お題01. とりあえず

とりあえず、どんな男なのか気になった。
1度だけ逢った事がある、兄貴の相方。
噂では、かなりな女好きのスケベ野郎らしい。

とりあえず、相棒に頼まれたから、ナンパのついでに探しておく。
1度だけ逢った事がある、相棒の妹。
あの時はまだ、俺の管轄外の高校生。シュガーボーイだった。



突然、兄貴が死んで、兄貴の相方はアタシの相方になった。
アタシの事を、2度も男と勘違いした、スケベ野郎。
だけど少しだけ知ってる。ホントは、結構やさしいヤツ。

突然、アイツが言った。アンタには新しい相棒が必要でしょ?
思わず耳を疑った。ジャジャ馬なのは知ってたが、まさかこれ程とは。
だけど案外、気の強い跳ねっ返りに見えて、脆くてか弱かったりする。



いきなり、朝っぱらから僚がパンツ一丁で起きて来た。
そりゃあ僚にしてみれば、アタシなんて唯一モッコリしない女でしょうけど、
アタシだって、一応れっきとした年頃の女子なんだから、目の遣り場に困るのよ。

いきなり、香が風呂上りのイイ匂いをさせてリビングにやって来た。
タンクトップの下は、まさかノーブラじゃねぇよなあ?
そりゃあ、おまぁを女扱いしないって言ったのは、他でもねぇこの俺だけど、
ちったぁ、警戒しやがれっての。俺は、泣く子も黙る、新宿の種馬だぞ?



不意に、淋しいと感じてしまう。真夜中の僚のいないリビングや、
ナンパに出たまま帰って来ない独りぼっちの食卓。
煙草の匂いさえ、恋しいと思えてしまう。

不意に、淋しいと感じてしまう。おまぁの機嫌を、マジで損ねちまった時。
いつもの天邪鬼で、おまぁを悲しませる。解かっていても、ついやっちまう。
単に、おまぁのハンマーが恋しいだけだって言ったら、おまぁは笑うかな?



時々、気まぐれに優しくしてみたりする。思わせぶりな事を言って来る。
ホレ、気にすんな。って言って、頭をぐしゃぐしゃ撫でて子供扱いする。
すっごく、ムカつくし、悔しいケド。それでも、少しだけドキドキしてしまう。

時々、不甲斐ない己を責めて、子供みたいに泣く。悔しい事を悔しがり、
楽しい事を、心の底から楽しみ、笑う。涙を溜めて、唇を噛み締めて、
それでも、いつも真っ直ぐ前だけを見て、立ち上がる。そんな女に逢ったのは、
おまぁが初めてで、強気な目に真っ直ぐ見つめられると、ドキドキする。



いつもの事だから、
依頼人の美女が、アイツに惚れるのは。
いつもの事だから、
依頼人の真面目で堅実な男が、アイツを見染めるのは。



何時からだろう?いつもの事が、物足りなくなった。
相棒。相方。妹、兄貴。家族。パートナー。
都合のイイ、逃げ道。耳触りのイイ、ポジション。
2人には、言葉に出来ない思いが有り過ぎて、
大切な一言は、ずっと心に仕舞ったままだった。

それでも近頃は、少しづつ距離も近付きつつあって・・・



とりあえず、何から始めよう?

とりあえず、一旦相方では無く、ただの男と女になってみようか?

とりあえず、お互いに好きだと言って。

とりあえず、キスしよう。

まずは、第一歩を踏み出すために、
とりあえず、2人は心の中の扉の鍵を開けてみる。

お互いに気になる存在だった、
スケベ野郎と、シュガーボーイは、
気が付くと、いつの間にか、かけがえのない恋人になっていた。










お題初挑戦してみました。
お題サイトさんから、選んでみたのは、
100題もあるんですけど、
地道に挑戦してみまっす (′Å′)
まずは、1つ目。
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[ 2012/06/05 21:58 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題18. 気付かない振り

僚が秘密にしている、エロ本やAVの隠し場所。
気付いているケド、気付かない振り。
香が新たに仕掛けた、床下の対夜這い用トラップ。
気付いているケド、気付かない振り。


僚が昨日、ナンパで声を掛けた女の子とお茶した事。
気付いているケド、気付かない振り。
香が昨日、厚かましくもヒトん家で、長話しするミックとお茶した事。
気付いているケド、気付かない振り。


僚が週末、ミックと飲み歩く予定にしている事。
気付いているケド、気付かない振り。
香が何やら、絵梨子さんに仕事を持ち掛けられているらしい事。
気付いているケド、気付かない振り。


僚が女の人の気配と、薫りを纏って帰って来る事。
気付いているケド、気付かない振り。
香は強気に振舞っているけれど、瞳の奥が悲しみに揺れている事。
気付いているケド、気付かない振り。



沢山、沢山気付かない振り。
気持ちを殺して、
涙を堪えて、
心を抉って、気付かない振り。・・・なんて、出来なくて。


僚は思わず、香の華奢な手首を掴む。
香は堪らず、一粒涙を溢す。


香は気付いている。
僚の瞳の奥の、オスの欲望の焔に。
言葉とは裏腹な、その心に。

僚は気付いている。
香の何にも換え難い、その深い愛情に。
未熟で拙いけれども、極上のメスの魅力(フェロモン)に。


もう、無理。
気付かない振りなんて。
2人は気付いてしまったから。
お互いがお互いに、必要不可欠である事に。

だから、気付かない振りは、もうお終い。




僚がジットリとこちらを見ている。
気付かない振り。
さり気無く、寝室へと連れ込むチャンスを窺っている。
気付かない振り。
何だかんだと、私の周りにまとわり付いてくる。
忙しい振り。
だってそうでしょ?こんな、真っ昼間っから。
僚の言う通りに付き合ってたら、1日24時間じゃ足らないし。
私の体力も持たないし。
この場合、ただひたすらに、気付かない振り。


風呂上りの香が、甘えてくる。
気付かない振り。
いつもだったら、自分の部屋にサッサと戻る時間なのに、
どうやら今日は、まだまだ一緒に居たいらしい。
勿論すぐにも応じたいけれど、敢えてグッと堪えて、
気付かない振り。
だってそうだろ?昼間は散々逃げたクセに。
この際、ギリギリまで焦らしてから、喰ってやる。
そんな甘えた瞳で見上げても、
さり気無く、ソファの隣に座って、手なんか繋いで来ても、
気付かない振り。






・・・とか、出来ねぇし。








リョウちゃん、あえなく撃沈でっす。
超短いお話しに、なっちゃいました。
[ 2012/06/06 19:27 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題71. 大きな声で叫びたい

夏の夕方は、少しだけワクワクする。
2~3時間前に1度、スコールのような通り雨が降った。
それから、気温も少し落ち着いて、空気も洗われて、ちょっとだけ清々しい。
僚は雨が降り出してすぐに、ナンパを止めて帰って来た。
それでもやっぱり、ビショ濡れで。
帰って来ると、真っ直ぐバスルームに直行してシャワーを浴びてた。
僚は、今現在リビングで転寝している。

それにしても、いったい僚の1日って何なんだろうと、私は思う。
昼頃、漸く起き出して、ご飯食べて、ナンパして。
昼寝して、エロ本読んで。
またご飯食べて、酒飲んで。朝帰りして。
エンドレスで、その繰り返し。
『寝る・食べる・飲む』
それしか無いんかい!!!と、ツッコミたくなる程ワンパターン。
(そして、その合間のナンパとエロ本。時々、忘れた頃に仕事。)
まぁ今更、ツッコンだところで、仕方ないんだけど。

そんな僚なんか放っといて、私には近頃、密やかな楽しみがある。
晩ご飯もあらかた準備は出来てるし、僚はすっかり爆睡してる。
私は1人、ビール片手に屋上へと向かう。
まだ明るい、夏の夕方のビール。
1日汗だくになった体に、キンキンに冷えたビールが堪らない。
屋上から、夕焼けと、薄っすら青紫になり始めた空を見上げて、
思わず、大きな声で歌ってしまう。
ビール1本と、夕焼けと、一番星。
これだけで楽しくなれる私は、僚と違って随分安上がりにできている。

「なに1人で、盛り上がってんの?」
そう言って僚がやって来たのは、私がビールを半分位まで飲んだ頃。
自分も、ちゃっかりビール持って来てるし。
「1日、ゴロ寝とナンパしかしてないヒトは、ビール飲めないんだぞ~。」
と、半分ジョーク、半分マジで言ってみる。
僚はヒッソリと笑って、聞いてるんだかどうだか、パシュッとプルタブを開ける。
私の隣に並んで、ビールを飲む。
私はついつい、僚の上下する喉仏に見惚れてしまう。
そしたら僚が、ニヤッと笑って、目だけで『何?』と、訊いてくる。
見惚れていた事を、まるで見透かされてしまったようで、一気に酔いが回る。
きっと私は今、耳まで真っ赤だ。
思わず照れ隠しに、私は大声で叫んでみる。

「僚のモッコリバカ~~~」
すると、僚もニヤニヤ笑って、私に続く。
「香の暴力女~~~」
「僚の大メシ喰らい~~~」
「香のケチ~~~」
「僚のグータラ~~~」
「香のブス~~~」
「僚のおたんこなす~~~」
「香のトンマ~~~」
「僚のアホ~~~」
「香が、好きだぁ~~~」

・・・・・って、何よ、調子狂うじゃん。
そういうのって、フェイントって言うんじゃないの?
私が黙っていると、僚が私の真っ赤な顔を覗き込んで、
「続きは?」とか、訊いてくる。
馬っ鹿じゃないの???って思ったけれど、
そんな楽しげな眼で、続きなんか期待されたら、応えるしかないじゃん。
でもさすがに、叫ぶなんて出来なくて。
小さな声で、
「僚が好きだぁ。」
と、ポソッと呟く。それでも僚は、とっても満足そうに微笑むと、
ビール味のキスをしてきた。
そして、真っ赤になってフラフラの、
照れてるんだか、酔ってるんだか判然としない私を後目に、
「俺の方が、100倍好きだぁ~~~」
と叫んでニカッと笑うと、腹減ったからメシ食おーぜ。
と言って、サッサと1人で下に降りてしまった。

何よ!! 何なのよ?!
1日、ゴロゴロして、ナンパして、ビール飲んで。
それでどぉーして、お腹が減るのよ???
・・・それに、ちゃっかりキスまでしちゃったりして。

「僚の、ばか。」

それでも1人でそう呟いた私は、
きっと今、他人には見せられない程、にやけていると思う。
暫く、ぼんやり頭を冷やして、私もご飯を食べる為に下に降りた。





ミック・エンジェルは先程から、
向かいのビルの屋上を、双眼鏡を使って覗いている。
夏になって香は時々、1人夕方の屋上でビールを飲んでいる。
楽しげな香をコッソリ覗くのが、近頃ミックの楽しみの1つになりつつある。
視線を少しだけ下にずらして、6Fのリビングを覗くと、
ソファには、僚が寝そべっているのか、チラッと足先だけが見える。
香は恐らく、楽しそうに歌を歌っている。

(かわいい。かわい過ぎる。何の歌を歌っているのかまでは、分からないケド、カワイイじゃないかっっ!!!)
暫く、そうして眺めていると、僚が現れた。
(クッソー!2人で、仲良さげにビールなんか飲みやがってっっ)
しかし、暫くすると2人して大きな声で、お互いの悪口を叫び始めた。
いくらこの辺が、オフィスビルや雑居ビルばっかりで、
苦情を言うような住人が居ないと言っても、
なかなか、大人げない遊びだと、ついついミックは苦笑する。
ヤレヤレと、半ば呆れてコーヒーを飲みながら、デスクのPCに視線を戻し、
仕事の続きに取り掛かりながら、2人の遣り取りに耳だけ傾ける。

「香が、好きだぁ~~~」

ブッーーーー!!!
ミックは、思わずコーヒーを吹き出した。
(オイオイオイオイ。今のリョウだよなぁ?あのリョウが珍しい?!)
慌てて双眼鏡を手に、もう1度屋上を覗くと、
真っ赤になった香と、香には見えないようにコッソリと、
ミックにパイソンの銃口を向けた僚が、キスをしていた。
(アハ、リョウってば気付いてたんだ。オレが覗いてんの。ジェラシー全開だな。)
ミックは、ヤレヤレと肩を竦めると、本格的に仕事に戻る事にした。
「あ~あ。カズエ早く帰って来ないかな。」
夏の夜は、平和に暮れていく。












ジェラシー全開リョウちゃんと、
真っ赤なカオリンを書いてみました。
冴羽アパートの屋上は、即席ビアガーデンでっす♪
[ 2012/06/07 19:31 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題22. しゃぼん玉

僚が夜中に飲み歩きから帰ると、アパートの入り口付近で、
ふわふわと漂う透明の玉が、2つ3つ、頭上から飛んで来た。

しゃぼん玉?

僚は思わず、首を傾げる。
この時間に、こんな場所で、しゃぼん玉?
僚は自宅リビングを、見上げる。
灯りは消えている。香はもう寝たのだろうか?
とうとう俺、不摂生が祟ってお迎えが来たかな?と、
僚は柄にもなく、日頃の自分を反省してみる。
でもまだ辛うじて、生きてる実感もあるし、
まぁ、とりあえずは家に入んないと。と、考えて6階までの階段を上がる。


玄関に着いたとこで、僚はホッと胸を撫で下ろす。
灯りは消えているけれど、微かにリビングの方から、香の気配がする。
ドアを開けると、香はパジャマ姿で、ベランダに続く掃出し窓の所に座り込み、
夢中になってしゃぼん玉を吹いている。
「何やってんの?」
そう問う僚に、香は振り向きもせず答える。
「しゃぼん玉。」
それは、見れば判る。
僚が言いたいのは、何故に灯りも点けず、
こんな時間に、しゃぼん玉なのかという事だ。


(機嫌悪ィのか?)
僚は、自分の方も見ずにそう答える彼女に、フトそう思うが、
口調は至ってニュートラルで、
そこから機嫌を推し量る事は、残念ながら出来そうにない。
しょうがないので、僚も香の隣に座り込む。
「フフフ。お酒臭い。」
そう言う香は、思いのほか上機嫌で、ニコニコと笑っている。
僚は内心安堵して、
「あぁ、飲んできたし。」と答える。
僚とは対照的に、香からは甘いシャンプーの香りが漂っている。
「おまぁは、シャンプーの匂いだな。」
「うん、さっきお風呂入ったから。沸いてるよ?お風呂。」
何故だか僚は、香が自分によりも、しゃぼん玉の方に夢中な気がして、
少しだけ、しゃぼん玉に嫉妬する。
だから、香の言葉を無視して訊ねる。
「なんで、しゃぼん玉してんの?」
「貰ったの、薬屋のおじさんに。」


香の説明によれば、いつも行く近所の薬局で、
今日は、お客様感謝デーなるイベントが開催されていたらしく、
ポイント2倍サービスと、景品を配っていたらしい。
景品は、しゃぼん玉の他に、コンドームとか、栄養ドリンクとかだったらしいが、
香は、迷わずしゃぼん玉を貰ったらしい。
場所柄、子供連れが行くような店じゃないし、
コンドームや、栄養ドリンクは人気ですぐに無くなったらしいが、
可哀相なしゃぼん玉は、貰い手も無く、
店のオヤジも大盤振る舞いで、結構たくさん香にくれたらしい。
「どーせなら、コンドーム貰ってくれば良かったのに。」
そう言って笑う僚に、香は、
「そう言うと思った。」
と言って、眉を顰めた。
しかし、すぐに笑顔に戻って、
「僚の分もあるよ。」
と言って、ソファの横のローテーブルを、指差す。
確かに、テーブルの上には、
誰がこんなにやるんだよ?と、言いたくなる量のしゃぼん玉が置いてある。
しかし香の説明は、あくまでもしゃぼん玉を入手した経緯であり、
どうしてこの時間、灯りも点けずにしゃぼん玉なのかという説明は、一切無い。


まるで、僚など隣にいないかのように、香は夢中でしゃぼん玉を吹いては、
その儚い球体の行方を、目で追っている。
暫く何も言わずに、そんな香を僚はじっと見つめていた。
香は突然僚に向き直ると、ニコッと微笑み無言でテーブルを指差した。
やりたきゃ、やれ。という事のようだ。
僚は苦笑して、テーブルから1つ、しゃぼん玉を取って来る。
妙な図だな、と僚は思う。
風呂上りの女と、酔っ払った男が、フローリングにペッタリ座り込んで、
2人ともイイ歳こいて、真夜中にしゃぼん玉。
もっと他にやる事があんだろうと、僚の脳内ではもう1人の自分が、毒づく。
もっとやりたい事は、他にある。
けれど僚はまだ、彼女に指1本触れる事が出来ないでいる。
僚が本当にやりたい事は、香に触れる事だ。
その唇に。
その身体に。
その心に。


香が、ふわふわと漂うしゃぼんの玉を見つめながら言った。
「さっきね、灯り点けたままでやってみたんだけど、部屋の方が明るいとね、しゃぼん玉がお外の黒にスッと消えちゃって、すぐに見えなくなっちゃうの。灯りを消したら、お外の方が明るいから、飛んでるしゃぼん玉が良く見えるの。」
確かにそう言われてみれば、そうかもしれない。
ココは、日本一の歓楽街、大遊戯場歌舞伎町とは、目と鼻の先。
一晩中、真っ暗闇には成り得ない。
どんな夜の深い時間でも、薄明るい。
部屋の灯りを消したら、外の方がむしろ明るい位だ。
まぁるい透明のしゃぼんの膜に、街灯やネオンの光が反射して、
鈍色に光りながら、夜の中をふわふわ漂っている。
香の言葉に、他意は無い。
言葉通りの意味である。
それでも僚はその言葉に、まるで自分達を重ねてしまう。


明るい場所に居れば、黒はより黒く見えるから、
おまぁは、自身をもう一段階薄暗い所に置いて、
黒い世界に、眼を慣らしているんじゃないのか?


儚く丸いふわふわは、まるで香そのものに思える。
割れてしまうな。
何処にも行かないでくれ。
と、思わず僚は香を抱き締めた。
香は一瞬驚いたけれど、小さくフフフと笑うと、
「僚、お酒臭いよ。」
と言った。つられて、僚も小さく笑うと、
「へーへー。それじゃあ、風呂にでも入って来ますかね。」
と言って、香から離れた。
少しだけ、離れがたかったけど、
もしも、香にそう言われなかったら、
僚は何を仕出かすか、自分でも解らなかった。
きっと今日の僚は、自分で思っている以上に酔っている。


僚がバスルームに行って暫くして、
香はボンヤリと、さっきまで僚が座っていた場所を見つめる。
さっきまで、僚が吹いていたしゃぼん玉。
香はそれをそっと手に取ると、
僚が口に咥えたストローを、同じように咥えてみる。
「フフフ、間接キッスだ。」
香は1人そう呟いて、楽しげに微笑む。
意気地なしだと、香は思う。自分も、僚も。
それでもこんな風に、ずっと2人で暮らしていけるのなら、
それ以外、何も望みはしないと思う。
ただ1つ、香の願う事は。
どうか、割れないで。
何処にも行ってしまわないで。
いつまでも自分の傍で、ふわふわと軽やかに、佇んでいて欲しい。
そう思いながら香は、
僚のストローで、いつまでもしゃぼん玉を飛ばしていた。









モヤモヤ期の、2人でっす。
しかしきっと、もう少しでくっ付きそうな2人でっす。
この位が、ワタクシもっとも萌えるのでっす。




[ 2012/06/07 21:29 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(2)

お題06. もう1度だけ

海辺のペンションの夜。
それまでの数日、全国のオーディションを勝ち抜いて来た、
20名のモッコリちゃん達を守る為に、奮闘したワケだけど、
間抜けなアイドル崩れと、悪徳芸能プロの穴だらけの悪巧みが、詳らかになり、
結局、映画も公開オーディションもポシャってしまった。
あんなに一生懸命、お世話に勤しんだのに、
ボクちんの健闘虚しく、モッコリちゃん達は、アッサリ帰ってしまった。
今夜は、香と2人きり。

「あ~~あ。み~~んな、帰っちまって淋しぃなぁ~~。」
「バカね・・・自分からデートのチャンス潰すなんて。」
「ほっとけ!!」
何だよ、いつもはイラッとする位ニブチンのクセに、
今日は、やけに鋭いじゃねぇか。
確かに、今日の様子なら19人の女の子達とのデート、
もしくは、悦ちゃんとのデート。
どちらでも好きに選べたかもしれない。
でもなぁ、最後の最後でちょっとカッコ付けすぎたかなぁ。
「でも・・・そこがアンタの素敵なとこかもね!!」
香は、クスリと笑う。
「バーーカ、ヘンな事いうんじゃねぇ。」
何だよ。いくら、俺の事兄貴の代わりみたいに思っててもなぁ。
軽々しく男に『素敵』とかいうんじゃねぇっての。
「そんな憎まれ口叩いてると、慰めてやんないぞ!! 今夜は2人っきりなんだぜ?」
ドキッッ
何だ何だ何だ??
コイツ。ついこの前まで、シュガーボーイだったクセに。
なんか、妙にイイ女じゃねぇか・・・。
慰めるって、何してくれんだょ?
後もう少しで、香の肩を抱くという所で、幸か不幸か邪魔が入った。
オカマの女子プロレスラー役、なんて話にスッカリ臍を曲げた香は、
それっきり、部屋に籠って不貞寝してしまった。
でもなぁ、香?
俺、ホントはもういっぺんだけ、
お前に、“慰めてやんないぞ!!”って言って貰いたい、
なぁんて言ったら、お前信じる?




