※基本スペック※必読※

30000Hits Req. Vol.1 ケシ meets nao

                『6年目の相棒』

いよいよ、始動いたしましたっっ。30000ヒット企画!!
第1弾は、naoさんリクエストによる続き物のお話しになります m(_ _)m
尚、このお話しはパラレル仕様となっておりますので、
以下のスペックをお読みなって、OK、大丈夫!!という方のみ、

『① バディ』へと、お進みくださいませっっ





【 槇村 香 】     刑事になって2年目の、新米。
              ずば抜けた身体能力と、モデル並みのルックスの持主。
              お偉方は、イメージアップの為のマスコット的存在として扱いたいけど、
              本人は、“ある目的”の為に刑事になった強い意志があり、
              チャラチャラした雑務をさせられる事への激しい抵抗感がある。
              しかし、人が好いのと、生来の責任感の強さから、結局与えられた仕事はこなす。

              
【ミック A.】      元FBI捜査官を経て、犯罪心理学のスペシャリストとして登用される。刑事。
              とある組織犯罪の捜査で、香とバディを組む事になる。
              香の事が前々から超好きで、狙っている。


【 野上 冴子 】     香とミックの直属の指揮官。先輩刑事。
              父親は警視総監。


【 佐伯 竜馬 】     香とミックが追っている犯罪組織の、キーパーソン。
(冴羽 僚)       その素性は、謎のベールに包まれており、
              どんなデータベースに照会しても身元は明らかにならない。
              警察が把握している限りでは、犯罪歴も無し。
              どうやら偽名の可能性あり。


【 槇村 秀幸 】     6年前のとある捜査の途中で、殉職。
              香の兄。当時は、香がまだ20歳になったばかりだった。






それでわ、皆様。
30000Hitsの感謝を込めて、スタートでっすっっ!!




  
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① バディ

「失礼します。すみませんっっ、遅くなりましたっっ」



槇村香が、先輩刑事の野上冴子からミーティング・ルームに来るように言われて、
もう既に、30分以上が経過していた。
それから間の悪いモノで、予定外の電話が入ったり、上司に呼ばれたりで。
気が付くと、冴子を待たせてしまっていた。


「構わないわ、忙しいのは解ってるから。どうぞ。」


香が慌ただしくその手狭な会議室に赴いた時、
冴子は大きめのテーブルに、所狭しと様々な捜査資料を並べ始めた。
その中には、目を背けたくなるような生々しい現場写真も多く含まれており。
香は刑事になりたての頃は、何度見てもイヤな汗が出て直視出来なかったモノだが、
漸く近頃は、慣れつつあった。
その資料の膨大さと、写真の生々しさから、その事件の凶悪さが窺える。
それはとある、人身売買組織の捜査である。
香はこの捜査を担当する為に刑事になった、と言っても過言では無い。


「本当に、イイのね?」

「はい。」

「生半可な事件じゃないわよ。」

「はい。」



香の意志の強い眼差しに、冴子は一瞬、フッと表情を和らげる。
その目に、確かな彼女の兄の存在を感じる。

冴子が少しだけ、表情を軽くする。
綺麗なヒトだと、香は改めて思う。
どんなやり手の刑事とも対等に渡り合い、男性顔負けの仕事をバリバリこなす頼れる先輩。
冴子は、香の憧れで、目標で。
死んだ兄の、元相棒だ。



「私の目標の1つは、この事件を解決する事です。その為に、この部署に配属を望んだんです。」


香がキッパリとそう言った。
冴子が小さく微笑んで、頷いた。
もう、6年になる。


「解ってるわ、一緒に闘いましょう。
 それでなんだけど、貴女の相棒に、ミックを推してるの。
 早速、明日から彼と組んで捜査に当たって頂戴。」


「はい。頑張ります。」










その日、香はそれからの数時間を、これまでの捜査の事務手続きに追われていた。
その案件は、犯人も検挙し大方の目処はついている。
とは言え、翌日から別の事件に当たる事となった為に、引継ぎの為の事務手続きは必要である。
香は残業を覚悟していた。



気が付くと、外はもう真っ暗だった。
仕事柄、昼も夜も関係無い職場だけど、それでも同じフロアには殆ど誰も居なかった。
1人2人と、帰ってゆく度に、先輩たちは苦笑しながら香に同情してくれた。

“あまり無理すんなよ~~~、お疲れさん。”

そういう彼らに、香も笑って応えながら軽く溜息を吐く。
正直言って、香は事務仕事は苦手だ。



香が手元の資料とにらめっこしていると、コトリと傍らにマグカップが置かれた。
香が愛用している、アイボリーの厚手のミルクガラスのカップだ。
中には琥珀色の香ばしい液体が揺れている。



「ハイ、カオリ。お疲れ。」


「あ。ミック、ありがとう。」


香が顔を上げると、明日から己の相棒となるミック・エンジェルが居た。
彼は香の随分先輩だけれど、堅苦しく“先輩”などと呼ばれるのは性に合わないと、
ミックと呼べと、初めて会った時にそう言われた。
ミックは普段、とても紳士的で。
彼の生まれのお国柄、常にレディ・ファーストである。


