#1. 真剣告白

※ 話数は未定。原作設定な2人、時期的には奥多摩後・モヤモヤ期な感じです。※
















(っっえ?・・・何を言ってるの???僚。)







香は僚の言っている言葉の意味を理解するまでに、数十秒必要だった。

「なぁ、聞いてる?カオリン?」

ひどく穏やかな口調で問い掛ける僚に。
香はコクンと頷く。








ブラックコーヒーとマールボロの薫りの、何の変哲も無い春の午後のリビングで。
テレビを観ていた香に、僚はやけに改まった顔をして。
話しがあるんだと言った。
僚がこんな風に真面目にしているのは、滅多に無い事なので。
香もテレビを消して、僚に向き直った。
元々、その番組に熱心に見入っていたワケでは無い。





俺さ、


うん。


・・・おまぁの事。


・・・。


好きなんだけど、勿論、女として。










なんで、突然今日なんだろう?
なんで、急にこのタイミング?
なんで、わざわざこんな事?
そもそも“好き”って何だろう。




聞きたい事は山ほどあるし、言いたい事も。
けれど僚の言った言葉の意味と、香の脳内のシナプスが上手く繋がらない。
香の知ってる“好き”と、僚の言ってる“好き”が同じ“好き”なのかどうかなんて。
多分、誰にも解らなくて。
今までそれで、散々擦違って来たし、もう期待はしない事に決めていた。
こういう時、どんなリアクションが適切なんだろう。


6年間、好き過ぎた相手に。
好きだと言われて、喜びを通り越して。
理解が追い付かない、けれど何処か頭の片隅は妙に冷静で。





僚の目は、香の次の言葉を待っていた。










・・・りょおとアタシは、パートナーでしょ?






香の声は小さくて、自分自身が思った以上に掠れていた。
香の言葉は、これまでの相棒としてのリアクションだった。
香には、まだ良く解らない。
こう言う場合、どう言えば正しいのか。
嬉しい事を嬉しいと、解らない事を解らないと答える事は香には非常に難しい。
何だか少しでも間違えば、取り返しのつかない事になりそうな。
漠然とした不安。









僚には、あまり怖い事など無い。
けれど、その言葉を紡ぐまで、数カ月掛かった。
否、正式に数えれば、数年越しだ。
怖くなかったと言えば、嘘になる。
香に否定される事。
香との関係が変わる事。
香が自分の元から消える事。
そればかり考えて、なかなか最初の一歩が踏み出せなかった。
奥多摩の湖の畔で、
もうコイツ無しには生きてはいけないと、再認識してから約半年。
僚はこれまでの人生で一番難しい問題を、ずっと思案中だった。
だから、かなりの気合を込めて。
こうして、相棒と向き合ったつもりだけれど。
もしかすると、全くの想定外の事態かもしれない。



香にとって自分は、どうやら、パートナー以外の何者でも無いらしい。






それでも、僚は落胆した顔を隠す事など平気だから。
いつものポーカーフェイスを作ってみる。





『そうか。そんなら、おまぁはずっと俺のパートナーだ。
 どちらかが死ぬまで、それか。
 おまぁが変化を望まない限り、ずっとだ。』




香が自分の事を憎からず想っていてくれている事を、僚はとうの昔から知っている。
僚は多分。
そんな香の気持ち以上に、香の事が好きだ。
奥多摩で香を無事に助け出したあの時に、僚はもう決めた。
今更、香を手放すつもりなど毛頭無い。
だから。
例え今は、相棒にとっての自分が“ただの仕事上のパートナー”だったとしても。
いつか香が自分の事を、好きだと言ってくれる日が来るまで待ち続けようと覚悟している。
今まで散々、香に肩透かしを食わせて来た事に自覚がある。
その分僚は、これからいつまででも香の気持ちを待つしかない。




2人の関係性に於いて、一見、リードしているのは僚のように思えるけれど。
主導権は常に香の手の中にある。
これまでも、これからも。
その事を、槇村香はまだ知らない。



(つづく)
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[ 2013/07/09 22:52 ] rhetoric | TB(0) | CM(0)

