちになっている事など知ってか知らずか、
僚はまた、飲み歩きと称して夜の街に繰り出した。


・・・僚の嘘吐き。嘘吐きは、泥棒の始まりなんだぞ。


僚の出て行ったリビングのドアを見詰めながら、香は無意識に呟いていた。














キッカケは、そんな僅かな擦れ違いから始まった。
僚が毎晩のように出て行って、朝帰りをするという日々がもうかれこれ1カ月弱続いている。



結局、僚の毎晩の外出は1日も欠かさず続き、
初めの内は、起きて僚の帰りを待ち構えていた香だったけど。
もうこの1週間はとうとう諦めたのか、僚の帰る頃には客間でグッスリと眠っていた。
この所僚は毎日、こうして明け方に帰っては、
香の顔を見る為に、真っ先に気配を殺して香の枕元へと赴く。
その度に、僚は心が折れそうになるのをグッと堪えた。


この1カ月弱、香の機嫌は最悪である。
原因は勿論、僚で。
僚自身にも心当たりは大アリだ。
半月ほど前からは、僚がキスをしようとさり気なく近付いても、何だかんだ理由を付けて交わされている。
どう考えても、明らかに拒否られている。



実の所、連日僚は何をやっていたのかというと、
アルバイトをしていた。


でも、漸くそれも今日で終わった。
僚はつい先程まで、歌舞伎町のとあるバーで期間限定のバーテンダーのバイトをしていたのだ。
初めは秘密でやっていた事だけど、この新宿で秘密が秘密のままで済むはずも無く。
程なくいつもの面々には、知れ渡る事と相成った。
けれど、その僚の毎晩の肉体労働の目的が明らかになった途端、
今度は逆に、瞬く間に箝口令が敷かれた。
もしもそれを破って、僚の行動を香の耳に入れるような者が居れば。
老若男女誰であろうが、ミックと海坊主の制裁が待ち受けてるという恐ろしい御触れが出されたのだ。






そもそもの始まりは、ひと月前のバレンタインデイに遡る。

今までだって、香は僚には毎年、手作りチョコをくれていた。
けれど、今年のバレンタインは僚にとって、特別でスペシャルな初めてだったのだ。
この数ケ月、少しづつ香との距離を縮めて、漸くキスまで漕ぎ着けた。
少しはにかみながら、病み上がりの僚にチョコレイトを手渡すと。


香は初めて、自分から僚にキスをしてくれた。


僚はこの時、あまりの感動に身震いしたと同時に、酷く不甲斐無い気持ちになった。
これまで香が僚に与えてくれた数え切れない色々に、果たして自分は何を返して来れただろうと。
香が喜んでくれるようなモノは何ひとつ、返す事は出来ないでいた。
僚からまんまと風邪菌を貰って、丸2日間寝込んだ香を看病しながら、
たった一言「好きだ」も満足に言えない自分自身に、僚も丸2日自己嫌悪に陥っていた。
そしていつもなら、なぁなぁでうやむやのホワイトデイに、
何かしら形に残るものを、香に贈ろうと決心したのだった。



僚にとって、プレゼントの資金を調達してくる事など、造作も無い事ではあるけれど。
今回だけは、どうしても意地を通したかった。
今までの僚ならば、それこそ金に汚いもくそも無かったが。
何故だか、どうしても“仕事”で簡単に手に入る金だけは使いたくなかった。
まるで初恋のガールフレンドに、必至で貯金してプレゼントを贈るガキのように。
僚も香に贈り物をしたかった。
それがたとえ、僚の自己満足だとしても。
確かに毎夜の外出は、“仕事”は“仕事”でも、純粋にただのアルバイトだったのだ。


いつだって全面的に香の味方であるミックと海坊主は、
今回の件に関しては、僚の嘘(サプライズ)を守る為のバックアップ体制を整えたというワケだ。
この新宿に生きる人間にとって、僚・ミック・海坊主の三者を敵に回すという事は即ち、死を意味する。


こうしてこの1カ月、唯一、香だけが僚のそんな涙ぐましい努力など知る由も無く。
香は香で、1人思い悩んでいたのだ。
そしてまた、深く諦めてもいた。
きっとやっぱり今回も、自分の思い違いだったんだろうと。
僚にとって、香は相棒で、親友の妹で、家族みたいなもので。キスなんて、挨拶で。
だからもうこれ以上、勘違いを重ねるのは止めにしようという、勘違いをしていた。
何となく、僚がキスを仕掛けてきそうな雰囲気になったら、何だかんだ理由を付けて逃げていた。
僚にとっては簡単なキスかもしれないケド、香にとっては違うから。
悲しくなってしまうから。


2人がお互いの真意など分からないままに、3月14日がやって来た。











その日1日、僚はずっとそわそわしていた。

昨晩の最後のバイトが終わったその時に、
顔見知りのマスターは、僚に1か月分のバイト代を手渡しでくれた。
そして昼、これまた顔見知りのジュエリーショップのオーナーから、
注文していたプラチナのリングを受け取った。
何の飾り気も無い、ただのシンプルな銀色の輪っか。
僚の1か月分のバイト代の全てだ。
もっと豪華で、派手で、流行のデザインの物もあるだろうけど。
大事なことは、その輪っかを手に入れる為に僚が費やした時間だ。
その間、僚は香の事ばかり考えた。


アイツ、喜んでくれるかな。
驚くだろうな。
少しは、機嫌も良くなるかな。

キスしてぇな。



それはまるで本当に、恋する少年のようだった。
そして今、決戦の火蓋が切られようとしている。






つい今しがた、夕食を終えた2人は、それぞれキッチンとリビングにいる。
僚はコッソリ、ジーンズのポケットにリングを忍ばせている。
香はというと。
ココの所、連日のように夜遊びに勤しんでいた僚が、どうやら今日は家に居るらしいと解ると、
首を傾げつつも、久し振りにゆっくりと2人分のコーヒーを淹れる。
香は今日が何の日か、今の所すっかりと忘れている。
例年、香がこの日を忘れても、
街を歩けば誰かしら顔見知りがプレゼントをくれるので思い出すのだが、
今年に限っては皆、暗黙の了解の内に、香への贈り物は15日以降で。というルールになっている。
僚のサプライズが成功するのを、街中の輩が固唾を呑んで見守っているのだ。






香がカップの乗ったトレイを持って、リビングに現れた。
いつも通り(ここ最近、機嫌が悪いのがデフォルトだ。)の香が、僚にカップを手渡す。



「・・・サンキュ。」



香は特に何も言わず、僚から少し距離をとってソファに座る。
自分もコーヒーを飲みながら、夕飯の支度の前まで読んでいた雑誌の続きを読み始める。
僚は取敢えず、多目のひと口でコーヒーを飲む。
先程から、尋常じゃ無いほどに緊張している。
喉が、カラカラだ。



香は香で、僚の緊張など知ったこっちゃないけれど、
出来れば今夜はこのまま、出掛けなければいいな、と思っていた。





「なぁ、香。」

「なぁに?」(・・・出掛けちゃうのかな??)




僚は香が、一瞬淋しそうな表情を浮かべたのを、見逃さなかった。
この1か月の事を振り返り、香の気持ちを考えると、僚の胸が痛む。
だからせめて、これから伝える自分の思いの丈が、香に真っ直ぐ伝わるように。
僚は、香の目を真っ直ぐに見つめてニッコリと微笑んだ。



「おまぁ、ちょっとだけ、目ぇ瞑ってろ。」


「なんで???」



キョトンと首を傾げる香に、僚は苦笑する。
2月14日は忘れないクセに、香は毎年、3月14日は忘れがちだ。



「何でも。・・・良いから瞑って?」



そう言って僚は、香のクセ毛をクシャクシャと撫でる。
そんな些細なスキンシップすら、酷く久し振りに感じる。
それは香も同じで。
少しだけ、強張っていた心が柔らかくなる。
僚の言う通り、目を瞑ってみる。





半日の間、いつ渡そうかと頃合いを見計らっていた僚の、ジーンズのポケットにあったそのリングは。
僚の体温と同じ温度だった。
目を瞑った香の左手を、僚がそっと持ち上げる。
華奢で長い薬指に、滑らかなリングが通される。
この時には流石の香も、僚のした事に気が付かないワケも無く。
驚いて目を開ける。


自分の左手の薬指に収まった、銀色の輪っか。


僚と同じ温度のそれは、今日1日の僚の逡巡を意味している。
いつ渡そう、今渡そうか、後にしようか。
そう思いながら、僚はずっとそわそわしていた。
香は放心したように、まじまじと指輪の嵌った自分の左手を見詰めている。




「そ、それな。1か月前のお返し。」


「・・・・あ。ホワイトデイ////」



照れ臭そうにそう言った僚に、香は漸く今日が何の日なのか気付く。
僚は思わず、香を抱き締める。
抱き締めながら、香の柔らかな髪の毛を優しく撫でる。






ゴメンな、香。
この1か月、おまぁに内緒でバイトしてた。
ホントは何も言わないつもりだったけど、おまぁが淋しがってんの解ってたから・・・
ちゃんと、言わなきゃと思って。
・・・でも、ツケ、増えてねぇから。安心しろ?




そんな事を言う僚の腕の中で、香は真っ赤に頬を染めて泣いた。
あんなに淋しかったのに。
もう2度と、僚に抱き締めて貰う事も、キスする事も諦めていたのに。
僚の言葉を聞いただけで、香の心が溶けだして、涙になって溢れてしまう。





りょ・・おと、・・・もう2度と、こんな風に・・・できな・・いと、おも・・って・・
ありが・・とぉ・・・ヒック・・・りょお。




香がしゃくり上げながら、切れ切れにそう言うのを聞いて、僚は脊髄反射で口付ていた。
それは、約半月ぶりのキス。
僚も、香に秘密を持つ事が、どれだけ苦しかったか。改めて、痛感する。



「香?嘘吐きは、泥棒の始まりなんだろ? むふふ。リョウちゃんってば、キス泥棒



ニンマリ笑った僚は、もういつもの僚で。
香は真っ赤になって泣き顔だけれど、いっつもこうなんだ、と思う。
キスだけじゃない。
僚はいつだって、香の心ごと全部、盗んでいってしまう。
いつだって香は、僚に心を奪われる。
僚は嘘吐きで、意地悪で、大泥棒だ。
だけど香は、そんな僚が大好きで。



それでも、このまま奪われっぱなしでは、槇村香の女がすたる。
奪われたモノは、奪い返すまでだ。



香はニッコリと微笑むと、ホワイトデイ2度目のキスは、香が仕掛けた。





(次回、おまけへとつづく。)
[ 2013/03/14 19:50 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)

嘘吐きは恋人の始まり(おまけ。というよりむしろ、本題。)

・・・ヤバイ(汗)

ついさっき俺は、バレンタインのお返しに香にリングを贈り、
この1か月の、朝帰りの真相を告白し、
香をこの腕の中に抱く運びと相成ったワケなんだけど。
そうなるとやっぱり、チュウは必然で。
勿論、チュウはしたんだが・・・・・






僚からのキスの後、香はニッコリと極上の笑みを浮かべると、
バレンタインに引き続き、香の方からキスを仕掛けて来た。
ひと月前のキスは、ホントに軽く触れるだけの小鳥キスであったのに。
このひと月で、一体何が彼女を変えたのか。
それはまるで僚を骨の髄から蕩かせるような、情熱的なディープキスだった。


これまでに無いそんな香の様子に、僚は眩暈がしそうなほどの感動を覚えた。
が、それと同時に、己の衝動を抑える事に耐え難い苦痛を感じていた。
主に、下半身方面が。


(ま、まぢでヤバイッッ・・・俺、もう我慢の限界かも・・・)


この1か月。
お互いに相手の事ばかり考えながらも、想いは微妙にすれ違い、
計らずも想定外の、放置&焦らしプレイとなってしまったのだ。
香にとってこの半月は、これ以上傷付く事を畏れるあまりの、無意識な自己防衛の日々だった。
心の奥では僚に焦がれながら、僚からのスキンシップのお誘いには応える事が出来ない日々だった。



僚にとって香とのキスは、他の誰とも違う。
第一今までに、キス1つでこれ程までに幸せな気持ちになれた相手など、1人もいなかった。
それこそ、キスどころかやる事やった相手でも、いちいち顔も名前も覚えていない。
興味すら無かった。
印象に残った相手すら居ない。
今までの僚にとっては、セックスとはその程度のモノだった。


そこに穴があるから、挿れる。
ただの摩擦の延長線上の、放出。


まぁ、ついでにルックスが良くて後腐れが無いってのが、理想的だった。




でも、香だけは違う。
僚にとって香だけはどうしても、これまで知っている“女”という生き物とは、別次元で。
全くのジャンル違いで、別カテゴリーで、他のどんな人間とも違う位置にいる。
ただそれを、天然記念物並みに色恋に疎い香に、解り易く明快に説明する、なんて事は。
僚には、一生不可能な話しである。
何しろ相手が香では、『好き』のひと言すらまともに言えないような男なのだ。
これまでの長い付き合いを経て、漸くキスにまで漕ぎ着けたのが数ケ月前。


それがこの半月、香には悉く拒否られっぱなしだった。
勿論僚は、香の心理は痛いほど良く解っていた。
やっと、少しづつ恋人の雰囲気を築き始めたところでの、僚の連日の朝帰り。
余所の女(香にしてみれば、飲み屋の女も素人も区別など無い。皆、女だ。)の影に怯え。
不安で押し潰されそうな気持ちを、香は素直に表せるほど甘え上手でも、計算高くも無い。
決定的に深く傷付く前に、自己防衛作用が働く。
でも、僚は思う。
その過程がもう既に、香を深く傷付けている証のようなものだ。
僚は痛いほど良く解っているからこそ、この半月、拒否されればそれに従う以外の選択肢は無かった。



そして満を持しての、香からのこのディープキスである。
否が応でも、僚の(色んな意味での)ボルテージも上がろうというモノ。
この1か月、僚は冗談抜きで死ぬかと思うほど、きつかった。
何度、バイトをさぼってリビングで香と2人きりでイチャイチャしたいと思ったかしれない。
余程、香には言えない“お仕事”の方が、楽である。
それが“お仕事”ならば、お互いにどう振舞えばいいのか、心得たモノだ。
だからそんな事よりも、
今回の一件の方がよほど、2人にとっては想像以上の試練だった。






長くて湿ったキスを終えて、すっかり上気した香の頬を僚が優しく撫でながら。
香の耳元に口を寄せ、僚は静かに懇願した。



・・・香ぃ、俺もう限界かも。・・・俺の部屋で続きやってもイイ?



それは香が初めて聞く、僚のセクシーな色を帯びた声音だった。
その言葉の意味する所は、いくら鈍感な香だとしても、理解出来ない程子供では無い。
これ以上無いほど、真っ赤になって体を固くしてはいるけれど、ダメな理由など1つも無い。
けれど、この状況で気の利いたセリフの1つも言える程、香は大人でも無い。
意を決したようにギュッと目を瞑り、コクンと頷くので精一杯だった。
そんなウブな香のリアクション1つ1つが、僚の琴線に触れる。
僚は香が頷くのをしっかりと確かめると、
香を抱き上げて、自室へと続く階段を足取りも軽く駆け上がった。

リビングのテーブルの上には、色違いでお揃いのマグカップに冷めたコーヒーが残されたままだった。











翌朝、香が目覚めたのは、太陽がもう既に随分高くまで昇っている頃だった。
まだ早春の肌寒い季節で、その上その部屋のブラインドはキッチリと閉じたままだったけど、
もうそれが朝と呼べる時間帯で無い事だけは、ハッキリと判った。


(・・・・寝坊しちゃった・・)


ボンヤリとした頭でそう思ったのも束の間、意識が少しづつクリアになると共に、
香は激しい照れ臭さに襲われた。
横になる自分の隣で、既に先に目覚めた様子の僚が、
寝起きの自分の様子を、ニコニコしながら見詰めていたからだ。ごく、至近距離で。
それもその筈で。
今現在の香の居場所は、僚の部屋の僚のベッドの僚の腕の中だった。
どうりでパジャマも着ていないのに、ポカポカと温かいわけである。

と、そこまで気が付いて、香は全身真っ赤に染めてシーツに潜り込む。

パジャマどころか、下着すら身に着けていない。
急激な羞恥心が、香に訪れる。



「・・・今更じゃない?カオリン??んなに照れるなって。こっちまで、恥ずかしくなる。」


僚はクスリと笑って、シーツの上から香の頭をワシャワシャと撫でる。
昨夜、あの勢いのまま2人は、一線を越えた。
2人は漸く、暗く長いトンネルを抜け、新しい世界へと一歩踏み出したのである。
僚の一挙一動に翻弄され続けた香は、僚にしがみ付いているだけで精一杯だった。
香は自分がいつ眠りに落ちたのかさえ、良く解らない。


一方の僚はというと、柄にも無く無我夢中でテンパっていた。
セックスという面に於いて、冴羽僚という男をこれ程までに掻き乱す女など、
恐らくは、後にも先にも槇村香、ただ1人である。
僚は一晩中、幸せな気分に浸りながら香の寝顔を見詰めていた。
何だか、眠ってしまうのが惜しい気分だった。
もしも、どうしても神様が。
いつか己と香に“死”という試練を与えるのならば、
今この時ならそれでも良いかもしれないなどと、可笑しな事を考えていた。





香がシーツの中でもぞもぞと身じろぎをして、真っ赤になった顔だけを出した。
はにかみながら、僚を見詰める。





・・・おはよう////

あぁ、おはよ。


・・・も、もう、起きなきゃ。寝坊しちゃった。


まぁだ、イイじゃん。1日ぐらい、洗濯も掃除もしなくてもどうって事ねぇよ。





根が真面目な香を甘やかす言葉を、僚が囁く。
確かに香も、70%位はこのまま、僚の腕の中でぬくぬくと仔猫のように甘えていたいけど。
残り30%は、恥ずかしくて堪らない。




べ、別に、洗濯も掃除も明日でも構わないケド・・・ご飯っっご飯作らなきゃっっ
僚もお腹減ったでしょ???