「どう致しまして。これぐらい、お安い御用さ、相棒。」


「あ、ご挨拶がまだでした。ゴメンなさい。」


香がそう言って、デスクから立ち上がるとペコリと頭を下げた。
ミックは苦笑しながら、被りを振る。


「Oh,堅苦しいのは無しだよ、カオリ。君が忙しくしていたのは知ってるから大丈夫。」


そう言って、爽やかに微笑んだのも束の間。
香の隙をついて、ミックは香との間合いを絶妙に詰める。


「そんな事より、」

「え?」




「今晩、相棒としての親睦を深める為にも、デートしない??カオリン♪グフッッ」


「すみません、お断りします。」






そうなのだ。
ミックは紳士的で、スマートで、頼りがいのある先輩で。
途轍もなく、スケベだった。
何かというと、こうしてデートに誘うのがデフォルトだ。
この時の香は、誰にでもこんな事言ってんでしょ、位にしか捉えてはいなかったけれど。
実の所、ミックが誘うのは香だからである。



こうして、ミックと香のバディが誕生した。



(つづく)


② 影(シャドウ)

その犯罪組織の起源は、中華系マフィアだ。
近年では、中南米の巨大な麻薬密売組織とも、水面下で手を結んでおり。
(とは言え、奴らは私利私欲の為なら、平気で裏切りもすれば抗争も厭わない。)
元々は全く関係の無い、日本のアンダーグラウンド界にも少しづつ根を張りつつある。
その凶悪さ、狡猾さは、“ジャパニーズ・ヤクザ”などの比では無い。


彼らの主なシノギは、人身売買だ。
子供や若者の臓器は高値で取引される。
若い女は、また別の意味で売り買いされる。
勿論、原材料となる“人身”を、日本国内で調達するにはなかなか難しい側面がある。
実際の売買の現場は、主に大陸の彼の国で行われる事が殆どだ。
日本での組織の役割は、主に東アジア全域のマーケットの確保と管理。
そして、中南米系の麻薬絡みの取引の窓口。

彼の国では、僅かな金と世帯の口減らし(タテマエは、1人っ子が原則だ。)と引き換えに、
我が子を売りに出す親もいる。
母体のある彼の国と違い、人1人失踪すれば日本では大騒ぎになるのは必至で。
(それが子供や若者となれば、尚更。)リスクの大きな取引は日本ではしない。
その反面、日本ではクスリ絡みのマーケットは、ある程度確立されている。
また、クスリ欲しさに簡単に、罠にかかる女もいる。
クスリの売買と、高利貸しは表裏一体で。
クスリに溺れて借金を重ねて、売り飛ばされる。
それらの一連の流れは、全てこの組織の中で完結しているのだ。
何処までが嘘か本当か、これはあくまで噂の域をでない情報ではあるが、
酷い話しになると、両手両足を切断されて所謂“ダルマ”という状態で、
富豪の慰み者として、売り飛ばされるケースもあるらしい。


その組織には、秩序も慈悲も無く。
只有るのは、金を生み出すという目的のみである。







それは一見、普通のオフィス・ビルに存在する普通の事務所で。
出入りする人間も見た所、何処にでもいるビジネスマン風の男達である。
一応、登記上は健康食品や健康器具を取り扱う商社。
しかし、その実態は。
企業を隠れ蓑にした、組織の出先機関である。
多くの者が、日本に帰化した中華系の組織の構成員だ。





アイツはこれまで、結構色んな案件で実質手を下していると思われるメンバーだ。




ミックが路肩に停めた捜査車両の中で、遠くから1人の優男風に目を向ける。
香も真剣に、ミックの説明に聞き入る。
この2時間の内、一所にずっと同じ車があると不審がられるので。
少しづつ場所を移動しながら、それでもそのビルを監視出来る所に微妙に移動する。
ミックは数年前から、この件を担当しておりその辺の事情には明るい。


この間、同じビルの中の別会社の人間もいるので、
実際に香が顔を確認できたのは、今の所3人だ。
こんな日常の風景に溶け込んで、凶悪な世界が口を開けて潜んでいるという事に、
香は正直、背筋が凍った。
普通の平和なOLがにこやかに出入りし、仕事をしているその同じ建物の中に。
アジアの様々な場所へと、女を売り飛ばしている鬼畜が潜んでいるのだ。




あ、影(シャドウ)。




それまで、真剣に目を光らせていたミックが小さく呟いた。
香も思わず、訊き返す。





シャドウって?


アイツのコードネームさ、あのダークスーツの。




そう言ってミックが指さした先には、これまでの構成員とは明らかに一線を画した大きな背中が見えた。
香が視線を向けた時には、“影”は背中を向けて立っており、その表情を窺う事は出来なかった。





アイツは、組織の日本支部の中でも結構、重要なポジションにいるらしいけど。
実際の所、素性は良く解っていないんだ。
名前は、佐伯竜馬。でも、偽名を使っている可能性は非常に高い。




ミックの説明を聞きながら、香はシャドウの背中を見詰めていた。
その時、一瞬だけ彼が2人の方へと顔を向けた。
どうやら片手には、携帯電話を握っていて誰かと通話中のようだった。
一瞬、チラリとミックと香の方へ視線を走らせて、シャドウは建物の中へと消えた。





恐らくヤツの素性さえ掴めば、捜査も随分展開するんじゃないかと思うよ。
でも、アイツは一筋縄じゃいかないんだ・・・
何故だかアイツの周辺を探ろうとすると、たちまち煙幕を張ったように不思議と邪魔が入るんだ。
ボクの予想では、警察の中にヤツと内通している者がいるんじゃないかと思う。





香は、ミックのそんな解説を、何処か上の空で聞いていた。
シャドウ。
影と呼ばれるその男の、真っ黒な瞳を直視してしまった。
その一瞬で、彼がどんな顔だったのか、綺麗サッパリ吹き飛んでしまった。
ただ力強い視線だけが、香の脳裏にフラッシュ・バックする。
真っ黒な瞳に、黒く艶やかな頭髪、黒いスーツ。


