Searching

30000Hits Req. Vol.4 ケシ meets さえ















依頼は、何の変哲も無い美女のボディーガードだった。


依頼人はとある犯罪組織に命を狙われており、僚と香に課せられた任務は彼女の警護と組織の壊滅。
とは言え、裏の世界にその名を轟かせる“シティーハンター”ならば、
特段、難しい依頼というワケでは無い。


彼女の周りに張り付いて、奴らの矢面に立つ。
逆情報を流して、餌を撒いて誘き出す。
舞台は全てセッティングを完了しており、ノコノコ現れるゴミ共を一斉に始末する。
僚が青写真を描き、香が忠実に再現する。
僚がこの世で1位2位を争う腕利きの殺し屋ならば、その相棒たる香は、
トラップの名手・海坊主の1番弟子なのだ。
多少、手荒な真似は承知で依頼人を餌に奴らを誘き出す。
しかしそれも想定の範囲内の計算ずくの計画だった。



開発途中の埋立地は、そんな奴らを一網打尽にするには御誂え向きな立地で、
僚と香が、戦略と腕で勝負するならば。
奴らは人数で、それに対抗する。
もっとも、香の手によるトラップはそんな奴らの中でも、雑魚は簡単にふるいにかける。


それは僚にとって、恐らくは初めての事だった。


通常運転の僚は、コルト・パイソン一丁で敵に切り込む。
そして香は、バズーカなどの銃火器を駆使し奴らを効果的に罠に追い込むべく誘導する。
嘗てはそれらを使っても、あさっての見当違いな方向に砲弾を撃ち込んでいた香も今では慣れたモノで。
僚は無意識のうちに、香の援護に全幅の信頼を寄せていた。
けれどそれを実践で、まざまざと自覚させられたのは。
恐らくそれが最初の事だっただろう。



香はあくまで援護で。
矢面で敵と対峙するのは、僚の役目だった。
僚としては、幾ら相棒だと言え香を無駄に危険に晒す事など、やはり本意では無い。
けれどそれは、単なる僚の思惑で。
当の香は、自分がどう動けばもっとも僚の援護になるのかしか、頭には無かったのだ。
自分の少し後方、敵からは姿が見えないように援護していた筈の香が。
意表を突いて、全く違うポイントから対戦車ロケット弾を発射した時。
虚を突かれたのは、奴らだけでは無かった。
結構な位置まで気配を殺し奴らに近付き、的確に十数人は戦闘不能にする。
残るは僚の目の前の、組織の中心人物のみとなった。
そうなれば、一瞬で片は付いた。
後始末は、冴子に一任するだけだ。



最後の1人を確実に仕留めて、僚は頼もしき相棒へと視線を走らせる。
随分離れた位置、殆ど僚と対面するような場所に佇む香と瞬時に視線が絡まる。
いつの間にか、師匠譲りの的確で絶妙な援護射撃を繰り出すまでに、香は成長していた。
すぐに僚は、依頼人の無事を確認する事に意識を切り替える。
気丈な依頼人に、飄々と冗談交じりに声を掛けながら、
僚の脳裏には香の強い眼差しが、真夏の太陽光線のようにこびり付く。
何度も過る。
何も知らない無垢な“相棒”の妹の筈が、本当の意味で相棒になったと僚が自覚した始まりだった。











大暴れを終えた帰りの車中は、重苦しい空気に包まれていた。
運転席の僚と、助手席の香にひと言も言葉は無い。
いつもならどこまでが冗談か本当かも解らないほど、軽口を叩き合っている2人の重苦しい沈黙に、
後部座席の依頼人も、自然と黙り込む。
だから、現場からは先にアパートへと立ち寄った方が、道順がスムーズだと思ったのは。
もしかしたら、僚の逃避の一端だったのかもしれない。
アパートのガレージに香と銃火器類を一旦降ろして、その足で僚は依頼人を送り届ける事にした。
いつもなら鼻の下を伸ばしていると勘繰った香に、制裁を加えられる場面だけど、
香もすんなりと頷いた。
これまでも何度も。
2人の関係が目に見えない変化を遂げる時には、僚も香も1人の時間をお互いに尊重して来た。
僚は大抵、香をこのまま自分の手元に置いておくか、別の道を歩ませるかの葛藤を抱え。
香は大抵、自分の不甲斐無さを激しく責めた。
けれど今の2人には、以前と確実に違う事がある。