そうだな、一晩中激しい運動しちゃったしぃ?


っっば、ばか////




只でさえ恥ずかしい香を僚が茶化す。
真っ赤な顔で香は、僚の頬を優しく抓る。



んなもん、無人島にいる訳でも無し。腹減ったら、偶にゃどっか喰いに行けばイイの。
それよりも・・・もう少しこのまま、おまぁと引っ付いてゴロゴロしてたい・・・



やんわりと頬を摘まれた僚が、香を抱き直し香を参らせる最強の殺し文句を吐いた。
もう香にはこれ以上、僚にささやかな抵抗をする気力など無くなった。
アッサリと、僚の腕の中に陥落する。
もうこれから先。
恐らく香は、僚の気持ちを見失う事など無いだろう。


香は知ってしまった。
あからさまな言葉など何も無くても、僚の手の温もりや、優しい眼差しが。
言葉よりも饒舌に、自分を求めていてくれる事を。
2人は怠惰な昼下がりを、ベッドの中で過ごす事に決めた。






(おしまい)





すすす、すみません(汗)
UPするの遅くなっちゃいましたぁ(´Д`;)
この後は、またカオル君の連載再開しまぁ~~~っす。


[ 2013/03/15 19:30 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)

嘘吐きは恋人の始まり(フリージャーナリスト・ミック・エンジェルの考察)

冴羽アパート、7階寝室で。
冴羽商事の2人が6年越しの恋を実らせて、ウダウダゴロゴロと怠惰に過ごしているその頃。




向かいのビルの6階、ミック・エンジェル・オフィスの窓辺には。
その部屋の主である、ミック・エンジェルが双眼鏡を片手に物思いに耽っていた。
もうすぐ正午に差し掛かる時間、
彼の恋人・名取かずえは、もうとっくに勤め先である某豪邸へと出掛けている。
昨夜は、このミックとかずえの愛の巣でも、
熱いホワイトデイnightが、繰り広げられていた事はいうまでも無い。
僚とは対照的に、何処までも女にマメなこの男が。
季節のイベント毎に、何も用意していないワケも無く。
一緒に暮らすようになっても尚、自分のやりたい事に没頭し、輝き続ける美しい恋人に、
ミックはこれでもかというほどに尽くし、愛を囁く。


勿論、ミックは心の底から、かずえを愛しているのだ。
しかしそれと同時に、香に対する熱い憧れもまた、色褪せる事無く心にしっかりと息づいている。
無論、ミックは命が惜しいので、香に対して不埒な行いを致そうなどとは微塵も考えていない。
あくまでも、プラトニック・ラブ(ミックの一方的な)である。
ミックにとって香は、永遠の女神(アイドル)なのだ。


ミックと僚は同じ、無類の女好きではあるが、根本的には全く違う性質の持主である。
僚にしてみれば、ミックのそんな理屈は全く解せない。
心底、かずえを愛しているのなら、どうして香を想う事など出来るのか。
僚には、そんなミックのご都合主義など、ハッキリ言って知ったこっちゃないが、
香が絡むとなれば、話しは別である。
2人でも3人でも、勝手に真剣に愛してくれとは思うが、
そこに香を巻き込む事だけは止めて欲しいと、常々思っている。
唯一の救いは、当の香がそんなミックの想いになど、1ミクロンも応える気などサラサラ無いという事だ。
ていうか。
香本人は、ミックが未だに初恋を軽く引き摺っているなどという事は、微塵も想像だにしていない。
ミックにはかずえという、愛する恋人がいて。
幸せなカップルの、模範的な良き彼氏だという認識だ。
香にとってミックは、出逢った最初から、純粋にただの友達であり、
それ以上でもそれ以下でも無い。
その点に於いて、ミックの想いが報われる見込みは一切無い。





(・・・ん~~~、コレはそういう事だよなぁ・・・)




先程から、双眼鏡で向かいの悪友宅を覗いている。
時刻はもうそろそろ、正午を回ろうかというところ。
常ならば、愛しの初恋の君が洗濯物を干し、掃除機をかけて、7階の僚の寝室の窓を開ける頃である。
それが今日は。
その姿が見えないばかりか、昼日中にも拘わらず6階リビングの照明が、煌々と点っている。
(因みにそれは、昨夜から一晩中点きっ放しだった。)
ソファの傍らのローテーブルには、2人がいつも使っているマグが放置されて、仲良く2つ並んでいる。
香の事を良く知る人間ならば、これが尋常では無い事ぐらい理解できる。
香は決して、この様な事を放置できるタイプでは無い。


・・・という事は、答えは1つ。


今現在、電気を消して、マグカップを洗う事の出来ない状況にあるという事で。
昨夜から今朝にかけて、電気代や汚れたマグカップよりも重大な出来事が、
彼女の身に起こったという事である。
そこまで考えて、ミックは次に7階・僚の寝室の窓に視線を移す。
コチラは、リビングとは対照的にぴっちりとブラインドを閉ざし、ヒッソリと静まり返っている。
昨日、僚から香に何らかのプレゼントが贈られた事は、新宿中の周知の事実だ。
(一説には、指輪じゃないかという憶測が流れているが、今の所確証は掴めていない。)
ミックが最後に香を見たのは、昨日の午後の事だった。
この数週間の、香の落ち込みぶりは相当なモノだった。
言葉にはしないでも、傍目にも可哀相なほど僚の連日の朝帰りにしょげていた。
それでも、今はきっと。
事の真相を僚の口から聞かされ、あの向かいのアパートの何処かで幸せな朝を迎えているに違いない。



・・・違いないけど、香が幸せならばそれが一番なんだけど。
それでも。と、ミックの眉間が一段と険しさを増す。
現役時代に比べると幾分かは和らいだ、
しかし一般人とは明らかに種類の異なる鋭さを青い瞳の奥に宿し、
ギリギリと奥歯を噛み締めながら、ミックは双眼鏡を覗く。



クッソ!! リョウの野郎。結局アイツはいつでも、一番イイ女を持っていくんだよなぁ



アメリカで一緒に組んでいた頃も、そうだった。
僚は決して、女に優しくなんかしないし、愛情なんかひと欠片も持ち合わせていなかったクセに。
何故だかイイ女は、いつだって僚を放ってはおかなかった。
あっちに居た頃はそれでも、
きっと黒い髪の毛と黒い瞳の、オリエンタルでミステリアスなベビーフェイスが珍しいんだろ?
くらいにしか思って無かったけれど。
(金髪で蒼い瞳なんか、アッチでは珍しくも何とも無い。)
確かにミックも、人並み外れたルックスの持主なので。
そんなアドバンテイジなど物ともせず、僚に負けない程度にはイイ女にはよくモテた。
けれどミックにしてみれば、それは納得のいかないモノだった。


ミックにとって、女とは。
敬うべき対象で、美しくて儚くて、己が守ってやるべき対象で。
尽くしたその対価として、己に満足や快楽を与えてくれるもの。
だからこそミックは、彼女たちの喜ぶように立ち回り、尽くし、愛を囁く。
けれども、僚は違う。
ルックスが良くてノリのイイ女が大好きなクセして、実際の所は、女に対してさほど興味が無い。
一晩だけ、面白おかしく快楽を貪る事の出来る相手なら、
女が何処の誰で、何という名前で、好きな事は何かなんて事は。
僚の佇んでいる世界には、何の意味も為さない事だった。
それなのに、何故だか極上のイイ女が僚を放っては置かなかった。
他の女にはそうかもしれないけれど、自分にだけは愛を齎してくれるかもしれないと。
それでも、ミックの知る限り、僚と組んでいた数年間。
僚が誰かを愛するなどという事は、皆無だった。
スケベで女好きという面とは別に、女を憎んでいるのかと思うほど非情で冷酷な一面を持ち合わせていた。



その僚が今では、まるで人が変わったように、香を愛している。
まるで壊れ物を扱うように、大事に大事に己の腕の中に香を囲っている。
昔の僚を知るミックにとっては、未だに少しだけそんな僚の変化が信じられない。
しかし、相手が香なら納得である。
香には、それだけの値打ちがある。
他でも無いミック自身が、身を持ってそう感じているので間違いは無い。
確かにあの僚を変えるには、香くらいイイ女じゃなければ無理だっただろう。
僚に必要だったのは。
僚の愛を乞う女では無く、僚に愛を与える女だったのだ。
それも溺れる程の、無限で無償の愛を。



ミックは願わくば、
その溢れる愛を享受するのが自分だったならどんなにか良かっただろうと、心底思う。
あの天邪鬼で生意気なベビーフェイスが、その幸運を射止めるなんて。
何とミックにとって、不運な偶然だっただろう。
例えば香が、その辺のチンケな男の恋人ならば、
ミックは迷う事無く、香を奪い去ってしまっただろう。けれど、香の隣にいたのは僚だった。
僚を良く知らないバカな奴らは、僚がまるでこの世の全てを手にした幸運な男だと思っている。
その人並み外れた恵まれた才能やルックスは、時折、僚の本当の姿を曇らせる。


僚には香しかいないのだ。


僚は香に出逢うまで、空っぽの虚ろな世界の住人だった。
僚は香に出逢って漸く、その心に人間らしい温もりを取り戻したのだ。
少なくともミックは、僚というオトコの本当の姿を知る数少ない人間の1人だと自負している。
香の兄の槇村と同様に、自分も僚とは本当の友だとも思っている。
そんな僚のたった1つの、愛の塊を。香を。
さすがのミックも、手に入れる事など出来なかった。
今までミックは、色んな男の彼女や妻を奪って来たし、恋愛にタブーなど無いと思っているし、
今も実際、そう思ってはいるけれど。
僚と香の前では、そんな自分の理屈などただの屁理屈だと認めざるを得ない。







ギリギリと歯ぎしりをしていたミックは一転、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。





でもまぁ、今回の一件は。
ボクとファルコンの、全面的バックアップが有ってこそ成立したワケだしぃ?
という事は即ち、リョウの野郎がカオリのヴァージンを美味しく平らげちゃったのは、
言ってみれば、まさしくボクのお陰って事だよな?(ニヘラ)




ミックの脳内は、いつでも自分に都合よく解釈出来るようにプログラムされている。
それこそが、ミック・エンジェル最大の長所であり、短所である。
幸い、僚の部屋の窓はまだ、ブラインドが閉ざされている。


(・・・今の内だな。)


ミックはそう思うが早いか、双眼鏡を傍らのソファに放り出し、ジャケットを羽織る。
今回のミックと海坊主の共同戦線の、成果を報告する為に、
前線基地でもある、彼らの憩いのカフェ、キャッツ・アイへと急行した。



それは。
ベッドの中で怠惰なじゃれ合いを満喫し、
それでも空腹に耐え兼ねて、伝言板の確認がてら食事をしに街に出た2人が。
街中の顔見知りに冷やかされる、その数時間前の出来事であった。






(ホントに、おしまい。)








なんか、思い付いちゃって、
覗き魔ミックのお話し書いちゃいました(汗)
[ 2013/03/16 11:47 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)

第7話・僚のお説教

香がバー・キャッツ・アイに勤め始めて、もうじき1か月が経とうとしていた。


毎晩仕事を終えると、僚は少しづつ香に色んな事を教えてくれた。
3人で何度も飲みに行ったし、何度かまた僚のあの部屋にも遊びに行った。
僚はカクテル作りの基本的な知識は覚えるしかないと、香に解り易い本を何冊か貸してくれた。
ドライ・マティーニは、あれから。
ダメか、全然ダメという評価ばかりだったけど。
でもこの3~4日は、僚は何も言わなかった。
何も言わずに飲み干して、ニッコリ笑うと香の頭をクシャクシャと撫でてくれた。


何人か、香目当てで来店する客が出来た。
殆どが僚達の客よりも、年齢層は若干低めだ。
香はまだ、僚達みたいに客に出せるようなお酒は作れないので、
グラスを磨いたり、氷を削ったり、洗い物をしたり、雑用をこなしながら、
時折、彼女らの話し相手をした。
香は基本的に礼儀正しく、仕事を呑み込むのも早いと僚は思っている。













ねぇ、なんかカオル。遅くない?




奥で着替えを済ませたミックが、カウンターの中で開店準備を始めている僚に訊ねた。
そう言われて、僚も時計を見遣る。
確かに、いつもの酒屋と婆さんの店とついでに駅前のスーパーに行くだけで、
言われてみれば、いつもならもう戻っている頃だ。
確かに、遅い。
けれど最近、酒屋の親父にも問屋の婆さんにも随分可愛がられているらしい。
話し相手の標的にされて、掴まっているのかもしれない。




ぁあ?その内、帰ってくんじゃね?噂をすれば何とかっつ~~じゃん。



僚がそう言った次の瞬間、裏口のドアが開く音がする。
僚はミックに、ホラと眉を上げて見せる。
ミックもニッコリと笑って頷く。
けれど、帰って来た香のナリは、2人の想定外だった。





Yシャツの肩口が破れて綻び、目の周りに薄っすらと痣を作り、唇の端が切れて血が滲んでいる。
袋の中の酒瓶が、1本割れてダメになっていた。
どうやら世間話では無く、揉め事に巻き込まれていたらしい。




僚もミックも、一瞬驚いてポカンとしたが、
次の瞬間、僚はカウンターの棚の奥から救急箱を取り出すと、
険しい表情で無言で香の腕を掴むと、そのままバックヤードへと引っ張って行った。
ビールケースを3段ほど裏返しにして積んだ、即席の腰掛けに香を座らせると、
今までに香が見た事も無い顔で、腰に手を当てていた。





・・・どういうつもりだ?オマエ。そんなツラで、客商売が出来ると思ってんのか???


・・・・・・。




眉間に皺を寄せて怒りの表情をした僚の言葉に、香は唇を噛み締めて俯いて黙り込む。
僚は何も言わない香に、溜息を漏らすと胸のポケットから煙草を取り出して火を点けた。
咥え煙草で、香の顎の先に指を掛けると香の顔の傷をシゲシゲと眺め、丹念に調べる。
そこにミックが、濡れタオルとポリ袋に入れた氷を持って来た。
香に持たせると、目の周りを冷やすようにジェスチャーで伝える。
香は小さく頷いて、氷とタオルを目の周りの痣に押し当てる。




・・・リョウ、あんまり叱るなよ。




ミックの言葉に僚はチラリと目線をくれるだけで、相変わらず表情は険しい。
ミックは肩を竦めて、開店準備に戻る。
けれど表情とは裏腹に、僚は手際よく救急箱を物色しながら香に話しかける。




それで? また、カツアゲの現場にでも遭遇したか?



香はフルフルと、小さく首を横に振る。
相変わらず、唇は悔しげに真一文字に引き結んでいる。
膝の上に固く握って置かれた華奢な利き手の拳は、薄皮が捲れて血が滲んでいる。
僚はそれを見て、淡く苦笑する。
多分香は、自分がやられた数倍はやり返している。
僚も若い頃は、売られたケンカは買ったモノだ。





いいか、おまぁはガキだから、まだよく解ってねぇケドな。
幾ら相手に非があってもな、暴力で相手に向かって行けば、それはお前も同類なんだぞ?そいつらと。


っでもっっ!!


・・・でも、何だ?


・・・女の子が。絡まれてたんだ、チンピラに・・・俺はっっ





香が悔しそうに唇を噛んで、眉を潜める。




・・・・見て見ぬ振りなんか、出来ない。




僚はフッと小さく笑うと、丸めて消毒液を含ませた脱脂綿を香の唇の端に乱暴に押し当てる。
香が痛そうに顔を歪めた。




っっっ!!! 痛って~~なっっ!! もう少し優しく出来ねぇのかよっっ



香の抗議を、僚は飄々と受け流しながらニンマリと意地の悪い笑みを浮かべる。





で?モッコリちゃんか???


はぁ?


