① 槇村さんと冴羽さん

※ 中位の長さの、お話しです。パラレルです。
※ リョウちゃん→謎多き、探偵(?)
※ カオリン→デリヘル受付(電話番)。リョウちゃん常連。







「ねぇねぇ、それで?君の名前は?」
「槇村です。」
「いやだから、それは知ってるって。下の名前が知りたいの、ボク。」
「特にありません。ただの、槇村です。」

この客は、常連だ。週に1度はこの店を利用する。
名前は、サエバ。年の頃、30代前半といった所か。
それは別に良い。香の知った事では無い。
しかし、香が電話を受ける度にしつこく名前を聞いてくるのには、
正直、辟易している。

香は8か月前まで、某外資系商社に勤める、OLだった。
ある時ふと、全く違う世界を覗いてみたくなった。
毎週合コンを設定しては、人員確保の為香を駆り出す、結婚に焦った同僚も。
スキンシップとセクハラをはき違えた、やらしい上司も。
ミスは全て人のせいにする、能の無い男性社員も。
ある朝起きると、そんな全てが突然嫌になった。
そして、モーニングコーヒーを飲みながら、辞表を書いた。

別に暫くのんびりしても、困らない程度の蓄えもあるし。
少しだけだが、財テクとやらも齧っている。
転職先をゆっくり見付けながら、
学生時代の友人たちと、久し振りに会って食事をしたりした。
田中は、その中の1人。
高校生の時の、気のおけない男友達だ。
皆それぞれ、真っ当な職業に就いている中で、彼は異彩を放っていた。

新宿のネオン街から、少し外れたマンションの一室。
3LDKの、何の変哲も無いその部屋は、デリヘル嬢の待機所だ。
香は半年前からここで、受付を任されている。
一見の客はいない。全てが、リピーターで客層はまぁ、悪くないだろう。
田中は香が、ある朝発作的に仕事を辞めたのを気にかけて、
自分がやっている、この店で電話番をしないかと誘った。
ちょうど、人手が足りなくて、と。
何故だか、香は頷いていた。
少しだけ、今までとは全く縁の無い世界を、見てみたかったのかもしれない。

ココで働く女の子達は、皆至って普通だ。
確かに、少しだけ派手目な子もいるが、殆どが普通の子だ。
色んな事情があるんだろうケド、そこはお互い触れないのがマナーだ。
もっとも、中には自分から話す子もいるが、そこはその場だけで聞き流す。
それが、鉄則だ。
皆、ココだけの名前を持っている。
仕事の時だけ、本当の自分からもう1人の自分へと、切り替える。
例えば、ココでアキナちゃんと言えば、それ以上でも以下でもないし、
それ以外に、誰も詮索しない。
ただの、アキナちゃんで。明るくてちょっとエッチな19歳の女の子だ。
そういう設定で、この世界を生きている。

だから香も、ココではただの、受付の槇村さんだ。
女の子達も、それ以上何も訊かないし、そういうもんだと思っている。
だけど、この常連のサエバと名乗る男は、愉しそうに香に名前を訊ねる。
以前の職場では、名前を名乗るのは常識だったが、
ココではその必要は無い。
どうしてだか解らないが、ココで名前を聞かれる事は、妙に香の癪に障る。
別に、教えた所でどうなるモンでも無いし、
それこそ、適当な名前を言えばイイのかもしれないが、
妙に意地になって、香も答えない。
ココ1~2ヶ月は、言ったら負けだと香は自分自身に言い聞かせている。
半分は、このサエバと言う男との、根競べの様になっている。

「別に、大した名前じゃありません。何処にでもいる普通の名前です。それに生憎、バストはBカップです。」
サエバは、特に贔屓の女の子がいる訳では無い。
指名もしないが、チェンジも無い。
どうやら、ストライクゾーンはかなり広めだ。
そんな中で、唯一と言ってもイイ好みが、どうやら胸の大きな子らしい。
あまりにもしつこいので、思わず香はそう口走った。
電話の向こうで、男がクツクツと笑っている。
「面白いね、槇村さん。最高。しっかり、覚えときます。」
そう言われて、香はハッとした。何を口走っているんだと。
「いえ、忘れて下さい。本日は、カレンちゃんを寄越します。120分コース、承りました。」
「はぁ~~い❤待ってまぁあっす。」

名前を言うのは、あんなに抵抗があったのに。
バストのサイズなど、アッサリぶっちゃけてしまった。
普通、その方がよほど恥ずかしい。
しかし、何故だか香は名前を言わずに済んだことに、満足していた。
この世界に足を踏み入れて半年、確かに今まで知らなかった事はイッパイ学んだ。
そして少しだけ、面白いと思っている自分がいる事に、
香は少なからず、驚いている。


