kiss in…

30000Hits Req. Vol.3 ケシ meets 華



















依頼の帰り道のクーパーで。
車内のラジオが、ニュースの後道路情報を挟んで、夕方の番組に変わった。




秋と冬の境目の、湖のほとりで。
僚が香に告白してから、約5か月。
季節は冬を越えて、春になった。
あれから2人の関係に、大きな変化は無い。
まるであの嘘みたいなひと時が、本当に嘘だったように。
季節は過ぎた。


クリスマスは、いつものメンバーでキャッツに集まった。
いつもなら、それぞれ別々に過ごす聖夜を。
美樹の復帰祝いを兼ねて、伊集院夫妻、ミックとかずえ、そして僚と香で過ごした。
その前の年までの香は、クリスマスの日の僚を知らなかった。
後から考えると、あれはもしかして。
美樹の事などただの口実で。
悪友たちが仕組んだお節介の1つだったのかもしれないと、僚は思う。
そうでもしないと、多分僚は例年通りクリスマスを飲み屋でドンチャン騒ぎで過ごしただろうから。
けれど、2人には何の進展も無かった。


別に、僚は未だに香との未来に躊躇しているワケでは無い。
進展しても良かったとは思っている。
けれどその反面、焦る必要も無いだろうと思ったのだ。
その後にも、イベントは目白押しだった。
やれ初詣だの、やれバレンタインだの、ホワイトデイだの。
けれど、結局その全てのチャンスをモノにする事無く、あれから3件目の依頼がつい先ほど片付いた。


最近では、僚は少しだけ。
あの時の勢いを残してるうちのイベントシーズンを、無駄に過ごしてしまった事を後悔している。


香は相変わらず奥手で。
2人の今後に関して、どう考えているのかは不明だが。
少なくとも、僚のように愛情とは別の悶々とした“欲”など抱えてはいないだろう。
勿論、僚は香を愛している。
それは時に、相棒として、友達として、兄貴として、父親として、と様々に形を変える。
けれど、その根底にあるものは全て。
1人の男として、香を求めてるという事実だ。




早い話しが、もうそろそろ香と、モッコリしたいのだ。









僚はチラリと横目で、助手席の香を見遣る。
夕方の都会の道は、徐々に滞り始める。
無意識に煙草の本数の増えた僚に、香が窓を開けた。
4月の生温かい風は柔らかく、季節が変わった事を僚に告げる。
薄いピンク色のコットンの長袖シャツの下には、同系色のキャミソールを着ている。
胸元のボタンは無防備に、半分ほど開けている。
窓を開けたドアに頬杖をついて、ラジオから流れる音楽に合わせて香がハミングしている。
春の生温かい風が、僚の鼻腔に香の甘やかなシャンプーの匂いを届ける。
いきなり、モッコリはさすがに無いだろう。
せめてあの柔らかそうな唇に触れる。
まずは、それが第1番目の課題だ。






もう、温かいね。風が吹いても。





そう言って香がニッコリ笑う。
僚は言葉が出て来なくて、変わりに煙草を咥えた。
運転をしながら、まだ明るいこんな時間に。
僚は如何わしい願望が溢れて胸が一杯になりそうで、溺れそうだったのだ。
そんな僚にとっては、唯一、煙草だけが味方に思えた。
もっとも香は。
僚の返事など、初めから期待はしていないようで。
それは、限り無く独り言に近い呟きだったようだ。














・・・それでは、ペンネーム・華さんからのお悩みです。
 
 いつも楽しく番組を聴いてます。
 私には、付き合って5か月の彼がいます。
 彼は優しくて、とてもカッコ良く、私の事を大事にしてくれています。
 幸せな日々を過ごしているのですが、1つだけ彼に不安があるのです。
 付き合ってから未だ、何の進展も無いのです。
 私は彼にとって、魅力的に映っていないのかな?と不安に思います・・・・・
 
 ・・・・・・・・・・・・因みに、私は高校2年生です。











僚は何とはなしに耳を傾けたラジオから流れるお悩み相談に、火の点いた煙草を口から落とす所だった。
ついさっきまで、ただの最新ヒットチャートが流れる音楽番組だった筈のそれは。
いつの間にか、女性DJがズバッとお悩みに答える、
迷える女子(子羊)達の、お悩み相談コーナーへと変貌を遂げていた。
しかも、今日に限ってその相談内容は、まるで今の自分達にそっくりなピンポイントなお悩みで。
その上、相談者は高校生女子である。
片や車内のリスナー2人は、20代半ばと30代半ばのいい歳した男と女である。



何故だか僚は、それ以上その番組を聴いているのが怖くなってしまった。
小さく1つ咳払いをすると、短くなったマールボロを灰皿で揉み消した。
そして。
灰皿に手を伸ばしたついでに、ラジオのスイッチを切った。







あ。


ん?


聴いてたのに。


・・・・・。






僚は香の苦情には、聞こえないフリをした。
香の眉間に薄く小さな、縦ジワが寄る。





聴いてたんだよ?




香はもう一度そう言って、ラジオのスイッチに手を伸ばそうとした。
その時丁度、踏切に引っ掛かる。
そこは開かずの踏切として、有名である。
香の手がスイッチに届く寸前に、僚は無意識に香の手首を掴んだ。
一瞬、2人の視線が絡まる。



咄嗟の僚の行動に、香の目が真ん丸に見開かれる。
手首を掴む僚の手は温かいを通り越して、熱い。
車の外側では、踏切の警報機がけたたましい音を立てている。
少しだけオレンジ色に染まり始めた1日の終わりの太陽の光が、車内に入り込む。





/////どど、どうし…




香の言葉は、最後まで発する事無く僚の唇によって塞がれた。
香には一瞬何が起こったのか、解らなかった。
少しだけ間を置いて、
漸くそれが、柔らくて温かい少しだけ乾燥した煙草の匂いの、僚の唇だという事に気が付いた。
警報機の音と、遮断機の点滅、オレンジ色の世界が。



香にはまるで、夢のように思えた。


夢だったら目が覚めれば消えるから。
いつまでも覚めない夢なら良いのにと、心からそう思った。
あの秋の日の湖で。
僚が告白してくれた事は、まるで嘘のような出来事だった。
本当にあった事なのかどうか。
僚の言葉を信じていいのかどうか。
この数ケ月、香には確認する勇気が無かった。



だけど。
今、香の心は固まった。


このキスが終わって、僚の唇が離れたら。
今度は自分が僚に伝えようと。
僚の事が好きなのだと。
そう思いながら、香はそっと目を閉じた。
それはキスが終わる3秒前の事だった。
警報機はまだ鳴っていた。











今夜は、華様からのリクエスト・短編でっす!!

リクエストの内容は、車の中で初キス。

因みに、お悩み相談に華様のお名前を拝借いたしましたっっ

華様、こんな感じでどうだったでしょうか???
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