っだぁからっっ、その助けた子、美人かって訊いてんの。


・・・そういう問題じゃねぇだろ(ジト目)


何言ってんだよ、そういう問題だろうがよ。てか、そこが最も重要だろうが。





香は僚の言葉に、心底呆れて溜息を吐く。
この1か月、僚の優しい所も沢山見て来たけれど。
どうやら、僚もミックも、極度のスケベだという事だけは解って来た。




で、メアドぐらいは訊いたんだろうな???


はぁ???ばっかじゃねぇのっっ!!!



思わず素っ頓狂な声を上げた香に、ミックも何事かとカウンターの入り口から顔を出す。
その時丁度、僚が香の後頭部をパシッと叩いている所だった。




・・・カオル、おまぁ反省の色が見えん。
今日は1日、罰として便所掃除と倉庫の大掃除な。
便所は舐めても良い位、綺麗に磨く事。




僚がニヤリと笑って、本日の罰ゲームを発表した。
香は、ブッ~~~~と、唇を尖らせて膨れている。




あ、それと。おまぁがダメにしたブランデー、バイト代から天引きな。


ぇえええ~~~~(泣)


えぇじゃねぇ、これに懲りてもうケンカはすんじゃねぇ。







僚はバックヤードに香を残して、カウンターに戻りながら。
思わずニヤケてしまう。
自分もガキの頃オヤジに、良く言われた。
暴力を振るえば、自分も相手と同等だと。
その時には、悔しくて、自分は間違っていないと思っていた。
その自分が、父親と同じように説教していた事が何だか可笑しかった。
この1か月、香と出逢ってからの僚は。
良い事も悪い事も沢山、自分の若かった頃を思い出している。
香が相手だと、心の中をあの澄んだ瞳で覗かれているような、不思議な気持ちになる。
僚にはまだ、その気持ちが何なのか理解は出来ないでいた。




(つづく)


[ 2013/03/16 18:21 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第8話・オーナー夫妻

カオル?おまぁ、明日早目に出れる?



香が閉店後の掃除をしている時に、僚が売り上げを数えながらそう訊ねた。
香はキョトンと首を傾げる。
僚は手招きをして、香をカウンターの方へと呼ぶ。





早目って???


ん~~~、昼過ぎくらい。なんか、海ちゃんがカフェの方手伝って欲しいんだと。
その代わり、コッチはいつもより早く上がってもいいから。


・・・別に良いケド・・どうせ暇だし。


そっか、悪ぃな。






僚はそう言って、香の頭をクシャクシャと撫でる。
僚はいつも香を子ども扱いする。
何かって言うとすぐ“ドーテイ”と言って、からかう。
そんな時、香はいつもいじけて膨れるけれど、
僚の子ども扱いの中で、唯一香のお気に入りが、この頭なでなでだ。
香は無意識に頬が緩んでしまうけれど、自覚は無い。









僚の言う、海ちゃんとはこの店のオーナーで。
昼間は1人でこの同じカウンターに立ち、カフェをやっている。
何でもバリスタとしては、相当に凄い人らしい。
香はオーナーである伊集院隼人氏に、1度だけ逢った事がある。
その少し前に僚とミックから、ゴリラみたいだぞ、と教えられていたけれど。
事前に情報を入れていたにも拘らず、やはり多少ビビった。
この世に、あんなに大きな人がいるなんて知らなかった。
けれど意外にも、挨拶を交わした彼の印象は穏やかで。
怖いというイメージは、一切無かった。
因みに、彼を海ちゃんと呼ぶのは僚だけで、由来は“海坊主”という妖怪らしい。












ソイツは、昼前にやって来た。
一度、どんなヤツか知っておきたかった。
何でも、僚はヤツを拾って来て、随分可愛がっているらしい。





伊集院隼人は、脱サラしてココに店を構える前は、
僚の父親が経営する企業の、将来を有望視された若き幹部候補であった。
社長である僚の父親は、伊集院の大学時代の先輩だった。
代々、事業を営む家系に於いて、彼は自分の役割をきちんと把握していた。
学生の頃から、いずれは家業を継ぐという事に何の疑問も迷いも無いようであった。
そして、自分の片腕として傍に居て欲しいと請われたのが、伊集院だった。
伊集院は、彼の人格の素晴らしさや懐の深さ、器の大きさを今でも尊敬している。
けれど伊集院の人生は、彼の意に沿う結果とはならなかった。
だからこうして、伊集院は今現在ここで喫茶店を経営している。



そういうワケで、彼の息子である僚の事は、生まれた時から良く知っている。
僚の母親は、僚が物心つく前に他界した。
だからと言って、僚は愛情に飢えた幼少期を送った訳でも無く。
父親から存分に愛されて育った。
僚もゆくゆくは、あの家を継ぐものだと周りの誰もが疑わなかった。
何しろ僚は、1人息子なのだ。


それが一転、事態が急転したのは、僚が大学を卒業する間際の事だった。
僚は、家業を継がないと宣言したのだ。
財産も何も一切、要らない。
その代わりに、家業を継ぐつもりも無い、と。
それから僚は、歌舞伎町のとあるバーでバーテンとしての修業を始めた。
僚が立派にバーテンとして一人前になった時、伊集院は自分の店を夜の間使わないかと提案した。
そして、今に至る。
今では、夜のバーの売り上げは、昼間のカフェをも凌ぐ。
もう少しキャリアを積めば、自分の店を持つ事も不可能では無いだろう。
元々、経営者としての資質は充分だ。
そして今のこの僚自身のキャリアは、親の力では無く、自分の腕で掴んだものなのだ。
きっと、僚の望んでいたのは、こういう事ではないのだろうかと、伊集院は思う。
生まれた時から敷かれていたレールの上を走るだけの人生と、僚は闘っている様に伊集院には見える。
そして父親もまた、そんな息子を遠くから見守っている。
僚がいつか独立して店を持つまで、協力しようと思ったのは。
伊集院の嘗ての雇い主への、せめてもの恩返しだ。







カオルというその美しい少年は、昼のランチタイムの前にやって来た。
ヤツ曰く、一番忙しい時に居なければバイト代を貰う意味が無い。との事だ。
真っ直ぐに人の目を見て、素直にハキハキと訊かれた事に答える。
仕事の手際は、申し分ない。
前に食堂で働いてたから勝手は解る、とニッコリと笑うその様子は。
確かに、人懐こい。



ランチタイムの慌ただしい接客を終えて、一息ついた昼過ぎに。
伊集院は香に、コーヒーを淹れてくれた。
結婚指輪の光る大きな手には、普通のマグカップがとても小さく見えた。
その香ばしい深い褐色の液体に、香は思わず笑みを零す。
これまで香が飲んだどのコーヒーとも、薫りが違う。




・・・美味しい。



香の言葉に、伊集院の表情がほんの少し緩む。
もっとも、彼の表情の小さな変化に気が付く者はそうは居ない。







お前が、倉庫片してくれたそうだな、僚に聞いた。・・・すまんな。


あ、いえ、・・・はい(照)




倉庫の大掃除は、ただの罰ゲームで。
お礼を言われるとは思ってもみなかった香は、途端に恐縮する。





アイツ、褒めてたぞ。お前の事。


え????


働きモンだって。アイツぁ、滅多に人の事褒めたりしないんだがな。お前の事は気に入ったらしい。


・・・はぁ。





この会話の流れからすると、伊集院の言う“アイツ”とは僚の事だろう。
香は何故だか、妙にドキドキした。
自分の知らない所で、僚が自分を話題にしていた事に。
今まで香は、そんな事など全く考えもしなかった。
ドキドキしている自分を、伊集院に覚られたく無くて、香はマグカップを口に運んだ。








伊集院の妻、美樹がやって来たのはその時だった。
同性である香から見ても、惚れ惚れする程の美人だった。
左手の薬指には、オーナーと同じリングが光っているので、
彼女がこの大男の妻という事は、現実の事なのだろう。
こう言っては何だが、完全に美女と野獣だなと、香は内心思う。




お疲れ様、ファルコン。


あぁ。


まぁ、アナタね? 冴羽さんが拾って来た仔猫ちゃんは。





美樹はそう言って、香にニッコリと微笑みかけた。
香は何と答えて良いモノか、曖昧に頷いた。
オーナー夫妻が揃ったところで、本日の伊集院隼人の本題が切り出された。
何処かそれまでの穏やかな雰囲気から、ピリッとした空気が流れる。





それで? 何でお前は、オトコのフリをしてるんだ?












思わず、香の表情が強張る。
頭の中が真っ白になる。
胸の奥をギュウッと掴まれたように痛む。




あ、あの。




何か言わなければと、発した香の声は掠れて、何を言えば良いのか解らない。
このまま、嘘がばれてクビになるかもしれない。
それは香にとって、思いもかけぬほど、ショックな事だった。
初めは、時給に目が眩んだ。
男の子限定で人材を求めていると知っていながら、嘘を吐き通そうと安易に考えていた。
バレたら辞めればイイと思っていた。
けれど。


“辞めたくない”


今この状況で、香の脳裏を埋め尽くすのは、ただその一点だけだった。
仕事は好きだ。
でも、それ以上に僚やミックが大好きだ。
でも。
その大好きな2人に、根本的な部分で嘘を吐いてる自分を、香は改めて痛感した。






・・・・・あ、あの、・・・・ク、ビですか。




恐る恐る訊ねた香に、伊集院は爆笑した。
一頻り笑うと、やっぱりか、と深く頷いた。
一度、挨拶をしただけの時は、気が付かなかった。
けれど、何となくずっと引っ掛かっていた。
もしかすると、僚の拾って来た“ヤツ”は女の子じゃないかと。




・・・いや、お前が男だろうが女だろうが、俺としてはどっちでもイイ。
ちゃんと、働いてくれればな。その点で、お前をクビにする理由は無い。




伊集院の言葉に、香は心底深い、安堵の溜息を吐いた。
しかし次の瞬間、また深刻な心配事が持ち上がる。




あ、あの。


ん?


りょ、・・て、店長に、その、言っちゃうんですか?・・・その・・女だって。





伊集院は心配そうな香を見て、フッと表情を緩めた。
暫く、何事か思案して、もう一度香を見詰めた。





その事なんだがな。


は、はい。


暫く、そのまま男のフリを続けてくれ。


は????






伊集院隼人は、ニヤリと微笑む。
妻の美樹も、この上なく楽しそうに事の成り行きを見守っている。





アイツ等がいつまで気が付かないでいるか、気が付くまでこのまま様子を見たくてな。


?????




香には伊集院の意図する所は、全く理解不能だったが。
正直、ホッと胸を撫で下ろした。
取敢えずは、僚ともミックとも今のまま、仲良しでいられる。
香は嘘吐きだとバレて、2人に嫌われてしまうのが怖かった。
勿論、いつかは本当の事を話さないといけない時が来るかもしれない。
けれど、今はまだきちんと告白する勇気は無い。





そんな香の心情など知ってか知らずか、
伊集院隼人はまた、全く別の視点で今回の一件を観察している。
これから先、僚が独り立ちしてゆく中で、もっとも養わなければならないのは。
人を見る眼だ。
カオル(香)という人間を買っているという点に於いては、申し分は無い。
しかし。
事はもっと、根本的な事である。


バーテン見習い・カオル少年(19)は、そもそも女子だ。





(つづく)


[ 2013/03/17 18:48 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第9話・別にこれはヤキモチとかそう言うんじゃ無くて。

『ねぇ、香?申し訳無いんだけど、明日私の代わりにバイトに出てくれない??』






その電話の相手は、北原絵梨子だった。
香と絵梨子は、小学校から高校までずっと一緒の親友同士だ。
絵梨子は高校を卒業してから、服飾関係の専門学校に通っている。
学費を親に甘えている分、彼女がオシャレに費やす費用はバイトで賄っている。
出勤のシフトが入ってる明日のバイトが、どうしても都合が悪くて行けそうにないらしい。
1日分のバイト代と、今度ご飯奢るからという絵梨子の提案に、
香は二つ返事で、OKした。
バーの方が丁度、週に1度か2度不定期で貰っている休みの日だったのも、幸いした。


香は休みの日が嫌いだ。


別に、お金には困っていない。
元々、あまり浪費はしないタイプだし、余ったお金は全て貯金している。
だから、香が休み無く仕事の予定を入れたいと思うのは、多分お金の為では無いのだ。
香にも自分で良く解らない。
けれど何もする事の無い日に、ボンヤリと1人家の中で過ごしていると。
死んだ兄貴を思い出す。
まだ彼が亡くなって、1年足らずだ。
香は兄が死んでから、ゆっくりと涙を流す事など無かった。
無理に自分を忙しくして、その事を考えるのは脇に追いやった。


ゆっくりと立ち止まってしまうと、多分香は。
きっと孤独な自分の境遇に、もう一歩も身動きが取れなくなりそうで。
立ち止まった足元から、底の無い深い闇に飲まれてしまいそうで。
怖いんだと思う。
それに、ご飯を奢って貰えるのは非常に魅力的な特典だ。








その日の買い出し当番は、ミックだった。
ミックが早目に店に戻ると、僚はまだ出て来てなかった。
ミックが一番乗りに出勤しているという状況は、非常に珍しい。
様々な偶然が重なった結果だ。
ミックが買って来た柑橘類を丁寧に洗って、カゴに盛っている所で僚がやって来た。





やあ、おはよう。リョウ。


おぉ、お疲れ。珍しいな、お前がそんな事してんの。カオルは?


・・・・カオルは今日は休みだろ?


あ、そうだった。








僚は全くの無自覚だが、一瞬だけつまらなそうな表情をしたように、ミックには見えた。
ミックはニヤリと笑う。






何だよ、愛しのカオルがいないからって、ガッカリするなよ。


はぁ?何言ってんの、おまぁ。おかしんじゃねぇの???


まぁまぁ、ムキになりなさんな、リョウ。


あぁ゛?誰がムキになってるっつ~んだよっっ


ハハハ、オマエ。・・・まぁでも、アイツの休みをてっきり忘れてたのは、ボクも同じ事さ。
なんか最近、アイツがいるのが当たり前って感じでさぁ・・・






ミックはそう言って、カウンターの背面の棚に置かれた1枚のDVDのケースをヒラヒラさせる。
僚は意味が解らないので、首を傾げる。





何だよ?それ。


この前、カオルに貸してあげる約束しててさぁ、今日持って来たんだけど・・アイツ休みだし。


いつ、そんな約束したんだよ???


・・・・はぁ?・・仕事終わりに焼き鳥屋で3人で飲んだ時、・・・てか、何だよ?顔近いよ、リョウ。





何故だかは僚は、ムキになって気が付くとミックにグイッと一歩近寄って詰問する。
ミックは、額にイヤな汗を掻きながら顔を顰める。





何のDVDだよ???

映画だよ。

何の?

ゴッド・ファーザーだよ、アイツ観た事無いって言うから。

いつ、そんな話ししたんだよ?

だぁからっっ!!この前、飲みに行った時だよっっ

いつの間に?

・・・・・・・リョウが、トイレに行ってる時だよ。何だよ?なんか問題でもあるのかよ(怒)

あぁ゛?ねぇよ、別に。

・・・フンッッ、妬くなよ(ボソッ)

ああ゛????妬いてねえしっっ

(・・・Oh,リョウ・・・オマエ、面倒臭い・・・)




それ以上不毛な遣り取りをしてもしょうがないので、ミックは僚を無視してサッサと開店準備に励んだ。















なななんか、これ。大丈夫かな(汗)




香は先程、チーフとやらに手渡されたその店の制服を着て。
更衣室の姿見の前で、キッチリ数十秒固まった。
スラリとした長身に、真紅のシンプルなチャイナ・ドレス。
脚の付け根ギリギリのラインまで、深く入ったスリットから覗く白くてスラリとした脚。
華奢な黒いピンヒール。
その店はフレンチと中華を融合した、創作レストランで。
絵梨子はそこで週4日、ウェイトレスのアルバイトをしている。
結構、人気の店らしく。
華やかな業界の人間が、足繁く通う店らしい。
だから、モデル志望やタレント志望の女の子が、結構沢山バイトしているらしい。




やっぱ、お化粧しないとまずいのかな・・・・



香は鏡の中に映った自分の顔を、もう一度しげしげと眺める。
なんで絵梨子のヤツ、ひとこと言っといてくれないかなぁ~~~と、香は溜息を吐く。
生憎店内は、妙に間接照明が多用され、薄暗い。
たかだかウェイトレスの顔など、じっくりと見詰める客もいないだろう、と。
仕方が無いので香は潔く、開き直る。



でも、なんか。こんなカッコしたら、一応女の子に見えるのかな???