#2. 臆病風

数日前に、真剣な目をした僚に気持ちを告げられた。





香はそれ以来、あの時の遣り取りを何度も思い返している。
香が僚の言葉に答えられなかったのは。
80%位は、照れ臭かったから。
それに少しだけ、怖かったから。
新しい世界に踏み出す勇気や、強い気持ちを真正面から受け止める事に。


男の人に告白されたのなんて、もしかすると初めてかもしれないと香は思う。
(もっとも、それはあくまで香の認識であって、自覚が無いだけとも言える。)
嬉しくなかったかと言えば、それは嘘になる。
誰だって自分を認めてくれて、あまつさえ好いて貰えて嬉しくないなんて事は無いだろうし。
それに今回の場合は、


相手は僚なのだ。


香は、この世で一番好きな相手から、好きだと言って貰えたのだ。
これ以上の幸運があるのだろうかと、後になって冷静に考えれば気付いた。
香は何であの時、すぐにも僚の気持ちに応える事が出来なかったんだろうと、自己嫌悪に陥る。
けれど。
今更、あの話を香の方から蒸し返すのも、何だかどう切り出せば良いのかも解らない。
何しろ香は色恋全般に於いて、どうやら世間一般とは大きく乖離した感性の持主らしい。
香自身、これまで某デザイナーの親友や僚本人から、そう言われ続けているので、
少しは、そうなのかな?とは思っている。
大体、自分でも26歳にもなって、
未だに初恋を拗らせている事自体、もう既にやばいかもと思っている。








今にして思えば。
あんな風に僚が切り出してくれたのは、千載一遇のチャンスだったのかもしれないのに。
香は、そのチャンスを掴み損ねてしまった。(と、思い込んでいる。残念ながら。)
僚はあの時、ずっと死ぬまでパートナーだと言ってくれた。
ある意味ではそれは、彼の背中をずっと追い続けて来た香にとって、
何より一番のご褒美だった。
これまでの全てが報われた気がした。
香自身が変化を求めない限りは、香を傍に置いてくれるとも言った。
これまでの6年で、香がいつも怯えて来た事。

僚にいつパートナーを解消されるかもしれない、という事だけだった。












だからそれで充分だと思う。
じゅうぶん、しあわせ。
















喜べ、香。
これからもずっと、今まで通りの2人でいられる。
僚の背中をずっと追い続ける、その許しを僚から貰えた。
まさか、自分の方から。
僚の元を離れるだなんて、思うワケなど無い。



これからも、ずっと。









それなのに、何でこんなに胸の奥が痛むんだろう。
そんな気持ちになってしまうのは。
多分、自分が弱いからだと、香は己を責める。




香に唯一、欠落しているのは。


僚の恋愛感情を読み取る能力だったりする。
香は、まさか自分が僚を想っているのと同じだけ、
僚に想われているだなんて、想像だにしていない。



香にとって大切な事は、僚の傍にずっといられるか否かという事だけだ。



だから香は。
自分の中の割り切れない感情や、頑固な臆病風に目を瞑ってやり過ごす事に決めた。


(つづく)

[ 2013/07/11 22:29 ] rhetoric | TB(0) | CM(0)

#3. 恋

僚が突然の告白をしてから、なんだかんだで1週間。





2人の日常に大きな変化は見受けられない。
僚の1日は、基本的にグータラで。
香は一日中、決して“告白”の事には触れないように、細心の注意を払って暮らした。


『ホラッッ、りょお、早く起きて!!』
『ちょっと、顔ぐらい洗って来なさいよ』
『昼間っから、ゴロゴロしてないでよっっ』
『少しは、ビラを配るとかヤル気ないわけぇ???』
『今日の晩ご飯、何食べたい???』


香の言葉には、これといって変化は見られない。
それに対する僚の返答にも。
それでもお互いに、内心では例の真剣な告白について、考えあぐねていた。
どうしたらお互いに。
素直な気持ちを表せるんだろう。
気持ちを正確な言葉に置き換える術を獲得できるんだろう。
幸せになれるんだろう。
2人はただ、お互いの為に思いやって、笑って、泣いて、存在していたいだけなのに。

どうして、そこに理由を求めてしまうんだろう。




























美っ樹っっちゅわぁ~~~~んんん!!
不倫しましょ~~♪
フ・リ・ン




香が午後の伝言板確認を終えてキャッツにいると、いつもの如く。
破廉恥極まりない相方が、唐突に来店した。
ついでに言えば、ホンの数十分前、駅前の通りで。
香は彼が、往来を行くOL風の美女に声を掛けている所も目撃している。
もっとも、この数日の香は。
色々と考える事も山積で、それどころでは無いので相方の所業に関しては、少々放置気味だ。