麗:「・・・じゃあ、一緒に寝ちゃおーか?」
リ:「わぁお☆もっこりナイト☆になりそぉ~~~!!」
香:「そんなのだめぇ僚はアタシと一緒に寝るからいいの!!!
確かに、コイツは一緒に寝るって言ったけど、
よもや、こんな穴だらけの悲惨なリビングで、
まさか、コイツの膝を枕に寝る事になろうとは。
しかも、俺さっきから目がギンギンに冴えて一向に眠れやしねぇ。
むしろ、窮屈な体勢で、コイツはスヤスヤ眠ってやがる。
なんか、俺って男と見られて無いんじゃないのか?コイツに。
でもなぁ、香?
俺、ホントはもういっぺんだけ、
お前に、“僚と一緒に寝るの!!”って言って貰いたいんだけど?
もしも、もう1度言ってくれたら、その時は膝枕の礼に、
俺が、腕枕してやってもイイぜ?






元米軍基地の滑走路跡地。
まだ、トラップの名残が燻ぶるその場所で、僚が突然言った。
「シティハンターってのはな!!俺達2人の、コンビの事を言うんだぜ!!」
なに?!?!今、なんて言ったの?僚。
僚は、すぐ私に意地悪を言うし、時々、凄く冷たいし。
私が、足手纏いになってるの解ってて、銃の練習だってやらせてくれない。
私には、僚が何を考えてるのかなんて、全然解んなくて。
私に出来る仕事は、身の回りの事と、伝言板の確認。
そんな事、きっと私じゃなくても出来る事。きっと僚、1人でも。
私は、いつ僚に出てけって言われるか、怖くて。
内心、いつもビクビクしている。
それでも、僚は時々こんな風にとびっきり嬉しい事を言ってくれる。
反則だよ、僚。
これじゃあ、ますます好きになるしかないじゃん?アンタの事。
ねえ、僚?
もういっぺんだけ言って?
私達2人でシティハンターなんだって。
そしたら、私もう何も望まない。
ただそれだけで、イイの。
アンタのパートナーとして、これからも頑張ってみせるから。
・・・って、なんでアンタこんな時にまで、私のブラジャー持ってんの?





「調整し直してある。もうガラクタじゃあない。
これを、パートナーとして受け取って欲しい!!
お前がずっと、俺の元にいたいと思うなら・・・

・・・だが、もう2度とこんな無謀な事はしないでくれ。
いや、させない。
この銃で、人を殺させるような事も、絶対にさせない!!
それが、お前をこんな世界に引き込んだ俺の、
せめてもの、お前への・・・・・あ、 だ。」

え?なに?今、僚なんて言ったの?
肝心なとこが、良く解んないよ?僚。
でも、すっごく嬉しい。
これまで、僚の考えてる事全然解んなくて、いっぱい泣いたけど。
今日だけは、嬉し涙だよ。
勿論、私だって兄貴のこの銃で、人殺しなんてしないって決意だけど、
でもね、僚?
これだけは、もういっぺんだけ言わせて?
私は、アンタが危険に曝された時、
僚の敵に弾丸を撃ち込める、パートナーになってみせるわ、きっと。
それが、私のアンタへの愛よ。







「俺は、何が何でも愛する者の為に生き延びるし、
何が何でも、愛する者を守り抜く!!」
それは、初めての愛の告白。
ねぇ、僚?
なぁ、香。
もういっぺん、言って?何度でも、何度でも。
好きだと言って?
好きだと言おう?










相変わらず、依頼の無い昼下がり。
近頃僚は、ナンパに情熱が傾かない。
だって、わざわざナンパなんかしなくても、
極上のもっこりちゃんは、目の前に居たりする。
陽の当たる平和なリビングで、コーヒー片手に読書中の相棒。

「なぁ。」
「ん~?なぁに?」
「キスしよっか?」
・・・いいよ、そう言って真っ赤になる彼女。
僚は満面の笑みで、香を抱き締めると、
コーヒー風味のキスをする。
暫く、キスを味わって唇を離すと、
真っ赤な顔をしながらも、香が囁く。

・・・ねぇ、僚?もういっぺん、キスして?









え~と、原作の台詞の合間を、妄想しちゃいました(汗)
そして、最後はちょこっと進展した、2人。
やっぱり、原作は面白いっす(′∀′)
でも、なんだか原作知らないと意味解んないですよね、この話(´Å`)ショボン
[ 2012/06/11 21:55 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題20. 物足りない

※ このお話しは、原作程度で(′ш′)


近頃、ちっとも物足りない。
街角で、100点満点のモッコリちゃんと出会って、お茶しても。
究極にプレミアモノの、
超お宝DVD(勿論、エロ。つーかほぼ変態。)入手しても。
今月に入って、立て続けに入った依頼の依頼主が、全員超美人でも。
そんなんじゃ、全然物足りない。

綺麗な女の子と、中身の無い空っぽのアホな会話を交わすのも、
まぁ、それはそれで楽しいケド。ついつい、誰かと比べてしまう。
あ~、アイツならこんな事言わねぇなあ、とか。
こういう時アイツなら、もっと上手く切り返すな、とか。

DVDも手に入れるまでは、なんか特別イイ物に思えたケド、
1回観たら、別にどーでもイイし。

たとえ、超美人でも、依頼人は所詮、依頼人だしな。
多分、誰一人信じちゃくれねぇだろうケド、
俺は結構、公私のケジメはキッチリつけるタイプだしぃ?(いや、マジで。)
如何せん、メシの種だからな。メンド臭ぇのは御免だし。
というワケで、物足りないっっ!!!全くもって、物足りない。





近頃、ぜ~~んぜんっっ、物足りない。
今月は依頼には恵まれてるけど、依頼人は何故だか全員、美人だし。
だから、普段以上に僚の監視が大変だし。
超楽しみにしてた特売も、依頼のゴタゴタでそれどころじゃ無かったし。
僚のヤツ。ちょっと依頼が続いたからって、
余裕かまして、いつも以上に順調に、ツケ増やしてるし。
そりゃこの前、事件の黒幕とっ捕まえたのは、アタシで。
僚に『お利口さん』って、頭ナデナデされたケド、あんなのホントにたまたまで。
そんなんじゃ、全っっ然っ、足りない。
足りないよ、まったく。





今夜は珍しく、大人しく家でゴロゴロしながら、TVを観る。
最近、ちっとばかし飲み過ぎてる自覚があるから。
俺はソファに寝転んで、TVを観て、
香はソファを背凭れに、ペッタリ床に座り込んで雑誌を読む。
久々に、こんな時間に素面で。
傍らには、コーヒー。
別に、香と喋るワケでも無いけれど、なんか妙に居心地がイイ。
気付いたら、TV画面なんかまったく見て無くて。
ボケッと、香の後頭部を凝視している。
小さくて、形のイイ頭蓋骨。
頭蓋骨の形に見惚れるって、どうよ?俺。



「なぁ。」
「ん~?なに~?」
香が、俺に後頭部を向けたまま答える。
俺は特に気にしない。
「テレビのビ。」
「は?何言ってんの?」
香は、背中を向けたまま。
「だからぁ、しりとりだよ。おまぁの番、び。」
香は、なんだそれ。と、小さく笑うと、しりとりを続ける。
「貧乏。」
なんだよ、あてつけか?
「おまぁさ?もぉちょっと、カワイイ感じの答えないワケ?」
そう言った俺に、香が漸く振り向く。
少しだけ目をスッと細めて、例えば?と問う。
「ん~、ビーナスとか、ビールとか?」
香は、そっか、と言うから。
俺も、そうだよ、と言う。そして、
「じゃあ、貧乏。」
香は、満面の笑み。うん、きっと確信犯。変更する気は無いらしい。
香はニッと笑うと、
「僚の番だよ、う。」
と言う。
「う~?うさぎ。」
俺が、妙に可愛らしい答えを返したってのに、香のヤツ間髪入れずに、
「銀行預金残高。」
って、だからあてつけかっての。
まぁ、イイ。不正解では無いしな。
「解決。」
俺が答えると、香はおもむろに振り向き、してやったりの笑み。
「何だよ?」
俺の背筋に、訳の解らない悪寒が走る。
「ツ・ケ!!」
グッッ・・・や、やばい。
今のは結構、効いた。ジワジワくる。
クソッ、何とか普通のしりとりに、俺だけでも軌道修正せねばっっ!!
け、けと。
「ケンタウルス!!」
よっしゃあっっ、普通っぽいだろ?
俺は、香の答えに身構える。
さっきの『ツケ』は、結構効いたからな。

「すき。」

え?
・・・べ、別の意味で効くな。
「な、何がだよ?」ん~と、何言ってんでしょ?俺。
「は?」まぁ、香のリアクションが普通だな。
「だからぁ、好きって何がだよ?」重ね重ね、何言ってんの?俺。
香は不審そうに、首を傾げながらも答える。
「スーパーの特売とか?」
何なんだよ?その答えは。
俺は、軽く脱力する。
まっ、良く考えりゃ、まさか香が、
狙ってこんな事言ったつもりもねぇだろうし。
っつーか、俺。なに期待してんだよ。
『りょう』って言うと思ったか?バカか、俺。
「き、だよ?僚の番。」
香のその声に、フト我に返る。
「あ?あぁ。き、ね。金貨。」
香は、少し考えて、
「カレーライス!!」
と言った。
お、漸くまともじゃん。
すると、香は小さな声で、あ!と言った。
「何だよ?」
「明日の晩ご飯、カレーに決めた!!」
俺は、思わず苦笑する。
「何だよ?えらくテキトーだな?」
「だって、毎日献立考えるの、結構大変なんだから。」
そう言って、香は唇を尖らせる。
そして、僚の番だよ、す。と言った。

「すき。」

俺は、ニヤッと笑う。
さっきの仕返しだ。心なしか、香が少しだけ赤くなっている。
「何が?」
お、そう来たか。
「は?」
さっきとは、正反対。
「だからぁ、好きって何が?」
俺は、ニッコリと微笑むと
「決まってんじゃん!!モチ、モッコリちゃん!!!」
そう言うと、香はあからさまにイヤそうに顔を顰め、

「もう、しりとり終了。お風呂入って寝るっっ!!!」

と、宣言してリビングを出て行ってしまった。


香は、風呂場に向かう廊下で、さっきの僚の言葉を思い出した。
『すき』
別に、自分に言ってくれたワケじゃない。
でも、何となく。
一瞬だけ、それは自分に対して言ってくれたように聞こえた。
「ふふふ。」
僚の前では、少しだけ拗ねて見せたけど、香の機嫌は満更でも無かった。



香が出て行ったドアを、見つめながら。
僚はボンヤリ、さっきの香の言葉を思い出していた。
『すき』
たまには、家でゴロゴロすんのも悪く無ぇな。


たった、2文字の言葉が、
少しだけ物足りなかった2人の心を、
驚くほど、満たしてゆく。








カオリンの『あてつけしりとり』でっす。
てか、リョウちゃん 弱っっ!!!


[ 2012/06/13 19:34 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題11. 後ろ姿

駅の周りでナンパしてたら、アイツの後ろ姿が視界に映る。
そういや、そろそろ買いモンの時間か。
赤茶色のクリンクリンの髪。
細い肩。キュッと上がった、美味しそうなヒップ。長い脚。
淡いペールピンクのスキニーパンツは、
アイツのここ最近のお気に入りで、とても良く似合っている。
そして、オーバーサイズの俺の白いコットンシャツを羽織っている。
足元は、生成りのオールスター。
手にはいつものエコバッグ。
あの中には、今のところ財布と携帯と家の鍵しか入ってない。
あれが帰り道には、ギュウギュウ詰だ。
その頼もしき袋を、プランプラン下げて足取りも軽く、
いつものスーパーの方面に向かっている。
どうやらまだ、ナンパ中の俺には気付いてないようだ。
気付いていれば、ハンマーを喰らっている筈だから。
俺はこんな風に、何気ないいつものアイツの後ろ姿を眺めるのが好きだ。
俺の存在に気付いて欲しい反面、ずっと気付かないままでいて欲しいとも思う。
ナンパを終了して、魅入ってしまう。華奢な後姿。



敵さんのアジトまで、数百m。
向こうも警戒して、立て籠もったっきりの膠着状態。
奴らが焦れて、飛び出した所を一網打尽にすべく、
俺の頼もしい相棒は、先程からこの辺一帯にトラップを仕掛けまくっている。
平気な顔して淡々とこなしちゃいるが、実はなかなかの腕前。
さすがは、あのタコ坊主の1番弟子。
普段は華奢なあの後ろ姿が、こういう時は誰より頼れるパートナー。
アイツは、自分で足手纏いなんて思い込んでるケド、
何度、アイツのトラップに助けられた事か。
まぁ、夜中には、俺が引っ掛かるワケなんだけど。
相手は大した輩じゃねぇし、
向こうが出て来さえすればサッサと片付く、今回の現場。
本気になるまでも無ぇから、ついついアイツに魅入ってしまう。
誰よりも、信頼できる頼もしい後ろ姿。



俺にとってアイツは、眩しすぎて。
いつも真っ当で。
いつでも真っ直ぐで。
正面切って向かい合うには、俺は汚れきっている。
俺がアイツを、真っ直ぐに見詰める事が出来るのは、いつも後ろ姿。
向き合えば、つまらない事を言って怒らせる。
それでも、後姿にならいつだって本音を言えそうな気がする。
『なぁ、その服似合ってんぞ。』
『ホレ、荷物持ってやっから貸しな。』
『おまぁの事、頼りにしてんだぜ、相棒。』
『大好きなんだ、お前が。』
いつか、正面切ってアイツに、そう言える時は来るだろうか。





伝言板の確認をする為に、駅に向かう。
人波の雑踏の中に、ひと際大きな後ろ姿。
真っ直ぐ伸びた背筋。がっしり広い肩。大きな背中。
長い脚。後ろ姿でも、カッコイイなんて思うのは、ただ単に惚れた慾目か。
ナンパをするでも無く、スイスイと歩いてゆく。
こういう時、大抵は声を掛けて一緒にキャッツに行くんだけど、
たまに、こうしてただ見てるだけの時がある。
ふざけてる時は、ホントどうしようもないヤツだけど、
こんな風に、そっと後ろからアイツを眺めるのが、結構好きだったりする。
どうか、振り向かないで。
このまま、もう少しだけこうして見詰めさせて。
つい、魅せられてしまう。大きな後ろ姿。



私はいつも足手纏いで、まだまだパートナーとしては、半人前。
僚1人ならきっと、何てこと無い事だって、
私がいるだけで、大幅に時間が掛かったり、危険が増したりする。
それでも、僚はいつだって、私に任せてくれる。信じてくれる。
だから私の出来る唯一の事は、僚が信じてくれる以上に、僚を信じる事。
僚が任せてくれる事に、全力で答える事。
いつもあの大きな背中を、追いかけている。
きっと、追いつくなんて一生無理だけど。
せめて、一生追いかけさせて欲しい。
同じ方向を向いて、走り続ける限りずっと一緒にいられるでしょ?



私にとって僚は、いつだって憧れで。
僚の本当を知らないヤツは、僚の事冷酷な殺し屋みたいに言うケド、
私は誰よりも、知ってる。
僚が優しくて、温かい、ただの男だって事。
あの、高校生の頃から知ってた。
僚が教えてくれた。
優しいって事は、強くなきゃダメだって事。
私も僚みたいになりたいって、思った。
向かい合ったら、いつもつい愚痴や小言ばっかり言って、ケンカになるけど、
後ろ姿になら、素直になれるの。
『ねぇ、なんでチャラチャラしてるクセに、カッコイイの?』
『いつも、傍にいてくれてありがとう。』
『いつかきっと、立派なパートナーになってみせるから!』
『大好きだよ、僚。』



口ではいくらでも、嘘を吐けるし、強がれる。
心にも無い事だって、言ってしまえる。
だけど、後ろ姿は嘘を吐かない。
誤魔化しがきかない。
きっと2人は、互いにずっと後ろ姿ばかりを見て来たから、
お互いの、本当の姿を知る事が出来たのだろう。
後は、向かい合って、抱き締めあうだけなのだが、
悲しいかなそれこそが、2人にとって、この世で最も難しい課題である。










リョウちゃんも、カオリンも究極のツンデレだと思いまっす(′~′)ヤレヤレ
世話が焼けるのでっす♪♪♪
[ 2012/06/14 20:16 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題36. ばいばいまたね

21:15
僚が夜遊びに出掛けた。
ばいばい、りょう。また明日。
香が次に僚に逢えるのは、明日の昼前。
また今日も、2人の不毛な1日が、終わる。
そう思ったら、少し淋しくなって、
香は起きて、僚の帰りを待つ事にした。
名目上は、ツケを増やしてきた事への天誅。
でもね、りょう。ホントは、ばいばいするのが嫌なだけ。
寝る前にもう一度、僚の顔が見たいだけ。


21:18アパートの下で、
僚は灯りの点いたリビングを、見上げる。
ばいばい、かおり。また明日。
僚が次に香に逢えるのは、明日の昼前。
また今日も、夜の街に本音を隠す。
もしも運が良ければ、
寝る前にもう一度、香に逢える。
そのかわり、ズタボロにされるけど。
最強のお転婆と渡り合おうと思ったら、僚はいつでも命懸けだ。
そして更に運が良ければ、
待ち草臥れて、眠りこけた香に逢える。
その寝顔を独り占めして、抱き上げて、客間のベッドへ運ぶ。
それを期待して朝帰りする、30過ぎの男はちょっとだけ、情けない。




お互いに風呂から上がって、何の予定も無い夜。
翌朝のごはんの仕込みも、終わった香。
コレクションの本もDVDも、見飽きた僚。
好きなドラマもやって無いので、退屈な香。
飲みに行こうにも寒すぎて、外に出るのが面倒臭い僚。
あとは、寝るだけ。
ばいばい、おやすみ。また明日。
その一言を言ってしまえば、
2人が次に逢えるのは、明日の昼前。
2人とも、少しだけ淋しくて、物足りない。
だけど、それを言葉にするには、勇気が足りない。
だから、何とも思って無い振りで、おやすみのアイサツ。
おやすみ、りょう。
おやすみ、かおり。
また明日。


お節介で、野次馬な友人たちは、2人の事を。
1つ屋根の下に居ながら、焦れったい、と言うけれど。
同じアパートの、同じフロアに居ても、2人の距離は遥かに遠い。
一度、『おやすみ』を言ってしまえば、別の家に居るのと同じ事。
ばいばい。
おやすみ。おはよう。いただきます。ごちそうさま。おかえり。ただいま。
いつも、朝一番におはようが言いたくて。
いつも、ココへ帰って来て。
いつも、ココで出迎える。
だけど、
おやすみを言うのは、少しだけ切ない。


ベッド脇のサイドボードの上の、ケータイが着信を伝える。
こんな時間に誰だろうと、香は首を傾げる。
発光する画面に、『りょう』の文字。
思わず、香の口元に笑みが広がる。
それでも少しだけ、ぶっきら棒に電話に出る。
「何?」
「寝てた?」
「ん~ん。電気は消してたけど。何?」
「窓の外、見てみ。」
「窓?」
香は体を起こすと、ベッドの上に膝立ちになって、
カーテンの隙間から外を覗く。
「あ、雪。」
「どうりで寒い筈だな。」
「うん。」
2人はそれっきり言葉も無く、
雪の落ちて来る、濃紺の空をずっと見上げる。
話す事など何も無いけど、
2人はお互いに、通話終了のボタンは押せないでいる。
僚の隣で、雪を見たいなと、香は思う。
香と1つの布団にくるまって寝たいなと、僚は思う。
だけど2人は、思っている事のひと欠片も、言葉には出来ないでいる。


「ねぇ。」・「なぁ。」
2人が口を開いたのは、同時だった。
「どうした?」
「ううん、何でも無い。僚は?」
「うん、別に何も。」
「もう、寝るね。おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
通話終了。
もしも同時に重ならなかったら、香は。
『僚の部屋に、行ってもイイ?』と、訊こうと思っていた。
もしも同時に重ならなかったら、僚は。
『俺の部屋に、来いよ。』と、言おうと思っていた。
2人は、ギリギリの紙一重で、未だ迷っている最中だ。


1つ屋根の下。
僚と香を、冷たい雪から守ってくれる、屋根の下。
ばいばい。
おやすみ。
また明日。
2人は心の中で呟いて、そっと目を閉じる。








またもや、季節度外視のケシでっす!!!
もしかすると、
夏には、冬が。
冬には、夏が。きっと、恋しいのかもしれません。
無い物ねだりでっす♪

ここ暫く、甘いお話しを書いてた反動で、少し切な目。
甘いモノの後には、しょっぱいモノ。
しょっぱいモノの後には、甘いモノ。
際限ありまっせん♪

[ 2012/06/25 19:20 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題45. いいわけ

