“意味深な台詞で10のお題”始めます ヽ(*´∀`*)

01. それってどういう意味?

02. デートしてるみたい

03. バカみたいじゃない

04. 期待してもいいの?

05. それくらい自分で考えろよ

06. 恋なんて面倒臭い

07. いっそ俺のになっちゃえば

08. もしかして、口説いてるの?

09. この気持ちは言葉に出来ないよ

10. いま、好きって聞こえた





以上、10題。
順不同で取り掛かります



お題配布元: “天球映写機”さま
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意味深№2. デートしてるみたい

それは、本当にたまたまで。


よくある依頼のよくある展開で。
依頼人の美女を付け狙う変態ストーカーをまんまと誘き出し、
偽りの恋人役を買って出た僚(僚曰く、あくまでも仕事の一環であるらしい)と、
依頼人の美女が偽りのデートの場所に選んだのは。
いつだったか、僚と香が素性を隠したままデートした、あの港の傍の公園だった。
偶然にも、今回の依頼人はこの公園のすぐ傍に住んでいる。
僚の調べに寄れば、犯人と彼女は生活全般の行動半径がほぼ丸被りである。
白昼堂々のデートスポットで、犯人も必ずどこかで2人を監視していると踏んでの計算だ。


あの時と違うのは、僚の相手が依頼人の美人OLで、
香がベンチの後ろの茂みからコッソリと、恋人同士(仮)を見張っているという点だ。
因みに香曰く、“犯人が現れたら可及的速やかに身柄を拘束する為に張っている”というのも、
実際の所は、
僚が調子に乗って無理何発を要求する、というセクハラを未然に防ぐ為である。
何しろ、犯人を捕え次第、その身柄は冴子へと託される手筈は整えているのだから。





依頼自体は、さほど計算が狂う事も無く、恙なく終了した。
気の小さい奴ほど、ストーカーなどに成り下がるもので。
簡単に僚から、腕を捻り上げられてアッサリと戦意喪失していた。


そもそも、その依頼は冴子経由で2人に持掛けられたモノであり。
犯人の身柄を引き取って行きながら、警察官が護衛の元、彼女をすぐ近くの住まいまで送って行った。










港の公園で。
残されたのは、冴羽商事の2人。
週末の午後。
周りには幸せそうな家族連れと、目の遣り場に困るようなカップルだらけ。
隣にいる香の、甘やかなクセ毛から漂うシャンプーの薫り。


あの時は、日付を跨ぐような時間だった。
真っ暗な中に対岸の夜景と、真っ黒な水面が揺れる世界だったけど。
こんな土曜日の昼間の明るい日差しの中で、あの時と違ったシチュエーションに僚の胸が高鳴る。
高級なブランド服も無い、ウィッグも要らない、お互いに自分を偽る必要の無い明るい世界。






これじゃ、まるで・・・・
(デートみたいじゃねぇか・・・)






そう思うと、僚の頬も思わず緩む。
伊集院夫妻の結婚式で、初めて僚が告白したけれど、2人は未だプラトニックで。
モヤモヤしては、やり過ごす。
ましてや、デートなど。
あの。
素性を隠したままの、苦甘いデートだけだった。








ねぇ、りょお。


うん?


何か、ちょっとデートしてるみたいだね。







そう言って笑った相棒の柔らかな頬を、僚は優しく抓る。
せっかく自分が堪えて、皆まで云わずに留めていたというのに。
香は時々やけにアッサリと、僚の言えない本音を言ってのけたりする。





なぁにが、デートだょ。家に帰り着くまでが、依頼なんだぞ?






ついさっき。
自分も同じ事を想った事は秘密にして、僚は生温い潮風の中を駐車場の愛車へ向けて歩き始めた。









あぅ、メチャクチャ睡魔に襲われながら書きました(テヘ)
文章変な所があったら、すみません(汗)

意味深№3. バカみたいじゃない

だいたい僚には、危機感が無さ過ぎると香は思う。




否、こう言うと語弊はある。
あの万年常春男は、一応、ああ見えて殺し屋である。
だから。
早急に命の危険が伴う場合の危機には、野生動物並みに超絶敏感ではある。
けれど、長期的スパンでジリジリと迫り来る危機には、至って無関心を決め込んでいる。


麗らかな春の日の午後。
JR新宿駅東口に置かれた伝言板には、今日も心待ちにしていた報せは無かった。
前回の依頼解決から、もう既に2ヶ月が経過している。
その間にも着々と増え続ける僚のツケが、
明らかに冴羽商事の経営と、冴羽家の家計を圧迫している。
早い話しが。
食費を切り詰めるにも、もう既に限界は超えているという事だ。


ちょうどその日の朝(というか、ほぼ昼前。)
香の作った朝食(というか、ほぼ昼食。)を、旨そうに目を細めて喰らいながら。
僚は香の小言を聞いていた筈だ。
香がこんなにも、焦燥感を抱いて、毎日財布の中身と睨めっこしながら生きているというのに。
目の前の張本人は我関せずで、朝から丼飯を4杯平らげた。
勿論、昨夜も午前様だった(ツケである)


一頻り小言を垂れた香に、僚はニンマリと微笑むと今日の味噌汁、旨い。と、言い放ったのだ。


日頃は、褒める事など殆ど無いクセに(その割には、よく食べる。)
そんな時ばかり、そんな事を言う。
それが無性に、香の神経を逆撫でする。
(しかし味噌汁が美味しいと言われて、心の中で小さくガッツポーズする事は忘れない。)
もしも、鉄砲の弾に当たったら勿論死ぬんだけど。
ご飯が食べられなくても、意外とアッサリ飢えて死んでしまうんだという事に、僚は無関心だ。
種馬の耳に念仏である。









依頼の無い日の駅からの帰り道は、足取りも重い。
スーパーに寄る事すら、今日はもう控えなくてはならない。
冷蔵庫と、食料庫の棚の中身から、今夜の献立を組み立てなければならない。
脳内であらかたのイメージを描きながら歩いていると、視界の端に常春男の姿を捉える。




「そこの、モッコリおねいさぁぁ~~~ん♪リョウちゃんと、あっそびましょうっっ」




香の額に、青筋が浮かぶ。
僚はお金も無いクセに、女の子を誘うのは平気らしい。
もっとも。
誘うだけは、タダである。
そこから先の成功率に関しては、すこぶる低いスコアを叩き出しているのが常だ。




馬っ鹿っっ、馬鹿しい。



一瞬だけ、香がジロリと僚を睨む。
僚も香を視界の端に捉えた瞬間に、香へと視線を走らせる。
ホンの、0.数秒間。
2人の視線が絡まる。



香の表情に名前を付ければ、『怒り』だ。



“怒り”にも、色んな種類がある。
この日の香のお怒りは、89%の冷めた怒りである。
しかし、表面上では冷めていても、腹の底ではドロドロに溶けた怒りのマグマが渦巻いている。
そして残りの11%は、諦めである。
そんな香の複雑な怒りを、僚も視線の絡まった一瞬で正確に読み取る。


香とは対照的に、僚の腹の底では零れたインクが滲むように、ジワリと不安が広がる。
この毎度毎度の、近所迷惑な僚の日課は。
香の制裁によって一件落着と相成る訳だけど。
ごく稀に、その制裁を施す事すら面倒臭くなるという、香のお怒りモードが頂点に達する時がある。
何だか、今日はそんな感じの日の様な気がしないでも無い。
というのが、僚がホンの0.数秒で導き出した見解だ。









案の定、香は僚を華麗にスルーすると、
自宅アパート方面へと、歩調を緩める事無く僚のすぐ傍を通り過ぎた。
香が擦違ったその刹那、間の悪い事に、ナンパ相手の女子大生風ギャルが、



