第1話 気付いてしまった事

※ このお話しは、全4話のお話しです。設定は、いつもの2人。
  原作以上、恋人未満。モヤモヤ期の2人です。


















槇村さん。

はい。



ボクと、結婚を前提にお付き合いして戴けませんか?









え?








3日前、僚がナンパに繰り出し、香が1人ののんびりした午後をリビングで過ごしていると。
1本の電話が入った。
元依頼人からだった。
香に折り入って、話したい事があると。

『僚も、同席した方がイイですか?』

そう訊いた香に、電話口で彼がフッと笑った気がしたけれど。
その時の香は、さして気にも留めなかった。
いえ、槇村さんに用があるので。
そう言った彼の言葉を、香は深く考えもせずに待ち合わせの時間と場所をメモした。




そして今、香の目の前には爽やかに微笑む元依頼人の男が座り、薫り高いコーヒーを飲んでいる。
僚ほどでは無いけれど、スラリとした長身。
柔和なタイプだけれど、世間一般的にはイケメンと呼ばれるだろう面差し。
見るからに上等な恐らくは、オーダーメイドのスーツ。
襟元に、ひまわりと天秤をモチーフにした、金色のバッヂ。
彼は香と結婚したいらしい。

香にとっては、まさに青天の霹靂である。

ポカンとして虚空を見詰める香とは対照的に、彼はニコニコと笑っている。
依頼遂行中に香は、彼がフト亡き兄とよく似た雰囲気を醸していると思った事があったと思い返す。
とても真面目で、優しいヒトだったと記憶している。
しかし、一方で。
何故???
という言葉が、今現在香の脳内を駆け巡っている。
3か月前、彼が冴羽アパートに泊まり込んでガードをしていた2週間の間。
そんな素振りは勿論、色恋めいた話題すらした覚えは無い。
それが今になって、何故。突然。





あの~~~。

はい。

何で、でしょうか?

何が?

いや、だから。どうして、ワタシ???



香はあんまり呆けていても埒が明かないので、取敢えず事の全容を把握するために訊いてみた。
彼は、そんな香にニッコリと微笑むと、簡潔に答え始めた。






槇村さんは、スタイルが良くて美人だし、
お料理もお上手で、
明るくハキハキしていて、優しくて、笑顔が美しいからです。
アナタとこれから先、生きて行かれたらきっと幸せになれるだろうと思ったからです。
初めてお会いした時から、素敵な人だと思ってました。






あまりの褒め言葉の連発に、香は徐々に真っ赤になる。
普段、褒められ慣れていないので、あからさまに動揺する。
内心では、少しだけ訝しむ。
この人、何が目的なんだろうと。
そして、そんな自分に嫌気がさす。
人の言葉を、額面通りに受け取る事を、最近少しだけ忘れ気味だ。



・・・ボクはむしろ、どうしてアナタがあのような仕事をしておられるかの方が不思議です。



彼がそう言ってニッコリと笑うのを見て、香は突然冷静になった。
一気に、気持ちが固まった。
この目の前の、常識的で良心的で友好的で好意的な彼は。
完全に。
棲む世界の違う、生き物だ。と。














香はキッパリと、彼の申し出を断った。
彼もそれ以上は、深く追求する事も無く話しは済んだ。
せめて何か奢らせて下さいという彼の言葉に甘えて、
若い女性になかなかの人気だという、そのカフェのワッフルをご馳走になった。
きっともう、二度と会う事も無い人。
香の人生には一切関係の無い人。
甘いモノをご馳走してくれた人。



香は何故だかハッキリと、この事は僚には言ってはいけない事だと思った。
帰り道。
ふと立ち止まって、香は少しだけ泣いた。
気が付いてしまったのだ。
わざと見ないようにして、これまで生きてきたある事に。









数ケ月前、奥多摩の湖の畔で。
僚に『愛する者』と、言われた。
お互いに生き延びて、何が何でも生き抜こうと約束した。
香はあの時に、改めて僚のパートナーとしてこの世界で生きて行く事を決意した。
兄の代わりでは無い。
足手纏いにはなりたくない。


僚が自分の相棒として、己を選んでくれた事実に少しづつでも応えようと思った。


だから、これから先の人生。
香は僚と同じラインの上に立っていられるように、一切の甘えは捨てようと思った。
結婚や、子供や、家庭や、そんなものと、僚との絆を天秤に掛けた時。
香にとって大事だと思えたモノは、僚との絆とこの仕事だった。
それはきっと。
出家をする尼僧のような心境なのかもしれない。
この世で幸せとされるものが。
僚の傍には無いのなら、そんなものは要らない。


そして、この数ケ月。
そう思いながら生活してきて、それが苦痛だったのかと言われれば、全くそんな事は無く。
むしろ、充実していた。
相変わらず少ない依頼の中でも、全力で僚のサポートをしたつもりだ。
その甲斐あって、ミスする事も無く。
少しは、僚の助けに成れたという実感もあった。