香が僚のナンパを阻止するのは、
迷惑行為で困っている人を、助ける為。
依頼人を口説く僚を妨害するのは、
真剣に仕事に取り組んでもらう為。

僚がしつこくナンパを止めないのは、
美人に声を掛けないなんて、失礼に当たるから。
依頼人を口説くのは、
緊張した相手の心を解す、ユーモアだから。

都合のイイ言い訳。お互い本心は、もっと別にあって。
『他の女を見ないで。』
『もっと俺に構ってくれ。』
まるで子供のような、そんな本音は見ない振り。


香が僚の傍に居るのは、
パートナーだから、仕事だから。
僚が香を傍に置くのは、
親友に託されたから。

都合のイイ言い訳。本当は2人ともわかっている。
ただ、傍に居たいだけ。
ただ、傍に居て欲しいだけ。


本当は、思っている事が別にあっても、
ついつい、言い訳を探してしまう。

香が家の事をやるのは、別に僚の為にしてる訳じゃない。
どうせ自分1人でもやるんだから、そのついで。

香に馴れ馴れしくスキンシップを図るミックに、
僚が銃口を突き付けるのは、別に妬いてる訳じゃない。
ただ、仲良しのミックとじゃれてるだけ。

晩ご飯が、僚の好きなメニューばっかりだったのは、たまたまで。
香が食べたかっただけ。
別に、深い意味は無い。

いつもより、ナンパを早々に切り上げて、僚が帰って来たのは。
カワイコちゃんがいなかったから。
香が現れなかった事とは、特に関係は無い。


依頼の為に、潜入したパーティで。
ドレス姿の香に。
キッチリ正装した僚に。
お互い柄にもなくドキドキしたのは、ただ物珍しかっただけ。
いつもは、だらしない僚が。
いつもは、ボーイッシュな香が。ちょっと、いつもと違ったから。

それにホラ、仕事中だったから、妙なテンションだったし。

と、お互いに誰に聞かせる訳でもない言い訳を、心の中で唱える。
そして、意味のない言い訳と、意味のない習慣に、苦笑する。


意外に脆い心を、言い訳の鎧で武装して。
意外に照れ屋な素顔を、言い訳の仮面で隠す。
それでも少しづつ、お互いに気付き始めている。
それが、ただの言い訳に過ぎないと。
相手を誤魔化し、自分を誤魔化して、向き合う事から逃げている。
もう本当は、答えは決まっている。
言い訳など通用しないぐらい、雁字搦めだ。
『アイツが好きだ。』
言い訳するのは、終了だ。



なぁ、香?
なに?
キスしてイイか?
なんで?
別に、理由はないケドしたいから。ダメ?
別に、いいけど。



言い訳を考えなくて済むのは、意外とラクだった事に、
2人は、遅ればせながら、漸く気が付いた。
理由など、ただ1つ。
言い訳なんか必要ない。







原作を読んでても、
結構2人とも色んな言い訳で、本心を誤魔化してる気がしまっす。
でも、しどろもどろになって、
色んな言い訳している2人に、萌え~でっす。
一生、やってて欲しいでっす★クスッ

[ 2012/06/26 19:57 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題42. 大誤算

兄貴を惡の道に引きずり込む、スケベ男。  -50点。
意外と、良いヤツじゃん。  +70点。
あ、なんかこの背中、まるで兄貴みたい。  +50点。
仕事の選り好みが激しい。  -30点。
万年発情期。  -50点。
依頼人に、夜這いを仕掛ける。  -30点。
でもたまに張り切って、悪い奴らをやっつける。
結構、カッコイイから、  +80点。
白昼堂々、都会のど真ん中で卑猥なナンパ。  -40点。
『良くやった、相棒』と、頭をクシャッと撫でてくれる。  +80点。
でも次の瞬間、依頼人の美女の元へ駆けて行く。  -15点。
湖のほとりで、気持ちを打ち明けてくれた。  +100点。
それなのに、2人の関係は、停滞したまま。  -50点。
連日、連夜の朝帰り。  -20点。
増える一方の、ツケ。  -20点。
何気なく、そっと手を繋いでくれた。  +10点。
何処にも行くなって、抱き締めてくれた。  +20点。
ゆうべ、初めてキスをした。  +200点。
でも、『近いうちに、モッコリしような♪』なんて、
デリカシーに欠けるから、  -5点。
今現在、僚の点数 300点。



興味本位で、俺の周りをウロチョロするシュガーボーイ。  -30点。
なんだ、相棒の妹か。  +30点。
ん~、よく見りゃ確かに、槇ちゃんの言う通り、なかなかの上玉だ。  +50点。
でもまだまだ、俺の守備範囲外。  -10点。
とんでもねぇ、跳ねっ返りのジャジャ馬。  -20点。
口が裂けても言えねぇけれど、あれで結構、極上ナイスバディ。  +70点。
どっから出してんだよ?100tハンマー。  -40点。
俺って、不死身かも。コンペイトウ。  -40点。
俺じゃなけりゃ、とっくに死んでるぞ。
電気ショックに、簀巻きに、トラップ。  -80点。
どんなにケンカ中でも、メシだけは手を抜かない。  +80点。
アイツには言わねぇけど、アイツが淹れるコーヒーが1番旨い。  +40点。
何よりも、他人の事で一生懸命になれる、真っ直ぐな心。  +80点。
でも時々、冷や冷やして見てらんねぇから、  -20点。
楽しくナンパしてる時に、邪魔ばっかすんじゃねぇ。  -10点。
何でナンパしてんのに、シカとしてんだよ?無視すんなよ。  -20点。
俺の為に、一晩中祈っている。  +100点。
今まで知らなかった、優しさや温かさを教えてくれる。  +100点。
気が付くと、無茶苦茶イイ女に育ちやがった。  +120点。
思わず、本音をぶちまけた湖のほとり。  +100点。
でも、柄じゃねぇから。  -50点。
だけど腕の中の香が、ハンパなくカワイイから。  +50点。
なかなか先に進めない、己の不甲斐無さに。  -30点。
こんな時こそ俺の事、ハンマーで1発、殴りゃイイのに。
悲しそうに、我慢なんかしやがって。  -20点。
思わず、その華奢な手を握り締める。  +50点。
ずっと、傍に居て欲しくて、柔らかな体を抱き寄せる。  +100点。
初めての、俺達のキス。  +300点。
『モッコリしような♪』なんて、ジョークじゃねぇかよ。(そうでも無いか?)
いきなり、ハンマーでぶっ叩きやがって。  -100点。
でも、恥らいハンマーだったな。カワイイから許す。  +20点。
お前はいつも。
俺の傍で、元気に笑ってさえいてくれれば、それでイイ。  +80点。
今現在、香の点数 900点。



大誤算だ。
こんなはずじゃなかったんだけどなぁ?
私の好みのタイプは、
兄貴みたいに優しくて、真面目な人だった筈。
何であんな、スケベでだらしなくて、意地悪なヤツの事。
こんなに好きになっちゃったんだろう?
あの、大きくて温かな手を。
何処までも深い、真っ黒な瞳を。
優しく響く、あの声を。
独り占めしたくて、どうしようも無い程、好き。


大誤算だ。
こんなはずじゃなかった。
1人の女に縛られるなんて。1人の女を求めるなんて。
今までの俺が、全く思いもしなかった生活。
いつの間にか、惚れていた。
あの柔らかな猫毛を。真っ白な肌を。しなやかな体を。
真っ直ぐで折れない心を。
何処までも澄んだ、薄茶色の瞳を。
俺だけのモノにしたい。
誰にも見せず、誰にも触れさせず、独占したい。
どうしようも無く、惚れている。





僚の前方に、見慣れた後ろ姿。
細い背筋をピンと伸ばして、颯爽と歩く。
周囲の男達の視線になど目もくれず、真っ直ぐ前を向いて進んでいく。

100点満点の、モッコリちゃん。

僚は少しだけ、歩く速度を早めて、香に近付く。
「ねぇ、そこのモッコリお姉さん?ボクとお茶しない?」
香はゆっくり振り向くと、悪戯っ子のように笑う。
「お兄さんの奢りなら、良いよ。」
僚は、おどけて腕を差し出す。
「キャッツで良いなら。」
香は僚の腕を取って、ニッコリ頷く。
「ケーキもね♪」



例えばそれが、計算外の恋だとしても。
プラスマイナスで、最終的にプラスなら、結果オーライ。
2人はこれからも、
ますますお互いを好きになっていく。







カオリンの採点は、少し辛口。
リョウちゃんは、激甘でっす。
なんか、ワタクシの書くモノ。ワンパターンでっす(汗)
お題、結構難しいでっす(′Д′;)
ワンパターンにならないように!!
それが目標でっす(キリッ)
[ 2012/06/27 22:35 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題29. ギブアップ

グッタリした躰を俯せて、枕に顔を埋める。
僚の匂いがすると、香は思った。
僚は普段、体臭などというモノが殆どしない。
きっと、そういう体質なんだと、香は思っていた。
酒や煙草や硝煙の匂い。
それが僚の匂いだと思っていたけれど、
どうやらそれも、違うらしい。
言葉では上手く表現出来ないけれど、僚には僚だけの匂いがある。
一緒に寝るようになって、
香は初めて、その事に気が付いた。
そして最近では、その匂いが大好きだという事にも。


とても落ち着くし、とても安心出来る。
それはまるで、森の奥の2人だけの巣穴のような、親密な匂い。
いっそ自分達が、リスか何かの小動物で、
2人だけでひっそり、樹の上の巣の中で生きているんだったら、
どんなに素敵だろうと、香は想像する。
毎日2人で、ドングリやクルミを拾う。
2人で巣穴に帰って、2人で丸くなって眠る。
お腹が減ったら、2人で木の実を齧る。
香は、そんな事をボンヤリと考えながら、
僚のいないシーツを、そっと撫でてみる。
温かくて、湿っぽい。


僚がミネラルウォーターを手に、キッチンから寝室へ戻ると、
香がグッタリと俯せて、ボンヤリしている。
灯りは、枕元のスタンドだけ。
薄い背中が、オレンジ色の丸いライトの灯りの中で、
ひと際白く、浮かび上がっている。
腰から下は、シーツの中。
僚の大好きな、弾力のある形のイイ、
かわいいヒップは、残念ながら白い布の下に隠されている。
僚はベッドの上の、自分のスペースに戻ると、
気怠げに投げ出された香の細い腕に、
冷えて水滴を湛えた水のボトルを、ペタリとくっ付ける。
香はピクンと、小さく反応して、
ゆっくりと華奢な腕を、シーツの中へと隠す。
そして、小さな声で
・・・冷たい
と、一言呟く。


僚はクスリと笑うと、香にピタリと躰を寄せて、片肘をついて寝転んだ。
そして、もう片方の手で、香の柔らかな猫毛を撫でる。
「もう、ギブアップ?」
楽しげな笑みを含んだ声で、僚が香に問う。
香は何も言わずに、ボンヤリしている。
頭に感じる僚の手の感触。
安心出来る僚の匂い。
湿り気を帯びた寝室の空気。
まるで、2人の巣穴だ。
僚と香が風呂から上がって、縺れ込むようにしてベッドに入ったのは、
まだ、21時前だった。
そして今現在、ベッドサイドのデジタル時計は、AM3:00を表示している。
この間2人は、ずっとセックスをしていた。
僚にとっては、暫しの休憩のつもりらしい。
お互いに、何回逝ったかなんて、数えてもない。


香は枕に半分、顔を埋めたまま答える。
「もう、3時だよ?」
「うん、まだ時間はタップリあるな。」
と、僚がニッと笑う。だけど、目はマジだ。
香は少し、呆れてしまう。
僚にとって夜とは、眠る為の時間では無いんだろうか?
香はゆっくりと寝返りを打つと、僚の裸の胸に擦り寄る。
自分の頬を、僚の胸板にペッタリとくっ付ける。
「あのさぁ、僚。」
「ん?」
「夜ってさ、眠る時間なんだよ、普通。」
「そぉだね。」
「毎日一晩中、寝ないで激しい運動してたら、いつか死んじゃうよ。」
「うん。」
僚は相槌を打ってはいるケド、
きっとその言葉の半分も、僚の耳には届いていないと香は思う。
種馬の耳に念仏だ。


しょ~がないなぁ、と思いながら、
香はガッシリとした僚の腰に、細くてしなやかな腕を巻きつける。
僚は嬉しそうに、ニッコリ笑う。
「もぉ1回、する?」
「しない。」
香は僚の瞳を真っ直ぐに見て、もう1度言った。
「もうね、今日はしないの。」
僚は妙に邪気の無い笑みで、香に微笑みかけると、
「じゃあ、今日はもうしない。おまぁが死んだら困るしな。」
と言った。
香は、そんな僚を、カワイイと思ってしまう。
随分年上なのに、
スケベで変態なのに、僚はカワイイ。
2人は、セックスする事は勿論好きだけど、
きっとこんな風に、親密で温かい時間を過ごす事の方が、より好きだ。
まるで、この世の中に2人だけしか存在しないような、幸せな錯覚。


まるで、リスのカップルみたいだと、
さっきまで頭の中で考えていた、素敵なたとえ話を。
香は僚にも、聞かせてあげようと思ったけど、
突然訪れた睡魔に負けて、僚の温かい腕の中で眠ってしまった。





僚と香は、只今ケンカ中だ。
もう、1週間になる。
始めは些細な事だったのに、間の悪い時には次々と色々、重なるもんで、
烈火の如く怒り狂った香は、その後一切、僚と口を利かない。
家事や伝言板の確認など、やるべき事はしっかりやっている。
食事も一切、手を抜かない。
それでも一切、口は利かない。
いつも伝言板へ赴いた結果の、依頼の有無だけを置手紙にして、
僚のブランチの横へ、置いている。
それも、たった3文字。『依頼無』
どんだけ、俺とのコミュニケーションを省略したいんだよと、
僚は少しだけ、ムッとする。
確かに非は、殆どが僚にある。
98%は、僚が悪い。
でも何も、こんなにまで避けなくてもと、僚は凹んでいる。
それでも、その1枚のメモ用紙は、
今現在、香との唯一の『会話』なので、大切にとっておく。
ココの所、香は昼間、一体何処で何をやっているんだろう。
キャッツにも行って無いらしい。
多分、アソコに行けば、俺も来るからイヤなんだろうと、僚は分析する。


香は1週間前、鬼のような形相で、僚に枕を投げつけると、
「僚なんかもう知らないっっ!!!勝手にしろっっ!!!」
と言った。
だから、僚は勝手にしている。
ナンパに行かないのも、飲みに行かないのも、僚の勝手だ。
好きにすればイイと言われても、
本当に好きな事は、出来ないしぃ~?と、僚は1人ぼやく。
1人きりのリビングで、僚はソファに寝転ぶと、
目を瞑って、色んな事を思い出す。
確か、ケンカをする前日の夜は、
2人で風呂に入って、その流れで、セックスをした。
途中、休憩を挟んで、僚はまだヤル気満々だったケド、
香がもうしないと言ったから、しなかった。
少しだけ、
やっぱ、しときゃ良かったかな、なんて僚は思う。
あの日香は、眠りに落ちる前に、
リスがどうのとか、巣穴がどうのとか、寝言みたいに喋ってたけど、
意味は、サッパリ解らなかった。
香はそのまま眠ってしまったし、
次の日に、大ゲンカしたので、
リスの話しは、未だにどういう意味だったのか、サッパリ解らない。


今回のケンカは、なかなか厄介だ。
年に1~2回、有るか無いかの大きなヤマだ。
常日頃の、小さな諍いなら、
うやむやの内に、お互い笑って流せるけど、
今回ばかりは、流石にキチンと向き合うべきかと、
僚は柄にも無く反省している。
しかし、向き合おうにも、そのタイミングがまた難しい。
下手をすると、火に油を注ぎかねない。


ケンカして以来、勿論香は僚の寝室には来てくれない。
それどころか食事さえ、一緒に摂ってはくれない。
香が1人いないだけで、寝室の空気はカラカラだ。
まるで、砂漠だ。
正直、僚はもうそろそろ限界だ。
この際、セックスはどうでもイイ。
勿論、許されるものならば、やりたいのはやまやまだけど。
それよりも、堪えているのは、香に口を利いて貰えない事だ。
砂漠の中で自由を与えられても、ちっとも嬉しくは無い。
香が居てさえくれれば、自由などいらない。
香という甘やかな鎖に、一生繋がれて、溺れていたいだけだ。
だから今日、香が外から戻ったら、
許しを乞おうと、僚は考えている。
ギブアップだ。


僚がウダウダと、そんな事ばかり考えていると、玄関から香の気配がした。
カチャカチャと鍵を開ける音。
ペタペタとスリッパの足音が、少しづつリビングに近付く。
僚は思わず身構える。
ゴロゴロしている所を、見咎められて怒られるのも嫌なので、
キチンと座り直して、新聞を読んでいるフリをする。
この数日、リビングの僚を避けるように、
真っ直ぐキッチンに向かっていた香が、今日はリビングに入って来た。
暫く、香はボォッと突っ立って、何も言わず僚をジッと見詰める。
僚も、内心冷や冷やしながら、香を見詰める。
でも、頭の片隅は何処か冷静に、香の事見詰めるの何日振りだろうと考える。
突然、香が僚に抱き付いた。
不意の事で、僚は思わずポカンとなる。
何を言われるんだろうと、身構えていたのに。
香が帰って来たら、キチンと謝って仲直りしようと思っていたのに。
一瞬で、僚の頭の中は真っ白になった。


「どうした?」
1週間振りに、香の柔らかな髪を撫でながら、僚が問う。
香はただ何も言わずに、僚の背中に回した両腕に、グッと力を込める。
「あ、あのさぁ。ごめんな、色々。」
僚がそう言うと、香が顔を上げた。
今にも、泣きそうな顔だ。
思わず、僚は口付る。
直後、香の目からポロリと透明の雫が落ちる。
「腹が立ってね、僚の事。ずっと、無視しようと思ってたの。」
「うん。」
「でもね、淋しくなっちゃった。」
もう、ギブアップ。
そう言って、はにかむ香を抱き上げて、僚は寝室へ駆け込んだ。


1週間ぶりに、砂漠に甘やかな雨が降る。











エッチして、ケンカして、仲直りして、エッチする。
そんな日常の1コマでっす(′∀′)
放っときゃ、また元に戻る、2人でっす♪♪♪
[ 2012/06/29 21:50 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題04. 追いかけっこ

ミック・エンジェルは、手土産片手にその7階建てのビルを見上げた。
平日、午後2時15分。
初恋の君は、在宅だ。
そして、彼女の番犬は今頃、日課のナンパに勤しんでいる。
ヤツの気配が、このアパート周辺に無い事ぐらいは、察知している。
第一線は退いたものの、周囲の気配を読む事ぐらい造作もない。
まして、かの初恋の君のご機嫌伺いなら、なおのこと。
僚に邪魔されたくないミックは、
わざわざ香が1人きりの所を狙って、冴羽アパートを訪れる。


とはいえミックとて、今更香にどうこうするつもりは無い。
香が誰よりも、僚を愛している事は重々承知だし、
自分自身にも、かずえというかけがえのない恋人がいる。
けれども、ミックにとって香は、今も変わらず大事なヒトだ。
僚が心の中で香を思いながら、ナンパを止めないのと同じく、
ミックもまた、かずえは大事だが、
香に対するプラトニックな敬愛は止められない。
心の中の思いは、個人の自由だとミックは思っている。
ミックの中では、かずえに対する気持ちと、
香に対する気持ちの双方に、一切の矛盾は無い。
今まで、誰にも理解された事は無いが。


今日は午前中に1件、上野に取材があった。
その帰りにミックは、1件の和菓子屋に立ち寄り、香への手土産を購入した。
香の好きなモノは、殆どリサーチ済みだ。
抜かりは無い。
ミックには、彼女を手中に収める事は出来ないのだ。
それならば、彼女を喜ばせる為に、彼女の笑顔を引き出す為に、
少しばかり、紳士を演じてみてもバチは当たらないだろう?
ミックはいつもそう思っている。
しかし若干1名、それを良しとしない者がいる。件の番犬だ。
それならば、自分が彼女のナイトになればいいものを、
それは、照れ臭くて素直に行動出来ないらしい。
ミックにしてみれば、天下の往来で、
厚顔無恥なナンパを繰り返す方が、よほど恥ずかしいと思うのだが、
ヤツはそうでは無いらしい。


ミックがインターホンを鳴らすと、暫くして玄関のドアの向こうに、
愛しい君の気配がする。
「どちら様ですかぁ?」
「ハイ、カオリ。ボクだよ、ミック。」
すると、かちゃりと鍵を外す音が聞こえて、玄関の鉄のドアがすっと開く。
「いらっしゃい、ミック。僚なら、今ちょっと出掛けてるの。」


そう言って、現れたミックの女神は、今日は一段とボーイッシュだ。
ブカブカの僚のジーンズ(しかも、かなり年季の入った)に、
色の褪せた無地の、ネイビーのTシャツ。
その辺の、地味な女の子がこんなカッコしてれば、色気もへったくれも無い。
しかしそれは、香にはとても良く似合っているし、
それどころか、妙に色気があるから不思議だ。
腰履きにした、そのジーンズが香の腰の華奢さを強調しているし、
元々、僚のモノだからレングスはかなりのものの筈なのに、
裾がわずかにクシュクシュしているだけで、折り返すほどでも無い、脚の長さ。
ジャストサイズの、長年洗い晒した厚手のコットンのTシャツ。
腰履きにしているボトムとの合間のチラチラと見える、真っ白な脇腹。
半袖から伸びる、真っ直ぐで細い二の腕。
化粧気のない、明るく澄んだ真っ白な肌。
何も付けなくても長い睫毛に、艶やかな唇。
清潔感溢れる色気。