香は鏡に映った自分の姿に、そんな事を考える。
いつもは、白いワイシャツと黒いベストに黒いパンツ。臙脂の蝶タイを結んでいる。
コレ、僚やミックが見たらびっくりするかな?
そう考えると、香は妙に可笑しくなった。



やっぱ、オレには男の子の方が似合ってるや。



鏡に向かってそう呟くと、香はフロアに出て行った。
しかし、この晩。
フロアにいる客の多くが若くて美しいモデルのような、凛とした香に目を奪われていた事など、
香自身は知る由も無い。













えぇぇええ~~~、今日カオル君居ないんだぁ。超っっ残念。




僚は表面的にはにこやかに、その客のオーダーのカンパリ・オレンジをビルドして軽くかき混ぜた。
しかし内心は、イライラしていた。
彼女は香の大ファンで、週に2~3度訪れる。
店にとっては、大事な常連客ではあるけれど。
どうせ、酒の味などロクに解りもしないガキなのだ。
先程から僚に、香の事を根堀葉堀訊いて来る。
僚もその度に、のらりくらりと交わしている。けれど、ハッキリ言って面倒臭い。


(アイツ意外と、接客スキル凄ぇな。)


香はいつも、どんなにうざい酔っ払い相手でも、楽し気にあしらっている。
僚やミックを目当てにやって来る常連たちは、多少気取っている。
グラスを重ねても、変に酔い過ぎたりしない大人の飲み方を弁えている。
だから相手をする方も楽なのだ。
でも、明らかに。
この僚の不機嫌は、ただ単に面倒臭いというだけでは無い、何か得体の知れない感情だ。

なんか、ムカつく。

しかし僚は、それ以上深く考えるのは止めた。




(・・・・アイツ、休みの日とか、何してんだろ。)


僚はそんな事を考えながら、しかしそんな事はおくびにも出さず華麗にシェーカーを振っていた。











(うわぁ、ラッキー♪)


香は接客したお金持ちそうなおじさんに、チップを貰った。
生憎、チャイナドレスには、ポケットが無いので香はこっそりフロアの隅で、
その5千円札を、ブラジャーのストラップに挟んだ。
もうそろそろ、閉店時間だけど。
この時間バーならまだまだ、絶賛営業中である。
今日は久しぶりに、早く家に帰り着く。




(お店、忙しいかなぁ・・・・)

香はあのバーテンダーの制服が恋しかった。
チャイナドレスもたまには面白いケド、1日で充分だ。




(つづく)


[ 2013/03/18 20:09 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第10話・気になる2人

その晩、遅い時間に1人でやって来た彼女は。
極上の美女だった。


彼女がカウンターのスツールに腰掛けると、僚が自然な素振りで向かい合った。
香は初めて見る客だったけれど、どうやら僚もミックも良く知る間柄なのは何となく解った。
僚は何も言わず、ドライ・ジンとアブサンとカンパリを選ぶ。
ステアしてカクテルグラスに注がれた、透き通ったトパーズのような色の酒を、
僚は彼女の前に差し出す。






久し振りだな、冴子。


ココの所ちょっと、忙しかったの。


そうか。




冴子と呼ばれた彼女は、そっとグラスに口を付ける。
香は思わず見惚れた。
妖艶な彼女と、柔らかく微笑む僚が。
とても洗練された大人に思えて、何故だか胸の奥がチクリと痛んだ。
香にはその痛みのワケが、良く解らないけれど。



僚がまるで知らない人のように見えた。


他のお客さんと軽妙に会話を交わす時の僚とも、
リズミカルに華麗にシェーカーを振る僚とも、
グラスを磨いたり、レモンやオレンジを絞る時の僚とも、
仕事帰りに焼酎を飲みながら、猥談に興じる僚とも、
香にカクテルの基礎を教えてくれる時の僚とも、
香の事を“チビ”と呼ぶ時の僚とも、
香の事を子ども扱いする僚とも何処か違う、僚の姿。


そして、そんな僚と向かい合う彼女(冴子さんだ)は。
香が今まで見た事のある、大人の女の人の中で一番綺麗だ。









閉店の1時間ほど前に来店した冴子さんと、僚は閉店を待たずに閉店の30分ほど前に店を出た。


帰り際、ありがとうございましたっっ、とお辞儀をした香の横を微笑みながら通り過ぎた彼女は。
花のような、良い匂いがした。
香がカウンターのグラスを片付けながら、チラリと出て行く僚に視線を移したら。
僚も香の事を見ていた。
刹那、視線が絡まる。
僚は小さく微笑むと、声には出さず口の動きだけで香に、
『おやすみ』と言った。
















おまぁ、まだ結婚しねぇの?


父さまは相変わらず煩いけど、今のとこ興味は無いの。お見合いの話しも断ってるわ。





僚と冴子は歌舞伎町の、とある一件の老舗のバーにいた。
そのバーは数年前、僚がバーテン見習いとして門を叩いた師匠の店である。





30過ぎたら、ガタッと条件下がるぞ。


それまでには、するつもりよ。





2人は、親同士が決めた元・許嫁だ。
しかし2人はお互いに、お互いと結婚する気はサラサラ無い。





・・・・でも多分、私にとって結婚は、一生、恋とは別物だわ。


フッ、とんだ“お嬢様”だこと。怖ぇ女。


アナタにだけは、言われたくないわ。






2人は、2人にしか解らない皮肉めいた笑いを漏らす。
僚が家業を継ぐ気が無いと宣言をした時点で、冴子との結婚の意思は無いと宣言したのと同義だ。
冴子の結婚相手としての条件は、御曹司としての僚だ。
冴子の夫の職業が、バーテンダーというのは許されない事のようだ。
もっとも、僚には何の関係も無い事だが。





あ、新しい子。入ったのね。


・・・・・・・・あぁ。


ふふ、可愛い子だった。


お、出たっっ。摘み食いしたくなっちゃった???アイツ、童貞だからお手柔らかにね。


まさか。 疲れるもの、子供相手は。


・・・・・・・子供ねぇ。







僚はむしろ、今のこの遣り取りに疲れていた。
カウンターの奥で売上を数えながら、香の口笛を聞いていたかった。
無言の遣り取りで気分を推し量って、どういう酒を欲しているだろうと気遣う相手より、
何を飲ませても、目を丸くして新鮮なリアクションをする“子供”の方が面白い。
僚の手の中で、溶け始めたグラスの氷がカランと澄んだ音を立てた。


















どうやら今日は口笛は無しらしいと、僚に代わって売り上げを締めるミックは香を見遣る。
香は黙々と、モップを掛けている。
もうじき、閉店後の後片付けも終わる。




カオル。




いつの間にか、ミックはレジ締めと水回りの掃除を終えていた。
テーブル席の雑巾掛けをしていた香は、ミックに呼ばれて顔を上げる。



おいで。



ミックが手招きをする。
香もニッコリ笑って、ミックと向き合ってスツールに腰掛ける。
ミックは小さくウィンクすると、楽しそうにシェーカーを振った。
香の前に置かれたカクテルグラスには、綺麗なパステルグリーンのお酒が注がれた。




いつも元気なカオルには、このお酒が似合うよ。




ミックはそう言って、香に飲んでみるように目だけで合図した。
カカオとミントと生クリームの混ざったまろやかな飲み物は。
まるでチョコミントのアイスクリームみたいだと、香は思った。






グラスホッパーだよ。


・・・グラスホッパー???


あぁ、英語でバッタって言う意味。


ふふふ、ヘンなの。


でも、美味しいでしょ?


うん。






それは確かに美味しかった。
まるでデザートみたいなカクテル。
でも香は、さっき冴子が飲んでいたトパーズ色のお酒の正体が知りたかった。
まるでそれは。
子供の香と、大人の冴子を表しているようで。
香は妙に複雑な気持ちになった。




僚が冴子に作った、その度数の高いカクテルの名は。
レイドミーという。
香には、その酒がどんな味のするモノなのか全く想像がつかない。
名前も知らない。


香はその晩、生まれて初めて。
大人になりたいと思った。





(つづく)




[ 2013/03/19 20:55 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第11話・あにき

香が僚とあの路地裏で出逢ったのは、香が19になったすぐ後。
春の終わり頃だった。
夏になる頃には、バー・キャッツ・アイに香の姿があるのは当たり前の光景になった。
香は仕入れ先の面々に可愛がられ、
歌舞伎町の夜の住人とも顔見知りになり、
常連客に可愛がられた。




香の兄の秀幸が1年前に亡くなった命日に香は、休みを貰った。




この世に香の肉親はもういないので、特に法要をする訳では無い。
香が1人で槇村家の墓参りをして、故人を偲ぶだけだ。
これまでは、1人で考え込む事を極力避けて来た香だけど。
兄を思い出さない日は、1日も無かった。
どうして。
自分には、家族が居ないんだろう。
休日に他愛の無い話しをして笑ったり、一緒にご飯を食べたり、テレビを観たり。
香の望む事は、そんな何でも無い普通の事だけど。
そんな普通は1年前に突然、香の前から消え失せた。
今の香には、あのバーで仕事を覚えたり、まるで兄のような2人と過ごす事だけが楽しみだ。












香が休みだったその日、僚は仕事を終えると真っ直ぐ家に帰った。
ミックは相変わらず、こんな時間から女遊びだ。
だからアイツぁ、いっつも開店前ギリギリに慌ただしくやって来るんだ。と、僚は苦笑する。
もっとも、香が居る日は3人で飲みに行くのもしょっちゅうなんだけど。
喫茶・キャッツ・アイから自宅までは徒歩約3分だ。
僚が自宅のビルの入り口まで来た時、ビルの表玄関に見慣れた栗色の猫毛の癖毛が小さく蹲っていた。



・・・カオル???



僚の呼び掛けに、香が顔を上げる。
僚はいつかの、路地裏での出逢いを思い出す。
けれどあの時と違って、香は僚を見ると一粒だけ涙を溢した。
澄んだ紅茶色の瞳から、綺麗な涙の雫が真っ白い頬を伝う。



どうした?



香は何も言わないけれど、多分、相当飲んでいるのだろう事だけは解った。



取敢えず、階上(うえ)来るか?



香は淡く微笑んで、コクンと頷いた。
僚はまるで、デジャヴのような感覚を覚える。
初めて逢った日の香は、お腹を空かせていた。
今夜は一体何だろう、と僚は放って置けなくなる。
まるで小さな仔猫のように。









照明を落とした仄暗いリビングのラグの上に座り込んで、放心している香に。
キッチンから戻った僚は、マグカップを渡す。
砂糖をひと摘みだけ入れた、ホットミルクだ。




ホラ、飲めよ。



もしかすると、僚が香に作ってやるカクテル以外の飲み物は初めてかもしれない。
それが何かを確認する事も無く、香はマグに口を付ける。
まるで本当に、疑う事を知らない仔猫のように。



・・・美味しい。



ホットミルクを一口コクンと飲み込んで、香が鼻声で小さく呟く。
僚は口角を上げて微笑むと、そうか、と言って香の癖毛をクシャッと撫でる。
ソファに背を凭れてラグに座り込む香の隣に、僚も同じように座り込む。
僚は自分用に冷蔵庫から持って来た、ヱビスの350ml缶のプルタブをパシュッと開ける。
一瞬だけ香がチラリと、僚を見る。



おまぁも、コッチのが良かった?



香は声を立てずに笑うと、小さく首を振った。
僚も小さく笑って、リモコンでオーディオのスイッチを入れる。
僚の部屋にはテレビは無い。
スピーカから、ジェヴェッタ・スティールの唄う“calling you”が流れる。











飲んでたの?



暫くの沈黙の後、僚が訊ねる。
香は小さく頷く。



・・・・・ちょうど1年前、兄貴が死んだんだ。



香は小さな声でそう言った。
僚には何と答えて良いモノか解らないので、黙って香の横でビールを飲む。
香は沈黙の合間に、ポツリポツリと呟く。
警察官だった兄が1年前に、殉職した事。
両親は香が小さい頃に2人とも亡くなっているので、今は香1人で家族で住んでいた公団に住んでいる事。
郊外の霊園にある槇村家の墓参りに、1人で電車に乗って行ってきた事。
どうして自分には、家族が居ないんだろうと思うと悲しくなってきて、初めて1人でお酒を飲んだ事。




だいぶ、飲んだだろ?


よく解んない。




僚が香の表情を窺っても、香は何を考えているのか良く解らない。
ボンヤリとした表情で、コクンと少しだけ冷めかけた薄甘いミルクを飲む。



りょおは、



香は何かを言い掛けて、ボンヤリと虚空を見詰める。
もう既に、眠たげだ。
休みのこの日、香は朝から電車に乗って墓参りをして、夕方から浴びるほど酒を飲んだ。
ホットミルクがイイ感じにセロトニンの分泌を促して、香に眠気を齎す。





ん?なに?


・・・りょおは、兄弟はいるの?


いや、一人っ子。家族は、親父が1人。


・・・・お父さんか。


あぁ。


・・・・・・いいな。羨ましい・・・




香は小さくそう呟いて、それっきり眠ってしまった。
コテンと、香の小さな頭が僚の肩に凭れる。
小さくスースーと寝息を立てて眠る香を見ながら、僚は父親を思い出した。
意外と近くに住んでいるのに。
僚はココ数年、実家には帰っていない。
家業を継がないと言った僚を、父は別段責めるわけでも怒るわけでも無かった。
ただ、少しだけ淋しそうに『そうか』と言っただけだった。
だから。
実家への敷居が高いのは、むしろ僚自身の呵責の念が大きいのかもしれない。



香を見ていると僚は、良い事も悪い事も色々と思い出して、心がザワザワと波立つ。
でもそれは、決して不快な感情では無い事に、僚自身が一番驚いている。
香は僚にとって、不思議な存在で。
僚がこれまでに逢った人間の中で、初めてのタイプだ。
僚は香の華奢な体を抱き上げると、傍らのソファに横たえる。
寝室のクローゼットから、タオルケットを持って戻った時。
香が小さく寝言を言った。



“・・・おにいちゃん”


香の頬には、涙の跡が薄っすらと残っている。
その寝顔は“兄貴”と言っていた香より、少しだけ幼げに見える。
僚はそっとタオルケットを掛けてやると、まるで弟のような香の頭をそっと撫でた。
音楽を止めて、マグと空き缶を持ってリビングを後にした。









香の人生で一番淋しいこの日に、
香が逢いたくなったのは、僚だった。



(つづく)

[ 2013/03/20 20:06 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第12話・緩やかな変化

あれ、海ちゃん。珍しいね、こんな時間に。




その日、僚が店に着くと伊集院がカウンターの中に居た。
いつもなら、カフェとバーの入れ替わりの時間で、
『準備中』の札を下げたガラス張りのドアと窓は、ブラインドを降ろし、
伊集院は、簡単な掃除を済ませるととっくに帰っている時間だ。





美樹ちゃん待ってんじゃねぇの?





伊集院の妻・美樹は30代前半だ。
しかし実年齢より遥かに若く見える上に、夫とは20歳近く歳が離れている。
美女と野獣を地で行く上に、幼な妻(結婚当時、美樹は20歳そこそこだった。)かよ、と。
僚は常々思っている。




あ?あぁ、まぁ偶にはな。お前に話しが有ってな。


なに?改まって。


まぁ、飲め。


あぁ、ありがと。




伊集院は、カウンターに腰掛けた僚に淹れたてのコーヒーを差し出す。
偶に飲む、第2の父親のような彼の淹れるコーヒーは、相変わらず旨いと僚は思う。




お前、この先独立は考えて無いのか?




突然、思いも寄らぬ伊集院の質問に、僚は思わず舌を火傷しそうになった。
考えていない訳でも無い。
それは師匠の店で、見習いをしていた頃からの僚の夢だ。
そりゃあいつかは自分も、店を持ちたい。
その為の蓄えも、幾らかはある。



・・・まぁ、考えて無いワケじゃ無いケド。なに?急に。


この間、神サンと飲む機会が有ってな。


・・・・・で?


実際の所、そもそもお前に独立してやって行けるだけの力が有りそうなのか、と訊かれてな。


・・・・・・。


俺の考えはな、僚。力は、やりながらつけて行くモンだという事だ。
やりながら、時には失敗もして形になるもんだと。




伊集院は、そう言ってコーヒーを啜った。
僚も暫し、何か考え込む。





それで?オヤジになんて?


今言った通りの言葉をそのまま言ったさ。


で?オヤジはなんて?


フッ、まぁ確かに。だと。





伊集院につられて、僚も思わず吹き出す。
伊集院も父親も、言葉数の極めて少ない者同士だ。
そんな2人が一緒に飲んで、果たして面白いんだろうかと僚は疑問に思う。
僚とミックの猥褻トーク飲み会とは、えらい違いである。





でもな、僚。


ん?