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[ 2012/08/27 21:09 ] 君の名は(全5話) | TB(0) | CM(0)

② コンビニ 

実は香には今、彼氏は居ないが気になっている人がいる。
と言っても、それはまるで中学生の淡い恋心というか、恋でも無いと言うか。
ただ本当に、気になっているだけ。

香は新宿のとあるマンションで、独り暮らしだ。
はじめ田中の誘いに頷いたのには、
仕事場が、歩いて行ける程の距離だった事もあるかもしれない。
会社でのストレスと同様に、朝の地下鉄に乗ってへとへとになるのも、
正直、辞めたくなる原因だったかもしれない。

そんな香が、受付の仕事を終えて帰途に就くのは、
これまでと違って、朝方だ。
駅へと向かう人の波に逆らって、家に帰る。
この生活になった当初は、それだけで大きな開放感があった。
昼夜逆転。夕方から働いて、朝帰る。
それだけで、これまでよく利用していたコンビニで見かける顔も、
全く違った。

そして、そんな中に彼がいる。
年齢は、30代前半ぐらいか、凄く背が高くて。かなり、イケメン。
いつも恰好は、見事なまでにバラバラだ。
早朝から、ピシッと三つ揃いのスーツを着込んでいる事もあれば、
ジーンズにTシャツの時もある。
ますます、ワケが解らないのは、作業服のようなツナギの時もあった。
かと思えば、思いっきり、それパジャマでしょ?と、ツッコミたくなる時もある。
そんなミステリアスな彼を、つい目で追ってしまう。
1度だけ、彼と言葉を交わした。

「あ、ごめんなさい。ありがとうございます。」
「いえ、どう致しまして。」

香がレジで精算をしていて、彼が後ろに並んだ時だ。
返された釣銭を、財布に戻そうとしていて焦って、
逆に小銭をばら撒いた事があった。
それを彼が拾ってくれたのだ。
それまでも、少しだけカッコイイななんて思っていたから、
その後は、ますます気になって、コンビニに入る時には彼の姿を探してしまう。

運よく彼がいると、気付かれないようにコッソリ、
彼の籠の中を、覗いたりする。
籠を使っている時もあれば、煙草だけを買って出て行く事もある。
彼の煙草の銘柄は、マールボロだ。
ボックスよりも、ソフトパッケージが好みらしい。
大抵は、煙草や新聞。時々、グラビア雑誌を立ち読みしている。
籠を使うときは、大抵ビールを買っている。
ヱビスビールの350ml缶。6本パック。

彼の左手の薬指に、指輪は無い。




この数ケ月、僚はコンビニで、超マブイ女の子を良く見掛ける。
モデルのような、スラッとしたスタイル。柔らかそうな、明るいショートカット。
いつも、違うデザインではあるが、大抵パンツスーツを着ている。
眼鏡を掛けている時と、居ない時がある。
長くて細い脚も、キュッと上がった小さなヒップも、
バッチリ、僚のどストライクだ。そして、超が付くほどの別嬪だ。
1度だけ、彼女と口を利いた。

「あ、ごめんなさい。ありがとうございます。」
「いえ、どう致しまして。」

先にレジで精算をしていた彼女が、小銭をばら撒いた。
後ろに出来た行列を気にして、焦っている彼女は妙に可愛かった。
それまで、どちらかと言うとキリッとして、綺麗な感じの印象が、
その時、ふと可愛いと感じられた。
頬を染めて、僚に礼を言った彼女を、思わずいつものノリでナンパしそうになった。
けれど、それは思い止まった。
毎朝、彼女をコッソリ愛でる楽しみを優先した。
警戒されて、コンビニを利用する時間をずらされたら、
朝のお楽しみが、無くなってしまう。

彼女の使う籠の中身を、コッソリ確認する。
牛乳、野菜ジュース、ヨーグルト。
新発売のお菓子。除光液。ファッション誌。
こんな風に、ストーカー染みた観察に耽る俺はやっぱり変態だと、僚は思う。

彼氏、居んだろうなやっぱ。
恐らく、近所に住んでいるであろう彼女を、
何処かコンビニ以外で、目撃出来ないかと最近では、
街中でも僚は目を光らせている。


[ 2012/08/27 22:24 ] 君の名は(全5話) | TB(0) | CM(0)