シャドウという名は、彼にピッタリの通り名だ。



(つづく)

③ 寝覚め

それは季節の変わり目、生温い春の嵐だった。




気温の乱高下の激しい季節に、アイツは着古したトレンチ・コートを羽織っていた。
殉職した偉大な先輩でもある父が目標だと、いつも語っていた表情は穏やかで。
あの日激しい雨の中で、自分の腕の中で、少しづつ冷たくなっていったアイツの事は、
この6年、一時たりとも忘れる事は無かった。





















僚は嫌な汗を掻きながら、妙な時間に目覚めた。


寝室の窓の外では、春の嵐が吹き荒れているようで。
雨粒が窓ガラスを叩く音が聞こえる。
先程の夢の続きとリンクして、心臓が煩いほど脈打つ。
喉の渇きに、この時漸く気が付いた。


あの組織に目を掛けられ、出入りするようになって6年。
僚の生活は、リアリティを無くしている。
全てが虚構で、全てが現実で、結局全てが僚の人生では無い。
















生活感の薄いキッチンの、アンティークばりの年代物の冷蔵庫にはビールと水のボトルがあるだけで。
僚は迷わず、ビールを1本取り出す。
アルコールを摂取すると、そのアルコールを分解する為にそれ以上の水分を身体は必要とする。
だから、渇きを癒す為に酒を飲んでも、最終的には渇きは増すだけだ。
喉の奥を発泡性の冷たいアルコールが通り過ぎる。
心地イイと感じるのは、この時だけで。
これはただの錯覚だ。


目に見える事だけが、物事の真理では無い。


このままもう一度、寝床に潜って二度寝を貪っても、
次、目覚める時には、より強烈な渇きに見舞われる。










昼間、事務所の周りに張っていたシルバーのマークⅡは、恐らく警察車両だ。
何度か見掛けた事のある、ブロンドの男。
まさか日本の警察組織に、欧米人と思しきヤツがいるとは思わないだろうという奴らの腹か。
それでも僚の直感は、結構当たるのだ。
助手席に居た若い女は、初めて見る顔だった。


けれど少しだけ、なにか心に引っ掛かるものを感じていた。


彼女の強い眼差しが印象的だった。
職業柄僚は、一瞬で他人の特徴を覚え、記憶する事を得意としている。
大抵、一度見た顔は忘れない。
けれど、今現在、寝起きの僚の頭の中の彼女は。
ボンヤリとしたイメージの塊で。
真っ直ぐな薄茶色の瞳と、強い視線以外、細部はぼやけている。
多分、このビールを流し込んで、もう一度惰眠を貪れば。
そのイメージすら、霧散してしまいそうな程の感覚だ。



けれどあの強い眼差しだけは、僚の脳内にクッキリと刻み込まれている。
まるで、さっき見た夢の記憶のように。




(つづく)

④ 制服

槇村香は憤慨していた。






この時期は、春の交通安全キャンペーン絶賛実施中だ。
義務教育の子供たちは、概ね春休み中で。
休み明けは、新入学シーズンに突入する。
小学生の通学路は勿論、中高生の自転車にも、運転者は一層気を配らないといけない季節だ。






「・・・だからって、何で私なんですかっっ」


昼食のサンドウィッチを頬張りながら、香は冴子に愚痴る。
その日は朝から、ここ数日の張り込みの経過をミックと2人で冴子に報告していた。
その途中で、香が署長室に呼ばれたのだ。
冴子は思わず苦笑しながらも、香を宥める。




「まぁまぁ、署長直々にご指名なんでしょ?名誉な事よ。」

「・・・全然、嬉しくないです(怒)そもそも、交通課ならもっと可愛い子が沢山いるじゃないですかっっ」



冴子とミックは顔を見合わせて、肩を竦める。
明日、交通安全のキャンペーンのイベントで香が駆り出される事になったのだ。
しかし。
香に自覚は無いが、この署内で香以上にルックスに恵まれた女性署員は居ない。
勿論、この場合冴子は除外する。
求められる人材は、若くて溌剌として、その上美しければ申し分無い。
美しいという項目だけなら、冴子も充分要件は満たしているが、
如何せんフレッシュさというモノは、冴子とは全くの対極にある。


何だかんだ言って、香はこの部署では一番の下っ端だ。
香が丸1日間、署長命令で交通課(ほぼ、キャンギャル)に駆り出されても、他に困る者も居ない。
何しろ、相棒のミックですら快く、頑張っておいで。なんて言っている。
いつもこうなのだ。
香が初めて配属された新人の頃から、お偉方は香の容姿しか見ていないと、香は思う。
もしくは、切れ者で署内でも一目置かれていた、あの槇村秀幸の妹。


勿論、人の評価など一朝一夕に得られるモノでは無い事ぐらいは、香も解っている。
それでも、イベントで愛想を振りまいて盛り上げるくらいの仕事なら、
1年目の新人だって出来るんじゃないかと、香は思うのだ。
結局、香は警察官になってからというモノ、毎年この役を仰せつかっている。












「ふふふ、久し振り。」




婦人警官の制服に袖を通すのは、1年振りだ。
昨年の同じ時期、やはりこうして制服を着た。
普段は専ら、パンツスーツだ。




けれど。
何かが違う。



「ん???この制服、こんなにスカート短かったっけ???」



確か、昨日の午前中の内に総務課にお願いしてクリーニングに出して貰っていた。
そして夕方、ミックが受け取っといたよ。と言って、香のデスクに持って来てくれたのだった。