だからその事に気が付いて、香は余計にショックだった。











彼の申し出を断った理由。
彼とは棲む世界が違うから。
彼の事を、あくまでも元依頼人という観点でしか見れないから。
彼の事を、この先もっと知りたいとはどうしても思えないから。
彼の事は、好きでも何でも無いから。

好きな人がいるから。

好きな人は、殺し屋で。

自分はその相棒で。

僚の傍にずっといる為には。




香は僚が好きだ。
愛している。
だから、他人に交際を申し込まれて断った。
そこに僚は関係無い。
香自身の問題だ。
だけど、香は心の奥底で。
望んではいけないと封印してきた気持ちに出逢ってしまった。




僚に愛されたい。


自分が僚を想っているのと同じように、僚に想われたい。
そう思う事は、香に罪悪感をもたらした。
きっと、そんな邪な考えは。
僚が自分を相棒として受け入れてくれた事を、裏切る事では無いのだろうかと思う。

何が何でも生き延びる。

僚とそう約束したからには、それは守られなければならない。
自分の不手際で、自分が死ぬ訳にも、僚を危険に晒す訳にもいかない。
その為には、自分の我儘な恋愛感情など、邪魔なだけだと香は思う。
それでも、香にはそれを完全に捨て去る事など出来そうも無い。










あの時僚は、決してそんなつもりで香に愛する者と言った訳では無い。
ただ純粋に、愛しているからそう言ったのだ。
けれど、相手は槇村香である。
何処でどう間違って伝わったモノか。
香は今、僚の相棒としてこれまでに無く奮起している。
しかしそれは、香の心の中での出来事なので、周りの誰も知る由も無い。
勿論、僚も。




香は夕暮れ始めた街角で、罪悪感に苛まれながら涙を堪えるだけで精一杯だった。






(つづく)








カオリンの勘違いが、あらぬ方向に向いてます(合掌)
“愛する者”という言葉の解釈を巡る、彼女の勘違い噺は結構あるけれど、
コチラ方面は、あまり無いかなと思いまして・・・
元依頼人さんは、あくまでもそのキッカケ作りです(汗)

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[ 2013/01/21 19:14 ] paradox(全4話+) | TB(0) | CM(0)

第2話 人伝に聞くと不愉快な話し

冴羽僚は今夜も、盛り場を徘徊している。


それは何も今に始まった事でも無いが、ここ最近は特に酷い酔い方をすると、
歌舞伎町界隈では、専らの噂だ。
まるで、愛しの相棒が待つあのアパートへ帰る事を、引き延ばすかのように。
しかし、そんな彼が最近よく行く立ち回り先は、ゲイバーか、至って普通のバーである。
綺麗なお姉様方が接客してくれる類の店へは、パッタリと足が遠のいている。
理由は特にない。
気乗りがしないだけだ。
厚化粧の、相棒と同年代かそれ以下の女たちを見て、僚が思うのは化粧っ気の無いパートナー。


化粧などしなくても、艶やかで紅い唇。長い睫毛。肌理細かい肌。
僚は近頃、己の忍耐力の限界を感じる瞬間がある。


数ヶ月前。
僚は気持ちの一端を解いてしまった。
ホンの一部。
僚の心のホンの氷山の一角が、水面に顔を出しただけなのに。
このたった数ヶ月で、僚の心は完全に溶解寸前だ。
こんな気持ちを僚は、今まで生きてきて初めて味わっている。
嫌なわけじゃない。
むしろ、心地良い。否、こそばゆい。切なくて、もどかしい。
多分それは、恋だ。


僚は香を愛しているし、そして同時に狂おしいまでに恋焦がれている。
湖の畔で言葉にしてから、なお一層恋は加速しつつある。


その店は、こじんまりとしてカウンターにボックス席が3つだけの、小さなゲイバーで。
その日僚が店に入ると、もう既にボックス席は埋まっていて、賑やかに盛り上がっていた。
僚はカウンターに座る。
ニッコリと微笑みながら、ママが僚のブランデーのボトルを棚から取り出す。
何も言わずとも、琥珀色の液体がグラスに注がれ、綺麗な丸に削られた氷が落とされる。
僚は受け取ると、クッと3分の1ほど呷る。
この店のママ(元男)が、細いメンソールの煙草を燻らす。
煙草を挟んだ指の先には、毒々しいまでのラメを含んだマニキュアが施されている。



ねぇ、リョウちゃん。

あ~~ん?何?

私この前、香ちゃんが男の人と一緒の所見掛けたのよ。

・・・男ぉ?

ええ、すっごいイイ男。あ、勿論、リョウちゃんもイイ男よ?でも、なんて言うの?知的な感じ?

・・・悪かったな。どうせ俺は、筋肉バカっぽいょ

誰もそんな事言って無いじゃなぁい(笑)ふふふ。リョウちゃんの場合、ワ・イ・ル・ドって言うの

フン・・・モノは言いようだな。




相方の目撃情報、しかも知らない男との密会現場と聞いて、僚の機嫌が一気に悪くなる。
無意識に眉間に皺が寄る。
ママ(元男・46歳)は煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、クスリと笑う。



そんなに心配なら、モノにしちゃいなさいな。香ちゃんの事。

あん?誰が? アイツが誰と会おうが知ったこっちゃねぇっつ~~の(苦笑)

あら。でも、そんな顔じゃ無いじゃない。ココん所、険しいわよ?