『え~~~、お兄さんの奢りなら、付き合ってあげてもイイよ~~』


なんて言うから、僚は寿命が若干縮んだ気がした。
表面的には、鼻の下を最大限に伸ばし切ったスケベ面で。
見るからに軽そうな頭の弱そうな女の、何のオチも無いしょうもない話しに相槌を打ちながら。
腹の底では、お怒り度MAXの相棒の機嫌を如何に回復させようかと、邪な算段を見積もっている。





僚のすぐ傍を擦違った瞬間、最も聞きたくも無い男女の軽い駆け引きが香の耳につく。
香には絶対に真似など出来ない、甘えるような媚びるような喋り方、仕草。
僚がきっと好きそうな、『オンナ』という生き物。
僚に背中を向けた瞬間、香は歩調を強める。
まるで僚にハンマーを叩きつける瞬間をイメージするように、アスファルトを蹴って歩く。
いっそ、ハンマーで潰してやれば良かったかと、ホンの少しだけ後悔する。





馬鹿みたい
馬鹿みたい
馬鹿みたい
ばぁっかじゃないのっっ


意地悪でスケベで大メシ喰らいでぐうたらで。
アタシにだけ、冷たいヤツ。










それでも、アタシは。


そんな、アイツが。


多分、この世で1番。


好きで。








どんなに、怠け者で危機感に乏しくても。
返す当てもないツケをこさえて来ても。
男女なんて言われながらも、時折下着をちょろまかされて。
ハンマーを振り回しながら、追いかけ回して。
でも。



味噌汁が、旨い。


って言われただけで、舞い上がってしまう。
結局。
あんな馬鹿な僚が好きなアタシは、それに輪を掛けて筋金入のバカみたいじゃない?と、香は思う。




相変わらず、アスファルトを踏み鳴らしながら。
それでも香の口角が自然と持ち上がり、笑顔を形作る。
何だかんだ言ったって、恋なんて。
馬鹿になったモン勝ちなのだ。
生きてゆくのに、ご飯ももちろん必要だけど。
香にはどうやら、恋と笑顔も同じくらい大切みたいだと気が付いた。
また今度、里芋と油揚げの御味噌汁作ろう♪と、香は思う。









結局、ナンパ相手との語らいは、彼女を一方的に怒らせる方向へと仕向けて終了した。
残ったモノは、僚の左の頬にクッキリと浮き上がった手形と、
僚の少し前方を、意気揚々と歩く凛とした相棒の背中。
僚は頭の片隅で、上手い事香をキャッツに誘う口実を考えながら、香の背中を追いかけた。









意味深№1. それってどういう意味?

何よっっ!!
りょおの言ってる意味、全っ然っっわかんないっっ!!
バカッッ意地悪っっ







麗らかな五月晴れの午後。
冴羽僚の相方・槇村香は、そう言い捨てるとリビングに僚を残して表へと飛び出した。
僚の助言という名の遠回しな束縛の言葉は、完全に裏目に出た形だ。



そもそも事の発端は、ここ数日の陽気のせいである。

もう春を過ぎて、早くも初夏の空気を漂わせている。
朝晩はそれでも多少肌寒い時もあるけれど、日中は半袖でも汗ばむほどだ。
僚の怠惰な生活習慣は相変わらずで。
今日も今日とて、起床は正午の少し手前だった。
いつもの事なので、香は自分の昼ごはんと僚の朝ご飯を同時に作る。


僚がキッチンに顔を出すと、
極々浅穿きタイプの超ローライズのジーンズに、アメリカンスリーブのトップスを着た香が。
僚のブランチを作っていた。
まぁ、それはイイ。
メニューも、至って普通にスクランブルエッグに、カリカリに焼いたベーコンが添えられ、
新玉葱のスライスをタップリ使ったサラダに、トーストとメイプルシロップの掛かったヨーグルト。
旨い。


問題はそこでは無く、香の華奢なウエストラインである。


確かに、そんな時間まで薄暗い寝室で、タオルケットに包まって惰眠を貪った己と違い、
香は早朝から、一通りの家事を片付けている。
洗濯機を回しながら、決して狭くは無い6・7階のスペースに掃除機を掛け、
リビングやキッチンなど、頻繁に出入りする場所は拭き掃除をし、
洗濯機のアラームが鳴ったら屋上に干しに行き、挙句には表玄関の掃き掃除までしていたのだ。
この汗ばむような陽気の中、そりゃあまぁ、ノースリーブでも着たくなるというモノだろう。


もそもそとベーコンを咀嚼する僚に背を向けて、シンクでフライパンを洗う香の腰は。
先程からチラチラと、真っ白い素肌が見え隠れしている。
きっと。
後ろ姿があれなら、臍は完全にチラ見えしている事に間違いはない。
大きく露出した肩には、余計な肉など一切無く、真っ白で艶やかだ。
香に自覚は皆無だが、ここ数年明らかにバストは格段の成長を遂げている。
僚と香は未だ、プラトニックな関係だ。
もっとも、別に誰に遠慮する事でも無いので。
サッサと手を出せば良いのかもしれないが、裏の世界№1との呼び声も高い男はしかし。
相棒にだけは、滅法弱腰である。
単純に、妙に潔癖で純粋な相棒に厭らしく迫って、嫌われるのが怖いのだ。






それでもまだ、彼女が家の中だけでそのような恰好をする分には、僚も目を瞑っている。
否、むしろ。
ガン見している。
僚1人が、その煩悩の奔流を辛うじて心の堰で押し留めていれば済む事で。
(もっともここ最近は、その堰が決壊寸前なんだけど。)
万事、丸く収まっている。


僚の食事のタイミングを計りながら、香が棚からミルと豆の入った缶を取り出す。
もうここ何年も、僚が家で飲むコーヒーは、挽き立ての豆で淹れたモノだ。
僚が食事の最後のひと口を頬張ったのと、芳ばしいマグカップが目の前に出されたのはほぼ同時だった。
申し分ない。




『じゃあ、私。伝言板見て来るね。』



だから香がそう言って、携帯と家の鍵と財布の入った小さな手提げを持った時。
僚は思わず、不機嫌な声を漏らしてしまった。
赤に白い水玉の帆布生地の小さなトートバッグ。
ダメージ加工の施された細身のローライズジーンズに、シルバーのバックルのレザーのベルト。
クリームイエローのアメリカンスリーブの柔らかなニット。
春になるまで、繭の中に大切に包まれていた絹糸のような艶やかで白い肌理細やかな柔肌。
端正な縦長のお臍。
シャープな中にもまろやかさを感じさせる、華奢な肩。
真っ直ぐにすんなりと伸びた、柔らかそうな二の腕。
薄っすらと浮かぶ、腹筋のライン。




・・・・ちょぉっと、待ったぁっっ!!




僚の突然の剣幕に、香は眉を潜める。
こういう時の僚は確実に面倒臭い、と経験的直感で瞬時に導き出した。





何よ?


おまぁ、幾ら天気が良いからって。そのカッコは気が早ぇんじゃねえの???


そんなの、私の勝手でしょ?昼までゴロゴロしてるアンタと違って、動いてると意外に暑いのよ。


・・・・・・・。






確かに、昼までゴロゴロしていた僚には、返す言葉は無い。
しかし。
そのような無防備な姿の相棒を、玄関のドア1枚隔てたコンクリートジャングルに放つ訳にはいかない。
僚はポーカーフェイスの下で、目まぐるしく次の言葉を模索する。






ああぁ、あんなぁ。おまぁ、紫外線っつ~のは真夏よりも今の方が強いんだぜ?シミになるぞ?


はぁ?知ってるし、そんな事。ご心配なく、日焼け止め塗ってるから。


・・・んだよ、人が親切で言ってやってんのに。


りょお。そういうのって、大きなお世話って言うのよ?知ってた???