「????・・・また、背ぇ伸びた?まさかね・・・(苦笑)」








イベント自体は、大したモノでは無い。
警察署の前の公園と舗道で、通行人や信号待ちのドライバーに粗品を手渡して、キャンペーンのPRをする。
午前の部と、午後の部の計2回、自転車のマナー講習を公園内の広場で実施する。
取り仕切るのは、交通課である。
香は主に、ドライバーへのPRとマスコミ向けのインタビュー要員だ。
何だかんだ言って、与えられた仕事はソツ無くこなすのが槇村香だ。
朝一番に制服に着替えた時には、違和感満載だったスカート丈の事も忘れる程にPRに励んだ。


昼下がり、制服の胸のポケットに入れた携帯電話が振動した。
ミックからのメールだ。


『ハァイ、カオリ。
 頑張ってる?
 スカート、似合ってるんだろうな~~~
 たまには、スカートも素敵だよ♪グフッ
  
     君の相棒より、愛を込めて。』




この時、香は漸く気が付いた。
クリーニングが仕上がったと、持って来てくれたのは。
あの相方で。

ヤツは、途轍もなくスケベだったんだ。香はその事を、つい失念していた。



(・・・ミックめっっぬっ殺すっっ)

どうやらスカートは、すり替えられていたらしい。
脳天気な相棒からのメールに香が殺気立っていると、遠くの方から視線を感じた。
香はふとそちらの方へ、意識を向ける。



一瞬だけ、背の高い男性と目が合った。


真っ黒な深い瞳、艶やかな黒髪、スーツでは無くカジュアルな服装だったけれど。
それは。



(・・・シャドウ?)



香はもう一度よく見てみようと、目を凝らしたけれど。
もう彼は、街中の雑踏の中へと紛れていた。





「お~~い、槇村く~~ん。ちょっと、コッチも頼むよ♪」

「・・・あ、はい。副署長。」



香は、後ろ髪を惹かれる思いで、春の交通安全キャンペーンの平和な世界に引き戻された。



(つづく)


⑤ 春の嵐

その時期はいつも、安定しない空模様で。
せっかく綺麗に咲き誇った薄桃色の花びらは、少しの雨風にも惜しげも無く散りゆく。












その年度変わりの最終日、その日が香にとってどうやら特別な日である事はリサーチ済みだ。
何の変哲も無い春の日が。
彼女の誕生日でもあり、一番淋しい日でもあるらしい。

ミックは、朝から天気予報と開花予報をチェックした。

桜の花は八分咲き。
今が一番、美しい。
まるで、初々しい後輩兼相棒のように。






香は毎年、その日をなるだけ平常心で迎えるよう意識している。
生憎、香の選んだ職業は、私事などで心を乱している余裕も無いほどに慌ただしい。

もう、6年になる。

香はこれまで、恋人など作った事は無い。
気持ちを告げられた事は、何度かあった。
同期の警察官だったり、学生時代の同級生だったり、行きつけの美容院の美容師だったり。
それでも。
香の心の中の時間は、きっとあの時のままで止まっている。
兄が亡くなった、あの時で。



だからきっと、この事件が解決するまでは。
香の時計は止まったままで。
過去にも戻れず、未来へも進めない。
涙はとうに、枯れてしまっている。












その新宿の外れにある郵便局の私書箱の名義人は、西村圭介。勿論、偽名だ。





いつものように、僚はその自分だけの郵便受けから分厚い封筒を取り出す。
その郵便局から、自宅アパートまでは目と鼻の先だ。
電話の回線なんて、この世で一番不確かだ。
ネットも信用出来たもんじゃない。
アナログで、単純な手法ほどこれからのご時世、意外と盲点だ。




『・・・今日は、随分と早いのね。シャドウ。まだ、日付を跨ぐ前よ。
            私からのラブ・レター、読んで戴けたかしら?』


・・・あぁ、サムサラ。




僚はストレートのバーボンを舐めながら、電話口の相手へと答える。
相手は女だ。
コードネームは、愛用の香水の薫り。






・・・見ない顔の女を見た。


『彼女は、ニューフェイスよ。』


イイ女だ。


『・・・フフ、相変わらずね。彼女に惹かれるのには、まだワケがあるのよ。その内、全て話せる時が来る。』


是非、早目に知りたいね。もう6年だ。


『・・・そうね。今日は、私も珍しくバーボンを飲んでるの。』


・・・俺も、飲んでた。





電話越しに、沈黙が流れる。
3月の末日は、彼らにとっては忘れ得ぬ日だ。
その酒は、今は亡き男が好んだ飲み物だ。





『資料、目を通しといて。』


・・・解った。・・・なぁ、冴子。


『なぁに、・・・・僚。』



アイツは、







僚が何かを言い掛けて、暫く深い沈黙が続く。
冴子もその沈黙に付き合う。
漆黒の空気が、電話越しの2人の間に横たわる。




・・・いや、イイ。もう切るぞ。


『えぇ、気を付けて。』





短いやりとりを終えて、電気信号を介した音声情報は途絶えた。
まるで真空の闇の中に、ふわりと桜の花びらが散るような静けさで2人の世界が寸断される。













この職業を選んだ時点で、常識的な時間に帰宅できるとは思ってはいない。


己の誕生日と兄の命日の晩餐は、冷蔵庫の中の有り合わせだ。
署に戻る車のハンドルを握るのは、ブロンドの先輩刑事。







ねぇ、カオリ?

はい。

今日はもう、オフィスには戻らずに送って行こうか?

え?

誕生日だろ?