香はいつもなら、青筋を立ててハンマーをちらつかせる場面で。
チラリと僚を一瞥するだけで、手元のマグカップに視線を落とすと、小さく溜息だけ吐いた。
そうなると僚もちょっと、バカを演じて香の気を引いているのが、アホらしくなる。



(・・・ナンダヨ、オレダケバカミタイニ、ウイテルジャン。)










冴羽さん、いつものでイイ?





美樹は、少しだけ拗ねた様な子供っぽい表情のカウンター越しの色男に、
ニッコリと笑って訊ねる。
片や彼の隣の、麗しのパートナーは。
先程来店して以来、今日は何故だか言葉少なだ。
というよりも、ココの所、彼女はいつもこうなのだ。
悩んでいるという程には、険しい雰囲気でも無いけれど。
何かを考え込んでいる様子。
だから香は、全く気が付いていない。
僚がいつにも増して、香の機嫌を窺うように言葉や態度を選んでいる事に。


2人以外の誰もが判るそんな簡単な事を、2人だけがずっと見てみないフリを決め込んでいる。
もしくは、見えていない。
人間の目と、カメラのレンズの決定的な違いは。
その視点の奥に、無意識の意識があるかどうかで。
視方を変えればとうの昔から固い絆で結ばれた恋人同士の2人は、
何故だか互い同士、その事実には都合よくフィルターが掛かっているらしい。
けれども伊集院美樹の認識に於いては、2人はれっきとした相棒兼恋人同士である。














僚は、ナンパが好き。美樹さんや、冴子さんや麗香さんや、美人な人が大好き。
放って置けば、ゴロゴロしてエロ本ばかり読んでいる。




香は数日前、僚の部屋に散らかされたそんな雑誌の1つを手に取って、しげしげと眺めてみた。

まるで陶器か何かのような、マットで艶やかな皮膚の質感。
はちきれんばかりの丸い胸。
ツンと上がって引き締まったヒップに、くびれたウエストライン。
紙面越しの男を誘惑するような、蠱惑的な表情。
自然界の求愛シグナルを思い起こさせるような、煽情的なメイキャップ。

どれ1つ取ってみても、香には持ち得ない“オンナ”という名の武器。(あくまで、香の見解である)
これらを楽し気に観賞する僚は、多分。
こういうのが好きなんだろうと思われる。
だから。
やはり、香には理解できない。
こういう“オンナ”が好みで有る筈の僚が、
自分の事を、女として好きだなんて。
何かの間違いだろうと結論付けて、香はその雑誌を元有ったベッドの下に収納した。






何やら楽し気に美樹と会話をしている僚を、香はチラリと盗み見る。


美しい男だと思う。
いつもはだらしない感じを装ってはいるものの、いざという時にはまるで。
スーパーマンみたいな、頼れる相方。
香は僚が好きだ。
死ぬほど。
この男のだらけた姿や、打って変わって凛とした姿、その全てを自分は知っているんだぞと、
少しだけ得意な気持ちにもなったりはするけれど。
それでも、僚の“オトコ”の姿だけは。
唯一、知らない。







香は無意識にまた、溜息を零す。
ご馳走様、と言ってカウンターに小銭を置くとキャッツ・アイを出た。







「・・・なんだよ、アタシの事好きだなんて嘘っぱちじゃん。りょおのスケベ。」




香は知らず知らず無意識に、声に出して呟いてからハッとする。
それでも、あの時。
僚の気持ちに答えを出さなかったのは、自分自身で。
そんな自分に、果たして僚を責める資格など有るだろうかと。

これは、ただの嫉妬。

それに気が付いた香は、少なからず後悔している。
もしもあの1週間前のあの午後の平和なリビングに、時間を戻せたら。
その時は、自分も。





それでも、あの時の選択で香は僚の恒久的パートナーの座を獲得した。
でも。
香は気が付いてしまった。
“僚に愛されたい”という気持ちに。
僚はずるい。と、香は思う。