かずえや、これまでミックが付き合ってきた女性達は、
どちらかと言えば、一分の隙も無い美しさだ。
キチンと化粧をし、流行の服で身を固め、爪を整え。香水を選ぶ。
完璧な準備の元に、男と対峙するタイプの女性達。
勿論、それを否定はしない。
それはそれで、美しいし、大好きだ。
それが女性だとも、ミックは思う。
けれども、香に出会ってから、ミックの美への概念は少しだけ、変化した。


「フフ、それは構わないさ。ボクは、カオリにお土産を持って来たんだから。」
そう言って、ミックは手に持っていた持ち重りのする箱を、
少しだけ、持上げて見せた。
その、ノスタルジックな包装紙を見て、香はパッと顔を綻ばせる。
「うわぁ、うさぎや~。どら焼き?」
計算通りだと、ミックは思う。香の好物だ。
肯定の意味のウィンクを寄越す。
「どうぞ、お茶淹れるから。上がって?」
香はそう言って、ミックにスリッパを揃える。
当の香は、素足だ。
「カオリは、スリッパ履かないの?」
ミックがそう訊ねると、香は暑いから裸足が気持ちイイのだと、笑った。
「ミックも裸足になる?」
香は、まるで子供のように無邪気に、首を傾げて問う。
ミックは苦笑して、大丈夫、と答える。
もしも、この部屋で香と2人きり、裸足で寛ぐなんて考えたら、
ミックの理性は、それこそ吹き飛びそうだ。
香に自覚は無いが、いい歳をした男女が裸足になるシチュエーションは、
少しだけ、エロティックだ。
香は、そんな事には無頓着で、
ペタペタとミックの前を歩いてキッチンへと向かう。


ミックがこうして、午後のティータイムにやって来ると、
2人は大抵、キッチンで過ごす。
ミックが持って来るお菓子を摘みながら、
香は、夕飯の為の下準備に手を動かしながら、お喋りをする。
(ある時は、さやえんどうの鞘を剥いたり、またある時は、エビの背ワタを取ったり。カボチャを裏漉ししたり。)
しかし今日は、お喋りのお供は特にない。
香は、大きめのグラスにたっぷりと氷を入れ、
冷蔵庫で冷やした、冷たい緑茶を注いだ。それを2つ。
ミックの分と、自分の分。
ミックは包装紙を開き、香の好物をテーブルに並べる。
「僚はね、甘いモノあんまり食べないケド、そのどら焼きは大好きなのよ。」
そう言いながら、微笑む香にミックは複雑な気持ちになる。
ミックは、あくまで香に貢いでいるのであって、
あの悪友の為に買って来た訳では無いのだ。
それでも、そんな本音はおくびにも出さない。


香にとって、ミックはあくまでも気のおけない、友人の1人なのだ。
ミックが未だに、初恋を引きずっているなど、香は全く思いもしてない。
ミックには恋人がいるし、香にも好きな人がいる。
お互いのパートナーの事も含め、お互い良く知る相手だ。
2人の話題は、専らお互いのパートナーについてだ。
ミックはかずえとの、ノロケ話。
香は僚に対する、愚痴。という体の、これまたノロケ話。(ミックにとっては)
それ以上に香に踏み込む事は、ミックにとって死を意味する。
僚も、ミックが香と午後のお茶をする事までは、黙認している。
しかし、あまり限度を超えて馴れ馴れしいと、
香の見ていない所で、制裁が加えられるシステムになっている。


香は美味しそうに、どら焼きを頬張る。
ダイニングのベンチに胡坐をかいている。
お世辞にも、お行儀良いとは言えない、そんな彼女の仕草は微笑ましい。
まるで、ティーンエイジャーの頃を思い出す。
ミックは、ニコニコしながら香に訊ねる。
「それは、リョウのジーンズ?」
「うん、元は。お下がりなの。」
そう言って、香は綺麗に笑う。
ミックの脳裏には、
香のそのアンバランスな色気に、少しだけ邪な気持ちが掠める。
香の説明によれば、
その穿き古した僚のジーンズを、実はずっと前から香は狙っていて、
今年のお互いの、6日間しか違わない誕生日に、香は取引したらしい。
香から僚へのプレゼントは、新しいジーンズ。
僚から香へのプレゼントは、このジーンズ。
結果、このジーンズは、晴れて香の手に渡った。


以前に比べると、僚と香は随分、進歩した。
僚は、その香への思いを前ほどは隠さなくなった。
しかし、まだまだ2人は『パートナー』の域は超えてはいない。
僚が多少素直になったからといって、
この香の天然記念物並みの、鈍さの前にはなかなか通用しないようだ。
香は、それまでの明るい雰囲気から一転、
ガラリと相談モードになって、ミックに向き直る。
「ねぇ、ミック?」
「何だい?」
「僚って、付き合ってる彼女いるのかな?」
ミックは、思わず緑茶を吹き出しそうになった。
彼女って、君だよ。カオリ。
と、言いたくなるのをグッと堪えて、
「どうしたの?急に。」
と冷静に、香の真意を探る。
「私さぁ、最近、ねこまんまの、梨乃ちゃんが怪しいと思うんだよね。すっごくお気に入りじゃない?僚の。」
確かに彼女は、ここ最近の僚のお気に入りには、違いない。
その情報を押さえている香は、流石だ。
しかし、根本的に何かが間違っていると、ミックは思う。
「付き合ってるとかじゃないでしょ?で?カオリは妬いてるワケ?」
「ん~、そう言うんじゃないケド。ただ・・・」
そう言って、香は淋しそうに俯く。
「ただ、何?」
「うん、僚にとって、私はずっとそういう対象にはならないのかなぁって、思って少しだけ淋しくなったの。」


香は、ミックには時々こうして、恋愛相談を持ち掛ける。
大抵は、的外れだが。
「カオリ、リョウはね、誰とも付き合ってないよ。アイツ意外とモテないから。ナンパだって、殆ど成功してないでしょ?そのうち、カオリの気持ちに答えてくれるさ。」
ミックは、心底脱力して、しかし真摯に答える。
「そうかなぁ?そうは、思えないケド。」
香はそう言って、クスリと笑う。


ミックは、悪友の顔を思い浮かべる。
この美しい彼女に、愛されているという事実は非常に羨ましいが、
その反面、激しく同情する。
まだ、こんなレベルの追いかけっこをしているのかと。
道のりは、まだまだ遠そうだ。
ミックは、どら焼きをモグモグと食べる香を見ながら、
1度は、心から愛した香の幸せを、心から願った。






カオリンとミックのティータイムでっす。
え~い、この鈍感娘っっ♪



[ 2012/06/30 23:50 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題77. 目標に向かって

香の目標は、早く高校を卒業して就職する事。
今まで兄貴に苦労をかけた分、兄貴孝行する事。
そしてもう1つ、兄貴の相棒に次に会えたら、ちゃんと名前を名乗る事。


僚には、目標なんか無い。
槇村はいつも、志は高く持てと言うケド。
そんなの柄じゃないし、どうでもイイ。
強いて言えば、苦しまずにコロリと死ぬ事。


香の目標は、兄貴のような立派な僚の相棒になる事。
僚と一緒に、兄貴の仇を討つ事。


僚には、目標なんか無いけれど、
当面は、親友の妹に欲情しない事。
一応、ああ見えて磨けば光る上玉だから。
槇村に代わって、悪いムシから守る事。


香の目標は、僚のモッコリから依頼人を守る事。
僚の目標は、香のトラップを掻い潜り、女体の神秘に辿り着く事。


香の目標は、僚をモッコリさせる事。
僚の目標は、成長した相棒を陰ながら見守る事。
余計な手出しは極力しない事。


香の目標は、僚の事を家族のように支える事。
今までつらい過去を背負ってきた、僚の傷を少しでも理解してゆく事。
僚の目標は、飛行機を克服する事。
毎回ちびってたんじゃ、シャレにならん。


香の目標は、美樹さんやソニアさんや、マリーさんみたいに、強くなる事。
僚の目標は、生きて誕生日を一緒に過ごす事。


香の目標は、自分じゃなきゃ僚のパートナーは務まらない事を、証明する事。
僚の目標は、ミックのセクハラから、香を何気に守る事。


香の目標は、僚の戦略をくみ取る事。修羅場でそつなく、サポートに回る事。
僚の目標は、敵を欺くには、まず味方から。
手段を選ばず、まずはクロイツの野郎から香を奪還する事。


2人の目標は、何が何でも生きる事。生き延びて愛する者を守る事。


僚の目標は、香にキスする事。
僚の目標は、香を抱き締める事。
僚の目標は、香とモッコリする事。
僚の目標は、香のゴキゲンを損ねない事。
僚の目標は、香を笑わせる事。
僚の目標は、香を幸せにする事。
僚の目標は、





好きな女の傍で、一生を全うする事。







リョウちゃんの経年変化を、
ダイジェストでお届け致しました。
[ 2012/07/01 18:54 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題52. ちゅ。

それは、とある平穏な午後の事。
香は、ほぼ日課となっている、
キャッツでのコーヒーブレイクを楽しんでいた。
午前中に1度、駅に行ってみたが依頼は無かった。
まぁ、いつもの事と言えば、いつもの事である。
そもそも、そんなに毎日毎日、
スイーパーを必要としている人が、大挙して押し寄せても、
それはそれで、この国の未来を本気で憂えてしまう。
香にしてみれば、コンスタントに依頼が来れば良いなぁと思うだけで、
何も、他人の不幸を心待ちにしている訳では無いのだ。
依頼など、無けりゃ無い方がそれはイイに決まっている。
死人や怪我人が出るより、貧乏な方がずっとマシだ。
もっとも、そんな事を言ったら、
僚は、お人好しめって、笑うだろうけど。


「香さん、今日はご機嫌ね?依頼あった?」
美樹が楽しげに訊ねる。
「うぅん、無かったわ。まっ、いつもの事だけど。」
そう言うモノの、香は何処となく上機嫌だ。
「まぁ、それなのに何だか楽しそうよ?香さん。何かイイ事あった?」
美樹は興味津々といった体で、カウンターに身を乗り出す。
夫の海坊主は、そんな天真爛漫な妻に内心苦笑する。
「別になぁんにも。相変わらず、貧乏だし、僚はグータラだし、食費は嵩むし、アパートは雨漏りするし、もうすぐクーパー車検だし、別に至っていつも通りよ。」
そう言って、香はニッコリ微笑む。
何だかやけに大変そうだわと、美樹は思わず苦笑する。
「でもね、いつも通りって、1番素敵な事でしょ?」
そう続けた香の言葉に、美樹は心から微笑んで頷く。
あぁ、やっぱり彼女は天使だと、美樹は思う。
きっと、彼女とその彼の2人の生活は、彼がもう少し節制すれば、
もっと、楽に違いないのに、
1番苦労している彼女が、1番彼を甘やかしている。
もっとも、香に言わせれば苦労でも何でも無いのだろう。


彼らはつい数ケ月前、数年越しの恋を実らせて、
漸く、恋人同士に昇格した。
しかし、そもそも、ずっと前から実質恋人のようなモノで、
それを頑として、これまで認めてこなかったのは、
当人達だけであった。
そんな2人の間に、どんなキッカケがあったのかは、
2人にしか解らないが、2人の関係が変わったのは、バレバレである。
意外にも、人前でイチャイチャしたがるのは、僚の方だ。
以前は、散々彼女を悲しませ、泣かせてきたクセに、
今では別人のように、彼女への独占慾と、愛情を隠そうともしない。
香の方は、恋人になる前も、なった後も相変わらずシャイなので、
直球で色んな事を訊かれたり、話題にされるのは苦手なようだ。
折角、収まるべき所に収まって、円満解決かと思いきや、
時折繰り出す、香の恥らいハンマーで、
キャッツの器物損壊事案が、ゼロになる日はまだ遠い。


伊集院夫妻に、客は香1人の、これまたいつも通りの店内には、
ほのぼのとした空気が流れている。
夫妻は、たとえこの店が流行らなくても、
こんないつも通りが、1番イイと思っている。
結構、香の事は言えないのである。
全員が全員、裏稼業の人間とは思えぬ程の、平和主義だ。
そんな中、一波乱起こしそうな2人組が、カウベルを鳴らして入って来た。
僚と冴子だ。
店に入る前から、何やら騒がしく言い合っている。

 
「だぁかぁらっっ、俺に手伝って欲しけりゃ、今までの貸し合計、10発!!耳揃えて払いなって。」
「あらぁ、そんなに貸しは無い筈だわ。この間の事、忘れたとは言わさないわよ?」
何やら、2人にしか解らない、意味深発言である。
勿論この2人は、ワザワザ周りの人間に懇切丁寧に、
『この間の事』を解説する程、親切では無いので、
2人にしか解らない話しは続く。
その合間に、2人はそれぞれオーダーをし、
僚は香に、おぉ、香来てたか。とクシャリと頭を撫で、
冴子は、香さんお久しぶり。と微笑んだ。
そうなのだ。
冴子とは、お久しぶりなのだ。香は。
けれども、僚とは『この間』何かがあったらしい。
香は、それまでの和やかなコーヒータイムが一転、
まるで、喉に何かがつっかえたように、胸が苦しくなった。


僚は、前とは違って香にとても優しくしてくれる。
穏やかな顔で、好きだと言ってくれる。
抱き締めてくれる。
キスだって、いっぱいしてくれる。
大事にされている実感はある。
でも、やっぱり冴子と僚の間には、
香が立ち入れない何かが有るように思えてしまう。
冴子は、美人で優しくて頭が良くて、完璧な女性だと香は思う。
何より、あの兄が好きになった人だ。
悪いヒトである訳がない。
だから、こんな風に醜い気持ちになるのは、自分がいけないんだと香は考える。
それでも。

『ワタシガシラナイリョウヲ、コノヒトガシッテイル』

そう思うと香は、僚にも冴子に対しても、
正体不明の真っ黒い感情が、湧き上がる。
無性に、主張したくなる。
僚は、私の僚なのだと。
頭では、それが子供染みた、馬鹿げた主張だという事は解っているのに。
心がそれに追いつかない。
まるで、心に猛獣を飼っているような、激しい嫉妬。
今まで香は、こんな気持ちを知らなかった。
僚の事を知れば知る程、僚に大切にされればされる程、
香は、欲張りになってしまう。


油断すると、涙が出そうだ。
香は、無意識だった。
突然、スクッと立ち上がると僚の頬を押さえて、顔を近付けた。
ちゅ。
そして、冴子に向き直ると、
「冴子さん、依頼がある時は伝言板の方にお願いします。それと、僚の貸し。残高ゼロですから。」
香は、それだけ言うとカウンターにコーヒー代を置いて店を出た。
いつもはシャイな香が、顔色一つ変えずに行った一連の行為に、
全員がポカンとした。
そして、いつもとは真逆で真っ赤になっているのは、僚だった。
そして暫く放心した後、大きく顔を綻ばせるとだらしなく笑った。
これって、嫉妬だよな、と思いながら。


十数分後、香は自宅キッチンで、夕飯の支度をしていた。
腹立ち紛れに、怒りをぶつける玉ねぎのみじん切りは、
いつもより、数倍細かい。
(僚のやつ、僚のやつ、僚のやつ!!なぁにが貸しよっっ!!!)
涙が溢れるのは、悔しいからじゃない。
玉ねぎのせいだ。
すぐ後ろに僚が帰っていた事には、気付かなかった。
「香、こっち向いて。」
そう穏やかに言った僚の声に、香の包丁がピタリと止まる。
それでも、涙は急に止まらないから、そっちへは向けないと、香は俯く。
そんな香の事を解っていて、僚は背中から香を抱き締める。
包丁と、まな板と、玉ねぎごと全部。


僚は、香の耳元で囁く。
「ヤキモチ、妬いてくれたの?」
昔の僚なら、女にヤキモチを妬かれる事ほど、鬱陶しい事は無かった。
妬かれて嬉しいなんて、変われば変わるモンだ。
香は、小さな声で主張する。
僚は、アタシの僚なんだよ。
「あぁ、そうだ。」
アタシは、僚のモノなの。
「勿論。よく解ってんじゃん、お利口さん。」
そう言って、僚は香のつむじにキスをする。
香が、僚の腕の中でクルリと僚に向き直る。
真っ赤になった頬は涙で濡れている。
大粒の涙が玉になって、今にも溢れそうな眼尻に僚がキスをする。
「他の女に、アタシの知らない僚を見せないで。」
香の口から、よもやそんな言葉が聞けるとは思いもしなかった僚は、
その甘美な束縛の呪文に、眩暈を覚えた。
嫉妬しているのは、
束縛しているのは、
独占慾に苛まれているのは、いつも自分ばかりだと思っていた。
ちゅ。
愛する恋人からの、カワイイ初めての束縛に、
僚は甘んじて従属するつもりだ。
その証として、誓いのキスをする。
「見せてねぇよ。おまぁが知らねぇ俺なんて、いねぇよ。」
そう言って、触れるだけじゃない口付を交わす。


数分後、玉ねぎの薫りが漂うキッチンの、
僚の腕の中で、グッタリとした香に僚が言った。
「でも、おまぁ。明日キャッツ行ったら、絶対冷やかされんぞ。皆の目の前で、堂々のチューと恋人宣言しちゃったからね♪」
僚は、心底楽しそうである。
「あ。そうだった・・・」
一方の香は、漸く一連の自分の行動を思い出し、
今頃、真っ赤になってフリーズしている。
そんな香も、
どんな香でも、僚は可愛くて仕方が無い。
もうこれから先、他の女に現を抜かす暇など、1秒たりとも有りはしないのだ。









ハンマーや、暴力抜きのカオリンのヤキモチ。
こんなだったら、リョウちゃんは美味しいだけでっす。
[ 2012/07/02 22:32 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題10. 家に帰ろう

香がまだ小学校に上がる前、
近所の公園で遊ぶ香を迎えに来てくれたのは、いつも兄だった。
香には、物心ついた頃から、母親の記憶は無いし、
父親はいつも忙しくて、傍に居てくれるのは、いつも兄だった。
香はそれが、淋しいなんて思った事は無かった。
余所のお家が、どんな風なのかなんて知らなかったし、
兄は優しくて、カッコ良くて大好きだった。

父親が仕事中に死んで、兄と2人だけになってからも、
いつも香の傍に居てくれたのは、兄だった。
少しづつ、大きくなるうちに余所のお家には、
お父さんがいて、お母さんがいて、
お兄ちゃんは普通、専らケンカ相手らしいという事が薄々解っても、
香は、兄が大好きだった。
兄とケンカなんかする理由は1つも無かった。
兄はどんな時も、香の憧れだった。

兄が刑事になって、父親と同じように忙しい身になってからは、
兄を支える家族は、自分なんだと頑張った。
それまで兄がしてくれた身の回りの事を、今度は香が兄に返す番だった。
ある時、自分達が血の繋がらない間柄だと判ったけれど、
そんな事は関係無かった。
それより大事な事は、兄が無事に帰って来てくれる事。
この世でたった2人、お互いだけが家族だった。
この世で兄がいる所だけが、香の故郷だ。

香が随分大きくなって、高校生になった頃。
兄が香に内緒で、警察を辞めた。
外の世界で、兄に何が起こっていたのか香には解らなかったけれど、
ただただ、香は兄の身を案じ、無事に家に帰って来る事を祈った。
香が兄の相棒の存在を知ったのは、それから程なくして。
初めは、まるでそいつが兄を自分の元から連れて行こうとする、
悪いヤツに思えた。
香と兄の小さなささやかな世界に、僚という新しいメンバーが現れた。




そして、世界は崩壊した。
兄は香の元から居なくなってしまった。
香がこの世に生まれて、たった20年後の事だった。
香には、まだまだ兄が必要だった。
これから、兄に返さないといけない恩義が沢山あった。
まだまだ、話足りない事が沢山あった。
ただ、純粋に兄が大好きだった。
そして、兄は香に僚を遺して逝った。

僚は風のような男で、掴み処がない。
僚は時々とても冷酷で、何人たりとも寄せ付けない。
僚は時々とても寂しげで、まるで捨てられた仔犬のよう。
僚は時々とても優しくて、香は兄貴を思い出した。
我儘で、意地悪で、スケベで、だらしなくて。
それでも、香は僚の家族になる事に決めた。

家族とは、一緒に過ごす相手。
一緒に食卓を囲み、テレビを見て、ケンカして、仲直りして。
それでも、香は知っているから。
家族になるのに、血の繋がりは関係無いと。
誰でも無い、香の唯一の家族の兄貴が教えてくれた。
だからきっと、いつかは僚とも家族になれると疑わなかった。

勿論、初めから上手くいくワケは無かった。
沢山、嫌な思いもして、
沢山、泣いた。
でも、泣いた香を笑わせてくれるのも僚だった。
何度もケンカをしたし、少しづつお互いの色んな事が解り始めた。