ママはそう言って、自分の眉間を指でさしながら笑う。
僚はますます、不機嫌になる。
残りの酒を一息に呷ると、ガタンと音を立てて席を立つ。



帰る。



そう言って店を出る僚の背後に、ママがにこやかに手を振りながら。
元気出してねぇ~~~、と脳天気な声を掛ける。




僚はトボトボと歩きながら、考える。
知的なイケメン。
一体、何処のどいつだと。


俺の女に近付こうなんて、良い度胸してんじゃねぇか(怒)


しかし、僚がこう思うのはあくまで心の中だけである。
これを言葉にして、相棒に伝えれば済む話だが、
そんなに簡単に済む話なら、6年間もモヤモヤしていない。







僚がその日2軒目のバーの、分厚いオーク材の扉を開けるとカウンターに見慣れた金髪が座っていた。
僚は何やら嫌な予感めいたモノを感じて、そのドアを開けた事を若干後悔した。
しかし入った瞬間に、堕天使とはシッカリ目が合った。
ココでUターンしたら、後々ますます面倒臭いので、何食わぬ顔でミックの隣に座る。



よぉ。

おぅ。



出だしは通常通り、大した事も無く淡々と言葉が交わされる。
主に、猥談である。
1時間ほどは、何事も無くゆっくりと酒を呑んだ。



あ、そう言えば。リョウ、お前。

あん?何?

カオリに捨てられるのも、時間の問題だな

・・・・・何だょ、それ(ムスッ)

実は、カオリのデート現場の目撃情報が、オレの元に続々と寄せられている。

・・・・何で、お前の元なんだょ。テメェにゃ関係ねぇだろうが

Oh,リョウ。ファンクラブのネットワークを舐めて貰っちゃ困るよ。

ハンッ! まぁだそんなモンあったのか。とっとと解散しろ、馬鹿馬鹿しい。

それは、君に言われる筋合いの話しでは無い。

・・・・フンッ、どいつもこいつも香、香って馬鹿じゃねぇの。




僚はそう言うと、苦々しい顔でグラスの酒を飲み干した。
そして2軒目も、不機嫌になって後にした。
まだ時刻は、日付をまたぐかどうかで。
ここ最近の僚にしては、まだまだ宵の口である。
けれど、その日はもう外で飲む気にはなれなかった。
仕方が無いので、僚の足は自宅方面へと向かう。












冴羽アパート前の舗道で、僚はふと立ち止まる。
6階リビングには、灯りが点っている。
時刻は0:07
まだまだ、香は起きている時間だ。
ちょうど、風呂上りくらいか・・・。
僚は無意識の内に、軽く溜息を漏らす。


リビングの扉を開けると、僚の予想通り風呂上りでパジャマ姿の相棒が髪の毛を乾かしていた。
部屋中に立ち込める、甘いシャンプーと石鹸の薫り。
パジャマから覗く、温まってほんのりと色づいた首筋。
潤って艶やかな肌。
パジャマの肩に掛けられた、ベージュのバスタオル。
己の発する色香に全く無頓着な、無防備な相方。



おかえり~~、今日は早いね。

あ、あぁ。たまにはな。



ニッコリ笑って香が言った。
僚の目には、香はいつもとなんら変わり無いように見える。
僚の脳裏に、奴らの目撃情報とやらが掠める。
ココに帰り着くまでの数分間。
僚はそれらの情報に都合良く自分なりの解釈を付けて、自分を誤魔化してみた。
どうせ、依頼人との顔合わせだろう、と。
しかし、いつもなら。
それならそれで、その前に僚には報告が有る筈なのだが、
その点は忘れたんだろう、とこれまた都合良く解釈する。
数十秒、僚はそんな事を思い返しながら、ぼんやりと香の方を見詰める。



なぁに?どうかした?



そう言う香の声で、僚はハッと我に返る。
香はドライヤーのスイッチを切り、訝しげに僚を見ながら首を傾げている。




あ?・・いや、別になんも。

・・・そう?何か、変だょ?具合でも悪いの?

ああ。どうもしねぇって(苦笑)

そう、何か僚がこんなに早く帰って来ると、却って心配になるね。どっか悪いんじゃないかって(笑)

・・・・・どういう意味だょ(膨)

あはは、そのまんまの意味。




香は至って明るい。
実は香は、数日前の突然の元依頼人からの交際の申し込みで、
気が付いてしまった己の本心を誤魔化す為に、必要以上に明るく振舞っているのだけど、
生憎僚は僚で、件の目撃情報とアルコールのせいで鈍った判断能力では気が付かない。
今の所、完全に誤魔化されてしまっている。





あ~、お前さぁ。

ん~~?

あぁ、え~~と。依頼とか、なんか入ってる?

どうして???無いわよ。あったら言うでしょ?