・・・知ってたんですか////

あぁ、こう見えて相棒思いなの、ボク。







そう言って、笑うミックにつられて香も笑う。
そう言えば今日1日、こんなに肩の力が抜けたのは初めてかもしれない。





君んちに送ってく途中に、見事な桜の樹があるんだ。見て行かないか?




香は小さく首を振る。
それが、ミックの優しさだと、重々解っている。
あの職場に居て、この日が何の日か、香にとってどういう日か、みんな知っている。
だからミックも、誰かに聞いたんだろう。



・・・ありがとうございます、お気遣い頂いて。でも、署に戻りましょう。報告書、書かなくちゃ。


フッ、やっぱりカオリは、真面目だな。




そう言って、ミックは笑った。
それ以上、しつこくはしない。
シルバーの捜査車両は、ゆっくりと新宿の街を滑ってゆく。







でもね、カオリ。これって、“お気遣い”じゃ無くて、“下心”って言うんだよ。






ミックが、欧米人特有な綺麗なウィンクを寄越しながら言う。
香は窓の外へ目を向けながら、小さく笑う。









はいはい。解ってます、先輩。






この時の香には、まだ何も解ってはいなかった。
ミックの心も。
終わった事と、始まりつつある事も。



(つづく)




⑥ 白と黒/表と裏

“シャドウ”こと佐伯竜馬が、あの組織の中で突然頭角を現してきたのには、ワケがある。


ヤツはどうやら、複数の言語をネイティブ並みに操るらしい。
南米系の輩とコネをつけるのに、ヤツは随分と重要な役割を担っているという。
しかしその話しもあくまで、噂の域を出ない情報で。
その実態は、その名の通りまるで影のように掴み処が無い。

そしてヤツは、想像をはるかに超えた数の(それも腕利きの)情報屋を抱えている。
この2~3年、ミックが調べただけでも、ヤツの息が掛かった情報屋はかなりの数だ。
しかしそれはホンの一握りで、ヤツの核心に迫れば迫るほど、まるでミックを嘲笑うかのように、
正体の見えない靄のような圧力が掛かる。
それまでのヤツの“影”は、ミックの手の中からスルリと滑り落ちる。













・・・・ぅぅう・・・
ハァッ・・・ハァハァ・・
ぅうっっ


ガバッッ

酷く喉が渇いている。
うなされて目覚めたミックは、枕元の時計に目を遣った。
眠り始めて、まだホンの1時間ほどだ。
近頃は、夢の中にまで“影”が忍び込んで来る。
ミックにとってヤツの存在は、計算外だった。
何としても早急に、ヤツの核心に迫る情報を掴みたい所だ。

そして、もう1つ。

厄介で“計算外”な問題も浮上しつつある。
もっともこちらの方は、専らミックの心の中の問題である。















「・・・サンキュ、テツ。助かったよ。」


「気を付けなよ、影ちゃん。アンタを嗅ぎ回ってるヤツがいるよ。」


「・・・・・ブロンドか?」




その年老いた情報屋は、返事の代わりに片側の口端を小さく持ち上げた。
僚はついさっき手渡した紙幣の束に、もう1枚追加した。
短くなった煙草を捨てると、革靴の先で踏み消した。
そして。
その次の瞬間には、既にもう新宿の雑踏の中に姿を消してしまっていた。


影と日向は表裏一体で、この世に光が無ければ影も無い。
物事には全て、背中合わせの貌がある。













「あの、山下先輩。ミックさん、見掛けませんでした?」


香に呼び止められた30代前半の独身刑事は、その風貌には似合わぬ繊細な心の持主である。
職場の(高嶺の)花に声を掛けられ、柄にも無くときめいていた。
もっともそんな事は、香の知ったこっちゃないが。




「いや、そう言えば小1時間、アイツの姿は見ないな。」


「・・・そうですか。」
(ミック、何処かしら???午後から同行で捜査の筈だったんだけど・・・)


「置いてけぼりか?可哀相に。」


「えぇ、なんか置いてかれちゃったみたいです。」





そう言ってニッコリ微笑む香に、ガッチリとハートを鷲掴みされた山下(彼女いない歴4年目に突入)は。
ワザとらしいスキンシップを図る為に、『元気出せ?』と言いながら香の肩に触れる。
生真面目で男臭い職場の中にも、たまにはこのような心躍るふれあいは大切である。
勿論、香の知る由では無いが。


仕方が無いので香は香で、別角度からの聞き込みに回ろうかと思案する。
池袋に住んでいた元ホステスの女が、借金を重ねた挙句、行方不明になっているらしい。
近隣や身辺の情報によれば、女はコカインの常習者であった可能性が極めて高い。
そうなると、例の組織が動いている可能性が大いにある。



(ヨシッ、今日はそっちから攻めてみるか。)



そう切り替えた香が、デスクで外出の準備をしていると、
ジャケットの内ポケットの中の携帯が振動した。
液晶の画面には『ミック』の文字。
香は、通話ボタンを押す。



「もしもし・・・」






(つづく)


⑦ 堕天使の恋と影の愛

『・・・もしもし、カオリ?』

もうっっ、ミックぅ何処に居るの???探したんだからっっ

『Oh,sorry 済まなかったよ、カオリ。
 君とサエコの打ち合わせ、長くなりそうだったから先に出たんだよ。』

今、どこ?