僚の過去も。香の生い立ちも。
全ては、2人が出会う為の布石だった。
きっと、秀幸が生きていれば家族は3人になったのだろう。
それは、何も特別な事では無く、
普通であれば、生まれた時から手にする家族というモノを、
僚と香は、少しづつ自分達の手で作り上げただけの事。
だからこそ、2人にはその大切さが良く解る。
当たり前のように、そこにある幸せは当たり前なんかじゃ無いと言う事。

香が日課のキャッツに居ると、僚が遅れてやって来る。
コーヒー飲んでバカ話をしているけれど、
それは多分、一緒に帰ろうの合図。
不器用な僚なりの、香のお迎え。
これから、買い物をして家に帰って、夕飯を作って2人で食べる。
この世でたった2人、お互いだけが家族だ。
兄貴は香の胸の中にいつもいる。故郷は、胸の奥にある。
だから、
この世で僚の居る所が、香の居場所だ。

伊集院夫妻に聞こえないように、僚がコッソリ香に耳打ちする。
“なぁ、香ぃ。ウチに帰ろう?”
腹も減ったし、
おまぁと、ダラダラ、ゴロゴロしてたいし、
コーヒーも淹れてくれよ?
だから早く、俺達の家に帰ろう。
2人だけの、あのボロアパートに。


この世でたった2人、お互いだけが家族で。
この世で唯一、あの部屋だけが2人の帰る場所。










カオリンが家族になろうと決意した事で、
誰より、リョウちゃんが
最も幸せになれたんじゃないかと思いまっす。
[ 2012/07/03 23:45 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題15. こぼれ落ちる

僚はいつだったか、パートナーになったばかりの香に、
『相棒である以上、女扱いはしない』と言った。
香も異論は無く、“上等だっっ!!”と思った。
僚の“女扱い”というモノが、あの節操の無いモッコリの事ならば、
香としては、むしろご遠慮願いたい。
僚の宣言は、香も望む所だ。
ワザワザ、そんな宣言をした僚の本心は、香を女だと認識していればこそで、
心底、魅力を感じていないのならば、宣言する必要も無い。
しかし、そんな僚の本意を見抜けるほど、香はまだ大人じゃなくて。
正直、僚はホッとした。


それでも2人が時を重ねる毎に、少しづつ気持ちも変化を重ねる。
僚に危ない所を助けられる度、
折れそうになる心を、そっと支えられる度、香は少しだけ淋しくなった。
僚が女扱いしない自分という女に、如何ほどの価値があると云うのだろう。
あの逞しい腕に甘える事を、易々と放棄してしまったあの頃の香は、
まだ、何も知らない世間知らずの小娘だったのだ。
少しづつ大人になって、香は切なくて涙を溢すという事を覚えた。
香に惚れる野郎を蹴散らす度、
真っ黒い心の底に、香の笑顔の陽が射す度、
僚は、過去の己の言葉の呪縛に、雁字搦めになった。
唯一、邪な目で見てはいけない、
穢れない女の価値に、目を背ける事が出来なくて。
あの華奢な背中を、凛とした眼差しを、
いつでも簡単に、手放す事が出来ると思っていたあの頃の僚は、
きっと、世界一の間抜けだ。
夜毎、ネオンの海に溺れては、グラスの底に溜息を零した。





僚の長い指が、華奢な肩紐を滑らすと、
その薄くて軽い光沢を帯びたスリップは、音も無く床の上に落ちる。
香の細く長い脚が、枕を蹴ると、
軽い音を立てて、羽毛の詰まったそれがベッドの下へと落ちる。
波打つシーツの狭間に落ちるのは、2人の湿った吐息。
夜の底で2人は、快楽の海へこぼれ落ちる。





あのジャングルでの飛行機墜落の時に、
僚もまた、その先にあった筈の未来から、こぼれ落ちた。
僚が日本へとやって来て暫く経ってから、
何故だか香が、僚の手の上に堕ちて来た。
きっと、何かの間違いだろうと僚は思った。
羽根の折れた天使が、運命の風に吹かれて迷い込んで来た。
暫く僚が面倒を見て、羽根が治ったらまた空の上へと帰るだろう。
そう思って、僚は香を手元に置いた。
それから何年も、香を天国へ返す為の梯子を探した。
でも、ちょうど良い梯子は、なかなか見付からなかった。
僚の考える香の幸せには、梯子の長さが足りなかった。
どうせなら、もっと安全で、もっと幸せで、もっと丈夫な梯子を。
そうやって、香を手元に留まらせる内に、僚はフト気が付いた。
梯子は、見付からないのでは無くて、
最初から無いのかもしれないと。
僚が考える香の幸せが、
そもそも何処かで、間違っていたのかもしれないと。





僚のシャープな顎を伝って、汗が滴り落ちる。
乳白色の滑らかな肌の上で、香の汗と溶けて混ざり合う。
虚ろな目でその様を眺めながら僚は、香の首筋に吸い付く。
互いの、薄い皮膚1枚が隔てる距離が、もどかしい。
永遠に、1つに混ざり合う事の出来ない、別の人間同士だからこそ、
これ程までに、狂おしく愛しい。
たった1点だけで繋がる、ただそれだけでも、
気が狂いそうな程、我を忘れてしまう。
しかしその行為には、いつも終わりがあって。
僚はいつも、ふわりと香の上に落ちて来る。
まるで真綿のように、香を優しく拘束する。


汗だくになった僚は、ベッドサイドを手探りでエアコンのリモコンを探る。
その僚の気配を察知して、眠りに落ちそうになっていた香が呟く。
「・・・ダメ。」
「あち~~よ、カオリン。」
「でも、ダメ。節電。」
「1時間だけ。」
まるで、ご褒美をねだる子供のような顔で、そう言う僚に。
香は、弱い。
「しょ~がないなぁ。じゃあ、1時間だけだよ?」
僚が本当に嬉しそうに、微笑んでスイッチを入れるから、
香も思わず笑ってしまう。
そんな香がまるで菩薩のようだと、僚が思っている事を香は知らない。


僚は最近、漸く気が付いた。
僚の考える香の幸せ、やっぱりあれは間違っていた事に。
というかそもそも香は、迷い込んで来た訳でもないようだ。
そして、空の上に帰って行く気も無いようだ。
こぼれ落ちて来たと思っていたこの世界こそ、
きっと、2人が辿り着くべき未来だったのだ。
そこは2人にとって、この世で1番の楽園だった。










こんな蒸し暑い夜にエアコン無しでは、リョウちゃんは死にまっす。
この後、カオリンはしっかりブランケットに包まって、
リョウちゃんは全裸で大の字で眠りまっす、きっと。
[ 2012/07/04 21:49 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題03. 口笛吹いて

彼女の背後には、不穏な空気を撒き散らす、
無粋な輩が2~3匹、後をつけている。

彼女は、スラリとした華奢な背筋をぴんと伸ばし、
ポケットに手を突っ込んで、真っ直ぐに前を見て歩いてゆく。

駅の構内から、ずっとつけられていた彼女は、今現在、
口笛を吹きながら、昼間の歌舞伎町の人気の無い裏路地に入る。

背後に感じる、ダダ漏れの隠そうともしていない殺気に、
彼女は苦笑しつつも勿論気付いている、何を隠そう彼女は。

シティ・ハンターの相棒、依頼窓口担当・槇村香だから。



悲しいかな、こんな事は日常茶飯事だ。
肝心の、お金になる依頼は全然無いのに、
招かれざるチンピラばっかし、引き寄せる。
香は1人そっと、ごちる。
「はぁ~あ。なんの因果か、こんな奴らばっか・・・」
それでも最近は、凄腕スイーパーの相方なんかやってるのも、伊達では無く、
頭の中で、奴らを片付ける為の算段を始める。
(ま、こんな街中で殺気も消せないような奴ら。僚に頼るまでも無いってか。)
香は、口笛を吹きながら、一見呑気に歩を進め、
路地の奥の、袋小路へと奴らを誘導する。
この辺りは、僚にとっても庭だけど、
僚の夜遊びの手綱を握る、香にとってもまた、遊び(?)慣れた庭なのだ。
ココまで、脳天気に誘導されている彼らには、誠に残念ながら勝ち目は無い。

数分後、
3人の腑抜けた男達は、香の手によって3人纏めて縛り上げられている。
後は、香が匿名で110番通報でもやっとけば、彼らは間違いなく御用だ。
彼らのジャケットの懐の、如何わしい所持品。銃刀法違反の容疑だ。
もっとも、匿名の通報者の方も、同じく銃刀法には違反している。
3人の内のリーダー格(まぁ、彼女に言わせれば、ドングリの背比べだが)と思しき男のコメカミに、兄の形見のローマンを突き付ける。
「アンタ達、アタシ相手で助かったわよ。僚なら今頃、殺られてるよ?取敢えず、おまわりさんに保護して貰うからね♪」
そう言って、彼女は優しく微笑む。
彼女の言葉の裏側に、その相棒の影を感じ、
そして、彼らは確かに己の幸運を噛み締める。
まともに冴羽僚を相手にしていたら、きっと今頃地獄の門を叩いていただろう。
銃刀法で捕まって、これからは更生して生きて行こうとさえ、彼らは思う。
彼女は知らず、また愚かな輩を救っている。
「それじゃ、お元気で。」
そう言って、その場を立ち去りながら、110番する彼女には。
闇の気配など、微塵も無い。

彼女が去った路地裏に、呑気な口笛が響き渡る。
3人の物悲しい輩の目の前に現れた大男、冴羽僚。
今にも、ちびりそうになっている輩を、ニヤリと見下ろす瞳は地獄よりも深淵だ。
彼らに止めを刺す訳でも無く、ニヤニヤして彼女の残して行った、
仕事の手際の良さを、確認している。
警官が駆け付けたところで、自分達の関与を示す証拠は何1つ無い。
ジャジャ馬は、いつの間にか、すっかり頼れる僚の片腕だ。
僚は一言も発さず、ジャケットの懐から、
潰れかけたソフトパッケージの、マールボロを取り出すと、1本咥える。
よれよれの煙草を吹かしながら、僚はその場を後にする。
今頃、香はスーパーで晩飯の買い出しをしている筈だ。



いつものスーパーの入り口。僚が店内を観察すると、
レジ付近に、麗しの相棒の姿を発見する。

先程の3人組との遣り取りよりも、むしろ険しい顔つきだ。
依頼は、今月に入って未だ0件だ。

エコバッグを提げて出て来た香に、僚が軽く口笛を吹く。
気付いた香は、ニッコリ笑う。

「今日の、晩メシ何?」
「肉じゃがと、野菜炒め。お金無いから、あんまり食べないでね♪」

依頼は、今日も無し。
絡んできたチンピラ、3人。
晩メシ、肉じゃがと野菜炒め。
2人はゆっくりと、並んで家まで歩く。
いつの間にか、一緒に口笛を吹いている。

今日も平和な、“いつも通り”の新宿の風景だ。






つおいカオリンが書きたくて。
きっと、カオリンにとっては、チンピラさんよりも、
スーパーでの懐事情の方が、切実でっす(悲哀)
どうか、彼らに依頼の愛の手を・・・
[ 2012/07/21 00:05 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題35. 時間切れ

奥多摩の教会で、海坊主と美樹が結婚式を挙げてもうどの位だろう。
美樹の傷も完治して、もう既に店にも復帰した。
だから僚が香に、また気まぐれに思わせぶりな事を言ってからも、
同じだけ、時が過ぎた。
あんなに嬉しい事を言われたのは初めてだったケド、それと同時に香は思う。
ああ、またかと。僚のいつもの肩透かしだ。
これまで似たような事は何度もあったし、その度に香は、
自分自身が僚に対して抱いている感情と、向き合う事になる。
そしてその度に、諦める。
まさか、あの僚がこの私に、
そう言うつもりであんな事言ったワケじゃ無いだろうと。
都合のイイ解釈をするのは、止めにしようと香は思う。
きっと、相棒以上の感情を持て余して、ウンザリしてるのなんて自分だけだと。

もう、自分の気持ちを押し殺すのなんて、慣れっこだ。いつもの事。



あの湖の畔で、香を抱き締めてからもうどの位だろう。
今までに、あの程度の香との接触なんて、日常茶飯事だった。
自分達の職業上、
危ない所からアイツを抱き上げて、逃げ延びるなんて事も多々あるし。
気のおけない、相棒のフリをして白々しく肩を抱くなんて事も、しょっちゅうだ。
それでも、あの時だけは違うと僚は思う。
明確な意思を持って、香を抱き締めた。
何が何でも、香を守り抜いて、己も生き延びたいと、心からそう願った。
香を愛している1人の男として、あの華奢な体を抱き締めた。
僚は今でも、どれだけ時間が経過しようとも、
あの柔らかな香の感触が忘れられない。
もう1度、イヤ、1度と言わず何度でも、この腕に香を抱き留めたい。
何処にも行くなと、一生俺の元から離れるなと、縛り付けたい。
それでも、僚は自分自身の初めての感情に、正直戸惑っている。
それまで己が香に惚れている事に、重々自覚はあった。
しかしそれを明確に言葉にしてしまうと、もう我慢する事など出来なくなった。
想いは止め処なく溢れ、この1か月半ほど、殆ど病気だ。
朝から晩まで、香、香、香。
純粋な愛情から、邪な劣情、危険極まりない凶暴な独占慾まで。
ありとあらゆる不純な感情を抱いた自分自身に、僚は正直辟易している。
幾ら、香も己に惚れてくれているとしても、こんな男じゃ嫌だろう。
暑苦しすぎる。
自分だったら嫌だもん、と僚は思う。

このまま、家に居たらきっと、いつか香に本格的に嫌われてしまう。




だから僚は、いつも以上に飲み歩いて、現実逃避を図る。
だから香は、いつもの通り、お節介な相棒として制裁を加える。
そうすればまた、不毛な1日が終わって、不毛な1日が始まる。
何も始まりはしないケド、何も失う事も無い。
このスタンスさえ守れば、いつまでも2人、ずっと一緒に居られる。
新しい2人を始めて、何かを失う位なら、少しだけ物足りない今が1番イイ。
たとえそれが、弱虫で臆病な逃げの屁理屈だったとしても。



それでも本心は、2人とも別にあって。
本当は2人とも、欲しがっている。
確かな愛情を。温かな触れ合いを。優しい言葉を。
素直じゃない2人は、
温かな触れ合いを、ハンマーに変えて。
優しい言葉を、酔っ払いの戯言に変える。
たとえそこに、確かな愛情があったとしても。



だから今日も予定調和で、終了する予定だった。
だけど2人は気付いてしまった。
暴力の裏に秘められた切実な想いと、戯言に隠された情熱的な本心に。
だからもう、時間切れ。
気付いたからには、不毛な事をやっている暇など無い。
1分でも1秒でも早く、オマエ(アンタ)に触れなくては。



風呂上りのパジャマ姿で、だらしなく酔っ払った姿で、
鍵も閉めていない玄関先で、

今夜2人は、初めてキスをした。










え~と、必殺・初チュウ噺でっす!!
ワタクシ、色んなパターンの“お初”が書きたいので、
時期的な事とか、他の話しと齟齬があるとかの、
鋭いツッコミは、無しでお願いしまっす(爆)
奥多摩から、1か月と半なら、ワタクシとしては早いと思いまぁっす♪
もっと、ウジウジ・モヤモヤして貰っても、萌えまっす(ポッ)
チュウ噺、好き❤
[ 2012/07/21 22:32 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題14. 目に見えないもの

僚の腕の中で、香は考える。
目に見えなくても大事なモノは、きっとあると。
目には見えなくても、空気はある。
目には見えなくても、風は吹く。
目には見えなくても、匂いがある。
本当に大切なものが、目に見えないって事は結構よくある。


僚の圧倒的な力の前に、香は快楽に飲み込まれる。
きっと今、香が考えている頭の中の事も、僚には見えない。
目に見えなくても、想いはある。
目に見えなくても、絆はある。
目に見えないと解っていても、心の中が知りたい。
本当の中の中まで、知っておきたい。
だからきっと、こうして夜毎確かめ合うのかもしれない。
目に見えない“気持ち”という、曖昧な塊を、
形にして、お互いの心と体を求める。


僚の唇が首筋を上って、香の耳に辿り着く。
熱くて湿った息が、香を擽る。
言葉に出来ない、事がある。
言葉に出来ない、気持ちがある。
言葉にしてしまうと、何かが少しづつ違ってしまう。
頭で思っている事の、100分の1も言葉では表せない。
だから香は、僚に触れる手から、
ホンの少しでも想いが伝わりますようにと願う。
言葉にならない声で、僚を求める。
目を閉じて、見えない僚を感じ取ろうと心がける。


僚が香の髪に顔を埋めて、くぐもった声で楽しげに訊ねる。
「何、考えてた?カオリン」
こんな風に楽しそうに、私を抱くあなたが。
こんな風に愛おしげに、私に触れるあなたが。
とても好きなんだって、考えてた。
絶対に失いたくないと、考えてた。
自分と同じように僚にも、そう思って欲しいと考えてた。


香は僚の厚い胸に顔を埋めて、僚の背中に腕を回す。
「目の前の僚と、目に見えない僚の事考えてた。」
香の声は、先程までの余韻を含んで、甘く僚の耳に絡みつく。
僚の瞳、大きな手、薄い唇、長い脚、柔らかな髪の毛、額に滲む汗。
僚の心の中、考えてる事、感じている事、匂い、鼓動。
僚の全部。
「見える俺も、見えない俺も全部俺で、全部お前のモンだ。」
そう言って香を見詰める僚の眼は、逆もまた然りだと物語っている。
香には何故だか、それが解る。
僚の言葉にしない言葉が、香には解る気がする。
見えている私も、見えない私の心も全部が私で、全部僚のモノだ。
それは多分、傍から見ると狂っている理論かもしれない。
だけど2人にとっては、何より甘くて幸福な、お互いを縛る心の鎖だ。
たとえ目には見えなくとも、お互いが相手を裏切るような事は死ぬまで無い。


昔の2人は、目に見えないお互いの心に臆病になっていた。
目に見えないから、解らなくて、もどかしかった。
目に見えない事が、言い訳や免罪符になって、お互いを傷付けた。
だけど、目に見えなくても、確かにそこには大切なモノがあった。
目に見えない事こそ、むしろ大切で大きな愛の塊だった。

目に映るモノは、時として錯覚も同時に映す。
本当に大切なモノは、きっと目には見えない。








めっちゃ、短い上にお2人セックス中で、
その上、何が言いたいのか良く解らなくなってしまった(汗)
多分、すんごく好きって事。
[ 2012/07/22 19:27 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題83. うたた寝

それは、信じられない程暑い、とある夏の1日。
炎天下の中、ナンパに励む僚であったが、
その日課が不毛な事に、今日ばかりは、ハタと気が付いた。

まず第一に、こんなにギラギラと激しい日差しが照り付ける中に、
まずもって、カワイコちゃんは歩いていない。
たとえ歩いていたとしても、歩みを止めて僚に付き合う子なんかいない。
何しろ、皆一刻も早く日陰と冷房の元に移動したいのだ。

第二に、僚自身このクソ暑い中、いつものジャケットを羽織っている。
しかし、こればっかりは脱ぐワケにもいかない。
何しろ、ジーンズの腰に、“相棒”を携えている。
こんな汗だくの暑苦しい男、きっとモッコリちゃんにしてみれば、
なに、あれ?だっさっぁぁぁぁあいっっ。である。
それ以前に、僚自身、暑さの限界である。

そして第三に、・・・香が歩いていない。
少し暑さがマシな午前中には、1度伝言板を見に行ったらしい。
僚がブランチにありついている時に、香は帰って来た。
そう言えばあの時、香はエコバッグを持っていた。
そして何やら、買い出して来たモノを、冷蔵庫へ仕舞ってたっけ。
香の行動は、いつだって天気予報に基づいている。
きっと午後からのこんな暑さを見越して、
外に出ないで済むようにとの事だろう。

そこまで思い出して僚は、決めた。
だぁぁ~~~っ!!今日は、ヤメだ、ヤメ!!!モッコリちゃんのモの字もねぇ。」
僚は誰に言うでも無く、そんな事をのたまうが、
実際にはこの場合、香に遭遇する見込みが無いと踏んでの事だ。
なのでこの場合のモの字と言うのは、香の事だと解釈するのが妥当である。


そういうワケで、僚はリビングでエロ本を読むべく自宅へ戻る。
帰り着いた我が家は、ヒッソリと静まり返っていた。
まずは、リビングを覗いてみるも、香はいない。
そこでキッチンと、客間を覗いてみても香はいない。
(キャッツか???)
確かにウチでは冷房を入れないので、この暑さに堪りかねて、
冷房ギンギンの、都会のオアシスへと涼みに行ったんだろう。
僚は少しだけ、
なぁんだ、キャッツ行きゃ良かったな。
なんて思うが、今更外には出たくないので、気持ちを切り替える。

「良いモン、良いモン。鬼軍曹カオリンなんていない方が、エロ本だって満喫できるもぉおん!!」
その前に、まずはシャワー、シャワーと。
僚は盛大な独り言と共に、
着替えのボクサーパンツを、人差し指でクルクルと回しながら、
バスルームへと向かう。
いた。
モの字である。バスルームの真ん前。廊下の真ん中で。
まるで真夏の猫のように、ダランと伸びてうたた寝している。
何で???
僚の頭上を、クエスチョンマークが飛び交う。