ん、ぁあ。まぁ、そうだけど。

僚から、仕事の話しなんて珍しい。お早い御帰りといい、今の発言といい、明日は雨かな(笑)

・・・・なんか、それすっごい皮肉に聞こえるんだけど。

あ、解った? 一応、日頃の行いに自覚はあるんだ。良かった良かった。

・・・・・、もう寝るわ



僚は苦笑しながら、リビングを後にした。
今なら、風呂も温め直さずに沸いている。
僚は風呂に入って寝るべく、ガックリと肩を落としてバスルームに向かう。


香は僚の出て行ったドアを暫く見詰めた。
この数日、香はあの日気付いてしまった事に絡め取られそうになる思いに蓋をするのでやっとだった。
僚と向かい合っていると、僚が好きだと言う気持ちで一杯になる。
歯止めが効かなくなっていると、自分でも感じる。
だから、さっきは少しヤバかった。
まさか僚がこんなに早く帰宅するとは思ってもみなかったので、油断していた。


/////やばい、ドキドキして死にそう






一方、バスタブに身を沈めた僚は、知らず溜息の連発である。
直球で、デートの件を問い詰める勇気も無く。
かと言って、気にしないでおく事など出来そうも無い。
明日にでも情報屋をあたって、詳細な情報を引き出す段取りをとる己の姿が容易に想像出来る。


知的な感じのイケメンねぇ・・、こりゃ参りましたね、と。


僚の虚しい呟きが、バスルームのタイルに木霊して、湯気と共にお湯に消える。








勿論僚はまだ、香の身に起こったそんな出来事と、心の状態など知る由も無い。
彼らは、その夜もすれ違い続けていた。
結論は、2人して同じだ。
相方を愛している、ただそれだけの単純な事だ。
けれど、それが真っ直ぐに結論へと帰結するとは限らない。



彼らはもう6年も、この不可思議なパラドックスの世界で悶々としているのだ。




(つづく)





[ 2013/01/23 21:58 ] paradox(全4話+) | TB(0) | CM(0)

第3話 狼は付け入る隙を見逃さない

更に数日後。


僚は馴染みの情報屋から、詳しい事が判ったとの報告を受け、
早速、詳細を聞き出す為にその情報屋と接触していた。
勿論、香にだけは知られてはならない。
香は今頃、僚は街中でナンパしていると思っている筈だ。










その頃、冴羽アパートには良く見知った男が訪れていた。



ゴメンね、ミック。お茶受け何にも無かったから、早速これ開けちゃった。



そう言って香が、リビングのソファに掛けたミックの元へと戻って来た。
手には淹れたてのコーヒーと、ミックが手土産に持って来たマドレーヌを乗せたトレイを持っている。
僚がナンパに出ている時に、良くありがちな午後の一コマである。
始まりは和やかムードの、ご近所さん同士のティータイムだった。












・・・どうやら、お相手はお宅らの元依頼人だよ。野村って弁護士、覚えてるかい?


そう言った情報屋が、気の毒そうな同情混じりの視線を寄越してくるのを、
僚は曖昧な笑みで受け流しながら、彼に数枚の紙幣を握らせる。
覚えていない筈は無い。
香には常日頃、オトコの依頼人の事など仕事が済んだ時点で記憶から抹消する、などとのたまう僚だけど。
実際には、そうもいかない。
忘れたフリをする事はあっても、僚はこれまでに受けた依頼の大半は明瞭に覚えている。






『ボクは、香さんに惚れてます。』




その男は、依頼を終えてアパートを去る間際に、僚にそう言った。
確か、3ヶ月ほど前。
彼は当時、抱えていた裁判絡みで命を狙われており、教授経由でガードの依頼を受けたのだ。


あ、そう。
でもアイツぁ、誰のモンでもねぇから。
俺のモンでも、勿論アンタのモンでも無い。


そう答えた僚に彼はフフと笑うと、それ以上は何も言わず男2人で屋上で煙草を吹かした。





僚はその時の事を思い出して、忌々しげに顔を顰める。
最近では、もう大概でこの類の話しが心底イヤでしょうがない。
依頼人の男。
ミック率いる、近所の自称ファンクラブ会員の男共。
香の立ち回り先に潜む、様々な男。
そのいちいちに、僚の監視が行き届くとは限らない。
その忌々しい男共が、相棒の事をどういう目で見ているのか。
その全てを把握する事など、完全には不可能で。
僚は香を、誰の目も届かない場所に閉じ込めておきたいという危険な衝動に駆られる。


クソッ、アイツか


僚は煙草のフィルターをギリギリと噛み締める。
ナンパをする気力など、とっくに失せている。











ミック、これ凄く美味しい 

そうかい?お気に召して貰えて何より(クスッ)

ミックが持って来てくれるお菓子、必ず美味しいモンハズレなしだょ~~~

ふふふ。ボクとカオリは、好みが合うのかもしれないね。





勿論、好みが合うというよりは、むしろミックが香に合せているのだ。
目的はただ単に、気に入られたいからである。
モグモグと焼き菓子を食べながら、幸せそうに微笑む初恋の君に。
ミックは少しだけ、加虐心を擽られる。
ミックの悪い癖なのだ。
さり気なく、この日の訪問の最大の目的へと話しを誘導する。



カオリ、君ココの所何か悩んでるんじゃないかい?