『大森にある工場跡地なんだけど、出て来られるかな?』

はい、わかりました。急行しますっっ

















香とのやりとりを終えて、通話が途切れた液晶の画面をミックがジッと見詰める。
出来ればこんな形で彼女と出逢いたくなど無かったと、ミックは思う。
香の心は真っ直ぐで、純粋で、真っ白く新しい雪のように美しい。
ミックには香が眩し過ぎて、対等に向き合う資格すら無い。



『良い事だよ、ルシファー。
 君の相棒とやらは、あの仔猫ちゃんだね。
 潰すには、御誂え向きだよ。
 いや何なら、マレイシアの富豪からの注文に彼女を差し出してはどうかね?
 ゆっくりと、見物させて戴くよ』



ミックの手の中の携帯に、メールが届いた。
そのメッセージの送り主は、他でも無い、この1月近く香と2人で追っていた筈の組織の人間だ。
きっと、この近くの何処かでミックは見張られている。
















香はミックから聞いた現場へと、向かった。
目的地は、小規模な町工場が数多く点在する地域だ。
もっとも、近年の不況の煽りを受けて閉鎖する工場も後を絶たず、
何の手入れもされないままの、廃工場も結構な数で存在する。
ミックに指定された現場は、そんな内の1つだった。
恐らくは、何らかの工業用の部品を製造していたと思しきその場所は。
ただただ閑散とし、窓ガラスは割れ、古いコンクリートの床には埃が積もっていた。



「・・・ミック?いるの???」



重たく錆びついた鉄の扉の向こうは、ガランとした薄暗い空間で。
割れた窓ガラスから入る屈折した午後の光が、埃の積もった床に複雑な影を描いている。
それ程大きな声で呼びかけたワケでも無い香の声が、やけに響いて耳に残る。
耳の中に残された残響が消える頃、薄暗い影の中からミックが姿を現した。
















「ハイ、カオリ。ゴメンね、さっきは置いてけぼりにして。」



そう言って薄く笑ったミックに、香はゾクリとする。
何かが、いつものパートナーと違う。
こんなミックは、“あの”香の知っているミックでは無い。




「・・・ミック???何か、・・あった???」

「何も無いさ。ただ・・・」

「ただ?」

「捜査は終了だ、カオリ。ボクは、君を。」



ミックの蒼い瞳に、一瞬仄暗い影が差す。
ジャケットの内のホルスターから、愛用のデザート・イーグルを取り出す。
まさかのミックの行動に、香は固唾を呑んでその場に凍り付く。
その比較的大きな口径のハンドガンの銃口が、香に向けられる。
その刹那、まるで握り潰されるような強い圧迫感を心臓に感じて、
一寸遅れでそれが恐怖心だという事に、香は気が付いた。
気が付いたら、掌は汗でぐっしょり濡れていた。
こんなんでは、まさかの事態には応戦など到底無理だ。
香もジャケットの内側に、ホルスターは身に着けている。
その中に収められた、コルト・ローマン。
兄の形見だ。
きっと汗で濡れた指先では、引金すら引けない。
射撃場の中での、平々凡々な訓練など何の役にも立ちそうにない。




・・・どうして?



香の声は、小さく掠れていた。
漸く出て来た言葉は、心許ない。
まるで喉の奥に何かが痞えたように、言葉にならない。
喉がカラカラに渇いている。




「ボクは、警察官だ。カオリ。」


・・・えぇ、勿論。仲間だわ。


「けれどね、それ以前にボクは・・・組織の人間なんだよ。」


っっ!!!




ミックはまるで、神様に懺悔するような苦しげな表情で香に打ち明けた。




ボクに課された命令はね、カオリ。
君をこの場で始末するか、それとも。
お金持ちのサディストに、君をペットとして売り捌くかのどちらかなんだよ。





香の顔から一気に血の気が引く。
ミックの言葉の意味が理解できない。
だって。
あんなに一生懸命、一緒に聞き込みして歩き回ったのに。
その残酷な所業に、一緒に怒りを燃やしたのに。
何よりミックは、優しくて紳士で後輩想いで・・・


気が付いたら、香の頬には涙が伝っていた。
そんな告白など、聞きたくなかった。





「・・・6年前、君のお兄さんを狙撃したのは。・・・ボクなんだ、カオリ。」






え?





香の表情が強張る。
香は自分の耳を疑った。
先程の恐怖心とはまた違った、異質の胸の痛みが香を襲う。
人間の心とは、
あまりにも強い衝撃には、防御作用が働くらしい。
まるで現実感が、薄らいでゆく。







「・・・でも、ゴメンよ。君を愛する資格の無いボクが・・・

君の事、好きになってしまった。






突然の愛の告白は、最悪のシチュエーションだった。
ミックの蒼白い頬にも、涙が伝っている。
ゆっくりと香に向けられた銃口が、下ろされる。
香は内心、ホッと胸を撫で下ろす。
ホッとしたのも束の間、2人の間に一層の緊張感が漲る。
砂漠の鷲の嘴は、ミックのコメカミに当てられた。







だから、ボクの選択肢はこれしか無いんだよ、カオリ。


・・・そんな、止めて・・・




香の喉の奥がカッと焼けたように熱くなる。
涙は止め処なく溢れる。



止めてぇっっ!!ミックぅ!!!