・・・・(青筋)。





ああ言えばこう言う相棒に、僚は怒らせたくは無いけれど、
思わずいつもの悪い癖というヤツで、憎まれ口を叩いてしまう。







っとに、皆まで言わなきゃ解んねぇかね。鈍いヤツ。


どういう意味よ?


だからぁ、そういうカッコはさぁ、香クン。


???


おまぁみたいな貧弱なおっぱいの持主じゃ、全然似合わねぇっつってんのっっ





どっちが、背中か胸だか見分けつかねぇぞ~~~


大きなお世話よっっ!!







香が放った、コンパクトサイズ1tハンマーが僚の顎に直撃する。
かくして、冒頭の捨て台詞を投げ掛けられた僚は、独りコーヒーの薫り漂うキッチンに取り残された。
結局、怒らせようが怒らせまいが、無防備な仔猫のような相棒は、
敢え無く獣共(この世の男全てだ)が蠢く街の中へと、飛び出して行った。






ったく。言っても解んないヤツは、強硬手段に出るしかないかね。





僚は1人ごち、温くなり始めたコーヒーを啜った。
取敢えず、相棒が戻ったら。
あの真っ白な肩と首筋に、コイツは俺のモノだという証を刻んでやろうと、
僚はニヤリと口角を持ち上げて笑った。










ありがちネタ(爆)

意味深№4. 期待してもいいの?

それは何の変哲も無い、夕食後の冴羽家の団欒のひと時であった。




最近の若い男の子は、女の子に甘えられるより甘えたい願望が強いらしい。


2人でソファに並んで見ていたバラエティ番組は、そんな話題で盛り上がっている。
その話題の信憑性は別問題として、なにやら香は真剣な表情で『確かに、言えてる。』と頷いた。





なによ?カオリン。チミが、最近の男子の“ナニ”を知ってるっつ~ワケぇ???





確かにこの数ケ月。
僚と香は、正真正銘、れっきとした“恋人(モッコリ)関係”で。
何からナニまで、色々と急速にお勉強している香ではあるものの。
知っているサンプルは、専らこの隣に座るモッコリ男子なのだ。
当のモッコリ男子に言わせれば、香はまだまだ何も知らないひよっこだ。
ましてや、最近の男子の傾向なぞ知っているのなら、
何であんなにも無防備に、街中を無警戒に歩けるのか甚だ疑問である。
ナンパされ放題である。
本人は、至って無自覚なんだけど。






/////そ、そりゃあ、あんまし知らないケドっっ


あんましじゃねぇよ、全然知らねぇの。


・・・・・むぅ。私だって、少しは知ってるもん(膨)


あ?何を知ってんの?言ったんさい♪(にま)






艶やかな唇を尖らせて膨れる香に、僚がさも楽し気に応戦する。
僚にとって、香をからかいながら可愛がるのは至福の一時である。
香は楽し気に己をからかう僚に、ますますムキになる。






りょおだってさぁ・・・


あ?俺がいつ甘えん坊したよ???


昨日。 耳掃除してくれって、膝枕してきたじゃん!!


///////あ。 そ、そら、おまぁ。


あ、あれが甘えん坊じゃ無くてなんなのよ////


あれは、ホラ。パートナーの務めだ、うん。


意味わかんない。


解んねぇか?耳くそ詰まってて、遠くで撃鉄起こす音が聞こえなかったらマズイだろうが(威張り)


・・・・・。(ジト)








流石の香も、僚のそんな無茶な言い訳に、訝しげに目を細める。
しかし、それもほんの数秒で、香は満面の笑みを浮かべると言い放った。






でもま、このお話しの参考に、そもそも僚は当て嵌まらないか。


・・・なんで?


だって、僚は別に最近の若い男の子じゃないじゃん?30代半ばだしね♪


・・・・・・。





ムスッとしたモッコリ男子など知らんぷりで、香は甘えるように隣の僚の膝に頭を乗せてソファに寝転ぶ。
香は僚があからさまに甘やかすと、照れまくってぶっきら棒になるくせに。
フトした時に無意識に、こうやって僚に甘えたりする。
まるで、人見知りの野良猫のように。
僚はその柔らかなクセ毛を愛おしげに撫でながら、コーヒーを啜る。
こんな時、敢えて僚はこの状況を指摘したりはしない。
珍しく香から甘えてくれる状況を、心置きなく楽しむ為だ。
意識してしまうと最後、香は暫く甘えてくれなくなる。
この数ケ月で、僚が学んだ事だ。
テレビはもう点いてるだけで。
2人とも、全く観てはいない。






ねぇ、りょお。


ん?


足の爪、切ったげようか?


んぁ???おぉ。


じゃあ、爪切り持って来て??







突然の香の申し出に、僚は一旦香の頭を優しく膝から降ろして、
テレビの横の小さな籠の中に入れられた、爪切りを持って来る。
ソファに戻ると元通り、香の小さな頭をまた膝に乗せる。
香はされるがままで、クスクス笑う。






はい、じゃあ。足出して下さぁ~~~い。


何だよ、寝たまま切んのか???(苦笑)


うん。







仕方が無いので、僚は苦笑しながら片方の膝の上に、もう一方の足を乗せる。
香のすぐ目の前に、僚の裸足の大きな足が差し出される。









香の爪とは明らかに違う、固くて分厚い僚の爪。
バチン、バチンと大きな音を立てて、白い三日月形の爪が爪切りのカバーの中に収まってゆく。






いつもより時間をかけて、多少無理やりな体勢で、僚の足の爪10本を切り終わる。
その間僚は、ずっと香のクセ毛を弄んでいた。
こんな風に何でも無い時間を愛おしいと思えた女は、香以外にはこれまで居なかった。
僚は少しだけ、こんな甘やかなひと時に夢を見てしまう。
期待してもイイんだろうか。
自分のような男が、この先。
何処にでもある普通の幸せに浸ってもイイだろうかと。


香が耳元で、爪切りを揺らす。
ついさっきまで、僚の体の一部だった爪の欠片が、シャカシャカと小さな音を立てる。
それは何故だか、大切な宝物みたいに思えた。





ねぇ。

ん?

これ、小さい瓶に入れて取って置こうか?


・・・・・・、ばっちいから捨てなさい(苦笑)







僚は思わずクククと、小さく笑って。
愛しい彼女の唇に、そっと口付を落とした。











ソファでイチャラブです(甘い)

意味深№5. それくらい自分で考えろよ

香の逆鱗に触れて、もう2日になる。






元はと言えば、元凶は。
きっと、この不景気が悪いのだと、僚は現実逃避してみる。
冴羽商事(というか、冴羽僚)のモットーは、美女の依頼しか受けないという事で。
依頼主が初老のオッサンなどという事は、僚の主義に反する。
・・・というのは言い訳で。

あのオッサンの、相棒へと向けるまるで舐めるような厭らしい視線が、気に食わなかった。

とは言え。
当の相棒は、そんなセクハラまがいの厭らしい視線になど気付く様子も無く。
彼女の脳内には、依頼料の事が50%・依頼人のオッサンへの憐憫が50%を占めていて。
結果、喫茶・キャッツアイのボックス席で、僚は1人モヤモヤとしていたのだ。
そもそも、その依頼の内容にしたって。
遺産相続に基づく肉親同士の諍いなど。
ハッキリ言って、ウチが受けるような仕事では無いと、僚は思う。
香はオッサンの言い分を真に受けて、真剣な表情で親身になって聞いていたけど。
ああいう話しは、どちらかの片側一方の話しを聞いた所で、何の参考にもならないのがオチだ。
僚の見解としては、弁護士事務所へ行け。である。
遺産を巡る骨肉の争いに、スイーパーを雇おうと考える時点で、ロクなヤツじゃない。