・・・・・え?! なななな、何の事?


相変わらず、香は嘘を吐くのがヘタクソで。
思わずマドレーヌを喉に詰まらせそうになって、慌ててコーヒーを啜る。





誤魔化さなくても平気だよ、カオリ。君を見てれば分かる事さ。ボクで良ければ相談に乗るよ?

・・・・・、ホントに何も無いわ。  でも、ありがとうミック。

ホントに? 例えば、元依頼人の男性に告白されたとかかなぁ、なんて思ったんだけど?

・・・!!!

図星かな?




ミックは楽し気に香を翻弄する。
元来ミックは狼のような男で、香は仔兎のような女なのだ。
ミックは時々、その生来の狩猟本能とも言うべき鋭い牙を、柔らかな初恋の君の喉元に立てたくなるのだ。
本能なので仕方ない。



・・・・・・なんで?



香の声は、小さく掠れている。
その様子は、酷く怯えている様にも見える。
すると途端にミックは、今度はそんな香を慰めたくなってくる。
ミックほど、面倒臭くて厄介な相手もいない。
世慣れた大人の女ですら簡単に手玉に取る男なのだ。
香がミックの術中に嵌められる事など、容易い事だ。



カオリ、ボクもこう見えてリョウと同類の男だって事、知ってるだろ?

・・・・誰にも、話すつもりは無いの。

どうして?リョウの為? でもそれなら何も悩む事は無いよね、断ればそれで終わりだ。

断ったわっっ!!




ミックの誘導につい乗せられて、香が声を荒げる。
直後に、ハッと気が付いて己の口を手で塞ぐ。



じゃあ、どうして悩む事があるんだい?



ミックの言葉が、香の心に突き刺さる。
そうかもしれない。
僚が好き。
単純な話しなのかもしれないけれど、それは香にとっては簡単な事では無いのだ。
そうやって、正々堂々胸を張って言えるというのは、きっと強い人の論理で。
香には出来ない事だ。
恋愛感情以前に、2人は仕事のパートナーだ。
仕事と言っても、そんじょそこらのサラリーマンとOLでは無いのだ。
香は俯いて黙り込んでしまう。
またあの日の帰り道のように、涙が出そうになる。


ミックは俯いてしまった香を見て、泣かしちゃったかな?と、少しだけ反省する。
どうやら、このポイントは香にとっても僚にとっても、非常に脆いエリアらしい。
傍から見れば、もう既に完成された2人なのに。
こうして無意識に隙を見せたりするから、狼は付け込みたくなったりする。
ソファの上で少しだけ、ミックが香との距離を詰めた事に、動揺している香は気が付かない。



カオリ?君は、どうしてそこまで。なんで、アイツじゃなきゃダメなんだい?



ミックは名前こそ言わないモノの、それは僚の事で。
それこそ香には、触れられたくない事。
香の僚への恋愛感情。




わ、私は、前と何にも変わらないわ。前にミックに言ったのと同じように、私は僚のパートナーなの。
僚の敵には、迷いなく弾丸を撃ち込むし、僚の敵は私の敵。それだけよ。




それはいつか、壊れかけた廃ビルの屋上で香がミックに言った事である。
ミックはあの時の事を、鮮明に思い出す。
追い詰められれば追い詰められるほど、香はぞくぞくするほど美しい女になる。
僚も筋金入りの天邪鬼だが、香とて素直じゃないのは明白だ。



ボクも、あの頃と何も変わらないさ。今でも、君の事が・・・

それ以上言わないでっっ!!



香は思わず、両手でミックの口を塞ぐ。
この時漸く、ミックが思いの外近くに座っている事に気が付いた。
とうとう堪え切れなくなった涙が、頬を伝う。



ミックも、かずえさんも、私の大事なお友達なの。お願いだから、そんな事言わないで?



ミックは口に当てられた香の手を、やんわりと掴む。
次の瞬間、あっという間にソファの上に香を組み敷く。



ごめんよ、カオリ。君を泣かすつもりは無かったんだよ。



そう言って、香の頬に伝う涙をそっと指で拭う。
香は突然のミックの行動に、唖然として固まっている。
まるで、あの廃ビルでの決闘の時のようで。
あの時は、ここで僚が来たんだっけ、なんて思い出す。


香にも、ミックにも、僚にも、あれから随分時間が経って色々と変化はあった。
ミックにも、初恋とはまた違った形の愛が訪れた。
勿論、彼女の事はミックにとって、何より大事で。
香が言うようにこれ以上踏み込むと、自分達の関係に深刻な亀裂が生まれる事は間違いない。
そんな事は重々承知の筈だけど、ミックにはどうしても解せないのだ。


ミックが必死の思いで諦めた、この目の前の初恋の君は。
いつだって、自分の気持ちを抑えようと我慢している。
あの天邪鬼の僚相手にとても敵うはずなど無いのに、一生懸命抗っている。
自分の恋心に。
それはそばで見ていて、痛々しくて。
いっそ、諦めなければ良かったか、なんて未練たらしい事を考えてしまう。
香が幸せじゃ無ければ、自分が身を引いた意味が無いではないかと。