あんなに大切な究極の選択を。
まるで天気雨みたいに、突然に振って来るなんて。
もう少しなんか、心の準備とか、コンディンションとか、タイミングとか。
有るでしょうがっっ、と思うけど。
今となってはもう後の祭りだと、
香は独り、新宿の雑踏の中で涙が出そうになるのを必死に堪えた。



(つづく)



[ 2013/07/14 01:50 ] rhetoric | TB(0) | CM(0)

#4. 愛慾

春の夕方は、もう随分落日までが遅くなった。


ついひと月前の同じ時間には、辺りはすっかり暗くなって気の早い星々が瞬いていた。
多分、あとひと月後には。
香の服装は、もう一段階薄着になって。
更に、もうひと月後には。
汗を掻きながら2人並んでビールを飲むんだろう。


そうやってもう何年も、2人で暮らしてきた。
この屋上に居て、思い返すのは香とのこれまでの色々。
オデコにチュウしたり、ケンカをしたり、泣いてる香に胸を貸したり。
けれど。
抱えきれない程の愛情を貰って来たのは、他でも無い自分の方なんだと僚は思う。
僚の咥えた煙草の先から、ほの白い煙が真っ直ぐに天へと昇ってゆく。




香の愛は、曇りが無く真っ直ぐだ。
それは僚への確固たる信頼の証で、潔い。
尊くて、清廉で、純粋で、揺るぎ無い。



その事が、どれだけ僚の心を救って来ただろう。
疑い深くて真っ暗だった心を、時間をかけて溶かしてくれたのは。
間違いなく、僚の最も愛する相棒だ。
2人の関係を揺るがしかねない事柄が起こる度、香は必ず僚の手の中を選んでくれた。
もうダメかもしれないと、僚が諦めかけても。
香はいつもの笑顔で、そんな事は大した事では無いんだと、笑い飛ばしてくれた。
過去の僚など関係無いと、大切なのは。
今ココに、生きて存在する僚と香なんだと、
言葉は無くともそう言ってくれているのが、痛いほど伝わって来た。
香の真っ直ぐな瞳は、いつでも教えてくれる。



一番大事なモノは、僚の命。



だから僚は、香の為に生きているのだと思う。
これまでの人生で、僚の為に命を賭してくれたのは“オヤジ”の他には、香1人だ。
そして、僚を決して裏切らないのは唯一、香だけだ。
今では僚の命は、香の為に存在する。
香が僚の生きる理由ならば、香の望みが僚の望みに他ならない。







僚は大きく1つ煙を吐き出すと、背筋を伸ばして欠伸した。




でもさぁ~~~、
もうそろそろ限界だよねぇぶっちゃけ。




春の夕方の独り言は、煙草のケムリと一緒に霞のように空に融けた。
もう今更、香を自分の手元から放そうだなんて事は微塵も思わない。
むしろ、僚の考えている事は。

いつになったら相棒と、
くんずほぐれつ仲良しこよしイチャイチャラブラブ出来るのか、
ただそれだけだ。

確か1週間ほど前には、
いつまででも香の気持ちの準備が整うまで待とうと思っていた筈だけど。
僚の本能と煩悩は、それほど堪え性のある方では無い。
むしろ世間一般の健康な成人男子の中でも、群を抜いて耐性は低い。
気が付かないのは、香だけで。
彼女の辞書には、性欲という言葉は無いんじゃないかと僚は予想している。
それはそれで可愛いんだけど。
そんな彼女を、愛慾まみれにしてやりたいという、邪な願望も抱いていたりする。




あの時、僚はあれでもストレートに彼女を口説いたつもりだ。
その言葉に、嘘も、誇張も、見栄もプライドも何も無い。
槇村香を、1人の女として好き。
ただそれだけ。
あまり、ピンと来てない様子の香に言った言葉も、至ってストレートだった。
パートナーという言葉に拘る香に。
それなら一生お前のパートナーは俺だという、シンプルな答え。
それでも香の準備が整い次第、いつだって手は出しますよ、という表明。


それを香がどう受け止めたかは、僚には解らない。
けれど、なんだか。
このまま、香の愛慾に火が点くのを待っていても、一生。
イチャイチャラブラブにはならない気がしてきた。
少しだけ言葉のチョイスを間違ったかも、と僚は漸く気が付き始めた。

