神サンにはそう言ったが、俺はお前なら充分やっていけると思ってるぞ。





僚は思わず笑ってしまう。
んなら、オヤジにもそう言ってくれよ、と。





お前が思ってる程、親父は小さい男じゃねえぞ。あの人は、お前に幸せになって欲しいだけだ。


うん、それは解ってるつもり。


なら、たまには家に顔出せ。あれで結構、淋しそうだったぞ。


・・・あぁ。前向きに考えとく。


フンッ、生意気な(笑)考える前に、たまには帰れ。


ふふ、わかったよ。






観念したようにそう言った僚の頭をクシャクシャと撫でて、伊集院は帰って行った。
彼に言われなくとも実は、僚はその内帰ろうと思っていた。
別に取り立てて用事があるワケでも無いけれど、たまには父親と水入らず飯でも喰うかと。














そんな彼らのやり取りがあった数時間前。
都内某ホテルのビュッフェランチに、10代の女子2名が居た。
フリーペーパーの口コミランキングでは常に1位で、若い女子に人気のランチである。


香はほぼ毎日夜は仕事だし、絵梨子もまた週に4日はバイトを入れている。
1か月以上前の食事を奢るという約束が延び延びになって、夕飯は難しいという結論に至り、
結局は、ランチを食べに来たのだ。
絵梨子としては、有難い事だ。
食べ放題なら、予算を気にせずに香に満足して貰える。
それに生憎、香は質より量である。
もっとも、このホテルのビュッフェはその味にも定評があるけれど。




相変わらず食べ盛りね、香。


うんっっ、超美味し~~い♪ありがと~~~、絵梨子。


良いのよ、私も助かったし(苦笑)





絵梨子は、目の前の親友の盛って来た皿を目にするだけで、お腹一杯になりそうだった。
高校を卒業して1年数ケ月。
今の絵梨子の周りの友人たちは皆、オシャレや美容が最優先課題なので。
する必要も無いダイエットに励む人種ばかりだ。
香のように食べたいモノを食べたいだけ食べていたら、何を言われるか分かったモンじゃない。
けれど。
少なくとも、香以上にスタイルのイイ友人はいないし、美人な友人もいない。
絵梨子は、やっぱり友人の中で香が1番好きだ。
小学生の頃から、1つも変わらないから。



食事の部を終えて、
2人がデザート(勿論、別腹だ。)に取り掛かっている時に、その話題になった。



ねぇ、香?


ん~~~???なぁに?(このアップルパイ、超オイシイ!!)


ホントに、その店長さんのお家に泊まったりするの?


うん、するよ。


・・・・平気なの?アンタ。


????なんで???


なんでって・・・その店長さんも、もう1人のバーテンさんも男の人でしょ?


まぁ、そうだけど。オレも、一応男って事になってるし。


・・・そこが解んないのよ。どう見たら、香が男の子に見えるの???その人たち。


・・・・さ、さぁ(汗)みみ見えるんじゃないの?男の子に。
初めて会った時からずっと、男の子扱いだよ?


はぁっっ~~~





絵梨子は、深く長い溜息を吐いた。
超絶別嬪の(しかし、性格は些かサバサバし過ぎた)親友は、
何をどう間違ったのか、今現在、男装をして女の子にモテまくっているらしい。




でもさ、香。


ん?(モンブランも美味しい♪)


ホントに、その僚さんって人の事、何とも思ってないの?


何ともって???


だぁかぁらっっ!!カッコイイとか、優しくて素敵とかって事よ。


・・・・・????





どうやら色気より食い気らしい親友には、難しい質問だったようだと絵梨子は思う。
けれど、いつか。
自分が吐いた嘘によって、この天真爛漫な親友が。
苦しむ事にならなければ良いけどと、絵梨子は願う。
















その日の仕事終わり。
カウンターの向こう側に座った僚に、香はミックに教えて貰ったグラスホッパーを振舞う。
僚は頬杖を付いて、シェーカーを振る香を楽し気に見ていた。
グラスに淡いグリーンが注がれる。
僚はまず口を付ける前に、シゲシゲと香の作品を観察する。
香は僚の一挙一動を、ドキドキしながら見守る。
僚は内心、そんな香の緊張した面持ちが妙に可笑しくて、ワザと勿体付けてグラスを口に運ぶ。




ど、どう?


・・・・まぁ、イイんじゃない?


ほんとう???


あぁ、旨い。





香は僚の一言で、満面の笑みになる。
僚は本当言うと、香の覚えの良さに感心している。
一度目の前でやり方を見せただけで、正確に計量まで再現してみせるし、
初めて作ったものは、やはりどれもヘタクソだけれど、上達は驚くほど速い。
何より、味覚のセンスが良いのだろうと思う。




あ、あのね、りょう。


ん?


オレ、前は別になりたいモノなんて無かったケド。
バーテンになりたいなって、最近思うんだ。





僚は香の言葉に、ますます笑みを深くする。
僚が貸した本を、香が熱心に読んでいるのも知っている。
棚に並んだ酒の瓶を、一生懸命覚えているのも。
僚やミックが作る酒を、時折見ながらどうやっているのかやり方を盗んでいるのも。
それに、最近は。
やたらと街中でケンカをする事も無くなった。
僚は香より、10歳近く歳上だから、
香が物凄く早いペースで色んな事を吸収し、成長している事を客観的に見る事が出来る。
香は確かに、少しづつ成長している。




なれるよ、オマエなら。


そうかな。


あぁ、大丈夫。リョウちゃんのお墨付き♪





香は嬉しそうに笑った。
もしも、こんな風に僚と過ごすひと時を楽しんでいるこの気持ちが。
絵梨子の言う『何とも』というヤツならば。
香は多分。
僚の事を、『何とも』思っていないワケでは無いのだろう。
自覚はまだ無い。



(つづく)


[ 2013/03/21 19:12 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第13話・自覚

その日は雨で、客足はまばらだった。




カオル、今日はもう閉めようか?



ミックが入り口のガラスのドアから、外を眺めてそう言った。
雨脚は、弱まるどころか強さを増す一方だ。
いつもより、まだ1時間ほど早い。
そして珍しく、僚は休みだ。


香はミックの言葉に小さく頷く。
問題は。
店の表に出された、看板をどちらが仕舞うかだ。
雨は土砂降りで、数秒間外に出たらきっとズブ濡れだ。




ジャンケンで負けた方が、看板仕舞う係ね。




ミックの提案に、笑いながら香が頷く。
数分後、ズブ濡れのミックが売り上げを締めて、香はフロアの掃除をしていた。
香は知らず知らずの内に、楽し気に口笛を吹いていた。
ミックは香の口笛が奏でる“calling you”のメロディをBGMに、
いつもより少ない紙幣を数えていた。








・・・あ~あ、こんな事なら。先輩風吹かせて、看板仕舞う係はカオルに任命すれば良かったよ。




そう言って、タオルでその自慢のブロンドをクシャクシャと拭うミックに、
香がクスクスと笑う。
傘を差していても濡れそうな雨に、2人は雨が弱まるまで店で雨宿りする事にした。
香はコーヒーを、2人分淹れた。
ミックは香の淹れたコーヒーを飲んで、感嘆の溜息を漏らす。





へぇ、コーヒー淹れるの上手だね、カオル。ボクより上手だよ。


家では、コーヒー淹れるのは、オレの係りだったから。


・・・そうか。


うん。


ウチは、一番上手いのはDadだったな。




そう言って、ミックがニッコリ微笑む。
香はどんなお父さんだろうと、ミックの父親を想像する。





ミックのお父さんは、元気なの?


あぁ、バリバリ現役。


ふ~~~ん、何やってるの?


仕事?


うん。




ミックが少しだけ、言葉を探していた事には香は気付かない。
雨音は依然、激しく表の舗道を叩く。




・・・ドクターだよ。


お医者さん?


あぁ。


そうなんだぁ。凄いねぇ。


凄いのかな。


凄いよ。だって、頭がイイ人じゃないとなれないし。





香の言葉に、なれなかった若干1名が軽く凹む。
小さい頃のミックは、父のような医者になりたかったけれど、
なりたいからと言って、必ずしもなれるワケでは無い。




ウチのお父さんは刑事だったんだ、死んじゃったけど。


へぇ、そっちのが凄いよ、カッコイイ。


うん、お父さんカッコ良かったよ。オレも、小さい頃は警察官に憧れたけど。


けど?ならなかったの?


・・・憧れたからと言って、なれるわけじゃないじゃん?オレ、勉強出来なかったし。





ミックは香の言葉に、頬を緩める。
ミックも同じだ。
大学の途中で、明らかに自分には無理だという事に、嫌でも気が付いた。
医者になれなかった1人息子に、両親は少なからず落胆した。
表立ってそれをどうこうは言わないけれど、親の期待に沿えなかった事ぐらいはミックでも判る。
あれから数年経って、今の歳になっても。
ミックはやっぱりそれが、何処かで少しだけ引っ掛かっている。
だからこそ、香に父親の事を問われた瞬間に、僅かに言葉を選ぶ自分がいた。


それがこの目の前のカワイイ童貞少年は、あっけらかんと。
ミックのちっぽけなそんなわだかまりを、吹き飛ばすような勢いで
まるでそんな事は大した事じゃないんだと、そう言ったようにミックには聞こえた。




僚は今夜、数年振りに実家に帰って、父親と食事をしているらしい。
香には何故、僚が何年も実家に帰っていなかったのかも。
何故急に、帰る気になったのかも知らないけれど。
それでも。
帰る場所があって、一緒にご飯を食べる相手がいるのはイイ事だと思う。






りょおは、今日の晩ご飯、何食べたかなぁ?


・・・さぁね。アイツんち金持ちだから、多分ご馳走だぜ?


そうなんだ、超~~~羨ましい(涎)


・・・・吉野家、寄って帰ろうか?


うん♪イイねぇ~~~












その頃、僚は実家の自分の部屋にいた。
自分の部屋と言っても、そこはかつての部屋としか言いようが無く。
大学生になってから、あの新宿のビルを譲り受けてからこの部屋は、
僚にとっては、子供の頃の部屋だ。
僚がここを出た時のまま、この部屋は保存され。
掃除まで行き届いている。


少しだけ今の僚には窮屈な、シングルベッドの子供っぽいキルトのカバー。
小さい頃に貰った、メダルや賞状。
様々な年代の少年だった頃の、自分の写真。
父は、突然実家に顔を出した僚に、別段驚くワケでも無く。
それは拍子抜けするほど、以前のままの冴羽家の空気だった。
父親に愛されている事は、重々解っている。
自分が、親不孝な1人息子だという事も。




僚は30を目前にして、今一度、自分の人生と向き合わなくてはいけないと思ったのだ。
いつまでも父と顔を合わせずに、父の親友に世話になりながら、
敷居が高いからと、目を逸らしていても。
きっと、何も進歩は無い。
大した話しをしたワケでも無い。
伊集院がああ言ったからと言って、すぐにでも独立に向けて具体的に話しを進めるワケでも無い。
まして、今更父の後を継ごうなどとは全く考えていない。
けれど、後を継ぐ事だけが親孝行では無いのだという事に、漸く気が付いたのかもしれない。



窮屈なベッドに横になって、僚はそれに気付かせてくれた存在の事を考える。
薄茶色の澄んだ瞳の、無垢で、真っ直ぐなバーテンダー見習い。
今までに全くの未経験な、不思議な感情。
どう定義して良いモノか、解らない気持ち。
世界中の誰とも、今まで逢った誰とも違う存在。
でも、多分これは。
好きなんだと思う、カオルが。


僚はその晩、ハッキリと自覚した。


(つづく)

[ 2013/03/22 22:18 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第14話・恋する店長

はぁっっ~~~



槇村香は、仕事終わりの深夜の某牛丼チェーン店で。
大盛りツユだくガリ多目の牛丼にがっつきながら、盛大に溜息を吐く。
もう何度目だか解らない香の溜息に、隣の椅子に座っているミック・エンジェルは苦笑する。
原因は他でも無い。
彼らの勤め先たる、バーの店長・冴羽僚のここ数日の不可思議な挙動に振り回されている為だ。
この数日、2人は深夜の牛丼がお決まりパターンとなっている。





ねぇ、ミック。


ん~~~?


オレ、なんか悪い事したのかなぁ?全く、心当たり無いんだけど・・・・






そして。
もう1つの原因は、他でも無いこの食欲旺盛な美少年・カオルにあるのだ。
もっとも、“カオル”には決して心当たりは無い。
当然である。
問題は、僚の心の中にあるのだから。




カオルが気にする事じゃないよ、放っときゃいいさ。


・・・そうかなぁ。


あぁ、気にするな。それより、お替り喰うか?


うん、当然。





もう、この1週間ほど3人で飲みには行って無い。









僚の行動が可笑しくなったのは、珍しく店を休んで実家に帰ったあの雨の日の後だった。
初めの内はとにかく、上の空だった。
珍しく、グラスを取り落して割ったり。
ナイフを使いながら、指先を切ったり。
小さな段差で、蹴躓いたり。
ミックも香もそんな僚に、大丈~~夫ぅ???なんて笑いながら、ツッコミを入れたりしていた。
そして、その僚の些細な変化は直るどころか、日に日に悪化している。
それは何故だか、香が絡むと動揺が大きくなるらしく。



香が話し掛けると、あからさまに聞こえないフリをする。
香に用があっても、遠回しにミック経由で伝える。
決して香と目を合わせない。
それはまるで、香を避けているような挙動であった。
そのクセ香目当ての常連客がやって来ると、
まるで小姑のように意地悪く、接客させないようにお使いを命じたりする。



勿論、そんな風だからこの1週間から10日程、専ら香の愚痴の聞き役はミックである。
これまでまるで兄弟同然に、仲良くしていた2人なのに。
何故だか、僚が一方的に態度を硬化したのである。
香にしてみれば、ワケが解らないのが当然だった。
けれど。
ミックは、何となく気が付いてしまった。
これは恐らく、恋の初期症状・自意識過剰というヤツだ。
僚は多分、今激しく悩んでいるんだろう。
幾ら超絶カワイイ相手でも、カオルは“オトコノコ”だ。
僚はこれまで、“新宿の種馬”との異名をとるほどの女好きで。
数多の綺麗処と浮名を流してきた。
どれだけゲイのお兄さん方に言い寄られても、男に対する興味は一切皆無だったのに。
多分、それが自分だったとしても。
やっぱり僚と同じように戸惑うだろうと、ミックは思う。
別に悪い事とは思わないけれど。
多分、僚の目下の悩み事は、恋愛問題に違いない。









僚は自宅アパートの屋上で、1人寝転んで煙草を吸っていた。
夏ももうすぐ終わるというのに、新宿のど真ん中はまるで熱帯雨林のように蒸し暑い。
ボクサーパンツにTシャツ姿の、風呂上りの僚の手足に触れる、
ひんやりとしたコンクリートの感触が、心地良かった。
一晩中、真っ暗闇にはならない明るい夜空には、星の1つさえ見えない。
僚は深くマールボロのケムリを味わいながら、目を閉じる。



軽やかに躍動する、華奢な身体。
無防備に微笑む、無邪気な笑顔。
普段からは想像もつかない程の、淋しげな泣き顔。
自分を心底信頼しきった、幼げな寝顔。
真っ直ぐで正直で気の強い、茶色の瞳。



考えまいとしても、頭に浮かぶのは。
ヤツの事で。
この所、僚は正直気が狂いそうだ。
これまで良いなと思う相手は、片っ端から口説いた。
殆どは落とせたけれど、落とせないなら落とせないで、次に進むだけで。
悩む事など、皆無だった。
ましてや、片思いなど。
それに、イイと思ってすぐに口説ける相手なら苦労はしない。
僚は煙草のケムリの混じった、深く重い溜息を吐く。





問題は、惚れた相手が男の子だという点である。



(つづく)

[ 2013/03/24 16:03 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第15話・悩める美少年

僚と、意味も解らずギクシャクし始めて、もうすぐ1か月になる。



夏の間は、僚と沢山色んな話しをしたり、仕事帰りに飲みに行ったり、
僚の部屋で沢山、ジャズのレコードを聴いたり、
営業が終わった店内で、色んなカクテルの作り方を教わったりした。
お互いのプライベートな話しもしたりして。
香は少しだけ、僚が兄貴なら良いのになと、思っていたりした。


何故だか僚が香を避けはじめて、初めの内はミックに色々と相談していたけれど。
なんだかそれも、あんまり毎日だとミックに申し訳ない気がして、
この頃は、3人それぞれが仕事を終えると真っ直ぐウチに帰る日々が続いている。
もっとも、厳密に言えば、この件に関してミックは部外者なので、
彼は夜な夜な女遊びに興じている。(それに関しては、いつも通りだ。)











ねぇ、カズエ?


なぁに?


リョウがさ、とある男の子に恋してるらしいんだよね。







ミックの部屋は、僚の自宅の向かいのマンションだ。
その部屋のベッドルームで、つい先ほど。
恋人とのイチャイチャタイム第1ラウンド目を終了した。
かずえとは、大学の医学部で知り合った。
ミックと違って、彼女は成績優秀で。
今現在、大学に残って遺伝子の研究に励んでいる。
昔から、ミックの本命は彼女で。
その他大勢は、単なる遊びだ。
かずえもミックの親友で、向かいのビルに住む冴羽僚の事はよく知っている。
良い事も悪い事も。





嘘だ。


いや、それが。本当なんだ。


まさか、ミックの勘違いよ。


う~~ん、それならどんなにか良いんだけどさ。アイツ、今バカみたいに悩んでんの。


・・・新宿の種馬は、バイセクシャルだったって事???