ヒトん家のリビングで、良い度胸じゃねぇか ミック。




ご機嫌ナナメで帰宅した僚を待ち受けていたモノは、更にその不機嫌に輪を掛けるモノだった。
組み敷かれた香の頬には、涙が伝っている。
それだけで、僚の喉の辺りがカッと焼けたように熱くなる。


こんな状態で僚の声がして、香は一気に冷静になる。
ミックの腕から身を捩って自分の腕を振り解くと、ドンとミックの胸を突き飛ばして起き上がる。
そのまま僚の顔を見る事も出来ずに、香は客間兼自分の部屋へと駆け込んだ。


僚は香の事が気掛かりだったけれど、
ひとまずはこの目の前の、元相棒・現間男のミック・エンジェルに殺気全開で向き合う。



どういう事だ?テメェ 死にたくなったか?

熱くなんなよ、リョウ。ただの、恋愛相談さ。

テキトーな事、抜かしてんじゃねぇ。



普通の人間なら、その殺気だけで怯んでしまいそうな気配にも、ミックは動じない。
飄々と僚の殺気を受け流し、ソファから立ち上がると僚と擦違い様に僚の肩に拳を入れる。



テキトーなのは、テメェの方だろうが。これ以上、カオリを苦しめるのなら、
マジでカオリに手ぇ出すぞ。



ミックも負けず劣らずの殺気を放って、そう言った。
しかしそれも一瞬の事で、玄関に向かって廊下を歩きながらミックは背中を向けたまま僚に手を振る。



ま、せいぜい頑張んな。新宿のお馬ちゃん

っるせぇ、大きなお世話だっつ~の!!



ミックが出て行ったリビングで、僚は盛大な溜息を吐く。
この世の中に、男など自分1人で充分だ。
モッコリスケベの自分の事は棚上げして、
僚は香に近付く可能性のある全ての男の煩悩が、消え去ればイイのにと本気で思う。



もうそろそろ、覚悟決めなきゃいかんって事か。



僚は誰に言うでもない言葉を、ポツリと漏らす。
ミックに言われるまでも無く、僚とてそう易々と自分の女を他人に掻っ攫われる気はサラサラ無い。
この世の中で、誰よりも深く香を愛しているのは己だと思っている。
後はその気持ちを、言葉にして伝えるだけなのだ。






(つづく)










あわわ、カオリン泣かせちった(反省)
こんなのイヤンなカオリスト様、おられましたら申し訳ありません(汗)
次回、ちゃんと幸せ展開になる予定ですので、ご容赦を~~
[ 2013/01/24 13:50 ] paradox(全4話+) | TB(0) | CM(0)

第4話 ただ単純に好きってだけ

僚は、客間兼香の部屋の前で、もう1度小さく深呼吸した。


ついさっき、リビングで意を決した筈が。
香の部屋のドアをノックしようとして軽く握った左手が、若干震えている。
僚は自分でも、何だか可笑しくなる。
たかだか、女1人に。
こんな風に、心を掻き乱されるなんて。
まるで、初恋じゃねぇかと。



ミックとソファの間に挟まれて、泣いていた所を見ただけで。
僚の本能は、ミックを撃ち殺す寸前だった。
寸での所で、僚の理性を繋ぎ止めたモノは、それはやはり香で。
冴羽僚は、槇村香が居るから。
牙を剥いた猛獣にもなるし、飼い馴らされた番犬にもなる。


僚の心を動かして、掻き乱して、操縦する事が出来るのはこの世で唯一、香だけだ。



僚には正直言って、香に訊きたい事が山ほどある。
元依頼人のあの男に呼び出されて、一体何の話しをしたのか。
ミックとどういう流れで、あんな“恋愛相談(ミック曰く)”になったのか。
更に言うなら恋愛相談って、誰と誰の?とか。
俺とこの先、どういうスタンスで生きて行く心積もりなのか。
俺の言った“愛する者”と云う、決死の告白の台詞を一体どう考えているのか。
俺がお前を置いて、飲みに行く事やナンパに行く事には、正直どこまで妬いてんのか。
大体、お前は俺の事好きなのか?って事とか。



色んな事をグルグルと考えながら、僚は思わず客間のドアを開ける。
ノックをしようと思って準備したはずの左手は、行き場を失ってジーンズのポケットの中に収まる。



あ、え~と。その、入ってもイイか?