勿論、僚としても。
あの依頼を受けなければ、約3ヶ月依頼が無かった事だって重々承知であった。
(もっとも、僚個人への依頼はこの間、数件はこなしている。)
だから香が、依頼の内容はどうあれ受ける気満々だった事も。
だからあの晩。
夕食を終えて、香が風呂に入っている隙に。
僚は依頼人になるかもしれないそのオッサンに、断りの電話を入れたのだ。


それから2日。
相棒は臍を曲げて、一切口を利いてくれなくなった。








夕方、僚が日課のナンパを終えてアパートに戻ると。
キッチンのテーブルの上には、僚の分の晩御飯だけ皿に盛られてラップが掛けてあった。
御飯茶碗と味噌汁をよそうお椀が、ランチョンマットの上に伏せて置かれている。
どうやら自分でやれという事らしい。
シンクの横の水切り籠には、
香がいつも使っている茶碗とお椀(僚のモノと色違いだ)が伏せられている。

(アイツは、もう喰ったのか・・・)

そんな些細な視覚情報から、相棒の心理状態を推し量る。
この数年。
彼女と生活を共にして来た年月の積み重ねの賜物だ。
言葉など無くても、彼女の考えていそうな事は理解できる程度には、2人は親密だ。
もっとも、キスはおろか、恋心を打ち明ける事すらまだだけど。



否、正確に言えば。
僚は1度だけ湖の畔で、勢いに任せてくっさい台詞を吐いた事があったけれど。
それ以来、数ケ月。
2人の間に、これといった変化は無い。
相棒以上恋人未満。
仕事のパートナーと言いながら、その肝心の仕事は数ケ月に1~2度あれば良い方で。
まるで当然のように、2人で食卓を囲み。
淡々とした日常生活を送る。
そしてこうして時々、遠慮の無いケンカをする。


それは僚にとって、これまでの人生で初めての“家族”なのだ。



香は多分、無意識だけど。
どんなにケンカをして腹を立てていても、出て行くという事だけは、彼女の選択肢には無いようだ。
それが僚にはとても新鮮で、そんな香に救われているという事など。
当人は全く気が付いていない。
昔の僚の周りには、居なかったタイプの人間だ。
昔はケンカをすればそれっきりだったし、
そもそも、誰かとケンカをするほど親密な付き合いをする事が無かった。


どんなに口を利かなかったとしても、食事が用意されている。
風呂には湯が張られ、寝室には掃除機が掛けられ、シーツが換えられている。
ベランダには、己のTシャツと彼女のタンクトップが並んでハンガーに掛けられている。
これが2人の全てを物語っている。
そして僚は。



もうそろそろ、アイツの声が聴きたい。と思っている。









その部屋のドアの向こうに、香の気配がする。
この2日、香は僚と顔を合わせるような時間帯には、この客間兼自分の部屋に籠城している。
僚は遠慮がちに、小さくノックをしてみる。
返事は無い。
暫く待ってみて、僚はドアを開けた。


そこに居たのは。
床に敷かれたラグの上にぺたんと座り、ベッドに突っ伏して転寝する相棒だった。


久し振りに警戒を解いた無防備な彼女を見た気がすると、僚は思う。
僚は香に触れたくて触れたくて、どうしようも無かった。
それはとても激しい衝動で。
気が付いたら眠りこけた香を、背中から抱き締めていた。
自分とは明らかに異なる、柔らかな躰は。
ただそれだけで、僚の心を満たす。


どれくらいの間、そうしていたんだったか。
腕の中の香が、もそもそと身じろぎをした。
小さな寝息を立てて脱力していた躰が、ピクリと強張る。
僚は香の背後から抱き締めて柔らかなクセ毛に顔を埋めていたけれど、
手に取るように、目を覚ました香の困惑が窺える。
思わず香の髪の毛に顔を埋めたまま、クスクスと笑ってしまう。






・・・くすぐったいょ、りょお。





僚は香の苦情には応えずに、抱き締める腕に力を込める。





ねぇ、何やってんの?離してよ。




それくらい自分で考えろよ、と僚は心の中で呟く。
この2日。
どれだけ俺が、この声を聞きたかったか。
理解しろと。




ねぇ、りょ・・・




それ以上、香の苦情が聞こえないように。
香の躰を反転させると、僚はその柔らかな唇を塞いだ。
これが欲しかったのだと、漸く気付く。
この数年間、目の前にあって手の届か無かった、この女が。


ベッドに背を預けた香が、自然と両腕を僚の腰に回す。
僚はキスを続けながら、満足げに目を細める。
お互いに、こうなる為に出逢ったのだと確信を深める。









この後、長いキスを終えて漸く離れた僚に。
香は当然ながら、ハンマーをお見舞いした。
真っ赤な顔をして、肩で息をしながら。


こんなんでうやむやにしようと思うんじゃないわよっっ


と言って、よろけながら客間を出て行ったけれど。
その口調に明らかなる愛情が込められている事に気が付いたのは、きっと。
これまでの2人の年月と絆の賜物であると、僚はハンマーの下で頬を緩めた。
多分、香は今頃。
キッチンでコーヒーを2人分淹れている。
いつものように、仲直りをする為に。













あぁ、またチュウ噺・・・
どんだけ好きなんだろうワタシ orz


意味深№6. 恋なんて面倒臭い

口説くのなんて面倒臭い。


お互いギブアンドテイクで割り切って、軽い感じで味見する。
束縛したり、干渉したり、詮索したり。
そんなの抜きでやれりゃあ、それがベスト。




お昼の少し前に起きだして、昼食を兼ねた朝食を食べる。
アメリカに居た頃は見た事も無かった納豆なんてものに、
小口切りした浅葱と醤油に辛子を垂らしてかき混ぜる。
相棒が急須に入れたお茶を、湯呑に注ぐ。
僚は日本にやって来て暫くは、ジャンクフードばかり食べていた。
ハンバーガーもピザもコーラも。
むしろ大味のかの国よりも、旨いと思った。
それがいつの頃からか。

炊き立ての白飯が旨いという事に、気が付いてしまった。相棒のお陰で。







女の子らしくするのが面倒臭い、というか照れ臭い。


子供の頃から、男の子との方が馬が合ったし、気楽だった。
気が付いたらすくすくと身長ばっかり伸びて、髪の毛もクルンクルンの天パだし。
モテ期は高校生の頃、相手は全員、女の子だった。




まるで糸の切れた凧のように、相棒の出て行った午後のリビングで。
香はテレビの情報番組をBGMに、洗濯物を畳む。
朝一番にベランダに干して、夕方前には取り込む。
自分のパジャマ上下、靴下、タンクトップにチノパン。下着はいつも自分の部屋に干している。
僚のTシャツに、ジーンズ。ボクサーパンツ、靴下、トレーナー。
タオルが2枚と、バスタオル2枚。
香は何の疑問を抱く事も無く、僚のボクサーパンツを畳む。
多分、パートナーだから。
それはきっと、ごく普通の生活で。

たとえ殺し屋とその相棒だろうが、毎日パンツを洗うし、ご飯も食べる。








自分の感情に向き合うのが、面倒臭い。


アイツはこの国に来て初めて出来た親友の、この世で一番の宝物で。
いつの間にか、そこそこ裏の世界にも名の知れたトラップの使い手になっていて。
けれどそれ以上に有名なのが、
“あの”冴羽僚をハンマー1つで転がしている恐ろしい女って噂で。
そして、僚がこの世で唯一手を出せない、最愛のパートナー。