僚は暫し、香を観察する。
超短いデニムのショートパンツ。そこからスラリと伸びる細くて長い脚。
モチロン、素足でスリッパもなし。つま先を見ると、薄いピンクのペディキュア。
淡い杢グレイの綿のキャミソール。至ってシンプルだが、
裾にクリームイエローのピコットレースがあしらわれている。
キャミソールの肩紐とは別に、薄いピンクの肩紐。
ヒップハングのショートパンツと、ヒラヒラしたキャミソールの間に見え隠れする、
白い肌が眩しい、華奢なウエストライン。
ソファの上から持って来たと思しき、香お気に入りのクッションに顔を埋めて、
俯せでスヤスヤと眠っている。

どうやら、クッション持参の所を見ると、
敢えてここを、昼寝の場所として選んだと思われる。
この廊下は、部屋の内側にあって、窓も無いので直射日光が入らない。
その分少しだけ、薄暗くひんやりしている。
床はフローリングで、壁はコンクリート打ちっぱなし。
窓が無い割に、何処からか風通しはあるらしく、
確かに家中で、1番快適な空間かもしれない。
例えば犬や猫なら、間違いなくココで昼寝しそうだ。
そう思って僚は、思わず苦笑する。

「おまぁは、猫かっつーのっっ。」
そうは言うモノの、僚の口調はあくまでも穏やかで、
香の昼寝を邪魔しないように、優しくその猫毛を撫でる。
僚もついつい、香の横に寝そべる。
「あ、想像以上に、快適。」
気が付くと、僚はうたた寝していた。



数時間後、冴羽アパート前舗道。
少しだけ青い絵の具を薄めたような、夏の宵。
未だ気温は高いが、日差しが無くなった分凌ぎやすくなった。
ミック・エンジェルは、いやらしい笑みを浮かべて、6階を見上げる。
手には、先日の取材土産の立派な白桃の入った、白い箱を持っている。
かずえは、今日は教授宅へ泊まり込みである。
香はきっと今頃、夕飯の支度をしているだろう。
こんな時間を見計らってやって来たのは、夕飯のご相伴にあずかる為である。
カオリを驚かせるために、コッソリキッチンにお邪魔しよう♪グフッ
などと思いながら、ミックは6階へ赴く。



オーマイガッッ!!!
ミックの大声で、僚がガバッと起き上がる。
香もむにゃむにゃ言いながら、目を擦りつつ起き上がる。
「・・・っっんだょ、ぅるせぇなっっ!!!」
僚が迷惑そうに、ミックを睨む。
「何だよは、こっちの台詞だリョウっっ!!!2人してこんなトコで倒れてるから、一瞬何かあったかと思うじゃないかっっ!!!・・・・って、オオゥ。マーヴェラスッッ♪」
途中まで、怒り口調だったミックの視線が僚から香に移った途端、
ミックは、ヨダレを垂らす。
視線の先、寝惚けてポヤンとした香のキャミソールの肩紐は、
片側が完全に肩から落ちて、
淡いピンク色の白いレースで縁取られた、カワイらしいブラジャアが覗いている。
僚は盛大に眉を顰めると、
「テメェ、何しに来たんだょ?っつーか、勝手に人のモン見んじゃねぇ。殺すぞ。」
と寝起きとは思えぬレベルの殺気を放つ。
「相変わらず、狭量だねぇ。リョウちゃんは♪」
ミックはどこ吹く風で、飄々と答える。
恐らく、僚のこのレベルの殺気を受け流せるのは、世界広しと言えど、
ミックか、海坊主ぐらいのモンである。

「何しにって、お土産を持って来たんだよ。」
ミックはそう言って、香に持参した白桃を見せる。
うわぁあ~。
香は寝グセでピンピン跳ねた髪の毛や、
クッションの縫い目がクッキリと痕になった頬など、
微塵も気にする事無く、ニッコリと微笑む。
「いつも、ありがとお~~、ミック♪」
「どう致しまして。」
そんなすっとぼけた遣り取りをする、カワイイ相方に、
僚はブスッとしながら、釘をさす。
「おまぁ、土産はどうでも良いケド。肩紐直せよ。見えてっから。」
香はその事実に初めて気付いて、えへへ。と肩紐を直しながら頭を掻いている。
そんな無防備な彼女に、僚は大きく溜息を漏らし、ミックは苦笑する。

その後案の定、
夕飯は食べたかと訊ねた香に、
今晩は、かずえがいないんだとミックが答え、
予定通りその晩ミックは、冴羽家で夕飯を食べた。







暑いので、こんなうたた寝になっちゃいました♪
でも、きっと2人が廊下で寝転んでたら、
他の人が見たらギョッとしますね~
(((;゜Д゜)))な、なにかあったの?って。
[ 2012/07/23 20:58 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題43. ため息

《槇村 香の場合》

はぁっ~~。
珈琲の薫り漂う店内で、彼女の溜息が零れる。
只今、8回目の溜息である。
彼女が席について、僅か5分14秒後の事だ。
この店が繁盛していて、客の出入りがソコソコあれば、
たった1人の客の、そんな溜息など、響き渡る事も無いのであろうが、
如何せんココは、喫茶キャッツ・アイなのだ。
客は、槇村香ただ1人。
従業員は、伊集院夫妻。
必然的に、その溜息の理由を訊ねる事となる。

「どうしたの?香さん。」
美樹が訊ねる。
「何が?」
香は、キョトンと首を傾げる。自覚が無いようである。
美樹は思わず苦笑する。
「…何がって、溜息8回目よ?何かあった?」
「や、やだ。美樹さん数えてたの?…恥ずかしい…」
香は途端に、赤面する。そして、
まぁ何も無いと言えば無いし、あると言えばあるのよねぇ。
と、意味不明な事を呟く。

「まぁ、まず無いと言えば、依頼よね。
 これは相変わらず、今日も無かったわ。すると、必然的にお金も無い…
(以下、香の際限無い呟き。)
 
 僚のヤツは、ヤル気が無い。
 先週1件だけ、男性からの依頼があるにはあった。
 それを僚は、香の入浴中に勝手に断ってしまった。
 あるのは、僚の有り余る食欲と性欲。
 この間、僚宛に代引きで小包が届いたので、
 なけなしの生活費で支払ったら、ただのエロ本と、エロDVDだった。
 香にはどうしてそうなったのか、未だ理解不能だが、  
 先日、僚が風呂場のドアを破壊した。強靭なモッコリで。
 そのドアの修繕費も捻出しないとだし。
 仕事をヤル気は無いクセに、バカみたいに食べるし。毎晩、飲み歩く。
 それに、やらかすのは僚だけじゃない。
 この前、武器庫を片付けていた香は、誤ってバズーカぶっ放した。室内で。
 その時に、ちょこっと(?)壊した壁の修理もしなきゃだし。
 
 ‥‥ん~~、色々あるっちゃあるけど、ま、いつも通りかな。」
そう言って、ニッコリと微笑む彼女に、伊集院夫妻は深い深い溜息を吐いた。





《冴羽 僚の場合》

ハァッ~~~。
馴染みのバーで、酒を煽りながら僚は、今夜何度目か解らない、溜息を吐く。
溜息と一緒に、煙草のケムリも盛大に吐き出す。
気が付くと煙草は、いつの間にか本日2箱目の封を切っていた。
隣では、腐れ縁で元同業者の、ミック・エンジェルが苦笑する。
辛気臭いなぁ、リョウ、と。
僚は内心、知った事かと呟くが、反論する程の元気も無い。
ガキみたいに元相棒と、言い合いするのも面倒臭い。

大体、アイツは解ってねぇ、と僚は思う。
“アイツ”というのは、現相棒で、相棒以上恋人未満の、槇村香の事だ。
まぁ、恋人未満とはいえ、チュウぐらいはする。ガッツリする。
しかし、僚の考える“未満”というのは、セックスはまだしていないという事だ。
僚にとってそれは、死ぬ程重要な事なのだ。
だから、香とセックスをしない内は、まだまだ死ぬ訳にはいかないのだ。
それなのに、アイツときたら!!!
僚はビシバシ、フェロモンビームを発しているってのに、全く効かない。
未だ嘗て、これ程までに苦戦した女など、僚は初めてだ。

そんな僚の悶々とした葛藤など、知ってか知らずか。
香は平気な顔して、男の依頼など取って来る。
しかも、どう考えても、相手は香への下心満載の、
鼻の下を伸ばした、中年オヤジ(怒)
僚は、込み上げる殺意を何とか押し留めて、
香の居ない隙に、断りの電話を入れた。そしてその晩、簀巻きで吊るされた。
ちったぁ、俺の苦労も解ってくれ、相棒よ、と僚は思う。

この前は、僚の大事なコレクションを、
香は届いたその日に、ゴミ箱にブチ込んでいた。
香としては、このお金の無い時に何無駄遣いしてんだという心情だ。
しかし、一方の僚に言わせれば、
コレクターの心理というモノを、全く理解していないという事らしい。
この価値観に関しては、恐らくどんなに膝を詰めて語り合っても、平行線だ。

それに、アイツは無防備過ぎると僚は思う。
この間僚は、脱衣所で香の下着を発見した。
恐らく、洗った後で干す前の、
その可愛らしい可憐なパンティちゃんは、脱衣所の片隅にヒッソリ落ちていた。
只今、欲求不満全開の僚にとって、それはエサである。
そりゃ、モッコリもするってもんだ。
何処がどうしてそうなったのか。
気付いたら、風呂場のドアは大破していた。
僚は少しだけ、自分のナニが空恐ろしくなった。



そんな日々の色々を考えていると、僚は知らず溜息を漏らしてしまう。
しかし必ずや近い内に、
この溜息を甘い吐息に変えてみせると、
氷が解けて少しだけ薄くなったバーボンを、僚は一息に煽った。









こここ、怖ぇ~っす。
冴羽さんの、もこーり。
(((;゜Д゜)))ガクブル
[ 2012/07/24 22:41 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題17. 照れ隠し

それにしても、変われば変わるもんだと、
2人を知る面々は、皆一様にそう思う。
特に、冴羽僚に関して。
彼がこんな風になってしまうとは、少し前に誰が予測できたろう。
冴羽僚と、槇村香。
彼らが、晴れて公私共にパートナーとなって、早数ケ月。
身も蓋も無い表現をすれば、デキてる2人だが。
ヤル前とヤッタ後で、彼がこれ程豹変した事は、
彼らの数少ない交友関係の中でも、ちょっとした波紋を呼んでいる。

言いだしっぺが誰だったのかなど、もうこの際、どうでもイイのだが、
真夏の熱帯夜、それぞれの家庭でバラバラに過ごす夜を、
たまには1か所に集まり、節電も兼ねて飲み会を開催する事になった。
場所は勿論、キャッツ・アイ。
閉店後の店内で、冷房だけは利かせているが、照明は落としている。
その代わりに、大きなキャンドルを数か所に設置している。
料理は各々持ち寄ったり、買って来たり。
美樹と香は、昼間から張り切って、奥の厨房で作ったりもした。
男達は、皆よく食べるが、それ以上によく飲む。
だがそれに関しては、一切心配ない。
この店の地下には、業務用並みにバーボンが備蓄されている。
それに、ビールやワインや焼酎も、一般家庭とは思えない量のストックがある。

以前の僚は、香を男女呼ばわりしていなかったか?
香を、唯一モッコリしない女だとか。
親友の妹だとか。お節介女だとか、暴力女だとか・・・・・
言ってたんじゃ、なかったのか?
誰もそんな彼の言葉を、そもそも本気にとる者などいなかったが、
それにしても。
僚自身は、以前の己の言動とのあまりの乖離に、矛盾は覚えないのかと、
そちらの方を、皆考えてしまう。
開き直りと言ってしまえば、それまでだが。あまりにも、甚だしい。
今まで散々、心配してきたのは何だったのかと。少しだけ、イラッとする。
何より、その彼の言動に振り回され続けた、彼女の数年間はどうなるのだ。

そして、今この現状である。
香はビールとワインをソコソコ飲んで、ほろ酔いである。
僚はそもそもザルなので、相当に飲んではいるが、
まだまだ酔いは回っていない。
だからこれは、完全なる僚の悪ノリで、
飲み会に乗じて香に甘えているだけである。

香の隣に座り、香の柔らかいホッペをグニグニ摘む。
柔らかい猫毛を、ぐしゃぐしゃとかき回す。
満面の笑みで、肩を抱く。隙あらば、チュウしようとする。
そんな相棒に、香は恥ずかしいやら、暑苦しいやらで、辟易している。
そもそも照れ屋な香は、
そんな事は2人だけのリビングや寝室だけで、やってくれと思っている。
意外にもクールなのは、彼女の方かもしれない。

『もぉ~~、りょお、うざいぃぃっ~~~~!!』
『暑いから、引っ付くなっつーの!!!』
『い~や~だ~、何かりょお、オジサンの臭いがする~。』
ほろ酔いの香に、先程から散々な言われ様だが、
僚は一切、気にしていない。
彼女のそんな一言一言に、ウンウンと頷いて、
しかし、いちゃつくのを止めるつもりは無いらしい。
酔った香は、言葉だけでは無く、手も出るらしい。
唇を突き出して、ん~❤、なんてキスを迫る僚にビンタを喰らわしたり、
カオリン、やぁらかい❤なんて言って、少しだけヒゲの伸び始めた頬で、
頬擦りして、嫌がる香にグイグイ前髪を引っ張られたり。
それでも、僚はニコニコと笑いながら、香の軽い暴力に甘んじている。
むしろ、それを楽しんでいる。



「僚って、意外に甘えただったんだ~。」
そう言って、麗香が唖然とする。かすみは、眉をハの字にして苦笑する。
「なんかあんな冴羽さん見たら、私の数年間の片思いって何だったんだろうって、不思議になりますよね~。今はどう見ても、“他人ん家の旦那さん”なんだも~ん。」
美樹もクスッと笑って、呟く。
「あの位で済めばいいケド。もう少しで、香さん切れそうね。」
かずえは、そんな2人を見て、ミックに訊ねる。
「ねぇ、あれって一応、ドメスティック・バイオレンスって言うのかしら?」
ミックは、ニッコリ微笑んでかずえに答える。
「フフフ、あれはそんなんじゃないさ。見てごらん?リョウったら、スゲェ喜んでるだろう?あれは、プレイだよ、カズエ。アイツ等、アグレッシブだから。」
そう言って、ミックが姦しい女性陣にウィンクを寄越して、
彼女たちが成る程と、頷いた所で、
ドッグワァッァァ~~ン
と、激しい破壊音と、地響きが起こる。

彼らの視線の先には案の定、
いつにも増して大きな恥らいハンマーと、
その下敷きになって、尚もヘラヘラする僚と、
真っ赤な顔をして、肩で息をする香がいた。
「だぁかぁらっっ、そ~ゆう事は、お家でやってって言ってるでしょ??」
そんな事を言われて、僚はハンマーの下で、
お家だったらやってもイイんだぁ、などとにやけている。
海坊主は、フンッと鼻を鳴らすと奥に箒と塵取りを取りに行った。
慣れたモンである。
美樹は予想通りの展開に、ヤレヤレと肩を竦めて、
カウンターの中の、冴羽家専用被害請求メモに、今回の被害額を書き込む。


喫茶キャッツ・アイが、無傷で1日を終える日は、まだ遠い。







カオリンの照れ隠しには、
リョウちゃん(ドM)、命懸けでっす。
[ 2012/07/25 22:24 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題13. 絆創こう

「どうしたの?それ。」
僚がまるで何かのついでみたいに、香にそう問う。
モグモグと、口一杯にご飯と、里芋の煮付けを頬張りながら。
如何にも、どうでも良いんだけど的な空気を出しつつ、
その実、これっぽっちもどうでも良いなんて思ってはいない。

香の指先に巻き付いた、ばんそうこう。
華奢な指を、肌色のテープが護っている。
香の事なら、隅から隅まで自分が守りたいなんて思っている僚は、
だから、そんなちっぽけなテープにも、嫉妬する。
自分でも、馬鹿げている事は自覚している。
自覚していても、改めるつもりはサラサラ無い。

「あぁ、これ。」
香は自分の指先を、じっと見る。
さっきね、と事の顛末を説明する。
今、食卓に並んでいる春雨サラダにかけた、
中華ドレッシングが無くなったので、分別しようと瓶を濯いだ香は、
注ぎ口のプラスチックを外そうとして、フチの鋭くなった部分で切ってしまった。
何てこと無い、家事をやってたら誰しも1度はやリがちな、小さなケガ。
香は気にも留めていなかった。

「消毒は?」
そう言う僚に、香は思わず苦笑する。
普段は香の事を男女呼ばわりして、シレッとしているこの男は、
時々、どういう風の吹き回しか、こんな風に極端に過保護になる。
かの妹バカの兄上ですら、これ程じゃ無かった。
香は笑いながら、大げさだよ。と答える。
僚は眉間に深く皺を寄せて、味噌汁を啜る。

カワイイ僚の相棒は、大げさだよ。と言って笑う。
僚は、自分でも眉間に皺が寄った事を自覚する。
確かに、大げさかもしれない。
ただの小さな切り傷かもしれない。
だけど僚には、それがどんな傷であれ、香がケガする事が許せない。
味噌汁を一口啜ると、僚は救急箱のあるリビングへと席を外す。
消毒液と、換えの絆創こうを取りに。
背中に向かって、香が何やら言ってる事はこの際、無視だ。

灯りを消したリビングの、いつもの場所にそれはある。
その箱を開けて、消毒液の匂いを嗅いだ途端、僚は思わず自嘲する。
目に見える傷だから、許せないのか?
あの真っ白い、華奢な指に傷が付く事が?
それなら、心の傷はどうだ?
見えなければ、良いって事か?
とんだ、ご都合主義だな。
アイツの心を傷付けて、泣かせているのは、いつだって他でも無い、自分だ。
そんな自分が、たったあれ程の小さな傷一つ、許せないなんて。
狭量で、自分勝手にも程がある。
それでも、嫌なモンはヤなの。
誰にともなく呟いて、僚はキッチンへ戻る。

さっきは、如何にも不機嫌に席を立った僚が、
一転、ニタニタしながら戻って来た。手には、消毒液と脱脂綿と絆創こう。
こういう時、香には僚の考えている事が、良く解らない。
別に、今じゃ無くてもイイだろうに。
ご飯位、ゆっくり食べればイイのに、と。
「ホレ、出してみ。」
「ご飯の後でイイよ。」
香は苦笑する。
「良いから、ホレ。」
僚の口調は、有無を言わさない。
こうなった僚は、一歩も引かない事を香は知っている。
香は諦めて箸を置くと、絆創こうを巻いた右手を差し出す。
僚は先程、香が自分で巻いた絆創こうを剥がす。

少しだけ、僚よりも低い体温のひんやりした、指先。
綺麗に切り揃えらえた、艶やかな爪。
その真っ白な肌に、薄っすらと滲む赤。
香が生きている、証。
僚は思わず、その指に口付けたくなる衝動を、必死に抑え込む。
消毒液を浸したら、香が少しだけ眉を顰める。
その表情が少しだけ、僚にイヤラシイ事を連想させる。
僚は勝手に、自分の心の中で誓いを立てている。
この女を傷付ける、全てのモノから守る事。
理不尽な悪意から。偶然の不運から。己の煩悩から。
彼女に、邪な思いを抱く事は、すなわち自分自身の誓いを破る事に他ならない。
だからずっと、僚は香を女扱いしない。
それが、たとえ狭量で我儘な、自己満足でも。

ニタニタしていた僚は、今度は何やら真剣な様子で、香の指を消毒している。
香にしてみれば、こんな些細な切り傷が、
一体、僚にどんな思いを抱かせているのだろう。
そう思うと、香の胸が痛む。
いつだって僚は、香がどんな些細なケガでも、傷付く事を嫌がる。
僚とのこの数年の生活の中で、香はもう既に嫌という程、知っている。
でも、香は思うのだ。
僚のこれまで背負って来た傷に比べれば、この位何だって言うんだろう。

香はいつだって、僚を傷付けたくない。
いつも自分ばかり守られているけれど、ホントは自分が僚を守りたい。
香の目には、僚はいつだって、傷付きやすい繊細な普通の男に見える。
僚は凄く強いんだけど、ホントの僚は、もっと違うと香は思う。
言葉では上手く言えないけれど、僚は多分色んな事に傷付きながら生きている。
香は僚の、目には見えない心の傷を護る、絆創こうになりたいと、思う。
何も言わずに、そっと僚の痛みを受け止めたい。
微力でも僚の傷を癒す、一助になりたい。
いつも、いつも、香はそう思っている。

それは、無意識の行動だった。
俯いて、優しく香の指に触れる僚が、酷く何かに傷付いてるような気がして、
香は思わず、その頬に唇を寄せた。
一瞬、お互いにポカンと見つめ合い、直後、2人して真っ赤に固まる。
「・・・な、何だよ。急に。」
珍しく、僚が動揺している。
香も我が事ながら、軽くパニクッっている。
「・・・お礼、絆創こうの。」
香は、そう言うのが精一杯だった。
「お、おぉ。そうか。」
僚も、そう答えるのが精一杯だった。
「ごごごご飯、食べよう。」
香が、何とか軌道修正を図る。
「そ、そうだな。とりあえず。」
物凄くぎこちないが、僚も香のその提案に、乗っかる事にする。



それでも2人は何だか胸が一杯で、その晩の食事はあまり進まなかった。
2人は敢えて、何も言葉にはしないケド、
お互いが、お互いを護る絆創こうのような存在でありたいと、願っている。








リョウちゃんが、カオリンに過保護な時って萌えまっす♪
カオリンは、守られるよりも、守りたいと思ってそうでっす。
[ 2012/07/26 21:37 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題55. 準備OK?