まぁ、そうなるね(笑)


ある意味、ステージは上がった感じね♪






全くの他人事感満載の恋人のリアクションに、ミックは苦笑する。
それでもミックも、かずえの意見と大差無い見解だ。
この際、カオルが男子だろうが何だろうが。
好きなら仕方が無いではないか、と。
何を悩む事があるんだろうかと、ミックは思う。
男の子との恋愛経験も、人生経験だ。



しかし結局は恋愛沙汰など、当人同士以外には無関係だし、
他人が口を挟む問題でも無いのだ。
ただ少しだけ。
ミックは、前みたいに男同士3人で。
和気あいあいと飲みに行ってた頃が、恋しかった。
毎晩一緒に過ごすほど、恋人は暇では無いみたいだし、
セックスフレンドと遊ぶのも、続くと飽きてしまうし。
結局一番飽きないのは、オトコだらけの猥褻トーク飲み会なのだ。













香は仕事を終えて家に帰ると、小さな自分のシングルベッドに倒れ込むようにして俯せた。



多分、この苦しい胸の痛みは。
嘘を吐いた罰が当たったんだと思う。



枕元の目覚まし時計の隣に置かれた写真立てに、そっと手を伸ばす。
高校生の香と兄・秀幸が2人で写っている写真。
この頃の兄妹は、まだまだ幸せな未来がずっと続くと信じて疑わなかった。




(・・・お兄ちゃん、アタシ。お兄ちゃんの大嫌いな卑怯者だ。)



香は小さい頃から、卑怯者にだけはなっちゃいけないと兄に教わって育った。
けれど。
遊ぶ金欲しさに、カツアゲする不良と。
時給に目が眩んで嘘を吐いた自分は、何処がどう違うというんだろう。
せっかく出逢えた兄以外で、心から大切だと思えた人達に、
香は最も大きな嘘を吐いている。



最近では、毎晩のように家に帰ってから1人でこうして泣いている。
バーで働くようになって暫くして、辞めてしまった新聞配達を。
香はもう一度始めようかと、近頃考え始めている。
前は兄の事を思い出すのが辛くて、忙しくしていたけれど。
今はなるだけ、僚の事を考えないようにしていたい。
そんな風に考える自分にも、香は嫌気がさす。
楽しく仲良くやっている時には、嘘を吐いている自分に罪悪感なんて無かったくせに。
こうして僚に嫌われてしまったら、今度は都合良く逃げ出そうとしている自分が。
香は許せない。
何より、こんな状態で店を辞めるという選択肢を選べない自分は。



僚の事が好きなんだ。



香は、漸く自分の気持ちに気が付いた。
香の初恋は、嘘から始まっていて。
恋心を自覚した頃には、ただ苦しくて辛いモノだった。
嘘を吐く事がこんなにも重く、辛い事だという事を香は初めて思い知った。
香にはどうすれば良いのか、全く解らなかった。



(つづく)

[ 2013/03/25 00:30 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第16話・キス

このままではいけない事ぐらい、僚にも解っている。
10歳近くも年下の相手を、大人げなく避けている。
自分は年上で、立場も店長とアルバイト。
その上、自分の個人的感情を理由に、理不尽な態度を取っている。


数日前、その事をミックに指摘された。


全てが正論で。
僚には、何も言う事が出来なかった。
『このまま、カオルと向き合えないのなら、
 店長であるオマエが、カオルを辞めさせるべきじゃないのか?
 辞めさせる事が出来ないのなら、徹底してアイツへの感情を抑え込むか、
 もしくは。


 ・・・・・・・・口説くしか無いんじゃね?』と。


ミックが半分、面白がっている事は僚も薄々解っている。
新宿の種馬が、男色に目覚めたのが面白いのだろう。
所詮、他人事だ。
てめぇミック、覚えてやがれ。と、
僚は心の中だけで強がって見せる。















それからまた暫く考え込んだ僚は、もしかすると半ばヤケクソだったのかもしれない。


これまで、落とせない相手の方が少なかったじゃねぇか。
落とせないなら落とせないで、別にわだかまりも無かったじゃねぇか。
ただ、次に進むだけ。


ただ、アイツが男ってだけで。今までと、何が違うというんだ?


・・・・てか、これって、軽く自己暗示ってヤツだろうか(苦笑)


でも何故だか、今回は。
もしもアイツに振られたら、結構、深刻に凹みそうな予感がする。
何しろ、こんなに長い期間片思いした事すら、人生初なのだ。



けれどこんな僚の煮え切らない曖昧な逡巡が、日々刻々とその関係に亀裂を深めているのも事実だ。
クビにするか、口説くか。
僚はその2つを天秤に掛けた時、以前のようにもう一度無邪気な笑顔を見たかった。
心底、自分の事を信じている、あの真っ直ぐな瞳の中に映りたかった。
もしも淋しくて、泣く事があったなら知らない誰かの傍では無く。
自分の胸で泣いて欲しいと思ってしまった。




カオルがたとえ男でも、好きで堪らなかった。















香は毎日、このままではいけないと思っていた。
今日こそは、洗いざらい本当の事を正直に話して謝らないと、目覚める度にそう思う。
けれど、いざ店に出て僚の姿を見ると。
どうしても、本当の事を打ち明ける勇気が持てなかった。


もしもこの数ケ月、嘘を吐いて2人を騙してきた事がバレたなら。
きっと、本当に軽蔑されてしまうだろう。


それじゃあ、このまま男の子のままで店を辞めてしまおうか。
もう2度と逢う事も無く、無かった事にしてしまおうか。



そのどちらも、香には選べなかった。
そのどちらでも無く、元通りの仲良しに戻れる方法があるのならば、知りたかった。
もう、それかいっその事。
自分達3人以外の誰かの口から女だとバレてしまえば楽かもしれない、なんて思ったりして。
また更に、自己嫌悪に陥った。


結局は、色んな方法を考えたとしても。
“嘘を吐いている”という、この卑怯な事実に変わりは無いのだ。


香は出来る事なら、数ケ月前のあの日に戻りたかった。
あの日に戻って、
自分を男の子だと間違えた僚に、自分は女だとハッキリと宣言したい。



こんな気持ちになる前に。

















僚はその日1日、仕事が手につかなかった。

それでも何とか普段通り、肉食系女子達と軽いトークを交わし。
フェロモンの使い所を見極め、如何にも軽やかな種馬を演じ。
色男の振りで、気取った酒を作った。
それでも心の中では、
少し離れた席に座る年上の女にからかわれている美少年に、恋い焦がれていた。


1人2人と客を見送る度に、
あぁ、どうやら怪しまれる事は無かったようだと、ホッと胸を撫で下ろす。
深夜2時を回って、最後の客を送り出した時。
僚はドッと疲れていた。




香は夕方店に出て来てから、なるべく僚への用件が無い事だけをいつも祈っている。

僚に声を掛けて無視されるのは辛いし、
ミックを経由して用件を伝える度に、心が悲鳴を上げる。

自分目当ての客が来るのが、苦痛だった。
そんな時は特に、僚が冷たいような気がする。
確かに自分には、客の相手をするほどのスキルは無い。
きっと、僚にしてみれば。
自分のやる事なす事、全てが気に食わないんだろうと思うと悲しかった。












ごめ~~~ん、オレ今日は特別なデェトなんだぁ。先帰るわ~~~。







ミックが表の看板を仕舞いながら、僚と香に言った。
もっともミックの場合、特別じゃないデェトより、特別なデェトとやらの方が回数は多い。
僚も香も内心、非常に焦る。
2人きりになるのが怖い。
思わず2人とも、縋るような視線をミックに向けるけれど、ミックは気が付かないフリをした。
否が応でも、向き合わせる為にも。
いつまでも2人の伝書鳩は御免だと、ミックは思う。




ミックが帰った店内に、気まずい雰囲気が流れる。
僚は売り上げを計算する事に集中したし、香はただ黙々と掃除をした。
僚は少しだけ、香の口笛が聞きたかった。
もう随分、聞いてない。
僚は気まずい空気が嫌で、何気なく有線のスイッチをひねる。




…some place better than where you've been
a coffee machine that needs some fixin'
in a little cafe just around bend

I am calling you
Can't you hear me?
I am calling you 




それは、ジェヴェッタ・スティールの唄う“calling you”だった。
僚の脳裏に、いつかの香の泣き顔が浮かぶ。
僚は手元の札やコインから、ふと顔を上げる。
香の華奢な背中。
僚に背中を向け俯いて黙々と、床にモップを掛けている。
僚は無性に、あの透き通った瞳が恋しくなった。











カオル。





香は名前を呼ばれて、ハッと我に返った。
僚の優しい声を、何だか久し振りに聞いた気がした。
振り返ったすぐ後ろに、僚が居た。
香は意味が解らずに、僚を見上げて首を傾げる。



無意識だった。
どうしても、今すぐに香の顔が見たかった。
ココの所、後ろめたい心が先立って、香の顔を真っ直ぐに見れないでいた。
気付いたら、一生懸命掃除をする香の背中に近付いていた。
ポカンとして自分を見上げる香を見て、
初めて逢ったあの日と、真夏の夜中のアパートの表玄関に蹲っていたあの日を思い出した。



もう僚には、躊躇いなど無かった。



華奢な体を抱き締めると、清潔なシャンプーの匂いがふわりと鼻を掠めた。
驚いて無表情に固まる香の唇に。
優しく触れるだけのキスをした。
照れ臭さを誤魔化す為に、もう一度キツク香を抱き締めると柔らかな癖毛に顔を埋めた。

 




・・・ごめん。俺、おまぁが好きだ。




僚の声は掠れていた。
この時、香は漸く気が付いた。
僚の今までの態度のワケを。
“オトコノコ”を好きになってしまった、普通の男の葛藤を。
僚の苦しみを。
そして、その元凶は自分の吐いた嘘から始まってしまった事を。
香の白い頬を、涙が濡らした。


謝らなければいけないのは、自分の方だ。


それでも。
どうしても、香は本当の事が言えなかった。
ただ怖かった。





・・・オレも、りょおが大好きだよ。




香はそう言って、僚の胸の中で泣いた。
僚は香を抱き締めて、背中を撫ぜた。
どうしようも出来ない程に絡まった、恋の糸の解き方など香には知る由も無かった。
この夜の僚にはまだ、香の涙の意味は解らなかった。


(つづく)

[ 2013/03/25 21:02 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(2)

第17話・涙の意味

冴羽僚は本来、あまりグダグダと悩みを引き摺るタイプでは無い。
慎重に物事を考える思慮深さもあるが、1度これと決めれば前向きに取り組むタイプだ。
だから、この度の“新宿の種馬・第2ステージ”なる恋の方向性も。
腹を括れば、後は突き進むのみだった。


その晩、仕事が終わった店内に、絞ったヴォリュームで流れる音楽の中で。
2人は初めてのキスをした。
香は勿論ファースト・キスだったし、僚もまた男の子(仮)とのキスは生まれて初めての経験だった。
暫く抱き締めあった2人は照れながら、自然とまた後片付けに戻った。
少しだけぎこちない空気だったけれど、それはキスなんかしちゃった後だし。
何しろ、ココの所の最大に張り詰めた雰囲気だけは、峠を越えたと僚は思っていた。
勝負は明日からだ、と。
この数週間、香を悩ませた日々を挽回するべく僚は気持ちを新たにしていた。











けれど、
事態は思いがけない斜め上の展開を見せて、突然僚の前に立ちはだかった。











2人がキスをした翌日、
僚は初めに香の顔を見たら何と言おうと、あれこれシミュレートしていた。
それは恋心の葛藤を過ぎ、ある意味では甘い恋の喜びですらあった。
けれど、そんな僚を待っていたのは。
店の裏口のドアノブに掛けられた、紙袋だった。
中身は、綺麗に洗濯されたMサイズの制服一式と、一通の手紙だった。









オハヨ~~。カオル、リョウ。



またしてもミックが、開店時間ギリギリに店に出て来たその時。
店内の空気が、いつもと違った。
いつもなら元気に笑いながら挨拶に応える香が居ないし、
来るのが遅いミックに、嫌味の1つでも言いながらニヤッと笑う親友は。
灯りも点けない真っ暗なカウンターの中で、呆然と項垂れていた。





What??? 一体、どうしたんだっっ???リョウ



僚は何も言わず、ミックをチラリと一瞥すると。
一枚の便箋をミックに差し出した。
ミックは首を傾げつつも、それを受け取って目を通す。
それは、香からの謝罪と告白の手紙だった。
手紙には、もう店に来る事は出来なくなったという事と、もう1つ。


実は自分はカオルでは無く、香であるという事が綴られていた。


一度読んだだけでは、内容が頭にすんなりとは入って来なかったミックは。
ゆくっりと2度目、文章を辿ってから絶叫した。



マヂかよぉおお~~~



けれど、そう言われてみれば。
不思議と合点がいく。
あの華奢な体つきも、真っ白な肌も、男の子の割に美し過ぎる容貌も。
2人とも、初対面で不思議と惹き付けられた事も。
“女の子”だと言われれば、確かに香は女の子にしか見えなかった。
逆に、どうして気が付かなかったのかが謎である。
思い込みとは恐ろしいモノだと、ミックは変な所で妙に感心した。




それにしても、この目の前の親友である。
まるで魂が抜けたように、放心している。
一体、どの位前からそこでそうしていたのか。
もう既に開店5分前だというのに、一切準備は出来ていなかった。
勿論、僚がそんな様子では仕事どころでは無い。
今ではすっかりこの店のマスコットの弄られキャラで、かわゆいカオル君も居ない。




(・・・ったく、色恋絡みで職場放棄なんて、カオルはともかく。僚まで・・・中坊かよっっ)



あ、カオルじゃ無くて“カオリ”か。なんて思いながら、ミックは大きく溜息を吐いた。
取敢えず、ブラック・ボードとマーカーを奥から持って来ると、

『本日、都合により臨時休業』

と大きく書いて、入り口のドアの内側にブラ提げた。
果たして僚は、このまま引き下がるのか。
はたまた、香を迎えに行く腹を決めるのか。
ミックにはただ見守る事ぐらいしか、出来ない。
それでも今回は、驚くほど本気の恋だと、これまで誰よりも傍で僚を見て来たミックは思う。



僚と香の恋は、ますます混迷の色を深めていた。



(つづく)



[ 2013/03/27 00:03 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

第18話・好きだから辛い

絵梨子は、香のベッドの横に敷かれた客布団に横になって深い溜息を吐いた。


酔っ払った親友が、バイトを辞めたと言って電話を掛けて来たのは数日前の事だった。
香の尋常じゃ無い様子に、取敢えず次のバイト休みにそっちに泊まりに行くからと約束した。
小学校低学年の頃からの付合いの彼女にとって、それは少しだけ遅い初恋で。
どうやら少し前に、絵梨子が心配していた通りの事態が勃発したらしい。
香は散々泣き疲れて、漸くついさっき眠った。


バーでのアルバイトを辞めて数日、
香は再び始めた朝の新聞配達以外は、1日中家に籠って無気力に過ごしている。


香は不器用だと、絵梨子は思う。
今日び同年代の女子達は皆、嘘も方便という慣用句をフル活用し恋愛活動に勤しんでいる。
確かに香の吐いた嘘は、決して小さな嘘とは言えないけれど。
少なくとももう少し、上手にカミング・アウトする方法は幾らでもあったんじゃないかと、
絵梨子はつい、そう思ってしまう。
それでも。
香の良い所は、そんな風に器用に振舞えない所でもあったりする。
だから絵梨子は、香の気の済むまで話しを聞くぐらいの事は幾らでもしようと思っている。











あの臨時休業から数日、
僚は自宅に引き籠り、1日中飲んだくれている。
ミックが様子を見に行くと、これまでに見た事も無いほどの荒れ様だった。
リビングには潰したビールの缶が散乱し、灰皿の吸殻は溢れてそこら中に散らばり、
無精ヒゲも伸び放題の僚は、ソファに寝転んだきり寝ているか飲んでいるかで。
その合間に、ひっきりなしに煙草を吸っている。
パジャマ兼部屋着のスウェットのボトムに、煙草で焦がしてしまった跡まであった。




なぁ、しっかりしろよ、相方。




そう言ったミックを見上げる漆黒の瞳は、さながら死んだ魚の目のようである。
ミックの言葉が、果たしてその耳に届いているのかさえ疑問である。




・・・ミック。


何だよ?