ナンパの合間に、公園のベンチで一服する。
僚は手の中の赤と白のソフトパッケージを弄びながら、ぼんやりと考える。
昔は1日に数箱、吸っていた。
僚の相棒は、妙に真面目なので。
コンビを組んだ最初の頃に、何処でも構わず吸殻を踏み消す僚に。
携帯灰皿を持たせた。
初めの内は、ポケットに入れたまま使いもしない僚だったけど。
気が付くと最近では、その小さな丸い缶が無いと落ち着かない。
喫煙が禁止されている場所で吸う事も、相棒はイイ顔をしないので。
自然と最近の僚の煙草の本数も、減少傾向だ。
別に、そんなに律儀に相方の言う通りにしなくてもイイのだろうケド。

何故だか僚は、気が付くと香の言う事を聞いている。










恋愛感情に振り回されるのが面倒臭い。


香の片思いの恋の相手は、捻くれ者の相棒で。
いつだって香は、自分ばかりが空回りしてバカみたいだと思う。
香は気が付くと、いつも僚の事を目で追っているのに。
僚がいつも鼻の下を伸ばすのは、自分とは真逆の美人ばかりで。
香はいつも、自分の感情を見て見ぬ振りする事に決めている。





夕方、冷蔵庫の中身を確認しながら、バランスを考えて献立を決めてゆく。
僚はどうせ、質より量だから。
香は概ね、自分の食べたいモノを作る。
冷凍していた鶏のもも肉を解凍して、ジャガイモを茹でる。
お米を研いで、暫く水を吸わせる為に放置しておく。
中華鍋に油を温める。
少しづつ使いかけた根菜類を乱切りにする。
3つあるコンロを全て使って、同時進行で数品作ってゆく。










僚が6階の階段を昇り切る手前で、醤油を煮詰めたような甘辛い薫りが漂って来る。
僚は多分、子供の頃に出来なかった体験を、今改めて準えている。
まるで、外で存分に遊んで帰ったお腹を空かせた少年のように。
僚はこの何とも言えない、匂いが好きだ。
キッチンには、香が居て。
もうすぐご飯が出来上がる。
鶏の唐揚げ。
ポテトサラダ。
筑前煮。
オクラのオカカ和え。
玉葱と豆腐の味噌汁。
それは全て、僚の好物で。
僚は無意識に、頬を緩める。






おかえり。


ただいま。


手ぇ洗っておいで。







別に、律儀に相方の言う事を聞く必要も無いんだろうけれど。
僚は返事もせずに、洗面所へと手を洗いに行く。
他人と生活するなんて面倒臭い。
悶々と悩むなんて面倒臭い。
相方の機嫌を窺うなんて面倒臭い。
干渉されるのが面倒臭い。





だけど、いつの間にか。
それが当たり前になっていて。
今は多分、それ無しには日常生活が酷く味気無い。
かのドイツを代表する文豪、劇作家でもあり詩人でもあるゲーテはこう述べた。




“ただ幸福の掴み方を学べばよい。幸福はいつも目の前にあるのだ。”



面倒臭くない色恋沙汰にしか興味の無かった頃には、きっと。
僚は目の前の幸福になど、気が付きもしなかっただろう。











人と関わる事の面倒を避けては、
人と関わる喜びも見いだせないのだと思います。

意味深№7. いっそ俺のになっちゃえば 

はい、どうぞ。



夕飯を終えて、僚がリビングで新聞を広げていると。
いつものように香がコーヒーを運んで来た。
けれど、いつもと違うのは。
トレーの上の小皿、2つ。
シナモンの薫りが、ふわりと漂う。

アップルパイ。

ツノが立つ固さにホイップされた生クリームが添えられていて、
香のマグカップのコーヒーにも、同じモノが浮かんでいる。
こいつを泡立てていたから、いつもより時間が掛かったらしい。




「・・・なにこれ?今日って何かの日だっけ?」


僚も僚で、別にスルーすれば良いのだろうケド、思わずデザートのワケを訊ねる。



「別に、何の日でも無いケド。ミックが持って来てくれたの♪」


何の他意も無い香の無邪気な笑顔に、僚は無性にムカつく。
そのままアップルパイには手を付けず、濃いブラックコーヒーを啜る。
新聞を読んでいるフリの僚に、構わず香は昼間のミックとの遣り取りを報告する。


先週、取材旅行でアイツが九州に出掛けていた事。
九州名物だとかいう、柚子胡椒と高菜漬けを持って来て。
ついでに今日のこの、アップルパイは。
出版社の帰りにたまたま立ち寄った、人気の洋菓子店のモノらしい。
ミックから聞いたという温泉やら、郷土料理やら、観光スポットやらの話しが。
途切れる事無く連綿と、香の口から紡がれる。
生まれてこの方、東京暮らしの香にとって。
その土産話しが至極、魅力的かつ楽しかっただろう事は否めない。
しかし。
僚は面白くない。
そもそも、


いい歳をしたオッサンが。
女子に人気の洋菓子店で、
たまたまスイーツを購入する用事って何だよと、僚は眉間に皺を寄せる。


一連の香のこの報告。
百歩譲って、まぁ柚子胡椒と高菜漬けは良しとしよう。
今日の晩ご飯のメニューの1つ、
小松菜のお浸しは柚子の風味とピリッとした辛みが効いていた。
まぁ、あれは旨かったし。と、僚は思い返す。
だから、問題は。
アップルパイである。


どうやら香は、ミックの一連の行動に於ける下心というモノを、一切理解していない。
九州土産を渡すのに、どうしてスイーツ持参で僚の留守を狙ってやって来る必要があるのか。
僚には解ってしまうのだ。
ある意味では同類のあの男が、ちまちまと香に貢いで点数を稼いでいる心情が。
そこの所を、どう考えているのか。
僚は香に徹底的に問い質してみたい気もするが、
何でそんな事を問いたいのか、という問題に論点がずれると非常に厄介なので、
仕方無くコーヒーと共に、苛立ちを飲み込む。





「・・・ょお?・・ねぇ、りょお???聞いてる?」



僚がふと我に返ると、楽し気な香がニコニコしながら顔を覗き込んでいる。
香は僚の気も知らず、いつだって脳天気で。無邪気で、無防備だ。
途端に僚の腹の底に、真っ黒でドロドロとした得体の知れない感情が渦巻き始める。





ッチ、・・・っるせぇんだよ。

え?何?りょお、どうしたの???




キョトンと首を傾げる香に、僚がニヤリと口端を持ち上げる。
香はその事には気付かずに、ただ何やら僚が怒っているらしいという事だけは察知した。
一体、何が気に入らないんだろう?
コーヒーが苦すぎたかも、とか。
新聞読んでる時に煩かったかな、とか。
香は咄嗟に色々と思い巡らすが、全て悉く見当外れだった。






お前さぁ、あのバカ天使にチヤホヤされた位で、浮かれてんじゃねぇぞ。

はぁ??どういう意味?