よし、出来た。




香は鰈の煮付けに、煮汁を掛け回してガスの火を消した。
僚の好きなコールスローサラダは、ラップを掛けて冷蔵庫の中で冷やされている。
味噌汁は里芋と油揚げ。
スーパーで初物の鞘付のグリーンピースを見付けたので、今日は薄い塩味の豆ごはん。
初物を食べたら、寿命が75日延びると言うのはただの迷信かもしれないけれど。
だけど香は、迷信でもイイから僚との食卓にはなるべく、旬の彩りを添えたいと思う。



さっき、灰皿と新聞を持って階上(うえ)に歩いて行った僚を見たので。
多分僚は今頃、寝室に居なければ屋上だ。















重いスチールの扉を開けると、案の定、僚は居た。
手摺に頬杖をついて、煙草をふかす後ろ姿。
後ろ姿だけでもカッコイイと思ってしまう香は、思わず真っ赤になってプルルと頭を振る。


この数日の、憂鬱な考え事が脳裏を埋め尽くす。
あの大きな背中に甘える事や、あの逞しい腕に抱き竦められる事を、
香は自ら、放棄した。
香は僚に甘えて寄りかかるだけの関係は嫌だった。
僚の隣を正々堂々と胸を張って歩きたい。
それが女として僚の傍にいる事と矛盾無く両立出来るのかどうなのかなんて、香には解らない。
だから香に解るのは、今まで通りの僚の相棒というポジションだった。



香は唇を噛み締めて、もう一度気合を入れ直す。
何の屈託も無い、気心の知れた相棒を演じる為に。







りょお~~、ご飯出来たよぉ~~~




(つづく)
[ 2013/07/15 19:42 ] rhetoric | TB(0) | CM(0)

#5. 寿命+α  

春の宵に、柔らかな相棒の声が僚を呼ぶ。



もうそろそろだと思っていた通り、夕飯の支度が整ったらしい。
呼ばれてもすぐに向かわなければ、香は自然と僚の傍にやって来る。
それを解っていて、僚は穏やかに微笑みながら手摺に凭れたまま香の方に向き直る。





りょお???




僚は何も言わずに、ただ優しい笑みを湛えたまま、じっと自分の方を見詰めている。
僚は時々、こうしてすごく優しい顔を見せてくれる。
大半が意地悪な僚の方が多いので、
こんな風に見詰められると香は何だかくすぐったい気持ちになる。
唐突に僚が、意味の解らない質問を繰り出す。







で??どうよ?カオリン。


ふぇ???







僚の質問の意味が、香にはまるで解らない。
どうよ?
何がどうよなの?
伝言板の事かな?
それとも、メンテに出してたフィアットの事かな?
もしかすると、今夜の献立の事なのかも。
僚の思考回路と、香の思考回路は。
全く持って綺麗に擦違っていて、見事に交わる事無く回り続ける。










・・・今日の晩ご飯はぁ、鰈の煮付けと豆ごはんだよ。グリーンピースは初物だよ♪


・・・・・・・。


・・・ん???なんか、間違ってた???











頭上に沢山の?マークを飛ばしながら、首を傾げる相棒に。
僚は無意識に、深い深い溜息を吐く。
僚が訊きたいのは、そんな晩ご飯の献立なんかより、(勿論、それも重要だけど。)
この間の真剣告白に対する、相棒の忌憚無いご意見・ご要望である。









り、りょお???


あのさぁ、カオリン。


ん?


この前の、話しの続きだけど。









どの話しの続きなのかは、僚の真剣な瞳を見て流石の香にも察しがついた。
1週間前の、天気雨のような、今後の2人の方向性に関する重要な会議の件だ。
・・・って、あの話に続きがあったの???と、香は思う。











・・・続き?


うん、続き。おまぁさ、どう考えてんのよ、正味な話し。


どうって?


だぁからっっ、オレ、あん時なんて言った?





















・・・あの時・・・???
と、香はあの時の僚の言葉を、じっくりと思い出してみる。




『・・・おまぁの事。
 
 ・・・好きなんだけど、勿論、女として。
 
 

 そうか。そんなら、おまぁはずっと俺のパートナーだ。
 
 どちらかが死ぬまで、それか。

 おまぁが変化を望まない限り、ずっとだ・・・』



僚はあの時、香の事を好きだと言ってくれた。
香が“女として好き”の定義に戸惑っている間に、ずっとパートナーだとも言ってくれた。
死ぬまでか、香が解消を望まない限りずっと。
・・・変化???
解消では無く、変化?