キッチンから、ビール持って来て。





漸く発した言葉がそれである。
ミックの額に青筋が浮かぶ。




・・・やなこった、そろそろ酔いを覚ませよ、リョウ。


ならイイよ、帰れよ。俺、寝るから。




僚はそう言ったきり、ゴロンとソファに横になるとあっという間に鼾をかき始めた。
ミックは盛大に溜息を吐いた。
これ程までに荒れた僚を見るのは、未だ嘗て初めての事だった。
僚の心の中の、香という存在の大きさは、ミックには計り知れないけれど。
ただ1つ言える事は、ココでこうして腐っていても何も変わらないという事だけだ。
僚の選択するべき道は、心の声に従って正真正銘“女の子”の香と向き合うか。
それとも、いつものように気持ちを切り替えて、次に進むかだ。
傍から見れば単純明快なロジックさえ、アルコールで麻痺した脳には複雑極まりないカオスになるらしい。
それでも、ミックはこの一見可愛げなくやさぐれた親友が、酷く落ち込んでいるのは良く解る。
子供の頃からの付合いの僚の、こう見えて至極繊細な一面も知っている。
だから、放って置けないのだ。


ミックは鼾をかく僚に、ブランケットを掛けてやり、
散らかった空き缶を片付け、
灰皿の吸殻を捨てて、綺麗に洗った。
香が店に戻って来るにしろ、このまま居なくなるにしろ。
僚が元通り働く気になるまで、ミックは恐らく毎日この部屋に様子を見に来るだろう。











それは、店を辞めて1週間振りに見るブロンドの先輩の姿だった。
香が早朝の新聞配達を終えて家に帰る途中の、
配達店の前の通りから、家の方へ向かう曲がり角での事だった。





ハァイ、おはようカオリ。朝メシ食ったか?




ミックはまるでいつも通りの口調で、柔らかな笑みを香に向けた。
しかし、ハッキリと言った。“カオリ”と。
香はなんでこんな所に、ミックが出現するのか解らず、言葉が出なかった。
小さくフルフルと、首を振った。




そっか、腹減ったろ?吉野家でイイか?


へ?










2人は並んで、モクモクと牛丼を食べた。
大盛りツユだくガリ多目半熟卵付である。
暫く言葉も無く、些かへヴィな朝食を食べていると、ミックが切り出した。




なぁ、カオリ。



香は何だか、ミックが“カオリ”と呼んでいる事が不思議だった。
勿論、あの紙袋の中に入れた手紙を、読んでいるに違いないだろうケド。
それに、ミックが読んでいるという事は、僚も読んでいるだろう。



ん?


ゴメンね、今まで男の子扱いなんかしちゃって。


え?




キョトンとする香に、ミックは苦笑する。
そりゃそうだろ、と。
年頃の女の子に対して、幾ら思い込んでたとは言え、
数ケ月に亘って男の子として接していた。
何は無くとも、謝るのが先だろうと。





・・・・・。


カオリ?


・・・どうして?


何が?


嘘を吐いてたの、アタ・・オレの方なのに。





ミックは、ニッコリと微笑んだ。
香の目を見て、ゆっくりと言葉を選ぶ。





カオリ、無理に“オレ”なんて言わなくてもイイんだよ。
ボクね、カオリと初めて逢った時の事から、ずっと思い出してみたんだけど。
カオリは一言だって、自分から男だって言って無いんだよね。
リョウとボクが、勝手に思い込んでただけでさ。
だから、カオリが罪悪感を感じる必要も無いし、店を辞める必要も無いんだよ。
カオリが男の子だろうと、女の子だろうとカオリはカオリだよ。




ミックの言葉に、香は食べる手を止めて俯いた。
ギュッと涙を堪えるように、唇を噛み締める。





・・・でも。


ん?


実際には、嘘を吐いた事で・・りょ・・・・て、店長の事、困らせてしまったから・・・


フッ、カオリは優しいな。





ミックが笑う。
ミックはそう言うけれど、香には自分が優しいだなんて思えなかった。
初めは、本当に時給が魅力だった。
その次は、3人で飲みに行ったり、遊んだりするのが楽しくなった。
その後は、バーテンの仕事に魅力を感じた。
そして。
身勝手だとは思いながらも、僚の事を好きになってしまった。


どうしても、傍に居たかった。
僚やミックのように、一人前のバーテンダーになりたかった。
いつまでも仲良くしていたかった。
でもそもそもの始まりから、香には嘘を吐いたという事実が付いて回る。
自分には初めから、そんな望みを抱く資格すら無かったのだと、今の香にはそう思える。




お替り、喰う?カオリ。


うん。



香にはミックの優しさが嬉しかった。
1週間、何を食べても美味しく無くて。
香にしては珍しく、食欲はあまり無かった。
けれどその明け方の牛丼は、これまで以上に美味しく感じた。

『いつでも、戻っておいでよ。ボクは待ってるよ、リョウのヤツが何て言っても。』

別れ際に、ミックはそう言って香の頭をクシャクシャと撫でた。
でも。
きっと、もう戻れない。















玄関のチャイムが、眠りの底に泥のように沈んだ僚を起こした。



今が何時で、あれから何日過ぎたのかすら今の僚には、どうでもイイ事だった。
どうせ、ミックだろ。と思いながら、暫く執拗なチャイムをやり過ごす。
眠っている間に、アルコールは切れたらしいけれど。
この所の引き籠り生活に、少しだけ判断力が鈍っている。
ミックにしては、些かしつこい気がする。
あれがミックなら、チャイムなど押すのはとうに諦め、勝手に開錠して入って来る。


僚の腐りかけた脳裏に、一瞬だけ、仔猫の目をした薄茶色の癖毛が揺れる。


まさか、そんな筈。
アイツは、自分から去る道を選んだのだ。
何処までも、未練たらしい、自分に都合のイイ脳みそに、僚は思わず苦笑する。
それでも。
1度そんな事が掠めた心は、煩いほどに騒ぐ。



もしかしたら。
万が一。
たとえ、夢でも。



僚は、フラフラとソファから立ち上がった。








結論から言えば、それは見事な肩透かしだった。
玄関のドアの外に居たのは。
スキンヘッドに真っ黒いグラサンの、限り無くゴリラに近い喫茶・キャッツ・アイのオーナーだった。


(つづく)

[ 2013/03/27 22:06 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(2)

第19話・財産

ひどい有様だな、僚。






その部屋のリビングに足を踏み入れた伊集院隼人は、盛大に眉を顰めた。
酒臭い淀んだ空気。
煙草の匂いの染み付いたカーテンは、ぴっちりと閉ざされ、
正午を回ろうかという時分にも関わらず、部屋の中は薄暗い。
今現在、店番はミックがやっている。



肩透かしを喰らった僚は、伊集院の言葉にも微動だにせず、ソファに座ってダラリと腑抜けている。
何がショックって。
こんなにまで、骨抜きにされていた事が僚にはショックだった。
そして不覚にも、失ってみて初めて、その事実に打ちのめされた事が。
香のチャームポイントの中で、僚が1番好きなのは、透き通ったあの真っ直ぐな瞳だった。
香と目が合うとドキドキしたし、
まるで心の中を覗かれてしまった様な、擽ったい気持ちになった。
真っ直ぐな眼差しは、真っ直ぐな気持ちの表れだと信じて疑わなかった。
だから、香が嘘を吐いていた事が、すごく悲しかった。




アイツは、俺の事をどんな気持ちで見ていたんだろう。
あの透き通った瞳に映る俺は、どんな風に見えていたんだろう。



考えれば考える程、僚には何が本当で、何が嘘だったのかすら解らなくなってしまっていた。
僚の目に映っていた香は、果たして本当の香だったのか。
今となっては、知りようも無い。






フンッ。たった1人女に振られたくらいで、“新宿の種馬”も形無しだな。


・・・・・ミックに、聞いたのか?


あ?何がだ?


アイツが、女だったって事。





僚の声は小さくて掠れていて、酷く頼りなげだった。
伊集院は無意識に小さく溜息を吐いて、少しだけ同情の籠った目で僚を見詰める。
もっともその目は、真っ黒な眼鏡の下にあり、誰かが確認したわけでは無いけれど。






いや、知ってた。


・・・・・は?


アイツが一度、ランチタイムに応援に来た事があったろ?


ああ。


その時には確実に知っていたが、その前から薄々は気が付いていた。


はあ゛?





この1週間の引き籠り生活開始以来、初めて僚の口から力強い声が出た。
その時って、確か。
香が店に来て、まだ1か月かそこらの時じゃねぇ?と。




なら、何で・・・。




僚はガックリと肩を落とす。
後半の、どうして教えてくれなかったんだ、という言葉はしかし、グッと呑み込んだ。
知っていたとして、何か大きく変わっていただろうかと。
知ってても知らなくても、香が女でも“オトコ”でも。
結局、僚は惚れたのだ。
それに、香が嘘を吐いていたという事実が消えるわけでは無い。





俺が、黙っているよう命じた。




伊集院のそんな衝撃告白に、僚は我が耳を疑った。
思わずキョトンとして、伊集院をガン見する。




そもそも、俺にしてみりゃ、バイトが男だろうが女だろうが、ぶっちゃけ関係ねぇしな。
キチンと時給に見合った仕事さえしてくれりゃ文句は無い。
ましてや、香はその点に於いて、コストパフォーマンスは申し分無い。
大体、バーテンはイケメンに限るだなんて、下らねぇコンセプトはお前らの都合だろうが。
若い女の客を寄せる為の。




普段は無口な男のそんな“口撃”に、僚は完全に呆けていた。
伊集院は、構わず言葉を続ける。




アイツも後悔してたさ、嘘を吐いた事は。
でもそれ以上にな、女だってバレたら首になるかもしれないって怯えてたよ。




伊集院の語る僚の知らない香、恐らくは“女の子”の香。
初めて伝え聞くその姿など、僚は全く知らない。
でも、知りたいと思った。
虚ろな漆黒の瞳の中が、少しだけ揺らめく。






なぁ?僚。
アイツはお前に、自分はオトコだと一言でも明言したか?
アイツはお前に、これからの目標とか希望とか全く語らなかったか?
アイツはお前に、『好きだ』って言わなかったか?
お前はアイツの、何処に惚れた?
香は香だ。
オトコとかオンナである以前に、1人の魅力的な人間だ。






僚は、伊集院の言った言葉の意味を、1つ1つ噛み締めた。
もう僚は、アルコールにも眠気にも支配されていない。
あの初めての、2人のキスの夜を思い出した。
あの晩、香は泣きながら“りょおが大好き”だと言った。
大好きだと言いながら涙を流して、自分の前から姿を消した香の心情に。
今漸く、僚は思いが及んだ。


今この時、香が何処で何を想い、何をしているのか。
また、いつかみたいに。
たった1人、この街の何処かで泣いているのかもしれないと思うと、
僚の胸は張り裂けそうで。



僚は今すぐに、あの柔らかな癖毛をソッと撫でて抱き締めたかった。








今のお前と同じ歳の時に、オマエの親父は既に、数万人の人間を率いる組織のトップだったよ。
ある意味、お前はあの人の跡を継がなくて正解だったかもな。
とんだ甘ったれのボンボンだ。





伊集院はワザと、意地悪そうに笑って言った。
彼には、どんな風に煽れば僚が奮起するのか、という事くらい全てお見通しだ。





なぁ、僚。
それでもお前は、親父に頼らず自分の力で生きる事を決めたんだろ?
それなら、お前の周りにいる人材は、お前の財産だ。
アイツみたいなヤツは、探したってそうそう見つかるようなタマじゃねぇぞ?

ま、せいぜい、アルコールでふやけた頭で良く考えるんだな。




伊集院隼人はそう言うと、もと来た時と同じく、突然帰って行った。
僚は至極久し振りに、カーテンを開けて新しい空気を部屋の中へと迎え入れた。


とにかく、僚は。
無性に香に逢いたかった。



(つづく)

[ 2013/03/29 20:21 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(0)

最終話・My Fair (Naughty) Girl

それは思いもかけない、香にとってはまるで2度目の出逢いだった。
2度目は、ちゃんと女の子に見えたらしい。










またしても早朝の新聞配達の帰り。
その日の予報は晴れで、香は家に帰って洗濯をして布団を干そうと思っていた。
朝ご飯には、塩鮭を焼こう。
この前ミックに会ってから、香も少しづつ変わりつつあった。
いつまでもウダウダ考えていてもどうしようもないし、引き籠っていてもご飯は食べられない。
もうそろそろ、次のバイトを見付けなくてはと思っている。
それに今日は、スーパーの入り口に置いてあるフリーペーパーの求人誌が新しく入れ替わる曜日だ。
自然と、香の足取りは軽くなる。
恋は・・・もう暫くは、考えるのは止しとこう。と思っている。
元々香は、切り替えは早いタチなのだ。


それでも本当は、そう簡単には切り替えられるワケでも無い。
香は今までの人生の中で、もっとこうだったらな、と思う事は沢山あった。
お父さんもお母さんも元気で長生きしてくれてたらなぁ、とか。
お兄ちゃんがあの日、非番だったらなぁ、とか。
こんな風にヒョロヒョロの痩せっぽちの男の子みたいじゃ無く、
絵梨子みたいに、如何にも可愛らしい女の子に生まれて来てたら、とか。

あの日、何で嘘吐いちゃったのかなぁ、とか。

淋しくないと言えば、嘘になる。
それでも、彼らと出逢って、数ケ月だけでも色んな事を学んだ事に。
香は心から感謝していた。








だから、
曲がり角をまがったソコに僚が居た事が、一瞬現実に思えなかった。



あぁ、どんだけ淋しがってんの?アタシ。



それがまず1番に、香の脳裏に浮かんだ事だった。
淋しい心が見せた一種の幻覚か、と。
それでも、その幻覚はニッコリ笑って口を利いた。




よぉ、久し振り、香。




それはいつもの、聞き慣れた優しい僚の声だった。
香は少し前のあの夜に、あのセクシーな唇にキスをされたんだった。
その唇は今確かに、香の名を呼んだ。
最後に僚と言葉を交わしたのが、いつの事だったのかはもうハッキリとは解らないけれど。
その時には、僚は“カオル”と呼んだはずだ。
香は多分、一生。
初恋の人に名前を呼ばれたこの日の事を、忘れない。






ポカンとして、驚いている香に僚は苦笑しながらも。
愛しいと思う気持ちが、沸々と湧き上がるのを感じた。
自分が泥沼のようなテンションの中、ずっと焦がれていたのはコイツだったのだと、
僚にはハッキリと判った。
もう、これから先。
他の女など、どうでもイイ。
香さえいれば、多分自分は一生幸せでいられる。
僚はそう確信した。






なぁ、香。


・・・・。


ウチの店で働かない?


・・・イケメン限定じゃ無かったの?


可愛い子もOKなの、ウチの店。






そう言って、ニヤッと笑う僚に。
香もつられて笑ってしまう。
僚と妙な心理戦を繰り広げて、毎日悩んだ事とか。
店を辞めた後に、色々と後悔した事とか。
全部忘れて、後に残ったのは。
ただただ、この目の前の自分よりも随分大人の(でも本当は、少年みたいな)この彼の事が、
好きだという気持ちだけだった。




時給は?




そう言って、香が笑った。
思えば2人の始まりは、あの定食屋での“時給・1500円”からだった。
だから、この香の言葉は2人にしか解らない、大切なキーワードだ。




2400円。
だから、新聞配達は辞めて正式にウチのスタッフとして働いてくれないか?




上乗せ分の900円は、新聞配達の時給と同じだ。
しかし、新聞配達のバイト代は1日正味2時間程なので、どう考えても僚の提案は美味しい。
香が前の時と同じように、返事をする前に。
もう1つ、僚から条件が提案された。




それと、恋人として俺と一緒に暮らさないか?


へ?




香が虚を突かれて、呆けている間に。
いつの間にか、何故だか僚に抱き締められていた。


(・・・返事、まだなのにずるい////)


心の中ではそう思ったけれど。
香の両腕は、勝手に僚の背中に回って僚を抱き締め返していた。
顔を埋めた僚のシャツからは、柔軟剤の薫りと薄い煙草の匂いがした。
香は思いの外この温もりを求めていた事に、漸く気が付いた。
気が付くと同時に涙が溢れて、僚のシャツを濡らした。
僚はただ優しく、そんな香の頭や背中を撫でてくれていた。
薄暗かった夜明け前の路地が、いつの間にか夜も明けて明るくなり始めていた。
















1カ月後。
香は物心ついた頃から家族で過ごした公団を、引越しした。



僚も片付けから引っ越しまで、沢山手伝ってくれた。
兄が亡くなって以来、そのままだった兄の部屋を片付けながら。
どう整理してイイか解らなかった香に、僚はそっくりそのまま運べばいいと言ってくれた。
その時に初めて香は知ったのだが、どうやらあの新宿のビルは全体が僚の所有らしく。
6・7階のメゾネット・タイプの僚の部屋と、1階のガレージ以外は使って無いから、
何処にでも好きな部屋に、兄のモノを置いていて構わないという事だった。


片付け始めてから、2週間。
その日、全ての荷物を僚のビルへと運び終えた。
香の19年間と数ケ月の人生は、この小さな2DKの中での世界が全てだった。
もしも、兄や両親が健在なら。
実家を離れて彼氏と同棲を始める自分に、彼らは何と言っただろう。
空っぽの部屋を見詰めながら、ボンヤリとそんな事を考えていた香を。
最後の荷物を車に運んでくれた僚が戻って来て、背後から抱き締めた。





淋しい?カオリン。


・・・うん、少しだけ。でも・・・


でも?