槇村香は今現在、生まれてからこれまでで、恐らく1番混乱している。


半年ほど前、伊集院夫妻の結婚式の日。
色々とひと悶着あって、辿り着いた湖の畔で、
香は僚に、1番嬉しい言葉を貰った。
これまでの数年間、自分ばかりが叶わぬ恋をしているとばかり、思っていた。
これまでに何度かは、本当に僚の元を離れるべきか、真剣に悩んだ事もある。
それでも、一緒にやって来られたのは、心から僚を尊敬してるから。
スケベで、だらしなくて、意地悪で、どうしようもないヤツだけど。
僚の魂は、崇高で誇り高い。
香は僚が、世界一の腕を持った男だから好きな訳じゃない。
むしろ、そんな風に僚を見た事など、1度も無い。
ただの普通の1人の男として、過酷な運命と真正面から向き合って生きる僚が、
とても、カッコ良くて、愛おしい。

最初は多分、ただの憧れだった。
第一印象こそ最悪の、変顔男だったけど、ホントは強くて優しい男だと知った。
何より、あの兄貴が認めた男だから、それだけで香は僚を信じる事が出来た。
僚の相棒になってから暫くは、僚のようになりたいと、
僚のアシストを上手くこなしたいと、そう言う気持ちだった。
事件を解決して、晴れやかに元の生活に戻る、依頼人たちの笑顔を見て、
自分に出来る事は無いかと、必死で僚の後を追いかけた。
それがいつしか、恋に変わった。
僚のこれまでの人生を、少しづつ知るようになって、
言葉で言わない僚の悲しみや、痛みを理解したいと思った。
理解出来なくても、傍に居たいと思った。
僚も香も、失ってばかりの人生だったから。
香は自分だけでも、僚の傍から離れる事は無いのだと、そう伝えたかった。
本当の家族になりたいと思った。

それでも、それは並大抵の事では無い事も、重々解っていた。
何度、香にはそんな大それた願いなど、無理じゃなかろうかと思ったか。
所詮、僚は孤高の人で。
家族なんて、求めてはいないのかもしれないと、香は涙した。
自分は、僚には必要では無いのかもしれないと。
それでも少しづつ、解って来た。
僚は求めていないのでは無くて、求めてはいけないと思っている事に。
僚がそうやって、これまで色んなモノを諦めて来た事に。
その事に気付いた香は、やはり僚を思って泣いたけど、
その涙は、もう前とは違った。
たとえ僚が自分を必要として無かったとしても、そんな事よりも。
香は絶対に、僚を裏切らない事。僚の元に居続ける事。常に僚の味方でいる事。
その事の方が、大事ではないかと、香はいつしか考えるようになっていた。

香は自分の恋が叶えられる事は、殆ど諦めていた。
別に女として僚に見て貰えなくても、相棒として傍に居れたらそれだけでイイと。
だから、あの日の湖での僚の言葉は、比喩でも何でも無く、
死んでもイイ、とさえ思えた。
僚も、自分と同じように考えていてくれた事。
一緒に生き抜いて、最後には笑って死ねるように、2人で過ごそうと思った。
でも香は、ハッキリ言って奥手なので。
一緒に生きてゆくという事が、どんな事なのか、
具体的には何も、イメージ出来ていなかった。
目の前で、ファルコンと美樹の結婚式を見たけれど。
恋人や夫婦というモノが、実際どういういモノなのか。
ハッキリ言えば、『夜』をどうやって過ごすのかは、全くの無知である。
僚はその道のエキスパートだが、香はカラキシ素人で。
この半年間、香は僚の微妙な変化に戸惑って来た。

少しだけ、僚は前よりも優しくなった。
香を男の子扱いしなくなった。
料理を褒めてくれたり(それでも、一言ウマイって呟くだけだけど。)、
夜遊びしないで、一緒に居てくれる事も、前よりは多くなった(あくまで前よりは)。
今までみた事も無いような顔で、香を見詰める。
香はその度にドキドキして、何か変な感じだった。
女の子として見られるって、こういう事?それはとてもじゃないケド、
心臓に悪い。
正直馴れないせいか、今までの方が香にとっては、居心地が良かった。
1度だけ僚が、悲しそうな顔で香に訊いた。
俺に、こんな風にされるのイヤ?
香には、良く解らなかった。
モチロン、僚が香を思っていてくれる事は、嬉しいし、全然やじゃ無いケド。
でも、ドキドキし過ぎるから。
今まで、6年以上一緒に暮らしてるのに、
まるで、つい最近出逢ったヒトみたいで。
男の顔した僚なんて、香は知らなかった。
香には、心の準備なんか全然出来ていなかった。
『やじゃないケド。』
そう言って俯いた香に、僚は優しく微笑むと、
『けど?』
と先を促す。
『・・・けど、ドキドキし過ぎて、死にそうになる。』
香のその言葉に、僚は満面の笑みで香をそっと抱き締めた。
そして、言った。
『じゃあ、少しづつ馴れていこうか。これから先、俺はおまぁに下心満載だから。』


そんな遣り取りからも、既に1か月ほどが経過していた。
ついさっき夕飯を終えて、僚と香はリビングで寛いでいた。
2人は、香の淹れたコーヒーを飲み、
香は床に直接座って、ソファを背凭れにテレビを観ていた。
僚はソファに寝転んで、新聞を読んでいた。
何の変哲も無い、いつもの2人の夜。
だから香は、油断していた。
まさか僚が、心の中でその時を虎視眈々と狙っているなんて、予想外だった。
「香。」
そう言って、名を呼ぶ僚の声は穏やかだった。
香は僚に、そんな風に名前を呼ばれるのが、大好きだ。
香は振り返って、僚に向き直るとニッコリ笑う。
「ん?コーヒーお替り?淹れて来ようか?」
僚は、そんな香の問いには答えない。表情は、至って穏やかだ。

香の心臓が、ドキンと跳ねる。
あ、まただ。と香は思う。
僚が男の人の顔をして、香を見詰める。
ソファの上と下で、向かい合って座って見詰め合う。
香はドキドキして、耳まで真っ赤だ。
僚は何も言わず、ただニコニコして香の柔らかなクセ毛を撫でる。
そして、どの位そうしていたのか。
香が少し落ち着いて、僚どうしたのかな?という事を考えられる位になった頃、
僚がソファの上から、ズルズルとお尻を滑らせて、床に降りた。
いつの間にか、香は僚の両膝の間にスッポリと収まって、
僚と見詰め合っていた。
僚はゆっくりと、香の躰を抱き締めると、まるでスローモーションみたいに、
ふわりと、香の唇へと降りて来た。
コーヒーと煙草の匂いがして、香の心臓は一気に早鐘を打った。

男の人の、僚の唇が、こんなに柔らかいなんて、香は知らなかった。
悲しくなんて無いのに、香の目から涙が零れた。
僚はクスリと笑うと、香の涙を舐め取った。
そして、もう一度キスをした。
香はその時改めて、僚を誰にも取られたく無いと思った。
他の女(ひと)にも。僚を狙う輩にも。神様にも。
僚を、自分の前から連れてかないでと、心底そう思った。
香の唇から離れた僚は、今度は香の真っ赤になった耳にそっと囁く。
「取敢えず、今日はここまでな♪すこぉしづつ、馴れていこうね、カオリングフッ。リョウちゃん、頑張るねっっ♪」

先程までの男前風の表情が一転、そんな事を言う僚は、
厭らしい程、にやけていて。
香はその見慣れた顔に、嫌な汗が出る。
えーと、この僚って、あの夜這いしてる時とか、ナンパしてる時の、
“変態リョウちゃん”の顔じゃない?
・・・とりあえずって?
・・・今日はって?  
・・・少しづつ、馴れるって?
・・・頑張るって、何を?
香は、まさかと思うも、それはきっと僚の言う“モッコリ”ってヤツで。
想像しただけで(肝心な部分は靄がかかっているのだが)、眩暈を覚える。
今現在、香は軽くパニック状態だ。


もうそろそろ、覚悟を決める時が来たようだ。
僚がもう1度、優しげに目を細めて香の耳元で囁く。
「なぁ、準備OK?」






リョウちゃん、変態モードと、色男モードを、
巧みに使い分けておりまっす(′∀′)もはや、職人芸でっす。
カオリン喰われるの、時間の問題に突入しました♪
[ 2012/07/27 23:57 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題33. 身長差

冴羽アパート7階、寝室。
数ケ月前までは、そこは僚一人の寝室だったが、
今現在そこは、僚と香の2人の寝室になってしまった。
数年前には、考えられないような話だが、香が6階の客間で眠る事はもう無い。
言わずと知れた、新宿の種馬は、きっと性豪で。
毎夜、眠る暇も無くパートナーを愛でるのかと思いきや、
それがそうでも無いのだ。
確かに、一般的に見て回数は多いだろう。
内容も非常に濃く、2人は充実したセックスライフを送っている。

それでも、そんな気分じゃ無く、
ただ2人で寄り添って眠るだけの日も、ちゃんとある。
獣じみたセックスは好きだけれど、僚とて獣では無いのだ。
ベッドに2人で寝転んで、眠るまでの間にお喋りしたり、本を読んだり。
至って普通の、少しだけ仲の良過ぎる夫婦のような、生活だ。
きっと、周りの連中がそんな僚を見れば驚くだろう。
最近では、僚も香もベッドを共にする事が当たり前になって来て、
お互いの腕の中が、1番安眠できる場所だったりする。

その日の昼間、僚は街中で、
見知らぬ男と、にこやかに話しながら歩く香を目撃していた。
2人が恋人同士になる以前から、香は異性からの視線には全くの無頓着で。
僚は何も無いとは解ってはいても、
いつもそんな彼女に、ヤキモキさせられっぱなしだ。
僚がそんな些細な嫉妬をしている事すら、香には自覚が無い。
見掛けたのなら、その場で声を掛ければ良いのだろうが、
そこが僚の意外に気が小さい所で、思わずコッソリ観察してしまった。
きっと恋人になる以前の、長年の哀しい習性が抜けきっていないのだ。
相手は香と同年代ぐらいの、スーツを着た男だった。
身なりを見る限り、
恐らくはそこそこ大きな会社に勤めるサラリーマン風であった。
嫌味では無い程度に、清潔感もあり、女性受けは良さそうな男であった。
ナンパでは無さそうである。
少なくとも、香とヤツは初対面では無さそうだった。

僚はその光景を目にしてからずっと、
香に、アイツは誰だ?と問い質したかったが、なかなか訊けずにいた。
香の態度は、至っていつも通りで。
まさか香が浮気してるなんて、疑ったりはしちゃいないが、
何しろ、ど天然の彼女なのだ。
香にその気が無くても、野郎に惚れられるなんてのは、日常茶飯事で。
僚の知らない人間が、香に気安く声を掛けるなんて事は、
僚にしてみれば、最も不愉快な出来事だ。
夕飯の時も、僚は1番訊きたい事は訊けずに、終始どうでも良い話しをした。
夕飯後は、2人でコーヒーを飲んで寛いだ。
その後、何となく2人で一緒に風呂に入った。
毎日では無いが、時々2人は一緒に入浴する。
大抵そんな時は、入浴だけで終わらないのがデフォルトだ。
今日もやはり、もう既に風呂場で、軽く一戦交えている。

僚はベッドに横になって、読みかけていた本を読んでいる。
香も同じく僚の隣に、寝転んで雑誌を読んでいる。
僚は、やっぱりこのまま何も訊かずに、1日を終えるのは嫌だと思った。
読んでいた本を閉じると、香に声を掛ける。
「なぁ。」
香は僚が本を閉じたのは、気配で分かったので、ニッコリ笑って訊ねる。
「ん?もう寝る?」
「いや、まだ寝ない。・・・あのさぁ。今日の昼間のヤツ、アレ誰?」
香はキョトンとして、首を傾げる。
「昼間?」
「あぁ、公園の近く。歩いてたろ?スーツ着た奴と。」
僚は思わず、眉を顰めて、不機嫌な声になってしまう。
香は、あぁ。と言って、クスリと笑う。
高校の同級生だよ、たまたまばったり会ったの。
香がそう言うのなら、そうなのだろう。
僚はそうは思うが、何となく面白くは無い。

「りょお、ヤキモチ?」
そう言って、香が楽しげに僚の瞳を覗き込む。
「ば、馬鹿。そんぐらいで妬くかっつーの。リョウちゃん、そんなに器の小っさい男じゃないのっっ。」
しかし、そんな僚の言葉に説得力はまるで無い。
どんなににぶい香でも、最近ではその位解るのだ。
そして、そんな僚が少しだけ可愛いと思ったりもしている。
モチロン、僚には内緒だが。
香はニッコリ笑うと、僚の手を掴んでベッドから立ち上がる。
僚は香の意図が読めなかったが、逆らわずに香に従う。

ベッドの傍らに、2人で立っている。
僚は上半身裸で、ボクサーパンツだけ穿いている。
香はクスクス笑う。
「りょお、パンツ一丁。」
僚はニヤッと笑って、
「おまぁだって、似たようなもんじゃん。」
と返す。
香は女の子用のこれまたボクサーブリーフに、タンクトップを着ている。
ブラは着けていない。色はグレーだ。
僚の好きな色っぽい下着とは、かけ離れているけれど、
香には良く似合っている。
セクシーさのセの字も無いが、僚は何故だかムラムラしてしまう。
クスクス笑いながら、そうだね、と言って香が僚の腰に手を廻す。
そして僚の瞳をじっと見詰める。
「背がね、違うなって思ってたの。」

香が昼間、久し振りに会った元クラスメイトは、すっかり大人になっていた。
彼は2年前に結婚して、もうすぐ赤ちゃんが生まれると言って、喜んでいた。
その彼の身長は、香と同じ位かそれとも1~2㎝大きい位かだった。
香は、175㎝なので、彼は男性としては、小さくも無く大きくも無く、
至って普通だろう。
彼と並んで歩いていて、香は妙な違和感があった。
目線がすごく近いのだ。
そして、いつも隣にいる男を、香は思い出していた。
僚と並ぶと、香はいつも僚の事を見上げている。
大きくて優しい僚。可愛い僚。
久し振りに友達に会ったのに、気が付いたら僚の事ばかり考えていた。
そして、思った。
あぁ、アタシ僚にメロメロだ、と。

香はクスッと笑うと、
久し振りに友達に会ったのに、アタシ、僚の事ばっかり考えてたんだよ。
と言った。
「りょお、チュウして?」
香からの嬉しい告白と、おねだりに、僚は我を忘れてリクエストに答えた。
もう、些細な嫉妬など、どうでも良くなった。

2人は本日の、第2ラウンド目に突入した。







リョウちゃんの、ヤキモチが書きたかったんでっす♪
果たして2ラウンドで終わりますでしょうか(汗)
[ 2012/07/28 22:59 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題58. 投げやりな態度

どうやら、小1時間程前から、香が怒っている。
僚には、香を怒らせた心当たりが、正直見当たらない。
昼下がりに僚がナンパを切り上げて、リビングに帰って来た時には、
香は至っていつも通り、機嫌は可も無く不可も無いと言ったところだった。
香は、昼の情報番組を見ながら、アイスコーヒーを飲んでいた。

僚が帰って来ると、香は僚の分のアイスコーヒーも淹れてくれた。
ニコニコしながら、
汗を掻いて如何にも冷たそうな、大ぶりのグラスを僚に手渡しながら、
「お外、暑くなかったぁ?こんな季節にナンパなんか、よぉやるわ。」
と言った。
「おぉ、だから止めて来たんじゃん。」
僚はそう言うと、ソファに寝そべって読書を開始した。
定期購読している、アメリカ版PLAYBOYだ。

これは、あくまでエロ本では無く、れっきとした普通の雑誌であると、
僚は何度も香に教えたが、香の中ではPLAYBOYは、エロ本であるらしい。
ただでさえ暑いのに、リビングでエロ本読まれたら、更に暑苦しいと言われた。
だぁかぁらぁ、これはエロ本じゃねぇっつーのっっ!!!
しかしそれ以上、エロ本の定義について、香とディスカッションすんのは、
なお、暑苦しいので、香のクレームは聞こえないフリをした。

ある意味では、価値観の違う者同士が共同生活をする上で、
このように、お互い無益な事に労力を使わない為にも、
“聞き流す”というスキルも必要だ。
そして、この冴羽家に於いて、僚は聞き流しにかけては、かなりの腕前で、
香は全く苦手である。
香はどちらかというと、聞き流すどころか、
無益な事に首を突っ込んで、最終的に有益に変えてしまうと言う、
特殊技能の持ち主だ。
しかしそれに巻き込まれて、振り回される僚はいつも呆れてしまう。
お節介も大概にしろと。それでも僚は、そんな香が面白かったりもする。
幸せな気持ちにさせてくれる事もある。
真反対だからこそ、上手く噛み合う事もあるのだろう。

でも、今日は何で香が拗ねているのか、僚にはサッパリ解らない。
確かに、僚が読書している横で、香はテレビを観ながら、
何度か僚に話し掛けてきた。
僚も雑誌を読みながらだったし、香もテレビを観ながらだったから、
適当に答えたり、答えなかったり、相槌打ったり、打たなかったり。
別にこれといって、大した事無い、いつもの風景。
それなのに、数十分前に、香はいきなり拗ねて、キッチンへと消えた。

そして、今現在。
キッチンからは、香が夕飯を作っている馨しい薫りが漂っている。
何を作っているのか、非常にスパイシーな食欲をそそる匂い。
まるで条件反射のように、僚の腹の虫が盛大に鳴る。
香はどんなに機嫌を損ねていても、食事だけは毎回きちんと作る。
別にそんなに腹立ってんなら、ボイコットしても構わねぇのにと思いつつ、
やっぱり僚は、そんな香が愛おしい。
幾らケンカ中とはいえ、香にご飯を作って貰えなかったら、きっと淋しいだろう。
ケンカ中に、1人淋しくコンビニ弁当を食べる自分を想像すると、
僚は改めて、香の大切さを再認識する。

僚がキッチンに入ってゆくと、
香は氷水に晒したキャベツの千切りの水を切り、皿に盛っている所だった。
皿の上には、ポークピカタ。
その卵色の衣には、香オリジナルブレンドで、様々なスパイスが混ぜてある。
食欲をそそる、スパイシーな薫りの正体はこれであったか、僚の好物だ。
いつもなら、支度の途中で僚がやって来ると、ニッコリ笑って、
もう、待てないの?なんて、言って来るのに。
今日の香は、僚に一瞥もくれない。
「なぁ。」 
・・・無視。
僚はめげずに、もう一度問う。
「なぁ、おまぁ。なんで怒ってんの?」
香は、少しだけチラッと僚を見ると、
キャベツに集中しているフリで、目を逸らしながら答える。
「・・・別に。怒って無いし。」

僚は内心、イヤ、充分怒ってんじゃん。と苦笑する。
こういう時、香は至って真剣なんだろうけど、
僚にしてみれば随分年下の彼女が、とても可愛いと思う。
それを言ったら、怒りの炎に油を注いでしまうので、口が裂けても言えないが。
「じゃあ、拗ねてる。」
僚の言葉には、少しだけ笑みが混じっている。
香は眉を顰めて、唇をプウッと尖らせる。
「拗ねて無い。」
拗ねた顔して、拗ねて無いという香が可笑しくて、僚は思わず吹き出す。
そして、更に顔を顰めた香を、構わず抱き寄せる。
「ねぇ、何で?」
僚が優しく頭を撫でながら、香の耳元で優しく囁くと、香は遂に観念する。
「だって、僚が・・・・」

香の説明によれば、先程香が話し掛けた時の、
僚のリアクションが、信じられない程投げやりで、腹が立ったとの事。
何の話ししてた時?
そう僚が問うと、香はもう1度その時の話しの内容を、説明する。
「僚は、卵料理は何が好き?って訊いたの。色々あるでしょ、玉子焼とか、目玉焼きとか、スクランブルエッグとか、オムレツとか。・・・・そしたら、僚。別に何でもイイって、言ったの。」
僚は思わず、キョトンとした。
拍子抜けってヤツだ。たった、それだけ?と。だから、香にも言ってみる。
「は?それだけ?」
香はまたしても、眉間に皺を寄せると答えた。
「うん。でも、すごぉおく、投げやりだったの。ホントにどうでも良いって感じで。だから、腹が立ったの。」

僚は、ニッコリ笑ってもう1度言った。
「だって、何でもイイもん。」
不機嫌な香の耳元で、言葉を紡ぐ。
「だって、おまぁが作るのだったら、玉子焼きでも、目玉焼きでも、オムレツでも、全部旨いから。何でもイイ。」
不機嫌だった香は、一転見る見るうちに真っ赤になる。
そんな香に、僚はそっと口付る。暫く香の唇を味わって、僚は離れる。
「まだ、怒ってる?」
楽しげに問う僚に、香はフルフルと首を振る。
「俺、これも好き。」
そう言って、僚はスパイスの効いた卵液の衣を纏った、
スパイシーな豚肉を、一切れ失敬する。



そして、2人はもう1度仲直りのキスをした。






拗ねたカオリンと、
大人の余裕のリョウちゃんでっす。
リョウちゃんが甘すぎた…Orz


[ 2012/07/31 00:56 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題53. ふと気がついたこと

僚はいつも依頼人を口説くけど、落とす気などサラサラ無い事。
香はいつもスケベな男は嫌いだと言うけれど、若干1名に限って例外がある事。


僚はいつも香に悪態ばかり付くけれど、ホントは構って欲しい事。
香はいつも僚の事を愚痴るけど、その反面僚の事を本気で心配してる事。


僚はいつも香に合せて、仕事上のパートナーだと言うけれど、
本当の所は、パートナー以上のパートナーだと思っている事。
香はいつも、僚とは仕事上のパートナーであって、それ以上でも以下でも無い
と言うけれど、ホントは家族だと思っている事。


僚は香の事を、くびれたバストに豊満なウエストなんて言ってからかうケド、
時々油断して、香を見てモッコリしてる事。
香は僚の事を、大飯喰らいのデクノボウだなんて言うけれど、
ホントは、その後ろ姿や横顔に見惚れている事。


素直になれない2人は、自分自身の心すら誤魔化して、
切ない片思いの日々をやり過ごす。
まるで中学生かと、自分自身を嘲笑うけれど、
大切な人を失う事だけを、2人は異常なまでに恐れている。


『悔しかったら、俺をモッコリさせてみろっ!!』
(いや、いっつもしてんだけどね・・・)
『お子ちゃまは、夜遊びなんて知らなくてイイの。』
(おまぁだけには、擦れた女になって欲しくねぇのは、単なる俺の我儘だな)
『いつまで経っても、料理の腕は上がらんなぁ。』
(ま、そんな事言いながら、完食する俺なんだけど)
『いつでも動けるように、チャラチャラしたカッコしてんじゃねえよ。』
(どうでもイイ輩に、目の保養させる必要はねぇからな。)
『おまぁは、俺が世界で唯一、モッコリしない女だ!!』
(おまぁは、俺が世界で唯一、惚れてる女だ!!)