先程のミックに対する番犬振りとは、まるで別人の頼りない感じの言葉と勢いに、流石の僚も。
どんだけヘタレなんだと、自分自身で内心激しく突っ込む。



って、もう半分、入ってんじゃん(鼻声)



そう言って、盛大な鼻声でツッコミを入れる相棒に、僚は内心ホッとする。
ベッドの傍らのラグの上に、ペタリと座り込んで。
ティッシュボックスを抱えて、僚を見上げる涙を湛えた大きな目の縁は赤く。
涙と鼻水を噛んだのであろう丸まったティッシュが、香の傍に小山を形成している。


あ、まぁ、そうだな(苦笑)



そう言って、決まりが悪そうに頭を掻く僚に。
香は泣き笑いの顔で、クスリと笑う。
結局僚はいつだって、あんな風にちょうど良い所で現れて、香の事を助けてくれる。
きまり悪そうに苦笑するスケベでぐうたらな、でも心強いパートナーなのだ。
きっと僚も昔から、何にも変わって無い。
そう思うと香は嬉しくなった。


あの屋上で、ローマンを渡してくれた、
いつだったか、2人でシティハンターだって言ってくれた、
誕生日を必ず生きて迎えようと誓った、何が何でも生き延びると言ってくれた、
色んな僚がいて、今この目の前の僚がいる。
それだけで。
この数日、悩んでいた事などもう馬鹿馬鹿しく思えた。
僚の愛はいつでもココにある。
この2人のありふれた日常に。
香は突然、その事に気が付いた。
気が付くと、自然に笑顔になっていた。






涙で頬を濡らして、洟をスンと啜る香がしゃくり上げながらニッコリ笑った。
それだけで僚の頭の中の、香に訊いてみたい事の色々が。
まるで霧が晴れて行くように、消えてしまう。
もうそんな事はどうでも良くなってしまう。
今ココに、香と2人でいて。
誰かが香にちょっかいを出そうとしているとか、
その事に香自身は全く気が付いていないとか、
香は男というモノを全く解っていないとか、
大体、香自身は俺を何処まで男として見ているんだろうという素朴な疑問なんかより。
もっと大事で単純な事は。
僚自身が、香を好きで堪らないという事。


世界はもっとシンプルでも成り立つし、回っていくんじゃないかと僚は思う。
口にする言葉は必ずしも、真っ直ぐな結論を導くとは限らない。
それを複雑にするのも、遠回りするのも、素直になるのも。
それは多分、お互いの心1つでどのようにも変わる。
その事に、僚は香の笑顔を見て突然気が付いた。







りょお。

ん?

・・・ありがと。

なにが。

ん、色々。

お、おぅ。

私、僚がすきだょ。

・・・・・・。(呆然・照)

ぁ、いや、あれだょ、あ~~の LIKEの方だょ、LIKE





僚はもう、迂回路は選ばない。
今この瞬間から、2人のパラドックスのような世界をシンプルにしてしまおうと決めた。
真っ赤になって素直じゃない言い訳をする相棒に近付くと、座った姿勢で抱き寄せた。


香は一瞬、何が起きたのか解らなかった。
僚が急に近寄って来たから、香の傍にあった丸めたティッシュの山がフワリと散らばる。
香は思わず、あ。と思ったけれど。
僚に抱き寄せられたのだという事に気が付いて、それどころでは無くなった。




因みに俺は、LOVE の方だ。




香の耳元で、僚が囁いた。
望んではいけないと勝手に思い込み、言葉はいつだって裏腹だった。
香の頬に、新しい涙の粒が転がる。



ごめん、嘘吐いた。私もやっぱり、・・・LOVE の方で//////


香のその言葉を聞いて、僚は漸くその艶やかな唇に辿り着いた。
シンプルで純粋な、2人の愛情を確認する為に。






(おしまい)







えへへ、結局はこうなるんすょ。
ミック残念(笑)
カオリンが泣いてばっかりでした orz
でも最後は、うれし泣きで(*´∀`*)
[ 2013/01/25 22:51 ] paradox(全4話+) | TB(0) | CM(2)

+オマケの話し  制裁はお早目に

「Sorry,カオリっっ 許してくれよぉ~~。もう絶対しないから(誓)、ねっ」




午後の喫茶キャッツ・アイ。
今現在、来客は2名。カウンターの内側には、この店の店主夫妻。
カウンターを挟んで、何やら揉めているのは。
この店1番の常連客・槇村香と、ソコソコ常連のジャーナリスト、ミック・エンジェルである。
しかしこの光景は、結構珍しい。


日頃、香のお怒りに触れるのは専ら、彼女の相棒の冴羽僚であり、
香とミックは、大抵仲良くお喋りしている事が殆どで。
このいつもと違う、香とミックのケンカの成り行きを、伊集院夫妻は興味深く傍観している。
しかし、あくまでもコッソリと。
ココでヘタにどちらかの肩を持てば、この揉め事に巻き込まれかねない。
全員が全員、裏稼業の人間だがこのメンツを持ってしても、
香がキレた時の、ハンマーやコンペイトウの矛先が自分に向くのは恐ろしいのだ。
ある意味では、香は世界最強だと全員確信している。
そしてまたこの恐怖を、愛故に、日常的に、
全て甘んじて受け止めている冴羽僚の愛の深さは、偉大だと再認識している。
もっとも、彼女を怒らせなければ全く問題無いのだけれど。



ミックが来店して、9分と34秒。
ミックは香に、謝り倒している。
それまで美樹と楽しそうに、ベランダで育てている野菜たちの生育具合を話していた香は。
ミックに挨拶すらせず、一切目も合わせず、そっぽを向いて黙り込んでしまった。
どうやら香は、ミックとは口を利く気も、許す気も無いらしい。


かれこれ10分近くの、そんな膠着状態に美樹が香の前にコトリとカップを置いた。
それまで飲んでいたいつものブレンドとは違う、薫り高い薄い茶色の液体。



アールグレイよ、たまにはお茶もイイでしょ? 私からの奢りょ♪

あ、ありがとう、美樹さん。 良い薫り。

そうでしょ?