香の悲痛な叫びとほぼ同時に、埃の堆積したコンクリートを踏みしめる足音が響いた。
ミックも香も思わず、足音の主を辿る。

そこには、黒い目をした見知った男が立っていた。

影と呼ばれるその男は、その手にコルト・パイソンを握っている。
無遠慮に放たれるそのオーラは、彼が只者では無い事の証だ。
















「・・・・コードネーム、ルシファー。ミック・エンジェルか、天使は天使でも、堕天使ってワケか。」


不穏なオーラの割に、飄々とした口調で僚がニヤリと笑う。



「あ、アナタはっっ!!」


香は思わず、懐のローマンに手を伸ばす。
僚がそれを手で制する。










「自己紹介が遅れたな、槇村警部補。」


「へ?」


「俺は、警視庁新宿署組織犯罪対策課内、特命班主任、冴羽僚だ。」





僚はそう言うと、懐から警察手帳を取り出してかざした。





「あ、あの・・・じゃあ・・」


「この6年間、潜入捜査の特命を受けていた。」

・・・因みに、階級は警視ね♪ヨロシク、香ちゃん。





そう言って、冴羽僚はニッコリと笑った。
あれだけシリアスな雰囲気になっていた香とミックも、あまりの急展開に唖然として目を丸くする。














ミックは力無くダラリと肩を落とすと、まるで気でも触れたかのようにクスクスと笑い始めた。
そんな光景を、香はただただいたたまれない気持ちで見詰める。







「ハハ八ッッ  コイツは傑作だ。ボクが、警察組織に潜入して情報を得ていたのと同じように、
 オマエも我々の組織に潜入していたとはなっっ・・・・


・・・・それじゃあ、ボクは一体何の為に・・・・





もう一度、ミックの腕が持ち上がる。
利き手には、デザート・イーグル。





ダメェッッ!ミック!!!



咄嗟の行動だった。
香がミックに駆け寄る。
僚がパイソンで、ミックの握ったハンド・ガンの銃身を弾く。
357マグナム弾の反動をまともに受けて、ミックがバランスを崩す。



そして、ミックに駆け寄ろうとした香の左肩を、暗闇の中から撃ち込まれた銃弾が貫通した。


香がコンクリートに倒れ込むより前に、僚が振り返って闇の中に発砲する。
少し離れた所で、うめき声を上げて倒れ込む男の声がする。
ミックにメールを送った輩だ。
僚が闇の中に歩を進めて、止めを刺す。
命乞いをする声は、皆まで聞き遂げられる事は無く。
銃声にかき消された。





遠くに警察車両のサイレンの音が聞こえていた。




(つづく)

⑧ 相棒 (最終回)

槇村秀幸とは、同期だった。
お互いに大学卒業と共に、警察官を志望した。


府中の警察学校では同期の同教場で、同じ釜の飯を喰った。
最初の2年程は、それぞれ違う署に配属され、3年目に新宿署で同僚になった。
奴ほど気の合うヤツも珍しかった。
だから、6年前のあの事件を受けて、
組織に潜入して内部から切り崩すという捜査方針が固まり、極秘の潜入プロジェクトが発足した時。
僚は迷わず、志願した。


ヤツの妹の存在は、警察学校時代から知っていた。
誰憚る事無く妹自慢を繰り出す槇村に、僚はいつも実物に会わせろと詰め寄っていた。
もっとも、一回り年下のヤツの妹は当時10歳にも満たない子供だった。
一度だけ、警察学校の宿舎の槇村の個室で、写真立てに入った“彼女”の写真を見た事があった。
薄茶色の大きな瞳の、人懐こく微笑む良い写真だった。




初めて香を見た時には、気が付かなかった。
けれど強い光を湛えた大きな目と、眼差しの強さが印象に残っていた。



















槇村ぁっっ!!


薄暗い廃工場の片隅で、嘗て仲間を装った犯罪人を1人始末して、
僚は再び、香とミックの方へ意識を戻した。


埃の積もったコンクリートに、一筋の赤い川が出来ている。
確か、一瞬のうちに確認した限りでは。
銃弾は貫通していた。
恐らく敵の弾は、ミックを狙う筈だった。
命令に背き、自死を選ぼうとした仲間を粛清する為に。

咄嗟に飛び出した香と、バランスを崩したミックの一瞬の立ち位置の変化で、
不運にも銃弾は香を捕えたのだ。





埃だらけの床に倒れ込んだ香の傷に、ミックがハンカチを押し当てて止血処置をしていた。
僚はパイソンを突き付けて香から距離を取るようにミックに命じる。





「手を退けろ、ミック・エンジェル。貴様に、彼女に触れる資格は無い。」



ミックも素直に応じる。
諸手を肩の高さまで上げて、僚に掌を向ける。
パイソンの銃口は、常にミックを指している。
もうすぐそこまで、サイレンの音は迫っている。
後頭部で両手の指を組んで、地べたに俯せるよう命ずるとミックもそれに応じる。
俯せたミックのブロンドの後頭部に、黒い銃口を埋める。



その状態で、素早く香を観察する。
香は気を失ってはいるものの、呼吸も脈もしっかりしている。
ただ予想以上に、出血量が多い。
顔面蒼白で血の気が引いている。




(・・・槇ちゃん、オマエの大事な妹、まだ連れてくんじゃねえぞ・・・)



その時、カツカツとピンヒールの足音が工場内に響く。









「遅ぇ~~よっっ、冴子。取敢えず、詳しい事は後にしてくれ。コイツの身柄確保、頼んだぞ。」


「えぇ、早く香さんを。パトカーが表に停まってるから、好きなの使って?」







僚は香を抱き上げると、表へ飛び出した。

















2カ月後。



香は、あの日から警察病院に入院していた。
全くの独り身の香の世話を、先輩の野上冴子が何かと気に掛けてくれた。
数日に一度、病室を訪れては着替えを置いていってくれたりした。
忙しい身で、面会時間ギリギリに僅かな時間を見付けては来てくれて、
多分これから先香は、一生冴子には感謝してもしきれない。
もっとも、香がそう言うと冴子は笑って、忘れてくれて構わないわ。と言った。