③ 休憩室の噂

「え~~、今日誰が、行ったの?リョウちゃん。」
「マリナちゃん。」
「ウソ~、いいなぁ。丸儲けじゃん。」

ぼんやりと、デスクに座って頬杖をつく香に、
女の子達の、そんな話し声が聞こえてくる。
“リョウちゃん”と言うのは、例のあの、サエバだ。
週1ペースでこの店を利用する彼を、知らない者はいない。

そして、あの電話でのしつこいほどの彼とは違って、
彼の女の子達からの評価は、意外と高い。
何しろ、女の子をホテルに呼んで、彼は何もしないらしい。
ただお喋りするだけ。
まず、部屋へ通されると、何飲む?と聞かれて、
大抵は冷蔵庫から、ビールを出すらしい。
そして120分、軽妙なトークと、まぁたまに好みの子だったら、
一緒にお風呂に入るらしい。ただ、それだけ。

女の子達にしてみれば、楽な相手だ。
それにこれもまた意外な事に、結構イイ男らしいのだ、これが。
この場にあって、香だけがサエバリョウと言う男を知らない。
しかし如何にイイ男でも、週1でデリヘル呼ぶって、どうよ?と、香は思う。
しかもただ喋るだけって。
飲み屋でイイじゃん、なんて思う。

勿論、香は女の子達のそんな話しを、聞き流しながらも重要な事は押さえている。
“リョウちゃん”みたいに、どんな女の子とも上手くやってくれる客もいれば、
中には、好みに煩い客もいる。
また、女の子それぞれとの相性もある。
どの女の子からも、すべからく嫌われる客は、
大抵その客に、問題がある場合が多い。

けれどある女の子と、ある客とたまたま相性が悪い場合もある。不幸な事に。
だから香は、なるべく接客を終えて帰って来た女の子の、
愚痴る様子は、ボンヤリしながらもしっかり聞いている。
次回の時に、なるべく相性が合わないマッチングをしない為だ。
客も決して、安くは無い金額を支払うのだ。
楽しんで貰えるように、気は使わないと。と、香は思っている。

香は、受付を始めて2~3カ月後には、その様な事に配慮しながら、
女の子の采配が、出来るようになっていた。
必然的に、店の評判が上がり、売り上げも伸びた。
田中は、意外な香の手腕に驚いた。
「槇村、おまえ才能あるよ。ずっと、続けたら?」
そう言った田中に、香は苦笑して首を振った。
香は別に本腰入れて、この商売をヤル気は無い。
大体、法的にセーフなのかどうかも怪しい。
実質香は働いてはいるが、社会的立場としては無職である。

確かに、学ぶ事も沢山ある。
でももっと他に、何かがあると心の何処かで、淡い予感がある。
職業に貴賤なしとは、香も大いに思う。
それでもきっと、この仕事ももうそろそろ潮時かもしれないと、
香は思う。
何より、もうそろそろ、あのサエバ氏との根競べが苦痛になって来た。
この間なんて、思わずバストのサイズまで口走ってしまったのだ。
女の子達の評価とは対照的に、香の彼に対する評価は微妙だ。
せめて名前を聞くのさえ止めてくれたら、普通の常連として、
つつがなく対応出来るのに。

「ねぇ、槇村さん。次、リョウちゃんから電話あったらアタシね~~」
「あっ。ずるい!!レナ。あんた、先週行ったじゃん。」

彼は、こんな所でモテモテだが、
今頃何処かで、くしゃみでもしているかもしれない。
「順番ね~~、2人とも。ケンカしないでよ~~~。」
香にとっては、至極どうでもイイ取り合いだ。
[ 2012/08/28 00:18 ] 君の名は(全5話) | TB(0) | CM(0)

④ 受付の槇村さん

今日の女の子は、若菜ちゃんと名乗った。
自称、21歳である。脚の美しい子だ。
僚が、何飲む?と訊いたら、お酒以外。と答えた。
ワタシ、飲めないんです。そう言って、ニッコリ笑った。

僚はしばしば、その店を利用する。
別にどうしても、やりたいとは思わない。
やりたけりゃ、幾らでもデキる。
毎週のようにデリヘルを利用しながら、不思議と僚がやるのは、
キャバ嬢や、普通のナンパした素人の子の方が多い気もする。
しかし、別に特に理由があるワケでも無い。
ただの、気分だ。

セックスなど、ただの日常の一部で。
歯磨きや、入浴と一緒だ。
まして、相手など誰でもイイ。僚は、そんな風に考えている。
特定の彼女など、僚が覚えている限りいた例が無い。
いても、煩わしいだけだ。
いないから、何とも言えないケド。