そう言って美樹がニッコリ微笑む。
香も漸く微笑む、しかしミック・エンジェルの存在は空気と見なす事にしたらしい。
香が美味しそうに、コクリと紅茶を一口飲む。
少しだけ思い出しかけて不機嫌になった、自宅リビングソファでのミックとの顛末を頭の隅へ追いやる。



それで?何があったの?あなたたち。



美樹は少しだけ楽しそうだが、香はその事には気が付かない。
少しだけ眉根を寄せて、唇を尖らせると、香はチラリとミックの方を見る。
ミックは眉をハの字に下げ、両手を合わせて香を拝んでいる。
まるでアメリカ的とは言えない、謝罪の作法である。
なんなら土下座でもしそうな勢いだ。
香は美樹に向き直ると、ますます眉を潜めて短く答える。



この前、ウチのリビングで・・・ミックに押し倒されたの。

まぁ。・・・幾らなんでも、直球ね(汗)



美樹の言葉に、ミックがたはは、と乾いた笑いを漏らす。
香は、どうしてそこに至ったかの説明は避けた。
そこから話すと、長くなる。
香には解り易く簡潔に、端折るという事が不可能に思えたのだ。
この問題を初めから話す場合、弁護士・野村の件まで話す必要が出て来る。


それに香が僚を『好き』って、話しも。
勿論そんな事は、香以外の全員が知っている周知の事実だけども、香はバレていないと思っている。
今更、恥ずかしがって照れているのは、当の香本人だけだ。



それで、ミックが謝ってるってこと。
でもアナタ、良く無事だったわね?冴羽さんに殺されても文句は言えないわよ?



美樹は面白そうに、ミックに言った。
ミックは、僚の名前を聞いてあからさまに顔色が悪くなる。
只でさえ白い顔が、白を通り越して蒼白い。
額には、妙な汗を流している。



ハハハ、ミキ。それは今ボクが、最も考えたくない事柄の1つだよ。

ミックが変な事するからでしょ? 僚は悪くないわ。



漸く香が放った一言で、ミックはまたもガックリと肩を落とす。
どうやらあの後、香と僚は何やら小さな進展があったらしい。
元依頼人のアプローチや、ミックのけしかけが功を奏して、
漸く、本命にだけ奥手な種馬が、覚醒したという事か。



だぁかぁらっっ、それはボクの作戦だったんだって!!

どおいう意味?



ミックをキッと睨んでそう訊ねる香に、ミックは不覚にもきゅんとする。
気が強そうでそのクセ、恋の駆け引きや手管を一切理解できない初恋の君は、
たとえ怒っていても、可愛いモノは可愛いのだ。
ミックは思わずニヤケてしまう。
ニヘラァと笑っただらしない顔で、香に言った。



だぁってぇ、あの後。モヤモヤしたリョウがカオリに、チュばこんっっ



皆まで言わさず、香がミックめがけて『不埒者天誅・ハンマー/200t』を振り降ろしていた。
真っ赤になった香は、全身からもうもうと湯気を上げている。
どうやら、ミックの謝罪は受け入れて貰えなかったらしい。



もうっっ!!ミックのバカッッ!エッチ!! 絶交よっっ。



香はそれだけ言うと、カウンターにコーヒー代を置いて出て行った。
美樹は呆れたように笑いながら、毎度ありがとうございましたぁ~~と呟いた。
海坊主は、フンッと鼻を鳴らすと奥に箒と塵取りを取りに行った。
この床に大きく開いた穴の修理代は、ミック・エンジェル・オフィス宛に請求書を回す事になる。




しょ、しょんなぁ~~~。カオリ~~、絶交は嫌だぁ~~~(泣)



大きな木槌の下で、ミックはさめざめと咽び泣いた。
しかし、この時のミック・エンジェルはまだ知らない。
そんな事があった昼下がり、冴羽僚が教授宅を訪れていた事を。


僚が会いに行った相手は、教授では無くかずえだ。
数日前の、冴羽家リビングでのミックの所業。
先月半ばに開催された、キャビン・アテンダントとのミック主催の合コン。
ここ最近の、ミックご贔屓のキャバ嬢の源氏名一覧。
まだまだ、僚が知り得るミックの叩いて出る埃は数多あれど、
今回の件は、その位の情報と等価だと僚が判断した。
お互い色々と、切り札を手の内に隠している。



ミック・エンジェルの受難は、もう少し続く。









ミック、踏んだり蹴ったり(合掌)
[ 2013/01/26 21:18 ] paradox(全4話+) | TB(0) | CM(0)