あのバカはな、生物学上女なら誰でもイイの。甘いモン貰ったぐらいで、デレデレすんなよ。

・・・・。

大体、男に免疫の無い奴ぁ、上手い事おだてられて騙されるんだよ、油断してると。








僚の言葉に香は黙り込んで、俯く。
僚は時々、とても意地悪で。
こういう時、いつも香は沢山言い返したい事があるのに、ひとつも言葉にならない。
喉の奥が強張って、カッと熱くなる。
鼻の奥にツンと、涙が沁みる。
気を緩めたら悔しくて泣いてしまいそうだから、唇を噛み締めて我慢する。
僚はもう既に言葉を投げ掛けながら、香を傷付けた事を後悔しているけれど、
なかなか中断できずに、香を追い込む。




・・・僚はっっ



香が強気に僚を見据えたけれど、それはホンの一瞬の事で。
次の瞬間、今にも泣きそうな表情でとても頼りない小さな声で、言葉を繋ぐ。



どうして・・そんな意地・・悪ばっか・・・







香を傷付けながら、僚の胸にも痛みが走る。
自分の手で泣かせて、それでいて思い切り甘やかしたくなる。
まるで猛獣が自分より小さな生き物を、甚振るように。
華奢な手首をきつく握って、ソファに浅く腰掛けた香を、強く背凭れに押し付ける。
強引に唇を奪う。
他の男と楽し気に喋った唇。
他の男の話しをする唇。
他の男を誘惑する唇。
それは全部、俺のモノだと思い知らせる。


僚の胸板の下で、香が抵抗する。
理不尽な意地悪の末の、理不尽なキスに僚の舌先が侵入する事を頑なに拒む。


けれど。
こんな時でも、僚の手は優しくて。
強引な口付をしながら、香の頬や癖毛を愛おしげに弄ぶ。
徐々に、香の躰から力が抜ける。
香の頬に、先程から堪えていた涙が一筋伝う。


僚は、解っているのだ。
どんなに口付ても、どんなに抱き合っても。
どんなに好きで好きでどうしようもなくても。
誰にも誰かを縛る事など、出来はしないと。
頭ではきっと理解していても、薄い皮膚を1枚隔てて別の人間だと思い知らされる度に。
もっともっともっともっともっと、
際限無く求めてしまう。

いつも気が付くと、香の事をきつく抱き締めてしまうのだ。
そしていつの間にか、香も僚を抱き締め返す。
今ではもう舌を絡め合って求め合う唇を、ゆっくりと離す。
香の明るい茶色の瞳に、僚が映る。
別々の混ざり合えない者同士。
だからこそ、惹かれ合う。
何度も確認してしまう。
俺はお前のもので、お前は俺のもの。
香のコメカミに鼻面を埋めて、僚が呟く。





・・・カオリン、これってさ。意地悪じゃ無くて、嫉妬っていうの。















ちょっと、強引なチウを目指してみました。

意味深№8. もしかして、口説いてるの?

大体、僚はずるいと思う。







香は午後のまだ日が高い時間に、浴室のタイルを磨きながら考える。
水回りの掃除は日頃から、特に念入りにやっているので、
冴羽家の浴室は、タイルの目地まで真っ白だ。
水回りが汚れていると運気が下がると、香に教えてくれたのは兄の秀幸だ。
何の根拠も無いけれど、香はその兄の言葉を頑なに信じている。
だから、もしかしたら。
こんな世界に身を置きながら、自分も僚もいつも平穏無事でいられるのは。
その効果かもしれないと、香は密かに思っている。


蛇口の周りは、定期的に水垢取り用の洗剤を使う。
蛇口やシャワーホースの周りの金具に塗布して、その間にタイルを磨く。
暫くして水を掛ければ、くすんでいた金具は一気にピカピカと輝きを取り戻す。
多分、僚はそんな細部にまで気が付く事は無いだろうから。
だから、香が日常の炊事掃除洗濯に潔癖なまでに、手を抜かないのは。
それはただ単なる、香の自己満足だ。
家事はやったらやっただけ、成果が目に見える。
香は基本的にそういう解り易い事が、大好きだ。


香の苦手な事は。


突然予告も無しに、僚に押し倒されたり。
一応自分なりに、一日の予定というモノがあるにも拘らず、僚に寝室に連行されたり。
僚がわざとらしく、香に恥ずかしい言葉を言ったり、言わせたり。
そう言った類の事柄だ。
この前だって。




香が何の気なしに、ミックから聞いた色んな話しをしていただけで、
僚は超不機嫌になったと思ったら、
次の瞬間には、ソファに香を押し付けて強引にキスをしてきた。










勿論、香は僚の事が大好きなのには間違いは無いケド。
だから、キスもエッチも勿論、嫌なワケじゃ全然無いケド。
でも。
TPOというモノはあるんじゃないかと思うワケで。
それを幾ら僚に説明をしたところで、僚はいつだってウンウンと頷きながら軽くスルーする。



“うん、そぉだね。じゃあ、そこん所ベッドの上で、じぃっくり話し合おうか。”とか。

“カオリンッッ、今はそれ以上に重要な件があるんだっっ!!相棒として。”  とか。

“ダメだ・・・香。早急に、やらなきゃいけない事があるんだッッ(ベッドの中で)”とか。


最終的に、香はいつも散々啼かされて、翻弄されて、クタクタになってハタと気が付くのだ。
今日もまた、僚の術中に嵌ったと。
僚はずるい。
僚は香が僚の事を大好きだって解っていて、絶対に断れないような状況に追い込んで仕掛けてくる。
香はいつだって、心の中で。
またやられたぁ~~~、と思いながらも僚を許してしまう。
好きだから。
それでも。





「なんか、納得いかない。」




香の独り言は、思いの外浴室内に大きく響く。
いつだって。
ドキドキして仕方のないのは、香の方で。
僚はいつも、余裕綽綽で香を翻弄する。
香は泡だらけのスポンジを握り締めて、
どうしたらいつも香が味わっている感情を、僚に思い知らせる事が出来るだろうと思いを巡らす。
偶には僚を焦らせたり、困惑させたり、困らせてみたい。
香はニヤリと、口元を緩める。


(・・・仕返ししてやろうじゃないの、目には目をよ!!)














香がお風呂掃除を終えて、リビングへ戻ると、
さっきまではナンパに出掛けて不在だった僚が、帰っていた。
だからと言って、何をするでも無く。
ゴロゴロして愛読書を読んでいる。




あら帰ってたの、おかえり。





そう言って登場した相棒は、
超短いデニムのショートパンツに、ライムグリーンのパイル地のホルタ―ネックを着ている。
布地の面積は非常に小さい、真夏日仕様だ。
まだ梅雨も明けきらない初夏だというのに、太陽よりも眩しいのはパートナーだと、僚は思う。
昨夜も、今朝の明け方も、2人は仲良く盛り上がった。
それでも僚はまた、イチャイチャしたいなーなどと考えている。
まるで、腹ペコの狼である。






目の前の相方が、自分の事をどんな風に見ているのか。
その点に於いて最も疎いのが、槇村香の槇村香たる所以だ。




まさか僚が。
己の真夏日仕様を目の当たりにして、
ムラムラと下心を再燃させているなどとは微塵も疑う事無く、
香は香で、先程の浴室での企みを思い返す。
自分が日頃、散々不意打ちのセクハラを受けているそのままを、
僚にやり返してやろうというモノだ。


題して、『カオリンの目には目を歯には歯を攻撃』である。






とても世界一の呼び声高い凄腕スイーパーとは思えないような、
ボッサリとした目の前の相方に、香はニヤリとほくそ笑む。
次の瞬間。
ソファの上に胡坐をかいて香の方を向いている僚に、香が突進する。
僚が呆けている隙に、軽く触れるだけのキスをして、すぐにまた離れる。





「えへへ、いっつも僚にやられっぱなしだから、仕返しだよぉだっっ」



香はそう言って悪戯っぽい笑顔を残すと、クルリと踵を返してキッチンへと逃げ込んだ。
初めは不意を突かれて呆けていた僚も、すぐにニヤリと笑う。
この時の僚が、香とは比較にはならない程の企み笑顔を浮かべていた事など、香は知る由も無い。
香はまんまと、導火線に火を点けたのだ。
こんな美味しいお誘いに、冴羽僚が乗らないワケは決して無いのだ。



(・・・嗚呼、カオリン。それって、もしかしたらオレの事、口説いてる???)