それでも時々こうして、無性に誰かと話しをしたくなることがある。
飲み屋だと、雰囲気的に口説きモードに突入するし、
口説く気も無いのに、そういうのも面倒臭い。
ただ、何の落ちも無い普通の会話を、和やかな感じで話す。
盛り上がると、愉しい話しをする。
更に盛り上がると、一緒にお風呂に入ったりする。
ただそれだけの事なのに、僚は女の子達から喜ばれる。
むしろ僚は、他の客ってどんなだよと思う。
こんなんで、有難がられるなんて。そこに気持ちなんて一切籠っていないのに。

いつも通り、バカな話で笑ったりしている内に、
どういうはずみか、若菜の口から“槇村さん”という言葉が出て来た。
「槇村さんて、受付の?」
「うん。すんごく、イイ人。」
ふ~~ん、美人?と、僚はシレッと1番訊きたい事を、訊ねる。
「なぁに?気になるんですかぁ?」
若菜はニンマリと笑う。
僚はそれ以上にニタッと笑うと、そりゃあねぇ、女の人の事はみんな気になんの。
と臆面も無くのたまう。

「美人ですよ。メチャクチャ。多分、ウチの店で1番。」
「あ?受付だろ?彼女。」
若菜は、苦笑しながら頷く。でも、そうなんだもん。実際。そう言って、笑う。
槇村さんは、美人で。
大人の女で。優しくて。スタイルも完璧で。そして、時々カワイイの。
抜けてるっていうか、ああいうの多分、“うぶ”って言うんじゃないかな?
私には、今更縁が無いケド。でもきっと、落ち着いた彼氏とかいそうな感じです。

「まじで?俺、槇村さんに逢いたいわ。」
「でも、受付だし。」
「まぁ、そうなんだけど。あ、彼女なんて名前?」
「え?槇村さん。」
「じゃなくて、下の名前。」
「さぁ?槇村さんは、槇村さんですよ。訊いた事無いです。」
「そう言うモンなの?」
「そう言うモンですよね、多分。」
別角度からの、トライを試みた僚であったが、
やはりと言うか、またしてもと言うか、香の名を知る事は出来なかった。


そしてその頃、槇村香はとあるマンションの一室で、
立て続けに5回もクシャミをした。
「大丈夫~~~?槇村さん?風邪薬、飲んだ方がイイよ~~~。」
心配してくれたのは、いつも盛大なメイクを信条とした、
ツケマ命のヒカルちゃんだ。
「ありがとう、そうする。」
今夜も都会の夜が、平穏に更けてゆく。




[ 2012/08/28 16:14 ] 君の名は(全5話) | TB(0) | CM(0)

⑤ 転職(転がる石のように)

その夜、香の運命は突如、方向を変えた。
きっとこの夜に、香の線路のポイントが切り替えられた。

夜というより、明け方に近い時間だった。
香が電話に出ると、それは田中だった。
「どうしたの?何かあった?」
呑気に訊ねる香に、田中は珍しく真面目に答える。
「あぁ、今から急遽、事務所変えるから。」
「そう、次の場所は?」
田中は香に、住所を伝える。同じく新宿の、これまた普通のマンション。

香には詳しくは解らないケド、時々こういう事をやるらしい。
やっぱり、きわどい商売なんだなという事が、こういう時に解る。
香がココで受付を始めて、もうすぐ7カ月になるが、
こういう事は、これで3回目だ。
そして3回目になったら、この仕事を辞めると田中には、前もって言ってある。

「ありがとうな、槇村。助かったよ、この7か月。」
「別に、イイよ。御礼なんて。私も結構、イイ社会勉強になった。」
電話越しに、田中が低く笑う。
「どんな、ポジティブシンキングだよ。そこは、そのままでイイから。それと、お前の名前とか解るようなモンは残すなよ?」
「うん、大丈夫。」
ココで唯一、槇村という名前が解るのは、シャチハタのネーム印だけだ。
たまに、領収書が欲しいと言う客がいるのだ。
何処の経費で落とす気よ、と香は呆れるが、
一応、領収書には尤もらしい会社名が印刷されている。
但し書きには『御食事代』何を食べたんだか。
その時の為の、シャチハタ印。この7カ月で、数回しか使って無い。

「それで悪いんだけど、ルカちゃんの方だけホテルの外で待って、次の住所伝えてやって欲しいんだけど。で、そっちに戻るようにって。」
「うん、解った。あと、30分ぐらいだから。」
「すまんな、給料明日にでも振り込んどくから。」
「ありがとう。………ねぇ、田中。」
「ん?」
「気を付けてね。真っ当になれなんて、偉そうな事は言わないケド、捕まんないでね。」
「あぁ。なんか、槇村。母ちゃんみてえ。」
「何よ、それ。」
そう言って、2人はクスクス笑った。