ここで漸く、香は何かが引っ掛かった。
実はそこには。
僚の含みを持たせた、レトリックが潜んでいたのだ。











・・・へんか・・・?


やっと気付いた?カオリン♪







ポカンとする香に、僚はニヤリと笑う。
僚が今更、香をみすみす手放す訳など有り得ないのだ。
たとえ香が僚の元から逃げようと、僚は逃がすつもりなど無い。
香にはまだまだこれから、色々と。
僚が教えてやらなければならない、女の幸せというモノがある訳で。
お楽しみはこれからである。








変化って色々じゃん?
カオリンってば、パートナー解消だなんて悲しいお話しを想像しちゃったみたいだけど。






そう言って僚は、香の華奢な手頸を掴むとポカンとする香を胸の中に抱き寄せた。
一瞬の出来事に、香はアッサリと僚に捕獲される。
僚のTシャツの胸元から薫る仄かな柔軟剤の薫りと、煙草の匂い。







チュウとかモッコリしちゃうのも、充分な2人の変化だと思わない?カオリン。







そんな事を耳元で囁かれて、香は何が何だかワケが解らなくなってきた。
チュウとか。
モッコリとか。
2人って、私と僚の事???
少しづつ、僚の言葉の意味を理解して。
香の指先から耳の先まで、朱に染まる。









で?どうよ?カオリン。変化を望んでみたりしない?







そう言って香の顔を覗き込む僚は、今まで香が見た事の無い僚だった。
多分、それが。
僚の中の“オトコ”の顔。
この1週間、香は色々と考えた。
僚から、ずっとパートナーだと言われて、嬉しかったけど素直には喜べなかった。
香は気が付いてしまった。
パートナーだけじゃ無くて、でもパートナーでもあって僚にも愛されたい。
そして、そんな欲張りな自分が、嫌だった。
こんな気持ちを燻ぶらせている自分は、僚には相応しくなんかないと思っていた。
そんな自分でも、僚が好きだと言ってくれるのか。確かめる事が怖かった。
キチンと僚に向き合って、ホントはこんな風に思ってるんだよ、と言う勇気が無かった。




僚の顔を見るのは恥ずかし過ぎるので、香は僚のTシャツに顔を埋めた。
この際だから、色々と確かめ合おうと決意する。
これからの冴羽商事の方針を決める、重要な会議だから。







あのね、りょお。


ん?


ちゃんと、僚のパートナーじゃなきゃ嫌なの。


勿論、オレもちゃんと今まで通りアシストして貰わなきゃ困る。


男の人の依頼もちゃんと受けるの。


・・・・そら、おまぁ。依頼内容によるな。


女の人の依頼で、鼻の下を伸ばしたら怒るよ?


・・・・善処する(汗)


・・・何処に行っても・・・ちゃんと・・生きて・・帰って来てね。


約束する。







・・・ずっと、ずっと。・・・好きでいてくれる?















小さな小さな聞き取れるか聞き取れないか微妙な声で、香が僚に訊ねる。
僚は思わず小さく吹き出すと、頼りなげに細い、けれど誰より頼れる相棒をキツク抱き締めた。
もう一度、ハッキリと聞こえるように、けれど密やかに。
真っ赤に染まった耳元に囁く。







あぁ、おまぁに嫌われても、死ぬまでずっと好き。








今日の夕飯は初物の、豆ごはんらしい。
初物を食べると、寿命が75日延びるらしい。
ま、迷信だけど。




というワケで、
戴きまぁぁ~~~っす!!





冴羽僚は取敢えず、鞘付の柔らかなグリーンピースの豆ごはんを戴く前に。
柔らかな相棒の唇を戴く事にした。
今晩だけで、初物が2つ。
寿命は、計150日延長だ。
これから先、沢山のお初を戴く度に、冴羽僚の寿命はどんどん延びる。


いつかの湖の畔で、生き抜いて愛する者を守り抜くと誓ったから。






(おしまい)



[ 2013/07/16 21:15 ] rhetoric | TB(0) | CM(2)