『誰がアンタに惚れてるって?寝言は寝て言いなさいよ。』
(まぁ実際、惚れてんだけど・・・)
『依頼の選り好みしてんじゃないわよ。次は絶対男の依頼でも受けてやる!』
(毎度毎度、美人の依頼人とのイチャイチャ見せられちゃ、堪んないっての。)
『なぁに、金も無いのに、ツケで飲み歩いてんのよ!!ロクデナシ!!』
(硝煙の匂いなんかさせて、何処で何して来たんだか。ただ、心配なだけなの。)
『白昼堂々、卑猥なナンパしてんじゃないわよ!!天誅っっ!!』
(少しは、オノレの目の前の女にも、優しくしてみろっつ~の!!)
『こんのぉ、クソモッコリ馬鹿がぁ(怒)』
(まぁ、そのモッコリ馬鹿にメロメロなのは、哀しいかなアタシの方。)



ある時、2人はふと気がついたことがある。
僚は香に惚れていて、香は僚に首ったけだという事。
そう考えると、これまでの2人の言動の矛盾が、一気にクリアになる。
それでも、大事な一言はまだ互いの胸に隠したまま、言えないまま。
今日も、心とは裏腹に悪態をつく。
言葉の裏に隠された、互いの心を探り合う、犬も食わないゲームに興じている。
ゲームには、いつか終わりがある。

その時の2人は、きっと本音で語り合う筈だ。『愛している』と。







要するに、ツンデレるのも大概にしろって事でっす(笑)
[ 2012/07/31 19:00 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(2)

お題31. あの日の思い出

絵梨子が記憶している限り、
香は高2になる春に、棲む世界の違う男に恋をした。
その当時の絵梨子には、知る由も無かったけれど。
今にして思えば、あの頃から多分、
同級生には知り得ない1人の男に、香は焦がれていたと思う。
春休みを終えて、学校で再会した時には、
香は何故か一段と、ボーイッシュになっていた。
新学期のクラス替えで、絵梨子と香は、2年連続で同じクラスになった。
元々仲良しだった2人は、ますます親密になった。
もっとも香は、誰からも慕われクラスの全員と親密だったケド、
絵梨子と香は、特別だった。

香が恋をしているんじゃないかと、絵梨子が思ったのは、初夏の頃だった。
あの年頃の女の子は、皆恋バナが好きで。
こぞって、自分の恋を赤裸々に告白するもんだけど、香は違った。
香は、何も言わなかった。
元々、その手の話しは大の苦手の彼女で、他の子の話しで、
話題が、彼との夏休みの親の居ぬ間の〇〇なんて時は、目が点だった。
だから、何も言わないんだろうと、絵梨子は思っていた。

いつもは、元気すぎる程元気な香が、
時折フト、ぼんやり窓の外を眺めたりしている姿を、絵梨子は見ていた。
そんな時、香は一体何を思っているのか、絵梨子はとても知りたかった。
きっと香は、恋をしている。
届かないのか、叶わないのか、絵梨子には解らないけれど、
香は、何処か幸せそうにも見えた。

香はいつも、全く自覚が無いけれど、ああ見えて男子人気№1なのだ。
女子人気が異常に高いだけに、あまり目立つ事は無いけれど、
気のおけない友人のフリして、香に思いを寄せる男子を、
絵梨子は少なくとも、3人は知っている。
それでもきっと、自分の事に必死で鈍感な高校生たちは、
香の仄かな恋心なんて、気付いてはいない。
香は一見、恋に奥手で何の興味も関心も無さそうだけど、一方で、
自分たちには計り知れない思いを抱いているように、絵梨子には映った。

きっと、ノリで異性と付き合って楽しめるタイプの子なら、
香は大人になった今、僚の元には居なかっただろうと、絵梨子は思う。
あの無邪気だった少女の頃から、もう何年経つだろう。
香はあの頃の想い人の傍で、幸せにやっているようだ。

その後結局、絵梨子と香は翌年も同じクラスになって、
自他共に認める、親友になった。
3年連続同じクラスの子は、お互いだけだった。
脳天気なクラスメイト達も、
流石に3年生になると受験に向けて大変そうだった。
絵梨子は、高校を卒業したら、パリに留学する事に決めていた。
子供の頃から、デザインの道に進む事が夢だった絵梨子は、
それこそ小学生の頃から、ゆくゆくは留学したいと両親を説得していた。
早々と、目標が定まっている絵梨子は、呑気に過ごしていた。
一方香は、何にも定まっていないのに、のんびりしていた。
進学はしない。香はお兄さんと2人暮らしで、
高校に行かせて貰えただけでも感謝していると、常々語っていた。
だから香は、受験勉強はしない。
他の子たちが、塾や補習で忙しい中、絵梨子と香は夢見がちだった。
絵梨子はいつも、
“私がデザイナーになったら、香はモデルをやってね”
と話していた。
未来は2人にとって、無限に可能性の広がる夢のようだった。

高校を卒業してから暫くは、2人とも全く違う世界に踏み出していた。
2年後パリから戻って、絵梨子は香に連絡をしようとしたけれど、
香の消息は途絶えていた。
何度か高校生の頃に、遊びに行った事のある、
香と兄の2人暮らしの公団住宅にも行ってみたけれど、
表札には、見知らぬ名前が書いてあった。
同窓会で集まる度に、香を探したけれど、香が顔を出す事は1度も無かった。
絵梨子が少しづつ世間に認められて、初めてのショーをする時に、
絵梨子は、どうしても香にモデルとして参加して欲しかったけれど、
香が何処でどうしているのか、絵梨子にはどうしても解らなかった。
たった数年前には、毎日一緒に笑い合って、じゃれ合った親友は、
何処にもいなかった。
絵梨子はずっと探していた。絵梨子にとって、理想のモデルは香だ。
どんなに売れっ子のモデルを使っても、
絵梨子の心には、香の姿とあの頃の約束がチラついた。

だからあの日、
偶然でも香に再会できた事を、絵梨子は運命だと思っている。
香にとって、僚との出逢いが運命ならば、
同じように、絵梨子にとっての香との出逢いもまた、運命だ。
香は何にも言わなかったけれど、何故だか絵梨子には解った。
香があの高2の頃から、焦がれていた相手は僚だと。
香が僚を見上げる瞳は、あの頃から全く変わっていなかった。
だから、解ったのかもしれない。

あのクリスマス前の、奇跡の再会からも既に数年が経った。
あの時のショーを皮切りに、何だかんだ言って、
毎回、香には参加して貰っている。
独占慾の塊みたいな、香の愛しい男は、毎回イヤそうにしているが、
何とか2人纏めて、言いくるめて参加させている。
少なくとも、数年間は彼は香を独占してきたのだ。
絵梨子が、必死になって香を探していた間、香は僚との絆を深めていた。
きっともう、香には僚の居ない人生など有り得ないだろう。
もしも香が僚に出逢っていなければ、今頃はエリ・キタハラの専属モデルだ。
もう今では、絵梨子は香にプロのモデルになるように勧める事は諦めた。
大事な親友を、かの男に譲るのだ。
だから、ショーぐらいは協力してくれないと、割に合わない。

冴羽アパートの玄関ドアの前で、
破格のギャランティーを記入した、小切手を準備してきた絵梨子は、
次回のショーモデルのオファーを申し入れる為に、
今一度、親友の顔からデザイナーの顔に切り替えて、
その古ぼけた扉を開けた。









え~、捏造度はえらく高めでっす(汗)もはや、パラレル?
絵梨子さん目線で、カオリンへの愛を綴ってみました
[ 2012/08/03 21:10 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)

お題02. エンジン全開 

依頼を終えて、漸く家路につく2人。
今回2人は、新宿から遠く離れたとある別荘地で、
依頼人と1週間ほど、都会の喧騒から離れて過ごした。

その依頼人が、妙齢のモッコリちゃんならば、
僚とてもっと、この1週間をエンジョイ出来たかもしれないが、
如何せん依頼主は、アラフィフの未亡人。美人は美人だけど。
せめて10年前、いや20年前に出逢いたかった。
…と、初っ端のアイサツでそう言った僚を、
香はこれでもかと、ハンマーで叩きのめした。
僚にしてみれば、ホンのジョークのつもりだが、
香は、兄貴譲りの真面目っ娘なので、どうやら解って貰えなかったらしい。

僚と香が正真正銘、モッコリ大好き恋人関係になってから、数ケ月。
僚はどんな状況下でも、夜は香を抱きたいが、
それ以上に、香には嫌われたくは無いので、
香がエッチしたくない日には、大人しくそれに従っている。
勿論、したくないと言いながら、本音が別にある場合は遠慮はしない。
そんな事ぐらい見抜けなくては、“新宿の種馬”の名折れである。

香は依頼遂行中、しかも余所の家に居候しているような状況で、
欲情できるほど、世馴れた女じゃないから。
必然的にこの1週間、僚はお預けを喰らっている。
香と一緒に居て、6年間も我慢出来たのだから、たかだか1週間ぐらいと、
他人が聞いたら、笑われるかもしれないけれど、僚にとっては死活問題だ。
ひとたび、香と結ばれるようになった僚は、
途端に『我慢』とか『辛抱』とかいう言葉を、何処かに置き忘れてしまった。
僚は、この1週間ずっと、ムラムラしっぱなしだ。
世間を知り尽くした、旦那の遺産で一生遊んで暮らせる、
依頼人の未亡人に、苦笑交じりに同情された。
彼女にしてみれば、僚も香もまだまだ若くてカワイイ、少年少女なのだ。

彼女曰く『遠慮しないで、好きにして良いのに。』との事だが、
たとえ家主の彼女が遠慮しなくて良くても、
僚のカワイイ相棒は、遠慮するのだ。
こればっかりはもう、どうにもならない。
そんなワケで、僚は依頼が完了するのが心底待ち遠しかった。
そして、晴れて依頼着手から、1週間目の本日朝、その別荘地を後にした。
後は普段の2人に戻って、心置きなくセックスを満喫するのみだ。

ハイウェイを快調にすっ飛ばす僚に、助手席で地図を広げた香が楽しげに言う。
「ね、この次、サービス・エリアがあるみたいだから、ちょっと寄ってこう?」
昨今、サービス・エリアを目当てにドライブをするという程、
サービス・エリアのサービスは、充実しており人気があるらしい。
確かに、そこでしか味わえない、その上リーズナブルなグルメと聞けば、
誰しも、通りがかりのついでに、寄ってみたくもなるってモンだ。
それでも、香が見つけたそのS・Aは、大して有名所な訳では無い。
けれど幸い、車の流れも快調なので、僚としても香の提案に異論は無い。
そう言えば、煙草も切れかけていたし、ちょうど良い。
「じゃ、ちょっと寄り道すっか。」
僚のひと言に、香はまるで春が来たみたいに、全開で微笑む。
これだから僚は、香が可愛くて堪らないのだ。

僚がトイレで用を足して、切れかけた煙草を買い求めていると、
満面の笑みの、相棒がやって来た。
両手には、謎の紙袋とビニール袋。何やら、ごっそり買い込んでいる。
「何買ったの?」
僚が楽しげにそう訊ねると、香はそれ以上に楽しそうに説明する。
これはね、ミックのところにお土産、いつもウチばっかり貰ってるから。
これは、美樹さんのところ。
何やら、お菓子やら漬物やら、何の統一感も無い不思議な土産を手に、
香はニコニコ笑っている。
それでも僚は、香が楽しいのなら何でもイイ。
「それは?」
僚は、もう一方のビニール袋を指差す。
香は、更に楽しそうに微笑む。

「天気がイイから、お外で食べよう?」
平日の昼間、ありふれたサービス・エリア。
観光客も、家族連れも数える程しかいない。
圧倒的に、長距離ドライバーや、営業車などの方が目立つ、休憩所。
駐車スペースから距離を取った所に、
公園などによくあるような、ベンチとテーブルが置いてある。
天気がイイと言うより、むしろ良過ぎる。
カンカン照りの真昼間、そんな所で寛ぐ人は見当たらない。
それでも香は、そんな事など一向に気にはしないようだ。
だから僚も気にしない。香がイイのなら、それが1番イイ。

2人は手を繋いで、駐車スペースを通り過ぎると、
目的地のテーブルへ向かった。
香は何やら、美味しそうなモノが入った袋をぶら下げ、
僚はお茶の入ったペットボトルを、2本持っている。
誰も寄りつかない特等席で、香はイイ匂いのB級グルメを広げる。
肉まんや、唐揚げや、甘栗や、コロッケや、アメリカンドッグ。
特に珍しいモノでも無い。
よくある、サービス・エリアの何の変哲も無い、食べモノたち。
それでも僚のお腹の虫は、盛大に鳴き始めた。
依頼人宅で、豪勢な朝食にありついてから、数時間。
そろそろ、小腹がすく時間なのだ。

小1時間ほど、僚と香はそこでのんびり過ごした。
どうせ2人には、時間だけはタップリとあるのだ。
平日の真昼間、きっと傍から見たら、
僚も香も、職業不詳の謎めいたバカップルに見えるだろう。
「もう、食べたいモノ無ぁい? 買って来るよ?」
香が僚に訊ねる。
香の無邪気な問いに、僚は微笑みを湛えたまま、
何も答えず、ただニコニコと香を見詰める。
香が不思議そうに首を傾げた時、僚は香の唇を掠め取った。
ホンの一瞬の口付けの後、僚はニヤッと笑うと、
「おまぁが、喰いたい。」
と、冗談とも本気ともつかない、けれどまごうこと無き本音を漏らす。

「…ば、ばかっっ(❤)」
香は真っ赤になって、俯く。
僚は、香のその言葉の裏の感情を読み取る。種馬だから。
1週間のお預けが辛かったのは、きっと僚だけでは無い筈だ。
「帰るぞ。」
僚は手早く、テーブルの上を片付けて、香の手を引いて愛車へ戻る。
目指す目的地は、彼らのホームタウン新宿のボロアパート、
7階寝室。



赤いミニクーパーは、今日もエンジン全開。
燃料は、僚の邪な下心。







リョウちゃん、食欲満たしたら、次は性欲。お約束でっす。
くれぐれも事故にはご注意を。

[ 2012/08/04 21:44 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(2)

お題64. 突然の出来事

僚は、いつ死んでもイイと思っていた。

もう自分でも覚えていない程、小さな頃。
突然すべてを失った小さな男の子は、1人の男に拾われた。
それが良い事だったのか、悪い事だったのか。
僚には解らないけれど、小さな子供にとって両親を失った事は、
間違いなく、不幸の始まりだったと思う。



僚の目には、全てが馬鹿馬鹿しく思えた。

幸せそうな、クリスマスもバースデイも。
所詮人間は、生まれて来るのも1人なら、死んでゆく時も1人だから。
生きて行くのも、1人でかまわない。
残されるのも残すのも、真っ平御免。
自分が死んで、誰1人悲しまないのが僚の理想だった。



僚には、欲しいものなど何も無かった。

眠る為のベッドがあり、腹が減れば、喰うモノがある。
余計な事を考えてしまいそうな夜は酒を飲み、ムラムラすれば、女を買う。
それさえあれば、だれの邪魔もしないし、
邪魔をされれば、ソイツを消すまでだ。
だから僚は、自分を邪魔に思うヤツは、消してくれればイイと思っていた。



それでも時々、僚の人生に突然入り込んでくる、馬鹿な奴らもいた。
巻き込まれて死んだ奴も、死に損なって元気でスケベな奴も。
何故だかそんな僚の事を、まるで家族みたいに気に掛けてくれる“親友”たち。



槇村は、僚と出会ったばっかりに、安定した職も妹との時間も、命も失った。
彼が僚と出会って、何を得る事が出来たのか、失ったモノの大きさを考えると、
僚には、未だに解らない。
僚が槇村と出会って得たモノは、香。未来。希望。優しさ。
普通の生活が馬鹿馬鹿しくなんて無い事だと、初めて知った。



人生はいつだって突然で、失う時も得る時も、
平等に何の前触れも無く、訪れる。
大事な親友を失った瞬間に、僚は大事な人を得た。
その両方を同時に望む事は、もしかすると罪深い事なのかもしれない。
それでも僚は、槇村もずっと一緒に香と3人で笑っていたかった。
僚が人生で初めて、望んだ事だった。



それは突然の事だった。
それまでただのお転婆で跳ねっ返りの、無邪気な親友の妹が。
何故だか急に、途轍もなくイイ女に思えた。
失いたくない。
ずっと、自分の傍で笑っていて欲しい。笑ってたい。
コイツが欲しい。
それまで、欲しいモノなんか無かった僚だったけれど、
初めて欲しいと思ったのは、親友の大事な妹で、己の大事な相棒だった。



それでも、そんな己の欲を叶える事は、きっとこの世で最も罪深い。
今まで己のしてきた事と、目の前の穢れない魂。
どう考えても、同じ世界に立ってはいけないと、僚は己を戒めた。
それまで過去を悔いた事など、1度たりとも無かった筈が、
気付くと、自分の不運を嘆いていた。
もしも自分が自分で無く、相棒が相棒でなければ。
ただの、気の合うオスとメスなら。
僚は迷う事無く、サッサとこの手の中に収めている。



絶対にやれないと、やってはいけないと解っている女を、
ずっと手元に置いて、手放せないでいる理由。
それが何なのか。
僚は色々考えた。
確かに、愛情を表すのにはセックスが全てでは無いし、
香はセックスの対象以前に、親友にとって大事な妹だし、
自分にとっても、大事な相方だし。
けれど、とどのつまりは、僚自身、やっぱり諦めきれないのではないのか。
いつの日か、やってしまう事を夢に見て、間合いを計っている。
そんな、しょうも無い己の心に、僚は苦笑する。
たとえ罪深い事でも、欲しいモンはしょうがねぇ。
どうせ罪深いのは、今更だし。それならいっそ。
とことん、溺れてしまおうか。



それは突然で、偶然の出来事だった。
とても暑い真夏の夜だったから、僚の脳も半分やられていたのかもしれない。
気が付くと、香を抱き締めて。
その瑞々しい、甘い唇を無心で貪っていた。
初めは驚いていた香も、いつの間にか頬を染めて、
シッカリと僚の腰に腕を回している。
意外と簡単に、僚の葛藤は解消し、望みは叶った。



僚は今、絶対に死にたくないと思っている。
何が何でも、香と2人生き延びたいと思っている。
漸くその甘い唇を手に入れたけど、香の全てを欲しいと願っている。
もしも俺達を邪魔をする奴は、遠慮なくいかせてもらう。
そんな物騒な事を、僚は考えている。
物事が進展し、事態が好転するのは、
いつだって、突然だ。






ちょっと暗めの、悩めるリョウちゃんです。
でも結局は、やっちゃうんです。
なんだかんだ言って。
[ 2012/08/05 18:20 ] なんとなく100のお題 | TB(0) | CM(0)