僚は軽やかに香の後を追う。
キッチンの手前で、小鹿のようなしなやかな獲物を捕獲する。
その喉元に喰らい付き、真っ赤な印を残す。
キャイキャイと抵抗する躰を軽々と抱き上げて、ベッドへ運ぶ。
いつものペースで事を運ぶ。



翻弄する。
堪能する。
染め上げる。
突き動かす。
駆け上がる。
解き放つ。
















・・・やっぱり、納得いかない。




グッタリと俯せて枕に顔を埋めた相棒が、くぐもった声で呟く。
僚は喉の奥で小さく、ククッと笑う。
香はそもそも、解っていない。
この件に関して。
『仕返し』は僚にとっては、仕返しには成り得ない。
それはただ単に、2人のイチャイチャタイムへの素敵なお誘いに過ぎないのだ。




「・・・おまぁ、やっぱ。最強の相棒だわ。」





僚はそう言って笑いながら、
西日の差し込む寝室のベッドの上で、香のシミ1つない真っ白な背中に口付けを落とす。














カオリン、玉砕。

意味深№10. いま、好きって聞こえた

・・・クソ暑い。











公園の日陰のベンチに佇み、僚は左手の中のソフトパッケージを弄んでいた。
右手の中には、鈍く光る純銀製のジッポーライター。
こうも暑いと、手と顔の至近距離に熱源を発生させるかどうかですら、軽く躊躇ってしまう。
躊躇って僚は、手の中の嗜好品をジャケットの胸ポケットに仕舞う。
こんな猛暑日の炎天下に、汗だくでいるぐらいならいっそ。
サッサと家に帰ればイイのだろうけど。
まだ、日課のナンパに出てから、さほど時間は経ってない。
もっとも、ナンパしようにも御誂え向きの獲物はいないし、本気で狩る気も無い。


僚はせめて。
脳内だけでも涼しげにと、小一時間ほど前の相棒の姿を思い返す。


昼飯は素麺だった。
ガラスの器には氷水が張られ、キンキンに冷えた白い素麺が揺蕩う。
香は僚の使う蕎麦猪口に、鰹出汁の効いた麺つゆと大きなロックアイスを入れてくれた。
その中に沢山の浅葱と、すりおろした生姜。
冷たい麦茶。
冷たい素麺のツルリとした喉越し。
屋外よりかは幾分涼しい、扇風機が送り込む風。
キャミソールの上に極薄手の麻のシャツを、サラリと羽織った香。






脳内の涼感溢れる追想とは裏腹に、僚のコメカミに汗が流れる。
僚は少しだけ、我が家が恋しくなる。
香はエアコンを極力使わない主義なので、決して快適とは言えないけれど。
少なくとも、このベンチの上よりはマシである。
何より暑苦しいのが、この耳障りな蝉の大合唱。
こんな大都会の真ん中の煤けたような公園の、
何処にそんな野生の生き物がいたのかと思うほど、鳴き喚いている。










・・・・そろそろ帰るか。






誰に言うともなくそう呟いて、立ち上がりかけて僚は思い直す。
その直後、背後に見知った気配がふわりと訪れる。
それと同時に、僚の首筋にそっと当てられる暴力的なまでに冷たいアルミ缶の感触。
僚の口元が無意識に綻ぶ。






良ぉっくこんな暑い中、ボンヤリ出来るわねぇ。





そう言って、僚の後ろをとるのは槇村香。
手には、期間限定増量サイズのコカ・コーラの缶を2本持って(1本は僚に押し当てている)、
にこやかに笑う。
僚にはそれだけで、体感温度が幾分下がった気がする。






ボンヤリはしてねぇさ、モッコリ美女をお誘いする作戦立ててたっつーの。





僚はそう言って、香の手からコカ・コーラ増量サイズを受け取る。
ついでに香の分もさり気なく取り上げると、プルタブを開けて香に渡す。
僚は何故だか、どんな時でも。
缶入りの飲み物を2人で飲む時に、香の分のプルタブを開けてくれる。
それは多分、無意識の所作で。
香は密かに、その僚の優しさが大好きだったりする。
少しだけ照れながら、ありがと。と、口の中でもごもごとお礼を言って、
勢いよく初めのひと口を飲む。
冷たくて、シュワシュワしてて、香は普段炭酸飲料は飲まないけれど。
真夏の増量サイズのコーラだけは、何故だか別格だ。








で?依頼は有ったの?




僚がゴクゴクと一気に半分ほど飲んで、盛大にゲップをした後にそう訊ねた。
この時間に香がこんな所にいるのは、伝言板を見に行った帰りだと相場は決まっている。
香は一瞬だけ、薄っすらと眉を潜める。
けれど、僚のゲップなど今更なので、別段気にもしない。
香は誰もが見惚れてしまうような涼しげな微笑みで、首を横に振る。





うぅん、無かった。これで、前回の依頼から96日連続で、依頼無し。




言葉の内容とギャップの有り過ぎる穏やかな表情で、香はコクリとコーラを飲んだ。
僚は思わず、それに合わせて上下する白い喉元を凝視してしまう。
以前の香なら。
こんなにも落ち着いて余裕のある表情など、僚に見せただろうか。
これもひとえに。
ここ数ケ月に及ぶ、2人の新たなるパートナーシップに関する変化の表れかもしれない。
2人には、仕事も大事だけれど。



仕事の無い日には、もっと大事なスキンシップとかがあったりして、意外と忙しいのだ。

















2人並んでベンチに座って、冷たいモノで涼んだところでそのベンチを後にした。
都会の中で、少しだけ暑さを和らげる樹木の織り成す日陰の下を並んで歩く。
それでも、聴覚から熱さを感じ取る。











ったく、暑苦しい事この上無いなぁ、この蝉の声。






心底イヤそうな僚の声色に、香はクスリと笑う。
何か良い事でも思い付いたとでも言いたげに、ニッコリと笑う。










でもさぁ、この鳴き声って、オスがメスにアピールする為に鳴いてるんでしょ?


んぁ???・・・まぁ、そうだろうな。大概そんなもんだろ、虫なんて。
なんか、そう考えると、尚更暑苦しいな(苦笑)


ププッ、それ僚が言う?蝉の事言えないよ?


・・・・・・。


でもね、そう考えるとさぁ、あれって何か・・・







その後の香の言葉に、僚は一刻も早く家に帰って寝室を23度に冷やし、
2人の大切な親睦を深める為の、パートナーシップ及びスキンシップに勤しむ事に決めた。






好き好き好きって、言ってるように聞こえない?




僚の相棒は無邪気だ。
この猛暑日に、一番暑苦しいのは自分の恋人だという事に気が付かない。
いつだって新鮮に無意識に、好き好き好きって訴える。
その瞳や唇が。
僚は香の細い腰に手を廻し、蝉時雨の中でキスをする。
突然のコーラ味の口付けに、香は真っ赤になって硬直する。
真っ赤に染まった耳元に、僚は厭らしい笑みを浮かべて囁いた。






・・・俺には、モッコリしたいモッコリしたいモッコリしたいって、聞こえた。


・・・・ばか/////




猛暑日のコンクリートジャングルは、また一層熱を帯びてゆく。












暑いので、思わずこんなお話しを・・・
原作で、『お嬢さんにパイソンを!』という女子大生探偵の出て来るお話しがありますが、
このお話しの中で、ワタシが最も萌えるポイントは。
リョウちゃんとカオリンが公園で、依頼の事を話しているシーン。
リョウちゃんがカオリンに、ジュースのプルタブを開けて手渡しているシーンだったりします。
冴羽僚、意外と優しい男だったり致します。
てか、イチャついてんじゃん!!!この時既にっっ。と、思ったりして。