あの日、ミックが語った6年前の兄の件も、ミックの証言に嘘は無かったらしいと、
冴子が教えてくれた。
それは、刑事としてでは無く、遺族として。
貴女にも知る権利があると、冴子はそう言って次々と明らかになる事実を病室で香に教えてくれた。
ミックは今、警察を売った重罪を問われ厳しい事情聴取を受けているらしい。








だから香は、もう事件の事も、ミックの事も案外スッキリとどうでも良くなっていた。
それよりも、日に日に香の心を占めるのは。
1人の上官の面影だった。



初めて見掛けた時から、不思議と惹かれるものはあった。
相手は犯罪組織の幹部で、謎めいていて。
ただその気持ちは、ルパンを追う銭形のようなそんな気持ちの筈だったのに。
あの日、真相が解明した時に。
香の心の何処かで、


・・・あぁ、良かった。


と思う気持ちが、確かに存在した。
もしも彼が本当に組織の人間で、いつか彼の手に手錠を掛ける時が来るとしたら。
その役目をするのは嫌だと思っていた事に、気が付いた。
だから、彼が本当は潜入調査中の刑事で、自分の仲間だと解った瞬間に安堵した。




(さえば・・警視・・・////)


気が付くと彼の事を思い出して、我に返っては、心の中で“今のは無しっっ無しっ”と盛大に打ち消す。
その繰り返しで、退屈な入院生活を送っていた。















「・・・それでだね、冴羽クン。この度の、功労に対する表彰を警視総監直々に・・・」




堅苦しい上司の言葉を聞いているのかいないのか、冴羽僚は盛大に大欠伸をした。
この6年間、完全に犯罪人たちに溶け込む為に、
自分自身もこれまでに無いほど、堕落した日々を過ごしていた。
まるで時差ボケのように、僚は未だ規則正しい生活に慣れない。



「ねぇねぇ、かちょお。」

「なな、なに?」

「あのさぁ、そんな固っ苦しい表彰なんかどうでも良いからぁ、お願いがあるんだけど。」

「なんだよ?」

「一応さ事件は解決したけど、このまま存続するんでしょ?特命班。」

「・・・まぁ、それはだ。君の独立心旺盛な面、にも関わらず忠実に任務をこなす姿勢を高く評価して・・」

「・・・そんな屁理屈はどうでもイイの。班つっても、俺1人じゃん?特命班。」

「・・・・・・(汗)」





だからさ、1人。
刑事課から相棒に指名したいヤツがいるんだけど?
















その日、怪我から復帰した香を、刑事課の面々は温かく迎えてくれた。
ただ、周りの誰もが気遣ってくれればくれる程、
ミックの不在や、事件の真相が香の心に影を落とした。
そしてこの朝、ひとつの辞令が香に言い渡された。
異動だ。
引き継ぎ業務が完了次第、可及的速やかに部署が変わる。




へ???なんで、4課???




ポカァ~~~ンと、呆ける香に冴子が苦笑する。
香の新しい配属先は、組織犯罪対策課、通称:マルボウである。
昔の呼び名なら、捜査4課。
いかつい男達の巣窟だ。
若手の美人女刑事など、海水に浮かぶブイと同じくらい浮いている。
ミスマッチにも程がある。


冴子の説明によれば、何でも香が配属されたのは特殊捜査に当たる部署で。
上官が1人いるだけの、署内の外れに設置された分室らしい。
聞けば聞くほど、何だか『左遷』という言葉が脳内を駆け巡る。


「取敢えず午後にでも、分室の方に挨拶だけでも言って来て頂戴。」


そう言って、野上冴子がニッコリ笑った。
















「・・・失礼します。槇村です、ご挨拶に上がりました。」



どうぞ




遠慮がちなノックの後に、彼女の声が聞こえる。
僚は柄にも無く、ドキドキする。
嘗てこの男ばかりの縦社会に、これ程までのトキメキが存在しただろうか。
ドアに背を向けたまま、だらしなく頬が緩む。





数日後から、自分の直属の上司となる彼は背を向けてパソコンに向かっていた。
香が入室すると、ゆっくりと彼が振り返る。
香はビックリし過ぎて、心臓が止まるかと思った。
せっかく退院したのに、もう一度出戻る所だった。






「ようこそ、槇村警部補。」

「あ、冴・・羽、警視/////」




やぁ、これから先ヨロシクね♪ 相棒。






この後、一生涯、公私共に、冴羽僚の相棒になる槇村香だったが、
今の所、彼女には知る由も無い。










(おわり)
















30000Hitsリクエスト企画、第1回目は。
nao様のリクエストによる、長編作品です。
最後までお付き合い戴き、誠に有難うございます。
因みに、nao様のリクエスト詳細は、以下の通りです。



① カオリン刑事、ミック相棒。

② リョウちゃんは、敵対するマフィアの一員。

③ 香港映画『インファナル・アフェア』の感じで。



拍手コメントで、どなたかがまさに、『インファナル・アフェア』みたいだと仰って下さいまして。
実はワタシ、この映画はザックリとしたあらすじ以外は知りません。
この度、レンタルして元ネタを観ようかどうしようか迷ったのですが、
ヘンに先入観や、映画のイメージに引き摺られてしまうと、
リョウちゃんやカオリンのイメージを出しきれない気がして、敢えて観ずに書いちゃいました(爆)


こんな感じに仕上がっちゃいましたが、nao様いかがでしたでしょうかぁ~~~???


これからまた、他の方のリクエストにも取り掛かって参りたいと思いますっっ
それでわ、改めまして。
最後までお読みいただき、誠に有難うございました~~~~