ルカちゃんは今、区役所の裏手のホテル街の、とある一件のホテルにいる。
相手の客は、例のサエバ氏だ。
他の子たちも出払ってはいるが、後の子は皆少しだけ離れた場所に呼ばれている。
田中ともう1人、送迎をやっている宮本さんというオジサンの2人で、
その子達は、回収するらしい。
ルカちゃんだけは、歩いて行ける距離なので、香に託された。
そのホテルまで、徒歩3分程だ。

終了時間の10分ぐらい前にココを出れば、間に合う。
香はザッと、休憩室を片付けた。
灰皿を洗い、戸締りをして、シャチハタの印鑑をバッグに入れると、
ジャケットを羽織った。
最後に電気を消して、もう一度だけ室内を振り返る。
7か月の内の、最後の2ヶ月。
風変りではあるものの、それは確かに香の職場だった。

ちょうど、時間ピッタリに彼女は出て来た。
けれど何故だか、サエバ氏も一緒であった。
そしてそれは、あのコンビニのミステリアスな彼だった。
「あれ?槇村さんどうしたの?」
そう問うルカに、香は激しく“リョウちゃん”が気になったが、
ひとまずは、用件を伝える。
急遽、待機場所が移転になった事、そしてその住所。
この後は、そちらに移動する事。

「じゃあ、ルカちゃん気を付けて。」
「え?槇村さんは?一緒に行かないの?」
「うん、私は今日で辞めたから。」
「ふ~~ん。そうなんだ。」
「うん。」
ルカはニッコリ微笑んだ。
「槇村さん、ありがとう。アタシ、槇村さんの事、大好きだったよ。」
「ありがとう、気を付けて。」

ルカに手を振っていると、僚が香に声を掛けた。
「やっと、逢えた。槇村さんに。」
香は少しだけ、困惑しながら答える。
「アナタが、サエバさん。」
「あぁ。」
少しだけ俯いて、煙草を咥えている彼が、
香は不覚にも、少しだけカッコイイと思ってしまった。
あのサエバさんなのに。

「で?もう、決まってんの?次。」
「へ?」
「辞めたんでしょ?受付の仕事。」
「あぁ。…いいえ、決まってません。明日から、プータロー。」
そう言って、香はニッコリ笑った。
僚は内心、やべぇ、すんごいカワイイ。と思ったが、
顔には出さずに、若干渋く決めてみた。
「じゃあ、ウチで働かない?」
「え?」

「俺さぁ、すぐそこで探偵事務所やってんだけど、只今アシスタント絶賛募集中だから。」
「アシスタント?」
「そ、アシスタント。」
香は少しだけ、面白いかもと思った。
それにすぐそこなら、またしても満員電車に乗らなくてもイイ。
それに少しだけ、このサエバさんの事も興味が無くも無い。
「ヨロシクお願いします。」

僚は意外だった。
言ってみるモンだ。ダメ元で、アシスタントに誘ったら、アッサリ引き受けた。
こりゃ、かなりな天然だな。
そんな物怖じしない仔猫ちゃんには、
やっぱり俺みたいな、ボディガードが必要だろ?と、僚は思う。

「で?槇村さん、名前は?」
もうこの時点で、2人はニヤニヤ笑っている。
この数ケ月、名前を巡る攻防を続けていた。
お互いそうとも知らず、コンビニでちょっといいな、なんて気になっていた。
何だか、もうすっかり友達のような気分だった。
「香、槇村香といいます。」
「じゃ、改めて。俺は、冴羽僚。末永く、ヨロシク。」
そう言って、2人は握手した。

「俺、コンビニ寄ってくけど。どうする?」
「じゃ、私も。」
2人は早朝のホテル街を、並んで歩いた。
この後香は、僚のアシスタントとして、永久に就職する事になるのだが、
この時の2人はまだ、そんな事は知らずにいた。

少しだけ、東の空が白み始めていた。



(おしまい)







え~~と、このお話し。
何か突然、昨日の会社帰りのバスの中で、
思い付いてしまいまして。
メモも何もしていないので、
善は急げ(?)で、早急に文章にしちゃいました。
色々と、イメージの事とか。
もはや、リョウちゃんとカオリンでは無い感じですが、
どうも、すみません m(_ _)m
パラレル続きなので、ノーマルなお話しも考えてみようと思います。
拍手や、コメントありがとうございますっっ!!
必ずや、お返事致しますっっ!!!
それでわ。
[ 2012/08/28 20:42 ] 君の名は(全5話) | TB(0) | CM(0)