意味深№9 この気持ちは言葉に出来ないよ

真夏の日差しの中を歩いて帰って来て香は、まず1番にベランダへと向かった。
朝の内に洗濯して干しておいた自分と相方の普段着を取り込む為だ。







真夏の日差しの数少ない長所は、洗濯物が良く乾くという事だけだ。
だけだけど、それはこの2人の愛の生活に於ける重要度としては、
なかなかの高位置をマークしている。
シーツが良く乾くという事は、即ち快適な性活の為への第一歩である。
帰宅して真っ先に、リビングの先のベランダへと向かった香だが、
一緒に帰って来たはずのモッコリ馬鹿は、何やら真っ先に寝室へと上がって行った。







別に示し合わせたワケでも無いのに、
伝言板の確認を終えて何となく向かった先の公園に、僚は居た。
半分溶けかかったチョコバーのように、ベンチでボンヤリとする僚の後ろをとって、
冷たい炭酸飲料で、奇襲を仕掛ける。
けれど最終的に、イニシアチブを握るのはいつだって僚で。
蝉時雨に包まれながらのキスで、
まるで溶けかかったアイスクリームのようになってしまったのは、いつもの如く、香だ。
その後、2人で手を繋いで帰って来た。


漸く最近、そんな風に恋人同士みたいに振舞う事に慣れて来た。
それでも、甘い言葉を紡ぐことが極端に苦手な2人だから、
そういう時は専ら、スキンシップとボディランゲージが大活躍する。
公園でのキスを思い返してクスリと笑いながら、
裏返しで干された僚のジーンズに香の手が届くより、一瞬早く。
何故だか上半身裸の僚に、背中から抱き竦められる。






暑いょ、りょお。





香の抗議はアッサリとスルーして、僚は香の外耳を優しく食む。
囁くように掠れた声で、香を誘う。




なら、シャワー浴びようか? 汗を流したらスッキリするぞっっ




暑苦しいのは外気温ばかりでなく、代謝熱を放つ大胸筋だったりするのだけど、
当の本人は至って涼しげな顔をして、そんな事をのたまう。






・・・1人で浴びて来たら??私、今から洗濯物取り込まなきゃだし。


そんなん、後でもイイよっっ  まずはシャワーでしょ?


良くないっっ!! 乾いてる内に早く取り込みたいの!!


まぁまぁ、香チャン。今、乾いてんなら1時間後でも2時間後でも乾いてるから。


・・・何時間シャワー浴びるつもりよ・・・










香の抗議を軽くいなして、今朝干されたばかりのベージュのバスタオルに手を伸ばすと、
それと一続きの流れで、あっという間に僚は香を抱き上げた。






さぁっっ お風呂場行きましょねぇ~~~~~♪♪♪













結局、汗を流すはずのバスルームで2人は。
更に体温を上げ、汗を掻き、最終的に遠回りして汗を流した。
バスルームからまた更に、寝室へと僚に抱えられ連れ込まれた香は、
この時漸く、僚が帰宅後真っ直ぐに寝室へと向かった真意を知る事となる。
外気温36度、猛暑日。
寝室は23度に冷やされ、素肌に当たるピマコットンのシーツ(香が選んだお気に入りだ)が、
サラサラとして気持ちイイ。
僚の行動は唐突だったり、一見、何の計画性も無いように見えるけれど、
実はいつだって、計算ずくで動いていたりする。

特に下半身の指令には、見事に忠実だ。



香は思わず、吹き出してしまう。
昼間っから、この目の前の相方は。
こうして自分とイチャイチャしようと目論んで、着々と準備していたのかと。






なんで、笑ってんのよ?カオリン。





そんな香を僚は優しく組み敷いて両腕の中に囲いながら、訊ねる。
僚はどんな時でも、香のリアクションが最も重要で、香はそんな事は知る由も無い。





ん~?・・・随分、用意周到だなぁと思って。





香が甘ったるい笑みを含んだ声音で囁く。
僚は甘いモノは特に好きでは無いけれど、香だけは別腹だ。





そりゃ、




僚の唇は、甘くて艶やかな香の紅い唇に軽く触れながら、もぞもぞと動く。
乾いた僚の唇の感触と、思いの外熱い僚の吐息が香を擽る。





美味しいモンを喰う為には、まずは下拵えが肝心だからな。







そう言うと、口付は途端に深くなる。
そこから先は2人とも、行動で気持ちを通わす。
せっかくサッパリと汗を洗い流した乾いた皮膚に、また新たな水分が滲む。
僚が起床した後の昼前に、新しく敷いたシーツに複雑な皺が寄る。
時間も忘れてしまうほど、2人は没頭する。



















・・・あぁ、洗濯物がぁ・・・




羽毛の詰まった柔らかな枕に、ポフっと顔を沈めながら香が小さく呟く。
もう、昼とも言えない微妙な時間。
確かにさっき、外から帰って来た時には晴天だったのに。
今現在、どうやら外は土砂降りだ。
夏特有の激しい夕立はきっと、ベランダの庇の中にも容赦無く降り注いでいるに違いない。
1時間後も2時間後も確かに、乾いていた洗濯物は。
3時間半後、また濡れた。





俯せになった香のまろやかな背中の曲線を、僚は満足げに撫でながら煙草を吸う。
ベッドの上で吸うなとか、洗濯物をどうしてくれようとか。
言いたい事は山ほどあるけれど、
僚の乾いて熱い掌の感触が、香の言葉を全て呑み込んでしまう。
そんな事は、些末な事だ。
もう、これだけの土砂降りならどうせ。
洗濯物は全滅だし、それに。


横目でチラリと見遣った視線の先の相方は、壮絶な色気を垂れ流して香を甘やかす。
香は他人の煙草のケムリは嫌いだけれど、
僚が吐き出す芳ばしい薫りは大好きだったりする。
もう今から晩ご飯の準備をしようにも、いつもより取り掛かりは随分遅い。





濡れてるな、洗濯もん。





僚はベッドサイドの灰皿に煙草を押し付けて消すと、香の背中にふわりと覆い被さる。
呑気に呟いて、キツク肩甲骨のすぐ傍に吸い付いて、痕を残す。
香の白い背中に、まるで鮮やかなタトゥのような赤い印が残る。
香は僚に囲われた腕の中で、クルリと躰を反転させる。





だからあの時、取り込もうって言ったじゃない。りょおのバカ。





口では憎まれ口を言いながら、裏腹に。
香の華奢な両腕は僚の首に巻き付けられて、潤んだ瞳は僚を誘う。





・・・責任とって?





そう言って見上げる香に、僚はニヤリと笑う。
この場合、
洗濯のやり直しを迫られているのか、行為の続きを迫られているのか、その両方か。
香は普段、小出しに甘えるのは苦手なクセして、
こうしていきなり、僚の本能を直撃するように全力で甘える。
たったのひと言で。





仰せのままに、まずは如何致しましょう?





ふざけて耳元で囁く僚に香もクスクス笑う。
僚はセックスは勿論好きだけど、それ以上に香のこの笑った顔が好きだ。










じゃあ、チュウして?  それから、


・・・それから?


晩ご飯、りょおが作って♪


何が喰いたい?


・・・チャーハン。


お安い御用で。







香は僚の作るパラパラのチャーハンが大好物だ。
窓の外は未だ、激しい雷雨が打ち付けている。
ベッドルームは、薄暗い。
取敢えず、洗濯物を回収する前の、チャーハンを作る前の。

目の前のスキンシップに、もう一度没頭する事にして、
2人はまたシーツの波間に漂う。



洗濯物よりも、ご飯の支度よりも、
こうして2人ベッドの上で汗を流す方が好きだなんて言えるほど、
香はまだこの関係には慣れてはいないケド、言えない気持ちは躰で伝える。
それが2人のやり方だから。














微妙に、この前の続き。
『意味深な台詞で10のお題』制覇ですっっ