ココに1人だけで暮らしてるのは、もっと淋しかったから。


・・・そっか。


うん。





僚は何も言わず、優しくキスをした。
香はこの部屋を出る淋しさはあったけれど、それ以上に幸せだった。
今日からは、僚と2人だから。


兄のベッドは、そのまま運んでくれた僚なのに。
香のベッドは、アッサリと処分してしまった。
僚曰く、もう必要ないだろ?との事。


勿論その意味は、香にも若干ながら理解は出来る。
要するに、僚のキングサイズのベッドは今夜から、2人のベッドになるらしい。
僚が突然現れて、
もう一度スタッフとしてのスカウト兼、交際(同棲)の申し込みをして、早1カ月。
2人は、何度となくキスはした。
初めは嬉しくて、カウントしていた香も。
バカバカしくなるほど、一旦箍の外れた僚はイチャイチャして来て。
だからきっと、もうキスの回数など数え切れない。


けれど、最終的な恋人同士の営みは未だ未経験である。
そして僚の部屋で暮らし始めるという事は、どうやら今夜がその初めての夜になるらしい。
香は朝から考えれば考える程、卒倒しそうになるので。
なるべく考えないようにしている。
けれど、いつだったか偶然(というか、必然?)目撃した僚の“しっぽ”が、香の脳裏を掠める。
あれが一体、どんな風にどうなったら、そうなるのか。
槇村香の疑問は尽きない。




その晩、お風呂から上がってパジャマに着替えた香が、
激しくドキドキしながらベッドに横になっていると、当然と言えば当然だけど僚が隣に並んだ。
そして至極自然な流れで、僚は香を見詰めてキスをして髪の毛を撫でてパジャマの上から香を触った。
香は恥ずかしいのを必死に堪えながら、目を瞑った。
僚の手が、香のパジャマのボタンに掛かった時。
香は僚の手をガシッと抑え込んでいた。
無意識だった。




嫌?



まるで無意識とは言え拷問のような寸止めに、僚は苦笑しながら優しく訊ねてくれた。
勿論、香とて嫌なワケは無い。
僚が好きだし、未知の経験に好奇心が無いとは言えない。
けれど、それを上回る恥ずかしさと、とあるコンプレックスがある事にこの瞬間に気付いたのだ。



・・・・やじゃないケド。


けど?


恥ずかしいし、・・・・・自信が無いの。りょおの好みじゃ無いし・・・


俺の好みって?





僚は思わず、頬を綻ばせてしまう。
色んな意味で、僚がこれまで付き合って来たどんな女とも違う香が愛しくて堪らない。
好みとかどうとかそれ以前の問題で、多分香があのまま男だったとしても。
この気持ちは変わらなかっただろうと、僚は改めて思う。
香はこれでもかと言うほど真っ赤になりながらも、僚の質問に答える。




・・・ま、前に言ってたでしょ?ミックと。


何を?




僚は何でここでミックが出て来るんだろう?と、真剣に考え込んだけど、
香の思考回路は、謎だった。
香は意を決したように、小さく息を吸い込むと更に小さな早口で一気に言った。



おおおお、おっぱい、大っきなヒトが好きだって・・・ア、アタシ小さいから、恥ずかしい///



一瞬、僚は固まってしまった。
まさか恋人が、こんなに可愛い事を考えていたなんて。
その言葉の意味が、僚の耳を伝わって、脳みそで正しく理解される頃には、
僚の頬はこれ以上無いほどに、弛緩した。
香の耳に口付けんばかりに近付いて、このお預け状態を解除する為に、改めて許しを請う。




カオリン、んな事どうでもイイの。
俺はカオリンがカオリンってだけで充分なの。
俺はおっぱいの小さなカオリンが好きなの。




香は思いも寄らない僚の言葉に、思わず涙を溢した。
目の前の恋人が、世界で一番大切だと改めて気が付いた。
僚が香の涙に唇を寄せながら、もう一度耳元で囁いた。






それとね、カオリン。知ってる?おっぱいは、彼氏が育てるモンだって事♪



更にまた赤さを増した恋人の唇を塞いで、
僚はもう何も言わせないという勢いで、続きを始めた。
2人は漸く、晴れて正真正銘健全で健康な恋人同士となった。












1年後。


僚のビルのだだっ広い1階・ガレージが、3分の2程のスペースをバーとして改装された。
オーナーは、冴羽僚。
親友のミック・エンジェルと、恋人の槇村香の3人で始めた僚の店だ。


開店するにあたって、僚の父は改装資金を僚に融資した。
それはあくまで、ビジネスとしての付合いだ。
勿論、それ位の資金は僚にも準備はあったけれど、僚は遠慮無く父の申し出を受けた。
毎月金利の乗ったその資金を返済して行く事は、ある意味では良いプレッシャーにもなるし、
ある意味では、それは僚の決意の表れだった。
もっとも、この新宿のど真ん中の7階建てのビル自体、元々は父親の所有物だったのだから、
僚が父親無くして、ココまでやって来られたワケでも無いのだ。
伊集院との繋がりもまた、父親あってのモノだ。


30代という節目を目前に控えて、僚は自分の人生と父親と、漸く向き合う事が出来たと思っている。
それでも、それはまだまだ最初の小さな一歩で。
勝負はこれからだ。
僚はこの小さな自分の店が、伊集院やバーテンの師匠の店のように。
自分が老いてゆくまで続けられるように、頑張るだけだと思う。





2度目に僚が香をスカウトした後、香は店の中でも“女の子”として働いた。
香目当ての常連客達は、初めはとても驚いていたけれど。
何故か不思議と、香の人気は衰える事を知らず、今ではその人数も桁違いに増えつつある。
そして、僚にとっては面白く無い事だが。
残念ながら、同時に香ファンとして男性客の常連も着実に増えている。
しかし、毎月の返済を抱えた経営者としては、
そんな常連客でも、大事な客である。
僚は自分でも己が、少しづつ成長しているのを感じた。
人間、幾つになっても伸びしろというモノがあるらしい。






今日も香が、夕方の開店準備の仕上げに、表に看板を出す。

『Bar XYZ』

迎えるのは、とびきりの男前2人と別嬪1人。
香の制服はスラックスから、膝上15㎝の黒いタイトスカートと、黒い網タイツに変わった。



そして、僚の宣言通り。
着実に、おっぱいは成長し続けている。
もう誰ひとり、彼女を男の子に間違う人間はいない。
けれど、槇村香は。
冴羽僚だけの美しい恋人なのだ。




(おしまい)














漸く、最終話を迎える事が出来ました(*´∀`*)
このお話しの連載中、沢山のご訪問や拍手やメッセージを下さった皆様に、
この場を借りて、厚く御礼申し上げます m(_ _)m
始まりは、SugarBoyなカオル君が書きたくて書き始めたこのお話しですが。
オチはやっぱり、
リョウちゃんの華麗なる女性遍歴最後の、美しき恋人へと成長して戴きました(テヘ)
そして、リョウちゃんが一段階オトコを上げるのも、やっぱりカオリン有ってこそなのです。

この後は漸く、お待たせしてますリクエスト企画の方に本腰入れようと思っていますっっ!!
てか、その前にバースデーのお話しも、ちょこっと考えておりまして・・・(汗)
何だかいっちょ前に、書きたい事だけは山積みのワタシです(あぅ)

それでは、最終話までお付き合い戴いた皆様方。
これからも、何卒、当ブログをご贔屓に

あぁぁぁあありがとぉございまぁぁぁああっす!!
また来てね(´∀`●)ノシ  
               
[ 2013/03/30 12:36 ] 長いお話“My Naughty Girl” | TB(0) | CM(4)

BARTERING

「かおり。ホラこれ、」





僚はリビングのソファで、午後のコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいた相棒に、
ぶっきら棒にあるモノを差し出した。
それを目にした途端、冴羽僚の最強の相棒・槇村香は、
頬をバラ色に染めて、満面の笑みを湛える。
僚は何でこんなモンが、と思う反面、今この嬉しそうな彼女の笑顔を引き出したのは、
紛れも無く自分なのだと思うと、妙に照れ臭い擽ったい気持ちになる。


「うわぁ。やったぁ~~~~♪ありがとおぉ、りょお~~~~」


すっごいっっ、嬉しいっっ
と、今にも泣きそうなほど喜ぶ香に、そこまでかよっっと激しいツッコミをお見舞いしたくなる。
彼女が、大事そうに腕の中に収め頬擦りしているそれは、僚がこの十年近く愛用していた、
ボロッボロのジーンズだった。








話しは、2週間ほど前に遡る。


彼ら2人は、数年前から仕事の相棒として働き、色々とワケ有って今現在同居している。
それはあくまで同居であって、同棲では無く。
お互い憎からず想い合ってはいるものの、何故だかいい歳をした成人男女は、
全くの清らかな関係を保ったまま、
心の中ではドロドロと、あぁんな事やこぉんな事を妄想している関係だ(否それは、僚だけかもしれない)

ずっと昔なら、そんな事すら無かった2人も。
いつかの友人夫婦の結婚式に当てられ、湖の畔でイイ感じに告白なんかしちゃった後では、
少しだけ甘い感じの雰囲気になったりもして(あくまでも、雰囲気だけだ。)
思わず、誕生日は何が欲しいかという話題になったのだ。


大概、何が欲しいかと訊かれて、具体的に答えるのを苦手とする香が。
珍しく、瞳を爛々と輝かせて、僚にリクエストというか、
“ある提案”を持ち掛けたのが、事の発端である。



「コレが欲しいの。」


そう言って、僚に向かって人差し指を向けた香に、僚が期待と興奮に激しく動揺したのは一瞬の出来事で。
いつの間にカオリンってば、そんな大胆発言を繰り出すようになったのよ、と思ったのはしかし。
僚の全くの勘違いであった。


「えぇ~~~、でもリョウちゃんはぁ、世界中のモッコリちゃんの恋人だしぃ。
                           カオリン1人のモノになんて、なれないんだよぉ


と苦し紛れに茶化した僚を、


何言ってんのぶぁわっっかじゃないのっっ????


と、一瞬で秒殺したのは、言うまでも無い。
天然という名の鈍器で僚を殴り殺せるのは、この超絶別嬪の相棒ただ1人である。
しかし、彼女には最強の攻撃を放った自覚など皆無で。
1人大きなダメージに打ちひしがれる僚の事など、知る由も無く。


「んもぉ、そうじゃ無くて。コレ。」


そう言って香は、華奢な人差し指で隣に座る僚の太ももに、ピタッと触れる。
続けざまの相棒からの波状攻撃に、僚が撃沈寸前だったのは想像に難くない。
僚はモッコリしそうになるのを、必死に堪えるだけで精一杯だった。


香の言う、“コレ”とは。
僚がアメリカに居た頃から愛用している、リーバイスの501だった。
まぁ、原型を留めていない程に穿き倒している感はあるけれど。




あのね、このジーンズが欲しいの。で、代わりに僚には、私から新しいジーンズをあげる、ってのはどう?



香のプレゼントのリクエストは、何とも不思議な話しだった。
僚には、新品をくれるらしい。
確かに、そのジーンズは永い事愛用していただけあって、穿き心地は最高である。
14オンスのデニム生地の固さは、とうに無くなり。
何度も洗われた独特の風合いがあり、確か買った当初はブルージーンズの筈だったけど、
今ではすっかり色褪せている。
恐らく人間に喩えると、教授くらいの爺さんである。







3月26日。

夕飯(全て、僚の好きなオカズだった)を食べた後に、香が僚にくれたのは。
イタリアの某カジュアル・ブランドの、ジーンズだった。
僚はこれまでジーンズのメーカーなどどうでも良かったけれど、
昔はアメリカに住んでいたから、まぁ殆どはアメリカのメーカーのモノを愛用していた。
特に理由は無い。
安かったのだ、リーバイスが。


香がくれたそのジーンズは、少しだけオサレだった。


「えへへ、僚に似合うかなって思ったの♪」


そう言って笑った香に、僚がムラムラしたのはまた別の話しである。
その夜、1人寝室でその新しいジーンズを穿いてみて。
久し振りの固いデニムの感触に、新鮮な気持ちになった。
そうそう、ジーパンって初めはこんなんだった、というあの感触。
それは穿き慣れたそれには、もう絶対に出せない感覚で。


何がイイとか悪いとか、そういう問題では無く。


ただ単純に、嬉しい気持ちになる。
あ、おニューだ、と。
そして、このジーンズをまたクタクタになるまで穿き倒すこれから先の未来を、
多分、あの仔猫のような相棒と過ごすんだろうと思うと、僚は妙に浮かれた気分になった。






そして、今。
目の前で僚のお下がりのジーンズに、相好を崩す相棒を見詰める僚は。
穿き始めて5日目の、真新しいジーンズを穿いている。
僚の相棒は、とても個性的だ。
普通の女が喜ぶようなブランド物や流行りモノには、さして興味が無いらしい。
けれど、僚は。
この物々交換の誕生日が、まるでお互いの過去と未来を分かち合う象徴のようで。
密かに何気に、メチャクチャ嬉しかったりする。
当の香は、相変わらずの無意識の天然印だけど。








更に、数日後。
夜の飲み歩きから帰宅した僚を待っていたのは、最強の相棒の攻撃だった。



灯りが煌々と点ったリビング、
ざぁざぁと耳障りな音を立てるテレビの砂嵐、
ソファの上で爆睡する香。


少しだけまだ肌寒い春の深夜。
香は、例の“お下がりジーンズ”を腰穿きし、トップスは黒いタンクトップ1枚だ。
僚の人間メジャーばりの考察によれば、99.9%ノーブラである。
お気に入りの犬の形のビーズクッションをしっかりと抱き、ブランケットも掛けずスヤスヤと眠っている。
浅めに穿いたジーンズのウエストから覗く、ハッとするほど白い柔肌。
自分が愛用していた頃は、タイトフィット気味だったジーンズは。
香が穿くとブカブカで。


それはまるで。
彼氏のウチにお泊りした次の日の彼女、というタイトルがピッタリの光景だった。


僚は目の前の相棒の無防備な寝姿に、つい数時間前の飲み屋(オカマバー)での会話を思い出す。











(以下、A=ニューハーフA、B=ニューハーフB、り=僚)

A:ねぇ、リョウちゃん?それって、香さんからのバースデープレゼント???

り:あぁ?何がぁ?

A:ふふふ、このジーンズよ♪

り:・・・・・(汗)。

B:なんで判るのって顔ね(クスッ)
    
A:そりゃ、判るわよねぇ。

B:うんうん。

り:てか、何でだよ(膨)

A:だぁってぇ、リョウちゃんってディーゼルってイメージじゃ無いモン。

B:うんうん、リーバイス穿いてるイメージだよね。

り:・・・・・。

B:ディーゼルって、どっちかって言うとミックちゃんのイメージよね~~~

A:あぁ、言えてるぅ~~~

り:っるせぇ、お前ら
  あの金髪気障野郎は、
 ジーパンなんざ穿かねぇんだよっっ!!


A&B:やぁだぁ~~~、リョウちゃん怖いぃぃ(爆笑)











僚の脳裏に、変声期後の男だけが持つ低音の『怖いぃぃ』が木霊する。
怖ぇのは、コッチだ。と僚は思い返す。
しかし、そんな事はどうでもイイ。
今の僚の最重要課題は、この目の前の相棒だ。
いけないとは思いつつも、僚はフラフラと香に近付く足を止められない。

まるで、僚は酔っ払った蝶々で、香は甘い薫りを放つジャスミンの白い花のようで。

気が付くと僚は、ソファに横たわる香の寝顔ギリギリまで顔を寄せていた。
艶やかなチェリーのような唇から零れる、生温い寝息が僚の前髪を擽る。
僚は思わず、香の寝顔に口付た。
錯覚してしまったのかもしれない。
元自分のジーンズを穿いた最愛の女が、まるで自分のモノのように。



激しく動悸する心臓は、酔いのせいか、キスのせいか。


僚のキスの直後、香の瞼が薄っすら開く。
非常に焦る僚だったが、距離を取るより早く香が覚醒した。





・・・・ぉかえり、りょお。


あ、あぁ、ただいま。カオリン(滝汗)




まるで子供のように、目を擦る香は僚の動揺など気が付いていない様子で。
僚は内心、ホッと胸を撫で下ろす。・・・・予定だった。





ん???・・・いまさっき、りょおが。


あ?


キスした。





しっかり、バレていた。
珍しく真っ赤になった僚を、寝起きの香がポカンと見上げている。
多分、それは半分やけくそだった。
どうせ、バレたんなら。


ハッキリ、くっきり、明確な2度目のキスをお見舞いしてやろうじゃねぇの、と。


冴羽僚が開き直る事ほど、無敵なモノは無い。
僚は、起き上がって未だ首を傾げている相棒をしっかりと抱き締めると、
2度目は触れるだけじゃない、本気のキスをかました。
これもある意味、僚にとっては。
2人の数日遅れのバースデープレゼントに違いなかった。














漸く、連載が終わったので。
2人纏めて、ハッピー・バースデーって、事で。
[ 2013/03/31 11:34 ] 短いお話 | TB(0) | CM(0)