奥多摩の湖の畔で、一緒に生き抜くと心に誓ったから。









香は射撃場の奥の武器庫に、己のもう1つの相方を仕舞う。
この部屋は僚の匂いがする。
火薬とガンオイルの匂い。


香の心を、これまで支えてきたものはきっと。
僚に認められたいというその一心だった。
元相棒の妹でも無く。
足手纏いのお荷物でも無く。
他の誰でも無く、槇村香という1人の人間を。
死んでも香は、僚の味方なんだという事を。







武器庫の扉が静かに開いた。
取り留めもない思考の渦の只中を彷徨っていた香の前に、僚が戻って来た。






ただいま。


おかえり、あら真面目に帰って来たんだ。


・・・なんか、如何にも俺がいつも真面目じゃないみたいな言い方じゃねぇか。






真面目じゃないじゃん、と言いながら香がクスクス笑う。
僚はいつも香の笑い声を聞くと、スッと肩の力が抜けるのを感じる。






家に帰り着くまでが、お仕事だからねぇ。


それ、全然説得力ないよ、りょお。


おまぁさぁ…






和やかな空気の中で、僚が突然真剣な表情をする。
一瞬、あの車内での重苦しい空気に舞い戻る。





急に、あんなやり方するなよ。ビビるじゃねぇかよ。




その僚の言葉で、香もどの事を指しているのか理解する。
そんな程度には、2人の間には余計な言葉は要らない。






あら、でもあれで少なくとも随分手間が省けた筈よ?


・・・・・・・まぁそりゃ、そうだけど。誰も、感謝してねぇとは言ってねぇけどよ。





眉を持ち上げて肩を竦める香に、僚はばつが悪そうに苦笑する。
依頼人を送り届けた後、僚は僚で1人の車内で色々と考えた。
香と生きてゆくと決めた筈なのに、この数ケ月未だに2人は宙ぶらりんの関係で。
ある意味それは、とても居心地が良過ぎて。
けれど時々こうして無性に、香の実体を、彼女が生きている確証を、
この腕に抱き締めて、確認したいという激しい気持ちが沸き起こる。
この居心地の良い繭の中から、羽化してしまいたいと切望する。
もうそんな気持ちに蓋をする理由など何処にも無い筈なのに、躊躇うのは多分。
これまでの悪いクセというヤツで。
僚をこれ程までに、用心深い打たれ弱い男にさせるのは、この世で槇村香ただ1人だ。





・・・怖ぇ、女(やつ)。


当たり前でしょ?アンタの相棒だもん。






そう言った香の笑顔は反則だ、と僚は思う。
香は槇村の目に入れても痛くない妹で、
全く色気もへったくれも無い男女で、
ケチでヤキモチ焼きで我儘なアシスタントで、極上のイイ女だと思う。
強気な瞳にいつも惹き付けられていた。
真っ直ぐな眼差しに、己の後ろ暗さを反省させられた。
そして、柔らかな笑顔に護られていた。












気が付くと香はいつの間にか、僚の腕に囲い込まれていた。
背中はひんやりとした戸棚のスチールの扉に押し付けられて、
香の顔の両横に僚が手をついて、僚の顔がすぐ目の前に有った。
これまで1番に近くで見る僚の顔からは、何を考えているのか読み取る事は難しかった。




りょ・・・




香の言葉は最後まで発する事無く、僚に飲み込まれた。
火薬と硝煙とガンオイルと煙草の匂いの初めてのキスは、
最も2人らしい気がすると、香は心の中で思っていた。
僚が更にその先へと、ふしだらに思いを馳せている事など微塵も思いもせずに。












リクエスト企画第4弾は、さえ様からのリクエストで。

Superflyさんの『Searching』という、曲のイメージで。との事でした。

歌詞の一部にある目の描写を表現して欲しいという事でした。

歌詞のままというワケではありませんが、曲を聴いた時に一番に思い浮かんだのは、

カオリンのしなやかな強さでした。

それを表す事が出来ればと思いながら書いてみました。

さえ様、如何でしょうか???

楽しんで戴けましたら幸いでございます m(_ _)m


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